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ミステリの祭典

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ねここねこ男爵さんの登録情報
平均点:5.65点 書評数:172件

プロフィール| 書評

No.92 7点 論理爆弾
有栖川有栖
(2017/12/04 23:09登録)
ジュブナイルあるいはヤングアダルト向けの作品にコレをもってくるとは…
本作は本格ミステリをある程度読みこんだマニアが本来の対象でしょう。帯の煽り文句の最適具合では史上屈指。少なくとも本格物を二十冊以上読んで嗜好や思想が固まってから本作に取り掛かることを強くおすすめします。


No.91 4点 女彫刻家
ミネット・ウォルターズ
(2017/11/25 20:30登録)
なんというか、ツイン・ピークスっぽい。そういうのが好まれた時代の作品。
雰囲気を楽しむ小説。


No.90 5点 11枚のとらんぷ
泡坂妻夫
(2017/11/25 14:13登録)
昔イギリスの田舎の人がロンドンで初めてシェイクスピアを観た時「諺ばかり出てくる」と言ったそうな。これは逆で、シェイクスピアの芝居のセリフが諺になったのだ。

本作を読んで上記のエピソードを思い出した。この時代にこれ程の、というのはあるが…
他の方の評価の通り、非常に魅力的な犯行現場の謎からの残念な真相。また作中作が高評価だが、スレた人は仕掛けを容易に見破るだろうし、(重要な構成要素なのだが)手品の話題は本筋と無関係なものがとても多く、「ミステリなのに手品の事もたくさん知れて楽しい!」か「いや手品薀蓄とかいらないから。ムダに長くてウゼぇ」で分かれそう。

それから、時代のせいか読みにくい部分が多い。例えば事情聴取を舞台の控室でやるのだが、上演中の舞台のセリフが何故か会話に唐突に紛れ込む。「ビビデバビデ、ブウ!」とか。一瞬会話なのか何なのかの判別を迫られ異常にストレス。わざわざ書いてる以上、『舞台の音声が控室にも聞こえる』のがトリックの伏線なのかと思ったらなんにも関係なかった。ならばせめて二重カッコにするとかあるでしょう。これがユーモアのつもりらしいのだが、思い切りスベっている。なんのこっちゃと言う人は読んでください。

構成の妙味、手掛かりの置き方、構造の転換など素晴らしい点も多いが、トータルだとこのくらいで。正直、評判に引きずられた過大評価の感あり。


No.89 2点 監獄島
加賀美雅之
(2017/11/16 23:12登録)
最初にまとめると、初期の(有名ミステリからパクりまくっていた)金田一少年の事件簿みたいなもん。
全く意味のない「トリックのためのトリック」多数。
探偵の「推理」もこのタイプにありがちの、作者の用意した模範解答を探偵が喋ってるだけ。

力作であることは確かです。が、後述しますがコレページ数半分くらいで十分書けたんじゃあ。それから、推理小説好きなら大半の仕掛けが見破れます(物理トリックは除く)。ワタクシはそうでした。それは推理力自慢じゃなく、大半が古典推理小説からの丸パクリの継ぎ接ぎだからです。作者も「ここからパクった」とパクリ元を作中で明示してますしね。うーんこの。あと密室殺人が山ほど起こりますが、密室にする必然性が皆無。死体なんて海に捨てたらええやん。目撃される?作中の犯人はじめ各人物の移動ガバガバやんけ。
犯人特定の部分はそこそこだけに(それもクイーンの有名作のパクりだったり)、台無し要素がね。それから後述するが、この作者は自分が書いたことを忘れすぎ。

批判(ネタバレなし)
①長すぎ。しかも長さの理由が単に作者の未熟さと自己顕示欲によるもの。ことあるごとに事件のおさらいをする。繰り返し繰り返し。しかもコピペ並みに変化がない。解決編が並の長編ほどの長さですが、事件の復習がほとんど。作中の人物すら「そんなこと知っとる」と言うw どうも「さあ謎の不可解さが分かってない人がいるかもだから確認するよ〜?ほらほらこんなに不可解でしょ?でもボクはこんなに素晴らしいトリックを思いつきました。すごいでしょ?」と言いたいらしい。
②クライマックスで銃を突きつけられてるのに犯人そっちのけで16ページも解説する探偵と聞き手。それをじっと待つ犯人。そこから12ページも自分の悪事を白状する犯人。じっと聞く探偵と聞き手。この人達って…
③聞き手がポンコツで、探偵不在時に「○○に違いない」と自分で推理してるのに、同じことを解決編で探偵が言うと「ああっ!そうだったのか!」と衝撃を受ける。長すぎて作者も書いたこと忘れてるんじゃないか。

もうとにかくほんとに冗長で、解決編は傍点部分だけ読めばよい。あとの200ページほどは単なる自慢で読む必要がないという酷さ。
小説として微妙すぎ。あとパクリすぎ。パクリ元を読んでなくて半分の長さなら名作だったかもね。

批判(ネタバレあり)
④複数のトリックが『黄色い部屋の謎』の丸パクリ。作者はひとつだけみたいに書いてますが他にもある。他の古典からのも散見。
⑤糸!糸!糸糸糸!困ると糸。しかも糸を使う必然性がない。
⑥偶然はやめましょう。なんでもありになります。しかも何回もとか舐めてるとしか思えない。探偵も偶然と工作をどうやって見分けたのか教えてほしい。推理じゃなく作者から模範解答を貰って読み上げてるだけじゃん。
⑦監獄の構造見た瞬間トリックがネタバレするっしょ。まさかと思ったらまんまだった。
⑧叙述トリックはすぐ露見する。当時の流行りを単純に取り入れてるだけで稚拙にすぎる。登場した瞬間分かったぞ…
⑨『ダイヤは原石では価値がないのでルートを持つ犯罪者を巻き込んだ』のがそもそものきっかけなのに、2ページあとで『原石だけで十分な価値があるから他のやつを殺した』は草。
⑩信号弾って音するし精密射撃なんて無理なんだが。と言うかそもそもこんな無理やりの工作をして密室状態を作る必要があったのだろうか。

繰り返すが金田一少年程度のクオリティ。
「どうやったらこんな事が!?」→「偶然」で手抜きするのはやめてくれ。もしくはタイトルを「偶然島」にしてくれ。


No.88 7点 狩人の悪夢
有栖川有栖
(2017/11/13 21:40登録)
安定と信頼の有栖川ロジック。
極めて限定された状況下なので、犯人の意外性は期待できませんが、とっ散らかった犯行現場に火村准教授が秩序をもたらしてくれます。学生アリスの探偵役である江神さんとは毛色の違う、リアリズムに満ちた狩りは見事。

火村英生シリーズは学生アリスシリーズと比べて量産型作品というイメージがあったのですが(超失礼)、『鍵の掛かった男』あたりからまさにツートップと呼ぶにふさわしいクオリティになった感じがします。しかもどちらもロジカルでありながら性格個性が異なりきちんと住み分けがなされていて素晴らしい。

ロジックよりトリック、フェアプレイより衝撃や意外性重視な人は読んではいけません。


No.87 8点 屍人荘の殺人
今村昌弘
(2017/11/13 20:46登録)
これはなかなか面白い。斬新なクローズドサークル設定。

単なる目新しさだけでなく設定を完全に活かしきっている。フラグを立てる人物は分かりやすく犠牲になるw 第一の殺人の真相はすぐ見当がつくが、それすら作者の手のひらか。またフーダニット、ハウダニット、ホワイダニットとは何かを説明する場面があるのだが、それらをすべてカバー。お見事。作中で触れられている通り登場人物が覚えやすく、人数や役割が整理されていて非常によい。さらに文章が言い回しのみならず字数や読みのリズムまで考慮されているようでやたらと読みやすい。SNS世代の若い作家さんはここがいいですね。

人と人との接触が禁止された世界とか、架空の交通機関のある世界での殺人などこういった前例はあるが、ここまで設定を活かしきった作品は稀有かと。推理もロジカルでアンフェアな事もなし。それゆえ大きな世界の転換ということはないが衝撃成分もしっかり確保されていて好印象。

若い作家さんらしい圧倒的リーダビリティと職人芸的上手さを感じさせる優秀作。続編を期待させる人物設定ですし、作者さんもそのつもりでしょうから是非。続篇ではどうにかしてあの人を生き返らせて下さい。

ちなみにタイトルと宣伝文で公開設定だと思っていたので、「設定か?ネタバレか?」議論の存在を知って驚いた(何の事かは皆さんご存知でしょう)。巷では「○○だと思ってたのに読んだら理屈っぽい小説だった!低評価!」という逆転現象も起きたりしているらしい…今思うと、隠すつもりならこんなタイトルにしないでしょうから、最初からネタバレ狩りによる宣伝を狙っていてあからさまなタイトルにしたのかな、とも思います。商売上手?


No.86 6点 ハサミ男
殊能将之
(2017/11/12 23:03登録)
仕掛けやそのための描写がよく出来ている部分と雑な部分が混在していて、相殺してこのくらいの評価。衝撃を味わいたいなら。

コレが流行った時期の作品なんでしょうがないですが、日常描写が延々続く作品は間違いなくコレですねぇ…ワタクシは知らずに読んだのですがすぐに気付いてしまいました。『コレだけ』ではない作品ではあります。


No.85 7点 星降り山荘の殺人
倉知淳
(2017/11/12 21:34登録)
これは面白い。
この作者の本は好きか嫌いかでいえば大っ嫌いでしたがこれは良いです。

とにかく古典的なクローズドサークルもの。解決もロジカルで衝撃の真実や意外な犯人はなし。クローズドサークルですからね。そのかわり不快な強引さもなし。衝撃成分は各章の前フリが担っており、読者は当然仕掛けを警戒するため効果は今一つか。コレがうまくいっていたらもっと良かった。あ、本作を叙述トリックと言っている人は叙述トリックを間違えています。それから低評価をつけている人でレビュー本作のみってのが多くてなんとなく…ねぇ…

ちなみに、同作者の「過ぎ行く風は〜」と本作どちらが好きかが嗜好のベンチマークになります。「衝撃!意外!トリック!」な人は前者、「推理小説らしい推理小説」を求める人は本作となるでしょう。どちらの人も反対側は読まない方が精神衛生上オススメ。


No.84 2点 過ぎ行く風はみどり色
倉知淳
(2017/11/12 21:04登録)
自分のミステリの嗜好がマイノリティであることは重々承知していたつもりだが、アンフェアどころか大ポカをやらかしている本作がここまで高評価なのを見ると、2000年代のミステリは読まない方がよいかもと悩んだ。正直読み終わった瞬間は0点をつけたくなったが、しばらく自分の中で寝かせてこの評価で。

自分語りはこのくらいにして、以下ネタバレを含む書評。


ぶっちゃけるとこの時期流行った叙述トリックものなのだが、ソレの悪い点を凝縮したような本。

そもそも、『取 り 違 え に 周 囲 は 気 付 い て い た と 明 記 さ れ て い る の に、何 故 取 り 違 え た 人 物 の 証 言 を 証 拠 と し て 採 用 し た の か ?』ここが決定的な作者のミス。それから、「コレを書いたら読者にバレる!でも上手く書く力量がない!だから後出しジャンケンになっても書かない!」が多すぎ。

①最大のネタに充分な情報提供がなされているとは思えない。例えば皿に盛り付けられたのを見て初めて「お、今夜はカレーか」→カレーなら匂いで分かる。よって発言者の嗅覚は弱い、とか「色覚に異常があって画家を諦めた」→色盲、とかなら万人が納得する伏線と言えるだろうが、本作は…。本作のキモは『ここにしかない』ため、それを悟られないためご都合強引な隠蔽工作をしていて萎える。
②①に反論する向きも多いだろうから、一つ例を。「同じ人物でも人によって評価が違う」→「評価者の片方が取り違えをしていた」ってねぇ。一行で矛盾してるじゃん。
③無関係な語りが長すぎる。モノローグは意味があるから良いとして、会話シーンが無駄。伏線として必要ではあるのだが、機能させるにしても一部で充分で、何回も長々やらんで良い。繰り返すことで取り違えに説得力を持たせたい意図が丸見え。あとどうもこの作者は「空気読まず延々喋る人物=個性的」と思っているフシがある。他作品でも顕著。
④③と絡めて、第二の被害者の情報を隠蔽しすぎ。あれだけ長々被害者について涙ながらに語っておいて、解決編でいきなり「実は被害者はこんな事もできる、昔やっていた。だからコレができた」とドヤ顔でぶっ込んでくる。ナメんな。(口の方じゃなく身体能力の方)
⑤いくら真っ暗で音楽がかかっていても、隣の人がテーブルに乗ったら分かります。まして手が触れてるのに。
⑥「偶然そうなった」はやめましょう。なんでもありになります。苦しいのを誤魔化したでしょ?
⑦実は第一の殺人後の記述から「殺せるのこいつしかおらんやん、あとはアリバイ崩し」ってのはすぐ分かってしまう(その意味ではフェアかも)。
⑧「自己紹介の仕方から取り違えた」あの自己紹介で取り違える奴はいないし、初読時(何だこいつら…?)と思ったぞ。クドいが、取り違えに説得力を持たせたい意図が丸見え。
⑨「気を遣って言わなかった」作中で気を遣わない、と断言されている人物がいるのになぜ会話中で指摘しない?

叙述トリックは比較的お手軽に謎を作れるだけに取扱いには細心の注意を払うべきです。本作はそれに依存しすぎかつ隠蔽がアンフェアすぎ。おそらくこの時期先行する作品群に影響を受けたのでしょうが数段落ちる。衝撃さえあれば矛盾しまくっててもいいよという人だけ読んでください。


No.83 3点 猫は知っていた
仁木悦子
(2017/11/12 14:42登録)
あえて現代の評価基準での評価です。
確かに今読んでもさほど古さを感じないという点はすごいですが、逆に言うと当時はその斬新さが評価されたのであって、ミステリ本体の出来は果たして…?という感想です。執筆当時ですら出尽くしていたトリックやプロットですから。
ユーモアミステリというほどユーモアを感じません。たくさん人が死んでも異常なほど皆淡々としてますし、探偵役の兄妹は他人の家をズカズカ歩き回るし。兄妹がプレステで推理ゲームをしながら会話してる、というとぴったり。ああ、当時は新しかったんだなと。今で言うとラノベミステリみたいなもんでしょう。さらに、登場人物の誰ひとり好感のもてる人がいません(女の子くらいか?)。
推理もロジックとは程遠く、一応の痕跡から作者視点の天才的探偵が快刀乱麻であり、説明されて納得するしかない系。とても不可解な行動の理由が「そうしてみたかった」で唖然としますが、それをあっさり看破する探偵すごすぎです。
と言うことで厳しめ評価で。

以下ネタバレを含む批判。
①変装無理ありすぎ。そもそも性別を変える必要なくない?明らかに捜査陣でなく読者への引っ掛け。
②無意味な設定が多い。例えば英一の恋心や冒頭の表情、いきなり毒草について質問するなどは本筋と全く無関係で、ミスリードにすらなっていない。読者に「何かあるな」と思わせたいだけで中身がない。
③単にいくつかの事象が同時並行で走っているだけで、一つ一つは大して魅力的でないし不自然。被害者を殺したい人間が一つの病院に『偶然』複数いる。『偶然』みんな殺人を仕掛ける。そして『偶然』同じタイミングで無関係な盗難事件。そして別々の事件の痕跡とあっさり見破る探偵。その根拠を教えてくれよ。
④「兄にからかわれた!腹いせに抜け道を通れなくしたろ!」???
⑤車は何処に…?→解決編で突如車を隠すのに都合の良い場所があることを知らされる読者。( ゚д゚)ポカーン
⑥とても金に困っていた盗人が、現金は持ち去るのにはるかに高額な指輪を缶に詰めた挙句通路にすぐ分かるように埋めて後日取りにも来ず理由が「やってみたかった」だと…もう何がなんだか。
⑦③の一つで、下着を漁られ指輪を盗まれ金を盗まれそれが自分を可愛がってくれたばあちゃんを死なす遠因になってるのに盗人をかばい「あの人は人殺しなんかしません(ポッ)」挙句「誰もあたしを可愛がってくれない!あたしは被害者!」としてばあちゃんそっちのけで保身に走る電波女がひたすら胸糞。


No.82 7点 罪の声
塩田武士
(2017/11/10 23:21登録)
元新聞記者である作者が綿密な取材活動のもとグリコ森永事件を元ネタに書いた小説。犯行に用いられた『子供の声のテープ』の声の主と新聞記者のダブル主人公が真実を追う。

いわゆる社会派ものなので、証人や秘密を握る人物が都合よく次々とあらわれるのはお約束。ただ、情報が出揃ってからの中盤以降はスピードもありテンポよく面白い。新聞記者の経験を多く盛り込んだそうで、取材の生々しさを感じとることができます。文章も読みやすく、無駄に引き伸ばすこともなくストレスなし。

真相は当時色々推理されていたものの一つに近く意外な真実というわけではありません。ただ、実際の事件でもあった不可思議な点などもきちんと説明されており、「犯人は架空だが、真相や犯人グループの役割などはそれほど外していないと思う」とのことで未解決事件マニアも納得の作品。

普段は本格マニアの自分ですが楽しかったです。
作品の性格上、まとまった時間を用意して一気読みをオススメします。


No.81 5点 密室の鍵貸します
東川篤哉
(2017/11/10 15:11登録)
なかなか面白いです。
色メガネで見てしまいそうなタイトル装丁で、文体かなり軽いですが、ちゃんと本格ミステリしています。ユーモアって書くの大変(ギャグ漫画家は必ず病む)なのにあえてこれで行こうとした作者はすごい。一時期、難しい漢字のおどろおどろしいタイトルと文体を用い、中身はミステリより雑学知識多めで黒い表紙の作品が流行り、そういうのが格調高いという出処不明の価値観がありますが、ユーモアのほうがずっと好感が持てます。読みやすいし。
惜しむらくは、長編としてはネタが薄いこと、それを引っ張るためのドタバタ劇になっていることでしょうか。
それから、死体発見時に発見者が自分の首を絞めるような行動を「ついやってしまう」のですが、本筋にあんまり影響無いにしろ、今時の読者にとっては発見者に同情する気持ちより「何やってんだよ面倒くせぇな…」とストレスになるだけなのでやめた方が。


No.80 3点 競作 五十円玉二十枚の謎
アンソロジー(出版社編)
(2017/11/09 17:47登録)
日常の謎としておそらく日本一有名であろう表題のアンソロジー。
謎の答えが知りたくて読むと肩透かしを食らう。

謎に真正面から取り組んだもの、謎はあくまで踏み台で実質別の話がメインになっているもの、身内のウケのみを狙ったものなど足並みがそろっておらず、クオリティもバラバラ。なので評価点は低めです。

作家さんは完全な創作料理は得意でも、グルメ漫画の料理対決のようにテーマという名の縛りを与えられると戸惑ってしまうんだなぁと感じられる。
あと、やがてプロになる人はやはり最初から化け物だ。


No.79 9点 スイス時計の謎
有栖川有栖
(2017/11/09 17:37登録)
ほぼ表題作のみの評価。ロジックもの短編の国内ベスト。

ロジックものはどうしても複雑な状況を作り複雑に解説するという形式になりがち。容疑者を一人ひとりふるい落とす根拠を用意せねばならず、そうすると容疑者の数が増えるほど長く複雑にせざるをえなくなる。さらに面白みを加えるためか、関係ありそうで無関係な事象を平行して走らせる小説が多く(出来の悪い長編あるある)、そうするともう何がなんだかとなりがち。
この作者は論理のために無理やりオーダーメイドされた世界を作ることをせず、ぱっと見意味のないような些細な状況から論理を構築するのが異様に巧みで、文章力もあいまって読ませる。特に表題作の見事さは『孤島パズル』に匹敵。

ちなみにその他の3短編も悪くなく、標準的なレベルにはあるかと。『女彫刻家の首』は首切り死体はなぜ首を切られるか?のバリエーションのひとつ。

『ロジックよりトリック』『どんでん返し!意外な犯人!衝撃の真実!』な人は読んではいけません。


No.78 7点 犯罪ホロスコープⅠ 六人の女王の問題
法月綸太郎
(2017/11/09 17:20登録)
『冒険』や『功績』などと比べるとやや落ちますが、それでも相変わらずの巧さと構造転換の妙味を味わえます。

一話目:そんなこと考える人間はいないと思うが、親からそう聞かされて育ったならまぁ…分からんこともない行動か
二話目:ミステリと暗号って相性よさそうで実はかなり悪い

が正直微妙でどうなることかと思いましたか後半から本気出します。
らしさを感じられたのでちょっと甘めの採点で。


No.77 1点 ミステリアス学園
鯨統一郎
(2017/11/08 22:12登録)
ミステリではない。じゃあ何なのか?というと何にもなりきれていない…。一言でいえばとてもつまらない。

ミステリの解説書なのかといえば全く解説してないし、起こる事件が用語の説明になってるかといえば全然なってないし。
それから密室講義に対抗して密室の分類をする作家がやたらいるが、「これなら全ての密室を簡単に分類できる」と言って全然全く微塵もダメなのばっかり。この本もそう。犯人は男性または女性であると分類してドヤ顔してるようなもんで、『とりあえず既存のトリックがどこかにおさまる箱を用意した』としても箱の中が散らかり放題では分類したことにはならんよ?
流れをぶった切っていきなり人が死に、解決も何がなんだか。パロディでもなしユーモアもない。なんの本なのだろう?
最初のページに思わせぶりな文が書いてあるのだが、その狙いも豪快に滑っている。夜中に思いついたすげぇ面白いギャグと同じで、朝起きて思い出すと恥ずかしいみたいな、そんな本。


No.76 5点 ふたたび赤い悪夢
法月綸太郎
(2017/11/08 22:02登録)
面白いことは面白いが、他の長編群と比べてだいぶ落ちる。特別な属性を持つ人物が狭い範囲に集中しているなど人間関係が好都合すぎることと、これまでの法月作品と違ってトリックが推理小説的リアリティ(勝手な造語です)に欠けるというか…普通気付かんか?と思ってしまった。あとゴシップ記者超有能。
さらに、三箇所ほどやたら冗長な部分があり、正直かなり苦痛だった。この退屈な中に伏線でも張ってんのかなと思い歯を食いしばって読んだが、そんなこともなかった。アイドル論の下りって要るのか…?
『頼子のために』の後日談プラスアルファですね。


No.75 10点 大誘拐
天藤真
(2017/11/08 21:40登録)
極上のエンターテイメント。めちゃくちゃ面白い。

大地主で大金持ちかつ人格者の八十二歳のおばあちゃんが誘拐される。身代金の当初の予定は五千万円。ところが金額の安さにおばあちゃんが激怒し、百億円!に増額させる。そして頭脳キレッキレのおばあちゃんがなぜか犯人グループを仕切って『自分の身代金』の奪取計画をねり始め…というわくわくする設定。
全体がコミカルに描かれていて、登場人物に悪人もおらず、いつの間にか犯人グループとおばあちゃんを応援してしまう。読後感もとてもよい。
一九七八年の作品だそうですが、この時代に大掛かりな劇場型犯罪を描ききっている先進性はもとより、異常なテンポの良さ、退屈になりそうな部分では対談形式にして読者にストレスを与えないなど圧倒的なリーダビリティが光る。全身全霊全気合をもってオススメ。ツッコミどころとかこまけぇことはいいんだよ!


No.74 8点 能面殺人事件
高木彬光
(2017/11/06 22:05登録)
結構面白くない?
作中で有名作のネタバレをしていること、超有名作であるアレの云わばエピゴーネンであることから一般的に厳しい評価を受けることが多いが、決して失敗作ではない気が。

①構成的に密室は象徴的なもので解かそうとは思ってない
②ほぼそれだけの例のアレと比べて、これは一要素として取り込み消化している感
③共犯者?がとても有能というか犯人に都合が良い

①②を否定的にとるか好意的にとるか。特に②に関しては、現代の人気作家の方が本当にただのパクリに化学調味料をふりかけただけなものを出している気がする。だから本作を許容せよという意味ではないが。
③はねぇ…犯人は別にそれを計算には入れてないと思うんだよね。共犯者が空気読んだだけで。

探偵役が複数いて、それぞれが明確に役割を与えられ、シンプルでロジカルな解決など評価してもよい作品かと。少なくとも再評価の議論のまな板にのせる価値があると思う。


No.73 3点 すべてがFになる
森博嗣
(2017/11/05 01:37登録)
タイトルだけ読めばオッケーな作品。
本作の『天才』は『全米が泣いた』くらいの意味です。タイトルと文章の雰囲気で「これはとてもすごい作品なんだ!」と読者に誤認させるのが本作最大のトリック。
この作者は雰囲気作りやセリフ回しで斬新先進的革新的という空気を作るだけで、ミステリとしてはお粗末だったりパクりだったり。「この程度で読者はありがたがって金を出すだろw」というのがミエミエ。他サイトの書評で「森博嗣はミステリをナメている」というのがあったが、それを象徴する作品。


以下ネタバレと批判。
①トロイの木馬を仕掛けた
初読時「これって作った本人がやったんじゃないの?天才はそんなミエミエなことしないか……ってそのまんまか!」普通真っ先に疑います。スタッフ無能すぎ。しかも解決編の探偵のセリフによるとログが残っているそうで、調べられたら一発アウトじゃないのか。
②共犯者が普通にいた
真の天才は共犯者の方で、空気読んで都合よく立ち回ってくれる。すごすぎ。デスノの魅上に見習ってほしい。
③見つからないような動き
あのなぁ。完璧な計画ちゃうんか。
④実は娘がいて教育に失敗
ご飯半分こだとお腹すかない?
⑤完璧な計画なのに部外者とか計算違いで不都合が生じる
天才wwww
⑥唯一まともなスタッフにバレそうになる
天才…
⑦んでバレないうちに殺す
…天才?

トリックも手垢がついたものが多く、単に道具を新しくしただけ。中に複数いるのはすぐ察しがつくし、クドいほど天才天才連呼するので誤解しがちだがやってることはかなり見切り発車で失敗もしてる。
とにかく厨二臭漂う作品で、そういう人にはドストライク…なので、冷静に読むべきかと。

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