home

ミステリの祭典

login
シーマスターさんの登録情報
平均点:5.94点 書評数:278件

プロフィール| 書評

No.98 6点 カラスの親指
道尾秀介
(2008/10/15 21:16登録)
(ネタバレではないと思うが、これから本作を読もうかと思われている方は以下目を通されない方がよろしいかと・・)


こういう系統の話だと知ってしまっていたらまず読まなかっただろうが、幸い前情報に触れることなく入れて・・・・・・・・・読んでよかったと思える一冊。
大雑把にサマライズしてしまえば割とありがちなドンデン系冒険物語と言えるが、平成二十年の小説として古さを感じさせない読み物に作り上げられているのは作者の巧さがなせる業といえよう。
ドンデンに関しては「コレのどこがありがちだ」と反論される既読者もいるだろう。
確かに一筋縄のドンデンではないが、一つ一つのサプライズは決して斬新なものではないし、メインの仕掛けは結局東野サンの○○○○○○○○などと同じく□□□だし、これに対しては「好感はもてるが大人の小説でこの仕掛けは・・??・・まあ子供向けの感動トリックかな」という感想も少なくないのではないだろうか。
他の作品でも感じたけど要するにこの人、ネタのコンビネーションが巧いんだと思う。

といってもこの作者の作品をたくさん知っているわけではないが、こういう読後感のよろしい作品は珍しいのではないですかね・・・・何となく直木賞狙いのような気がしないでもないけど。
そうでなくてもNHK辺りでドラマ化されてもおかしくないと思うが・・・・・チョッと難しいかな。


No.97 6点 しらみつぶしの時計
法月綸太郎
(2008/10/10 21:03登録)
作者の最新短編集ではあるが・・・・・

・「使用中」「ダブル・プレイ」・・・両作とも途中で、かなり前に読んだ話であることに気づき計らずも再読することになったが、このころのノリピーには張りがあったなーと妙な懐かしさを覚えたりもする。
・「素人芸」・・・これも随分前の話のようだが特筆すべき点は見当たらない。
・「盗まれた手紙」・・・カラクリは読めたが面白いパズルだと思う。タイトルはあの作品そのままだが文調まで似せているのには舌を巻いた。
・「イン・メモリアル」・・・読後ニヤっとさせられるショート・ショートだが若干意図が分かりにくいかもしれない。
・「猫の巡礼」・・・意図不明。(悪くはない)
・「四色問題」・・・このD・メッセージは関係者以外にはまず解らないし答えを聞いても「ふーん」だろう。
・「幽霊をやとった女」・・・冒頭で一目瞭然カート・キャノンのパスティーシュ。ストーリーも小気味よく纏まっている。
・「しらみつぶしの時計」・・・問答無用で余計なファクターを一切排除した閉ざされたロジックの空間を演出しているが、解決の糸口となる仮説(何となくノーベル物理学賞の「粒子・反粒子の対称性の破れ」を連想させる・・もちろん冗談)は、どうも屁理屈の域を出ていない気がするし、最後の決め手も脱力モノで結局中途半端な印象しか残らない。
・「トゥ・オブ・アス」・・・これも既読の気がするが相当前だし、ノリちゃん、このネタ他でも使っていると思うのではっきり同定できず。割りとよくできた話だと思うがキレは感じられず。

トータルとしてはホロスコープより面白かったが、この人には生っぽい本格短編をもっとビシバシ書いてもらいたい。


No.96 6点 歯と爪
ビル・S・バリンジャー
(2008/10/06 23:17登録)
当時は、無関係に見える2つの話が並行して交互に進みやがてリンクされてくる展開様式(そう、あの『慟哭』型のカットバック)が斬新だったのだろうし、それを利用した叙述トリックは衝撃的なものだったのでしょう。

それにしても半分ネタバレしてから袋綴じ、というのは如何なものだろうか。折角の仕掛けがもったいない・・・
しかしもっと驚いたのは、何の驚きもないラストでした。


No.95 6点 犯罪ホロスコープⅠ 六人の女王の問題
法月綸太郎
(2008/10/06 23:12登録)
これは、カバーの「著者のことば」の一文がそのまま書評になる・・・・・曰く「気楽に読んで愉しめる、そして後にはいっさい何も残さない、そんな娯楽奉仕に徹したミステリー集・・」

ノリリンらしい骨っぽいロジックや反転トリックも見られるが、テーマである星座、ギリシャ神話との関連づけの苦しさが随所に滲み出ているのは如何ともし難い。
まあ、この方それほどこの分野に造詣が深いわけではなさそうだから、命題が与えられたものだとしたら努力賞兼敢闘賞モノ。


No.94 7点 竹馬男の犯罪
井上雅彦
(2008/09/24 22:30登録)
「隠れた名作」の一つに列するに既読者の異論少なかろう秀にして異色作。

何とも捉えどころのない幻想的な雰囲気だけでも浸り味わうに値するが、ミステリ系小説としての完成度の高さも百の凡作及ばざるところ著しい。

その非現実性から本格の括りに入れるのは難があると思われるが、個人的には『魍魎のハコ』なんぞより濃厚さを感じたし、本作の「四次元トリック」は正に比類なしと形容するに相応しい。(似た感じの話がないこともないけど凄い)
惜しむらくはフーダニットにおけるカタルシスの乏しさと少々長さを感じさせるストーリーフロー。

ブラッドベリ辺りが好きな人にお薦めの一作。もちろん京極ファンにも。


No.93 5点 裁くのは誰か?
ビル・プロンジーニ
(2008/09/03 21:03登録)
自分はどちらかというと否定派ですね。

確かに凄い作品です。(森博嗣さんも絶賛していた・・・ような気がします)
これのシンプルバージョンは時々見られますが、本作ほどハイパーな形は空前絶後でしょう。

ですが、決して「誰も思いつかないアイデア」ではありません。中学生でも考えつくネタです。(彼が大人に話して「君は想像力が豊かだね。将来ミステリ作家になったらいいよ、ハハハ」とあしらわれる様が目に浮かぶようです)

それを本当に小説に仕上げてしまった、というその大胆さには感服します。
率直に言うと「よくぞ、こんな酷すぎて誰もやらないことをやってのけたもんだ」というのが個人的な読後感でした。


関係ないけど、こんな大統領に比べれば御自分の限界を感じたらサッサとお辞めになる我が国の宰相の方がよっぽどマシですね。


No.92 6点 殺しの双曲線
西村京太郎
(2008/08/25 20:30登録)
秀逸なクローズドサークル+双子(ネタバレじゃないよ)+α
本格モノとして紛れもなく国内名作の一つ。

ただ個人的には、クローズドには推理や論理よりも息づまる緊張感とジワジワ濃縮してくるソリッドな恐怖を期待しているので、そういう点では若干物足りない。
いや、内容は十分そうしたものになっていると思うが、文体が全く奇を衒わない(下手すればチョっとバカっぽく感じられるほど)素朴で平易なものなので今一つゾクゾクする閉塞感が湧いてこない、というべきかもしれない。(鮎川哲也の「りら荘事件」辺りにも同様の印象を受けた記憶があるが、時代性なのかな)
この作品に綾辻氏の館のような物々しい筆致、雰囲気作りがあったら、自分としては間違いなく◎なのだが・・・

並行する連続強盗も人を喰った感じで面白いが、「わざわざそんなややこしいことしなくても・・」という読後に感じられる必然性の乏しさは如何ともし難い。
まあ、これは作者としてはミスディレクションの意味合いが大きいのだろう。


No.91 6点 ルームメイト
今邑彩
(2008/07/30 23:42登録)
ミステリとしては微妙だが、サイコ・サスペンスと割り切って読めば許容範囲内。

ストーリーも割りと面白くて読みやすいが、(サイコは別としても)無理がある、というか不自然な展開がいくつかあることも否定できない。
例えば、身内の友達とはいえ、初対面のただの大学生に訊かれるがままに複雑な家庭の事情やらプライベート性の高い話をそう易々とベラベラ話したりするものだろうか。

ラストは更にビミョー。 少なくとも驚愕する気にはなれず。


No.90 5点 「死霊」殺人事件
今邑彩
(2008/07/22 22:07登録)
普通ならタイトルで軽くスルーする代物だが、偶々105円コーナーで見つけてしまった今邑作品なので・・・

で、読んでみると・・・・・・

いくつか面白い仕掛けもあるが、メインのカラクリは取ってつけたような不自然なアクトと好都合な事象のコラボで、とても褒められたものではない。
またプロローグは悪い意味で紛らわしいし、「顔」やオバハンは結局・・・?
過去の事件や歳月を経ての悲劇や隠蔽トリックも(これ自体は悪くはないが)本編との関係で言えば単にコンテンツ不足を補うものにしかなっておらす、一つの作品としては首を傾げざるを得ない構成になってしまっている。

本作が作者の作品群の底値であることを願いたい。


No.89 6点 ブラディ・ローズ
今邑彩
(2008/07/07 20:43登録)
ブリジット・・の「マーチ博士の四人の息子」やらヒッチコックの「レベッカ」やら・・・・過去モノのアトモスフィアがいろいろ入っていて(この人の得意ワザらしい)面白いし、不可思議性の演出も巧いし、「真相はこうじゃないのか?」という自分のような浅薄な読者の思いつきを一つずつ丁寧に潰してくれるのも好感が持てる。

ただ、雰囲気や心理面に重きを置いた作風になっているので、ミステリ作品としてはインパクトが強い仕上がりにはなっていない。

ラストは安物ホラーサスペンスっぽい気がしないでもないが、読後遠からず忘れ去られてしまいそうな儚げな印象を補強する意味では悪くないだろう。


No.88 6点 99%の誘拐
岡嶋二人
(2008/07/02 23:42登録)
(ネタバレあり)

あまり好みのジャンルではないが、視覚に訴えかけてくるような展開が作者特有の読みやすい文体で綴られているので、十分楽しむことができた。

よくぞそこまで組み立てたという誘拐モノだが、犯人が分かっているので例えば赤坂から蔵王までのドライブなんかは、ちょっと引っ張りすぎという感も否めない。その間も様々な技巧が詰まっているが、読者にとっては自作自演と知りながらの流れだから、スリルという点ではやはりイマイチだよね。

またアクティブなストーリーの割には締めもピンとこない。
どなたかもおっしゃるように、せめてオジサンの罪業は最後に明かされる・・・という形にしたらオチもついて、もう少しピリッとした読後感になったと思う。

穿った見方をすれば「面白いミステリ、サスペンス」よりも「パーフェクトな誘拐」を創り上げることに作者の意欲が傾いていた作品なのかもしれない。


No.87 6点 スイス時計の謎
有栖川有栖
(2008/06/25 23:59登録)
4作からなる中短編集だが前2作は既出のアンソロジーからの再掲載で、しかも両者ともそれぞれの中でせいぜい△という代物だから、それらの既読者にとってはお買い損感が否めない気もする・・・・・が表題作でしっかり元を取ってくれる。

・「あるYの悲劇」・・・論理性も必然性も全くなし。命尽きる時に意に反して上には戻らんと思うよ。 「名前」も・・・どうでもいいね。
・「女彫刻家の首」・・・無数にある首切り(首無し)ミステリのテーマは全て「なぜ切断したか」であるが、本作も「こんなんもあるよ」という一例を呈示してみた作品。
・「シャイロックの密室」・・・これも密室の作り方としては平凡。
・「スイス時計の謎」・・・皆さんおっしゃるとおり、ロジックの美しさが際立つ秀作だが、個人的にはこの内容で160ページは長いと思う。法月の「都市伝説」ほどにとまでは言わないが、せめてこの3分の2ぐらいに凝縮して頂いたらもう少し切れ味鋭い印象になっただろう。(作者が謎解き以外にも言いたいことがあったのはわかるけど)

何はともあれ全作読みやすいので、手軽なミステリ短編集としてはお薦めできる。


No.86 6点 邪馬台国はどこですか?
鯨統一郎
(2008/06/22 23:45登録)
いやー、皆さん教養高いですね。

歴史や古文が苦手な自分には正直ハードでした。
スンナリ読み通せたと言えるのは最初と最後、つまりブッダとキリストだけ。
それでもどの話も結論を早めに提示してくれるので、その後の論拠展開はある程度流し読みしてもそこそこ楽しめました。

ただ高校生以下の方は読むべきではないかもしれませんね。

しかしホントこの人、筋金入りの文系だよね。


No.85 6点 家守
歌野晶午
(2008/06/17 21:08登録)
作者が好きな、「家」をモチーフにした短編作品集。

・「人形師の家で」・・・ギリシャ神話の絡ませ方が巧い。
・「家守」・・・このトリックは成功せんだろう。 プロローグは・・なるほど。
・「埴生の宿」・・・人を小バカにしたような仕掛けが面白い。
・「鄙」・・・最近こういう雰囲気も割りと好きになってしまったが、あのトリックはチョットふざけてるよね。  隠蔽の動機も受け入れ難い。(が羨ましい)
・「転居先不明」・・・凝った構成なのにオチはありきたり。

全編に渡り、歌野氏らしさがそこそこ出ていてハズレではない短編集だと思う。


No.84 6点 シャドウ
道尾秀介
(2008/06/13 21:35登録)
巧い・・・・・・・とは思う。
だけどサイコサスペンス系ミステリとしては、コレはありがちなんだよなー

この人の作品は多分2冊しか読んでないのにエラそうなことを言うのも恐縮だが、いずれもどこかで見たような捻りにもう少し捻りを加えたものを2つぐらい用意して絡めてみた(DNAか!?)・・・という印象が個人的には拭えない。

それでも本作では、あちこちに細かい伏線を鏤め、それらを全て丁寧に回収している点は好感が持てる。
ただ小学5年生があれほど深く考え、言動するかは甚だ疑問。

読み物としては十分面白い。


No.83 7点 山魔の如き嗤うもの
三津田信三
(2008/06/09 21:22登録)
民俗系はあまり得意ではないが、「首無に劣らず・・・」などという巷の書評を目にして衝動的にアマゾン1クリ。
ちょっと評判がいいとすぐに過大な期待をしてしまうのが自分の悪い癖だが、本作に掛けたエクスペクティドハードルはちょっと高すぎたようだ。

いやー、かなりの作品だとは思いますよ。
特に一家消失のトリックは素晴らしい。(似た感じの前例がないこともないが)

ただ、その他の密室やら山女郎の消失やら犯人に迫るロジックやらは、どうにもチマチマセコセコしたものがギッシリであまり好みではない。
怪奇現象も「ふーん」ですね。(最後はホラーだけどね)

いい素材に、欲張ってゴテゴテといろんな装飾をくっつけたため全体としては何となくモニョモニョした仕上がりになってしまった感じ。
前作を読んでいたので謎解きの二転三転も予想通りで、かませ犬もお約束感が強く、驚愕度もあまり高くない。

そうは言っても、「本格ミステリー」として標準を遥かに凌駕するものであることは間違いないだろう。

P.S. 表紙のイラストは山女郎クン?それともその・・・かな?


No.82 7点 金雀枝荘の殺人
今邑彩
(2008/05/30 23:58登録)
予想外に(と言っては作者に失礼だが)面白かった。

特にグリム童話に見立てた連続殺人の必然性、密室トリックとの兼ね合いには唸らされるものがある。

ただ「霊」や「霊視者」を出す必要はなかったのではないかな。そんなもの出さなくても十分ケレン味は出ているのに・・・・「霊」の最後の仕事もストーリー作りの一環であるのは分かるが・・・・・・まぁミステリをブチ壊すほどではなく許容範囲ではあるが無駄骨の気がする。

また、(この人の癖なのかもしれないが)時々過去の有名作品に言及する中で、本作では登場人物にある作品のネタをポロっと口を滑らさせているのも気になるところ。

(その辺りはともかく)この人の本は2、3冊しか読んでないけど、いずれも読みやすくて長さも手頃、構成も巧く、ミステリチックな雰囲気も程がいい・・・・・結構穴場的作家?(なんていったら本人のみならずファンにも失礼極まりないですね。m(_ _)m )


No.81 5点 官能的 四つの狂気
鳥飼否宇
(2008/05/24 21:13登録)
変態数学者のバカミスかと思ったら、そのとおりだった。

それでも(各編のタイトルがカーをパロっているだけのことはあり)第1、2話はバカがついても密室ミステリとして読めないこともない。不可思議な現象が無理やりながら一応合理的に説明される。
3話目は変態の極み+ガリレオ崩れ?
最終話は「オチ」の章・・・アレに関しては始めから「何かネタがある」というのはミエミエだったが予想を遥かに超えていた・・・がバカバカしくて大して驚く気にもなれず。

六とんよりちょっとマシ?(あれも殆ど忘れちゃったから何とも言えんが)


No.80 6点 ラットマン
道尾秀介
(2008/05/21 21:38登録)
うーん・・・・・・・・・・・・・・・なんか普通。

確かに読めない多重捻転、並行して語られる過去の「死亡事故」も含めて登場人物達の齟齬が交錯する展開は巧いとは思うが、この程度の意外性はさほど珍しくはない。

この手のミステリとしても(あまりよく憶えてないけど)AB・・・氏の0・・・などの方が面白い構成だったような気がする。

複雑な環境で育った主人公の心理描写も多く、「家族」についてのメッセージ性なども感じられ、単なる殺人モノでないことは分かるが、その辺りに東野氏や伊坂氏の作品がチラついてくるところも若干オリジナリティ不足を感じさせる。


No.79 6点 天空の蜂
東野圭吾
(2008/05/19 23:58登録)
ストーリーの壮大さ、緻密さ、完成度の高さにおいては作者の作品群の中でもトップクラスだと思う。

ただ、面白いかと言えば・・・・・完全に好みの問題。
原発やハイテクヘリに関心がある人にとっては、最初から最後まで止められない逸品のサスペンスだろう。
興味が薄い人にとっては、ちょっと長すぎる大袈裟で漫画チックな犯罪物だろうし、メカニカルな話が延々と続くところなどは苦痛以外の何物でもないだろう。

自分は明らかに後者だが、救出劇はさすがにドキドキハラハラといっても過言ではない臨場感を味わえたし、犯人を割り出していく捜査過程もなかなかだったし、読後には不思議と(単に厚い本を読み上げたというだけではない)満足感があったことを否定できない。

これは本作が『片想い』や『変身』などと同様に作者の問題提起・・・
・・・・「我々は原子力発電というものに、もっと真剣に向き合い、考えて行かねばならない」
という社会へのメッセージが、ディテールに全く手を抜かない綿密な構成の作品を通して真摯に伝わってくるから・・・・・・なのかもしれない。

278中の書評を表示しています 181 - 200