home

ミステリの祭典

login
YMYさんの登録情報
平均点:5.91点 書評数:386件

プロフィール| 書評

No.206 7点 TOKYO REDUX 下山迷宮
デイヴィッド・ピース
(2022/06/03 22:18登録)
GHQ占領下の東京を描く3部作の完結編。小平事件、帝銀事件を扱った2作に続く本書の主題は下山事件。
1949年。国鉄の下山定則総裁が失踪し、やがて列車に轢断された死体として発見される。GHQ捜査官は総裁の死の真相を探るが、やがてそのGHQや謀略機関の影が浮かび上がる。
さらに64年、五輪直前の東京で失踪した作家の行方を探る探偵の物語。88年暮れ、天皇の病で自粛に包まれた東京に暮らす元CIA工作員の物語が続く。
史実の未解決事件を何かに憑かれたような文体で語る。警察小説、スパイ小説、さらに幻想小説の色合いも交えて、事件を包む闇を描き出す。陰謀論の沼に身を侵しながら、展開には理性を貫き通す。特異な語りを通じて提示される、緻密な迷宮に圧倒される。


No.205 7点 彼と彼女の衝撃の瞬間
アリス・フィーニー
(2022/06/03 22:08登録)
舞台はロンドン近くの小さな町。殺人事件の真相を追う女性記者と男性刑事それぞれの視点からの語りに、殺人者と思われる人物の独白が挿入される。
二人の過去、この町での過去が徐々に明かされて、やがて予想外の展開を経て、皮肉で忘れがたい結末へと着地する。意外な展開に説得力を持たせつつ、巧妙な演出で読ませる。


No.204 8点 報復の海
ハモンド・イネス
(2022/05/18 23:05登録)
読みどころは、嵐に翻弄されるうえ陸用舟艇を始め、荒れ狂う北大西洋の描写。ほかに、死んだはずの主人公の兄が生きていて、軍の作戦を指揮しているなど、謎めいた行動に関する興味もあって最後まで惹きつけられた。


No.203 9点 失われた男
ジム・トンプスン
(2022/05/18 23:02登録)
人間の暗い深淵を描き出すノワールでありながら、作者はミステリとしての超絶の罠を読者に仕掛ける。二つの異なった方向性を結び付けてみせる強引さに、作者のしたたかさを見た気がする。
ほのかな希望を感じさせるエンディングで、さらに読者の意表を突くあたりも憎らしい。


No.202 6点 その犬の歩むところ
ボストン・テラン
(2022/05/03 23:43登録)
人間の善意と愛を最もよく理解する犬が、様々な人々の魂を生き返らせる物語。
孤独の闇の中にいて気付かずにいた他者の思いに触れ、忘れていた夢・新たな夢を抱かせてくれる。犬と"悲しみとさよならの川"を遡りながらも、それでも生きる喜びがあることをたっぷりと教えてくれる。
相変わらず作者の文章は詩的で力強く、読む者の心を何度も揺さぶる。


No.201 7点 ゴーストマン 時限紙幣
ロジャー・ホッブズ
(2022/05/03 23:37登録)
48時間後に爆発する「時限紙幣」を犯罪の後始末のプロが追跡する犯罪小説。
過去と現在を並行させる巧みな展開、迫力に満ちた銃撃戦、緻密な強奪計画と実行と申し分ない。複数の陰謀が絡み合い、沸点を目指していく興趣も抜群。
スタイリッシュでクールすぎるのが鼻につくが。


No.200 5点 病める狐
ミネット・ウォルターズ
(2022/04/19 22:31登録)
気ままな移動生活を営み、行く先々でトラブルを起こすトラベラーを扱っている点で、社会派の視点を持つ作品だが、老婦人の死の謎を解き明かす謎解きの興味もある。
物語に明るい陽射しを投げかけるヒロインと、電話魔の陰湿な手口の好対照が印象的な作品。


No.199 6点 血と暴力の国
コーマック・マッカーシー
(2022/04/19 22:26登録)
殺し屋の冷たい存在感と、全篇を覆う異様に乾いた空気。
絶対悪として描かれる殺し屋の行動は、事件に関わった全員を絶望の淵へと追い込んでいく。ピューリッツァー賞作家による犯罪小説の極北。


No.198 7点 狂人の部屋
ポール・アルテ
(2022/04/04 22:39登録)
あり得ない謎を理詰めで解き明かす作者の手腕が存分に発揮されている。お馴染みの探偵役ツイスト博士がハースト警部を伴って登場するタイミングも絶妙。
ポーラとその男友達パトリックのエピソードも本作の大事な要素で、ロマンス小説として読んでも、辛口の面白さがある。


No.197 7点 復讐はお好き?
カール・ハイアセン
(2022/04/04 22:34登録)
例によって、風変わりな善人、憎めない悪人がかわるがわるに登場し、沸かせてくれる。主人公のろくでもない、夫にしっぺ返しを食らわせるお話がメインだが、ペットのニシキヘビに逃げられた刑事や、ホスピスで出会った老嬢にほだされていく悪漢など、思わずニンマリするエピソードが満載。


No.196 9点 リオノーラの肖像
ロバート・ゴダード
(2022/03/18 23:17登録)
幾つもの謎が絡み合い、身代わりや叙述トリックなど巧緻な仕掛けも満載。加えて逃亡兵の汚名を着せられた父親の哀しみが全編を貫き、第一次大戦を背景にした戦争文学としても優れている。


No.195 7点 ふりだしに戻る
ジャック・フィニイ
(2022/03/18 23:14登録)
過去の事物を現実に再現し、過去にいると思い込むことによって時を超えるという浪漫的な設定に加え、執拗なまでに綿密な十九世紀の描写。ミステリ的な仕掛けなど読みどころに事欠かない作品。


No.194 5点 ハティの最期の舞台
ミンディア・メヒア
(2022/03/03 23:26登録)
「マクベス」の夫人役を演じた女子高生が殺され、それを追求するミステリ。
女子高生、教師、保安官の視点から事件の核心へと向かう。過去と現在を自在に往復して、女子生徒の多面的な性格と犯した罪の重さが静かにあぶり出されていく。
欲望と自らの裏切りという「マクベス」の主題を重ねた精緻なドラマ。


No.193 5点 夏の沈黙
ルネ・ナイト
(2022/03/03 23:22登録)
ミステリの形をした家族ドラマで、愛と哀しみと許しを巡るサスペンス。
二転三転させ、終盤でも驚きを与え、最後の止めの一行で物語の深さと豊かさを示す。複雑で厳しく冷然たる作品。


No.192 5点 ママは眠りを殺す
ジェームズ・ヤッフェ
(2022/02/18 22:11登録)
本格推理小説としてみた場合、ロジックを基調とした古典的な構成をとってはいるのだが、そのロジックが薄いために説得力が弱く、解決編でもさほどのカタルシスは得られない。論理性重視という姿勢は大いに評価したいところなので、かえって残念に思える。


No.191 8点 死の扉
レオ・ブルース
(2022/02/18 22:08登録)
探偵コンビの掛け合い、漫才めいた謎解きがひたすら愉快。人の生き死にをパズルとして扱ってしまえるミステリならではの不謹慎な楽しみに満ちている。
丁寧な伏線や真相の意外性も好印象。


No.190 7点 チェスナットマン
セーアン・スヴァイストロプ
(2022/02/03 23:05登録)
犯行現場に栗の実でできた小さな人形を残す連続殺人犯と、その犯行を食い止めようとする刑事たちの苦闘を描いている。
対照的な二人の刑事の個性と、目まぐるしい展開で二転三転し、長大な物語を一気に読ませる。不穏なラストも印象的で、謎解きの面白さもある。
作者は人気テレビドラマの制作者。小説は本書が初めてだが、その手腕を生かして、陰鬱にして複雑な魅力に富んだ物語を作り上げている。


No.189 6点 ベイジルの戦争
スティーヴン・ハンター
(2022/02/03 23:00登録)
第二次大戦を背景に、ドイツ占領下のパリに潜入する英国のスパイ・ベイジルの冒険を描いている。
潜入作戦そのものと、事前の「ブリーフィング」が交互に描かれ、ベイジルの冒険と奇想天外な作戦の全貌が徐々に明かされる構成がユニーク。謎に満ちたスリリングな冒険に、実在した人物を巧みに絡めた軽妙なスパイスリラー。短いながらも鮮烈な印象を残す。


No.188 6点 沼地の記憶
トマス・H・クック
(2022/01/17 22:45登録)
苛めを受けていたひとりの目立たない教え子の中に、才能の片鱗を見出した高校教師の物語。少年の力を引き出そうと殺人事件の調査を手伝わせるが、彼の思惑は思わぬ形で裏切られていく。幕切れ間近の鮮やかな反転は、読者をまたもや悲痛な思いへと突き落とす。


No.187 5点 割れたひづめ
ヘレン・マクロイ
(2022/01/17 22:41登録)
吹雪の山荘もので、過去に不自然な怪死事件が何度もあった部屋が出てきて、そこで密室犯罪が起きる。交霊術もあって、道具立てとしては古色蒼然たるものだが、かなりモダンに処理している。
導入部と最後の吹雪の追跡劇は読ませるが、密室トリックは大したことないし、ビックリするような結末でもない。

386中の書評を表示しています 181 - 200