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[ サスペンス ] 憐れみはあとに |
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ドナルド・E・ウェストレイク | 出版月: 1965年01月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 1965年01月 |
早川書房 1981年11月 |
No.1 | 6点 | 雪 | 2019/03/07 09:22 |
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看護人を殺害し精神病院から脱走した狂人。巧みに捜索をかいくぐりながら逃走を続ける彼は、拾ってくれた男に正体を勘付かれ殺害する。爆発する車から持ち出したスーツケースには、現金とあらゆる種類の身分証明書、それに俳優組合の組合員カードが入っていた。
殺した男は車中で、いままでの自分のエピソードや経歴、これから向かうレパートリー劇団のこと、芝居のやり方などをあらいざらい語ってくれた。ふたりとも同じ年ぐらいで、背格好も同じ。はじめての仕事先で、四百マイル彼方の夏季劇場の人間はだれも知らないし、プロデューサーもこの男のことを知らないのだ。 狂人は首尾良く役者になりすまし劇団に潜り込むが、性衝動に襲われ早くも女優の一人を手に掛けてしまう。湖沿いの保養地で夏季だけの警察署長を勤めるエリック・ソンガードは、現場に残されたメッセージから殺人者の心の動きをつかみ、犯行を食い止めようとするが・・・ 「その男キリイ」に続くウェストレイク名義の第5作。1964年発表。リチャード・スターク名義の悪党パーカーシリーズは1962年から開始なのでその前後、本格的に作風が変わる狭間の時期に書かれた作品です。 冒頭から"狂人"の独白とソンガード署長をはじめとする他の人物の描写が交互に記述され、殺害シーンも名を伏せたままの加害者視点。最初の女優殺しが衝動的な犯行だったため、アリバイの有無から男女15人余りの劇団関係者中の犯人候補は4名に、読者視点では3名にまで絞られます。 かように美味しいシチュエーションなのですが、生憎と推理要素はほぼなしのサスペンス一点張り。最初から最後まで淡々と死体が転がっていくので、乾いたというか引き攣った笑いが出ます。筒井康隆の短編読んでるみたい。 狂気の描写はかなりなもので、他人になりすまし演技にのめりこんでいくうちに理性も侵食。もともと多重人格気味な犯人ですが、人間的だった思考も徐々に支離滅裂な動機に変化していきます。やたら行動的な以外はマーガレット・ミラーのものに近いですね。発表年代を考え合わせるとすごくレベルが高いです。 でも犯人の割り出し方を工夫するとか、もっと面白くできたんじゃないかなあ。精神異常者の人間的な要素に触れるのは好ましいけど、もう少しエンタメ的にも配慮して欲しかったと思います。 |