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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
ルパン、100億フランの炎
贋作アルセーヌ・ルパン
ボアロー&ナルスジャック 出版月: 1979年04月 平均: 6.50点 書評数: 2件

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サンリオ
1979年04月

No.2 7点 クリスティ再読 2023/07/30 11:44
さてボア&ナル贋作ルパン4作目は入手困難なこの本。出版事情などは人並さんのご講評に譲ります。

シリーズでも出来のいい作品だと思う。「ウネルヴィル城館」と双璧かな。「ウネルヴィル城館」が「続々813」みたいな真面目な続編調だったのと比較すると、4作目というのもあって「ボア&ナル流のルパン」として完成している。「水晶の栓」がそうなんだけども、今回もなかなか敵が手強い。そして連続殺人自体に、ボア&ナルらしいミスディレクションが混ざっていて、さらにそれが敵との駆け引きのネタになって、ルパンが連続してしてやられたりする。スーパーヒーローとはいかないあたりがどっちか言えば評者は好き。

こんな逆転・再逆転の面白さと、ルパンも最後まで見抜くのが難しかった敵の狙いなど、上出来作なのは間違いないや。もちろんルパンだからヒロインを巡って一肌脱いだり、巨額のお宝を目にしながらそれを「盗む」のを拒んだりと、ルパンの義侠心がボア&ナルが憧れた「ルパンのヒーロー性」なんだよね、としっかりと腑に落ちる。
だから本作だと本家では避けているような、リアルな第一次大戦戦後描写などあったりして、ボア&ナルの狙いが「リアルなルパン像」といったあたりに向いているとも思うんだよ。そこらへんの面白さを評者は感じたな。

(でもシリーズ最終作の5作目は、完訳がなくてポプラ社「ルパン危機一髪」。乗りかかった船だもの...)

No.1 6点 人並由真 2017/03/31 23:08
(ネタバレなし)
 1919年の春。前年11月に終結した世界大戦の傷跡がまだ生々しいフランス。怪盗紳士ルパンは新たに部下に加えた青年ベルナルダンとともに、大物御用商人グザヴィエ・マンダイユの屋敷に忍び込むが、富豪のはずの同家はすでに凋落の気配が漂っていた。美しいマンダイユ夫人ベアトリスの肖像画に魅せられたルパンは、屋内の秘密の隠し場所に少額の50フラン紙幣が意味ありげに仕舞われていることに不審を抱く。だがそこに当主のマンダイユが登場。慌てたベルナルダンが主人に発砲し、負傷させてしまう。やがて警察内に潜入させている部下ドートビル兄弟の情報から、病院で治療中のマンダイユが奇妙な文句を口にしていることを知ったルパンは、同家の事情をさらに探ろうとする。しかしルパンを待っていたのは、シャンパーニュ地方の名家の主ベルジイ・モンコルネの遺産相続にからむ連続殺人事件だった。

 おなじみボアロー&ナルスジャック(本書の場合は、表紙周りと奥付が、ボワロ&ナルスジャックまたはボワロ=ナルスジャック標記)コンビによる、贋作アルセーヌ・ルパン路線の第四弾。
 本シリーズの以前の既訳3冊は新潮文庫で発売されたが、これのみ当時のサンリオの出版部から刊行。その結果、ファンにも入手困難な古書としてキキメになっているが、このたび借りて読んでみた(たぶん、実はずっと前に買ってあって、どっかに仕舞って忘れてるってことはない…ないだろう…けど…)。
  
 筆者は贋作ルパンの先行3冊はだいぶ前に読み、その良い意味でのモノマネぶり、原典からのネタの拾い具合の妙味、さらに20世紀70年代の新作ミステリと、それぞれの部分で楽しませてもらった記憶があるが、本書もそれらと同様の、上質のパスティーシュになっている。ルブランの原作世界の事件簿でいえば『三十棺桶島』と『虎の牙』の合間に位置する内容で、『8・1・3』で活躍したあのキャラやかのキャラの再登場や贋作第一弾『ウネルヴィル城館の秘密』との接点なども語られ、ファンサービスもぬかりない。

 またオリジナルの新作ミステリとしては後半にかなり大きなサプライズも用意され(分かる人は分かるかもしれないが)、さらに事件の主題が、現実の1912年に生じたかの歴史的海難事故にからんでくるなど、物語の広がり具合もなかなか印象的なもの。
 まあ個人的に、終盤のまとめ方はちょっと小ぶりな感じもあったが、たぶん作者コンビが本書で今回書きたかったのは、原典の佳作『金三角』のごとき愛国者ルパンの義侠心みたいだし、そっちの方はしっかりと実感できたので良しとする。
(ちなみに筆者は数年前に、南洋一郎による本作のジュブナイル翻訳(翻案)版『ルパンと殺人魔』はすでに読了済みで、今回本書を読んでいくうちにそっちの方の流れも次第に思い出した。それゆえ本書の名場面のいくつかは既視感もあり、『殺人魔』の大筋はおおむねベースとなった本作『100億フラン』に沿っていたような印象もある。)

 しかしこの作品、贋作ルパン路線の版元が変わって文庫オリジナルから単行本になったこともあって読者が離れ、当時は売れなかったんだろうなあ…。そのおかげか、シリーズの最終作である第5弾(仮題「アルセーヌ・ルパンの誓い」)は、本書の刊行から40年経った現在も、大人向けの完訳としてはいまだに日本で翻訳刊行されてない。
 幻の原典『ルパン最後の恋』が発掘されて怪盗紳士ルパンが21世紀の世を賑わした昨今、くだんの未訳のルパン贋作5作目も、どっかで普通に邦訳してほしいのだが。   

【2018年11月14日:追記】やっぱり自室の見えないところにあった。しかも帯付き。ダメじゃん(汗)


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