YMYさんの登録情報 | |
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平均点:5.91点 | 書評数:386件 |
No.186 | 7点 | 狼たちの城 アレックス・ベール |
(2021/12/31 23:20登録) 特別な訓練を受けたわけでもないユダヤ人が、ゲシュタポ捜査官になりすまし、親衛隊の拠点で捜査に臨む。これだけでも緊張に満ちた展開だ。そこにレジスタンスの思惑が絡み、さらに本物のヴァイスマンと彼を知る者も登場し、イザークにとっては極めて危険な場面が連続する。 殺人事件の謎だけでなく、イザークに迫る危機が強いサスペンスをもたらす。巧妙な舞台設定で一気に読ませる力作。 |
No.185 | 5点 | 誘拐の日 チョン・ヘヨン |
(2021/12/31 23:15登録) 娘の手術代のため、ミョンジュンは誘拐に手を染める。だが、標的の少女はアクシデントで記憶喪失に。とっさに父を名乗って連れてきたが、口の立つ少女に振り回される。一方、少女の両親の死体が発見され、彼は殺人の容疑者に。 社会のゆがみを背景にしながらも、お人好しの誘拐犯をはじめとする人物描写のおかげで、ユーモラスで温かい作品に仕上がっている。 |
No.184 | 5点 | リトル・グリーンメン クリストファー・バックリー |
(2021/12/31 23:09登録) 人気テレビ司会者のバニオンは、エイリアンに拉致される体験を経て、すっかりUFO信奉者に。だが、それは自らの不遇にいら立った秘密機関の職員が、勝手に進めた工作によるものだった。 政治家からUFO信奉者まで、多彩な人々を皮肉たっぷりに描き出す。一職員の暴走が招いた騒動を、脱線も交えて愉快に語る作品。 |
No.183 | 8点 | 推定無罪 スコット・トゥロー |
(2021/12/17 23:34登録) 法廷を舞台にした小説はこれまで、いくらでもあったがこれほどディテールを精密に描いた作品はなかったのではないか。また法曹界の制度の中で絡み合う人間たちの関係を生々しく活写した点でも、やはり先行する作品とは一線を画していただろう。 周到に張られた伏線が生み出す驚愕の、そして皮肉に満ちたどんでん返しには圧倒された。 |
No.182 | 9点 | 13・67 陳浩基 |
(2021/12/17 23:30登録) 物語の時間軸が現在から過去へと遡っていく逆年代記という手法を用いて描かれている。 プロットの組み立て方、物語の見せ方は緻密で、読んでいるうちに何度もミスリードされてしまう。六つの事件のどれもが当時の香港の世相や人間模様を反映して複雑な様相を呈するが、対立する構図はいたってシンプル。徹頭徹尾、勧善懲悪なのだ。難しいことは何もしていない。夢中で推理し、爽快にしてやられた。 |
No.181 | 4点 | 快楽の館 アーヴィング・ウォーレス |
(2021/11/30 23:09登録) ミステリ的要素は極めて少ないが、娼婦の館を隠そうとする側と暴こうとする側が入り乱れ、虚々実々のスリルを醸し、変質的な殺人鬼も加わって娯楽性は豊か。 |
No.180 | 5点 | マンアライヴ G・K・チェスタトン |
(2021/11/30 22:53登録) いわゆる本格ミステリというより、観念小説とでもいうべき作品だが、私設法廷で裁かれる悪人イノセント・スミスの行動をめぐる謎解きは、生きるとはどういうことか、という永遠の命題を我々に突きつけてくる。 |
No.179 | 8点 | わらの女 カトリーヌ・アルレー |
(2021/11/15 23:03登録) 莫大な遺産の奪取という完全犯罪の成功を描いた作品。 しかし、その計画はコン・ゲームものの傑作に登場するような爽快なものではないし、緻密なプランでもない。どちらかと言えば、迂闊によって成立した完全犯罪であったといえる。しかし、ヒロインをじわじわと着実に破滅に向かって押し進めていく描写は迫力満点。 |
No.178 | 8点 | 刑罰 フェルディナント・フォン・シーラッハ |
(2021/11/15 22:58登録) 罰をめぐる短編が十二作。ベッドで発見した見知らぬ女の真珠が引き起こす未必の故意「テニス」、犯罪組織のボスを弁護する女性新人弁護士の苦悩「奉仕活動」、危険な方法で自慰に耽る夫への侮蔑「ダイバー」などが特にいい。 どれも静かで異様に狂おしく、それでいて驚くほど澄み渡り、張り詰めている。喚起力に富んだ世界は生々しく、時にひねくれたユーモアで運命の皮肉をのぞかせる。深遠で複雑な人生の諸相には心が震える。 |
No.177 | 5点 | 誕生日パーティー ユーディト・W・タシュラー |
(2021/11/01 23:27登録) 過去の出来事が現在の色彩を決定づける物語。50歳の父の誕生日に息子が呼んだゲストが、父の過去を掘り起こすサスペンス仕立て。 幼少期、残忍なポル・ポト政権下のカンボジアを脱出し、長じて受け入れ先の娘と結婚したキム。オーストリアでの平穏な暮らしは、かつてともに逃げ、妹同然だったテヴィとの再会で一変する。 本作は苛酷な記憶との折り合い方がテーマとなる。70年代カンボジアと現在とが並行的に描かれ、キムが封印した出来事があぶり出される。復讐による裁きとは何か考えさせられる一冊。 |
No.176 | 5点 | 地中のディナー ネイサン・イングランダー |
(2021/11/01 23:21登録) イスラエルの砂漠に設けられた秘密の施設。そこには、たった一人の囚人Zが長年にわたって収監されている。彼は米国生まれだったが、かつてイスラエルの諜報員だった。Zの監禁を命じた将軍は、何年も昏睡したまま病院のベッドに。将軍が夢見る過去の出来事や、Zの過去、パレスチナ難民の青年の物語、さらにはZを見張る看守と、将軍が眠る病院に勤める看守の母の日々。いくつもの物語が重なり合い、複雑に絡み合う。 入り組んだ語りが展開される複雑さゆえに、序盤はとっつきにくく戸惑ってしまうものの、この迷路のような構造こそがこの作品の魅力。いくつもの断片をつなぎ合わせて浮かび上がるのは、イスラエルとパレスチナの紛争の構図と、スパイとなった男のたどる数奇な運命だ。結末近くになってようやく分かる、題名の指し示す事柄も忘れがたい。 |
No.175 | 5点 | 検死審問ふたたび パーシヴァル・ワイルド |
(2021/10/18 23:20登録) 前作の風俗小説的な渋さが好みだったので、ユーモア色が濃くなった本作は好みから外れている。あとメタフィクション的な趣向が目についた。 |
No.174 | 7点 | 服用禁止 アントニイ・バークリー |
(2021/10/18 23:18登録) カントリーハウスで起きた毒殺事件をめぐる謎解きの試行錯誤をシリアスなタッチで描いている。 とはいえ、そこはけれん味に長けた作者のこと、ミステリ的な面白さを演出することに怠りはなく、読者への挑戦も用意する念の入れよう。本格ファンも満足できると思うが。 |
No.173 | 6点 | デス・コレクターズ ジャック・カーリイ |
(2021/10/03 23:08登録) 作品全体を貫く大ネタからそれを支える小ネタまで余すことなく、神経を配り周到に伏線を張り巡らせた上ですべてを回収し着想外の結末まで度肝を抜く。 しかもキャラの立たせ方も巧妙で、物語としても面白い。 |
No.172 | 7点 | 暗い鏡の中に ヘレン・マクロイ |
(2021/10/03 23:04登録) 一人の人間が同時に二つの場所に出現するという不可能現象を扱っており、合理的に解決するにもかかわらず、幻想的でもある特異な結末に驚かされる。 エレガントな文章が紡ぐ繊細極まる恐怖の世界に魅了された。 |
No.171 | 6点 | 六人目の少女 ドナート・カッリージ |
(2021/09/21 23:11登録) 異なった少女のものと思しき六本の左腕が森の中で見つかり、未だ明らかになっていない犯罪の捜査が始まる発端、そして意外な人物の事件とのかかわりが浮上する終盤、さらには騒動が終焉した後のエピソードを含めて読者を惹きつける力は並ではない。 |
No.170 | 4点 | 眠れる森の惨劇 ルース・レンデル |
(2021/09/11 23:23登録) 全体的なプロットは悪くないが、中盤で捜査が停滞するのと一緒に、物語も停滞して、ウェクスフォードが何回も同じような話を聞きに行く。そして悩むの繰り返し...退屈。 |
No.169 | 5点 | 大聖堂の悪霊 チャールズ・パリサー |
(2021/09/11 23:20登録) トリックはかなり陳腐なものだけど、現在と過去の相互関係や、歴史学者が出てきて中世の伝説的な王様に関する解釈が二転三転するところは、探偵小説的興味とと繋がっており、本格っぽい雰囲気も好み。 |
No.168 | 4点 | 闇に抱かれた子供たち ジョン・ソール |
(2021/08/28 23:22登録) ヴィレジャンという小さな沼地の中の町を舞台にしている。沼地から町を支配している闇の主という存在の正体が明らかになっていく過程と、主人公のケリーとマイクがその支配に対して立ち向かっていく姿が描かれている。 だが闇の主の正体が早いうちに分かってしまうために、少女たちが感じる恐怖が伝わってこない。老いていく人間の若さに抱く妄執の醜さを描くには、もうひと工夫必要に思われる。 |
No.167 | 4点 | ゴースト・レイクの秘密 ケイト・ウィルヘルム |
(2021/08/28 23:16登録) 殺人事件のみならず、子供たちの問題までも解決しなければならない女性判事の心の葛藤は、少々くどいきらいはあるが、なかなかよく描かれている。 ただ、作中に使われているトリックの実効性については、多少首をかしげざるを得ない。 |