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ミステリの祭典

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薔薇の名前

作家 ウンベルト・エーコ
出版日1990年02月
平均点7.67点
書評数15人

No.15 8点 麝香福郎
(2024/08/16 21:38登録)
一三二七年の冬、バスカヴィルのウィリアム修道士は弟子である見習い修道士のアドンソとともに、北イタリアの山上の僧院を訪れる。到着早々、ウィリアムはその鋭い観察眼と洞察力を見込まれ、僧院長から若い修道僧の不審な死を調べて欲しいと依頼される。
作者によって緻密に練り上げられたこの作品には、読み解くべき物語が重層的に嵌め込まれており、その解読のために幾多の研究者が刊行されているほどだ。しかし難しいことは考えずに読んでも、ホームズを思わせるウィリアムの活躍ぶりや、奇怪な殺人、暗号の解読、文書館の大迷宮といった舞台設定など、ミステリとしての面白さにも満ち溢れている。

No.14 6点 YMY
(2024/07/03 22:27登録)
ミステリ小説であり、歴史小説であり、哲学・神学小説であり、オカルト小説である。そのようなジャンルを越境し、過去の様々な小説から引用、パロディ、模倣で物語を構成しながら記号論を説いた、難解な娯楽小説。
小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」のようなペンダミックな作品が好きな人にはお薦めできる。

No.13 6点 虫暮部
(2021/09/17 10:26登録)
 信仰についてディープなところまで潜った物語を読むと、浮世離れした発想の連続で、どの宗教であれ等しくカルトな面白宗教みたいに見えちゃうんだよね。

No.12 8点 ROM大臣
(2021/06/24 16:37登録)
異色のミステリとしてベストセラーになった本書は、記号論実践としても、また中世末期のヨーロッパの神学論争の雛型としても読むことが出来る。
ストーリーの中心をなす殺人事件の背後には、当時のキリスト教異端諸派と正統派との対立が脈々と流れ、そこにイギリス自然科学の先駆者R・ベーコンの教えを受けた主人公が絡む。
巨大な図書館が事件の鍵を握っていて、全体が「書物の書物」とも言うべき様相をなしている。

No.11 10点 持ち
(2021/04/26 13:07登録)
こんな小説を求めてた。

No.10 8点 猫サーカス
(2020/05/01 17:35登録)
元宗教裁判判事のバスカヴィルのウィリアムと、その弟子のメルクのアドソの二人組が、フランスとイタリアの国境近くの山中に建つベネディクト修道院を訪れ、そこでベネディクト会のムードを壊す謎の連続殺人事件に出会う。毎日ひとつ殺人が起こる寸法で、七日間に亘って物語が展開する。ベースにあるのはラテン語と神秘本の博識。いってみれば晩のお課めを果たすシャーロック・ホームズ、修道院のロバの皮の王女、僧服姿のフィリップ・マーロウの物語である。実に見事に練り上げられた小説、偉大な創意によるラテン語の古い手記のパロディだ。それが中世に関するエーコの百科事典並みの知識の染み込んだ言語世界を通して編み上げられている。

No.9 5点 ◇・・
(2020/04/26 11:06登録)
本は分厚いし、語り口が現代風じゃなくて読みづらい。話の進み方も、嫌がらせかと思うくらいかったるい。しかし、根底にあるのは本物の教養。
これを「歴史ミステリ」と呼ぶのなら、「ミステリ」より「歴史」に重きを置いて書いていると思う。全体として、ミステリという物語部分は後景に引いている。逆に歴史とか中世哲学とか神学談義とかが、みっしり詰まっている。ある意味、蘊蓄小説と言える。

No.8 8点 クリスティ再読
(2019/12/31 21:46登録)
今年の〆には貫目のある作品を....と記号学の大家エーコの、中世の秋に舞台を取った「黙示録殺人事件」である。80年に書かれて評者とか「すごい!」という噂ばっかり聞かされ続けて、86年の映画も行ったけどフツーのアクションミステリで(アノーって変な大作が多いなあ)...でようやく90年に日本語訳。もちろん出たらすぐに購入。じらし続けられて、との思いでも懐かしい。
今回の再読では、筋立て以上に、本作が「中世にもし推理小説があったら?」という一種の思考実験なことが面白かった。実際、本作の文体は極めて読みづらいものなんだけど、この読みづらさが実のところ、本当の中世とか近世初頭の文章「らしさ」をかなり忠実に出していて、中世人の皮をかぶった現代人のコスプレ、といったものじゃないのが、いい。バスカヴィルのウィリアムはもちろんしていることはホームズなのだが、その理屈付けは極めてスコラ的で堅苦しい。行動が同じでも、その「思考」は時代によってもまとう姿が千変万化。これは実のところ、本作の背景になる庶民の反抗と、そのイデオロギーである神学的思考の関係とも、同じなのだ。「虚偽の意識」みたいなものをテーマに評者は感じていた...
思うことは行うことを正確に反映したものではなくて、その「行い」を歴史的に主観的に歪めた形(異端審問での告白と同様に)でしか認知しないのである。この歪みはニーチェ的なテーマでもある。そうしてみると、本作で明らかになるユダヤ的僧侶思考とか、「笑うキリスト」といったテーマには、ニーチェという隠し題が潜んでいるのでは...なんて勘繰りたくもなる。まあ「哄笑するキリスト」というのは、ニーチェのディオニュソスなんだけどね。
まあ評者だから、こんな「読み」もしちゃうのだけど、実際本作の「読み」は本作が「書物の書物」なことからも窺われるように、多様でいいはずだが...キリスト教伝統の薄い日本だと、本作のデテールや綾は、どうしても読み飛ばされがちなんだろう。それこそただのアクション・ミステリになっちゃった映画みたいにね。奇書とまでは思わないが、それでも本作の魅力はそのデテールにある。ウィリアムの政治的な企図は挫折するし、推理は外れまくる。直線的に事件を追っていくと、「何だ」ということになりかねない。

一場の夢は一巻の書物なのだ。そして書物の多くは夢にほかならない

...夢に見たまえ。夢こそまこと。

No.7 9点 モンケ
(2019/10/20 14:41登録)
まるで高価なフランス料理か中国宮廷料理のフルコースを振る舞われた様な豪華感。「手記である。当然に・・」と文学上の立場を鮮明にしながら、「バスカヴィルの・・」=ホームズ、「アドソ」=ワトソンてな遊び心も満載で。あの図書迷路塔の仕掛けが何と言っても白眉ですな。
ただ一点惜しいのは、殺人のトリックが少し貧しいです。島田荘司の「斜め屋敷の犯罪」「北の夕鶴2/3の殺人」の様な、あの塔や建物全体を巻き込むような大掛かりな大トリックがあれば大満足でした。

No.6 7点 レッドキング
(2018/05/28 07:17登録)
ミステリでない物としてならば、とてもとても素晴らしい。
ミステリとしては まあまあ面白いといったところ。
日本の「三奇書」とかと同じかな。

No.5 8点 ボナンザ
(2016/07/10 12:27登録)
古い僧院を舞台に繰り広げられる連続殺人という王道でありながら、外してくる展開。我が国の三大奇書のごときアンチミステリの最高峰の一つ。

No.4 6点 mini
(2016/02/24 10:00登録)
先日19日にウンベルト・エーコ氏が亡くなった、さらに20日にはハーパー・リー氏も相次いで亡くなった、「アラバマ物語」は所持しているので機会が有ったら書評したい
エーコはミステリー専門作家じゃないが、ウンベルト・エーコの名前を聞いた事がなかったらそりゃミステリーファンじゃ無いでしょ
追悼はやはりこれ、過去に書評済だけど一旦削除して再登録

「薔薇の名前」はもう伝説の、と表現してもいい作品である
難解という語句が何回も出てくる作だが骨格は案外と簡単
中心となる登場人物バスカヴィルのウィリアムと語り手アドソは、要するにそのままホームズとワトスンである
ところが知の巨人碩学エーコ、単なる探偵物語じゃなくて読者を迷宮に彷徨わせてくれるのだ(苦笑)
しかし宗教哲学論争に終始するかのような内容だが一種の歴史物語でもある
登場人物の中で異端審問官ベルナール・ギーとかフランシスコ会派のウベルティーノなどは実在の人物である
時代は14世紀、北の神聖ローマ帝国では13世紀の大空位時代の後を受け、まだ後のハプスブルグ家が勢力を伸ばす前のちょっと中途半端な時期ではある
キリスト教世界も最後の十字軍遠征が13世紀に終わり、そうかと言ってルネサンスにはまだ早い、やはり中途半端な14世紀という時代
十字軍運動によって最高潮に達した信仰精神は、皮肉な事に信仰そのものに疑問を投げかける結果となってしまうのである
つまりは十字軍の後、世俗化したキリスト教世界の中で宗教とはどうあるべきか、みたいな論争が盛んな時代だとも言える
後の15~16世紀に比べて、この分かり難い14世紀という時代を背景にしているのが難解さに拍車をかけているわけだが、その時代だからこその物語でもある

創元では未だハードカバーのままで文庫化していないが、将来的に文庫化するとしたら、その際には歴史的背景なども簡単に説明する頁を設ける方が読者に親切なんじゃないかなぁ

No.3 10点 TON2
(2013/01/15 18:31登録)
東京創元社
 以前にショーン・コネリー主演の映画を見たときから読みたいと思っていましたが、ようやく図書館で借りました。
 著者はイタリア人の哲学者で、記号論の権威です。
 舞台は1327年の北イタリアのベネディクト修道院。そこを訪れた修道士パスカヴィルのウィリアムと弟子のアドソが、修道院内で起きた修道士連続殺人の謎を解きます。分類としてはミステリーですが、中世キリスト教社会の様々な様子が描かれていて大変興味深い作品です。
 皇帝勢力と教皇勢力の世俗支配をめぐる争い。キリストは何物も私有しなかったとする清貧派と富を持つことを認める教皇派の神学論争。拷問、火あぶりなどの苛烈な異端審問。貞淑であるべき修道士の肉欲と愛への考察。書物は、それを伝えることに意味があるとする者と、それを読み新たな思考を生み出すことに意味があるとする者との対立……などが語られ、ヨハネの黙示録に見立てた連続殺人が起こります。
 また、ウィリアム=ホームズ、アドソ=ワトソンという典型的ミステリーの形式となっているとともに、博学で人生経験豊富なウィリアムが、有能ではあるが若く幼いアドソを鍛え上げる師弟の物語でもあります。

No.2 6点 蟷螂の斧
(2011/12/27 15:21登録)
映画(1986)ショーンコネリー氏主演を3度ほど観ているがよく理解できていない。歴史・キリスト教に疎いためである。本書は、哲学書のようであり、聖書の引文もかなりあり難解である。




(ネタばれ)ミステリーとしては、秘密の書に、ある仕掛けがほどこしてあり、それにより殺人が起こるもので、その点はユニークで評価できる。

No.1 10点 touko
(2010/02/10 23:43登録)
いつの間にか、登録されていたのですね!

個人的に、もっとも好きな作品です。
私の大好きな衒学趣味と博物館学的薀蓄、それをドロドロした中世を舞台に、エンターティメントとリーダービリティを意識した歴史ミステリーの形式で提供してくれてるんですからもうたまりません。

あらゆる読書の楽しみ、本の楽しみが詰まった知的エンターティメントの金字塔だと思います。
そして、このすべてを好きになろうとか、理解しようとせずとも、自分の興味のある部分だけを読んで楽しむ……そんな読み方も出来る懐の広い本でもあります。
私は浅学なので、とうていすべてを把握しきれないけれど、古代からもしかして未来までの圧倒的な蔵書数を誇る書庫に迷い込んだような感覚に、この世界にいつまでも浸っていたいと思わせる魔力があります。

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