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[ サスペンス ] 弱虫チャーリー、逃亡中 |
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ドナルド・E・ウェストレイク | 出版月: 1968年01月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 1968年01月 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | 2016/05/30 15:00 |
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(ネタバレなし)
ニューヨークの一角で、伯父のアーティからバーを任された24歳のバーテンダー、チャールズ(チャーリー)・プール。彼自身は堅気の身だが、叔父が何か暗黒街と関係があるらしいとも察していた。それゆえごく軽い気持ちで叔父の指示のままに、店に来るいわくありげな客に中身も知らぬ物品をこっそり手渡すこともあった。そんなある夜、二人の男が来訪。いきなりチャーリーを殺すと宣告する。事情もわからず身に覚えもないまま窮地に陥るチャーリーは、たまたま顔なじみの警官ジキャッタが現れた機会を利用して一旦難を逃れた。彼はそのまま夜の街に逃げ出し、身の証しを立てようとするが…。 ウェストレイクの1965年の作品。本名名義での6冊目の長編で、それまで初期には硬派・シリアス気味な作品一辺倒だった彼が、この作品からユーモアサスペンスの妙味に傾注。作風の転換を図った一冊として知られる(この作品から、のちのドートマンダー・シリーズが生まれたともいえないこともない)。 一人称の記述によるチャーリーの逃避行はハイテンポでサスペンスも豊か。さらに絶妙なさじ加減でキャラクターの立ったそれぞれの登場人物たちとの関わり合い(特に意外な? ポジションからチャーリーにとってのヒロイン役になる、ある女性がなかなか魅力的)はユーモラスに描かれ、…なるほどこれは当時のウェストレイク読者には新鮮な反響を呼んだろうな、と頷かせる。 あと本書の特色として、チャーリーが逃げ惑うニューヨークの街並の描写が克明で、現在ではこれは当時の60年代の市街の景観を語る貴重な文献にさえなっているのじゃないかと思える。若い頃、ニューヨークに在住していた木村二郎氏あたりなら、いろいろ思う所などありそうだ。 とはいえすでに半世紀前の作品でもあり、ストーリーのツイスト具合はその後のあまたの作品で似たようなものを先に見ちゃった…という印象の箇所も無くはない。特に前半はそういう既視感を感じさせる展開も多く、その意味でその時代のなかの作品だな、というマイナスの感慨も生じたが、後半になるとそのへんは存外、気にならなくなってくる。緊張感を下げないまま小技を繰り出すストーリーテリングのうまさなど、職人作家としてのウェストレイクの手腕を実感させられる筆運びだ。 終盤も残りわずかでどう話をまとめるかと思いきや、加速感豊かに意外な決着を提示。犯人の意外性も読者の固定観念のスキをつくもので感心。それらを踏まえて最終的には程よい充実感のなかで本を置かせる手際など、やはりうまいものだ。 しかし本書の最大の価値は、最後の1ページだろう。いやぁ人をくったそのセンスに大笑いしました。 |