| 弾十六さんの登録情報 | |
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| 平均点:6.14点 | 書評数:535件 |
| No.435 | 6点 | 海の秘密 F・W・クロフツ |
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(2023/07/28 01:08登録) 1928年出版。クロフツ長篇第8作、フレンチ・シリーズ第4作。やっとタイトルからフレンチがとれた、と思ったらCollins初版のダストカバーを見ると”The Sea Mystery / An Inspector French Case”なので、実はフィーチャーが続いていた。まあでもフレンチ部分はやや小さい活字で、下のハードカバー表紙には”The Sea Mystery”だけの印刷。創元文庫の翻訳は、気になる点が少しあったが快調。 なんと言っても、冒頭の親父の姿が良い。ごく普通の一般の人なんですけどね。その後の展開が工夫されていて飽きさせず読ませる。袋小路にハマって閃いてちょっと戻って進む、また難所にぶつかる、ふと思いついて糸をたぐると上手くいって嬉しい… これがクロフツ流。フレンチは本当に旅行が好きだなあ… 作中現在はp9とp46から1927年9月が発端の場面で良いだろう。 価値換算は英国消費者物価指数基準1927/2023(80.38倍)で£1=14589円。 p8 ウェールズ南部… ベーリー入江(The Burry Inlet, on the south coast of Wales) p9 九月末 p16 沿岸警備隊(coastguards) p18 組み立ておもちゃ(meccano)◆ メカノはリバプールのFrank Hornbyが1898年に開発したおもちゃ。 p18 自転車のライト(my bicycle lamp) p21 あすか明後日の検屍裁判(at the inquest tomorrow or next day) p24 食堂車付き急行(luncheon car express) p28 洗濯屋のマーク(laundry marks) p29 じょうずな写真屋(a good photographer in the town)◆ 当時は警察に写真班は無かった? 田舎警察だからかな。 p33 バーンリー警部(Inspector Burnley)… もう退職した(retired now)◆『スターヴェル』(1927、シリーズ第3作)から作者はフレンチ世界に旧作の登場人物たちを取り込もうとしている。それは良いんだがなんで無駄なネタバレをするんだろう… (ここで『樽』の犯人や犯行方法を全部バラしているので未読の方は要注意) p39 モールスワース(Molesworth) p46 [8月]21日、日曜日(21st, Sunday)◆ 該当は直近で1927年。この日付は作中現在の「五、六週間前」 p51 小銃射撃場のあるラネリーの(at the Llanelly rifle range)◆ ラネリー射撃場は1861年から使われ、1948年ごろまで現役。現在はゴルフ場と公園になっている(WebサイトCofleinの“Llanelli Rifle Range”より)。 p58 スワンシー(Swansea)◆ クロフツ観光案内。マンブルズからブリストル海峡の眺め p63 三百ポンドの保証金… 賃貸料五ポンド(a deposit of £300 and £5 for the hire)… フォードの1トン積みトラック(a Ford ton truck) p64 書体を真似できますか?(describe the hand they were written in?)◆ 「どんな感じの筆跡でした?」 p69 大型複写器(a large duplicator)… 六十二ポンド十シリング(£62 10s.)… ◆送料込みの値段 p72 スターヴェル(Starvel)… ついこのあいだ(it was not long)◆ 私の推定では『スターヴェル』事件は1926年9月のことなので一年前。 p73 南デヴォンシャー(South Devonshire)… ニュートン・アボット(Newton Abbot) p74 ダートムーア(Dartmoor)… 底ぬけの“泥沼”(the soft ‘mires’)◆この沼地、実際はどんなものなのか、ずっと疑問に思っていたがWebに好記事があった。「ダートムーアの泥炭湿地~ 名探偵シャーロックホームズが見た底なし沼 ~」岡田 操(2012) p84 電動複写器… モーターは直流220ボルトにて差し込み用のコード一式も(Electric Duplicators… The motor to be wound for 220 volts D.C., and to have a flexible cord to plug into the main) p86 複写器… 普通の大きな円筒と、非常なスピードでコピーをとる精巧な装置とをもった複雑な機械(a duplicator. It was an elaborate machine, with the usual large cylinder and ingenious devices for turning out copies at high speed)◆当時の複写機のイメージは “A 1930 model of the A. B. Dick Mimeograph machine”みたいなやつか p87 二百二十四ポンド(About two hundredweight)◆ 複写機の重さ。翻訳はhundredweight(英国だと112ポンド相当)を換算して妙に細かい答えになってしまっている。 p94 試験(test-points)◆試訳「チェックポイント、問題点」くらいの意味か。 p99 中型四人乗り(four-seater touring car)… 15-20のマーキュリーで、二年ほどはしっている(a 15-20 Mercury, two years old) p102 アードロ会社(Ardlo)◆調べつかず。架空? p102 マスコットがうしろに突き出ている… ラジエーターのキャップを外してからでないとボンネットがあけられない(on account of the mascot sticking out behind, you have to take off the radiator cap before you can lift the bonnet)◆具体的に調べていないが、そういう不便なマスコットがあったのか p103 有名なダートミートの谷(the last the famous meeting of the waters, Dartmeet)◆Webで見ると人気の観光スポットらしい。 p104 プリンスタウンの大監獄にひとりの売春婦を訪ねた時(gone down to Princetown to see one of the unfortunates in the great prison)◆ unfortunate=prostitute、ヴィクトリア時代の婉曲表現のようだ。「不幸なご婦人」あたりでどう?(伝わらないか) p105 泥よけのライト(wing lamps) p105 自転車からライトを外して(took the lamp off my bicycle)… いいアセチレンのライト(a good acetylene lamp)◆懐中電灯の代わりに自転車のライトを使う場面がクロフツ作品には多い印象がある p120 アルゼンチンで農業を(a farmer in the Argentine) p122 不可能◆私もこの点が気になったが、なるほどね、という説明。 p127 優秀な証明書(an excellent testimonial)◆「訳注 新しく就職するときに用いるためのもの」新しい雇用主に見せるため、元の雇用主が使用人に発行する。 p127 一カ月分余計の賃金(an extra month’s wages) p130 チップをやって(with a tip) p139 茶色の習作…浅黒い顔色に茶色の目、髪は殆んど黒で茶色の服に茶の靴、そして茶色のネクタイ(was a study in browns: brown eyes, a dusky complexion, hair nearly black, brown clothes and shoes and a dark brown tie) p156 タンナー警部はしゃれの好きな男だった(Tanner was a man who liked a joke)◆ 前作に続いて登場。 p163 “ラ・フランス”の、実に見事な苗床(the really magnificent bed of La Frances) p170 お茶とバターを塗ったパンと、ひときれの肉(Tea an’ bread an’ butter and a slice o’ meat)◆警備員の夜食 p172 ベイコック式とウィルコックス式の水管ボイラー(Babcock and Wilcox water-tube boilers)◆ バブコック・アンド・ウィルコックスは米国の有名ボイラー・メーカー、1867年設立。 p179 複写器の脚部の鋳物(the leg casting) p192 玉突き(billiards)… ブリッジ(bridge) p204 召使たち(servants)… 執事(butler)… その夫人… 母家のそとの勤務のふたりの男(two outside men)… 運転手(chauffeur)… 園丁(gardener)◆ 社長の使用人の構成 p211 二ガロン… 四十マイルぐらい走れる◆ 自動車の燃費 p228 クロンダイクの“ゴールドラッシュ”よろしく(Another rush to Klondyke)◆ カナダ・ユーコン準州クロンダイク地方に起きたゴールドラッシュ(1896-1899)のことを言っているのだろう。 p236 カメラを持っていた(having a camera)◆ 当時の小型カメラのイメージはcamera 1927で。 p239 米国式の拷問のような… 尋問(questioning on the lines of American third degree) p245 玉突きのスヌーカー(snooker)◆ 英国で人気があり、今でもBBCで試合の中継があると言う。スヌーカー用のビリヤード台はポケットビリヤード台の倍の大きさというから、かなり広いお屋敷なのだろうか。 p250 プリマス◆クロフツ観光案内。エディストーン灯台も出てくる。 p251 二ポンド◆質屋が自転車で貸した金額 p252 きみの友だち(a friend of yours)… あの愉快なる若き楽観主義者、マックスウェル・チーン(cheery young optimist, Maxwell Cheyne)◆ このカナ書きだと気づかない人が多いと思うが、ここで『チェインの謎』の主人公がカメオ出演。「ばか(ass)」と二人から言われている。何かまたやらかしたのか。 p261 公衆電話のボックス(the boxes)◆ 駅に電話ボックスが数台並んで設置されているようだ。 p261 秘密摘発の権限(the authority to divulge)◆ 電話番号を聞き出す当時のやり方なんだろうか。 p261 一シリング貨(a shilling)◆1920-1936鋳造はジョージ五世の肖像、.500 Silver, 5.65g, 直径23mm。 p265 六ペンス銀貨(a sixpence)◆1920-1936鋳造はジョージ五世の肖像、.500 Silver, 2.88g, 直径19mm。 p271 ビビー会社(Bibby Line)◆ 英国の海運業者、1807年創業。Flintshireは架空の客船のようだ。 p281 なにか物悲しいメロディを口笛で(the whistling under his breath of a melancholy little tune)◆ 何の曲だか手がかりは無い p290 カラーとシャツにはアルゼンチン製のマーク(the Argentine marking on the collars and shirts)◆made in Argentineではなく、洗濯屋のマークのことか? p291 コロナ四型(a Corona Four)◆ 米国製タイプライター、ポータブルな機種。製造1924-1940。1927年に定価$60との情報がWebにあった。 p294 十シリングの札(a ten-shilling note)◆頼み事への御礼(タクシー代込み)、結構高額な感じ。当時10シリング札はTreasury Note(10 Shilling 3rd Series Treasury Issue) 1918-1933発行、138x78mm p302 ザ・ボルトンズ(The Boltons)◆翻訳では「競技場」としているがoval型の区域。高級住宅街のようだ。英Wiki参照 p302 勤労者階級のアパート(working-class flats) p303 制帽の鳥の羽(fine feather in his cap)◆feather in his capで「立派な業績」という慣用句。昇進して制帽に線が増えるみたいなことか、と誤解しちゃいました。 p307 ポケットから出したオートマチック(automatic pistol from his coat pocket)◆ 「背広上着の」ポケットからですね。ここは大きさを推測する手がかりになるので逐語的に翻訳して欲しいところ。 p308 懐かしい思い出のシーンが、彼の“心の目”の前を通り過ぎた(visions of scenes in his past life floating before his mind’s eye)◆日本語クリシェなら「走馬灯のように… 」 |
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| No.434 | 5点 | 狂った殺人 フィリップ・マクドナルド |
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(2023/07/19 04:24登録) 1931年出版。翻訳はとても安定していました。それに訳者あとがきが素晴らしい仕事。Avon 1965(翻訳の底本)とVintage 1984(初版と同じようだ)の異同部分を章ごとの概要ながら手際よく示している(なおKindle版[Collins 2017]は初版に基づくものだろう)。私はAvon版は米国人にわかりやすくするため作者が大きく手を入れたのでは?と想像したが、米国版初版はDoubleday Crime Club 1931に出版されている。 私は1930年代の英国生活の細部に興味があるので、初版の翻訳のほうが嬉しかったなあ… 本作は作者としては、新興住宅街というロウアー・ミドルの俗な人工コミュニティの人間模様が、殺人という原初的恐怖に蝕まれていくさまを描きたかったのでは?と思った。なので本格ミステリになりにくい作品。ゲスリンの関わらせかたをどうするのかなあ、と事前知識なしで読み進めてドキドキしてたら、ああなるほどね、という感想。こういう読者もいるので、そこら辺も含めてネタバレだと私は思ってしまう。他シリーズにもこういう例はあって、本作はいつもの探偵二人のうち一人は出てこない異色作、とか余計な情報を帯とか紹介文に書く出版社があるんだよ。読者としては、どこでそいつが出てくるのか?と読み進めたいのだから(作者の本来の意図もそーゆーことでしょ?)出版社自身がネタバレしてどうするの!と言いたい。 作品中に言及されるデュッセルドルフ事件が気になったので調べると、かなりグロい猟奇的連続殺人事件なんだね(Wiki “ペーター・キュルテン“が手っ取り早い)。作者が本作を執筆しはじめた頃は、キュルテン逮捕(1930年5月)の前かもしれない。本作の取り扱いは、実際の事件の猟奇的部分を非常に消臭していて、フィル・マクの通俗気質を良く示している(ラングの映画「M」(1931)を思いうかべていただきたい。あっちはヤバい)。『ライノクス』の原書(HarperCollins 2017)にフィル・マクの序文(1963)があり『狂った殺人』について言及があったので以下抄録。 「伝統的フーダニットの枠から外れた作品を書きたかった。デュッセルドルフ事件をヒントにした。簡単に書けるのでは?と思って始めたと思うが、かなり大変だった。どうやって犯人を追いつめたら良いのか、が難しかった。幸いなことに好評を博した(ミスター・カーがオールタイム・ベスト10に選んでくれた)。でも、今の時代にこの作品を執筆するなら、犯人がこの犯行を企てた背景やトラウマについて、薄っぺらい精神分析的なものを総動員して書き込まざるを得ないのだろう。でも当時は、事件だ!、犯人を追いつめて、捕まえて、それで終わり。それで良かった。」 さて、本作を読んだ感想だが、手がかりとかそういうのに期待しないで読み進み、警察は次にどうしたら良いかを考えながらハラハラしてページをめくり、ああその手は良いね、という感じで楽しめた。穴はたくさん開いてるように思う(特に物証についての言及が皆無。けれど、フィル・マクは物証を無視しがちなのでまあ良かろう、という感じ。それより気になったのは被害者関係者への眼差しが薄く、犯人対警察のゲームが中心となってしまって、スケールが小さくまとまり、結局、群衆劇としては竜頭蛇尾。Avon第12章(初版13章)の変更は初版のほうが次の出来事との繋がりが良かったと感じた。 まあでも、中途半端感が否めない。読後感もモヤモヤ。今回は『迷路』を読んだついでに、純粋パズラーをもっと読みたいなあ、という気分で読み始めた、という私的な事情もあってガッカリ気分が多めとなった。 以下トリビア。参照したのはVintage 1984、この本の奥付によるとフィル・マクは1958年にコピーライトを更新している(ということはこの頃に改訂版を完成させたのだろうか?) 作中現在はp26に記した通り矛盾があるが、初版を尊重して1930年としておこう。 価値換算は英国消費者物価指数基準1930/2023(83.63倍)で£1=15184円。 p8 定期… 緑色の四角い券(green, square pieces of pasteboard marked ‘Season’)◆鉄道の定期券。もしかして緑色は「三等」の意味なのかも。ロンドン鉄道の当時ものの画像で一等が赤、三等が緑のがあった p8 トレイラーハウスを変にいじくったようなバス(omnibuses looking like distorted caravans)◆「キャンピングカーを引き伸ばしたような」だろうか。トレイラーハウスというと米国西海岸1950年代のどでかいのをイメージしてしまう。英国では1920年代からcaravan(キャンピングカー)で出かける流行があった。Web記事“Early RV History (Part 3)”参照 p10 田園都市(Garden City)… 長髪の芸術家(long-haired artists)が住む街… ◆ガーデン・シティという語はチャラいので嫌い、といういかにもロウアー・ミドルっぽい感覚。 p10 レッチワース(Letchworth) p16 無言座(Mummers)◆劇団の名前だが「パントマイム役者たち」という意味。英国流パントマイムは無言劇とは違う。 p16 『古城の衛士』(the Yeomen of the Guard)◆ギルバート&サリヴァン p16 ホスピス(The Hospice)◆これは屋敷の綽名。英国では自分の屋敷に勝手な通称をつける。看取り専門病院と誤解されかねないので「安息荘、休息荘」などが良さそう。 p17 ベーデン=パウエル訓練所(Baden-Powell Drill Hall)◆ ベーデン=パウエル卿(1857-1941)はボーイスカウト&ガールスカウト運動(1906年ごろから)の創始者。 p17 プログレッシブ・ホイスト(Progressive Whist)◆ Progressive Whist or Compass Whist, is a competition format in which two players from each table move to the next table after a fixed number of games which are played to a fixed format e.g. with the designated trump suit changing each time.(英Wiki) p17 グノー『アヴェ・マリア』(Gounod’s ‘Ave Maria’) p17 ブリッジ p17 ローレルズ老人ホーム(The Laurels Nursing Home)◆ここは私立病院の意味だろう p18 賭け金なしのブリッジ三番勝負(rubber of wagerless dummy)◆直訳すると「賭け金なしのダミーのブリッジ三番勝負」なのでなんか違うと思って調べたが、わからなかった。ただの直感だが、三人ブリッジのやり方の一種かも。ここにいるのは夫妻と夫の友人だけなので、三人ゲームをしたものと思われる。ところで三人ブリッジのやり方をWeb検索したら、四人分配り、一人分はダミーとして13枚中8枚を表にしてから三人でビッドし、勝ったプレイヤーがダミーとペアになりゲームを進める、という方法があるらしい。これフェラーズ『その死者の名は』(p152)でトビーが言ってたやつかも(トビーは6枚しか表にしない、と言っていた)。 p26 十一月二十四日土曜日(Saturday, 24th November 193–)◆初版では193--年と明記されていたがAvon版では削除。この日付と曜日なら、出版年直近で1928年が該当だが、デュッセルドルフ連続殺人は1929年8月から。本作の事件は前日(11/23)に発生 p29 午後遅くの版… 夕刊◆当時の新聞は追加ニュースがあったら一日に何度も新版を発行していたようだ。これに関してメイスン『セミラミス・ホテル』でアノーが面白いことを言っている。 (以上2023-7-19) p35 ベビー・オースティン(Baby Austin)◆Austin Seven(1923-1939)のこと。1930年なら£130〜 p36 赤い腕章を着けた少年(The boy with the red brassard)… 特報の号外(Special extra) p36 六ペンス硬貨(sixpence)◆釣銭はいらんよ、と言っている。号外の代金は二ペンス(p43) p38 馬を止めて、牛乳配達車を(he halted his horse… the milk float)◆当時は馬引きだったんだ。画像はhorse drawn milk float で。配達員はa milk-roundsman 。 p38 「最上流階級」(‘Upper Ten’) p39 ブリッジ・パーティ p45 千ポンドの報奨金(reward of £500)◆初版では五百ポンドだった。1960年代には価値が30年代の三割程度になっていたから値上げしたのだろう。 p49 ブランドン事件(Brandon business)◆『迷路』(1930年7月発生)はBrunton事件。 p54 人それぞれ、やり方があるものですな(シャカン・ア・ソン・グー)(Chacun à son gout)◆初版ではKindly he translated: “Each man his own way…”と続く。『ライノクス』(1930)には”each man to his taste”の形で登場していた。 p59 <おはよう大麦>社(Breakfast Barlies Factory) p61 重役用階段(Directors’ stairs) p61 オームズさん(my dear ‘Olmes)◆H落ちの訛りだが、この翻訳でピンと来る?試訳「名探偵‘オームズ君!」 p62 ウーリッジ・ユナイテッド(Woolwich United) p64 アウトサイド・ライト(Outside Right) p72 警察車両のクロスリー(police Crossley)◆ベストセラーの14hp(15/30)か。£500程度〜 (以上、2023-7-22追記) p85 公共のガレージ(public garage) p86 エンスウッド(Enswood)◆架空地名。エルストリー(Elstree)のもじりかも p105 九時の集荷が最後(nine o’clock is the last collection)◆この町では21:30が郵便ポストから回収する最後 p116 三十ポンド(£30)◆ここはAvon版でも値上げしてない p120 上流向けのサルーン・バー(thé saloon bar)◆「上流向け」は翻訳上の付加。この居酒屋「ほったて小屋(The Wooden Shack)」は労働者向けのエリア(p63「パブリック・バー」)と上流向けのエリアで分かれているのだろう。毎日10時開店らしいので昼食も取れるようだ。 p120 フロリン銀貨(a florin) p123 最終版(Latest)… 直前版(Later)◆新聞のエディション p132 正餐を取る習慣のある、暮しぶりのちゃんとした男(the sort of chap one has to dinner and all that)◆「みんなから夕食とかに誘われるような良い奴」という意味かも? p145 痩せて浅黒い顔(lean brown face)◆目の色と眉毛が茶色なのだろう。p51でも「ランタン型の浅黒い顔(brown, lantern-shaped face)」と描写されている。なぜ何でも「浅黒い」にするんだろう p147 ダイムラー・サルーン(Daimler Saloon)◆高級車。当時ものならStraight-Sixか p171 夕闇がはっきりと兆し始める三時十五分(3.15 when the first signs of dusk would begin to evince themselves) p184 色黒の小男(a small and dark… little man)◆「黒髪の」 p188 二座席のシボレー(Chevrolet two-seater)◆Series AA CapitolかSeries AB Nationalあたり? p193 贋物(まがいもの)の街(this god-forsaken imitation suburb) p217 ブルズアイ・ランタン(a bull’s eye lantern)◆ bull’s eye lantern 1930で当時ものの写真が結構見つかる p234 アメリカン・サイクロペディア(American Cyclopedia)◆全47巻だという。この題名の百科事典は実在しないようだ。 p238 トレーラーハウス(the bleedin’ caravan)◆bleedin‘はオンボロの意味か (以上2023-8-5完結) |
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| No.433 | 6点 | 迷路 フィリップ・マクドナルド |
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(2023/07/16 04:06登録) 1931年出版。初出は何かの連載かも(関係のあったThe Evening Standardか?) 著者の「序」ですごくワクワクしたのだが、肝心の謎がショボいなあ… この設定だったらバークリーならいくらでも多重解決を捻り出しそう。フィル・マクは了見が非常に通俗なんだよね。だから映画界では良い仕事をしたんだろう。 まあでも私はインクエスト小説として非常に楽しめました。 以下トリビア。原文はCollins 1980(ジュリアン・シモンズの紹介文付き。Kindle版と同じ内容のようだ) 余談だが、シモンズは「読者への挑戦」系作家としてEQ、JDC、バークリー、クリスティ、C・デイリー・キングを挙げている。 作中現在はp9、p15から1928年か1930年。曜日は気にしないのが当時の英国作家の通例なので出版年を考慮すると1930年が一番適切か。 価値換算は英国消費者物価基準1930/2023(83.63倍)で£1=15184円。 p5 推理の練習問題(‘An Exercise in Detection’) p5 検視裁判の判事である検視官(the Coroner)◆「検視裁判の判事」は訳者の付加だが、誤り。インクエストは裁判(誰かを裁く場)ではないし、検視官は判事(裁判官)ではない。検視官はインクエストの主催者で、証人を尋問する役目だが、判決は下さない。インクエストでは陪審の評決がそのまま結論となる。なおインクエストの評決は刑事上、民事上での効果は及ぼさない。ただし殺人犯が示された場合は裁判の訴追手続と同格のようである(ここは詳しく確認していないが、大陪審で訴追されるのと同じらしい)。いずれじっくり当時のインクエストについて書きますので、気長にお待ちくださいね。 p6 探偵小説(detective fiction) p6 アンフェア(unfair) p9 一九三X年七月二十四日◆私が参照した原文では、この日付は14th Julyとなっていた。p11、p12やp123から原文は誤りと考えて、訳者が補正したのだろう。 p11 警視総監(the First Commissioner of Police) p11 七月十一日から十二日にかけての深夜◆事件の日付。 p11 この事件(—near Kensington Gore of all unlikely places!— a case)◆事件発生の地名が冒頭で明記されていたが、翻訳ではカット。数行後に「ケンジントンの高級住宅地で」とあるのでまあいいか。でもKensington Goreの方が具体的。(2023-7-17追記) p11 推理小説の定石(the canons of the best ‘mystery fiction’) p12 数週(few weeks)◆この事件は数週前のものだという。となると手紙の日付が14日というのはどう考えても早すぎる p12 月面のマスケライン山やクック平原(Maskelyne and Cook’s)◆ここは誤り。John Nevil Maskelyne(1839-1917) & George Cooke(1825-1905)のマジック・ショーのことだろう。1870年代から世紀末にかけてピカデリーのエジプシャン・ホールで興行した。なお月面クレーターのマスケラインは1935年命名らしい。 p12 全能の神は、みずからもちあげられない石をつくることができるか(If God is omnipotent, can He make a stone so heavy that He can’t lift it?)◆ 神の全能という特質に関して古くから良く知られた矛盾文。Wiki「全能の逆説」参照 p15 L1区(L.I.)◆ Web記事「1888年の「シティ警察とスコットランド・ヤード」の警察官の人数」によると“L”はランベス管区だが… この巡査の巡回地区らしいスチュクリイ・ロード(Stukeley Road)は調べつかず。Stukeley Streetならロンドンに実在するがランベス地区ではない p15 全能の神にかけて、法廷では真実を述べ、何ごとも隠さず、何ごとも付け加えないことを誓います(I swear by Almighty God that what I shall say in evidence in this Court shall be the truth, the whole truth, and nothing but the truth)◆宣誓の定型文。なお日本語の「法廷」は裁判所の意味となってしまうから、誤解を避けるためインクエストの場合の訳語は「審問廷」「審廷」を提案したい。(王室関係でcourtなら「宮廷」と訳しますよね) p15 七月十二日木曜日(Thursday last, the twelfth of July)◆出版年直近では1928年が該当。未来で良ければ1934年も該当するが… 万一、これが六月(June)の誤りなら該当は1930年。 p25 ブリッジ(bridge) p31 陪審長のほうから正式に質問(if you would get the foreman to put the question formally…)◆検視官が証人に対する質問はないか、と陪審に確認し、陪審長がある陪審員の疑問を代弁して質問している。p34では陪審員が直接質問している。 p39 聖書に手を(hold the Book) p40 警察(サツ)を(a roz—)◆ついrozzerと言いかけて途中でやめた感じ p55 本法廷に宣誓証言を強要する権利はありません(this Court has no power to force you to give your evidence under oath) p61 面食い(did have taste) p62 パジャマ姿(in pyjamas) p64 約三十万ポンド◆約46億円 p64 昼食のため休憩… 休憩時間は四十五分に短縮(adjourned for luncheon…. to shorten the recess… in forty-five minutes’ time) p83 氏名(full name) p84 警察と法廷は別(police has not … to do with this Court) p86 ジュ・ルギャルド・セ・サル…(je regarde ce salle…)◆フランス語。「あの部屋を見ている。」ただしsalleは女性名詞なのでcette salleかces salles(複数形)が正しい。「セ・サル」としているのは後者の解釈で翻訳しているのか。あるいは形容詞sale(salleと同音、意味は「嫌な」)+[男性名詞]の言いかけなのかも。そうなると発音は「ス・サル」が正しくなる。文脈からは後者が適切だろう。(私はじっくり考えています、あの嫌な…[補うならtémoignage(証言)など]というような意味になる)こういう時、カタカナ表記だと復元が難しいので原綴のままが一番良いと思う。 p95 書状(document) p101 パークハースト刑務所(Parkhurst Prison)◆ワイト島にあるHM Prison Parkhurstのこと。 p102 ラジオが古くなったので(to get rid of our old wireless set)◆英国で正式にラジオ放送が始まったのは1922年。 p106 蒸気をとめる栓(thteam tap)◆ここでは話者が訛っている。正しい綴りはsteam tap、この蒸気は何に使うんだろうか。 p123 十日間(ten days)◆このインクエストの経過日数。そんなに日数を要するほどの証人調べが必要だったとは思えないのだが… それで、このten daysを具体的な日数ではなく「多くの日々」という意味だと解釈すると、「二日前には(two days ago)思いもしなかった」という数行後のセリフが気になる。文脈からこれは二日目の関係者への再質問開始の頃を言っているのでは?と思った。となるとインクエストの全経過期間は四日(三日かも)、こっちの方がしっくりくる。 (以下2023-7-17追記) p133 判事に黒帽子をかぶせる(give-a-man-a-black-cap-and-hand-him)◆黒帽子は死刑宣告時に裁判官がかぶるもの。 p134 よくできた探偵小説(a very good detective story)… 二十九章の“クローリイ・ウァームの説明---誰がハーマイオニ嬢を殺したか”(Chapter XXIX — ‘Crawley Worme Explains’ — who did kill Lady Hermione)◆細かい点だがイチャモン。章のタイトルは「クローリイ・ウァーム説明す」まで。その章の中の「誰がやった」と指摘する場面という事。探偵の名前が酷い。意訳すれば「ハイマワール・ミミズーン」 p135 一般的に裁判所の連中は頭のできがあまり良くない(seem quite such a fool as coroners generally are)◆原文は「検視官」に限定している。当時の検視官は選ばれたらほぼ終身身分であり、職務を監督する上席者はおらず、検視審問では(評決を除き)独裁権を有していた。運営ルールの詳細も漠然とした法と手引きがあるだけで、検視官相互の調整も無きに等しかった。 p139 料金前払いの海外電報(a special prepaid telegram)◆ここら辺、ある性向に関する説明を暗示してるのだろうか?(私は翻訳の初読時、その可能性を排除できないのでは?とちょっと思った) 何故かすぐ前の原文 He was, as sticks out very plainly from the evidence, a very decent person of his kind.が翻訳漏れ。試訳: 証言から全く明らかだと思うが、彼はその点では非常にまともなタイプだ。 p146 評決は無罪、さもなくば◆この語句は原文に付加しており、全く不要だと思う。全削除した方が意味が通じる |
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| No.432 | 6点 | ゴルゴタの七 アントニー・バウチャー |
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(2023/07/01 16:00登録) 1937年出版。田中西二郎さんの翻訳は堅実。丹念に記された多くの割注がめんどくさい無駄話がてんこ盛りという本書の特徴を示しており、あまりに多いので訳注を章末にまわしたところさえある。現代ならWeb検索があるので原綴だけ示してもらえればオッケーなんですが… バウチャーは出版時26歳、ということは書いたのは24歳くらいか。いかにも若さ溢れる青春学園ミステリ。カリフォルニアの陽光のなか、バークリー校で繰り広げられる事件、美女や酒や小演劇が繰り広げられます。サンスクリット語の教授(しかも6歳を越えた女が嫌い)という奇を衒った設定が若さゆえの過ちで、結局シリーズにはならずじまい。当時のバウチャーは何者でもなく、この長篇は出版社に多数送られていた応募原稿の束の中から見出されたもの。でも、明るい未来を信じている若さで、読後感は良い。バウチャーの趣味も良くて、なんせ大好きなレトバーグ(p26)が言及されているので、一発で信頼しました。シナモン・トーストやフレンチ・トーストの秘伝なども、ちょいと明かされます。 ミステリとしては、小器用にまとまった優等生らしい作品。ああ、なるほどね、と思わせる緻密な構成物件だが、物足りない。推論も常識の範囲に収まっている。人物描写はなかなか上手く書けているが、きっと具体的なモデルがいたんだろうなあ。小劇場の雰囲気は良く出ていて、インサイダーならでは(バウチャーは大学時代から演劇活動をしていたようだ)。私はそういう大学生活を送ったことがないので、いいねえ、というやっかみ半分の感想だが、著者は大学で十分に楽しんだんだろうなあ、と思いました。 以下トリビア。原文はMysterious Press 2019 p5-6 献辞と著者の注意文◆いつもの「小説中の人物や出来事は完璧な虚構だよ」という注意書きなのだが、この本を捧げたDr. Ashwinだけは現実からそっくり借りて来て、その名前は「博士自身の名のサンスクリット訳」(a Sanskrit translation of his own)と書いている。正体はProfessor Arthur William Ryder(1877-1938)だとネヴィンズJrから教えてもらいました。 p8 カリフォルニア大学(University of California)◆原作どおりの登場人物紹介が良い p10 クラブ・カクテル(crab cocktail)◆日本ではカニ(とアボカド)のカクテルサラダで通用しているようだ p10 ヴァン・ダイン(Van Dine)◆ここは同感。 p11 バークリー◆カリフォルニア大学バークリー校(University of California, Berkeley)のこと。バウチャーの母校はUSCだが、バークリー校にも特別研究員(fellowship)で参加していたようだ。 p11 ラ・ファヴォリット(La Favorite)◆実在レストランか?調べつかず p11 氷かき(ice pick) p13 フェアプレー(fair play) p14 『エドウィン・ドルード』(Edwin Drood)… プッファ公爵夫人(Princess Puffer) p15 セイザー門からテレグラフ・アベニュへ出ようと(through Sather Gate onto Telegraph Avenue) p15 ジェイン・K・セイザーこれを建つ(エレクテッド)ERECTED BY JANE K. SATHER◆この銘は現在でも残っている p16 マックス・ファクターの化粧品 p20 狐に… 一番うまいところへ噛みつかれているスパルタ少年(the Spartan boy just as the fox reached the juiciest tidbits)◆スパルタの少年が狐を盗む話(プルタルコス)のこと。私は全然知らなかったが、注釈なしなので一般に広く知られている? p21 ファイ・ベタ・カッパの鍵(Phi Beta Kappa key)◆ググると画像が出てくる現代は翻訳に便利だなあ。昔から名前だけは知ってたが、こういうやつだったのか。もちろんバウチャーも会員に選ばれている p21 色の浅黒いボリビア人(a swarthy Bolivian) p25 英語って、悪魔の言葉だから(It’s the devil’s own language)◆いろんな言語を知っているバウチャーだから、発音も文法も多様でルーズな英語は悪魔の言葉だと思えるのだろう。 p25 アリバイ p26 フーゴー・ウォルフ・ソサエティのキプニスとレトバーグ(An album by the Hugo Wolf Society. Kipnis and Rethberg singing)◆1934年9月〜12月録音のHugo Wolf Society Vol. 4(SP五枚組)のことだろう。発売は1935年と思われる。全てヴォルフ「イタリア歌曲集」から数名の歌手(他はRia Ginster, Gerald Hüsch)が歌っている。出たばかりのレコード、というので作中現在は1935年春のはずだが…(p31参照) p26 電蓄(The phonograph was an electric model)◆1925年に電気録音技術が確立され、レコードの音質は段違いになった。 p27 『臨港列車殺人事件』(The Boat Train Murders)◆架空の探偵小説。ボート・トレインとは「船車連絡列車…船と連絡を図る目的で港へ乗り入れて運行された列車」のこと。臨港線、臨港列車とも。Wiki “ボート・トレイン”参照。 p30 『あいつを打っ倒せ』(Blow the Man Down)◆19世紀のhalyard sea shanty(船乗り作業歌) p30 『イギリスの私生子王』(The Bastard King of England)◆ a bawdy English folk song、記録上の初出は1927年だという(Wiki情報) p30 アントニー・クレア(Anthony Claire)◆調べつかず。架空人名か p31 四月六日金曜日◆出版年の直近では1934年が該当。p26とは矛盾。 p31 パノラミック・ウェイ(Panoramic Way) p39 外套を着た背の高い男… 葉巻を持った?(a tall man in an overcoat…With a cigar?)◆デカの伝統、ということだろう p41 浅黒い肌(dark skin) p42 チャニング・ウェイ(Channing Way) p42 ティーチャーズ・ハイランド・クリーム(Teacher’s Highland Cream)◆1830年創業のスコッチ・ウイスキー p42 ライダー・ハガードのズールー王朝に関するロマン(Rider Haggard’s epics of the Zulu dynasty) p43 女性に対する反感(aversion to women)◆博士は実在の写し絵、ということは、博士に関するあらゆるエピソードは実際の話なのだろう。 p43 シュニッツラーの女たらしの中尉(the ruthlessness of a Schnitzler lieutenant)◆愛読者でないので、どの作品かはわからず p44 ハガードの『結末』(Haggard’s “Finished”) p45 客に自分で酒をつがせる(allows his guest to serve himself)◆私も手酌派 p45 バック・ロージャーズ(Buck Rogers) p45 金曜で肉食(Friday… in eating meat)◆このカトリックの戒律は本来Lent (四旬節)の毎金曜日に適用される肉食断ちのこと。だからその前にカーニバル(酒や肉をたっぷりで楽しもう!)がある。一年を通して金曜日には肉食断ちをする信者もいるようだ p47 電気冷蔵庫の普及している現代に(in these days of electric refrigeration)◆この感じだと、もう既に米国では普通の家庭にすっかり普及している感じ。 p49 テニソン・ジェス(Tennyson Jesse)◆ “Murder and its Motives”(1924)は1800年からの英米の殺人事件の動機を分析した古典らしい。 p52 原著者注◆こういう注釈は好き p55 日曜新聞(Sunday newspaper) p55 オートミールとポーチド・エグズ(the cereal and poached eggs) p55 ニューマン・ホール(Newman Hall) p56 カトリック p60 I say… What… blasted◆英国風の表現のようだ p63 異端◆著者はこういうのが好きなんだろう。ボルヘスに惹かれたのも実にわかる p68 晩餐に二度招んであげなきゃ…(Two dinner invitations …)◆二回続けてのディナー招待はなんだか不都合らしいのだが… 調べつかず。 p75 メキシコ映画◆Wiki “List of Mexican films of the 1930s”をみたがおなじみなのはなかった… p87 二十ドル紙幣(twenty-dollar bills)◆1928年以降はアンドリュー・ジャクソンの肖像。サイズ156x67mm p90 すべての謎が“子供の父親”親子関係という問題からなる小説… もっとおもしろいのは謎の強姦だ(the entire mystery should consist of such a question as paternity. Better yet, a mysterious rape)◆後段はかなり趣味の悪い話だと思うが… もしかしてNancy Titterton強姦殺人(1936年4月)を連想したのかも p91 アーサー・マッヘンは “イズリングトン事件”に関する短い研究のなかで(Arthur Machen, in his brief study of the Islington mystery)◆マッケンの有名な短篇小説のようだ p96 メリック湖(Lake Merrit) p100 カルマン(Kalman)◆ Emmerich Kálmán(1882-1953) ハンガリーの作曲家 p102 ”ザーリ“ ワルツ(Sari waltz)◆ カルマンのオペレッタDer Zigeunerprimas(1912)から。えらく音質の良い1928年録音のIrwin Schloss and Edison Concert Orchestra の演奏が某Tubeにあった。 p103 Las Cuatro Milpas(四つのトウモロコシ畑)◆Lydia Mendozaの1928年の演奏が某Tubeで聴ける。 p107 ”町の居酒屋(タヴァン・イン・ザ・タウン)”(Tavern in the Town)◆ There is a Tavern in the Town、伝統的な大学歌。印刷初出1883 p111 脇役(ストウージ)stooge◆間抜けな引き立て役 p114 ぼくはどんな場合にも帽子を冠らない(I never wear a hat)◆そういう時代になりつつあったのだろう。バウチャーも反帽子派かも p122 スケートで走っている若いファシストたちを避ける(to avoid the rapid career of a youthful fascist on skates)◆イタリア人がローラースケート(1930s-1950s流行あり)で走り回っていた、という情景か。原文では「たち」ではなく一人 p129 “死の休暇”(Death Takes a Holiday)◆架空の演劇のようだ p143 誰をば(whom)◆whoにその地位を奪われつつある単語のようだ p149 エール錠… 自動的にかかる掛け金の装置がない(Yale locks … there’s no catch to make them lock automatically)◆もう既に自動ロックの仕組みがあったんだ! p153 ターリアン(Thalian)◆この語はローカルな通用語かも。 p159 映画の中の水兵さんみたいだった(like the Marines in the pictures)◆ここの流れだと「映画で海兵隊が到着した時みたいに」かなあ。ヒーローがやっと登場!というイメージのような気がする p160 わが望みいと高く(My object all sublime/I shall achieve in time:/To let the punishment fit the crime,/The punishment fit the crime)◆ギルバート&サリヴァンの『ミカド』より p160 密蜂(ラ・アベーハ) La abeja ◆1862-1870にBalceronaで発行された文芸雑誌のようだ。La abeja : Revista científica y literatura ilustrada, principalmente extractada de los buenos escritores alemanes por una sociedad literaria p161 「運命のラ・フォルザ」(La Forza del destino)◆ヴェルディ『運命の力』、呪われたオペラとの評判があったようだが、詳細は調べてません p169 色の黒い小男(the small dark man)◆これは「黒髪」 p171 不明の一人もしくは二人以上による謀殺(wilful murder by person or persons unknown)◆インクエストの決まり文句。 p171 検屍陪審員の評決は形式的なことであり、検察捜査上なんら法的影響力を有するものではない(The verdict of the coroner’s jury was a formality, with no defined legal standing as a finding of facts)◆なのでニューヨーク市では1918年に検屍官制度&検屍審問を廃止し、医療専門家が死因を分析するメディカル・エグザミナー制度にしている p172 ボロー学者… ボローびいき(Borrovian… Borrowgove)◆ルイス・キャロルのBorogoveをもじった語か。Borrovianaという語はブッシュ『完全殺人事件』(1929)にも出ていた。 p174 リディア・シャーマン、サーラ・ジェーン・ロビンソン、ジェーン叔母さん(ディーヤ・アント・ジェーン)と呼ばれたトッパン(Lydia Sherman, Sarah Jane Robinson, ‘dear Aunt Jane’ Toppan)◆ いずれも訳者は「資料が手に入らず不詳」としているが、現代にはWebがある! Lydia Sherman(1824-1878)はThe Derby Poisonerと呼ばれた米国の連続殺人犯(砒素)。Sarah Jane Robinson(1836-1906)は人呼んでThe Boston Borgia、米国の毒殺魔(砒素)。Jane Toppan(1854-1938)も米国の毒殺魔(モルヒネなどを混合した薬物)。全員英Wikiに項目あり。 p176 ライダー・ハガードとアンドルー・ラングの”The World’s Desire” p177 アカデミー賞の噂のある映画… ユナイテッド・アーティスト劇場… 三人のスターが出演… 上演時間が110分(United Artists Theatre to see a film already being mentioned for the Academy award. It had three stars, ran a hundred and ten minutes)◆Wiki “List of United Artists films”を見ても該当がなさそう。この劇場でMGM作品も上映してたようなのでメキシコ繋がりでViva Villa!(「奇傑パンチョ」1934-4-10公開、118分、パンチョ・ビラの話)でどう? p177 バンクロフト通り(Bancroft) p178 されど背にはつねに声ありて…(But at my back I always hear…)◆Andrew Marvellの著名詩 “To His Coy Mistress”(1681)より p178 淋しき道を一人行く…(… one that on a lonesome road/Doth walk in fear and dread,/And having once turn’d round, walks on,/And turns no more his head;/Because he knows a fearful fiend/Doth close behind him tread)◆ Samuel Taylor Coleridge作“The Rime of the Ancient Mariner”(1798)より。この一節の版画イラスト(有名なもの?)がWebにあった。 p180 ヴァンス式(the vance method) p180 グラン・マルニエのグラス(glass of liqueur Grand Marnier) p181 シナ劇場(Chinese Theatre)◆サンフランシスコの話題なのでハリウッドの有名なチャイニーズ・シアターではない。中華街のあったS.F.には数軒の中華オペラ(京劇か)を上演する劇場があったようだ。(Blog “FoundSF”の記事Rexroth's Old Chinatown参照) p181 例のいつまでも終わらない芝居(endless performance) p182 M・P・シールの看護婦探偵(M. P. Shiel’s nurse-detective)◆調べつかず。看護婦探偵というとM・R・ラインハートのヒルダ・アダムズ(初登場1914)が有名だが… p188 『農民』を上映している映画館(a theatre at which was showing Peasants)◆1934年のソビエト映画、Fridrikh Ermler監督 p189 “ネーション”の購読者(subscriber to The Nation) p189 “デーリー・ワーカー”を一部(a copy of The Daily Worker) p193 ステュアート・パルマーとアール・スタンリー・ガードナー… ジョン・ディクスン・カー◆パーマーの高評価がかなり意外だった。なので長篇『ペンギンは知っていた』を発注しちゃいました(みんな1930年ごろ長篇デビューのほぼ同期生なんですね)。 p198 ベルンシュタイン(Bernstein)◆1907創業の有名レストランBernstein's Fish Grottoのことだろう(英Wiki) p198 ロブスター・ルーイ(lobster louie)◆ロブスター・サラダのようだ。カニで始まりエビで終わり。 |
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| No.431 | 6点 | 闇からの声 イーデン・フィルポッツ |
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(2023/06/23 02:55登録) 1925年出版。 フィルポッツさんは観念的なところがあり、頭で妄想を膨らませるタイプ。実際にやってみると計画時点では想定していなかった思いもよらないアクシデントがいろいろあるんじゃないかなあ。そこらへんがやや不満だけど、語り口が巧みなので、あまり気にならなかった。フィルポッツお馴染みの先回り文とか、そういう一昔前のテクニックが折角の進行に水を差している。作者自身は古臭いとは全然思っていないのでしょう。他の評者さんも指摘しているが、三人称の視点が重要なところで一瞬切り替わるのが特に良くない。何か効果が高まっているなら別なんだが… 前述の先回り文と同様、古めかしさを感じてしまう。 まあでもそれ以外は冗長なところや無駄な議論も無く、スッと読める。主人公の義憤にどれだけつきあえるか、で評価は変わってくる。この主人公、こういうとんでもない行動を平気でやるタイプなら現職の時はかなりヤバイ奴なのでは?と思っちゃうと物語自体が阿呆らしくなるだろうけど、私は現職時に感じていたが仕事としてはそこまでやれないよ、と抑圧していたものがここで出ちゃったのかも、という解釈で乗り切りました。 実は本作『灰色の部屋』(1921)と構成要素が共通していて、一種の姉妹編だと感じた(どちらにもサルバトール・ローザ、ゴビノー、アンドレア・デル・サルトへの言及がある)。両方ともオカルト否定の話で、当時の英国の(ドイルなどが有名だが)心霊主義の流行に対して、(WWIで身内を失った、というショックが原因だろうから)同情はするが、煽動して利益を得ていた者たちのことは快く思っていなかったんだろう、と感じた。 以下、トリビア。 第一次大戦から少なくとも3年以上は経過している感じ。作中現在を確定できる記述は見つからなかったが、発表年から考えて冒頭は1923年11月としておこう。 価値換算は、英国消費者物価指数基準1923/2023(77.37倍)で£1=14004円。 p9 十一月 p9 ブリッドポート(Bridport)◆ 冒頭のホテルの近くの町。英国ドーセットに実在する。 p9 五十五歳(five and fifty) p11 窓… 普通のさし錠で締りを(window fastened with the usual bolt) p12 革製の書きもの台(leathern desk) p14 付添い(her maid)◆ コンパニオンではなかった。確かに食事には同席していないので使用人の立場なのだろう。 p19 ドアに掛金を掛け直し(locked the door again) p23 気つけ薬(smelling salts) p34 トランプ(a little card game) p35 自分だけの鍵をどこかに持っていない人間なんかいない(There’s very few folk—men or women—that haven’t a private key somewhere!) p41 人名録(Who’s Who) p66 ブリッドポート人名録(Bridport directory) p66 ブリッドポートの歴史◆ フィルポッツさんの観光案内コーナー p75 彫刻した象牙細工(Carved morsels of ivory) p76 年に500ポンドの収入… 1万ポンドていどの資産 p81 家には700ポンドかかった◆ バンガロー・タイプの一軒家 p83 シェラトン風の…書棚(Sheraton bookcase)◆ Thomas Sheraton(1751-1806)英国の家具製作者。英国家具デザイナーのビッグ3の一人と言われているようだ。(他はチッペンデールとヘップルホワイト) p84 サルヴァトール・ローザ… エドガー・ポー(Salvator Rosa… Edgar Poe)◆ おぞましい怪奇の代表。 p96 態度にもぽきぽきしたところ(her manners were abrupt)◆ この表現、橋本さんのワタクシ語なのかなあ。普通なら「ぶっきらぼうな」 p97 『ガリヴァー旅行記』(Gulliver’s Travels) p101 千里眼(second sight)◆ 英語の定義を見ると「予知[透視]能力」という方が近い感じ。 p103 ブロマイド(bromide) p132 ゴルドーニ(Goldoni)◆ 彫刻細工師としては見当たらず。架空人名だろう。 p132 六百ドル(six hundred)◆ ケアレスミス。もちろんここはポンド。 p133 六月 p146 細工師たち◆ いろいろ名前が出てくるが、調べるのが面倒なので原綴りだけ示しておく。Vicentino, Bernardo, Du Quesnoy, “the Fleming”, Zeller, Leo Pronner, Van Obstal, Kern p149 デーヴィッド・リッチョ(David Riccio)◆ スコットランドの女王、メアリー・ステュアートのイタリア人秘書官(c1533-1566) 女王に寵愛されたため、食事中に女王の眼前で惨殺された。 p152 悲劇的(tragic) p155 マキャベリー、ゴビノー、ダヌンチオ(Machiavelli, Gobineau and d’Annunzio)◆ゴビノーは『灰色の部屋』で主要登場人物がべた褒めしてるので、フィルポッツさんもアッチの人か?と思ったが、本書では悪党が大好きな思想家、という位置付け。 p161 フローレンス… いつも見に行く絵… アンドレア・デル・サルト… 母のことを思い出させてくれる… もう一つ、フラ・バルトロメーオのキリストの遺骸を描いた絵(a dead Christ)◆ 絵はAndrea del Sarto(1486-1531) Madonna delle Arpie(1517)とFra Bartolomeo(1472-1517) Compianto sul Cristo morto(Pietà di Pitti)(1512)のことだろう。いずれもウフィツィ美術館所蔵。 p164 アレッツォの祭壇のスピネロの『悪魔』(リュシファ)(Spinello’s ‘Lucifer’ in the altar piece at Arezzo) ◆ Spinello Aretino(c1350-c1410)、Luciferの原画は現存していないようだ。 p164 ドレスデンのバルテル(Barthel of Dresden)◆ ドレスデンの彫刻家Melchior Barthel(1625-1672)か。ちょっとググったが、それっぽい作品は見当たらなかった。 p165 大型車(the big car) p171 サン・ゴタルド・トンネル(St. Gotthard Tunnel)◆ スイスの鉄道トンネル。1882年開業、1920年電化された。 p174 パナマ帽子(Panama hat)◆ 名前に反してエクアドル起源の帽子。 p186 捕鯨者(whaler) p189 検死尋問(inquest)◆ イタリアでおきた出来事だが、インクエストがあったような記述になっている。多分、言葉通りインクエストが開催されたということではなく、当局の死因調査があった、というような意味なのだろう。作者がうっかりイタリアに英国の制度を持ち込んでしまった、という可能性もある。 p200 ミネルヴァ・ホテル(Minerva Hotel)◆ 1869年開業のGran Locanda della Minerva(現在のGrand Hotel Minerva)のことだろうか。 p210 ボローニャ、カヴール・ホテル(Hotel Cavour, Bologna)◆ 実在のホテルでそれっぽいのがあった。(Piazza Maggioreの近くでVia Goitoに面しているようだ) p242 タイムズ紙の『宮廷記事』(The Times, under ‘Court Circular.’)… 召使頭(butler)が出す◆ 貴族の動向は執事が新聞に知らせているのですね… 当時のイタリアでは英国の新聞は翌日に届くようだ。航空便か。 p243 アメリカ人のたくみな表現… 『虫のしらせ』(hunch) p245 ルガーノのヴィクトリア・ホテル(Victoria Hotel, Lugano) ◆ ルガーノ湖畔に1884年開業の同名のホテルがある。 p255 うそ(false)◆ ここで視点を変える必要はなかったのに、と思う。サスペンスが台無しだ。 p276 イシュリアルの槍のひとふれで(At the touch of Ithuriel’s spear)◆ Ithuriel はMilton “Paradise Lost”に出てくる天使の名前で、イヴの耳の近くにいたヒキガエルみたいなのをサタンと見抜いて槍で刺して正体を暴いた。 p285 にせ者(a wrong un)◆ unはoneのことらしい。 p285 私立探偵(a private inquirer)◆ 英国ではinquirerという用語が一般的だったのかも。 p289 夜間用のベル(night bell)… ベルの音(the electric bell)◆ 辞書にnightbell「《英》(特に医者の家の)夜間用ベル」という意味が出ていた。なるほどね。 p291 手紙 p303 お役所主義(red tape) p310 一週間も続くいい映画(the beautiful moving pictures that go on for a week)◆ 当時は続き物の映画があった。1タイトルあたり12~15エピソードで構成され、1エピソードの上映時間はだいたい20分。映画館では1日1エピソードを繰り返し上映し、1週間で次のエピソードへと進む、というもの。パール・ホワイト主演の連続活劇映画『ポーリンの危機』(1914)が有名。 p311 われわれの言葉を使えば、鳴りをひそめ(lay doggo, as we say) p321 道化芝居(burlesque)◆ ここに出てくる劇場名は架空のもののようだ。「バーレスク」というエンタメ・ジャンルはWiki “ヴィクトリア朝のバーレスク”に詳しい。その記述を読めば、この場面の発言がああなるほど、と思えるはず。ただし1930年代以降の米国でburlesqueといえば、ほぼストリップ・ショーと同義。ジプシー・ローズ・リーの英Wikiの紹介でも真っ先にan American burlesque entertainerと紹介されている。 |
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| No.430 | 6点 | 100%アリバイ クリストファー・ブッシュ |
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(2023/06/22 18:33登録) 1934年出版。トラヴァースもの第11作。 みなさん評価が低いなあ。翻訳も古くて読みづらい、という評判。でも私は気に入りました。翻訳文体の古風なところが私の好みで、誤訳もあんまりない(下で数々のイチャモンをつけているが、特に目についた意味不明物件を挙げただけ)。全体的に翻訳水準は高く、私には読みやすかった。 作品自体も結構面白い。私はブッシュ作品=長篇化した迷宮科事件簿、だと感じていて、本作は展開がなかなか起伏に富んでいる。全部小ネタなんですけどね。本作や『完全殺人事件』は凄い大ネタを期待してしまうタイトルなので、がっかりしちゃう人も多いだろうことは十分に想像がつく。 まあでも堅実で皮肉っぽい英国人ブッシュさんの地味な作風を理解していれば、よく工夫された作品だと思う。今回参照した原文(Dean Street Press 2018)にはブッシュさんの私事がまとめられていたので、簡単に書くと、父は貧農、生まれた日はクリスマス、幼い頃ロンドンの裕福な叔母世帯に引き取られたが経済状態悪化で7歳のとき実家に帰された。貧しいながらも教育熱心な母のおかげで立派な教育を受けたが、ケンブリッジ大学には進めなかった。学生時代、クリケットの優秀プレイヤーだったようだ。WWIでは従軍四年(一年間エジブト)、結婚は3回(いずれも女教師)、二度目の結婚時に息子(著名な作曲家Geoffrey Bush)をもうけたが、ブッシュは息子を認めず、その息子が長じて父に手紙を出したときには、読まずに返送したという(英Wiki“Geoffrey Bush”のページには父の名前は明記されているものの、探偵小説作家という言及なし。Christopher Bushのページもない。日本語Wikiにもなかった)。三度目が『完全殺人事件』の献呈相手Marjorie、二人の間には子はなかった。 さてトリビア。 作中現在はp11、p27、p127、p145から1931年3月初旬の水曜日(4日か11日)が冒頭の事件発生日。なお私が参照した原文の作品解題では根拠がわからないが事件発生日をMarch 13と書いている。(1929年説か?) 価値換算は英国消費者物価指数基準1931/2023(87.15倍)で£1=15774円。 p9 シイバロ(Seaborough)◆架空地名かと思ったら、ドーセットに同名の村がある。 p9 ロンドン警視庁(Scotland Yard) p10 北の遠国(the North) p10 デイリー・レコード紙◆『完全殺人事件』でもおなじみの架空新聞。 p10 英国飛行家に向って、往復百時間、大西洋横断飛行(the first English aviator who should fly the Atlantic, solo, both ways inside a hundred hours)◆Daily Mail紙は1906-1930に様々な懸賞金付き飛行賞を企画している。 p11 三月初旬のあの水曜日(Wednesday evening of early March) p11 土地の夕刊ビーコンの六時版(the six o’clock edition of the Seaborough Evening Beacon)◆欧米の新聞は朝刊か夕刊のどちらかに特化している。夕刊の方が格が低いイメージ。そして一日に数回発行されていたらしい。この新聞の詳しい話はp192に書かれている。当時ラジオ・ニュースは夜6時が最後だったようだ。 p12 カクテル酒場(the cocktail bar) p13 警戒燈の赤い灯が列って(a warning line of red) p13 火鉢(a brazier fire)◆バケツに燃料を入れ火を起こして暖をとっている p13 ビックルシャム(Bicklesham)◆調べつかず。架空地名だろう p17 不宿屋のウェーター(lodging-house waiter)◆「下宿屋」の誤植か p20 ラジオへ出るプッツ(that chap Putts on the wireless)◆調べつかず。 p22 ろくでもない版画(mediocre prints) p23 時計か鍵束(either a watch on it or a bunch of keys) p24 本職の軍人ではなかった(he wasn’t —— officially) p24 ほんとの夫婦中ですか?(what they call a ‘married couple’?)◆このセリフで思ったのだが、召使の男女ペアは事実婚が多かったのだろうか? p26 鍵の必要はないわけか(didn’t bother to take the keys)◆ これをどうやって開けたか、翻訳を読んだ時にはわからなかった。扉を鍵だけで開けるタイプで、p23の鍵を奪って、扉を探して開けたのち鍵はささったまま残っていた、という状況なのだろう。作者は説明を省略しがち。試訳「もう鍵を持ってゆく必要はなかったんだな」 p27 もう十二年からになります(Over twelve years now) p28 カルタ(cribbage)◆このゲームは『完全殺人事件』にも出てきた。 p29 木球戯(ボウル) bowls◆ ボウリングではなく別名lawn bowlsという屋外スポーツ。wiki「ローンボウルズ」参照 p29 カルタの独り遊び(patience) p29 電話帳(on the phone)◆多分、交換手に尋ねて調べたような感じ。電話が嫌いな英国紳士は多かった。 p30 型の古い眼鏡(antiquated glasses) p38 余りどっとしない◆「ぞっと」の誤植だろう p41 銀貨(a Half-Crown)◆情報提供への謝礼。ちょっと多め。当時はジョージ五世の肖像、1920-1936鋳造、.500 Silver, 14.1g, 直径32mm、1972円 p42 戦争記念塔(the war memorial)◆シーバラのが実在かどうか調べつかず。他の土地の戦争記念時計塔の写真がググると見つかる。 p43 小型の自動車(a saloon car) p45 高級車(a fine car) p47 開ける(rifle)◆ここは「カラにする」という意味だろう p48 どの部屋にも水と電話はあるからね(Running water and telephone in every room)◆ワートン警視はここではホテル住まい。なので、ホテルの宣伝文句を引用したのだろう。試訳「(ホテルの)どの部屋も給水設備と電話完備」 p51 競争用らしい小型の自動車(A little, squat racing sort of car) p53 海軍の水兵が(navvies)◆「作業員たち」 p57 いつも夕食は七時(always has dinner at seven) p58 ウェスタリ書店(Westerley’s) p64 年額百ポンド(A hundred a year)◆使用人夫婦の給与。翻訳では「契約」と補われているが、後段との辻褄合わせの余計な付加。 p64 実際は九十ポンド(They used to get ninety)◆ここは誤訳。「かつては九十ポンドだった(が昇給した)」こうでないとp117の記述と合わない。 p64 定額より十ポンドもへずられてる(That’s ten pounds below the usual figure)◆相場は百ポンドらしい。 p72 持ってはいなかった(didn’t take it)◆試訳「持ち去らなかった」 p77 水兵達の間を(among the navvies)◆「作業員たち」 p85 告訴の請求なんかすることは、なにもない(there’s been nothing in about the requests we made for information)◆コニントン『キャッスルフォード』(1932)を読むと、検死官が警察側の捜査を邪魔しないように一定の配慮をしていることがうかがわれる。なのでここは、この情報は伏せて欲しいなどの警察サイドが行った要請に対して検屍官側から異論はない、という意味だろうか。インクエストのこの段階で警察側が告訴することはありえない。試訳「情報に関して我々が行った要請に文句はない」 p86 古い諺(old saying)… 犯人はいつも犯罪の現場へ還る(The murderer always returns to the scene of his crime) p86 派手な色刷の包装…「生者、死者」(a book in a gaily coloured jacket—“Live Man, Dead Man”)◆架空の探偵小説本 p88 電話帳はどこにもある(telephone directories such common property) p91 「二弾不発」(“Two Shots Missed?”)◆ 架空の探偵小説本 p94 いかにも!(Good for you, Jane!)◆ワートン夫人は「ジェーン」という名前。この後、原書ではJane Whartonと表記されているが、翻訳は「ワートン夫人」で統一 p96 地方の電話帳(the local directories) p98 ベントリ商会へ持ちこんで(an offer for his Bentley)◆これは自動車のベントレーのことだろう。ベントレーを売って、上手いことロールスを手に入れた。 p98 新型のすばらしいロールス(a fine new Rolls)◆ Phantom II Continental Saloonだろうか? 「新型」というより、中古車の代わりに「新車」を得た、というニュアンスだろう。 p98 てんで素人(I’m a public menace)◆ “A company director, in other words,”と続く。試訳「社会の厄介者ですよ、世間では「会社役員」とも言いますが」 p99 大根だ(a damn fine actor)◆全く逆の意味だろう。テンペストの芸術感受性を揶揄っている。 p99 一発でいえたら五十クラウン、当たらなければ半クラウンか(Give you fifty goes and bet you half a crown you don’t get it)◆試訳「50回答えても、当たらない方に半クラウン賭けるよ」 p102 昨年のミカエル祭のころ(About last Michaelmus time)◆ 一年を四つに分けるthe quarter daysの一つ。9月29日 p103 緑色(Cambridge-blue in colour)◆ケンブリッジ・ブルーは薄めの灰緑っぽい色。 p111 聖金曜日 p114 速記者 p120 親展(Personnal) p120 宛名はきれいな筆蹟で(the address was neatly hand-printed) p127 一九一七年◆上述の12年(p27)を考慮すると作中現在は最短で1929年。感じとしては1930年か1931年。 p128 法廷(a coroner’s court)◆この翻訳の別のところではinquestを「検屍審問」「審問」「審問廷」としている。インクエストは裁判じゃないので「法廷」だと誤解を招きそう。「審問廷」に一票。 p137 チャーリー・ピース(Charlie Peace)◆英国の有名犯罪者(1832-1879) p141 検屍審問は町の会館の古ぼけた会議室で開かれた(scene of the inquest was the old board room at the Town Hall)… 六百の傍聴者 p143 或る特定の人間、もしくは未知の人間に対し、殺人犯人の宣告をなし得るとだけ答申(only possible verdict of murder against some person or persons unknown)◆インクエストの定型文。試訳「未知の単独犯または複数犯による殺人、という唯一可能な評決」 p143 すべてはこの審問の結果にまつほかなかった(all that remained was to await results)◆試訳「あとは収穫を待つだけだlった」 p144 市営のバス(corporation buses)◆地方自治体が運営するバスのようだ。ロンドンでは1933年まで民間企業がバスを運営していた。 p145 紙の上のタイプの文字(with the printing on the paper)◆p120では手書きだったはず… と思って原文を見た。「タイプ」とは書いてないね。届いた手紙の方の文字はcruder printing (粗野な書き方) p145 四月になった。復活祭はもう目の前に迫って(April came in. Easter would soon be coming)◆イースターは1929年3月31日、1930年4月20日、1931年4月5日、1932年3月27日。なので作中現在は1931年で確定。 p145 焼き立ての十字架甘パン(hot-cross buns)◆Wiki「ホットクロスバン」参照 p149 ストランド… 市役所(Somerset House)◆ 1836年から1970年までGeneral Register Office for England and Walesがあり、イングランド&ウェールズの出生・婚姻・死亡に関する書類を管理していた。当時はおおらかな管理だったんだね。 p150 アリバイを打ち破れ(Bust the alibi) p159 『カイランの鞄』(The Wallet of Kai-Lung)◆アーネスト・ブラマの人気作。この高評価はブッシュさんのものなのだろう。 p160 匿名で探偵文壇に打って出たある知名作家(one notorious thruster)◆thrusterは辞書に<英俗>出しゃばり屋、とあった。誰のこと? p162 あのサイレント時代の映画に出て来た男… チェスター・コンクリン(a character who used to appear a lot on the films in the old silent days…Chester Conklin)◆Wiki参照。ブッシュさんは映画好き。 p163 ラジオ(the wireless) p163 税のことで電話には反対(done without the phone because he objected to certain charges)◆「税」ではなく「料金」だろう。英国の電話普及率が他の国より低かったのは課金が高かったという理由もあるのかも。具体的な料金体系の各国比較は調べつかず。(1930年のUK議会資料で業務用年£7、住宅用年£5 10s.というのがあったがどういう設置条件なのか、いまいち分からず) p192 クリケットの最終得点記録(the close-of-play cricket scores) p197 銀貨(a shilling)◆情報提供への謝礼。当時はジョージ五世の肖像、1920-1936鋳造、 .500 Silver, 5.65g, 直径23mm、789円 p205 税をのがれるのに、冬の間は使わないでおいた(stood it by for the winter to save tax)◆どういう課税方法なのだろう。1月1日の所有者が払うのかな? |
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| No.429 | 6点 | 完全殺人事件 クリストファー・ブッシュ |
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(2022/11/19 09:37登録) 1929年出版。トラヴァーズもの第2作、というがシリーズ第1作目(1926)ではほんの端役らしい(なんだかE.G.作のあのシリーズを思い出す)。講談社文庫の翻訳(原 百代©︎1977、講談社『世界推理小説大系 11』(1972)収録と同じか)は実に達者。戦後GHQで活躍された方のようだ。(ノウゾーさんがどう処理してるのか気になったので、創元文庫を発注。翻訳は忠実な逐語訳で遜色なかったです。講談社文庫で省略があった図面関係も完備。私は全然そう思わないが文章が古臭いかなあ…) ブッシュさんは本名Charlie Christmas Bush、こういう名前はからかいの対象になってたのでは?と余計な心配をしてしまう。グラマー・スクールからロンドン・キングス・カレッジへ(Modern Languages専攻)。卒業後、教師となった。本作では教師ネタが充実してると感じたが、ああ、なるほど、という経歴。クリケットは上手だったんじゃないか、と思う。そういえばバークリーの作品にも教師がクリケットの学校対抗試合に夢中、というシーンがあったっけ… デテクション・クラブへの加入は1937年。創設メンバーへの追加としては8番目、同年にはニコラス・ブレイク、ニュートン・ゲイル(誰?)、ECRロラックが加盟している。 本書はクロフツさんを意識したようなスタイル。刑事や探偵が気軽にフランス出張に行く(1921年に英仏間のビザは廃止されている)。一つの証言があっても、別角度からしつこく確かめるのもクロフツっぽい。個人的には「検死廷(inquest)」を楽しみにしていたが、詳しい描写があまりなくて残念。 講談社文庫の解説は各務三郎。本格探偵小説を「パズル小説」と呼び、なかなか面白い。ついでに井上良夫『探偵小説のプロフィル』も参照してみると、翻訳『完全殺人事件』(春秋社)の後書きではすごく褒めているようにも受けとれるが、原書の読書評(「完全なる殺人」という仮タイトル)では「感心した」レベルで「傑作」という評価ではないと感じた。 私は、この作品、冒頭に作為がありすぎて、ガッカリ物件になってしまった作品だと思う。予告行為を無しにして話を進めたら(何かの偶然で完全犯罪が崩れる)迷宮課事件簿っぽい話になって、地味だが割と面白い、という穏当な評価になったのでは? (でも地味すぎて評判にならないでしょうね) 私は戦間期の英国生活に非常に興味があるので、作者が描いている微妙なディテールを十分楽しめたのですが(クロフツ同様、登場人物に派手さがないのですが、普通の人々が普通に登場して普通の生活をしているのが良い)そういう骨董的価値(各務三郎はそう評している)に無縁な人には退屈な作品とうつるのも仕方ないでしょう。ミステリ的には、強いインパクトの冒頭部分を除けば、凡作、という感じ。人を驚かせる要素不足。キャラクター描写は言われるほどダンボール人形ではない。ウォートン警視が印象深くて、この人はトラヴァースもののレギュラーらしいので、他のブッシュ作品も発注してしまいました。 以下、トリビア。参照した原文はDean Street Press 2017、トラヴァースものをたくさん復刻しているようだ。 作中現在は、作者は近未来(1930年代)に設定している(p22)が、作品内の印象では1928年10月であろう(p93、p267、p285、p292参照)。 英国消費者物価指数基準1928/2022(74.25倍)で£1=12395円、1s.=620円、1d.=52円。 献辞はTO MARJORIE(奥さんか?) 講談社文庫、創元文庫とも省略。 p8 A… B… C… ◆ 章の中を分割する記号なのだが(第一章A、第一章B… という感じで区切っている) アルファベットを使うのは初めて見た。 p18 当イギリス第一映画会社は…(Leading British Film Company)◆ 会社名を明記しないで「英国の有名映画会社は…」という表現だろうと思う。 p19 チャップリン◆ 当時なら数多くの短篇コメディや『黄金狂時代』(1925)のイメージだろう。 p21 昔の映画(those early pictures)◆ まだサイレント映画の時代。それで「昔の映画」って… と思ったが、多分、作者は大衆化した騒がしい近年の映画が嫌いで、芸術性の高いサイレント古典作品を念頭に置いている。 p22 一九三--年十月七日(the 7th of October, 193—)◆ 1930年代の話だよ、と示しているが、出版時だと近未来の話。なぜそうしたのだろう? p23 没書籠(ダブリユ・ピー・ビー) W. P. B. ◆ WPB, W.P.B.でwaste-paper busketと辞書にあった。 p23 メアリアス(Marius)◆ 「マリウス」が普通かなあ。創元だとそうなっている。p125に説明あり。 p27 ローランド社製の携帯用タイプライター(the typewriter was a Rolland Portable)◆ 架空メーカー p27 シャンペン酒やビスケット(champagne or biscuit)◆ アペリティフ、という意味で合ってる? p35 「O」警察管区(the “O” Division of Police)◆ ヴィクトリア時代のロンドン管区の一覧表を見つけた。“1888年の「シティ警察とスコットランド・ヤード」の警察官の人数” (みっちょんさんのWEB「シャーロック・ホームズの世界」より)この表によると「O」管区は存在しない。(実在だと差し障りを気にするだろうから当然か) p36 ルーベンソンの筆で(was painted for it by Rubenson)◆ 架空の画家のようだ p36 前便と共通の文字を比較検討されれば、使用タイプライターの個性が両者同一であることを、ただちに了解されると信じます(First, to test the genuineness of this communication compare the word ‘thesis’ for peculiarities of type)◆ 講談社文庫では重要な語句だと理解せずthesisのところを削り、余計な「前便」を付加している。能三訳「この通信の真実性をテストするために『主題(シーミス)』という言葉の活字の特徴を比較検討くださるようにお願いします」以前の通信には何処にもthesisという単語は使われておらず、この連なりを持つ語も無い。(もちろん単独の文字レベル(t,h,e,s,i)なら英語に頻出する文字ばかりなので多数使われている) この『主題』(講談社文庫では『課題』)というタイプ文字は別の場面に登場するのだ。それで犯人の同一性がわかる、という事を犯人は記している。(この説明を作者は全く書いていないので講談社文庫の訳者は気づかなかったのだろう) 試訳「まず、この通信内容が本物であることは『主題(thesis)』というタイプライター活字の特徴を比較すればわかります」 p38 興信所(expert consulting and publicity agents)◆ イメージしてるのはどういう類の企業なのだろうか。経営上のアドバイスを行ったり、探偵業を行なっているのだが… (p108の記述では広告業も引き受けているようだ) 少なくとも単なる「興信所」とか「広告代理店」ではない。情報業の総合商社(現実には存在しないが)という感じ? 能三訳では「専門技術顧問業及び広告代理業」 p40 マホウン事件やクリッペン事件(the Mahon and Crippen Cases)◆ Patrick Mahon によるEmily Kaye 殺人事件(1924)とHawley Harvey CrippenによるCora Turner殺人事件(1910) p50 電話交換局の情景。今となっては興味深い。 p54 さし金はかけないほうがいい(don’t let the catch work)◆ 玄関の扉。catchはboltの受け金具のことだろう。 p55 私が参照した原文では図面上に台所と食堂の間にPantryがあった。(階段の真ん中あたりに出入口のない壁がある) なお創元文庫では正しい図面。(食糧貯蔵庫) p55 鍵がさしたまま(a door with key in lock) p57 チョッキの胸に… しみがみえる。その中央からAAAが半クラウン銀貨ほどの大きさで、突き出ている(On the waistcoat of the suit was a stain, circular in shape and no bigger than a half crown, but from its centre protruded the AAA)◆ ここは明白に誤訳。しみの大きさが半クラウン貨くらいだった、という事。能三訳では正しく訳されている。(「やっと半クラウン銀貨ほどの大きさの血のしみ」) なお当時のHalf Crownはジョージ五世の肖像、1920-1936鋳造のものは.500 silver, 14.1g, 直径32mm p59 異色の作家ジョージ・ボロウの文献蒐集(Borroviana)◆ George Henry Borrow(1803-1881)は死後評価されたようだ。当時熱狂的なファンがいたのかな? 英Wikiを読んでもよくわからなかった。 p60 フランス窓… 鍵穴に鍵をさしたままで、上下にさし金をはめてある(The key of the French window was in the lock, and at top and bottom bolts were firmly home)◆ ここは「ボルト」か「かんぬき」が好み。試訳「上下のボルトはしっかり差し込んであった」 p60 台所との間にもドアがあるが、上下に用心ぶかく、さし金がさしてあった(The door which led to the kitchen was bolted top and bottom)◆ 試訳「上下ともボルトで閉まっていた」 p62 シリング貨が二枚、六ペンス貨一枚、一ペンス貨二枚(two shillings, sixpence, two pennies)◆ ペンスは複数形なので「1ペニー」貨が正しいけど、大抵ペンスを使い、先に六ペンスも出てくるので流れで合わせたくなる気持ちはわかる。能三訳では「1ペニー銅貨」 p62 ポンド紙幣が14枚(fourteen pound notes)◆ 当時の1ポンド紙幣は、財務省発行の£1 3rd Series Treasury Issue(1917-1-22から1933まで発行、茶色と緑、151x84mm、表のデザインはジョージ五世の肖像と馬上の聖ジョージ&ドラゴン)か、イングランド銀行発行の£1 Series A (1st issue)(1928-11-22から発行、緑、151x84mm、表のデザインはブリタニアの坐像)のいずれか。作中現在1928年説なら前者で確定。 p73 オード、キヤン(Quillan, Aude)◆ 南フランス、オード県の集落キヤン。 p76 クリッペッジ(cribbage)◆二人遊びのトランプ・ゲーム。専用スコアボードがあるんですね。Wiki “クリベッジ”参照。 p86 くさりとさし金でしめる(It went with a chain… and bolts) p90 マーティン、グラーズ、ランドシーアなどの銅版画(the engravings after Martin, Greuze, and Landseer)◆ John Martin(1789-1854)のこと? 他二人は苗字だけで特定できる。 p93 木曜日には必ず(on Thursday nights)◆ 事件の日。10月11日木曜日が該当するのは出版近辺で1923年、1928年、1934年。 p105 ポケット鉄道案内(a handy Bradshaw)◆ ここは「ブラッドショー」を残して欲しかった。能三訳では「ブラッドショー鉄道旅行案内」 p111 探偵小説そっくりの事件(of the detective novel type) p111 ルコック◆ ブッシュさんの評価は高い。フィルポッツ『レドメイン』フィル・マク『鑢』など、1920年代くらいまでの作者にとってガボリオの評価は非常に高い。その後、読まれなくなり、シャーロックの口車などによって低評価となったのだろう。ガボリオの『ルルージュ』『オルシバル』は紛れもなく傑作だと思う。(ちょっと長いけど) p116 検屍廷(inquest) p121 かけ金までかけて(fasten the catch)◆ 窓のcatchのイメージは“Window Sash Lock Catch Old Style”で見られるようなもの。回転するロック側と、受け金(catch)のセット。 p121 とめ金を発明したのは(safety catches were first invented)◆ なぜかこっちでは「とめ金」と訳している p122 鎧戸を閉める。これにはむろんとめ金がある(close the shutter which has the slot)◆ ここではslotを「とめ金」と訳している。このslotは文脈から上下に動くかんぬきタイプか。ボルトを差し込む「穴」が原意。もしかすると上下ではなく回転するタイプ(画像はBIG Round Vintage LATCH Hook Slot Antique)かも。 p131 当時、理髪熱が高まった(the shingling craze)◆ shingle が流行ったのは第一次大戦後くらいか。ルイーズ・ブルックスの髪型。 p136 失楽園(Paradise Lost)◆ 大ヒット映画(the super-film)という設定だが、架空作品。ミルトン原作のスペクタクルという設定か。 p153 画筆(brushes)… 大小2本で30シリング(about thirty bob the pair)◆ 高級品 p158 木曜日◆ 事件の日(10月11日)の曜日。 p172 十月三日、水曜日 p179 ポンド紙幣(a pound note)◆ p62参照。 p190 少しばかり財産を持って… なんといっても紳士… つき合いの邪魔… 財産家だの紳士だのってものは、われわれの職業では、むしろ許しがたい悪徳なんです(… happens to have a small amount of private means; he’s a damn sight more of a gentleman than some we’ve got here, and he used to keep himself to himself: three unpardonable crimes in our profession)◆ 公立高校の教師の本音 p191 校長なんていうものは、どこの学校でも、変人ばかりでしてね(Headmasters are strange beings)◆ 同上。作者の本音でもあるのだろう。 p198 チップを半ポンド(half a quid)◆ ホテルのポーターへのチップ。高額。 p201 フットボール… 学生が対抗試合をやってるんなら別だが、職業となると感心しない(No use for football… Man must play for his school and all that. This professionalism… is no class. Not the sort of thing to do)◆ アマチュア礼賛が英国の特徴。 p201 シリング銀貨(a shilling)◆ ウイスキー1杯分のようだ p205 頸にラシャの切れをまいた(tucked the wool strip into his neck)◆ 理髪店で。切った髪が服の中に入らないようにしているのだろう。 p210 給金を週に10シリングにあげる(raised… ten bob a week)◆ 月額26867円。理髪店で。結構な昇給のはずなので「10シリングの値上げ」という意味では? 原文ではそのように読み取れる。能三訳では「週に10シリング昇給」 p224 衣食住つきで40ポンド(salary had been £40, all found)◆ 家政婦(housekeeper)の当初の給料。これは年額なので月額41317円。 p228 十一月 p230 ある探偵小説の序文として、チェスタートンが書いた…殺人犯人が、物語中に一度も姿を現わしたことのない人物だとわかったら、読者は腹立たしい思いがするに決まっている(a preface written by Chesterton for a detective novel and in it he said how annoyed he always was if the murderer turned out to be some person whom he had never met before in the story)◆ これはマスターマン『誤配書簡』(1926)の序文のことだろう。シミルボンにこの序文について詳しく書いてるのでご覧ください。記事タイトル「チェスタトンの八戒」チェスタトンの原文はHe [著者] does not trace the crime hurriedly in the last page or two to some totally insignificant character, whom we never suspected because we never remembered. p239 ガストン・ド・フォア(Gaston de Foix)◆ (1489-1512) ヌムール公、フランスの将軍。「イタリアの雷」(le foudre d'Italie)と呼ばれた。 p244 五フランの紙幣(five-franc note)◆ 当時はBillet de 5 francs violet(1917-1940)、サイズ125x80mm p245 私が参照した原文では、島の全図に加え、島西部の拡大図がついていた。創元文庫には両方の図面あり。講談社文庫の島の全図はやたら細かい本式の地図を載せているが、原書や創元文庫の図は手書きのスケッチ。 p246 ポルケロール島(Island of Porquerolles)◆ 実在の島。聖地巡礼してみたいですね。 p259 デイリイ・メイル紙(Daily Mail)◆ ここだけ実在の新聞が登場 p263 主要な点だけは聞いていただきたい… ウッドロウ・ウィルスンじゃありませんが(I’ll go over the principal points as I made them. Almost as many as Woodrow Wilson’s)◆ the principal pointsから連想したのだろう。米国大統領ウィルスンが1918年1月8日に議会で演説した「十四か条の平和原則」(a 14-point program for world peace) p267現在の為替相場ならば、ポンドが125フランにあたります(with the exchange at 125)◆ 1923年だと£1= 75.10フラン、1928年123.75、1930年123.68。1927年以降はだいたい123フランで落ち着いている。 p271 ガボリオのルコック探偵の方法を踏襲(calls for the methods of Lecoq) p273 特別の情報が入りました時は、半クラウンを投資します(sometimes the Major gives me a tip and sometimes Mr. Henry does, and I put on my half-crown)◆ ここら辺がブッシュさんの味なんだろう。語り手の堅実さもくっきりと浮かぶ。良い情報があってもせいぜい2.5シリング(=1550円)しか賭けないのだ。 p282 五シリング(five bob)◆ 内科の診察1回の料金のようだ p283 僧侶の戦争行進曲(War March of the Priests)◆ Felix Mendelssohn作曲の"Athalie, Op. 74"から。ドイツ語Kriegsmarsch der Priester。勇壮な行進曲。 p285 クロス・ワード・パズル(crossword puzzle)◆ p114にも出てくる。伯母さんまで夢中になっており、それが過去の話なので作中現在は1920年代後半だろう。クロスワード・パズルが英国に上陸したのは1924年。The Timesが載せるようになったのは1930年からだ。 p290 二十ギニー(Twenty guineas)◆ 事務所の一週間の賃料。 p290 現金です。1ポンド紙幣で(Cash down. Treasury notes)◆ treasury noteは1ポンド札と10シリング札の二種類あるが文脈から1ポンド札に限定して正解だろう。能三訳では「大蔵省発行の紙幣」 p292 ルドルフ・ヴァレンチノやオウエン・ネアーズ、フォーブス・ロバートスンなどの写真(photographs of the late Rudolph Valentino, Owen Nares, and Forbes Robertson)◆ ヴァレンチノ(ハリウッド俳優、イタリア生まれ1895-1926)、ネアーズ(英国俳優 1888-1943)、フォーブス=ロバートスン(英国俳優1853-1937)。原文では「late Rudolph Valentino」なので、作中現在は1926年8月以降で確定。能三訳「故ルドルフ・ヴァレンチノ」 p302 たわいのない探偵小説の類(silly detective novels) p317 バーナム奨励賞(Burnham Award)◆ The Burnham committee はH. A. L. Fisher教育大臣が1919年に設立した、公立学校の教師の給与基準を制定する委員会。名称は初代議長Lord Burnham(1862–1933)による。Awardを受けると最高ランクになるのだろう。 p320 旅券(パスポート)制度が昨年廃止された(the passport system was abolished last year)◆ Visaは英仏間で1921年に廃止となっている。調べはつかなかったが、ここら辺の記述を踏まえると、もしかしたら英仏旅行ではパスポートも不要だったのかもしれない。 p360 五十ポンド紙幣(fifty-pound notes)◆ イングランド銀行発行(1725-1945)のWhite note、サイズ211x133mm |
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| No.428 | 6点 | 九人の偽聖者の密室 H・H・ホームズ |
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(2022/11/17 02:48登録) 1940年出版。私は扶桑社ミステリー(文庫)で読みました。価格差で旧訳を選んだのですが、この時期に出すなんて山口先生への悪意を感じてしまいます。翻訳は生固い感じでちょっと残念です。多分翻訳者がご存命なら手を加えたいなあ、と思われたのでは? 本作の感想は… うーん。密室ものナンバー9、という謳い文句や最近流行りの新興宗教問題に鋭く切り込む!のようなものを期待すると(私がそうでした)ガッカリ物件でしょうね。 でもトリビアを拾うため二度目に読んで見ると、なかなか上手く構成された佳作だと感じました。 密室第九位というのは、元々はE・D・ホックのMWAアンソロジーの余興ですので、まああまり信用しないでくださいね… カトリック対新興宗教でイメージする重みも本作にはありません。ブラウン神父の米国版ではないのです(調べるとバウチャーはカトリックらしい。チェスタトンはカトリック転向者で、しかもブラウン神父は転向前の開始。英国がカトリックを忌避していた長い歴史もあり英国のカトリック状況はかなり複雑だが、本作の感じだとカリフォルニアでは伝統あるただの一会派)。 カリフォルニアの陽光がさす、あっけらかんとした感じとか、大戦に巻き込まれる前の米国の感じとか、貧乏描写やちょっとすねた主人公のキャラクターなど名を上げる前のバウチャーの鬱屈がよく出ている作品になっています。 実はウルスラ尼第二作『死体置場行ロケット』(1942)は直接の続編で、マーシャル警部補夫妻、マットとコンチャも再登場します。山口企画で予定されてるみたいなので是非。(私は先に『別冊宝石』で読んじゃいました。バウチャーの肩の力が抜けていて、実に楽しい読書でした。トリビア整理後、アップする予定) 以下、トリビア。 作中現在は、冒頭に「1940年3月29日金曜日のロサンゼルス」と記されている。これで確定。 米国消費者物価指数基準1940/2022(21.29倍)で$1=2972円。 p10 一九四◯年のイースター◆ 1940年3月24日 p14 検視(inquest)◆ この語だと、死因を医者が調べる「検死」と紛らわしいので、インクエストの訳語としては「審問」「検死審問」が良いと思う。 p15 保釈… 評決に達しえなかった陪審に解散を◆ 12人の陪審員の意見が一致しなければ、あらためて陪審員が選ばれ、裁判は最初からやり直しとなる。 p26 赤(Red)◆ 論創社の新訳では「共産主義者」 p27 来月でやっと十八歳… 親の同意がなければ結婚できない◆ 本書の後ろの方に記載があるが当時の自由に結婚できる年齢は21歳以上だったようだ。 p32 チャイルド・ローランド(Childe Roland)◆ スコットランド伝承のバラッド。アーサー王の息子ローランドは、妹バード・ヘレンが妖精国にさらわれたため、マーリンの助けによりエルフ王と戦って妹を連れ戻す。ハムレットの引用やブラウニングの詩でも有名。 p33 鬼(ogre) p35 正式の呼称(formal usage)◆ 「ミス+苗字」は正式にはその苗字の一家の中で未婚の最長年者をさす。 p38 侮辱◆ incommunicado(幽閉されて)という単語を使ったので、侮辱と取られたのだろう。翻訳は「外部との交際は禁じられている」で、怒らすには弱い感じ。 p39 へカベ(Hecuba)◆ ギリシャ神話。息子の死を嘆く女王。 p41 鉄のシリンダー(a steel cylinder)◆ 思わずリボルバーをイメージしてしまった。ここは「鉄の筒」(銃の先っぽ)ということだろう。 p42 小さな自動拳銃(the small automatic) p57 三ドル五十セント… 豪華版で学究的な図書 p58 狼なんか怖くない(Who’s Afraid of the Big Bad Wolf)◆ ディズニー映画の名曲。 p67 南カリフォルニア大学(Southern California)◆ バウチャーの母校でもある。 p68 ローズ・ボウル… コロシアムの全部のゲームを見ましたし、バークレーの試合のために北部へも出かけた(Rose Bowl... I was at every game in the Coliseum and I even went up North for the Berkeley game)◆ 1939年のシーズン、ローズ・ボウルで勝利したUSCはアメフトの全米ナンバーワンになっている。コロシアムはUSCの本拠地Los Angeles Memorial Coliseumのこと。カリフォルニア大学バークレー校との1939年8月の対抗戦ではUSCが完封勝利している。 p68 ドロップ・キックとセイフティの区別を知らない(I don’t know a safety from a drop-kick)◆ ドロップ・キックが現在のアメフトでもルール上有効だなんて知らなかった… 1920年代や1930年代には時々とられていた戦術らしい。ルール改正でボールの両端が尖がってからは難易度が増し、絶滅したようだ。 p75 若さが失われている(the absence of youth)◆ この印象は当時のカリフォルニアの新興宗教の様子を踏まえているように思う。試訳「若者がいない」 p77 オルガン奏者は、即席に『木々』(Trees)と『夜明けに』(At Dawning)を◆ これだけだと手がかりが少ないが、有名曲を探すと、TreesはJoyce Kilmerの有名な詩にOscar Rasbach が曲をつけたものか(1922)。At DawningはLayton&Johnstonコンビの1927年の曲だろう。 p78 コミックのエイブ・マーティン(Abe Martin)◆ Wikiに項目あり。一コマ漫画か。 p78 『生命の妙なる神秘よ』(Sweet Mystery of Life)◆ オペレッタNaughty Marietta(1910)の一曲、Ah! Sweet Mystery Of Life、作詞Rida Johnson Young 作曲Victor Herbert。1935年に映画化もされている。 p80 『いにしえのキリスト教』(Old Christianity)◆ 架空。 p81 『ジョン・ブラウンの亡骸』(John Brown’s Body)◆ このメロディは皆さんお馴染み。ヨドバシカメラの曲。 p86 『カヴァレリア・ルスティカーナ』の間奏曲(the intermezzo from Cavalleria Rusticana)◆ マスカーニのオペラ(1890)より。 p86 十セントの銀貨(a dime)◆ 当時の10セント硬貨はMercury dime(1916-1945)、90% silver、17.91mm、2.5g、表示はONE DIME p88 聖ゲルマヌス(Saint Germain)◆ この教団ではキリスト、仏陀、孔子などと同列に讃えられているが、そんなに重要な聖人なんだろうか。なんかピンとこない。 p90 イースター後の第一日曜日(ロー・サンデー) Low Sunday p100 憲法修正第十三条(the thirteenth amendment)◆ 奴隷制度廃止条項、1865年成立。 p115 押しボタン錠(the push button lock)◆ 内側のボタンを押してドアを閉じると外では鍵がかかり入室出来なくなる。いつ頃からの発明か調べがつかなかったが、こういうメカニズムはホテルから普及したのでは?と思った。なおホテルの各部屋の鍵については1862年フランス(パリ、グランド・ホテル)の回想記に記載があるようだ。(鍵が普及する前は外出時に客が貴重品を持って出る必要があった) p116 消音装置(サイレンサー)(silencer)◆ 現在はサプレッサーsuppressorという言い方が主流。 p162 パラフィン試験(paraffin test)◆ 用語が当たり前のように出てくるので、この試験については既に良く知られていたのだろう。1933年に米国に紹介され1935年には結構広まっていたらしい。 p180 彼ら[新興宗教家]はロサンゼルスでダース単位で増加している(they grow by the dozen in Los Angeles) p186 バンヤン(Bunyan)◆ John Bunyan(1628-1688)は『天路歴程』で有名。Paul Bunyanは米国やカナダの民話上のキャラクター。とても巨大な強い男。 p207 古い句(classic phrase)…『警察は裏をかかれる』(The police are baffled)◆ なんとなく新聞の常套句のような気がする。試訳「警察は困惑している」 p211 一シリングかそこらで(with a shilling)◆ 何故唐突にシリング?と思ったらcut someone off with a shilling「勘当する、わずかの財産を与えて廃嫡する」という慣用句の一部でした。 p222 埋葬は検死のあとでなければ行えなかった(burial could not take place until after the inquest)◆ インクエストの規則。英国の古い規定(1926年以前)だと検死官と陪審員がview the body(死体を実見)しなければインクエストが無効となった。 p249 ぽん(so) p255 ホームズ ◆ バウチャーのシャーロック愛がここに。 p255 あなたがそばにいらしたら(Bist du bei mir)◆ BWV508バッハ作曲と言われていたが、2009年にGottfried Heinrich StölzelのオペラDiomedes(1718)の中のアリアだと確定した。バウチャーはずいぶん高く評価している。 p255 ライオンのたてがみ(The Lion’s Mane) p257 三つの棺(Three Coffins) p259 XXXがわざわざYYYしてから、その上にかがみこんだとしたら、焼傷を負っただろう(Dropped after XXX had obligingly YYY and then stooped over so that he received powder burns?)◆ 試訳「XXXがご丁寧にYYYしてから落とし、焼傷を受けるために身体をかがめたとでも?」 p267 自動式のかんぬきやラッチに細工(Tampering with a falling bar or latch)◆ 密室講義を元に密室に関係深い鍵や錠の翻訳用語を整理できるかなあ。 p295 夕食はチップも合わせて、それぞれ70セント(dinner will be seventy cents for both of us including the tip)◆ 2080円。かなり安い。 p296 フィリピン人のハウス・ボーイ(Filipino houseboy) p304 マルタが不平を言いました◆ 私もマリアはズルイと思っていた。このマルタが由来なら修道院の名前は「ベタニアのマルタ修道院」が良いかなあ。 p307 ロバート・ヘリック(Robert Herrick)◆ 詩人1591-1674、作品HOW MARIGOLDS CAME YELLOWからの連想か。 p311 キリスト教式の葬儀ができるよう、検死を(called an inquest so that we can lay away his body in Christian burial)◆ 死因確定のために死体が必要となるかもしれないので、埋葬はインクエスト開催後になってしまうのが通例。 p324 ヤ・トド・アカボ(Ya todo acabó)◆ 曲のタイトルかも。調べつかず p325 明るく甘く澄んで---グレイシー・アレンの声のようだ(light and sweet and clear—like Gracie Allen’s)◆ 実際の声は某Tubeでお聴きください p355 教会は、死因を疑いました(The Church gave XXX the benefit of the doubt)◆ 続く文章は「自殺者の埋葬を禁じることは、ごく稀です」英国インクエストで正面から自殺と断定したら英国国教会で正式な埋葬が出来なくなる(古式だと身体に杭を刺して四辻に埋める… うへえ… もちろん文明下ではキリスト教の儀式なしで夜9時から12時の間にchurchyard外での埋葬)から「一時的な精神錯乱による自殺」という評決になるんだな、と思っていた。ここの表現を見るとカトリックでも同じらしい。この翻訳ではそこら辺のニュアンスを捉え損ねている。試訳「教会は疑問の余地を都合よく解釈しました」 p373 ロバート・インガーソル◆ ロバート・グリーン・インガーソル(Robert Green Ingersoll 1833-1899)は米国の弁護士、演説家。 p376 マーク・アントニー(Mark Antony)◆ マルクス・アントニウス p386 重い四五口径(heavy .45) p390 戦場のチェスタートンの死体(Chesterton’s corpse on a battlefield) ◆ 探偵小説ファン目線の表現。言葉通りに取るとチェスタトンが戦場で冷たくなっている場面が浮かぶ。 p397 反共のコフリン司祭(a priest of the Coughlin)◆ Charles Edward Coughlin(1891-1979) 米国のカトリック司祭。1934年以降反ルーズベルト。ラジオを利用し反共主義と反ユダヤ主義を唱えた。 |
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| No.427 | 7点 | フォーチュン氏を呼べ H・C・ベイリー |
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(2022/10/07 03:30登録) 1920年出版。初出雑誌不明ですが、ちょうどキリの良い六作なので雑誌か新聞掲載の連作なのでは、と思っています。FictionMags Indexはこの頃の英国情報が薄い印象があるのです。(でも今、このあたりのPearson誌やLondon誌やWindsor誌をチェックしたら、昔と違ってほとんど目次が埋まっていた。英国主要誌の情報は既に網羅されているのかも) 私は別の一作だけをアンソロジーで読んで、フォーチュン氏の性格が好みだとわかったので、初登場作品集を楽しみにしていました(創元文庫の「事件簿」は入手済みですがまだ読んでいません)。なんだか反骨心とユーモア感があるんですよね。 (1) The Archduke’s Tea「大公殿下の紅茶」: 評価5点 ボヘミア王国が登場するのは、シャーロックの短篇第一作にならったのかな。ミステリ的には雑な話ですが、探偵の初登場作品として、名刺がわりのレベルは満たしています。 p2 ミュージカルコメディー… ゴルフ… 競艇(musical comedy… golf… bargees)♠️ bargeは平底船だが、英国に競艇に相当するものがあったっけ? ここはよくテムズ川に浮かんでいる運搬船のことだろう。翻訳はバージ・マッチのことを意識したのかな?(The Thames and Medway barge matchesには古い歴史がある) p5 ヴィステルバッハ(Wittelsbach) p7 みだらな美しさ(wickedly beautiful) p11 ローソン・ハンター医師(Sir Lawson Hunter)♠️ここはSirを明示して欲しいところ。 p15 あのお騒がせおばさん(Aunt’s in a mad-house) p16 プラガス家(Pragas) p29 ほんとうにお若い(you are a boy) p30 スタンリー・ローマス部長(the Hon. Stanley Lomas)♠️ こういう称号が付いている、ということは貴族なのだろう。 (2022-10-3記載) ==================== (2) The Sleeping Companion「付き人は眠っていた」: 評価5点 companionを「付き人」とは珍しい。フリガナ風に「コンパニオン」と一回やっておいてくれれば良かったなあ、と思います。コンパニオンは召使いじゃないので食事は一緒に取ります。ピーター・ウィムジー卿は従者バンターを食事に誘ったことがありますが、彼は絶対に同席しません。 こちらもミステリ的には手がかりを読者から隠した古いタイプの探偵小説。 p50 猫かぶり(pussy-cat)◆ フォーチュン氏は猫嫌い。 p53 見るからにユダヤ人(emphatically a Jew) p53 弁護士事務所(solicitors) p54 穴馬(ダークホース)(dark horse)◆ 英国では「非常に優れた能力を持っているが、自分についてあまり語らない人」という意味もあるらしい。 p55 男と男の相談です(Speaking as man to man)◆ man to manは「男対男で腹を割って」という意味のようだ。カタカナ英語「マンツーマン」はone on oneが相当。 p56 ハロウェー(Holloway)◆ HM Prison Hollowayは1852建設で1903年以降は女性専用刑務所。 p59 あのインディアン・ジョニー(that Indian Johnny)◆ 唐突に出てくるが「あのインド人ジョニー」という事かな? p62 検死審問◆ 興味深いところがいろいろある。用語が不適切なところもちらほら。翻訳者はインクエストの趣旨と裁判との違いがよくわかっていないようだ。少し前から私も気になっていて、インクエストについてしっかりしたレポートを書きたいなあ、と思っているがなかなかまとまらない。もう少々お待ちくださいね。 p64 裁判長◆ 原文sirだけ。インクエストは裁判ではないので、この訳語は不適切。「検死官」と呼びかけるのが正解だろう。 p65 被告人席(there)◆ インクエストなので「被告」という概念は無い。全ての関係者は「証人」という立場で検死官から質問される。 p65 裁判官が(the court)◆ ここはthe coroner’s court(=inquest)のこと。「法廷」だと裁判プロセスだと誤解されちゃうので「審廷」と訳したい。なお、ここら辺は、陪審長が「こいつ[変なことを外野から口走っていますが]呼びだします?」と質問して、検死官が「後から審廷に呼んでコイツの言い分をあらためて聞くよ」と宣告している場面。翻訳では誤解している。 p65 弁護団(the lawyers)◆ 被告的立場の者の「弁護団」(ここではソリシタが出席)に、検死官から質問の機会が与えられている、という興味深い場面だが、インクエストなので検察側、弁護側、というのは正確ではない。「法律家たち」というような中立的な用語の方が適切だと思う。まあでも訴追されそうになっていてそれを弁護するために弁護士たちがインクエストに出席しているのだから「弁護団」でも許容範囲か。なお当時は「裁判」においてはバリスタだけが法廷内での全ての弁論を受け持つ。 (2022-10-3記載) ==================== (3) The Nice Girl「気立てのいい娘」: 評価5点 オーラスの締め台詞は意味が違うと思う。全篇に微妙なニュアンスの文章がちらほら。原文を読んでも私には全部汲み取れないレベル。気づいたところだけ(ネタバレにならない範囲で)以下にあげておきます。 本作も手がかりをあらかじめ明示しない「古臭い」探偵小説。フォーチュン氏が裁判になるまで警察に重要証拠を隠してるのは、やり過ぎでしょう。 拳銃が登場しますが、使ってる用語から判断すると作者は全然詳しくなさそう。まだ線状痕比較もパラフィン検査もこの世に存在してない時代の物語です。 p75 犯罪外科の専門家(the surgery of crime)♣️ なぜ「外科」が出てくるか、というと、外科医は英国ではMr. と呼ばれるので、Dr. じゃなくてMr. Fortuneと呼ばれるなら外科医みたいだ、と感じているからか。短篇集タイトルの含意もそういうことかも。 p76 有線印字式電信機(テープ・マシーン) (tape machine)♣️ こういう無粋な機械が一流クラブにあったんだねえ。株式用のticker tape machineが有名だが、ニュース用のもあったのだろう。 p76 また事件か!(Oh, my aunt!)♣️ 私はファイロ・ヴァンスで初めて目にしたのですが、当時流行していた言い方なんでしょうか? p76 惜しい人間をなくしたものだ!(“Well, he won’t be missed!”)♣️ 私は「悲しむ奴なんていないだろう」という意味だと思いました。 p77 スリーカードポーカーや指ぬき(シンブル)賭博(works with three cards, the thimble, and the pea)♣️ 指ぬき賭博(the thimble and the pea=shell game、イカサマ)と同じく三つの中から当てるカード・ゲーム(こっちもイカサマ)と言えば… スリーカード・モンテ(Three-card Monte)ですね!Web検索すると同様の用例も見つかりました。スリーカード・モンテは私も昔、練習したなあ。マジック番組でダイ・ヴァーノンが江國滋に実演したのを見たことがあるよ(歳取ってて手先がヘロヘロだったけど、昔はかくや、と思わせる雰囲気だった)。試訳「スリーカード・モンテとか指ぬきと豆というイカサマ賭博」 p78 かなり癖の強い性格だったと(with a certain gusto)♣️ セシル・ローズにこう言わせるなら、ああ、そういう感じの奴らなんだろうね、と思わせる表現だろう。試訳「歯ごたえのある相手だったと」 p78 激しく享楽的な(hard and fast) p79 豚を殺すことは正当と認められている(Justifiable porcicide)♣️ ここは長い単語風に翻訳して欲しいなあ。試訳「無問題正当的な殺豚事件だ」 p80 三指に入る(Third Prize)♣️ この翻訳もアリだが「第三位」で良いのでは? p81 真実をふたりで解明しよう(we’ll comb it all out)♣️ 「俺たちならなんとか切り抜けられるさ」という感じだろうか。 p84 お抱えの使い走り(factotum) p84 三八口径のリボルバーです(.38 revolver bullet)♣️ ここは弾丸のことを言っているので「三八口径のリボルバー用の弾だ」ライフル用の弾丸ではなく、拳銃の弾だった、という趣旨だろう。 p87 彼も自分の土地を庭園と呼んでいる(he calls it a park too) p88 派手だ(showy) p89 想像力をはたらかせる努力(You know you’ve got imagination) p90 ずいぶん偉そうですね(That’s very haughty of you) p90 予言者(clairvoyant)♣️「千里眼」 p91 スミスサズラン三八口径(A Smith-Southron .38)♣️ もちろんこんなメーカー名は存在しない。普及してる拳銃、という設定なので、Smith & Wessonだろう。Westの連想でSouthとしたのかな? (2022-10-8追記: 当時一番流通していたS&W38口径は(多分)Military & Police、戦前モデルはハーフムーン・サイトなのでカッコ良い) p94 すぐに別の容疑者が逮捕されますよ(Pitch up another)♣️ この翻訳だと意味不明に感じる。クリケット用語かも。直訳は「別の球を投げてくださいよ」野球用語に意訳して「直球勝負ですか?」ということかなあ。(2022-10-7追記: クリケットでは打者が打てる範囲を大きくそれて投げたボールはノーカウントになる。ここではあまりに率直な質問(暴投)に対して、返事が出来ない(打てる範囲じゃない)と言ってるのでは?と解釈したのです。「打てる範囲に投げてくださいよ」と訳すとわかりやすいでしょうか) p95 五対八(Five-eighths)♣️ 八分の五 p96 ならずもの(a bit of a tough) p96 ついに解答は見つからず、彼はいつもこの事件を自分の失策のひとつと言っている(He never saw his way through it, and has always called it one of his failures)♣️ 「解答は見つからず」は言い過ぎだと感じた。 p100 はかなく過ぎるは幼年時代… (Childhood’s years are passing o’er us… Soon our schooldays will be done. Cares and sorrows lie before us…. Hidden dangers, snares unknown)♣️ ここら辺はWilliam Dickerson作詞のHymn (1841)の冒頭部分の引用。W. Howard Doane作の“Adoration”(1883)の曲にのせて歌われるようだ。 p101 一般訴訟は巡回法廷で争われ、まずXXXに対する反対尋問がはじまった(The general action was fought at the assizes. The interest in it began with the cross-examination of XXX)♣️ 先に尋問があって、それから反対尋問、という順番。試訳「巡回裁判は型どおり争われた。興味深いところはXXXの反対尋問からだった」 p101 弁護士は検事側に向かって問いかけた(said counsel for the Crown)♣️ここは明白に誤訳。「検察側弁護士は言った」英国では専門の検事職は存在せず、裁判ごとに適切なバリスタが選出され、検察側の弁論を行う。 p103 三八口径のスミスサズラン弾倉銃(Smith-Southron .38 magazine pistol)♣️ magazine pistolという表現は見たことがない。作者のつもりでは.38 caliber(口径)の弾倉magazine(リボルバーなので本当はcylinderだが)を持つピストル、なのかなあ。 p104 熱心さが仇になった。ミスター・イージーになっていたようだ(“Zeal, all zeal, Mr. Easy”)♣️ フィリップ・マクドナルド『鑢』で調査済みだったので、ピンときた。『熱意、あらん限りの熱意!』Captain Frederick Marryat著の小説"Mr. Midshipman Easy"(1836)からの引用。 p108 今年… 来年… 桃を五個(This year, next year… May I have five peaches)♣️ 何か占ってるような感じ。五個にも意味がありそうだが、よくわからなかった。 p110 XXXがYYYでなければ、ぼくはZZZを一生信じないだろう(Never trust a really ZZZ unless you’re YYYing XXX)♣️試訳「XXXとYYYのつもりでなけりゃ、ZZZを信じるもんじゃない」 (2022-10-7記載) ==================== (4) The Efficient Assassin「ある賭け」: 評価6点 原題に忠実に「腕のたつ暗殺者」で良いのでは? 言葉を繰り返すのがフォーチュン氏の癖のようだ。(本作でもBut it’s all wrong, Bell, it’s all wrongとある。翻訳では同じ言葉を使ってないので目立たないのだが) 何か変だな、という雰囲気が良いが、翻訳のニュアンスずれがある感じで(わたしの英語読解力も怪しい)十分に楽しめていない気がする。ミステリ度は前3作と比べるとやや複雑になっている。最後のセリフには裏の意味があるのかなあ。 p113 記憶から消し去ってしまいたいと思いつつ、忘れられなかったこれらのエピソード(who never forgot anything when he wanted it, knew at the back of his mind)♠️ 試訳「必要があれば必ず思い出せるたちなので、意識せずに覚えていた」 p115 帰りがけに何か言わなかったか?つまり(And you heard nothing? Yes)♠️ 大事なセリフだが勘違いして翻訳している。ここは「(近くで事件があったのに)何も聞こえなかったのか?」という質問。Yesは相手のセリフを省略して「ああ、何も聞こえなかったんだな」ということ。 p117 二千ポンド(twenty thousand)♠️ 大事なところで残念なケアレスミス。 p118 ほんとうに刺殺されたのか?(I suppose the old boy was stabbed?)♠️ 繰り返されるフォーチュン氏の疑問は全部 I supposeで始まる文。軽い疑問なのかな? 試訳「刺殺されたようだね?」 p118 細い短剣の一種だ… 聞いたところではイタリア製のようだ(“…Sort of stiletto or dagger.” … “Sounds Italian”)♠️ stilettoと相手が言うので「イタリア語っぽいね」と言っているだけ。 p126 評決は被疑者不在のままくだされる(Verdict, persons unknown)♠️ 試訳「(お馴染みの)評決、何者かによる殺人」インクエストの評決での決まり文句。 p127 裁判官は… 有罪を下しただろう(the jury would have made an end of….)♠️ インクエストなので裁判(有罪を決める場)ではない。死の原因を究明するのが目的。死因究明に付随して「誰かの行為で死に至った」という評決になる場合があるだけ。検死官は事前に助言はするが、陪審の評決を受け入れるのみで検死官には拒否権はない。試訳「陪審員は…に終わりを告げただろう」 p131 生命は実体であり、生命は真剣である。そして墓場がその終着点ではない(Life is real, life is earnest…. And the grave is not the goal)♠️ A Psalm of Life (1838) by Henry Wadsworth Longfellow p131 ぼくは慰めが欲しい(I want comfort)♠️ 直前の詩の引用と関連あり? 調べつかず。 p135 わたしの髪は白くなっていないか(Is my hair white)♠️ 何かの引用? 調べつかず。 p137 AAAの遺書を担保にXXXポンドも借りている---何に使ったのでしょう(The £XXX he came in for under AAA’s will—he wanted it badly)♠️ 試訳「AAAの遺書により相続したXXXポンド---その金がひどく欲しかった」 (2022-12-4記載) ==================== (5) The Hottentot Venus「ホッテントット・ヴィーナス」: 評価7点 英国男性の偏見「女嫌い」が正直に披露され、初読時には「何これ?」と思ったけど、再読してみて、ああいかにも英国流で文字ヅラだけで受け取らず、底に流れる思惑を想像して楽しむ話なんだろう、と思いました。あれよあれよの展開が面白く。結末も非常によろしい。 ところでローマスは幾つぐらいなのかな?と思って読み返してみたら、初登場時に、フォーチュンの父親といっても良いくらい(was old enough to be his father, p20)と書かれてました。随分フォーチュン馴れ馴れしい… p145 わたしはひとりの少女を愛す(I love a lassie)◆ミュージック・ホールのコメディアンHarry Lauder(1870-1950)の有名曲。訳注はちょっとズレてない? p146 トーマス(Tormouth)◆デヴォンシャーにあるという設定の架空地名。トーケイ+プリマスな感じか? p146 ばか騒ぎ(rag) p147 妹に電話して(call on my sister)◆試訳「妹のところに行って」 p148 中年(middle-aged) p157 いつにも増して専制的に(more masterful than ever) p159 ヨットの登録リスト(Shearn’s Yacht List)◆Shearnは調べつかず p164 デューシェス(Duchesse)◆ここは「公爵夫人」で良いのでは? p167 それは、きみの良心の問題だ(That’s between you and your conscience) p169 プリンシパルボーイ(principal boys)◆英国パントマイム(パント)の用語。参考Web“How British Pantomime Became Such a Holiday Tradition” (2023-7-9記載) ==================== (6) The Business Minister「几帳面な殺人」: 評価7点 原題は「事業家大臣」というような意味か。どんどん転がってゆく展開と構成が良い。フォーチュン氏のペースに慣れると、この語り口がクセになる。 p180 ブーローニュ号(Boulogne boat) p180 オペラの舟歌(the helmsman’s song from the opera)◆ Wagner: The Flying Dutchman "Mit Gewitter und Sturm"(Act 1)のことだろう。曲を特定出来る語を翻訳では反映して欲しい p180 ヒーターが錫めっき(The heat … was tinned)◆暖房の熱気が缶詰状態だった、という事かな? p181 四月十五日 p187 義弟が大蔵省に勤めていて(I have a brother-in-law in the Treasury)◆どうやらフォーチュンには妹がいるようだ。p147ではローマスから「君には姉も妹もいない… 未婚の(You have no sister—no maiden sister)」と言われている p191 祖先のいない司教… メルキゼデク(that fellow in the Bible who had no ancestors—Melchizedek)◆ ヘブル人への書 7:3(文語訳)「父なく、母なく、系圖なく、齡の始なく、生命の終なく、神の子の如くにして限りなく祭司たり」 p191 コンソル公債(Consols) p193 先生(Doctor) p196 確かに!(Indeed!)◆ここは驚きや憤慨の感嘆詞だろう。へえ!まさか!本当に?など p199 ウェデキント氏の遺作となった戯曲(the last published play of Herr Wedekind) p203 シャツにネームを(have his linen marked)◆ワイシャツに自分の名前をあらかじめ入れておくのか?と思ったら、原文は「洗濯屋のマーク」のことだろう p207 リミントン社(Rimington firm)◆調べつかず p208 食事や掃除のサービスを受けられる家具つきマンション(service flats … and furnished) p209 スノッドグラス… 急ぐなかれ、軽率になるなかれ(Mr. Snodgrass… No rash haste) p210 使用人(servants)… 最近は人手不足(we’re short-handed) p210 最後に来たのは二、三日前です(I should say some days)◆もっと曖昧な感じだろう。「数日前としか言えません」 p212 鍵というものを持たない人間(men go about without any keys) p214 九サイズで幅は広め(About a nine and rather broad)◆靴のサイズ。UKメンズだと日本の27.5cm相当 p215 16 1/2というカラーのサイズ(16½ collars)◆42cm相当 p225 紙ばさみ(paper-clips) p227 ショートマン(Shortman’s)◆調べつかず。架空? p231 クリスチャンではない… 信仰心のない人間(not a Christian man—an unbeliever) p232 ノースウェールズの住民のほとんどはランカシャー出身(North Wales is mostly Lancashire people) p235 運転◆フォーチュンもスピードを出す乱暴運転派 (2023-7-14記載) |
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| No.426 | 5点 | 終わりなき負債 セシル・スコット・フォレスター |
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(2022/10/01 13:29登録) 1926年出版(ボドリー・ヘッド社)。アガサさんがボドリー・ヘッド社を捨てて、コリンズ社から『アクロイド殺し』で華々しく再登場した年。執筆当時、作者は25~26歳。アフリカの女王は1935年、ホーンブロワー・シリーズは1937年から。まだまだ深みの出ていない時期の作品です。 本書は、最初のほうはドキドキ感があって楽しかったのですが、だんだんと気が重くなる展開で、読み進めるのがつらかったです。 探偵小説ではありません。ミステリ風を保っているのは冒頭の数章のみ。 「ああ、やっちまった、やれやれ」という感じで主人公たちを意地悪く見守る、というたぐいの小説? 英国人は苦笑しながら読むような感じなのかなあ。小市民の趣味の悪さをからかってるようなところもある。皮肉っぽい文言もところどころに見られる。 良いところは1920年代英国の暮らしぶりが感じられるところ。中等学校とパブリックスクールの違いは、実感があって生々しかった。 筋立てや登場人物の心理はリアル感十分だが、対立構造が弱いので、全体的にぼやけた印象(特に私は父子関係を楽しみにしてたので、あの扱いは残念だった)。ラストはもっと書き込んでも良さそう。全体の私の感想は、作者がXXを思う心は痛いほどわかったよ、ということ(多分フォレスターさんは素直じゃなかったのだろう)。戦間期の英国やフォレスターに興味がある人にはおすすめしますが、普通の探偵小説好きにはどうでしょうね。心が暗くなりたい時にはピッタリです。 もしかして、この小説、続きがあるのかな? あの登場人物の行く末が気になりました(アガサさんの探偵小説によく出てくるタイプだと思います)。 さて、本書解説にある通り、この小説は1932年に映画化されています。某国提供の怪しいサイトに全篇無料公開されていたので、鑑賞しました。(英語版なので、もちろん私は30%くらいしかセリフを理解していません) “Payment Deferred 1932 - Charles Laughton, Ray Milland, Maureen O'Sullivan”で動画を検索すると出てくるハズ。 主演チャールズ・ロートン、娘がモーリン・オサリヴァン、甥がレイ・ミランド。原作をうまく処理していて楽しめましたが、映画単体でみると、ところどころ筋にやや飛躍があるので、なんかちょっとねえ、という感じになると思います。サスペンスはさらに薄まっていました。(私が観たのは、どうやら2011年に現代の映画コードに適用させるため、5箇所カットがあるようです) まあでも立派なキャストで映画化もされた、という事は作者の出世作だった、ということでしょうね。ただし映画ではフォレスターの名前は全く出ず「Jeffrey Dellの舞台に基づく」という原作クレジットでした(1931年にブロードウェイでチャールズ・ロートン主演の舞台化があり、それがヒットして映画になった、という経緯)。という事は映画化権は舞台化権と一緒に売っ払っちゃったんだろうか。 以下、トリビア。 まず作中現在の推定から。 p160で冒頭から20か月(twenty months)が経過しているように書かれており、これは話の流れからすると外国為替の話の頃(p64)の二週間ほど後で、p144のイースターの数か月前(程度は不明)。でも展開から考えるとこの「20か月」はちょっと長すぎる気もする。読んでいる時には外国為替の話は冒頭から長くても5、6か月後のように感じていた。 外国為替の話はマルク相場が「百万台(millions)まで下落(p64)」とあり、該当は1923年7月か8月(6月46万、7月135万、8月1345万、9月24億。millionsには「100万以上10億未満」の意味もある)、フラン相場は7月だと平均77.81で、8月の平均90フランの方が本書の記述に近い。1923年8月の20か月前は1921年12月。冒頭では「暖炉の暖かさ」が表現されているので、季節感も合致する。 英国消費者物価指数基準1921/2022(54.41倍)で£1=8782円、1s.=439円、1d.=37円。 p19 法定紙幣(Treasury notes)◆ 誤解を招く翻訳語だが、別の翻訳でも採用されているのを見たことがあり、結構普及しているのかも。私は「財務省紙幣」といきたい。金本位制だったのでイングランド銀行券は基本兌換紙幣。Treasury noteは第一次大戦時に金の海外流出を防ぐため、緊急に政府が財務省の権限で発行した1ポンド紙幣と10シリング紙幣のこと。これ以前の英国では5ポンド以下の紙幣は通用しておらず、庶民は皆コインで日常生活を送っていた。 p19 イングランド銀行券… 五ポンド紙幣(bank-notes--five pound notes)◆ 白黒印刷で表だけ印刷された紙幣。普通の紙幣のイメージとは異なっているのが当時のイングランド銀行券(White noteともいう)。詳細はBank of EnglandのWebページ“Withdrawn banknotes” p20 オーストラリアのお金(Australian money)◆英Wiki “Australian pound”を斜め読みしたが、オーストラリアが金本位制を離脱した1929年の前は英ポンドと同値だったようだ。 p24 ネッド・ケリー(Ned Kelly)◆1855-1880、一眼見たら忘れられない鉄仮面と鎧に身を包んだ強盗、ブッシュレンジャー。アウトローぶりで、オーストラリア人のヒーローとなった。 p24『拳銃を持った強盗』(Robbery under Arms)◆ Rolf Boldrewood作のブッシュレンジャー小説(1888年ロンドンで出版)。オーストラリアの植民地時代三大小説の一つと言われている。他はMarcus Clarke作“For the Term of his Natural Life”(1876)とヒューム作『二輪馬車の秘密』(1886) p27 反対尋問(cross-examination)◆「反対尋問」というのは、弁護側と検察側があって、反対の立場で尋問する、という意味。なのでここは「(さらに)厳しい追及、詳しい[細かい]詰問」 p51 もちろん一ポンド紙幣は安全… 五ポンド紙幣だって同じくらい安全なはず(Of course the one-pound notes were as safe as anything, but the fivers ought to be just as safe too)◆五ポンド以上の紙幣は、番号を記録される恐れがある。 p57 家賃法(The Rent Act) p58『犯罪と犯罪者---巡回裁判における歴史的に重要な日々』(Crimes and Criminals: Historic Days at the Assizes)◆架空の本のようだ p58 図書館員の意見◆面白い見解 p61 自由土地保有権(freehold)◆検死官はfreeholderによって選ばれる、という規定の意味が、今回調べていて朧げに理解できた。フリーホールダーとは英国王から土地所有を許されたもの、というのが古い意味なのだろう。土地は本来、国家のものなのだ。(一般人は、貴族からleasehold(不動産賃借権)を得て、商売などを行う、という社会) p64 マルクは、2年前にオーストリア・クローネがそうだったように、百万台まで下落(The mark had fallen away to millions, as the Austrian crown had done two years before)◆ ここら辺の記述は、1923年のポンド=マルク相場。6月£1=46万マルク、7月135万、8月1345万、9月24億、10月67億、11月1兆に到達。凄まじいインフレだったんですね。 p64 フランでさえ続落… いまや100フランを超え、いぜんとしてゆっくりと下がりつづけている(Even the franc was dropping steadily…. now it was over a hundred, and it was being hammered slowly lower and lower)◆フラン相場が£1=100フランを月平均で超えたのは1925年6月(日毎の為替相場データは見つけられなかった)。それ以降は月平均で100を下回ることはなく、フラン安がどんどん進行している。第一次大戦後、ずっとフラン安が続いており、フレンチ警部が気軽にフランス出張に行くのもポンドが強かったためなのだろう。(1927年以降は123フランで落ち着いた) p81山高帽(a bowler hat)… 縁なし帽子(caps)◆ 帽子で階級差を示している。 p82『法医学ハンドブック』(Handbook to Medical Jurisprudence) p89 フランス政府が夜のうちにこっそりと他人に信用を供与して(how the French Government had quietly appropriated other people's credits the night before)◆ なんか変。誤解がありそうだが、私には正解がよくわからない。 p97 逆算すると利率は4.8%くらいか。 p98 十七年前 p99 中等学校(secondary school) p117 法律によって最大35ポンドの家賃しか認められていないこの家(was not allowed by law to be rented at a greater sum than thirty-five pounds)◆ Rents and Mortgage Interest Restriction Act 1915によるもの。英Wiki “History of rent control in England and Wales”参照。 p139 ジャンパードレス(jumpers)◆英国のjumperは日本のセーターのことらしい。 p151 ポンド札のような声(pound-notey)◆ 気取った、という意味のようだ。辞書にはpoundnoteishの形で出ていた。 p156 髪をボブにしている(being bobbed) p161 調律師(piano tuner)◆ これホント? p219 百フラン紙幣(hundred franc notes)◆ 当時のはBillet de 100 francs Luc Olivier Merson(1908-1939)、サイズ182x112mm p235 AM(A. M.)◆ 翻訳ではわかりにくいのですが「À Monsieur」ですね。「To Mr. (〜様へ)」という宛名書き。 |
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| No.425 | 7点 | 裏切りの塔 G・K・チェスタトン |
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(2022/09/24 02:31登録) チェスタトンの自分史では大事件(後述)が1913年6月に終了しており、その後の作品集です。シリーズものの『ブラウン神父の知恵』(1914、雑誌連載1912-1914)と『知りすぎた男』(1922、雑誌連載1920-1922)に挟まれた、シリーズ探偵が登場しない単発作品で、本国短篇集“The Man Who Knew Too Much”(1922)に(5)を除いて収録されていましたが、現在では同題の短篇集にはホーン・フィッシャーものの短篇8作しか収録されていません。そのため(2)(3)(4)の原文は未入手です。 各短篇は(5)「魔術」を除いてレビュー済み(『奇商クラブ』及び『知りすぎた男』)ですが、南條さんの翻訳で読んで、あらためて評価しました。 初出はFictionMags Index調べで、初出順に並び替えました。カッコつき数字は、本短篇集の収録順です。 (5)「魔術──幻想的喜劇」Magic. A Fantastic Comedy(初演1913-11-7, the Little Theatre, John Street, London): 評価7点 途中から盛り上がる恐ろしい雰囲気が素晴らしい。チェスタトンの人を驚かす発想は、常識的な人物の生身の姿を借りればより効果的だと思う。そこら辺のツボを心得た演出家がいればブラウン神父ものはテレビドラマにハマるような気がするのだが。劇中にやや激しい感情の表出が見られるが、マルコーニ・スキャンダル(下で解説)によるものか。 バーナード・ショーは、この劇の百回目公演を記念して“The Music Cure”(1914-1-28)を同劇場で上演したが、作者の劇の中で最低ランクの出来、と言われているらしい。(現物に当たっていません…) なお、リトル劇場は席数387、文字通りの小劇場。詳細はArthur Lloyd Little Theatre John Streetで。 p270 土地運動(Land Campaign)♠️両方とも大文字なので固有名詞と思われる。Land Purchase Act 1903(Ireland) かNatives Land Act 1913(South Africa)に関係あり? p276 半クラウン銀貨(half-crowns) p288 ヨブ記(Book of Job)♠️チェスタトンは聖書で一番素晴らしいと讃えている。 p303 マルコーニを食べたことはない(Never had any Marconis)♠️「訳注 登場人物はマカロニか何かと間違えているらしい」なぜ南條さんがこう書いているのか、がわからない。(とぼけてるだけ?)この頃、チェスタトンが一番ショックを受けたマルコーニ・スキャンダル(政権の汚職疑惑、弟のセシル・チェスタトンが暴き立てたのだが、政府によって非公式に片づけられた)。GKCは弟が完敗した(1913年6月、マルコーニ社への名誉毀損で百ポンドの罰金が課せられた)ことによって、世間に対する無邪気さを失ったのだろう。なんのかんの言っても、今までは最後には正しいものが勝つ、という子供のような信頼を持っていたはずだが、完全に裏切られた、という感じ。GKC自伝(1936)でも、英国史にはマルコーニ前とマルコーニ後という時代区分がある、とまで主張している。 (2022-9-24記載) ========================= (1)「高慢の樹」The Trees of Pride (英初出The Story-Teller 1918-11; 米初出Ainslee’s 1918-11 as “The Peacock Trees”): 評価8点 実に素晴らしい構成だと、あらためて感心した。ミステリ的には探偵役のポジションの置き方が良い(かなり画期的だと思う)。ところでGKCには詩人がよく登場するが、詩を詠む場面がほぼ無い。 乱歩『続・幻影城』では、なぜか地主と領民の立場を全く逆に捉えて解説している(「孔雀の樹」として紹介)。 (2022-9-24記載) ========================= (3)「剣の五」The Five of Swords (初出Hearst’s Magazine 1919-2): 評価6点 フランスが舞台。当時、フランスでは決闘は公式に許容されていた。上述のマルコーニ・スキャンダルを考えると、本作品にもその影が見られるようにも思われるが(考えすぎか)。 (2022-9-24記載) ========================= (2)「煙の庭」The Garden of Smoke (初出The Story-Teller 1919-10): 評価5点 色つきの悪夢の中を彷徨い歩いているような幻想的な作品。作者にしては珍しく女性が主人公。女流詩人が出てくるのも珍しい。 p126 オランダ人形♠️ 英Wiki “Peg wooden doll”参照。 (2022-9-25記載) ========================= (4)「裏切りの塔」The Tower of Treason (初出Popular Magazine 1920-2-7): 評価6点 マルコーニ・スキャンダルのせいなのかどうかはわからないが、性格がさらにひねくれまくった感じ。陰謀論めいた記述もあるが、そういう話ではない。ストレートな解釈には絶対しない、という強い意志のもとで、無理がねじれて不思議な解答に辿りつく。 (2022-9-25記載) |
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| No.424 | 6点 | 死のチェックメイト E・C・R・ロラック |
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(2022/09/19 15:15登録) 1944年出版。翻訳は良好です。下に若干の解釈違いを書いているが、読みやすく立派な出来だと思います。長崎出版のセレクションは良いなあ。どこかで復刊しないんだろうか。 本作は、うーん… 時代を反映したとっても良い話なんだけど、結末で損している感じ。なんかロラックさんには共通した感想になる。ラスト・シーンまでは、登場人物がよく描けてるし、捜査の感じも非常に良いんですよ。発端が単純すぎる事件で、そのまま終わるわけないよね、と思ったら… あらがっかり。あっち側のケアを全くしてないなあ。たかをくくっていた、ということなのか。 以下トリビア。 作中現在はやや問題あり。ロンドン空襲は1940年9月からで、継続的な空襲は1941年5月に終わっているので、それ以降の感じ。まだV1ロケットの脅威は語られていないので1944年6月以前。 私が参照した原文(The British Library 2020)には、事件はMonday, January 20th(該当は1941年)に起きた、と明記している。この他にも所々に翻訳には無い文章が若干あった。スペイン語版(1947年出版)を参照すると事件の日付がちゃんとあった。なので翻訳はリプリントを底本としたのだろう(ざっと読んで、翻訳に欠けている文章は無くても問題ない内容のように感じた。作者自身が後日刈り込んだのかも)。 この翻訳の内容に限定して調べると、p64で「事件発生=冒頭の場面」は木曜日、p74、p110、p143、p153から「1942年1月」だろうとほぼ絞り込める。作者の当初案を尊重して、作品冒頭は1942年1月20日なのだろう(現実には「火曜日」なのだが)。 英国消費者物価指数基準1942/2022(52.37倍)で£1=8552円、1シリング(s.)=428円、1ペンス(d.)=36円。 銃は「重装した旧式コルト(p62, an old-fashioned Colt with a heavy charge)」で、「1930年購入(p126)」が登場。with a heavy chargeは普通なら炸薬が強め、という意味だが、ここは「弾がいっぱい残っていたよ」という意味か。作者はrevolverとpistolを区別していて、登場している拳銃はpistol呼びで一貫しているのでpistol=automaticのつもりなのだろう。詳しい人ならpistolはhand gun(拳銃)の総称で、revolverとautomaticを対比させるのだが(アガサさんなら、ちゃんとrevolverとautomaticの区別をつけている)。ロラックさんは拳銃の用語がややあやふやな印象。1930年に販売していたコルト・オートマチックはいろいろあるがheavy chargeの印象で45口径のM1911(いわゆるガバ)なのかなあ(.38 Super弾仕様のもあるらしい)。 p5 弟◆「姉」は三十過ぎ、戦時下なので健康な若い男性は戦争に行っているのでは? 軍隊に行っていない理由が特に記されていない(当時の英国では18歳から41歳までの男性は徴兵制となっていたが良心による拒否の申し立ては可能だった)ので年齢がやや高い「兄」の方がありそうと思った。(全文検索したがbrotherやsisterには年齢の上下を示す形容無し) それともぐうたらな芸術家は兵役拒否が当然、というイメージなのか。対外関係のリードを常に「弟」がとっているところにも、年長者を感じさせる。ただし全部を読んだ印象だと、このきょうだいの関係性は「姉弟」っぽい、とも受けとれるので、判断は難しい。欧米人は上下をはっきりさせなくても気にならないのだろう。 p5 バスつきキッチン(k & b) p7 灯火管制(Black-out regulations) p8 見場のいいニシン(lovely ’errings) p10 五ポンドの罰金(being fined five pounds)… 空襲監視員(air-raid wardens)◆灯火管制違反の罰金。結構高いのね。 p11 電話したけりゃ郵便局へ行けよ(If you want to ’phone go to the post office)◆この建物には電話は無い。 p13 特別警察官の制服(uniform of a special constable)◆第二次大戦勃発による警察官不足を補うために用いられた。前大戦の退役者で従軍には歳を取り過ぎていた者を中心に全英で13万人が従事、大抵はパートタイマーで無給。1943年には警察官の大部分のルーティン・ワークをも担うようになっていた。WebサイトGloucestershire Police Archiveの記事The Special Constabulary in Gloucestershire During World War Twoより。Wiki “Special Constabulary”によると通常の警察官とは違う制服が支給されたようだ。 p14 カナダ人(Canadian)◆なぜわかったのか。訛りや用語からか。訛りの詳細はWiki “Canadian English”で。 p40 舞台裏の効果音(noises off) p54 鍵(latch-key)◆この語を正確に訳すのが実は重要だと最近気づいた。ラッチキーは、室内からbolt(かんぬき)で扉を閉めても、外側から鍵で開閉できる仕組み。現代のようにドアの内部にボルトが埋め込まれておらず、ボルトが外付けの構造というイメージ。つまり「ボルトが内側からかかっていた」と書いてあってもラッチキーなら外から開閉出来るので密室を構成しない。bolt, latch key, catch(窓の場合、ナイフなどを外から滑らせると開けられる)を一発で正確に理解させられる翻訳語が欲しいなあ。(ひどいのになると、全部「掛け金」だ) 試訳: ラッチキー(の鍵) p58 居住者案内板には(in the directory)◆「住所録では」の誤りだと思う。お馴染みKelly’s directory p58 防空壕(shelter) p62 使われた銃弾と比べて弾丸を検査する(the bullet’s been examined under the comparison microscope)◆「顕微鏡による比較」が言及されているので、翻訳でも示して欲しいところ。 p64 木曜◆事件当日の曜日 p69 玄関ドアの閂をかける(bolt the front door)◆このboltはラッチキーで開閉するやつだろう。原文ではlatch-keyと書いてあるので読者にはわかる。この翻訳だと最初の方では単に「鍵」なので「閂」との関係がいまいちわからないのでは?(p70以降は「閂の鍵」(the latch-key)としている) p73 女のほうが見場がいいこともある(a sight better, some of ’em)◆「女は男と同じく注意深い」のあとに続く言葉。変なこと言ってるなあ、と思ったら、原文では外見のことではなく、能力が「中には男よりずっと優れてるのがいるよ」という事だった。 p73 おばちゃん(ma) p73 二シリング六ペンスの給金を受け取って(with two and sixpence owing to me)◆掃除婦の料金。週給か。 p74 一度目は去年の十月… 二度目はクリスマス直前◆作中現在はクリスマス以降。 p78 おそろしく寒かった(it was hellishly cold)◆事件当夜の気温 p79 買って半年以内では修理に出せません(you can’t get one repaired under six months)◆「修理に出しても半年以上はかかります」戦時中らしいエピソード。 p79 ハーフハンター(half-hunter) p88 五十ポンド札(£50 notes)◆White note(1725-1943)、サイズ211x133mm p88 小さな現代的フラット(Good small modern flats) p94 コーナー・ハウス(Corner Houses)◆ PiccadillyのLyons Corner Houseのことだろう。1909年開業。1926年改装してリニューアル・オープン。 p100 拳銃のたぐい(a revolver or pistol) p102 ティペラリを歌う声(a voice singing ‘Tipperary‘) p105 バレルキー(a barrel key)◆「訳注 筒の中に空洞がある鍵」ラッチキーは回す力をボルトを動かす力に変換するために、中心軸をしっかりと固定する必要がある。そのため鍵は筒状で、筒が中心軸を覆うことで揺るぎない回転を可能にしている。 p109 陪審側が(on the part of a Coroner’s jury)◆ここは「検死審問の陪審の立場で」と正確に訳して欲しい。検死審問であっても誰かが犯人であるか確実、と判断すれば、犯人を名指ししての評決が出来るのだが、検死審問での証拠は弱くても採用されてしまうことがあり、この評決が出ると、犯人とされた者の刑事裁判手続きが始まってしまうので、警察側としては非常に迷惑。従って検死審問の段階では「更なる証拠が出揃うまで延期」か、お馴染みの「未知の単独犯または複数犯による故殺」という評決が一番良い。 p109 面子を潰さない(not embarrassing them)◆面子の問題ではなく、余計なことをするな、という事。 p110 四一年の八月に引越し… 3ヶ月前まで空き家(they packed up in August ’41, and the studio was vacant until three months ago)◆という事は、作中現在は少なくとも1942年1月以降(p74からクリスマス後)。 p126 弾丸を調べたが、線条痕から… と判明した(The bullet’s been examined and the breech markings prove that it was… )◆ breech markingsは普通、薬莢が発射時に銃尾に押し付けられ、拳銃固有の銃尾の傷などが空薬莢の底に転写されたものを意味する。作者は「比較顕微鏡で検査(p62)」と書いているので、ここは「線条痕」(rifling marks)と勘違いしている可能性は大。 p141 重厚な額縁に入った絵画◆訳注があるので原文だけ示しておく。 ・ブリュッヒャーと対面するウェリントン(Wellington meeting Blucher) ・チェリー・ライプ(Cherry Ripe) ・バブル(Bubbles) ・栗毛のメアに蹄鉄を打つ(Shoeing the Bay Mare) ・ヴィクトリア女王戴冠式(the Coronation of Queen Victoria) p143 去年の夏(last summer)◆話の流れから「1941年の夏」のこと。とすると現在1942年。 p143 銃声(gunfire)◆対空砲火だろうから「砲声」の方が適切かなあ。 p147 銃声(guns)◆上記と同じ。 p147 競馬場… ニューマーケット、アスコット、エプソム、ドンカスター、ガトウィック、ルイス、ニューベリ(Newmarket, Ascot, Epsom, Doncaster, Gatwick, Lewes, Newbury) p148 二十五ペンス借りがあるだろって(tell ’im ’e owes me five bob)… あいつは賭けた(I bet him… and so ’e did)… わしは… 7シリング6ペンスもうけました(I won seven and six)… 25ペンス返してもらったら万々歳です(I reckon I shall ’ave done a treat)◆ 翻訳は全く言っている意味がわからない。原文はコックニーのセリフだがhを補えば良いだけなので意味を取るのは難しくない。まずbobはシリングのこと。I bet himのあたりは相手がノミ行為に同意した、ということ。seven and sixは7ペンスの6倍(42ペンス=3.5シリング)という意味?(翻訳通り7シリング6ペンスのほうがあり得るだろう) その後トンズラしたから迷惑料込みで全部で5シリングと言っているのかなあ。「試訳: 5シリングの貸し… 賭けたら彼は受けた… 勝ったので7ペンスが6倍になった(または、7シリング6ペンスの勝ちだった)… まあ5シリングいただければ、良しとしましょう」 p149 きょう日、ビールはべらぼうな値段(Beer’s a perishing price these days)◆1パイントあたりの値段を1939年9月と1942年4月で比較すると、Aleが4d.→9d., Ordinary Bitterが7d.→12d., Stoutが8d.→15d. (Webサイト “SHUT UP ABOUT BARCLAY PERKINS”の記事 “Draught beer prices 1939 - 1948”より) p153 二月の展覧会に出すつもり(get it in for the February show)◆作中現在は2月より前 p157 一ポンド紙幣(pound notes)… 十シリング紙幣(ten shilling note)◆いずれもTreasury noteで金との互換性は無い。 p158 ラプサンスーチョン(Lap San Suchong) p176 暖房、給湯設備つきで十二×二十フィート四方のフラットを年120ポンドで貸している(twelve foot by twenty for each tenant at a rental of £120 a year, heating and C.H.W. provided) p176 手袋… おそらく2、3ギニー(gloves… probably costing a couple of guineas the pair)◆高級品 p180 マイケル・イネス… ドロシー・セイヤーズ(Michael Innes… Dorothy Sayers)◆デテクション・クラブの内輪ネタかな?と思ったが、当時イネスはメンバーではなかった(1949年加入)。セイヤーズは1930年からの創設メンバー、ロラックさんは1933年加入。なのでここは純粋に作風からの言及。 p201 五ポンド紙幣(five-pound notes)◆White note(1793-1945)、当時のサイズは195x120mm。なお1945年から新しい£5 White noteが発行されており、サイズはやや大きい211x133mmとなった(1957年発行終了)。 p207 ソーセージとフライドポテトとアップルプディング(Sausage and chips and apple pudding)◆パブの軽食。10シリング以内。 p222 ソブリン金貨の国内流通が廃止されてから30年たつ(it was nearly thirty years now since sovereigns had been in common circulation)◆第一次大戦時に金の国外流出を恐れて金貨の流通はほぼ無くなった。 |
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| No.423 | 5点 | 延期された殺人 E・S・ガードナー |
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(2022/09/10 13:02登録) ペリーファン評価★★★☆☆ ペリー メイスン追加その2。1973年出版。 HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。) ガードナー死後発表のメイスンもの2冊目、本作はなぜかお蔵入りになってた作品。The Perry Mason Book: A Comprehensive Guide to America’s Favorite Defender of Justice によると書かれたのは1939年。姉が行方不明となった依頼人。自宅でミステリを読みくつろぐメイスンは、今回は危ない橋を大胆に渡り、ホルコムと鋭く対立。銃を放り投げたり、冷たい水に浸かったり、屋敷に忍び込むなど、メイスンの冒険が見ものです。法廷シーンは予審、判事スキャンロンはかなり型破りな運営でメイスンの真相究明を助けます。全体的に筋が弱い感じですが、ホルコムが元気に活躍しているので満足です。 銃は38口径コルト、ポリス・ポジティブとコルト38スペシャル「44フレーム」が登場。44フレームという表現はコルトでは聞いたことがないのですが、S&Wにはあります。そのS&Wの.38/44(44口径のフレームを使用しており38口径の強装弾を発射出来る銃、S&Wの分類ではNフレーム)に相当する銃はコルト オフィシャル ポリスではないかと思います。 (2017/05/27) |
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| No.422 | 5点 | 囲いのなかの女 E・S・ガードナー |
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(2022/09/10 13:01登録) ペリーファン評価★★★☆☆ ペリー メイスン追加その1。1972年出版。 HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。) 手直し前のほぼ完成作、ガードナー死後発表のメイスンもの1冊目。 The Perry Mason Book: A Comprehensive Guide to America’s Favorite Defender of Justice によると書かれたのは1960年。有刺鉄線で分断された新築の家、向こうにはビキニ姿の美人。カジノで遊ぶメイスン。ミランダ警告っぽいことを言うトラッグ。メイスンの無茶ぶりで食欲を無くすポール。法廷シーンは陪審裁判、バーガーは登場しません。発端はとても素晴らしいと思いますが、解決が弱い感じです。 (2017/05/27) |
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| No.421 | 5点 | 草は緑ではない A・A・フェア |
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(2022/09/10 12:49登録) クール&ラム第29話。1970年3月出版。HPBで読了。 シリーズ最終話ですが、特にそれを思わせる記述はありません。ガードナーの作家感がちょっと垣間見られるかも。一見単純な依頼がどんどん複雑な事件になるのはいつもの通り。メキシコ料理が美味しそう。最後はラム君が弁護士を上回る活躍を見せて幕。銃はS&W38口径1-7/8インチ銃身のリヴォルヴァー、ブルー着色、シリアル133347が登場。 |
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| No.420 | 5点 | 罠は餌をほしがる A・A・フェア |
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(2022/09/10 12:47登録) クール&ラム第28話。1967年3月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。) Happy Birthday, Donald! ラム君の誕生日は4月15日以降の数ヶ月以内?バーサの秘書兼速記者及びタイピストはホーテンスという名で、受付係は名前不明ですが、背が高くロマンチック・タイプ、29代後半、音楽的な笑い方。バーサが家でくつろぐ時はクラシック音楽(ベートーベン第6交響曲、シュトラウスのワルツ)を聴く趣味あり。この訳ではセラーズ部長刑事がラム君につけたあだ名Pint sizeは「寸足らず君」(最初からこのあだ名を使っていなかったようなのですが、いつから使い始めたのでしょう… ざっと検索した感じでは「笑ってくたばる奴」あたりかな?) テレスポッターという電子探偵道具がちょっと活躍。物語自体は特に後半がごたついた感じで解決もちょっと複雑、頭にすっきり入りませんでした。銃は38口径廻転式コルト拳銃が登場。 (2017年7月19日) |
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| No.419 | 5点 | 未亡人は喪服を着る A・A・フェア |
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(2022/09/10 12:46登録) クール&ラム第27話。1966年5月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。) ユスリ屋との対決が終わり、バーサやセラーズ部長刑事とともに打ち上げ。ラム君の乾杯の音頭は「犯罪のために乾杯」罠にかかったラム君はバーサや警察の手から逃れつつ調査を進め、追い詰められながらも最後に事件を解決します。銃はクール&ラム事務所の備品、38口径スナブノーズ、ブルー仕上げの拳銃が登場。 (2017年7月17日) |
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| No.418 | 5点 | 火中の栗 A・A・フェア |
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(2022/09/10 12:46登録) クール&ラム第26話。1965年4月出版。HPBで読了。 犯罪すれすれと思われる微妙な依頼を単独で引き受けるラム君。いつものように筋は二転三転し、ラム君は窮地に… |
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| No.417 | 5点 | すばらしいペテン E・S・ガードナー |
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(2022/09/10 10:08登録) ペリーファン評価★★★☆☆ ペリー メイスン第80話。1969年11月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。) 発表当時ガードナー80歳。作者が最後まで監修したメイスンシリーズとしては最終話です。その後、手直しが必要とか編集部がはじいたとかで発表されていなかった、ほぼ完成版のメイスンもの2作が死後出版されましたが… 冒頭はいつものデラとメイスンの会話、女性の年齢当てを試みます。この6日間ひまで豪勢な食事をするドレイク。メイスンは女探偵の胸の谷間を鑑賞し、ドアを開けた女を怒鳴りつけ、デラと握手について論じあい、ドジャースの優勝予想をします。ミランダ警告が3回登場。ドレイクがメイスンに請求する料金は「いつも通りの割引値段」(the usual trade discount) 今作では法廷シーンが2回登場、最初は陪審裁判で偶然による結審、2回目は予審でメイスンによる被告側の証人尋問で解決します。なお、メイスンが黒人の弁護をするのはシリーズ初。 ところで裁判所近くの馴染みのレストランはフレンチからイタリアンに変更したもよう。お話は軽めですが、いつものように読者を飽きさせない筋立ては流石です。でも敵役のバーガーもトラッグも(ホルコムも)登場しないのが寂しい… 銃は銃身を切り詰めたレヴォルヴァ(snubnosed revolver, 詳細不明)とスターム ルガーSturm Ruger(翻訳では「ストゥアム・ルーガー」)のシングル・アクション22口径レヴォルヴァ、シングル シックス、銃身9-3/8インチが登場。 「22口径… 特別強力なピストルから、銃弾を発射」(with a twenty-two-caliber revolver, shooting a particularly powerful brand of twenty-two cartridge)「22口径と呼ばれる種類の強力なライフル銃弾」(the bullet was of a type known as a .22-caliber, long rifle bullet)と翻訳されていますが「特別強力なピストル」とか「強力なライフル銃弾」とかは、いずれも22ロングライフル弾(ピストル用の弾丸)のことですね。 拳銃についても「銃身にルーガー=22の文字と、6=139573の番号」(On the gun was stamped Ruger twenty-two, with the words single six, the number, one-three-nine-five-seven-three )と訳されているのですが、翻訳者はSingle Six(銃の商品名)を誤解。(固有名詞なのに大文字で始めないガードナーが悪い?それとも校閲者が勝手に小文字に直した?) [試訳: 銃の刻印は、ルガー22及びシングル・シックスという文字、番号139573…] このシリアルだと1959年製です。 (2017年5月27日) |
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| No.416 | 5点 | うかつなキューピッド E・S・ガードナー |
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(2022/09/10 10:07登録) ペリーファン評価★★★☆☆ ペリー メイスン第79話。1968年3月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。) 尾行者を脅す婦人。メイスン登場は第2章からですが、第1章は不要な感じ。ドレイク事務所の料金は1日50ドル(プラス必要経費) 今まで数回名前だけ出てきた女性飛行士ピンキーの詳しい描写が初登場。(The Perry Mason Book: A Comprehensive Guide to America’s Favorite Defender of Justice (English Edition)によるとピンキーはガードナーの友人で、書かれている内容は実際のネタ) 会議で演説をぶつメイスン。法廷シーンは陪審なしの裁判(多分シリーズ初)、バーガーが最後に乗り出しメイスンを非難するパターン。今回のメイスン戦術は反則気味ですが鮮やかです。全体的に中篇のネタですね。次回バーガーは出演しないので力なく腰掛ける姿が公式メイスンシリーズ最後の登場シーンです… (2017年5月26日) |
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