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[ ハードボイルド ] 暗約領域 新宿鮫XI 新宿鮫シリーズ |
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大沢在昌 | 出版月: 2019年11月 | 平均: 7.50点 | 書評数: 2件 |
![]() 光文社 2019年11月 |
![]() 光文社 2021年11月 |
![]() 光文社 2022年11月 |
No.2 | 8点 | Tetchy | 2025/03/18 00:27 |
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新宿鮫第11作目。正直私は10作を以てこのシリーズは終わるかと思っていただけに意外だった。
巻を重ねるごとにシリーズの主要人物が1人また1人と幕引きしていき、10作目ではとうとう長らく付き合っていた晶との別離と、孤高の鮫島の唯一の理解者である上司の桃井課長が殉職するに至っては全てが終わった感じがしたものだが、11作目が出た。そしてこの11作目は新たな新宿鮫の幕開けとなった。 新宿鮫Rebootといった感じだ。 ヤミ民泊施設でたまたま出くわした殺人事件が捜査を進めるうちにどんどんスケールが大きくなっていき、そして利害関係者が雪だるま式に増えてくるストーリー展開は大沢氏の構想力の凄さを思い知らされる。しかし大沢氏は結末までを決めて書くのではなく、書きながら結末を考えるスタイルであるらしい。最後まで読むとその複雑さにゆえに本当に書きながら考えたのかと再度驚かざるを得ない。 ところで本書はある意味、人生を考えさせられる物語でもあった。悪事に手を染め、もしくは詐欺に嵌められ人生の転換を余儀なくされた者たちのオンパレードだ。しかし不思議と彼らの人生は没落者の末路といったような悲惨さを感じさせない。 詐欺麻雀に関与していた元構成員保富武はラーメン屋で修業し、独立して行列のできるラーメン屋としてまっとうな堅気の人生を歩んでいる。 石森芳範は賭け麻雀詐欺を働いていた遠藤と癒着して「袖の下」を貰っていることがバレそうになって四谷署から赤坂署を移り、そして退職した元刑事だが、広域暴力団の田島組の元若頭の権現の世話で運転代行業に身をやつし、キャバクラ嬢の『宅送り』をして生計を立てている。 その石森と癒着していた遠藤はスナックの店長から高額カジノの店長を経て、今や女性に薬中にし、一俵海という暴力団の組長に回すスケコマシで高級外車を乗り回す身分だ。 そして遠藤によって詐欺麻雀で多額の借金を抱え、自前のマンションをそのカタに取られた呉竹宏はそのマンションが権現によってヤミ民泊施設に仕立て上げられているのを知らずに暴力団の名が表ざたにならぬよう建物の名義だけは残されているが、自身は横浜の桜木町で権現によって与えられた雀荘のマスターとして生計を立てている。家族は既に離縁しているがその生活に満足し、自分が詐欺に遭って資産を騙し取られたことを知っても、その主犯である権現らを恨まず、むしろ感謝までして現在の生活に満足している。 つまり通常であれば犯罪に手を染め、もしくは詐欺に嵌められ借金のかたに私財を略奪された人生の落伍者たちなのに、なぜかその人生には悲壮感が漂うわけでなく、逆にそれまで自分の身に余る派手な生赤津を一旦リセットしてそれなりに自分の身の丈に合った生活をしているように感じられるから不思議だ。 一方で東大に入りながらも中退し経済やくざの道を歩んだ浜川は高級マンションと高級外車、そしてブランド物に身を固め、一見成功した実業家のように見える。敢えてセレブな生活をすることで一般人に紛れて警察の目から逃れている。暴対法により目を付けられ、行動を制限され、泥棒や強盗に手を染めるチンピラのような者もいれば優雅な生活を満喫しているのが暴力団の世界だ。 本当に色んな形の人生を見せられた思いがした。 そして前作でも感じたが、最近の新宿鮫は国内外のミステリの本歌取りをしているように思える。 前作『絆回廊』はチャンドラーの『さらば愛しき女よ』を彷彿とさせるし、今回は向かい側のマンションの録画に殺人シーンが映っていたことからアイリッシュの短編「裏窓」だろう。 あとやはり新宿鮫とマイクル・コナリーのハリー・ボッシュシリーズとの共通点が見られることに作者自身も自覚的のように思える。 ハリー・ボッシュはよくニーチェの格言「深淵をのぞくとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ」を引き合いに出すが、本書の最後、鮫島も自分が見張っていたKSJマンションの「402」から自分が監視をしていた向かい側のマンションを見つめて、そこの闇の中に自分を見返す目があるような錯覚を覚える。ハリー・ボッシュの方が後発だが、やはりボッシュと鮫島はお互いローンウルフで通常の捜査方法から逸脱して事件を解決する傾向があることなど共通点が多い。新宿鮫も英訳出版されているが、コナリーがそれを読んでいるかは不明だ。しかし少なくとも大沢氏はコナリー作品を読んでいるのではないだろうか。両作のシンクロニシティの高さから考えるとそう思いたいが、果たしてどうだろうか。 いやミステリだけではない。今回神田の古本屋「栄古堂」の主人で元公安の黒井によってお膳立てされた鮫島と宿敵香田との会見は薩長同盟の一幕を想起させる。 前作『絆回廊』に登場した陸永昌と鮫島の因縁はまだ続くようだ。かつての仙田こと間野総治のようにしばらく鮫島のライバル的存在になるようだ。 いやそうではない。鮫島は陸永昌を筆頭に祖国を持たないがゆえに警察官を殺す事も厭わない無頼派集団「金石」を相手にこれまで警察という庇護が効果を持たない戦いを強いられることになるのだ。 ともあれ新生新宿鮫の幕開けだ。腐れ縁の鑑識の藪と、そして鮫島の強引な捜査方法に眉をひそめながらも彼の実力と状況分析能力の高さを認める新上司の阿坂景子とのチームで今後鮫島は宿敵陸永昌との戦いと警察組織の軋轢と戦っていくことになるだろう。 彼の友人が遺した爆弾文書についても今後明かされる機会があるかもしれない。 まだまだ鮫島の眠れない夜は続きそうだ。 |
No.1 | 7点 | E-BANKER | 2020/01/05 10:42 |
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2020年、令和2年、皆さま明けましておめでとうございます。
毎年、新年の一発目で何を読もうか考えるわけですが、今回は迷うこと一切なし! “国内ハードボイルドの金字塔”新宿鮫シリーズの最新作で。サブタイトルは『暗約領域』(なせ『暗躍』ではなく『暗約』なのか?) 2019年の発表。 ~信頼する上司・桃井が死に、恋人・晶と別れた新宿署生活安全課の刑事・鮫島は孤独のなか、捜査に没入していた。北新宿のヤミ民泊で男の銃殺死体を発見した鮫島に新上司・阿坂景子は、単独捜査をやめ新人刑事・矢崎と組むことを命じる。一方、国際的犯罪者・陸永昌は、友人の死を知って来日する。友人とはヤミ民泊で殺された男だった・・・。冒頭から一気に引き込む展開、脇役まで魅力的なキャラクター造形、痺れるセリフ、感動的なエピソードを注ぎ込んだ八年ぶりのシリーズ最新作・・・~ 紹介文を読んで初めて気付いた。「八年ぶりだったんだな・・・」と。そんなに経ってたんだ・・・。八年ぶりだよ。八年前って言えば、自分もまだ〇〇歳だったんだよなぁーなどとどうでもいいことを思ったりした。 もはや新宿鮫シリーズに対しては書評すら必要ないと思う。よって終了! というのも新年一発目としては寂しいので雑感だけ。 シリーズ11作目となった本作。一番の注目点はやはり新上司と相棒の登場だろうか。 新上司となる阿坂景子。ノンキャリアそして女性警察官の期待の星という存在。警察官としての原理原則、そしてルールを何よりも大切にする。当然鮫島と衝突すると思ったのだが、実際は・・・。もちろん桃井とは正反対の人物。しかし終盤読者の鼻の奥をツンとさせる。 そして相棒となる矢崎。何となく「相棒シリーズ」のような展開かと想像したのだが、そこはやはり新宿鮫だった・・・ (ただ、正直なところ、この二人、まだまだシリーズに馴染めていない感が強い。今後どうなるのか?) 作者が本作でのプロットの出発点として考えたのが「宝探し」・・・ということがネットの特設サイトに出ていた。 そう。今回、鮫島、田島組、公安、そして外国人犯罪組織の四者がこの「宝」を探し回ることになる。 いったいこの「宝」とはなにか?(〇〇〇〇と分かったときは若干拍子抜けしたけど・・・。ちょっと時代がズレてる) なかなかこの宝の正体が判明せず、いつもの鮫島vs犯罪者たちという濃密な人間ドラマというよりは、捜査・推理の過程が重視されている感がした。 もしかしたら、これまでのシリーズ作品と比べて、この辺りを淡白と捉える読者もいるかもしれない。 実はかくいう私もそう。特に気になったのは最終盤。いつもなら、作品内に溜め込んだエネルギーのすべてを放出するかのような臨界点が描かれるのだが、今回はやや冷えていたように思う。 これは本作が新たな展開への序章だからなのか、それとも経年劣化なのか・・・若干気になるところ。 でも、トータルで評すれば十分に面白い。正月の静かな空間で、少しずつ、味わうように読ませていただきました。 まさに、作者からのクリスマスプレゼント、いやお年玉・・・かな。 (結局『暗約』の意図ははっきり分からず・・・) |