皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ ハードボイルド ] 殺しあい |
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ドナルド・E・ウェストレイク | 出版月: 1963年01月 | 平均: 5.67点 | 書評数: 3件 |
早川書房 1963年01月 |
早川書房 1977年08月 |
No.3 | 6点 | クリスティ再読 | 2023/10/06 21:38 |
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ウェストレイクの初期って「ハメットの再来」とか持ち上げすぎたのが負担だったのか、あっさりとユーモア犯罪小説・悪党パーカー・刑事くずれと早々に路線分化してしまう。本作とか改めて読んで「そりゃ、60年代にはもうハードボイルドって難しいんだよね...」という気分になることからも、そもそも「ハメット路線」は続くわけなかったんだろう。
本作ってクライマックスを除くと「赤い収穫」みたいにガンガン人が死ぬ小説じゃないんだよね。どっちかいえば雰囲気は「ガラスの鍵」に近い。「ずんぐり」と評される主人公は、オプを意識しているんだろうけど、雇われてポイズンヴィルに赴いたオプと違い、本作の主人公、私立探偵ティムは街に根付いた生活をするジモティーな生活者であり、自分の生活(ともちろん生命)を守るために策謀した結果、街を破壊するレベルの大惨事を煽ることになるわけだ。ポイズンヴィルの毒にアテられて「狂った」オプはそれでも(アンチ)ヒーローなんだが、本作のティムはヒーローというよりも、単に「自分の身を守ろうと」して、暴動の火をつけるハメに陥ってしまう。大惨事には主人公だって立ちすくむさ。爽快感、とはいかないよ。 本作の事件のきっかけとなったのは「市政浄化連盟」という「正義」の団体。いやはや、評者もこのところ「社会正義」を振り回す連中に多大な迷惑を被っていたりもすることから、他人事じゃない(苦笑)それこそマフィア未満なイタリア系移民たちを扇動して...とかとしてみたいよ(泣) |
No.2 | 5点 | 雪 | 2019/05/17 02:51 |
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ニューヨーク州の地方都市ウィンストンで、地方議会のトップと繋がりながら街でただ一人の私立探偵業を営むティム・スミス。その彼を狙い突然銃口が火を噴いた。深夜の一時に簡易食堂のカウンターに腰をおろしていた彼の隣に座った男が、手紙を渡す代わりにいきなり拳銃を抜きはなったのだ。
逮捕された男はそのまま警察に連行されるが、入口に立ちはだかったとたんにライフルの銃声が鳴り響き、店の中に倒れ込む。街のボスたちの不正を掴み〈うまくやってきた〉彼を誰かが消そうとしているのだ。シティ・ホールに腰を据える七人のボスの一人が。 ティムは不正調査に動き出した改革団体CCG〈市政浄化連盟〉を利用し彼らとの直接対決を試みるが、彼のその行動はやがて町をあげての血まみれの抗争へと繋がっていく・・・ 処女作「やとわれた男」に続く第二作目。1961年発表。主人公スミスはシティ・ホールの会合に出向き、町の支配者ジョーダン・リードから安全の確約を取りつけるもその後も狙われ続け、ついには仕事部屋に投げ込まれた手榴弾により、彼の大家でありカゼール一族の長老、ジョージが犠牲になってしまいます。 私立探偵とはいえボスたちとはツーカーで、市長とも気軽に話し合う仲だったスミスもここに至って全面対決を決意。最終的にはカゼール一族を焚き付けてボスたち全員を向こうに回した大量殺戮となります。 とはいえこの主人公スミスが煮え切らない。それなりにうまい汁を吸っていて、土壇場まで「なんとか元のままに」というスケベ心を引き摺っている。金が無い訳でもなし、ガールフレンドの忠告通りに町を離れちゃった方がいいんですけど「ここは僕の町だ」なんて言ったりして聞く耳持ちません。 その癖カゼール一族を巻き込む手口はかなりエグい。それでいて自分が嵌めて殺したも同然の死体の前で立ち竦んじゃったりします。ピカレスクに徹する訳でもないこいつのグダグダさでどんどん被害が広がるのが、読んでいて面白くない理由でしょう。最後はヤケになったのか、ガンガン拳銃撃ちまくりますけど。 一応犯人当てとかありますが大したことはない。この点でもハメット「血の収穫」には到底及びません。はっちゃけた展開で最後まで押し切ればいいんですが、ブルックリン生まれのニューヨークっ子気質がそれを邪魔してるような気もします。5点作品。 |
No.1 | 6点 | 空 | 2016/10/20 20:57 |
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久しぶりの再読です。ウェストレイク名義というと、1960年台後半以降はユーモラスな作品が多いようですが、実はそれらは読んだことがありません。本作は作者の第2作で、いかにもなハードボイルド、それも『赤い収穫』以来の大量殺人と宣伝されていたものです。それで期待して読み始めたら、主役の私立探偵が命を狙われる普通のハードボイルドじゃないか…と思っていたら、最後になって一気にやってくれたという作品でした。実際のところ、覚えていたのもこの最後のまさに殺しあい部分の派手さだけ。
なるほど、そこは確かに凄絶なものがありますし、クライマックスのお膳立て発想には『赤い収穫』と似たところもあります。しかし一方の陣営が実は悪玉じゃないというのは気になるところです。また、ハメットと比較するには文章表現に深みが欠けますし、謎解き要素もそれなりに論理的ではあるもののハメットほどではありません。 |