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ミステリの祭典

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僕が殺した人と僕を殺した人

作家 東山彰良
出版日2017年05月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 ʖˋ ၊၂ ਡ
(2022/07/19 15:18登録)
二〇一五年冬、米国で連続殺人鬼「サックマン」が逮捕され、弁護士の「わたし」は刑務所に会いに行く。台湾から米国に移住したわたしは、三〇年前に台湾で殺人鬼と出会っていた。一九八四年夏、台湾の中学生の「ぼく」は牛肉麵屋の息子のアガンと弟のダーダー、正義感の強いジェイたちと友情を育み、ある犯罪計画を立てる。
現代と過去のパートを並行させて、殺人鬼が誰であるかを中盤以降で明らかにするが、フーダニットの興味で読むと肩透かしを食らうだろう。またホワイダニットの興趣もない。あるのは事実ではなく本質をめぐる言説で、「人間はいつだってその誰かの想いによってつくられる」(ジャック・カラン)を引用して、人物たちが背負う罪と想いを具体的に明らかにしていく。
文章は詩的で、時に象徴的。重くはなく、むしろ軽やかにリズムを刻み、直情的で愚かな行為に満ちた青春の日々を生き生きと捉え、自分にもこれに似た想いがあったと、振り返ることになる。触れれば痛みを感じるような記憶の棘、つまり罪や後悔の念が改めて喚起され、それが誰かに影響を与えたかもしれないと思い至る。
本書はミステリ的構成を逆手にとって、謎は解かれるよりも解かれないほうがはるかに輝くことを、青春小説の文脈で十二分に示している。

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