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ミステリの祭典

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シーマスターさんの登録情報
平均点:5.94点 書評数:278件

プロフィール| 書評

No.218 6点 クリスマス・イヴ
岡嶋二人
(2011/11/30 22:27登録)
基本的にホラーやスプラッタは嫌いではない・・どころか「スリルを味わえる」ものなら間違いなく好き。

本作は、殆どの読者が読み始めて間もなく、いや読む前から大体の流れと結末は見えているだろう。それはそれでいい。
殺人鬼から逃げ回るだけの小説があってもいいと思う。
要は過程を楽しめるかどうかだが、個人的な感想を忌憚なく言えば全然怖くないし面白かったとも言い難い。
実は私は綾辻行人の『殺人鬼』を結構楽しめたクチなので、それと比較されることが多い本作、ましてや作者が作者なだけに期待していたのだが、岡嶋さんほどの作家でもこういう話を書かせるとこの程度のものしか書けないのか、というのが率直な読後感と言わざるを得なかった。皆さん仰るとおり読みやすさは図抜けているが。
まぁこのジャンルは面白い話を創る力量よりも「いかに恐怖心を煽って残虐なシーンを詳細かつリアルに描写するか」だから得意分野ではなかったということなのかもしれない。


No.217 6点 衣裳戸棚の女
ピーター・アントニイ
(2011/11/25 23:55登録)
今までチラホラ目にしてきた本書に関する巷の断片的なコメントからは激しくぶっ飛んだトリックを期待していたが・・・・・いや、そうした前評判は決して誇張でもフカシでもないんだけど本作が世に出た時代より遥かに後の世において似た印象のカラクリが使われている作品が我が国でもいくつか書かれているので、後者を先に読んでしまっている読者にとってはインパクトの点では若干肩透かしの感は否めないだろうし、個人的には時の残酷さを感じる読後感でもあった。 

しかし、ここは60年前にこのトリックを創出したことに対し素直に敬意を表しておきたい。


No.216 6点 ジョーカー・ゲーム
柳広司
(2011/11/14 23:42登録)
大日本帝国陸軍所属D機関という超異端組織のスーパースパイ達の暗躍を描いたサスペンスミステリ短編集。

・『ジョーカー・ゲーム』・・・この恐るべきD機関の成り立ちを知るだけで楽しめる話。まぁ本編のメイントリックは子供騙しに近い印象。(なんて言ったら憲兵に捕まっちゃうね)
・『幽霊』・・・トリックは割りと古典的だが、横浜の古くからの異国情緒あふれる地でのスパイ活劇には味わいがある。
・『ロビンソン』・・・「いくら何でも都合よすぎる」という感想を述べる向きは「この本の趣旨を理解していない」と言われるんだろうね。
・『魔都』・・・確かにあそこにはそれだけの魔力がある。それはともかく「ギャップ」を想像すると結構笑える。
・『XX』・・・ミステリとしてはいささかお粗末の部類に入るのではないかと思うが、最後に「化け物」になりきれない人間の限界が描かれているところに趣きがある。

D機関のメンバーみたいな「化け物」達が現実にいたとはとても思えないが、解説の佐藤優氏(そう、宗男関連の事件で現在執行猶予中の元外務省主任分析官!)がD機関のモデルとなったという「中野学校」について言及しているように100%フィクションではないのだろう。だとしたらどこまで近い現実があったのか知りたいなぁ。

ところで、全てのストーリーのプロデューサーとも言える結城中佐・・・既読の皆さんは脳内にどのようなヴィジュアルイメージを抱かれただろうか。
自分はタイミング的に、一昨日と昨日の日本シリーズ第1、2戦をいずれも敵地で結果的にはギリギリのところで勝ち取った中日ドラゴンズの落合博満監督の無表情がダブりましたね。


No.215 6点 クビキリサイクル
西尾維新
(2011/11/08 21:24登録)
文庫としては分厚い本作の半分は「戯言」であることを覚悟して、尚且つそれは全て上滑りできることを見切って読めば漫画のように読みやすい。
カバーや挿絵どおり、全てのキャラと語り口は漫画そのものなのだから。

しかし意外にも「孤島の首斬りモノ(というジャンルがあるか知らないが)の一つの型」としてミステリの教科書(あるか知らないが)に載りそうな端正なトリックを味わうことができた。

ただ(作中では登場人物達が嘘をつきまくるが)、一箇所、地の文に決定的なウソがあったのはいただけない。
『・・・・、これが○○の○○になろうとは・・・・・・、』
このウソさえなければオレは犯人を見抜けたはずだ!・・・・・・・というのは恐らく栗山英樹氏の野球解説並みの結果論でしょうな。(いやぁ彼は嫌いじゃないけどね)


本作中の無数の戯言の中で、一番気に入ったのは
『何のために生きているのかと訊かれたら、念のためだと答えるだろう』


No.214 6点 美女
連城三紀彦
(2011/10/23 23:11登録)
浮気、不倫をテーマにしたドロドロのミステリー風短編集。

やっぱり、この人の文体は自分には合わんわ、と改めて認識させられた一冊。
なにしろ短編なのに一つ一つの話が長く感じられてしまうのだから相性の悪さは言わずもがな。
各話ともプロットの巧みさには感心するが、この人が場面々々に絡ませる情景描写、比喩表現は概して不自然で無理付けな飾り物に思えるし、とにかくまどろっこしくてページをめくる手を鈍らせるハンプにしかなっていない。自分には。

・「夜光の唇」・・・凝ったドロドロ捻りだが心に響くものはなかった。
・「喜劇女優」・・・これは凄い話だ。おおよその展開は早々に読めてしまうが読み終わった時、予想を遥かに凌駕する大いなる○○感はデカルトの格言をも揺るがさんものがある。(大げさな)
・「夜の肌」・・・妻の臨終際のドロドロ劇。暗鬱この上ないが心に響かない。
・「他人たち」・・・前半の叙述だけ少し面白かった。
・「夜の右側」・・・これぞ連城ミステリーの真骨頂といえる構図のイリュージョン。推理作家協会賞だか何だかを受賞してもおかしくないレベルにあると思う。
・「砂遊び」・・・前半の叙述だけ少し面白かった。
・「夜の二乗」・・・ミステリー的には比較的よくできているが、心情面の要素がやはり個人的には打たれない。
・「美女」・・・カバーの紹介文から大いに期待していたが、割とありがちな展開。

先述のとおり好みとは言えないが、連城の職人技が詰まったこの短編集はもう少し注目されてもいいと思う。
やはりミステリーとしては若干主眼がずれているため本格ファンにはスルーされてしまうのだろうか。


No.213 6点 造花の蜜
連城三紀彦
(2011/10/12 22:34登録)
騙しの構図を情念まみれで描いた連城らしい誘拐ミステリー。

大した作品だとは思うが個人的には、誘拐犯の不可思議な言動以外は、全体的にダラダラしてクドクドの読み物に感じられた。もちろんこういう叙情的なミステリーに感じ入る人がたくさんいるだろうことは理解できる。
意外な構図も「人間動物園」を読んでいると、あっと驚くというほどには感じられず。所々の不自然さもかなり引っかかるし。

ボーナストラックのような最終章の事件は、これはバカミスでしょう。ネタが明かされたときには思わず笑ってしまった。主人公の陰鬱な語り口・心情展開とネタのギャップ・・・こういうのは結構好きだな。


No.212 6点 時の渚
笹本稜平
(2011/09/13 20:36登録)
元刑事の私立探偵が主人公のヒューマンサスペンスミステリー。(もう少し気の利いた形容があるとは思うがボキャ貧なもので御勘弁)


「死期が迫った裕福な元極道の老人に依頼された、35年前に赤の他人に委ねた息子探し」

「3年前、刑事だった主人公の妻子を轢き殺した疑惑を有する実業家の新たな疑惑の追求」
が並行して進む。

両者に繋がりがあることを予想できない読者は皆無だろうが、物語の三次元的な構図はよく練られていて作者も書き上げた時にはさぞかし満足感に浸ったことだろう。

しかし読む側としては、これほど偶然、強引、御都合に引っ張られる展開にはさすがに少なからず喉が渇くよねー
特に意外性のための、とりかへばや物語の連発はあまりにも安易ではないだろうか。

とか言いながら目頭が熱くなるシーンがあったことも亦偽らざる所なりや。


サントリーミステリー大賞とやらの受賞作だが、確かにウイスキーのつまみにいいかも。
いや、グラスに合わせて継ぎ足し継ぎ足し出てくる登場人物達がこんがらがっちゃうかもね。


No.211 4点 密室殺人ゲーム・マニアックス
歌野晶午
(2011/09/13 20:27登録)
(おっと、既に登録されていたとは)


密室殺人ゲームシリーズの第3弾だが、これはないでしょう。
少なくとも本格ミステリーとしての意義はほぼゼロだろう。

まぁネット、IT、現代機器で、どこまでミステリーゲームができるかをネットオタクの作者が、若干のネット社会論も交えて書いた確信犯的な「お遊び作品」というところか。(それでも第2話の後半はふざけすぎ)

このシリーズ、これで終わりではなさそうだね。


No.210 6点 ピース
樋口有介
(2011/08/10 22:38登録)
秩父地方が舞台の連続猟奇殺人事件。

秩父って、山と川だけのイメージだったけど、それなりの社会があるんですね。(失礼千万なコメントですね。すみません)

本作は終盤までは比較的オーソドックスなミステリーの形態をとり、そのキモは「Why?」だが、まぁこれはわからんわ。
全く無関係に見える被害者たちの共通項は何か? 彼らはなぜ殺されたのか?
その答えは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「ピース」

そして最後の「転回」・・・大半のミステリーファンは、あまり好ましくない印象を抱くでしょうね。

撒きっぱなしで回収されない謎もいくつか残るが、あまり深く考えずに暇つぶし程度のつもりで読めば、軽妙な文体で手軽な小説といえるだろう。


全くの偶然ですが、日にち的に結構タイムリーな作品でした。


No.209 6点 翳りゆく夏
赤井三尋
(2011/08/01 22:11登録)
アマゾンの「おすすめ商品」におむすびまんの次に入っていたので迷わずクリック。(ココの本は大抵、既買の作家の別作品が並んでいるだけだが珍しく未読の作家の本が上位にあったので)


面白かったですよ。
江戸川乱歩賞受賞作品らしいグイグイ引っ張ってくれるサスペンスミステリーで。

時の堆積層の奥深くに埋められた真相を掘り起こしていく演出と意外性のためには、なりふり構わず偶然を使うところも実に乱歩賞作品らしい。

また中年以上の男たちのキャラクターもなかなかよかったですね。

エピローグも・・・個人的には割りと好き。ただ「その人」以外の人の「その後」も少しずつ書いてほしかった。


ところで最近のめり込めるミステリーを探すのに行きづまってきたなー、誰か「コレ、おまえに合ってるかもよ」と何か薦めてくれないかなー


No.208 6点 第一級殺人弁護
中嶋博行
(2011/07/25 23:15登録)
若手弁護士が主人公のリーガル・サスペンス短編集。

・・・というと正義の熱血弁護士の活劇物語を想像してしまいそうだが、この弁護士は要領が宜しくないうえ、人並みの金銭欲と名誉欲は持ち合わせているし、それでいて面倒な仕事に手抜きをして後で青くなったりするところなどは大いに共感できる。実に共感できる。

まぁ、どの話でも最終的には正義の熱血弁護士になってしまうんだけどね。

意外と本格色が強く、「弁護士モノはちょっと・・・」というミステリファンでも楽しめると思う。


No.207 6点 迷宮
清水義範
(2011/07/11 23:06登録)
(毎度ながら)帯にひかれて衝動買い。 (牛にひかれて善光寺参り、ではない)


ストーリーの大半が、記憶喪失になった「私」が「治療」と称して、ある猟奇殺人に関する記録や記事を次々と読まされることから成っている。
果たして私はこの事件の犯人なのか?

一つの殺人事件が様々な角度からとは言え、繰り返し語られるので少々飽きてくるが最後にこの小説の「意図」が明らかになる。しかし最後の最後は・・・・・?

本作は現在公判中の英国人女性殺害事件と若干重なる雰囲気があり、そのぶん少し印象的な作品だった。刑務所で読むのに最適かもしれない。


No.206 6点 コフィン・ダンサー
ジェフリー・ディーヴァー
(2011/07/04 23:35登録)
事故で四肢麻痺となった元捜査官の民間人リンカーン・ライムの自宅が、ニューヨーク市警やFBIの旧友の溜まり場となり、事件の証拠物件が次々と持ち込まれ分析され、捜査本部と化し、ライムの希望に応じて被疑者や参考人がそこに連れてこられて尋問や勾留すら行われる。現代アメリカ。

この作者には当然ドンデン返しを期待するわけだが、本作のメイントリックには・・・もちろん見抜けるわけもないが・・・「驚愕系」のサスペンス洋画をかなり見ている(と自負する)自分はオっと驚いた。

巧みな構成でスリリングな展開の作品ではあると思う。アメリカ行きの航空機内で読むのに最適かもしれない。


No.205 6点 十二人の手紙
井上ひさし
(2011/06/20 22:06登録)
全て書簡形式で進行する短編集。タイトルどおり殆どが手紙だが中には公的文書だけで進むストーリーもあったりして面白い。
書簡形式の短編はさほど珍しくないが、一冊丸々というのは稀有ではないかな?(折原一とかであったっけ?)

今時のミステリーで「手紙」とくれば慣れた読者なら当然「叙述」シフトで構えるわけだが・・・・
本作でもその類の仕掛けがないわけではなく、ミステリー的に面白いと思えるものもいくつかあるが、何と言っても30年以上前の作品だから、新鮮味のある驚きを期待するのは酷というものだろう。

本短編集はミステリ要素以上に、時代背景に即して描かれている人生の機微や悲哀などが何とも味わい深い。(全体的にちょっとバカっぽい印象は拭えないが)
そして最終章での「まとめ」も悪くない。最後のトリック、結末はともかく、「アレとアレがつながっていたんだ・・気がつかなかったよ」「あの人たちはああなったんだ・・よかったね」・・・・・そう、悪くない。


No.204 7点 死亡推定時刻
朔立木
(2011/06/13 23:16登録)
作者名の読み方は「さく たつき」。
現役の法曹関係者ということ以外、素性は杳として知れず。

本作は冤罪事件をテーマにした小説で、詳細にわたりリアルフルに語られているが、小説としての読者を牽引する力にも非凡なものがある。

誘拐事件発生から警察の対応ミスによる殺人、捜査と逮捕、今更ながらの暴力的な取り調べ、無茶苦茶な調書作成、立件、裁判・・・が描かれていくが、もしこれが、普通のミステリー作家なんぞが書いているのだったら「いくら何でも、今時の司法の実態がそこまで酷いことはないだろう。インパクトのために着色料使いすぎ」と話半分に読んでしまうことだろう。
しかし、この現役の法律家はあとがきで「この作品を作者としては、ドキュメントあるいはリポートと呼びたい気持ちがある。全体の筋書きは架空のものだが作品を構成する細部のほとんどは、実際にどこかに存在したものだからだ」と述べている。
つまり、被害者の社会的立場や警察官、検察官、弁護士、裁判官の資質や都合や感情によって、無実の人間が死刑になるということが今尚現実に起こり得る・・・と言っているのだから憤怒以上に恐怖を感じるばかりであり、もし自分が運命の気まぐれによって冤罪のループに嵌まったらと考えると、ゾッとさせられるに余りある作者からのメッセージであり警鐘でもある小説だ。


最後に・・・帯の文言がスゴい・・・【この本は500万部売れる!・・(中略)・・『砂の器』『火車』に並ぶ名作です。】・・・これはさすがに(笑)を付けてほしかったけどね


No.203 6点 虚夢
薬丸岳
(2011/06/06 23:33登録)
少年法に挑んだ『天使のナイフ』で華々しいデビューを飾った作者が、3作目となる本作では「刑法第39条」・・・心神喪失者の行為は罰しない・・・をテーマに再び「法に守られた殺人」の前に苦悩する被害者遺族にスポットを当てる。
ただどうだろう。これほどの事件で、視聴率や売り上げ部数のためならカラスも飲み込むようなマスコミ群が本当に「ひく」だろうか。

読み進むに連れて、「これはミステリとかサスペンスと言うより統合失調症の話ではないか」と思えてくるが、この作者のことだから当然一筋縄ではいかない作りにはなっている。
見事なまでに類が友を呼んだり、宝くじ級の繋がりがあったりするところはデビュー作の香りそのままだが、これは欠点というより読者を圧倒的なパワーで引っ張る作者の作風の一部と思えば全然許容範囲かなという気もする。
本格モノというわけでもないし、何と言ってもこの人の、社会の影を描く物語のリーダビリティには比類なきものがあるのだから。 

ただ本作に関しては、デビュー作や第2作に比べるとインパクトが弱い感は否めない。この作者には優等生的に纏まる話よりはナイフのように危ない作品を期待したい。


No.202 6点 明日の記憶
荻原浩
(2011/06/01 23:35登録)
五十歳にしてアルツハイマー型認知症に罹患してしまった主人公の不安、恐怖、葛藤、絶望、諦念・・・が病状の進行とともにリアルに描かれている社会派的力作。
今後益々深刻化していくだろう介護問題の原因となる疾患の一つでありながら、まだまだ高齢者のボケ、痴呆という認識が蔓延っている本疾患の実態の正しい理解のために幅広く読んでいただきたいとは思う。

山本周五郎賞受賞作。(どんな賞だかよくは知らない)


No.201 7点 誘拐ラプソディー
荻原浩
(2011/05/27 23:51登録)
人生に絶望したケチな前科者、伊達秀吉が桜の花咲く丘の上で、できるわけもない自殺をしようとモタモタしている間に、彼が盗んで運転してきた車に一人のガキ(男のお子さん)が勝手に乗り込み居眠りをしていた。
秀吉は一喝して追い出そうとするが、その子の身なりを見て考えが一転、「これは神様がくれた千載一遇のチャンスだ」
しかしこの童子こそは南埼玉を牛耳る強大な指定暴力団八岐組組長の一人息子、篠宮伝助だった・・・・・・

・・・・・・という素敵なツカミの荻原作品なのだから、そのリーダビリティたるや言わずもがなのノンストップサスペンス。

誘拐モノの傑作といえば「大誘拐」や「99%の誘拐」などが挙げられることが多いようだが、本作はドタバタユーモア系でありながらギャグとシリアスのバランスがよく、ややこしい設定もなく、秀吉と伝助、ヤクザ達、中国マフィア、警察官・・・の言動や心情なども適度なリアリティとドラマ性で描かれている。ペーソスやハートウォームもさりげなく鏤められ、物語のまとめ方も亦宜しからずや。とにかく読みやすくて読み止まらない。

「面白い小説を読みたいが何を読んだらいいかわからない、という人にまずはおすすめ」というありがちな帯の文言も本書に関しては妥当な宣伝文だと思う。


No.200 6点 千年樹
荻原浩
(2011/05/21 22:46登録)
作者の2番目の短編集。 1本の巨樹にまつわる連作短編集。

8つの作品からなり、各作品とも過去(平安時代?~第2次大戦中)と現代(昭和40年代?~平成)のストーリーが交互に語られるカップリング形式で、巨大なクスの樹が両者を結ぶ時空の交点になっている。

この樹は時に人間たちを暖かく見まもり、時にその愚行をシニカルに眺め、時に冷酷な結末を嘲笑する。


自分は学生時代から「歴史」は苦手で、歴史っぽい読み物といえば手塚治虫の『火の鳥』ぐらいしか読んだことがないが、本書を読んで歴史小説の面白さが少し解かったような気がした。(おこがましながら)

ただ折角、幅広く様々な時代を往来する作品集なのだから、最後にはもう少し壮大さを感じさせる作りにして欲しかった。


No.199 6点 押入れのちよ
荻原浩
(2011/05/16 23:42登録)
作者の初の短編集らしい。

ファジーな短編集である本書をあえてジャンル分けするなら「ホラー&サスペンス」になるのだろうが、「怖さ」とか「ゾクゾク」を感じる話は殆どなく、「ゆる怪談」「ブラックコメディー」「メルヘンチックファンタジー(?)」といった印象の話が並んでいる作品集になっている。

本短編集の中で最も異彩を放っていると感じた作品は『コール』。 これは混乱するわ。

まぁ、何ということはない話ばかりだが、この「手軽さ」がいいね。

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