Tetchyさんの登録情報 | |
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平均点:6.73点 | 書評数:1626件 |
No.366 | 6点 | シーズ ザ デイ 鈴木光司 |
(2008/10/23 14:40登録) 17年前の太平洋横断航海で沈んだ船の謎を軸に、親子の絆の回復と自然教育を絡めた作品。 冒険小説の一種として挙げてみた。 限られた登場人物でドラマが繰り広げられ、色んな展開を見せて読ませるのは確かなのだが、いかんせん偶然事が多すぎる。 作者自身、ヨットを所有しており、自然と触れ合っているうちにこういう見えない手に導かれるような不思議な体験をするそうだが、特に最後の手紙の部分でもっともあって欲しくない設定だった時には、昔の少年ジャンプのマンガを読んでいるような陳腐な感じがした。 |
No.365 | 4点 | 恐怖の冥路 コーネル・ウールリッチ |
(2008/10/22 20:28登録) ウールリッチ作品にしてはかなり落ちる作品。 何となく導入部も『幻の女』を思わせるし、なんだか二番煎じのような感じだ。 最初に手に取るウールリッチ作品としてならば、及第点であろうが、それなりに読んできた身ならば、物足りなさと書き流した感が否めない作品だ。 |
No.364 | 9点 | 喪服のランデヴー コーネル・ウールリッチ |
(2008/10/21 20:31登録) 通常ではありえないと思われる導入部も、ウールリッチならばさもありなんと思ってしまうから不思議。 飛行機から投げ落とされたビンに恋人が当って死に、その復讐のため、乗客を一人一人殺していく。 荒唐無稽と感じるが、これが実に面白い。 1つ1つの殺人劇が極上の短編のように書かれ、思わず犯人を応援したくなる。 しかし主人公の名前がジョニー・マーって、洋楽ファンなら思わずニヤリとしてしまいますね。 |
No.363 | 8点 | 夜の闇の中へ コーネル・ウールリッチ |
(2008/10/20 21:17登録) ウールリッチの未完原稿をローレンス・ブロックが後を継いで完成させた本書。 とはいえ、全然両者の文体には違いが見られず、どこからどこまでがウールリッチで、どこからがブロックか、全く解らなかった。 解説では冒頭と結末の方をブロックが補綴し、中間はほとんどウールリッチの手になるものだとのことだったが、私は読書の最中、ブロック自身が、物語のムードを継承しつつ、自身の作家としての矜持も保ちながら書いていると思っていた。違うとなれば、ほとんど区別がつかないわけで、ブロックの練達の筆巧者ぶりに全く以って脱帽である。 プロットとしては最後の一撃については結構驚かされたものの、読み進むにつれ、いささか使い古された手法であったと気付く。しかしそこはブロック。前に散りばめた布石を固め打ちして、設定の弱さを上手くカヴァーしている。 特に冒頭の一文、「はじめに、音楽があった」に呼応する形で終わる、これが非常に巧い!!はじめにある音楽と最後に聞く音楽は全くその意味が異なり、相反するものである。この冒頭文及び結末がブロックの追記によるもので、これによって物語としては一クラス上に行った感がある。 筆を進めるに連れ、ここいらの始まりと終わりのアレンジはやはりブロックの作家としての矜持を覗かせる心憎い演出で、この二つの、云わば物語にとって最も肝心要の部分において最高の仕事をした、それだけでブロックの手腕は評価に値するのである。 |
No.362 | 4点 | 蟲 坂東眞砂子 |
(2008/10/19 13:51登録) これを読んで、「坂東眞砂子って、こんなもんか」と思い、他の諸作に手を出さないのは大きな間違い。 本作はこの作家にとっては不本意な出来でしょう。 坂東作品では無視していい作品。 |
No.361 | 2点 | 黄昏の館 笠井潔 |
(2008/10/18 22:50登録) 私はこれで笠井作品を断念しました。 |
No.360 | 7点 | 恐怖 コーネル・ウールリッチ |
(2008/10/17 20:26登録) 結婚を間際に控えた花婿が一夜の情事から他の女と遊んでしまう。これが彼にとって破局の始まりだった。その後彼女は彼をゆすり続け、とうとう彼は逆上し、首を締めてしまう。そしてそれから見えない警察の魔の手を恐れるようになり、辺鄙な街へ移り住んでは新たに現れる彼を取巻く不信な人物達に彼を捕まえに来た警察の一派だという見えない恐怖の手に絡まれていく。 この恐怖は私にも判る。人は何がしか社会の中で匿名性を求める。それで安心を得ているのだが、一度普通人のレールを外れると実はもうかつてのようには戻れなくなる。その事は今後も心に澱のように溜まり、折に触れ想起されるのだ。 最後のエピローグはウールリッチ特有の皮肉だ。 そう、誰もが何がしかの“恐怖”を抱き、生きているのだ。それに打ち勝つ者もいれば打ちひしがれる者もいる。 それが人生なのだ。 |
No.359 | 5点 | 完全殺人事件 クリストファー・ブッシュ |
(2008/10/16 23:36登録) プロローグをぽけーっとしながら読んでいると、後で足をすくわれるからご注意を! ここに注意しないとこの作品の本当のよさが解らないだろう。 登場人物表に載っていない人物が意外に物語の核になっているのが、ちょっと気になったが。 |
No.358 | 9点 | ポンド氏の逆説 G・K・チェスタトン |
(2008/09/30 20:09登録) いやあ、すごいすごい! 目から鱗の真相が逆説で鮮やかに語られる、“逆説王”チェスタトンの真骨頂ともいうべき短編集だ。 「死刑執行命令の停止を告げる伝令が途中で死んだので、衆人は釈放された」 「二人の男が完全に意見を一致したので、一人がもう一方を殺した」 「赤い鉛筆だったから、あれほど黒々と書けた」 「影法師を一番見誤りやすいのは、それが寸分違わぬ実物の姿をしているときだ」 「のっぽの男ほど、かえって目立たない」 こんな気違いの世迷言のような逆説がチェスタトンにかかると実に合理的に解かれる。 今も手に入るか解らないが、『ブラウン神父の童心』に続く名短編集といえるだろう。 |
No.357 | 7点 | 十三番目の人格―ISOLA 貴志祐介 |
(2008/09/29 21:45登録) このレベルで佳作止まり・・・。 普通なら受賞してもおかしくはないでしょう。 みなさんもおっしゃっているように、貴志氏の文章は非常にそつがなく、クイクイ読み進み、全てがあるべき姿に収斂していく上手さがあります。 しかし裏返して云えば、物語として見た時に、あまりに淡白すぎるという欠点でもあります。 幸いにして私にとってこれが初の貴志作品なので、その後が非常に楽しみですが、主人公が恋に落ちる相手との出逢いがあまりにもベタすぎて、思わず笑ってしまいました。 |
No.356 | 4点 | 詩人と狂人たち G・K・チェスタトン |
(2008/09/28 11:08登録) 詩人ガブリエル・ゲイルが出逢う様々な狂人たちの短編集。 狂人は狂人なりの理論で行動しているという視座が1929年の時点で確立されているのがまず斬新。 しかし、詩人と狂人はオイラの中では2人とも相容れなかった。 あまりに奇抜すぎて、理解に苦しむところ多し。 |
No.355 | 9点 | 木曜の男 G・K・チェスタトン |
(2008/09/28 00:07登録) チェスタトンの数少ない長編。 無政府主義者の集会に潜入する詩人のお話という、なんともチェスタトン趣味ど真ん中の作品だ。 一読して、そのあまりの奇想ぶりと、博覧強記の鹿爪らしい文章に戸惑い、辟易するかもしれない。 しかし二度目に読むと、この奇妙さが甘美な毒となって読書の愉悦をもたらすのだから不思議。 最近光文社の古典文庫で『木曜だった男』の題名で新訳刊行された。つまり21世紀に残すべき名作というわけだ。 光文社の選択眼の高さに賞賛を送りたい。 |
No.354 | 6点 | ブラウン神父の醜聞 G・K・チェスタトン |
(2008/09/26 22:58登録) ブラウン神父シリーズ最後の短編集。 やはり名作のシリーズとは云え、5集目ともなると質は落ちるのは避けられない。 全般的にチェスタトンが好んだと思われる、立場の逆転を要したトリック物が多いが、その書物を手にしたものは神隠しに遭ってしまうという「古書の呪い」やいくつもの死因が考えられる死体を扱った「とけない問題」など、白眉のものもあるから侮れない。 最後まで気の抜けない短編集だ。 |
No.353 | 7点 | ブラウン神父の秘密 G・K・チェスタトン |
(2008/09/25 19:20登録) 本作ではまず冒頭の「ブラウン神父の秘密」においてブラウン神父の推理方法について開陳されているのが興味深い。 それは「自らを犯人の立場に同化させて、犯人ならどうするか?と考えること」とある。 つまりこれは現代の世で行われているプロファイリングそのものなのだ。こういう推理方法を既に1926年の時点において創作しているこのチェスタトンという作家の冴えに素直に驚かされる。 とはいえ、冒頭にも述べたように過去の作品に似た短編が多いのが難点。 「大法律家の鏡」は「通路の人影」の別ヴァージョンのようだし、「顎ひげの二つある男」、「ヴォードリーの失踪」などはチェスタトンが好んで使った○○トリック物。 しかし、「世の中で一番重い罪」のブラウン神父が真相にいたった解釈は、あっと声が出るし、「メルーの赤い月」の人間の立場による思考の特異性なども興味深い。 「マーン城の喪主」に至っては、○○トリックを実に上手く応用した作品で、一見子供だましのようだが、実はこの手の手法は現代の映画や諸作でも未だに使われている。 |
No.352 | 7点 | ブラウン神父の不信 G・K・チェスタトン |
(2008/09/24 20:57登録) 前作から12年も経って発表された第3短編集。 長いブランクからの復活を象徴するかのように「ブラウン神父の復活」で幕を開ける。 全体的に奇抜なトリックが目立つが、理論派のチェスタトンらしからぬ、実現性の浅い物もある。有名な「ムーンクレサントの奇跡」、「翼ある剣」、「ダーナウェイ家の呪い」など。 特に「翼ある剣」のトリックは作者自身もお気に入りなのか、この後再三再四に渡って、同趣向の作品が登場する。 また有名な「犬のおつげ」や「天の矢」も収録されている。 チェスタトン独特のロジックと世界は健在で十分楽しめる。 |
No.351 | 3点 | 殺人現場は雲の上 東野圭吾 |
(2008/09/23 20:17登録) スチュワーデス(今ならキャビン・アテンダントだから、この辺は次回重版時に改訂しないのだろうか)の凸凹コンビという主人公と内容の軽さゆえに数日経ったら忘れてしまいそうなキオスクミステリ。 ライトミステリながらもそつの無さを発揮している短編集だが、しかしやはり今までの東野氏の同傾向の作品に比べるといささか軽い感じがするし、スチュワーデスという職業柄、空港や機内と場所が限定されるせいか、場面のヴァリエーションに乏しく、それがためが総体的に小手先ミステリのような感じが否めない。 |
No.350 | 8点 | ブラウン神父の知恵 G・K・チェスタトン |
(2008/09/21 19:50登録) 1作目の『~童心』が凄すぎて、その後にコレを読むとかなり評価が落ちるのだけど、心を白紙にして読み返すと、実はこの作品も粒揃いだということが解る。 冒頭の「グラス氏の失踪」はほとんどダジャレの世界で、しかもお騒がせ親父の物語と、噴飯物だが、「通路の人影」は現代でも使われるようなトリックだし、「ペンドラゴン一族の滅亡」、「銅鑼の神」、「ブラウン神父のお伽噺」はまさにチェスタトンならではの幻想小説の意匠を借りたロジックが展開される。 呪術的雰囲気、パラドックスがビシバシ冴え渡る短編集だ。 |
No.349 | 10点 | Yの悲劇 エラリイ・クイーン |
(2008/09/20 19:58登録) 21世紀の世になり、この齢までかなりの小説を消化してきた中で、ようやく着手。 それでもなお、面白く読めた。 もう純粋にロジックの畳み掛けに酔わせていただいた。この作品のロジックにはクイーン特有の美しさというよりも、論理を超えた論理という凄味を感じる。 確かに平成の世、21世紀の世において、この犯人像はもはや目新しい物でもなく、驚くべきものでもないだろう。 しかし、本作は単なる誰が殺ったのか?を当てる犯人当てだけに終わらない、そこに至るまでの様々な事件についての論証が物凄い。 未だに「推理小説で凶器といって何を思い浮かべるか」という質問があったときに、「マンドリン」と答える人が複数いるという。それは暗にこの小説で扱われた凶器がその人たちの記憶に鮮明に残っているからなのだが、これは確かにものすごく強烈に記憶に残る。いやむしろ叩き込まれるといった方が正鵠を射ているだろう。小学校で習う掛け算の九九や三角形の面積の出し方、円周率が3.14であることと同じくらい、死ぬまで残る記憶になるのではないか。それほど、このロジックは凄い。 そして私はこれは未完の傑作だと考える。なぜなら冒頭のヨーク・ハッター氏の真相が明かされていないからだ。 ヨーク・ハッター氏は果たして自殺だったのか、それとも? なぜヨークは失踪したのか? まだ『Yの悲劇』は終わらない。 |
No.348 | 10点 | ブラウン神父の童心 G・K・チェスタトン |
(2008/09/19 21:24登録) 私は『シャーロック・ホームズの冒険』よりもこちらを断然推す。 ミステリとして今なお燦然と煌めく至高の短編集。 どれも大胆な発想と奇想、そして知的な逆説に満ちたミステリとなっている。 その中でも特に「奇妙な足音」、「見えない男」、「折れた剣」は有名かつ大傑作であり、その影響は今なおミステリシーンに君臨している。 「神の鉄槌」、「アポロの眼」は今読むとプロパビリティや技術の発達で苦笑を禁じえない結末だが、それもご愛嬌。 一番チェスタトンらしさが醸し出されているのは「イズレイル・ガウの誉れ」に見る狂気にも似た真相だろう。 最初に手に取る人は「青い十字架」の読みにくさと子供だましのような真相に戸惑いを覚え、本を再び手に取るのを躊躇うかもしれない。 しかし続く「秘密の庭」で驚かされ、その次の「奇妙な足音」でチェスタトン・マジックにまんまと嵌るだろう。 そこからはもう止められないこと請合おう。 |
No.347 | 8点 | 奇商クラブ G・K・チェスタトン |
(2008/09/18 23:51登録) 奇商クラブとは、未だかつて誰もがやっていない奇妙な商売で生計を立てている人物のみが入会できるクラブ。 裁判中に突然発狂し、それが基で引退に追い込まれた元判事バジル・グラントという狂人を主人公にしているのが実にチェスタトンらしい。 なんとブラウン神父シリーズよりこちらの方が先に書かれていた。 収録された奇商クラブ物6編のうち、「家屋周旋業者の珍種目」と「チャッド教授の奇行」が秀逸か。 前者はもうほとんどバカミスだが、こういうことを考える作者が逆に好きだ。 後者は真相が明かされた時に戦慄が走った。あまりにすごすぎ。本当の狂人の話だ。 で、実は本書には別にノンシリーズの「背信の塔」と「驕りの樹」という2編がさらに収められていて、これが共に白眉の傑作。 「背信の塔」はなんとも幻想的な1編で、ディキンスンが大いにこの作者から影響を受けているのが解る1編だ。 そして「驕りの樹」もこの作者が博覧強記振りの筆致で描くからこそ、こういう設定が引き立つのであろう。 両者ともなんともいえない奇妙な味わいがある。 今も手に入るか不明だが、もし絶版ならば、非常に勿体無い短編集だ。 |