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ミステリの祭典

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テツローさんの登録情報
平均点:7.46点 書評数:108件

プロフィール| 書評

No.68 7点 白い家の殺人
歌野晶午
(2002/06/12 00:34登録)
 シリーズ1作目に続き、探偵役に物言いがある。時々、天上の神の位置で世界を構築しているはずの作者が、作品世界内へ降臨して、探偵役に憑依し、主義主張をがなりたてている、みたいな(?)…。

 舞台設定はすごく好きです。雪の別荘に怪しい一族、こう来ただけで、気分的にワクワクしてしまう。また、第一の殺人の現場状況・その異常性も、その解決と併せてクリーンヒットだったと思う。
 ちなみに、第二の事件はまあまあ。第三の事件は、無理っぽいと感じる方が勝った。
 ワトソン役、頓珍漢なことをしゃべる為のキャラとは言え、少々うざい、かも…


No.67 5点 長い家の殺人
歌野晶午
(2002/06/12 00:12登録)
 この信濃譲二という探偵役が、最初どうしても好きになれなかった。事件を解決した後に一席打つところで、何と言うか「それが、全てを見通す神のごとき名探偵の言うことか!? 何と青臭い!!」という風に感じてしまって。 もちろん、こういう考えの探偵キャラがいたって良いのだが、このキャラ、この作品に関しては、天上に位置すべき作者の意志が入り込みすぎてる気がして、恐らく作者と同じ価値観では無い僕にとっては、素直にうなずけず、反発してしまった。

 トリックについては、確かに無茶苦茶分かり易い。(ちなみにクレイトン・ロースンの「天外消失」を連想したが、どうだろ?)もっとも、それほど否定もしない。それは、島田荘司先生の薦(名文ですよね)にもあるように、「僕にも、彼がこの小説でやろうとしているトリックが解った。しかしそれは(中略)まさしく好みの範疇だった」ということ。こういうトリックを真正面から描こうとする感性、言ってしまえば稚気のようなものだが、それは、ミステリに失って欲しくないものだと、そう考えるから。


No.66 10点 空飛ぶ馬
北村薫
(2002/06/06 01:06登録)
 下の方々の書き込みで「私」に対する評が厳しい事に、少々驚いた。いや、「砂糖合戦」のあの犯人(?)と比べてごらんなさい。悪魔に対する天使に見えません?(笑)それが無くとも、文学嗜好があって、寄席に自分で通える女の子なぞ、僕にとってはツボなのです。…どうでもいいことですけどね。

 ミステリとしては「織部の霊」の解決がまず見事だと思った。不可能興味の謎を解き明かすロジックが、一番上手くはまっていた。「砂糖合戦」に隠れて、あまり評価の対象になってないのが惜しい。もちろん「砂糖合戦」も良いし、収録作全て秀逸だと思う。
 何より、最初読んだ時は、普段読んでいるミステリとあまりに違う筆運び、情景描写に、素直に感動した。バックグラウンドに古典文学作品(落語の演目も含む)のペダントリーを散りばめているところが、心地良い感じがする。読んでもいない作品が多いが、それは関係無く、静けさを醸し出しているように感じるのが良いと思う。
 「日常の謎ミステリ」というジャンルで後に続く人々もたくさん輩出されているが、この作品集が今もやはりトップだろうと思う。


No.65 7点 水に眠る
北村薫
(2002/06/04 23:02登録)
 ミステリではないですよね。恋愛物、及び、普通小説の短編集。普通小説は、北杜夫を連想した。(北杜夫を読み込んでいる訳ではないが)
 恋愛物では「植物採集」が一番良かったかな。からっとした性格の主人公が、ラスト一行で切ない主人公になる、ここまでの持って行き方が上手いなと思う。この主人公、いいなあ(吐息・笑) 細かい話題だが、僕も高野山に行った時、「白蟻よ、安らかに眠れ」という墓碑を見たことあり、知った所が作中に出て何かうれしくなった。
 他に印象に残っているのは、「水に眠る」都会的雰囲気(バーにウイスキー、カクテル)が良い。
 「くらげ」僕らのいる世界から少し逸脱した現実、しかし、いつそうなってもおかしくないと考えさせる展開が怖い。
 「矢が三つ」北村先生、キャピキャピ(死語)女子中学生の一人称は、無理があるんじゃ…。これもまた、少し逸脱した現実で、何となく居心地悪い話。ただ、逆の立場ならどう思っただろう? 逆の立場の物語なら、女の人はどう読むだろう?
 「はるか」良いヒロインですね。店主の方が主人公だから、はるかが徹頭徹尾客観視されてるのが良かったのかもしれない。はるかちゃんの描かれていない部分に、僕の理想などが入り込んでしまうのだろう。はるかの心情というのは、果たしてどんなものだったろう? まるで、小・中学校の時の国語の授業のようだ。
 何となれば、北村氏はかつて国語教師であったのだ。


No.64 6点 正月十一日、鏡殺し
歌野晶午
(2002/06/04 00:57登録)
 「盗聴」「逃亡者 大河内清秀」の2作は、まだ本格っぽく読めた。最初に謎があって、その解答を主人公達が推理する、そのオーソドックスな形で、まとまりも良い。後、「盗聴」のタイトルは「カチカチドリ飛んだ」にした方が読者の気を惹くだろうに、と最初考えたのだが、よく考えたら「どんどん橋落ちた」のパクリでしたね。
 その他の作品は、どちらかと言えばサイコ物寄りに思えて、僕にとっては重い作品群だった。
 「プラットホームのカオス」少年法や体罰反対の風潮を利用するだけ利用して、犯罪を権利として振舞う少年。本当に嫌な風潮だ。
 「猫部屋の亡者」あー、嫌な女。
 「美神崩壊」あー、怖い女。
 表題作、あー、遊美ちゃん、いい子だったのに。
 読後感は一言、ブラックです。


No.63 7点 ブラジル蝶の謎
有栖川有栖
(2002/06/04 00:11登録)
 「蝶々がはばたく」が好きだ。意図せぬ密室であり、力技であるのだが、このだまされ方は心地良い。バタフライ効果の話題を振っているのも、効果的だと思った。ラストの締めも、奇を衒い過ぎてるかもしれんが、良い方向へ余韻の残る締めだと思う。
 表題作、蝶をモチーフにして語られる犯人指摘のロジックは、小技だとは思うが、納得いくものだった。ラスト、逆切れした犯人が火村を糾弾するシーン、ミステリではよくあることだが、火村の反撃はこのシリーズ独特のものだろう。決して負けない火村の描写が良い。
 「彼女か彼か」まあ、単純と言えば単純。蘭ちゃんがうざいと言えばうざい。あじのあるキャラではある。
 「人喰いの滝」火村による事情聴取の際の問答、ダイイング・メッセージの検討、「夜明け前に新しい長靴を下ろすのは何故」という命題の提示、等、これらミステリの約束事(いわゆるコードと言うやつ?)の羅列は面白く感じたが、解決が無理っぽいような気がした。
 全体的には佳作だと思う。読み易いのも良い。


No.62 6点 記録された殺人
岡嶋二人
(2002/06/03 22:13登録)
 表題作は良い。関係者の証言と刑事二人の会話文のみで構成されたつくりが、テンポ良く読める。これは、作中で小道具に使われている微速度撮影フィルムをモチーフにしたものなのかな? 犯人像も、自己中心で虚言癖もありそうな憎ったらしいだけの、全然同情を寄せる必要も無いところが、スパッと割り切れて良いと思う。
 他の収録作は、凡作かなあ、と思う。
「バッド・チューニング」主人公が必死でマネジメントしてる歌手グループ、「スリー・パーセント」という名ではやはりいかんだろう。
「迷い道」完全犯罪の崩壊を描いたものだが、決め手となる証拠は、もう少し「あぁ、あれがそうだったか」と思わず膝を打つような物でないと、まとまり悪いだけ。
「密室の抜け穴」事件が起こる前から、「あぁ、こいつが何かするな」と、犯人の見当ついてしまった。密室そのものは割とややこしくて、ページ数があれば良い物になったかも。


No.61 6点 ナイフが町に降ってくる
西澤保彦
(2002/05/28 00:22登録)
 時間牢の設定はおもしろい。また、次々にナイフの刺さった人が見つかる辺りも、ぞくぞくするような不安感と期待感で読み進められる。
 ただ、謎解きがちょっといただけないかな、と思う。仮説を立てては崩していく辺りの展開も、ミスリードの一部で正解では無いと言え、無理が多かった。最後の答えの一つ手前、主人公が仮に納得する説も、納得するほどのものか?と思った。
 後、ヒロインが魅力的じゃないのも、問題な気がする。


No.60 9点 数奇にして模型
森博嗣
(2002/05/26 03:00登録)
 前半、二つの殺人現場に残された証拠・状況から、犀川・喜多・大御坊・萌絵が、また、三浦・鵜飼といった刑事達が、「一体何が起こったのか」を討議・ディスカッションする辺りがおもしろかたと思う。比較した訳ではないが、こんなに3章分だか4章分だかをかけて推理し合うというのは、このシリーズでは初めてではなかったか。西澤保彦「麦酒の家」、ケメルマン「九マイル」に通じるおもしろさなのではないかと… まあ、厳密には、討議だけやってる訳ではなかったが、もともと森先生が「麦酒」や「九マイル」を念頭に置いてた訳でもないのだから、例として出すのが違うのだが、僕の感想として、そう感じたということで。
 ラストの大立ち回り、犀川の機転は、見事と思った。解決は、読者への挑戦状を入れるのは、絶対無理だろうけど。
 後、印象に残ったのが、第2章で描かれた萌絵の心情、「新しい冒険が始まる予感」という辺り。リアリズム信奉者なら、本当に「不謹慎」と言うかもしれんが、我ら本格マニアであれば、充分共感出来る感情じゃないかと思う。


No.59 10点 十角館の殺人
綾辻行人
(2002/05/22 23:08登録)
 10年前入院中の父に「退屈なので本を持ってきてくれ」と頼まれ、僕の蔵書の中から色々持って行った。トラベルミステリや社会派はよく読んだが、ある時「十角館」を持って行ったら、次の時「読んでないがもういい」と返された。何故かと問うと「ミッシツは読めんなあ」とのこと。密室なぞ出てこんが…と思わずともピンときた。父は本格ミステリのことを「ミッシツ」と呼んでいる訳だ。やはり清張を経た人はそうなるんかなあ? 父はその1年後没したが、最後に変な思い出が出来てしまった。

 僕にとっては、充分に惹き込まれる良い作品だった。最後、探偵役が謎解きをしないのが引っ掛かることは引っ掛かるが、まあ許そうという気分になる。登場人物に語らせてる本格ミステリへの想いやスタンスが同感でき、クローズドサークルの舞台が魅力的で、そしてあの一行で見事に引っ繰り返された。本当に本格復興(ルネサンス)を謳い上げるのに相応しい作品だと思う。

 後、実は、下の方の書き込みで言われている「島の内外を見られる読者にはトリックだが、島にいる人間に対してはトリックでも何でもない」という意見、目から鱗だった。全然気付かんかった。


No.58 10点 99%の誘拐
岡嶋二人
(2002/05/16 00:42登録)
 誘拐テーマのミステリというのは、あまり読んだことは無いが、これは良かった。二件の誘拐が描かれ、二件共にやたらややこしいからくりと、スピーディーな展開にあふれている。また、最初から犯人が分かっている倒叙タイプなのだが、その犯人の演技や捜査側との遣り取りもあじがある。
 ただ、最後の第四章は余計かなとも思う。ダイヤが消えた謎の答えはともかく、その謎解きを二人で語り合いながらするというのが、最後で気が抜けたようになってしまったと感じた。それに、馬場刑事の哀愁がつらい。
 もっともそれはおまけみたいなもので、全体的には完成度は非常に高い。再読率も高いです。


No.57 6点 宇宙捜査艦「ギガンテス」
二階堂黎人
(2002/05/15 00:55登録)
 「新スタートレック」やアシモフの諸作が念頭にあったとのことだが(後書き)、僕自身「スタトレ」は全然見たことがないので、どのへんがパロディなのやらオマージュなのやらは、分からない。そういう観点からの感想です。ミステリ面では少々ネタバレ有り。

 気になった点は、まず名前。リコッロブにラブカにビスナ…「ドラゴンボール」かいな!? そしてヒロインの位置にいるミャルルが猫型宇宙人のくせに、語尾が「〜するにゃ」とか(笑)じゃなく、「ゲェゥ」「ガルルゥ」「ガオオゥ」…あぁっ、萌えにくいっ(笑)!!
 ミステリ面のトリックの一つが、斎藤肇の「思いがけないアンコール」でバカネタとして捨てられていたものだが(作者がそれを知って書いたのかどうかは知らない)、このSF世界では、違和感無く溶け込めていたと思う。実際、こういう世界以外では使えまい。
 それは良いのだが、冒頭の機会生命体ガルグーダとの戦闘エピソードが、いかにも付け足しという感じで全体から浮いているように思った。ガルグーダの話は世界設定の説明に必要なのは分かるから、全体をバトルとミステリの二部に分けるなりして、もう少し頁数をとって、しっかりバトルして欲しい。もっとも、続編ではミステリ色の方をもっと濃くして欲しいとも思うが。


No.56 9点 天使の耳
東野圭吾
(2002/05/07 23:19登録)
 ミステリの面で言えば、ほとんどの話が、偽りの証拠品や証言がまかり通ってしまう展開になっている。全ての真実が白日の元に晒されるという話ではなかった。
 こういう欺瞞を仕掛けた側が勝つスタイルのミステリは、そもそもは好みではないのですが、この短編集に限っては例外的に認められる。それは、偽証・欺瞞を仕掛けた側が、押し並べて交通被害者で、信号無視、路上駐車、ポイ捨て、車道横断等、確実に他人に迷惑をかけているのに罪に問われにくい側を罠にかけるという、ほとんどの話がこれで統一されているからである。(何か低次元で喜んでますが)
 しかし、「天使の耳」は、その欺瞞が非常に凝っていて良かったです。BGMが「リフレインが叫んでる」なところも良し。


No.55 7点 クリスマス・イヴ
岡嶋二人
(2002/05/07 22:29登録)
 本気で怖い話だった。(「殺人鬼」は、まだ読んでない)ミステリではなくホラーです。
 この犯人、要するに認めて欲しかった訳か? 女性を強姦しようとする時は、その相手に自分の性欲を? 強姦現場を目撃した人間には、いい女がいたら自分の性欲を満たそうとするのは当然のことだということを? 肩をたたきあって、一緒にレイプなりすることを? いや、作中にこのような心理描写は一切無い。ただ、何かこの犯人の行動に理由を付けんと、気色悪くて。これらの理由とて、正気の沙汰ではないが。
 読み始めれば、話の展開が気になって気になって、一気に読み進められます。


No.54 7点 怪しい人びと
東野圭吾
(2002/05/07 00:16登録)
 「灯台にて」何と経験談ですか。怖いですねえ(笑)どうりで、この短編集の中でも一番サスペンスフルだと思った。
 「寝ていた女」のポイントは「俺はなぜか全身の毛が逆立つのを感じた」の所かな。駄目男がテーマだと、ここで堕ちてゆく展開になるはずだが、そうならなくて良かった。嫌悪感は残るが。
 「結婚報告」主人公が自力で解決できなかったのが惜しい。
 「コスタリカの雨は冷たい」スピーディで面白かった。ラストの意味がよく分からなかったが、ほのぼのしてるという感想でいいのかな?
 「もう一度コールしてくれ」青春の影というものか。ただ少々単純な展開だった。思い切って犯罪を無くして、野球の話に絞った方が、まとまった話になったかも。
 一日で読めてしまった、全体的に軽めの短編集で、評価は良い方である。


No.53 7点 犯人のいない殺人の夜
東野圭吾
(2002/05/06 23:21登録)
 表題作、叙述トリックの良品。だが、偽名を使う必要はなかったんじゃないかな?ちょっとそこがひっかかった。
 「小さな故意の物語」動機面で、西澤保彦氏の「死者は黄泉が得る」を連想した。でもこっちのは、まだ切ないと感じる方が勝っている。やるせないなと思う。
 内容的には上記2作が良かった。他、2,3挙げると、
 「踊り子」男二人のやりとり、気持ちはわかるが、うざったいは、じれったいは…
 「エンドレス・ナイト」商売人の意地というと、やはり関西人になるんですかね?まあ確かに「これで設けたる」というのは関西人のほうがしっくりくるかな…
 「白い凶器」狂いの描写はパターンかな?動機もこれは分かり易かった。


No.52 8点 名探偵水乃サトルの大冒険
二階堂黎人
(2002/05/05 00:50登録)
 話を重ねるごとに、生活人として段々駄目になってくような気がするな、水乃サトル。

 「ビールの家の冒険」と「ヘルマフロディトス」は、缶ビールの証言や残された日記という手がかりの矛盾を突いて真相を看破する。「『本陣殺人事件』の殺人」と「空より来たる怪物」は、機械的トリックの解明。前者の方が好みですが、後者のトリックも短編ということでうまくまとまっていたと思う。「空より〜」のトリック、解説でバカミスと言われていたが、僕はハタと膝を打った、良い方のバカミスだと感じました。

 後、どうでもいいことではあるが、「本陣〜」に出てきた奇譚社という出版社、解説では京極夏彦の「妖怪」シリーズが挙がっていたが、元は綾辻行人の「迷路館」のネタだろう。ただ、漢字が違う〜。(稀譚社が正解)わざと変えたのか間違えたのか…、マニア的にはそこは合わせて欲しかった。


No.51 9点 嘘つきパズル
黒田研二
(2002/05/03 01:30登録)
作中に出てくる暗号というかダイイングメッセージというか、謎の文言の解決は、無茶・無理だと思ったのですが、それはどっちでもいい。
 一読、西澤保彦のSFミステリ諸作群を思い浮かべた。人外の魔物がかけた呪いで、作品内のルール設定がなされ、そのルール内で、見事に本格物を成立させている。また、キャラの描写やセリフ回しも良い。ギャグがすべってるのかもしれんが、雰囲気で読み流せるし、ラストがベタ甘だが、方向性は許せる。想像以上に良い作品でした。
 手に取ろうかどうしようか迷ってる人に一言、「表紙で逃げるなよ(笑)」


No.50 7点 歴史街道殺人事件
芦辺拓
(2002/04/25 23:48登録)
 被害者の身体を道具として使って、密室なりアリバイなり、トリックを作り上げる。古典で言えば「チャイナ橙」、「妖魔の森の家」もそうかな。それらの作では、被害者はミステリ成立のため本当に単なる道具として扱われ、探偵も犯人を逮捕はするが、被害者の受けた扱いに対し何かを思う描写は無い(と思う)。我々読者も、特に本格マニアなどは、その探偵に違和感無くシンクロしている(と思う、憶測ではあるが)。
 本作では被害者の身体を道具として使ったアリバイトリックが描かれているが、その点について森江春策に「最大の罪悪」「陵辱」「おぞましい」と言わせている。実際、おぞましいトリック・犯人像ではある。ただ、前記のように、探偵にそれを言わせるのって、珍しい気がして。良し悪しを言うのでも無いけど、そこが最後気になった。

 この「タイトル・展開ともありがちの旅情トラベルミステリだが、中身は新本格ばりの奇想トリックミステリ」シリーズ(笑)、第二弾として「三都物語殺人事件」が出ると予告されてた記憶があるが、まだかな? 記憶違い、ってこたないと思うが。


No.49 9点 殺人喜劇の13人
芦辺拓
(2002/04/25 01:35登録)
 読んでる最中に、「りら荘事件」(鮎川哲也)のようだと、ふと思った。そしたら、ほんとに「りら荘」だった。(後書き参照)
 ヴァン・ダイン「誘拐殺人事件」の作中時系列とか、そういったマニアックなことは分からなくても良いでしょう。それらはあくまで、舞台装置の一つと認識できる。一つの建物内での大学サークル内連続殺人という、この設定・雰囲気・キャラ達を楽しめれば文句は無かろうと思うのです。僕は充分楽しめました。
 ラストの森江春策宛てのメッセージは、残念ながら意味不明でした。

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