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ミステリの祭典

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◇・・さんの登録情報
平均点:6.03点 書評数:193件

プロフィール| 書評

No.33 7点 明日に賭ける
ウィリアム・P・マッギヴァーン
(2020/04/25 17:11登録)
都築道夫が「本篇で探偵小説の限界にきてしまったという気がする。これ以上のものを書かなければならないとすると、探偵小説にならなくなるのではないか」と絶賛した名作。
銀行襲撃に失敗した除隊兵の白人と賭博師の黒人が、逃走する途上で抱く憎悪の感情と友情の芽生えが、二重の意味で胸を打つ。しかし、これは新訳でないと現在の出版は許されないかも。


No.32 6点 赤毛のレドメイン家
イーデン・フィルポッツ
(2020/04/19 20:37登録)
江戸川乱歩が、読むたびに印象が変わる万華鏡のような作品だと言い、最も評価した作品で、ある一族を襲う悲劇の物語。単純に見えた事件が二転三転し、意外な結末を迎える。
特に冒頭の径で女と会う場面。当たり前だけど、初読の乱歩が言った万華鏡という言葉は、印象が変わるということも言っているんだけど、全編に満ちる色彩とかのイメージが素晴らしいことを指して言っているんでしょう。
フェアプレイという意味で言うと、今だと御法度かなというような記述、無理めのトリックもあるけれど、それを割り引いても推理小説の楽しさに満ち満ちている。


No.31 8点 鷲は舞い降りた
ジャック・ヒギンズ
(2020/04/18 17:07登録)
大英帝国からの祖国解放のために協力するアイルランド共和軍のデヴリンと、勇敢で名誉を重んじるシュタイナ中佐はそれぞれ魅力的で、戦争というものの複雑さをしみじみ感じさせる。
著者が調査したルポのスタイルを取っているのもリアル感を与え、歴史、サスペンス、アクションと楽しみどころが多い。軍事スリラーとして最高傑作のひとつと言えよう。


No.30 7点 郵便配達は二度ベルを鳴らす
ジェームス・ケイン
(2020/04/12 19:33登録)
ミステリの枠にとどまらず、暴力と性を主題にしたことで、本作品はアメリカ文学全体にも大きな影響を与えた。
文体においても、浮浪者である主人公の一人称、つまり、日常の言葉で綴られるという画期的なスタイルになっている。今日では珍しくもないが、当時は衝撃的だった。このような文学史上の価値は別にしても、ミステリとしても優れている。
二百頁足らずの中編だが、いわゆる倒叙形式で、完全犯罪が実行され、それが意外な形で破綻していくまでが描かれ楽しめる。


No.29 8点 ナイン・テイラーズ
ドロシー・L・セイヤーズ
(2020/04/12 19:29登録)
墓に埋葬された死体の上に、新たな死体が。教会の鐘の音を背景に、寒村で起きる怪事件。
五百頁近い大作だが、最初の百頁過ぎまで、事件は起きない。鳴鐘法の説明から始まり、二十人近い村人たちが入れ替わり登場するので、人物を把握するのが大変だ。
しかし、それを乗り越えると、事件が動き出し、人物像も把握できるようになり、俄然面白くなる。いかにもイギリスの古き良き時代の探偵小説という雰囲気を味わえる。
「ナイン・テイラーズ」は十一冊のウィムジイ卿ものの第九作。一作ごとに事件としては独立しているが、卿の恋愛、結婚、新婚というプライベート面での変化があるので、第一作「誰の死体」から順に読むのがいい。


No.28 6点 大いなる眠り
レイモンド・チャンドラー
(2020/04/11 14:35登録)
マーロウは私立探偵として報酬のために、堕落した裕福な階層の人々の間で孤独に生きるが、そうしながらも欲に溺れた彼らの赤裸々な人間性を見、その真実に迫っていく。金、セックス、暴力の支配する社会の中で、自己の誠実さを保つタフな彼は、現代に生きるヒーローである。誰からも依頼されていないことへ自ら係わっていくマーロウの行動は意味深い。
1930年代の雰囲気を彷彿とさせながら、そのまま現代に通じる作品であるのは、都市の非情さをマーロウが一身に受け止めていいるせいであろう。そこから作者独特のハードな詩情が漂い出てくる。


No.27 7点 さらば愛しき女よ
レイモンド・チャンドラー
(2020/04/11 14:28登録)
これは短篇を寄せ集めたがゆえではあるけれど、無関係に見えるといくつかの事件が、ラストで不意につながってくる展開もすごいし、なにより心象風景の描き方の巧さは感じさせられる。
ある意味ではミステリで、ある意味では文学で、当時の読者はどういうふうに捉えたらいいのかわからなかったという分析もあるけど、今読むと本当にいい配合だと思うよ。芸術とエンタメのバランスが。この比率を考えただけでチャンドラーの名前は残るし、つまりミステリ界に「チャンドラー流」って流派を打ち立てたんだと思う。


No.26 4点 プレード街の殺人
ジョン・ロード
(2020/04/05 17:51登録)
よくミッシングリンクものの傑作みたいなことを言うけど、それは間違っている。
冒頭に裁判の場面があって、本章にはいると、それに出席した人が一人ずつ殺されていく。どこにミッシングリンクがあるのかといっても何もない。最初から分かっている。


No.25 8点 エジプト十字架の秘密
エラリイ・クイーン
(2020/04/05 17:48登録)
「首の無い死体」が出てくれば、被害者と犯人が入れ替わっていると、疑ってみるのがミステリの鉄則だが、その「死体」が四つもあるとなると...。
最後の最後の第四の殺人にいたり、たった一つの証拠物件をもとに、エラリイが明晰な論理で解決する。この真相には唖然とするだろう。本格ミステリの真髄がここにある。


No.24 6点 さむけ
ロス・マクドナルド
(2020/04/04 14:08登録)
一人の若い女性の失踪をきっかけに、次から次へと明らかになる複雑な人間関係。ハードボイルドに新境地を切り開いた名編。
アーチャーによって少しずつ明らかになる人間関係。その人間関係をほぐしていき、真実に辿り着く。時としてそれは誰も幸福にしない結末となる。
人間関係を正確に理解するのは、難易度が高い。


No.23 5点 黄色い部屋の謎
ガストン・ルルー
(2020/04/04 14:04登録)
廊下のトリックはすぐに分かるし、拳銃の事件はごたごたして野暮ったい。お話自体も大時代的で、わくわくしたり驚いたりというものが無くて。
タイトルはかっこいい。歴史的意義は認める。


No.22 6点 帽子収集狂事件
ジョン・ディクスン・カー
(2020/03/29 17:21登録)
帽子を盗みまわる愉快犯。ポーの未発表原稿盗難事件。ロンドン塔で発見された他殺死体。果たして三つの事件は関係があるのか。しかしある理由で読者が、事件の全貌を突き止めるのは難しい。
江戸川乱歩は本作を「陰惨とユーモアの異様なカクテル」「密室以上の不可能トリック」と評している。
ただ、ユーモアほど、実は難しいものはない。カーのユーモアと波長が合う人には面白いが、そうでない人には馬鹿馬鹿しい話と感じるかもしれない。


No.21 7点 ビッグ・ボウの殺人
イズレイル・ザングウィル
(2020/03/29 17:14登録)
密室ものとして画期的な作品で、小説としてもキャラクターが楽しい。
何が優れているかというと、トリックに対する手掛かりの与え方や論証の方法が近代的なところ。それに基づいて論理的な推論を行い、解決しているから先駆的で洗練されている。
ただし、饒舌体の文章なんか、ディケンズかと思うくらい古めかしいし、物語としても古臭さを感じる。


No.20 5点 グリーン家殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2020/03/28 14:04登録)
物的証拠によらない、心理学に基盤を置いた分析的推理法。探偵活動においては、法律無視を平気で行い、事件の過程で自殺ほう助、殺人示唆、犯人に自殺を迫るなど、かなり無茶苦茶なことをしている。
連続殺人事件という全体像もさることながら、一つ一つの事件についても精緻に描かれているのが最大の特徴で細部の謎も解かなければならない。
クイーンの「Yの悲劇」や横溝正史作品にも大きな影響を与えている。


No.19 7点
F・W・クロフツ
(2020/03/28 13:56登録)
パリからロンドンへ、ロンドンからパリへ、死体の入った樽が行き来する。アリバイ崩しというジャンルを確立した名作。
この作品は<天才型名探偵>が登場し、最後の章で真犯人を指名するタイプではなく、警察や私立探偵がコツコツと証拠を集め、関係者の証言を取り、真相を明らかにしていく、実際の犯罪捜査に近いタイプである。
このアリバイ崩しの材料は読者にも平等に与えられているので、犯人との知恵比べが楽しめる。


No.18 10点 ナイルに死す
アガサ・クリスティー
(2020/03/22 20:29登録)
ナイル河というスケールの大きな背景のもと、ドラマチックな人間関係が描かれる。予告殺人に、容疑者の完璧なアリバイ。殺人事件が起きるまでにかなりの頁が割かれ、そこにすべての伏線が張られている。
クリスティー初期作品はトリック重視のものが多かったが、この作品の頃から、人間ドラマに重点を置く作風になる。とはいえ、本作のアリバイトリックは見事だ。
読者自身が、容疑者のアリバイを最も知っている仕組みなので、よほど丁寧に読んでいないと、見破ることは難しいでしょう。


No.17 9点 赤い収穫
ダシール・ハメット
(2020/03/22 20:23登録)
作者の処女長編であり、ハードボイルド・ミステリの第一作といっていいだろう。
サンフランシスコのコンチネンタル探偵社から派遣され、ポイズンビルという街へとやってきた主人公は、たちまち街を牛耳る実力者やギャング団の派閥争いに巻き込まれてしまう。
銃弾が飛び交い、人がバタバタ死に、血が血を呼び、乾き切った文体で果てしなく続く抗争が延々と描かれる。そして主人公以外は、ほどんど死んでしまうという展開の猛烈さは、当時未知の世界だった。
この作品に魅せられた人は多かったようで、似たような小説、映画は数多い。基本設定が永遠に模倣され続ける傑作であろう。


No.16 7点 死の接吻
アイラ・レヴィン
(2020/03/21 20:22登録)
前半は犯人側から描く倒叙ミステリ。ある青年の犯罪が描かれるが「彼」とあるだけで、それが誰かはわからない。
大胆にして緻密な構成が圧巻のサスペンス。第二次世界大戦後の身勝手な若者像をリアルに描いた、青春小説でもある。


No.15 6点 マルタの鷹
ダシール・ハメット
(2020/03/20 16:23登録)
一人称ではないが、すべてがサム・スペードの視点から書かれている。秘宝の行方、殺人事件の犯人探し、そして、スペードとブリジッドの男と女の駆け引きとが融合したプロット。ミステリとしても構成が見事で、しっかり読まないと伏線に気づかない。男はどこまで非情を貫く通せるのか。
スペードが巻末近くで犯人に言った言葉に納得できるかどうかが、この作品の評価のポイントだろう。


No.14 7点 深夜プラス1
ギャビン・ライアル
(2020/03/20 16:18登録)
銃、車、酒といった男の道具のディテールやプロの男がどこにこだわるかなどの細部を楽しむのもいい。
カーチェイス、銃撃戦といったアクションもあれば、陰謀を見抜く知的な部分もある。そして何よりも、男の生き方とはこうでなければ、というカッコ良さの見本。
ミステリの枠を超越した第一級のエンターテインメントである。

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