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ミステリの祭典

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シーマスターさんの登録情報
平均点:5.94点 書評数:278件

プロフィール| 書評

No.58 6点 犯人に告ぐ
雫井脩介
(2007/12/28 23:19登録)
誘拐事件で犯人とのコンタクトに臨まんとする神奈川県警の捜査陣営において・・・
  「向こうの出方がわからない」 「くそっ!やられた!」
・・・これが犯人に対する焦燥ではなく、警視庁に対する主導権争いの言葉であることに、のっけから驚かされる。

「バッドマン」編に入ってからは、中だるみというかダラダラ感も少なからずあるが、これだけの長さだと流石にそれなりのコンテンツもある。
一番楽しめたは獅子身中の虫を排除するトラップ劇。

全編に渡りリアリティの塊のようなスタイルを呈しているが、個人的には現実味はあまり感じられなかった。
このような連続殺人は起こり得るだろうが、行き詰まった際の捜査手段や大手テレビ局のスタンスや絡み方はフィクション感を掻き立てられるに余りある・・・実際、小説だからある程度は止むを得ないと思うが。
(例えば、テレ朝、TBS、フジ・・・などの22、3時の女性キャスターが視聴率争いのために、そげな危ない橋を渡るやろか? とんと想像できへん)


No.57 6点 セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴
島田荘司
(2007/12/21 22:19登録)
長ーいプロローグは必要あったかな?(このシーズンにマッチした雰囲気なので個人的には割りと好きだけど)
本編の取っ掛かりも、事件の展開も全体的に不自然でギクシャクした感じが否めない。

この作品の輝きは唯一つ・・・不幸の風雨に晒されながら純心に健気に生きる女の子と、彼女に向かう御手洗潔の慈しみ・・・これに尽きるでしょう。

島荘から御手洗ファンと子供好きのミステリーファンへのクリスマス・プレゼントですね。


No.56 5点 誘拐症候群
貫井徳郎
(2007/12/19 22:48登録)
事件の構成や展開は「失踪・・」より面白かったが、解決にあたり今回も大穴を当てるような偶然に助けられるのはチョットね・・・
2群の誘拐はともに頭脳的で見事に遂行されるため、どれほどの犯人達かと思いきや・・・・・・(「失踪」ほどではないが)
環の追い詰め方もスクラムトライの如く力ずくで「スマートさ」からは程遠い。

前作では殆ど無機質だった武藤が今回は主役級となり、彼の人間性が少し見られるのは興味深かった。
その反面、全体的な人間描写は前作ほどの体臭を感じられず。


No.55 6点 私が彼を殺した
東野圭吾
(2007/12/18 20:35登録)
「どちらか・・」よりは話が面白いが、なぜこういう形にするのか、やはり理解できない。

容疑者が一堂に集められてから各章がどんどん短くなっていく展開は緊張感が醸し出されて悪くないが、この3人だったら誰が犯人でもいいや、としか感じられないキャラ達なので加賀刑事以上に余裕を持って詰めに臨めてしまった。

もちろん正解は分からず。


No.54 6点 天使の耳
東野圭吾
(2007/12/12 22:05登録)
交通問題を題材あるいは端緒とした小ミステリ集。

表題作は・・・緻密な構成だが予想と違ってちょっと残念。
その他もあまり読後感が宜しくない作品が多い・・・が、溜飲が下がる部分があることも確か。
個人的には『捨てないで』がまあ面白かったかな。(冴えないダブルミーニングだが)
最終話の『鏡の中で』は周辺事情から殆ど見えてしまった。(実際にありそうな気がしないでもない)

信号無視、路駐、煽り、ポイ捨て・・・やっぱいけないよね。


No.53 5点 崩れる 結婚にまつわる八つの風景
貫井徳郎
(2007/12/10 23:28登録)
短編集で、どの話も読みやすいので、ひつまぶしには悪くないが・・

夫婦、恋愛、近所づきあいなどをテーマにしたミステリだが、考えさせるにせよ、怖がらせるにせよ、驚かせるにせよ、何か中途半端というか作者の意図がイマイチ不明瞭なものが多い。ふざけているのかな?と思うものもある。
ネタやテイストもどこか既視感を抱かせるものが少なくない。(どちらが先だか知らないけど)

あとがきによると、作者としては初の短編集で自分なりに短編の書き方を勉強しながら書いた、ということなので何となく納得。


No.52 7点 最悪
奥田英朗
(2007/12/07 22:24登録)
近隣に住みながらも全く異なる世界に生きる無関係な3人(チンピラ、OL、鉄工自営)の物語が3交代で順次進み、やがて・・・という例のパターン。

3人はそれぞれジワジワと不幸の砂穴にはまっていく・・・が、
 チンピラは自業自得の面が少なからずあるし、
 女子行員の災難も(可哀相だが)さほど珍しい話でもない。
 しかし町工場のオヤジは不運の女神に虐められているとしか言いようがない。元々情けないタイプなだけに、のめされていく様は哀れを通り越して喜劇的ですらあり、少々食傷気味にもなるが、そこまでヤラレるからこそ後の狂態も分からなくもないものになっている。(この辺が本作の真骨頂だと思う)

中盤から3人のストーリーが合流するまでは、登りつめて行きそうな展開なのだが、そこからはどうも締まりのない感じで、どこが話のピークなのかピンボケ気味のため盛り上がり感はイマイチ。

結局この話はドキドキサスペンスというより、普通の人が犯罪に巻き込まれたり、どん底に追い込まれたあげく異常行動に至ってしまう背景やプロセスを読者に自分事のようにリアルに実感させる、という点において秀逸な作品なのであろう・・・と個人的には感じた。


No.51 7点 邪魔
奥田英朗
(2007/12/04 23:58登録)
妻を亡くした刑事、普通の家庭の主婦、不良高校生・・・・三者それぞれの物語が刑事を中心に付きつ離れつしながら現実に翻弄される様を、彼らの体温が感じられるような生々しい筆致で描いたリアルフルなサスペンスであり、入れ込めやすい作品だと思う。
中でも平凡な主婦が運命の悪戯により少しずつ日常のレールを外れ、変貌していく様相は圧巻といえるだろう。

ラストは・・・全く未来がないような、そうでもないような不思議な余韻を残す。


No.50 7点 クリムゾンの迷宮
貴志祐介
(2007/11/30 22:41登録)
サバイバルゲームとして、実に精巧な造りだし面白いと思う。
リアリティやラストの可否などについては何ともいえないが、「本は読んでいる間、入れ込めたらそれでいい」という、あまり評判が宜しくない恩田陸のMAZEなども楽しめてしまった自分の感性には結構マッチするものだった。
不可解のまま終わるのかなーと思ったゲームの目的にも一応納得。
個人的には、ドキドキハラハラがもっとハイパーであってもよかったかな・・・と。(過激さに麻痺しつつある危険な徴候か)


No.49 5点 11文字の殺人
東野圭吾
(2007/11/28 22:35登録)
前半は「これは火サスの脚本か」と思うほど見事なベタさ加減。
恋人の死の真相を追う女性作家とその友人、そして彼女達の追究を嘲笑うかのような連続殺人・・・果たして真相やいかに?・・・・・警察はやる気がないのか?

途中でやめようかとも思ったが、半ばで少し捻りが入っている空気が感じられたので何とかホールドオン。
後半は、油断すると頭に浮かんできそうになる意外な真相を振り払いながら読んだため、まぁ楽しめた。


No.48 5点 失踪症候群
貫井徳郎
(2007/11/27 20:21登録)
あまり好みのジャンルではなかったが、貫井作品だから「何か」あるだろうと思い、読み通す。

環や武藤、また基地外ロックバンドなど、現実感が希薄なキャラクタを登場させる一方で、普通の人間たちの生々しい生活感を描く筆力はさすがに圧巻。

ハードボイルド(?)サスペンスとしては悪くないが、事件の芯がショボいし、いくつかタイミングがよすぎる所も鼻につくし、ラストも2時間ものによくありそうな安直な纏め方がイマイチ。


No.47 3点 麦酒の家の冒険
西澤保彦
(2007/11/20 23:37登録)
エラリークイーンの短編を思わせるようなタイトルにも惹かれたし、こういう設定も好きだし、麦酒はもっと好きだが・・・・・・退屈だった。

面白いとも思えない仮説が次から次へと垂れ流されたり反芻されたりする前半を「まさかこれが最後まで続くんじゃないだろうな」という不安を覚えながら読み進んだが、さすがに中間点で新たな展開があり後半はファクターを広げてきた・・・しかし「舅と婿の対立論」やその問題で「行ったり来たり」の何たらかんたらをグダグダ論ずるあたりでは本当に眠気を催してしまった。

結論は一応スジが通っていると思うが、「これだけダラダラ読ませてソレかよ」という感は否めない。
短編に纏めてくれていれば、「小気味いい論理ゲーム」という印象になったかもしれない。


No.46 2点 同級生
東野圭吾
(2007/11/16 21:32登録)
ミステリとしては平凡、というより子供向けの推理クイズに出てきそうなトリック。 

あとがき(他の本でも見たことがあるが)によると作者は大の教師嫌いらしいが、その個人的な鬱憤を思いっきり晴らすべく書かれたかのような話。
しかし総じて教師達を惨めでキモい悪者にせんという意図が強すぎるため、反教師側の主人公たちの言動も非常にクサいものになってしまっている。

学生時代に一度もいい先生にめぐりあえなかったのかと思うと、この人も少しかわいそうな気がする。


No.45 6点 殺意の集う夜
西澤保彦
(2007/11/14 23:48登録)
文字通り「嵐の山荘」もの(ミステリ用語では「吹雪の山荘」だっけ?)だが、そのカテゴリーで、このタイトルだといやでも期待しちゃうよね・・・・背中がうずく殺人ゲームを。

それはともかく読後は、よくもまあこれだけムチャクチャな人間たちと狂騒曲を書いたものだと感心することしきり。
だけど最後に明かされる最大のネタは、ちょっとひどいんじゃないですか?
このネタ自体は珍しくないけど、本作での使い方では地の文、やりとり、数々のエピソード・・・から夏に雪が降るのと同じくらい「あり得ない」といえるのではないだろうか。
(例えば某作家Sの某作品では、きちんと伏線が張られていて真実をサジェストする描写も十分にある)
まあ「おかしな登場人物達が一堂に会する便利な偶然」などからも、『アンフェアだろうが御都合主義だろうが構うもんか、最後にあっと驚かせりゃ何でもいいんだー』という勢いで書いた作品なのかもしれない。

何はともあれドタバタサイコミステリとして、そこそこに楽しめる話ではあると思う。


No.44 6点 イニシエーションラブ
乾くるみ
(2007/11/09 22:42登録)
驚愕度に関して、あまりにも高い前評判を(聞きたくもないのに)聞いていたため、率直な読後感は「期待しすぎたか」・・だった。

確かに見事な構成のドンデンものだが、そこには殺意も悪意も全くないので、結末での驚きは単に「あー、そうだったのかー」であって、それに伴いゾクっとくるものがなかった・・というのが個人的な感想。  
強いて言えば、ある人物の意外な一面に少しだけ・・・というところ。

この本の最も効果的な使用法は、本書を知らずに「何か恋愛小説が読みたいなー」という人に、何気に貸して読ませて、その反応を楽しむ・・・・という少々侘しいものかもしれない。(そうされたかった・・・)


No.43 7点 火の粉
雫井脩介
(2007/11/07 23:57登録)
サスペンスとして素直に面白いと思う。  読みやすさも申し分なし。(大事なことだよ) 

他人にジワジワと家や家庭を侵食されるストーリーは、ウォルポールの「銀の仮面」などの小説のみならず映画やテレビでも時々見られるが、本作は本筋以外のディテールも丁寧に描かれているため、十分にリアリティを保つことに成功していると思う。
(例えば、前半での小姑の憎たらしさといったら・・・・)

クライマックスでの惨劇は、単にそこで「何が起こったか」以上に、「どういう人物が何を言いながら」によって、法治文明の一端をも揺るがすかの壮絶さを感じさせるが、自分は(ウルトラ不謹慎ながら)笑いが込み上げてくるのを禁じえなかった。
何となく漫画チックなバカバカしさも感じてしまい。


No.42 5点 魍魎の匣
京極夏彦
(2007/10/23 23:07登録)
素晴らしい作品なのだろう・・・たぶん

個人的には、内容の割りに長すぎると思う。
前作のウブメは(支持しないが)実に無駄が少ない作品だと感じたのに対し、この作品は全体的にダボついた印象を拭えなかった。

人間関係のサプライズもさほど驚くものでもないし、ミステリとしてのネタも壮大ではあるが推理してどうこうなるものでもない。
要はこの雰囲気に浸れるかどうか、であろう。

もちろんこの作品はミステリの枠に収まるものではなく、ホラーでありSFでもある。その辺の広がり感が受けているのかな?

魍魎とは実体不鮮明にして此の地と彼の地の境辺りを蠢くものであるなら、この作品こそ「本」の世界の魍魎といえるのかもしれない。


No.41 5点 そして扉が閉ざされた
岡嶋二人
(2007/10/06 21:48登録)
設定はコアでソリッドでアブソービング(誤用乱用いい加減にしろ)だが、「その中」では終盤のある時点までは(回想と足掻きを除いて)延々と堂々巡りの議論を聞かされ少々辟易する。

事件の構図は面白いと思うが、ネタやトリックは若干「?」が残る。しかし何が不思議といって登場する2人の女性が死んだあの女と何年も友達でいられたことが最大のミステリー。

ラストはベタ過ぎ。(この展開でそうするキャラなら始めからそんなことせんよ)

この作品は(国内ミステリ小説での成功例は極めて少ないと思うが)映像化したら結構イケるかもしれない。


No.40 7点 安達ヶ原の鬼密室
歌野晶午
(2007/10/01 23:47登録)
一見何の関係もないように見えて、実はある共通点を有する3つ(or4つ)の話が山本山のように並んでいる(実質上)中短編集。

この構成には賛否あると思うが、あるネタで(全く別設定の)3つくらいのストーリーを思いついてしまった際に「一本に絞って他を捨てるのはもったいないが、別々の作品にしたら明らかに二番、三番煎じ」というジレンマを止揚する作者の巧さがなせる業・・・というのは穿ち過ぎか。

表題作の事件編は何とも読みづらかったが、カラクリの大胆さは島荘作品を彷彿させるものがある。(構成によりインパクトは薄められてしまっているが)
またripperのキーワードにも立派に騙された。

ナノレンジャーはいかがなものかとも思うが、これはともすればミステリ作品がメイントリックだけでサマライズされたり、一言のネタバレで読む価値が消滅する(確かにそういう本も多いが)かのように扱われることに対する作者一流のアイロニーではないだろうか。


No.39 5点 怪笑小説
東野圭吾
(2007/09/22 22:00登録)
「くだらねぇ、くだらねぇ」とのたまいながらページを捲り続け、気がついたら完読してしまっていた。

あとがきからもわかるように、作者がふとした機会に思いついたプロットを何となく書いた・・・ような話を寄せ集めた短編集らしい。(「たぬき」は結構マジかな)

さほど笑えるわけでもなく、ストーリーが斬新なわけでもなく、何らかのメッセージや寓意が感じられるわけでもないが、不思議と読み止まらない本書のタイトルはまさに体(たい)をあらわしていると感じた。

感想(というより読後のコメント)としては「たまにはこういうのもいいだろう」とか「暇つぶしに最適」などという月並みな文句しか思いつかない。

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