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ミステリの祭典

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Tetchyさんの登録情報
平均点:6.73点 書評数:1626件

プロフィール| 書評

No.246 7点 葛橋
坂東眞砂子
(2008/05/12 23:27登録)
中編集。彼女お得意の土俗ホラーというものではなく、2編が怪奇物で1編が奇妙な味系。

3編中、気に入ったのは「恵比寿」。
これは今までの坂東作品の中では珍しくどこかコミカルであり、新機軸として面白く読んだ。皮肉なラストはちょっと余計かなとも思ったが、この作者らしからぬ処理の仕方に逆に好印象を持った。

しかし逆にあっさりしているといった感じがあり、『屍の聲』のような匂い立つような情感が足りなかった。
贅沢な注文なのだが。


No.245 10点 山妣
坂東眞砂子
(2008/05/11 14:52登録)
大傑作!
とにかく凄まじいほどの物語の力だ。
東北の雪深い山奥にある村に訪れる落ちぶれた役者たちの来訪が、悲劇の始まりとなっている本書は今までの坂東作品のフォーミュラを踏襲しているが、各登場人物の書き込みが群を抜いて濃厚。しかも捨てキャラなし!
特にいさの物語が凄まじい!

ところで本書の紹介文や帯には人の業が織成す運命悲劇というような文句がさかんに謳われているが、それよりも私は山が愚かな人間に振り下ろす鉄槌の物語だと思った。
山が生き物であるかのように人間の運命を翻弄する。

読後はあまりの物語の力に呆然となった。坂東眞砂子、恐るべし!


No.244 8点 屍の聲
坂東眞砂子
(2008/05/10 23:29登録)
坂東眞砂子の怪奇短編集。全て読ませる。
これらの怪奇譚に共通するのは人間が通常思ってて口に出さない、表に出さない負の感情である。
これがあることをきっかけに表出し、思わぬ事態を招く。
この辺の綾というのがこの作家、非常に巧い!

どれもこれもいいが、あえてベストを選ぶとすれば「雪蒲団」か。
何が起こったのかを直截に描かず、読後、読者におのずと悟らせる、この技巧の冴えを買う。
いやあ、久々に鳥肌が立った。

坂東作品の入門書としてもお勧めです。


No.243 7点 桜雨
坂東眞砂子
(2008/05/09 23:13登録)
今回の舞台はなんと東京。
しかし東京といっても年寄りの街、そして仏閣の街、巣鴨。やはり死がテーマの一部だ。

物語は混乱の昭和初期を生き抜いた二人の女性の物語を軸に、戦前の画家西游を巡る現代の物語が展開する。

当初現代で西游を探る彩子が主人公と思っていたら、断然過去のパートの方が面白くなり、主客転倒してしまった。

一応の決着がつくが、色々な物が取り残されたような形。
もうちょっと書き込めば傑作になっていたんだろうけど。


No.242 9点 桃色浄土
坂東眞砂子
(2008/05/08 22:59登録)
珊瑚が織り成す人生劇場。

今回の舞台も作者の故郷である高知のとある漁村。
ここに異人船が迷い込み、イタリア人のエンゾという異分子が加わる事で悲劇の引鉄が起こされる。

全てのキャラクターが立ちまくりである。
そしてそれらが全て必然性を持って悲劇へと収斂していく。
さながら読者も物語の海原に翻弄されるかのようだ。

作品を重ねるごとにどんどん深みを増していくこの作家。
すごい、すごすぎる!


No.241 8点 蛇鏡
坂東眞砂子
(2008/05/07 13:06登録)
前2作に引き続き、今回もテーマは「死者の再生」。
死者に対して未練を残す者達の心の隙間にするっと入ってくる甘美な毒。この生者たちが己の感情の赴くままに犯す過ちを描くのが非常に巧い。

今回も奈良という古き因習残る地でねっとりした情念を孕ませて物語は紡がれていく。
・・・だのに、最後の結末がなんともなぁ~。
一気にB級ホラー作品に成り下がったかのようだ。
これがなかったら、もっと評価は高かったのだが。


No.240 8点 狗神
坂東眞砂子
(2008/05/06 22:34登録)
なんとも業の深い物語。

主人公の美希の人物造形がすごい。
この41歳の薄幸の美人の境遇に同情せざるを得ないような形で物語は進んでいくのだが、次第に明かされていく美希の過去のすさまじさには読者の道徳観念を揺さぶられる事、間違いないだろう。

云うなれば人間が獣の一種なのだという事実、獣が持つ残忍さを秘めている事を改めて思い知らされる、そんな感じがした。

手品師が一枚一枚、布を捲りながら種明しをするように、徐々に事実を明かしていく。

極上のホラー。


No.239 7点 死国
坂東眞砂子
(2008/05/06 00:14登録)
栗原千明主演で映画にもなった土俗ホラー。

自分の住んでいる四国を舞台にこれほどまでの土俗ホラーが繰り広げられるのにまず驚いた。
四国に住んでいるのがちょっと怖くなった。
この作品のテーマになっている「逆打ち」ってホントにありそうだもの。

この「逆打ち」を軸にさまざまな人のドラマが絡んでくる手並みは見事。
文章も立つし、読んで損はない作品。


No.238 7点 廃流
斎藤肇
(2008/05/04 22:36登録)
得体の知れないアメーバがどんどん大きくなって、街を襲うというパニック小説。
このアメーバが大きくなっていく過程がそれぞれ短編小説のように面白く、○。

で、当然こういうパニック小説は最後の決着のつけ方が商店となるが、それがちょっと・・・ねぇ。

でもこの作家の作品の中で一番面白かった。


No.237 2点 思いがけないアンコール
斎藤肇
(2008/05/03 14:45登録)
この「思いシリーズ」(ネットで調べるとそういうらしい)はこの作家なりに本格ミステリの定型を打ち崩そうという努力が見れるのだが、なんとも技量不足の感が否めない。
本書においては全ページ数360ページ強のうち、なんと80ページ目で読者への挑戦状(作品内の言葉を借りれば宿題)が出てくる。

定型を破らんがためにあえてコード型推理小説の意匠を纏っているのだが、逆にそれが他の作家達(有栖川氏や法月氏ら)の作品よりも無味乾燥したパズル小説になっており、なんとも味気なかった。


No.236 4点 思い通りにエンドマーク
斎藤肇
(2008/05/03 00:22登録)
新本格ブームの最中、雨後の筍のようにデビューした作家の1人で、これがデビュー作。
もうあの頃のコード型本格ど真ん中で、舞台も断崖に建つ洞窟を利用した館で、お約束のように唯一の外部との連絡手段である吊り橋が切れ、密室殺人、連続殺人が発生します。

一応の解決の後、さらにどんでん返しが待っているが、定型を脱していないという印象。
でも本格に対する根源的な問い掛けを作中でしており、求道的な作品でもあると云えるが、文体といい、内容といい、その軽さがその作者の思いを減じているのは否めない。

ま、こういうのが好きな人はどうぞ。


No.235 3点 人でなしの恋
江戸川乱歩
(2008/05/01 21:36登録)
この短編集でも乱歩はどんでん返しにこだわり、苦心しているが、それが悪い方向に働いている。
はっきり云って蛇足なのだ。
二流の作品が三流作品になっているといっていいくらい、しょーもないオチをつけている。

この頃、本当に産みの苦しみの中でもがいていたのだろう。


No.234 3点 算盤が恋を語る話
江戸川乱歩
(2008/04/30 13:55登録)
短編作家としての乱歩は私の中では評価高かったのだが、これは明らかにアイデアの枯渇が否が応にも露呈している。
もうどうにかどんでん返しに持ってこようと無理が目立つ。
痛々しいなぁ・・・。


No.233 4点 信長殺すべし 異説本能寺
岩崎正吾
(2008/04/30 00:18登録)
主人公が病床で史料にあたり、歴史に隠された謎を繙くという『時の娘』の設定そのままのアームチェア・ディテクティヴなのだが、最後に至って、大反則技が待ってました・・・。

そこに至るまではけっこうよかったのに・・・。


No.232 4点 闇かがやく島へ
岩崎正吾
(2008/04/28 23:31登録)
非常にご都合主義な小説です。

まず発端からして、祖母には予知能力があるのだから、島に行けと云うのなら行こうという展開なのだから!

その後も殺人事件が4つ起きても警察が介入するのは最初に発覚した1件のみという不自然さ!

しかも主人公はなぜかやたらとモテる!(←単なるヒガミかも?)

最後のある登場人物のセリフは名探偵のパラドックスとしてニヤリとしましたが。


No.231 7点 探偵の夏あるいは悪魔の子守唄
岩崎正吾
(2008/04/27 14:10登録)
横溝正史の金田一シリーズの本歌取りの本書。
作中で出てくる色んなガジェットは金田一シリーズを読んだ者にはニヤリとするものばかり・・・らしい。
というのも私はまだこのシリーズ未読なので、雰囲気だけ掴めたような感じ。

当時読んだのはまだ推理小説初心者だったので、作中のトリックが解ったことが非常に嬉しかったのをよく覚えている。
多分今読むと7点もつけないだろう。


No.230 8点 幻の殺意
結城昌治
(2008/04/27 01:41登録)
殺人犯人の容疑者として逮捕された息子の無罪を晴らそうと父親が独力で真相を探る。
終戦20年後という高度経済成長期を舞台にした話で、あの頃にはこういう話がよくあったのだなぁと思われる。

250ページ弱の長編で、淡々と物語は進み、実際すぐに読み終わったが、読後じわじわと感じるものがあった。
ロスマク風家庭の悲劇を扱っているのも味わい深い。

最後の

「そして幸福は、あるいは愛は、無知の上のみ築かれていくのか」

この一文が痛い。


No.229 7点 生ける屍の死
山口雅也
(2008/04/25 23:33登録)
本ミステリで解き明かされる命題は「なぜ死者が甦る世界で、あえて殺人を犯す必然性とは何か?」という非常に難しい問題だ。
そしてその命題を解き明かすための材料として、本作では終始“死”に関する考察が語られる。“死”とは一体何なのか?では“生”とは?「肉体の死」と「精神の死」。“死”についてあらゆる角度から、西洋医学、東洋思想、キリスト教、仏教初め、世界各地の宗教における死生観、はたまた死学的見地から山口氏は“死”について考察の翼を伸ばす。
その他密室殺人、ビデオを利用した殺人犯の追究など、黄金時代の本格ミステリの復活を想起させるガジェットに溢れている。

そしてこれほどの期待値を持って明かされる上の命題に対する答えが、アレッ?って感じだった。
肝心の論理の帰結がこれなのかと期待値が高かっただけに落差も激しかった。

ごく最近読んだのだけど、ちょっと遅きに失したかなぁ。


No.228 5点 東京下町殺人暮色
宮部みゆき
(2008/04/24 23:32登録)
日常の風景にふと差し込む異常な風景といった感じで掴みはOKなんだけど、やっぱりみなさんと一緒で、結局フツーのミステリだったなという感じでした。


No.227 7点 レベル7
宮部みゆき
(2008/04/20 13:20登録)
印象的な題名と、文庫版裏表紙に書かれた紹介文

「レベル7になったら戻れない」

これが読者に先入観を与えてしまいますね。
私もその1人。
予想していた展開とは違ってましたので、読後はちょっとスケールダウンの感が否めません。
でも最後の1行が好きです。
十数年前に読んだ今でも覚えてます。

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