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ミステリの祭典

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zusoさんの登録情報
平均点:6.17点 書評数:280件

プロフィール| 書評

No.140 6点 Aではない君と
薬丸岳
(2023/04/05 22:03登録)
14歳の息子が同級生殺害の容疑で逮捕されるという衝撃的な事実を突き付けられる父親の葛藤を描いている。
加害者の家族に心理の中心が置かれることで深層の不安が刺激され、苦悶が共有される。頑なな少年の悲しみがあふれ出す後半は胸が熱くなった。


No.139 6点 躯体上の翼
結城充考
(2023/04/05 22:00登録)
終末期の世界に、儚い逢瀬をのぞむ機械知性を捉えている。たそがれる世界の物憂い崩壊感とロマンティシズムが絡み合い、SFでしか描けない切なさが心に沁みる。


No.138 5点 星を撃ち落とす
友桐夏
(2023/03/21 22:23登録)
少女たち語る事件という物語と少女たち自身の内面とが密接に結びつき、真実と偽りが区別されることもない。そのために、深い謎に陥っていくような倒錯的ともいえるような魅力にあふれている。読み進めるごとに、それまでの世界観が目まぐるしく変化するさまが美しい。


No.137 5点 叡智の図書館と十の謎
多崎礼
(2023/03/21 22:20登録)
広大な砂漠の果てにそびえる、六角錐の真っ白な塔。そこには古今東西あらゆる知識が収められているという。その門を守るのもまた、白き石の乙女。封印された扉を開くために、男は乙女が出す10の謎に10の奇譚で答える。
お伽噺あり、現代物あり、SFあり、趣向を凝らした物語。知識を追う喜びを知ることが出来る。


No.136 6点 ブラッディ・ファミリー
深町秋生
(2023/03/04 22:29登録)
警察内部の不正を追及する黒滝誠治ものの第二作。
警察庁長官を約束された男の息子である不良警官を徹底して追い詰める。ゆがんだ権力構造の中で正義を遂行できないが、地道な捜査活動とさまざまな政治闘争、ひるまぬ迎撃で局面打開をはかり、秩序回復の満足感を得る。
洗練された語り、個性あふれる人物像、凄絶な活劇、劇的な展開、徹底した権力との終わりなき対峙が胸を熱くする。


No.135 7点 ファズイーター
深町秋生
(2023/03/04 22:25登録)
警視庁上野署の刑事・八神瑛子の活躍を描くシリーズ第五作。
暴力団の内紛が先鋭化して瑛子自身まで狙われ、絶体絶命の危機の中、過激な暴力が繰り広げられる。正義も悪もない混とんとした世界での非情な戦いを迫真的に描き、女刑事の怒りがすさまじいエネルギーとなって、圧倒的な臨場感とカタルシスを生む。


No.134 7点 女王
連城三紀彦
(2023/02/14 22:57登録)
祖父の不審な死をきっかけに「私」は、癌を患った老齢の瓜木、祖父・祇介の弟子だった妻・加奈子とともに、記憶の迷宮、歴史の迷路へと入り込んでゆく。それはなんと魏志倭人伝に記された邪馬台国と、その女王・卑弥呼を巡る謎だった。
異形の歴史ロマンであり、男女の複雑極まる情愛のドラマであり、連城ミステリの要素がすべて注ぎ込まれた巨編である。


No.133 6点 悪魔のトリック
青柳碧人
(2023/02/14 22:53登録)
地上に降臨した悪魔によって特殊能力を授けられた殺人者たちと異能の刑事・九条一彦の知恵比べを描いた連作短編集である。
漫画「ワンピース」を連想させる「悪魔の力」は、動物の死体の大きさを変える力など、役に立つかどうかわからないものばかり。それをどう使って殺人を犯すか、という点にミステリとしての興趣がある。やたらと尊大な九条のキャラクターもいい。


No.132 6点 誓約
薬丸岳
(2023/02/01 22:28登録)
過去を消したつもりの男がもう一度、自分の過去の所業と向き合い、罪を見つめ償うことの重さをかみしめる小説。
殺人事件が起きて濡れ衣を着せられて、謎を解いていくと意外な真犯人がいるというミステリではあるけれど、その興趣以上に少年犯罪の告発と更生という問題を正面から捉えて、読者の善悪感をゆるがせにかかる。
ラストは、いつものように温かいけれど、必ずしもすっきりしたものではない。非情な現実と長く厳しい人生を見据えているからだが、それでも作者の小説らしく、人の幸福と良き魂を願う思いは今回も貫かれている。悪くない仕上がり。


No.131 6点 怪談実話傑作選 弔
黒木あるじ
(2023/02/01 22:23登録)
千話以上の怪談を送り出してきた怪談作家の傑作選(プラス書下ろし)。
語る順序を考え抜き、感覚を尖らせ、台詞や仕種で衝撃を与える。怖さの中に観察があり、驚きの中に批評性があり、グロテスクの中にユーモアがある。全部で65作。ぞくりとする戦慄と興奮が最後まで続く。


No.130 6点 アイルランドの薔薇
石持浅海
(2023/01/19 23:10登録)
アイルランドの宿屋で、武装勢力副議長が殺害される。彼の仲間たちは、和平目前なのに警察に通報などできないと、客たちを足止めする。そこで推理の先頭に立ったのは日本人科学者・フジだった。
政治情勢が複雑なために「嵐の山荘」状態になってしまう導入部の工夫がまず目立つ。殺人の謎だけでなく、正体不明の殺し屋が客に混じっている状況を嚙み合わせて進むストーリーは、本格の楽しさに満ちている。たとえ政治や社会派が苦手な人でも大丈夫。


No.129 7点 A
中村文則
(2023/01/19 23:05登録)
個人が何らかの大きな圧力により、狂気と呼ばれてもおかしくない状態に陥ってしまう状況は、表題作のような戦時中も平時でも変わらない。「自分はいま正気でいるだろうか」と、読後自らに問いかける人もいるかもしれない。
軽妙なタッチで描かれた作品も魅力的であり、一作ごとの作風の違いに驚かされる短編集。


No.128 8点 地図と拳
小川哲
(2023/01/07 23:12登録)
旧満州の架空の都市を舞台に、日中戦争を世界史の中でとらえる視点と、人々の個人史を絡ませて時代性を見事に浮かび上がらせた異色作。
主人公が登場するまでの前史をまるで創世記のように語り、満州に異世界を創り出す才気に引き込まれる。
SF的な新感覚の歴史小説とでもいえる。これからの歴史小説の可能性すら感じさせる。


No.127 5点 午前0時の身代金
京橋史織
(2023/01/07 23:07登録)
クラウドファンディングで10億円の身代金要求という設定が奇抜。誘拐小説の興趣は身代金の受け渡しにあり、どういう風に行うのかが肝となるが、作者は身代金募集に力点を置いて、誘拐の裏側に何があるのかを探っていく。
設定が十二分に生かし切れていない点や、訳ありの家族模様は目を引くが、主人公にもうひとつヒーローとしての魅力が乏しいのが難。それでも語りは滑らかで、真相を追求するくだりは起伏があって面白い。


No.126 6点
東山彰良
(2022/12/22 22:56登録)
いわば自分探しが描かれるが、一九七五年の台湾を起点としたところに妙味がある。蒋介石が死去した年だ。蒋介石の死後、何者かに惨殺された祖父の死を軸に物語は展開するのだが、その謎には日本の植民地だった時代に由来する大陸との対立が潜んでいる。
台湾の歴史という重く大きなテーマを、一青年の冒険活劇的な成長譚に託し、世相や風俗もふんだんに織り込んで、エンターテインメントに仕立てた力量には、こんな混沌をよくも一編にまとめ上げたものだと感服するばかりだ。


No.125 7点 ラッシュライフ
伊坂幸太郎
(2022/12/22 22:51登録)
発端と結末を繋ぐのは、傲慢な拝金主義者に、どん底の人間が意地を示し一矢報いるまでの経過。それだけならありがちな「ちょっといい話」。ところが発端と結末の中間に、皮肉な偶然に彩られたストーリーのパズルが挿入されているために、ニュアンスが複雑になっている。
作中では、仙台駅の近くの展望塔に関する言及が何回も出てくる。しかし、登場人物が塔に上り下界を見渡す場面自体は、最後まで描かれない。このことは、各自のストーリーを生きる彼らが、五つのストーリー全部を展開する能力を持たないのを象徴している。
個々のストーリーに閉じ込められた人生。パズル的構成で浮かび上がる苦みがここにある。


No.124 7点
荻原浩
(2022/12/12 22:32登録)
口コミを使った香水の販売戦略によって都市伝説化した、ひとつの噂が連続殺人を生み出す。主人公は犯人と戦うと同時に「獣」とも戦うことになる。そして犯人は捕まってもかたちのない「獣」は捕まらない。
この二重性が結末の鮮やかなどんでん返しを支えている。衝撃のラスト一行に驚いた。


No.123 5点 遺品
若竹七海
(2022/12/12 22:21登録)
死せる佳人の妖影たゆたう洋館というゴシック・ロマン本流の設定による怨霊譚かと見せかけて、最後に意想外の真相を用意した構成は、実に鮮やか。ホテルをめぐる人間模様もよく書き込まれている。ただし、エンディングは賛否分かれるかもしれない。


No.122 7点 盤上の夜
宮内悠介
(2022/11/27 23:11登録)
囲碁や将棋など対局ゲームをテーマにした奇想短編集。
この分野は近年コンピューターによる解析が急激に進んできた。ゲームという機械向きの「演算の山塊」に、生身で立ち向かう人間の苦しみと狂気が色濃く漂う。表題作では、四肢を切断された少女が囲碁棋士となり、碁盤を介して新たな感覚の世界を構築しようとする。
作者は元プログラマーだが、麻雀のプロを目指したこともある。三人の男たちが我欲を混乱させようとする「清められた卓」は、さすがに勝負へのアヤへの洞察力が深く秀逸だ。


No.121 6点 夕潮
日影丈吉
(2022/11/27 23:02登録)
伊豆諸島のくすんだ風光を背景に、二十余年を経て再現される奇怪な水死事件を、内向的な新妻の目を通して描いた異常な心理小説。
ベックリンの絵画から抜け出してきたような女流歌人の妖艶さと不気味さが、読後も忘れ難い印象を残す。

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