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ミステリの祭典

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◇・・さんの登録情報
平均点:6.03点 書評数:193件

プロフィール| 書評

No.53 6点 証言拒否
マイクル・コナリー
(2020/10/25 19:49登録)
法廷ミステリとしてのスリリングさは無類で、上下巻を一気に読ませるが、一番の大ネタと言うべき部分には前例があり気付いてしまった。
とはいえ、犯行手段が暴かれると同時に犯人も判明する...。つまりハウダニットとフーダニットが密接な関係にある構想はお見事。


No.52 5点 王者のゲーム
ネルソン・デミル
(2020/09/12 18:35登録)
くだらない冗談を言ったり、上司に逆らったり、周囲の人々に迷惑をかけ、イライラさせるくせに頭の回転が速く、行動力があり、美女にモテる主人公が魅力的なシリーズ。
警察、FBI、CIA、ムスリム教徒、アメリカの西海岸、東海岸などに関して主人公の冗談や偏見から学ぶことのできるステレオタイプは、「アメリカ入門書」の役割も果たす。2001年のアメリカ同時多発テロ以前に刊行されていることも感慨深い。


No.51 5点 終りなき夜に生れつく
アガサ・クリスティー
(2020/09/05 18:52登録)
切なくも美しい、悲恋の物語が、恐ろしい真相に反転する。
犯行の状況が著しく具体性を欠いている。フェアプレイの問題を度外視し、物語の構図の鮮やかな反転を試みた作品。


No.50 5点 ウサギ料理は殺しの味
P・シニアック
(2020/08/09 14:31登録)
風が吹けば桶屋が儲かるという日本のことわざを地で行くように、ひたすら成り行きの数珠繋ぎによって構成された奇怪な事件の顛末を描いた作品。
人智を超越した偶然の連鎖が華麗なアラベスク模様のように、ひとつの秩序に収斂されてゆく摩訶不思議さを、全て見通す神の視点で堪能することが出来る。


No.49 7点 中途の家
エラリイ・クイーン
(2020/08/01 16:38登録)
探偵エラリイの推理によって正体を暴露された犯人が男性なのか女性なのか判明する瞬間をギリギリまで引き延ばしてみせる。日本語と比較して男言葉と女言葉に差がない英語の特性を利用したギミックだけに、その部分を邦訳で読むといかにも不自然だが、むしろその不自然さこそが図らずも、クイーンの執念が尋常の域ではないことを逆照射する。事件の真相を限りなく読者の目から遠ざけようとする執念には恐れ入る。


No.48 6点 ゴーン・ガール
ギリアン・フリン
(2020/07/26 12:01登録)
エイミーとニックの視点で交互に語られるこの物語は、事件の真相がかすかに見えてきたところで、突然ゾッとするような心理スリラーに方向転換する。
通常のミステリとは一線を画す複雑な構成の心理スリラーで、読者は何を信じてよいのか絶えず分からなくなる。通常の心理スリラーでは物足りなくなっている人でも満足できるのでは。


No.47 5点 居合わせた女
クレイグ・ライス
(2020/07/26 11:53登録)
夜の遊園地というものの哀しい陽気さと、不穏な気配、日常性と非日常性、不意にのぞく暗さと静けさを、見事に閉じ込めた文章は繊細かつ大胆。


No.46 7点 妖魔の森の家
ジョン・ディクスン・カー
(2020/06/27 18:15登録)
名探偵のコミカルな登場、興味を掻き立てられる謎、巧妙なミスディレクション、そして戦慄的な最期の一文。不可能犯罪の巨匠の真髄が味わえる一編。


No.45 7点 貴婦人として死す
カーター・ディクスン
(2020/06/20 19:01登録)
記述者のクロックスリー医師を空襲で死なせてしまうことで、記述者が最後まで真犯人の正体を知らなかったということにして語りの自然さを保ち、なおかつ記述者が真犯人のことを自分の肉親であるが故に、嫌疑の対象外とする設定によって、フェアな犯人当てを徹底しつつ犯人を読者の死角に置くという難題を見事に成就させている。


No.44 8点 雪は汚れていた
ジョルジュ・シムノン
(2020/06/14 19:38登録)
純粋さを希求しながらも流されるままに生き、やがて殺人者となり、悪への道へと転落していく青年の物語。だが刑事とのやり取りの中で、生きる「意味」を掴んだ瞬間の描写は衝撃的だった。
青年の不安定で鬱屈した心情、絶望的な状況は現在にも繋がる。その意味では、これは永遠の青春小説である。


No.43 10点 Xの悲劇
エラリイ・クイーン
(2020/06/06 20:16登録)
第一の犯行現場も、続いて起こる惨劇の舞台もすべて公共交通機関という乗り物尽くしで、いったんは不特定多数の人間が容疑者となる。そこからたった一人の人物を突き止めるというスタイルをクイーンは完成させた。
またダイイング・メッセージはクイーンの十八番である。判じ物みたいなものだから、ロジカルに解読できるものではないし、間違っても犯人指摘の決め手にしてはならない。よってスマートで節度ある使い方が求められるのだが、本作においては上々の出来上がりだろう。
またこの作品で展開されるレーンの推理は、溜息が出るほどで、「こうだったとも考えられるではないか」という反論の余地がなく真相の意外性も十分。


No.42 5点 レッド・オクトーバーを追え
トム・クランシー
(2020/05/30 19:47登録)
きわめて正確と評されたソ連とアメリカの諜報機関に関する分析、潜水艦の構造の詳細、腹の探り合いなどが興味深く、刻々と変化する状況にどっぷりのめり込んでしまう。
シンプルな文章だが専門用語が多く、状況把握が難しいかもしれない。


No.41 5点 呪われた町
スティーヴン・キング
(2020/05/24 18:53登録)
セイラムズ・ロットという小さな田舎町を想定し、どこにでもみられる平々凡々な市民を描くことで、かえって自分たちの周りにも、いつこんな事件が起こるかもしれないという恐怖を駆り立てている。
本作は、忠実な伝統を踏まえた吸血鬼小説であり、ブラム・ストーカーやロバート・マキャモンら多くの作家たちに影響を与えたように、キング以後の何人かの作家たちのバイブルとなった。


No.40 6点 逃走と死と
ライオネル・ホワイト
(2020/05/17 20:03登録)
競馬場の売り上げ金強奪を計画する五人の男の行動を描くサスペンス。
登場人物たちの心情と行動の様子が、同時多元描写でなされている手法がとにかく画期的だった。
S・キューブリック監督の映画「現金に体を張れ」の原作でもある。


No.39 6点 カリブ諸島の手がかり
T・S・ストリブリング
(2020/05/16 18:01登録)
舞台がエキゾチックでトロピカルな幻想味というか、そういうのが当時強烈にアピールしていたんでしょう。今読んでもけっこう楽しい。なんといっても「ベナレスへの道」という短編は突出した異様な印象を受ける。


No.38 3点 ボーン・コレクター
ジェフリー・ディーヴァー
(2020/05/09 17:24登録)
スピード感があり、どんでん返しが多いプロットで、ごまかされそうになるけど、ご都合主義の嵐。
読者を驚かせたいがために、無理に無理を重ねていて...。しかし、そんなに無理されても読んでるこちらの方が辛い。


No.37 4点 スリーピング・マーダー
アガサ・クリスティー
(2020/05/04 18:10登録)
事件の起きた系列を順序を入れ替えて物語を説明している。時計の描写だとか、時間が後からわかるような手掛かりがない。これでは読者には推理しようがない。これは、アンフェアです。
犯人は、周りに誰もいないにもかかわらず、殺人現場に初めてきた振りをする。そんなことはあり得ない。


No.36 7点 ロウフィールド館の惨劇
ルース・レンデル
(2020/05/03 19:03登録)
最初から犯人と動機を明らかにしたうえで「なぜ」を説明してゆく。
心理スリラーは当時としては新鮮だった。だがそれだけではく、著者の描くダークな心理劇の絶妙さに病みつきになる。文章は簡潔だが卓越した人物描写は文芸書のよう。


No.35 9点 ジャッカルの日
フレデリック・フォーサイス
(2020/05/02 14:27登録)
イギリス空軍のパイロットと従事記者を体験した著者は、1962年に実際に起きた大統領暗殺事件未遂をヒントに、ジャーナリストの手法で事件を綿密に調査して書いた。そのために、スリラーでありながらノンフィクションを読むような充実感がある。
読後何十年経っても強く印象に残っている作品であり、現在読み直すと歴史ルポのような新たな面白さもある。
著者のデビュー作にして、政治スリラーの最高峰。プロットは複雑だが、文章は記事のようにシンプルで理解しやすい。


No.34 5点 薔薇の名前
ウンベルト・エーコ
(2020/04/26 11:06登録)
本は分厚いし、語り口が現代風じゃなくて読みづらい。話の進み方も、嫌がらせかと思うくらいかったるい。しかし、根底にあるのは本物の教養。
これを「歴史ミステリ」と呼ぶのなら、「ミステリ」より「歴史」に重きを置いて書いていると思う。全体として、ミステリという物語部分は後景に引いている。逆に歴史とか中世哲学とか神学談義とかが、みっしり詰まっている。ある意味、蘊蓄小説と言える。

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