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ミステリの祭典

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YMYさんの登録情報
平均点:5.89点 書評数:372件

プロフィール| 書評

No.192 5点 ママは眠りを殺す
ジェームズ・ヤッフェ
(2022/02/18 22:11登録)
本格推理小説としてみた場合、ロジックを基調とした古典的な構成をとってはいるのだが、そのロジックが薄いために説得力が弱く、解決編でもさほどのカタルシスは得られない。論理性重視という姿勢は大いに評価したいところなので、かえって残念に思える。


No.191 8点 死の扉
レオ・ブルース
(2022/02/18 22:08登録)
探偵コンビの掛け合い、漫才めいた謎解きがひたすら愉快。人の生き死にをパズルとして扱ってしまえるミステリならではの不謹慎な楽しみに満ちている。
丁寧な伏線や真相の意外性も好印象。


No.190 7点 チェスナットマン
セーアン・スヴァイストロプ
(2022/02/03 23:05登録)
犯行現場に栗の実でできた小さな人形を残す連続殺人犯と、その犯行を食い止めようとする刑事たちの苦闘を描いている。
対照的な二人の刑事の個性と、目まぐるしい展開で二転三転し、長大な物語を一気に読ませる。不穏なラストも印象的で、謎解きの面白さもある。
作者は人気テレビドラマの制作者。小説は本書が初めてだが、その手腕を生かして、陰鬱にして複雑な魅力に富んだ物語を作り上げている。


No.189 6点 ベイジルの戦争
スティーヴン・ハンター
(2022/02/03 23:00登録)
第二次大戦を背景に、ドイツ占領下のパリに潜入する英国のスパイ・ベイジルの冒険を描いている。
潜入作戦そのものと、事前の「ブリーフィング」が交互に描かれ、ベイジルの冒険と奇想天外な作戦の全貌が徐々に明かされる構成がユニーク。謎に満ちたスリリングな冒険に、実在した人物を巧みに絡めた軽妙なスパイスリラー。短いながらも鮮烈な印象を残す。


No.188 6点 沼地の記憶
トマス・H・クック
(2022/01/17 22:45登録)
苛めを受けていたひとりの目立たない教え子の中に、才能の片鱗を見出した高校教師の物語。少年の力を引き出そうと殺人事件の調査を手伝わせるが、彼の思惑は思わぬ形で裏切られていく。幕切れ間近の鮮やかな反転は、読者をまたもや悲痛な思いへと突き落とす。


No.187 5点 割れたひづめ
ヘレン・マクロイ
(2022/01/17 22:41登録)
吹雪の山荘もので、過去に不自然な怪死事件が何度もあった部屋が出てきて、そこで密室犯罪が起きる。交霊術もあって、道具立てとしては古色蒼然たるものだが、かなりモダンに処理している。
導入部と最後の吹雪の追跡劇は読ませるが、密室トリックは大したことないし、ビックリするような結末でもない。


No.186 7点 狼たちの城
アレックス・ベール
(2021/12/31 23:20登録)
特別な訓練を受けたわけでもないユダヤ人が、ゲシュタポ捜査官になりすまし、親衛隊の拠点で捜査に臨む。これだけでも緊張に満ちた展開だ。そこにレジスタンスの思惑が絡み、さらに本物のヴァイスマンと彼を知る者も登場し、イザークにとっては極めて危険な場面が連続する。
殺人事件の謎だけでなく、イザークに迫る危機が強いサスペンスをもたらす。巧妙な舞台設定で一気に読ませる力作。


No.185 5点 誘拐の日
チョン・ヘヨン
(2021/12/31 23:15登録)
娘の手術代のため、ミョンジュンは誘拐に手を染める。だが、標的の少女はアクシデントで記憶喪失に。とっさに父を名乗って連れてきたが、口の立つ少女に振り回される。一方、少女の両親の死体が発見され、彼は殺人の容疑者に。
社会のゆがみを背景にしながらも、お人好しの誘拐犯をはじめとする人物描写のおかげで、ユーモラスで温かい作品に仕上がっている。


No.184 5点 リトル・グリーンメン
クリストファー・バックリー
(2021/12/31 23:09登録)
人気テレビ司会者のバニオンは、エイリアンに拉致される体験を経て、すっかりUFO信奉者に。だが、それは自らの不遇にいら立った秘密機関の職員が、勝手に進めた工作によるものだった。
政治家からUFO信奉者まで、多彩な人々を皮肉たっぷりに描き出す。一職員の暴走が招いた騒動を、脱線も交えて愉快に語る作品。


No.183 8点 推定無罪
スコット・トゥロー
(2021/12/17 23:34登録)
法廷を舞台にした小説はこれまで、いくらでもあったがこれほどディテールを精密に描いた作品はなかったのではないか。また法曹界の制度の中で絡み合う人間たちの関係を生々しく活写した点でも、やはり先行する作品とは一線を画していただろう。
周到に張られた伏線が生み出す驚愕の、そして皮肉に満ちたどんでん返しには圧倒された。


No.182 9点 13・67
陳浩基
(2021/12/17 23:30登録)
物語の時間軸が現在から過去へと遡っていく逆年代記という手法を用いて描かれている。
プロットの組み立て方、物語の見せ方は緻密で、読んでいるうちに何度もミスリードされてしまう。六つの事件のどれもが当時の香港の世相や人間模様を反映して複雑な様相を呈するが、対立する構図はいたってシンプル。徹頭徹尾、勧善懲悪なのだ。難しいことは何もしていない。夢中で推理し、爽快にしてやられた。


No.181 4点 快楽の館
アーヴィング・ウォーレス
(2021/11/30 23:09登録)
ミステリ的要素は極めて少ないが、娼婦の館を隠そうとする側と暴こうとする側が入り乱れ、虚々実々のスリルを醸し、変質的な殺人鬼も加わって娯楽性は豊か。


No.180 5点 マンアライヴ
G・K・チェスタトン
(2021/11/30 22:53登録)
いわゆる本格ミステリというより、観念小説とでもいうべき作品だが、私設法廷で裁かれる悪人イノセント・スミスの行動をめぐる謎解きは、生きるとはどういうことか、という永遠の命題を我々に突きつけてくる。


No.179 8点 わらの女
カトリーヌ・アルレー
(2021/11/15 23:03登録)
莫大な遺産の奪取という完全犯罪の成功を描いた作品。
しかし、その計画はコン・ゲームものの傑作に登場するような爽快なものではないし、緻密なプランでもない。どちらかと言えば、迂闊によって成立した完全犯罪であったといえる。しかし、ヒロインをじわじわと着実に破滅に向かって押し進めていく描写は迫力満点。


No.178 8点 刑罰
フェルディナント・フォン・シーラッハ
(2021/11/15 22:58登録)
罰をめぐる短編が十二作。ベッドで発見した見知らぬ女の真珠が引き起こす未必の故意「テニス」、犯罪組織のボスを弁護する女性新人弁護士の苦悩「奉仕活動」、危険な方法で自慰に耽る夫への侮蔑「ダイバー」などが特にいい。
どれも静かで異様に狂おしく、それでいて驚くほど澄み渡り、張り詰めている。喚起力に富んだ世界は生々しく、時にひねくれたユーモアで運命の皮肉をのぞかせる。深遠で複雑な人生の諸相には心が震える。


No.177 5点 誕生日パーティー
ユーディト・W・タシュラー
(2021/11/01 23:27登録)
過去の出来事が現在の色彩を決定づける物語。50歳の父の誕生日に息子が呼んだゲストが、父の過去を掘り起こすサスペンス仕立て。
幼少期、残忍なポル・ポト政権下のカンボジアを脱出し、長じて受け入れ先の娘と結婚したキム。オーストリアでの平穏な暮らしは、かつてともに逃げ、妹同然だったテヴィとの再会で一変する。
本作は苛酷な記憶との折り合い方がテーマとなる。70年代カンボジアと現在とが並行的に描かれ、キムが封印した出来事があぶり出される。復讐による裁きとは何か考えさせられる一冊。


No.176 5点 地中のディナー
ネイサン・イングランダー
(2021/11/01 23:21登録)
イスラエルの砂漠に設けられた秘密の施設。そこには、たった一人の囚人Zが長年にわたって収監されている。彼は米国生まれだったが、かつてイスラエルの諜報員だった。Zの監禁を命じた将軍は、何年も昏睡したまま病院のベッドに。将軍が夢見る過去の出来事や、Zの過去、パレスチナ難民の青年の物語、さらにはZを見張る看守と、将軍が眠る病院に勤める看守の母の日々。いくつもの物語が重なり合い、複雑に絡み合う。
入り組んだ語りが展開される複雑さゆえに、序盤はとっつきにくく戸惑ってしまうものの、この迷路のような構造こそがこの作品の魅力。いくつもの断片をつなぎ合わせて浮かび上がるのは、イスラエルとパレスチナの紛争の構図と、スパイとなった男のたどる数奇な運命だ。結末近くになってようやく分かる、題名の指し示す事柄も忘れがたい。


No.175 5点 検死審問ふたたび
パーシヴァル・ワイルド
(2021/10/18 23:20登録)
前作の風俗小説的な渋さが好みだったので、ユーモア色が濃くなった本作は好みから外れている。あとメタフィクション的な趣向が目についた。


No.174 7点 服用禁止
アントニイ・バークリー
(2021/10/18 23:18登録)
カントリーハウスで起きた毒殺事件をめぐる謎解きの試行錯誤をシリアスなタッチで描いている。
とはいえ、そこはけれん味に長けた作者のこと、ミステリ的な面白さを演出することに怠りはなく、読者への挑戦も用意する念の入れよう。本格ファンも満足できると思うが。


No.173 6点 デス・コレクターズ
ジャック・カーリイ
(2021/10/03 23:08登録)
作品全体を貫く大ネタからそれを支える小ネタまで余すことなく、神経を配り周到に伏線を張り巡らせた上ですべてを回収し着想外の結末まで度肝を抜く。
しかもキャラの立たせ方も巧妙で、物語としても面白い。

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