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平均点:5.92点 | 書評数:102件 |
No.22 | 7点 | ベルリンは晴れているか 深緑野分 |
(2022/07/01 14:12登録) ドイツ少女の見た世界の残酷さ、赤軍兵に蹂躙される祖国。連合軍も決して味方ではない。戦中はナチスに両親や大事な家族を奪われ、ただ生きるために必死に駆け抜けて、やっと戦争が終わったと思っても、まだ誰にも救いは訪れない。 あの時代に生まれ、あの国に生まれ、どう生きるのが正解だったのか、何が正義で何が悪なのか、簡単に出せない問いを突き付けられる。 ものすごく凄惨で重いテーマなのに、エーリヒを訪ねるカフカとの旅はユーモラスだし、主人公アウグステをはじめ登場人物が一人一人生き生きとして悪役ですら魅力的。読後感もなぜだかすがすがしい。 |
No.21 | 5点 | 教団X 中村文則 |
(2022/07/01 14:01登録) 絶望を描くことでしか描けない希望、悪を描くことでしか描けない善が、この物語には描かれている。作者の無垢なほど純真な想いが創り出した生命の物語のように思えた。 読んだ誰もが好感を持つというタイプの作品ではないが、読んだ者すべてに強烈な印象を残す過激で大胆な作品であることは間違いない。既存の枠組みから外れようとする強い意志のようなものを感じる。 |
No.20 | 6点 | 粘膜蜥蜴 飴村行 |
(2022/07/01 13:53登録) 舞台は第二次世界大戦前夜の日本。物語は、町に一つしかない病院の院長にして、莫大な資産を武器に軍や中央の政治家との間に太いパイプを持つ絶対的権力者・月ノ森大蔵の一人息子・雪麻呂が同級生の真樹夫と大吉を自宅に連れ帰ってくる場面から幕をあける。 気持ち悪い巨大生物が現れるはわ、爬虫人の秘密が明かされ、それが見事に第一章の雪麻呂たちの物語につながっていくわ、読み応え満点の秘境小説にして冒険小説になっている。惜しむらくは、ラスト。せっかくここまで常軌を逸した展開だったのに、因果応報という予定調和に着地してしまったところ。 |
No.19 | 5点 | 雨利終活写真館 芦沢央 |
(2022/07/01 13:40登録) 遺影を専門にした写真館を舞台にした連作ミステリ。 どの話も、トリックの真相に向かって書かれているのではなく、その背後で揺れ動いている人の心情を繊細に描き出しているのが印象的。 人間ドラマとして胸に迫ってくるのは、作者のそうした心遣いがあるからでしょう。やがて明らかになるのは写真が撮られた際の状況だけでなく、そこに写った人々の深い思いといえる。 作者にしては珍しく、ハートウォーミングなストーリー。 |
No.18 | 6点 | 重力ピエロ 伊坂幸太郎 |
(2022/07/01 13:30登録) 舞台は連続放火事件が起きている仙台市。街の落書き消しを仕事にしている泉水の弟・春は、兄が勤める遺伝子情報会社のビルが放火に被害に遭うことを予測。放火現場に残された落書きが、暗号になっているのではと推理する。 DNA遺伝子の仕組みや、フェルマーの最終定理、ガンジーの思想、兄弟が幼かったころに家族で見に行ったサーカスでのエピソードなどを、さりげなく本筋にメタファーとして織り込ませる手際といい、小説としてのうまさも実感できる。 |
No.17 | 5点 | 世界は密室でできている。 舞城王太郎 |
(2022/07/01 13:19登録) 奈津川家シリーズにも顔を出す探偵メンバーの十二歳から十九歳までを描いた青春ミステリ。 「密室」だけど、もう一つのテーマはタイトルが示す通り、「世界」であって密室で出来上がっているこの窮屈な世界システムから決死の覚悟で逃れようとする子供の真摯な闘いを、この小説は描かんとしている。 それを記述する文体にはリズムがあり、スピードがあり、個性がある。 |
No.16 | 9点 | 虚無への供物 中井英夫 |
(2021/12/31 11:17登録) 過去のミステリの名作が次から次へと引用されるので、古典的名作を読んでいないと、面白さは半減するどころか、登場人物が話している内容が理解できないだろう。また、これまでの推理小説の壮大なパロディとも考えられ、その意味でもアンチ・ミステリである。 登場人物の名前からして嘘っぽく、いかにも「虚構のお話です」という体裁だが、実はそこに作者の仕掛けがあり、メタ・ミステリの元祖と呼ばれる所以となっている。「現実と虚構」をテーマにした純文学としても読める。大長編だが、全編のほとんどが会話なので読みやすい。 |
No.15 | 4点 | ドグラ・マグラ 夢野久作 |
(2021/12/31 11:06登録) 精神病院を舞台にしている。事件としては、解放治療を主張し、病院を解放治療の場とした正木博士の、胎児の時に体験した先祖が起こした歴史的な事件を呼び起こして、同じシチュエーションで人を殺せるというものである。 探偵小説というより、不可思議な話である。精神医学、心理学などの理論が煩わしいくらい展開する。 |
No.14 | 6点 | 遠海事件: 佐藤誠はなぜ首を切断したのか? 詠坂雄二 |
(2021/10/18 15:17登録) とある事件の犯人と関係者の日常を、心理描写も交えて淡々と描くこの小説は最後の謎が解き明かされる直前まで、まるで犯罪実話のような展開。 ところが「なぜ大量殺人鬼である犯人がこの事件に限って被害者の首を切っただけなのか」という謎の解明になったとたん、本格ミステリ的カタルシスが訪れる。 確かに意表を突く真相だが、これを効果的にいかすだけならば、もっと別の書き方にしてもらいたかった。 |
No.13 | 9点 | 女王国の城 有栖川有栖 |
(2021/10/18 15:08登録) 姿を見せない名探偵、江上二郎を探しに宗教団体の聖地「神倉」を訪れた後輩たちが殺人事件に遭遇し、囚われの身となるのが発端。 入れない、出られない不思議な城で起きる連続殺人の呈示と謎解きの鮮やかさ。 城がなぜ存在しなければならなかったかという理由、犯人の指摘の論理が明快なだけでなく、バイクによるアクションシーンもあり飽きさせない。濃密な世界を堪能させてもらった。 |
No.12 | 7点 | 試行錯誤 アントニイ・バークリー |
(2021/08/06 16:46登録) 心臓病で余命幾許ない男が、社会に害をなす人間を殺害すべく奔走し、挙句は無実の男を救うために自分を有罪にしようと裁判を起こすという破天荒な物語。 全編ブラックユーモアに満たされているのに、後味はやたらと良いという不思議な作品。 |
No.11 | 5点 | 沼地の記憶 トマス・H・クック |
(2021/08/06 16:35登録) 過去と現在を曖昧にするような描写が顕著。回想から現実にさりげなくて滑り込ませている。かなり読みづらい。 モザイクのように描いて、情報を小出しにして、最後に一つの絵を見せるという手法は美しいし、本格の手法ではあるのだが… |
No.10 | 7点 | シンプル・プラン スコット・B・スミス |
(2021/08/06 16:25登録) プロットは単純で意外性や謎解きの楽しみは薄いが、オハイオ州北部の片田舎で平凡に暮らす新婚の男が、ちょっとしたきっかけから、次から次へと自分の意思とは別に深みにはまっていく過程を怖いほどに見事に描いている。 小説の中の物語が私たちの日常生活でも起こり得るのではないかという臨場感、恐怖感がすごい。 |
No.9 | 7点 | ホワイト・ジャズ ジェイムズ・エルロイ |
(2021/07/22 14:33登録) 主人公の悪徳刑事クラインの一人称を通して描かれる。異常に短く、記号で切り刻まれた電文のような文体によって、より物語はスピードを増し、四部作全体を通して、物語の水面下で進んできた最大の陰謀へと突き進む。 四部作のラストを飾るにふさわしいカタルシスを味わえる作品。 |
No.8 | 8点 | 第二の銃声 アントニイ・バークリー |
(2021/07/22 14:24登録) 殺人そのものは単純なもので、入り組んだトリックなどとも無縁だが、丁寧にこしらえた設定ゆえに、前提が一つ変わるだけで推理も大幅な修正を強いられる。そのどんでん返しにも似たダイナミックな方向転換が読みどころ。結末は予想をはるかに超えてくる。 |
No.7 | 8点 | 毒入りチョコレート事件 アントニイ・バークリー |
(2021/07/22 14:15登録) 一つの事件について六人の探偵役が六つの推理を示すという趣向が絶妙で、日本でも多くの追随作品が生まれた。 その魅力とは、仮説構築とその崩壊が繰り返される快感だろう。難解なパズルに挑む時の思考、ある種の悦楽。後のブランドやデクスターの作品にも見られる、本格の醍醐味の一端を明示した記念碑的作品。 |
No.6 | 8点 | 満願 米澤穂信 |
(2021/06/29 17:31登録) 人の願望が、謎を呼ぶ。人間の醜さ、愚かさが怖いほど迫ってくる。作者らしいほろ苦さも味わえる。 |
No.5 | 7点 | 王とサーカス 米澤穂信 |
(2021/06/29 17:23登録) 正しさとは何か。誰も傷つけず、傷つかず幸せになることは出来るのか。幸せの裏に必ずしも悪がないとは言い切れない。深く考えさせられた一冊。 |
No.4 | 6点 | アイネクライネナハトムジーク 伊坂幸太郎 |
(2021/06/29 17:13登録) 登場人物が皆、現在、過去、未来のどこかでつながっている。悲しい話や別れもあるが、自分の価値観や運命を見つめ直し、幸せを感じることができる心地よい読後感。 |
No.3 | 7点 | 新参者 東野圭吾 |
(2021/06/14 16:19登録) 迷路の出口を巡るドアを開き続けるように、事件の真相を探る加賀刑事。しかし、いくら開いても見えないものがあり、それが下町ならではの人情。江戸情緒が残る日本橋を舞台にしたことには大きな意味があるのでしょう。広い世代に好まれるミステリだと思う。 |