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ミステリの祭典

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誕生日パーティー

作家 ユーディト・W・タシュラー
出版日2021年05月
平均点5.33点
書評数3人

No.3 5点 猫サーカス
(2024/11/02 17:25登録)
50歳の誕生日を迎える父・キムのを驚かせようと、次男のヨナスは秘密の贈り物を準備した。キムと母・イネスの幼馴染である女性のテヴィを祝いの場に招待したのだった。だがそれは、キムにとっては忘れてしまいたい過去を呼び戻す忌まわしい行為であった。キムとテヴィにはカンボジア難民としてオーストリアにやってきた経緯があった。さらに第三の語りが交じる。「カンボジア七〇年代メイ家」と題された章で、語り手の「ぼく」はクメール・ルージュの少年兵だ。彼が「自ら望んで殺した最初の、そしてただひとりの人間」を手に掛ける場面がまず描かれる。クメール・ルージュは一九七〇年代にカンボジアを支配した勢力で、恐怖政治によって共産主義化を推進したが、結果として国民の1/4が命を奪われた。人命は軽く、個人の尊厳は無に等しかった。「ぼく」が名無しなのは、人間がモノとして消費される世界だからでもある。加害者と被害者、過去に価値を見出す者と悪夢だとしか感じられない者というように、人間関係が対で描かれる点に本書の特徴がある。それらはいつでも入れ替わり可能なのだ。作者の祖国オーストリアにはナチス政権の時代が存在する。ミステリ構造を用いて作者は鏡像の物語を書いたのだ。

No.2 6点 八二一
(2022/03/29 14:43登録)
慟哭するしかない凄まじい戦禍の物語であり、同時に胸をえぐる罪の赦しの物語でもある。
カンボジアでの残虐極まりない二つの家族の崩壊と、オーストリアでの数十年におよぶ温かな家族と波乱に満ちた恋愛の歴史が烈しく胸を打つ。意外な事実を連打して衝撃を与える幕切れも忘れられない。

No.1 5点 YMY
(2021/11/01 23:27登録)
過去の出来事が現在の色彩を決定づける物語。50歳の父の誕生日に息子が呼んだゲストが、父の過去を掘り起こすサスペンス仕立て。
幼少期、残忍なポル・ポト政権下のカンボジアを脱出し、長じて受け入れ先の娘と結婚したキム。オーストリアでの平穏な暮らしは、かつてともに逃げ、妹同然だったテヴィとの再会で一変する。
本作は苛酷な記憶との折り合い方がテーマとなる。70年代カンボジアと現在とが並行的に描かれ、キムが封印した出来事があぶり出される。復讐による裁きとは何か考えさせられる一冊。

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