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ミステリの祭典

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居合わせた女

作家 クレイグ・ライス
出版日1961年01月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 5点 ◇・・
(2020/07/26 11:53登録)
夜の遊園地というものの哀しい陽気さと、不穏な気配、日常性と非日常性、不意にのぞく暗さと静けさを、見事に閉じ込めた文章は繊細かつ大胆。

No.1 6点 人並由真
(2020/05/14 20:45登録)
(ネタバレなし)
 ロサンゼルスの遊園地「波止場」。そこに設置された観覧車の中で、土地の賭博場のオーナーである顔役ジェリイ・マックガーンの刺殺死体が見つかる。以前のマックガーンの手下で、先週、二年間の服役を経て出所したばかりのハンサムな若者トニイ・ウェッブが近くで見かけられ、30代後半の堅物の独身警部アート・スミスは彼に嫌疑をかけた。そして殺人が行われたと思われる時刻、観覧車の傍で聾唖の似顔絵描きアンビイが、とある茶色の髪の美しい娘の肖像を描いていたことがわかり、この彼女が何か目撃していたのでは? と期待がかかる。トニイとスミスはそれぞれの立場から、この美女=エレン・ヘイヴンの行方を追うが、さらにスミスの座を蹴落として後釜を狙う野心家の部下ジャック・オマラ刑事も独自の行動を開始した。くわえてマックガーンの死にからみ、ニューヨークから殺し屋のコンビも出現。事態は緊張を高めていく。

 1949年のアメリカ作品。
 翻訳を担当した恩地三保子(クリスティーやブランドの諸作、「大草原の小さな家」シリーズの邦訳でもおなじみ)はポケミスの訳者あとがきで「(よくライスの作風の修辞に用いられる)クリスティーの巧みさ、ハメットのスピード感、セイヤーズのウィット」に加えて本作ではさらに「チャンドラーの影とカーター・ブラウンの鋭いカット」が付加されたと評しているが、いや、まんまこれはウールリッチでしょ、という一冊。
(読了後に小林信彦の「地獄の読書録」を紐解いたら、まんまその通りの物言いで苦笑した。)あえて言えば、あとどこかに、マッギヴァーンかフレドリック・ブラウン辺りの感触なんかも見やれるけれど。
 
 ひとくちにサスペンスといっても、さらに細分化してどういう方向のジャンルに流れていくかはネタバレになるのでここでは言えないんだけれど、まあ大方の読者は3分の1もしないうちにある程度の予想はつくでしょう。個人的にはポケミス107ページ目の過去の述懐のあたりでハッとなった。
 薄い作品(全部で本文は170ページ弱)なのに、なんかじっくりと読者にからんでくるような文体で、そこがこの作品の味わいのようなまだるっこしさのような感覚がある。
 それでも物語の後半、ストーリーのベクトルが見定まってくると話の加速度は倍加。どういう決着になるのかというダイレクトな興味で一息に読ませる。主舞台である遊園地「波止場」のロケーションを活用したクライマックスも実に視覚的で、印象深い。

 1950年台の(本書は厳密には1949年作品だが)この手のアメリカ・ノワール・サスペンス系の作品が好きな方、たまに読みたくなった人ならどうぞ、とお勧めしておく。
 あとちょっとした旧作・海外ミステリのファンなら、ライスについての地味にドラマチックというかなんというかの物書きとしてのエピソードは、黙っていてもいろいろと聞こえてくるんじゃないかと思うけれど、この本を読むと改めてそんな作者の現実の人生の方にちょっと意識が向かう。そんな一作でもあった。

 ところで今回、蔵書の山の中から引っ張り出してきた本書(ポケミスの初版の古書)を見たら、もう今は閉店してしまったはずの都内の古書店の800円の値札がついていた。たぶん今じゃ絶対に、この値段じゃ買わないな。昔、ライスの絶版品切れポケミスを集めていたころに買った本だな。
 これから読む方もそれなりの安いお値段の時に購読してください。ちなみに現在のAmazonなら、1980年台の再版版なら100円からです。

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