ねここねこ男爵さんの登録情報 | |
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平均点:5.65点 | 書評数:172件 |
No.112 | 8点 | 追憶の夜想曲 中山七里 |
(2018/02/11 15:38登録) 一応言っておくと、このサイトでは本格/新本格にカテゴライズされていますが、本作は本格ミステリではなく法廷ミステリです。 これは面白かった。 主人公である御子柴弁護士のぶっとんだ設定に戸惑う人もいるかと思うが、個人的には全く気にならず。 弁護は絶望的とも思われる案件を主人公はなぜ買ってでるのか?刑期を出来るだけ縮めるよう要求するにもかかわらず時に自分に不利になる証言をしてしまう被告人は単に天然なだけなのか?などなど魅力的な謎が次々提示され、衝撃とともに締めくくる筆力は素晴らしい。いろいろな証拠や伏線をさりげない描写に混ぜ込むのがやたら巧みで、ストレスなく読める文章はさすが。登場人物も整理されていて非常に良い。 法廷ミステリなので本格物のような推理の楽しみはないが、魅力的な謎とその真相、法廷でのやり取り含めた人物描写、駆け引きなどが楽しめる。高評価も納得の作品。 |
No.111 | 2点 | ノッキンオン・ロックドドア 青崎有吾 |
(2018/02/08 21:03登録) トリック担当とロジック担当のコンビ探偵という発想は斬新で期待したのだが、表題作以外は設定の意味が非常に薄い…というか、企画倒れの普通のミステリになってしまっている。多分、表題作以外のアイデアが浮かばなかったのだろう… もう少しうがった見方をすると、タイプの異なるイケメンのコンビということから、同人など二次創作(ひょっとしたらTVドラマ化などメディアミックス)を強く意識したと思われる。それならそれで構わないので設定を活かして欲しかった。その意味で高評価は与えづらい。 それから、見破られないように証拠を提示したりどんでん返しする筆力が不足。具体的には、警察やちょっと観察力がある素人なら気づく痕跡を(書くとバレるため)解決編まで書かない。そもそも服を脱ぐ順番なんて人それぞれだってば。 この作者の他作品を読んでいても強く感じることだが、この作者は論理を勘違いしていて、探偵役がすべてのケースで「シャンプーが一番手前に置いてあるということは、この人物は頭を最初に洗っているのだ!!」とか「3階までよじ登れば犯行が可能。だから趣味でボルダリングしてるコイツが犯人だ!!」みたいな展開をするのだが、それは蓋然性を高めているだけで論理ではない。実際、友人を家に泊めたときに「風呂場でシャンプーよりボディソープのほうが取りやすい位置に置いてあったから、お前って身体を一番先に洗うタイプだろ!」って言われたら何いってんだコイツって思うでしょ? あまりボロクソに言いたくはないのだけれど、論理の看板を掲げ物凄く細かいことを論拠にする割に別箇所でこれだけ破綻が多いのはまずいだろう。 以下少しネタバレを含む書評。 ①ノッキンオンロックドドア:設定が唯一活かされていて、このクオリティが維持されるなら文句はなかったのに…。多分、こういう意外な動機メインでシリーズを展開したかった(けどアイデアが追いつかなかった)のだろう。 ②髪の短くなった死体︰もうめちゃくちゃだよ〜。まずコンセプトが早くも破綻。二人探偵がいる意味なし。以下ボロクソにツッコむ。 「水では化粧はほとんど落ちない。というか、化粧を落とそうとした痕跡がある、で十分だろ。鑑識は化粧の痕跡くらい見つけろよ。まぁ、化粧に触れると一気に真相までたどり着くのでわざと書かなかったんだろうけどさ」 「結局実行しなかったにしろ、華奢だといっても50キロはある体を入れて取っ手を持っても破れないダンボールなんて存在しない(取っ手以外を持っても底が耐えられない)。引っ越しやゴミ屋敷処理を一度でもやったら分かる。そもそも男でも女でも一人で持ち運ぶなど不可能だ」 「あの首の絞め跡から何故『髪で絞めた(ドヤァ)』になる?言いたかっただけでしょ。『絞めてから髪を切ったのではなく、髪を切ってから絞めた』が最初からの論理的な帰結だ」 他に服を脱ぐ順番などツッコミどころ。あとこの世界の警察は、取調べ時に俯いてると首の締め跡に気付かないらしい…。「服に合わないストールを巻いてる」とかあったでしょうに。本来この話は、警察が犯人の事情聴取したときに「おや?あなたの首には締められたような跡がありますね?」で解決してしまうんですよ。髪を切ったアイデアは素晴らしい(作中で触れているように他作品のパクリのようだが)。 ③ダイヤルWを廻せ:とてもよく出来ている。 ④チープトリック:鑑識が「死体を移動した痕跡がある」で終わってしまう。メイドが後始末したにしろ柔らかい絨毯である以上死体移動の痕跡を消し去るのは困難(引きずった跡を消しても死体の下の絨毛で一発)。入射角を見切るメイドも…。アイデアはいいし虫の死骸の手がかりもいいのに。 ⑤いわゆる一つの雪密室:悲しくなるほど問題外。批判されるのは分かっていただろうにこれを載せたということはよっぽどネタ不足で困っていたんだろう… ⑥十円玉が少なすぎる:よいのでは。本家もこんな感じだし。 ⑦限りなく確実な毒殺:「毒が混入出来ない!凄まじい謎!⇒事前服用!衝撃の真実!!」としたいらしく、ずーっと的外れの議論をしている。服用から作用までインターバルがある毒(確か30分)だと明記されているのに直前に毒を混入する方法ばっかり検討してアタマ痛い。 警察が「どんな毒?」「飲んで死ぬまで30分」「ほーん、30分前のアリバイ調べたろ!」で終わる話では… どうもこの作者は「ギリシャ棺の謎」のポットや「中途の家」の痕跡からの推理のような「些細な事から立て続けに推理を展開して圧倒する」をやりたいようなのだが、ほぼ万人が納得するであろうクイーンの論理と違って前述の通り蓋然性の話しかしてない。「コイツが怪しいからコイツが犯人!」と言ってるのと大差ない。別の言い方をすると、「目玉焼きには塩コショウが最も美味いから醤油なんてありえない。よって醤油をかけたコイツが犯人だ」と同レベル。んなもんオマエの好みの問題だろうが。 この作者は短編ではエラリークイーンを意識せず、むしろチェスタトン系統を目指した方が良いと思う。「平成のエラリークイーン」は出版社が宣伝のためにつけたものなのだろうから、無視してもいいのでは? 少なくとも現状では短編に全く向いていない。 |
No.110 | 7点 | 容疑者Xの献身 東野圭吾 |
(2018/02/08 15:26登録) 映画を見てから小説を読みました。 採点には映画も含めています(映画は文句なしに面白かった。ましゃ兄かっこいい)。 小説を読んでみて、こりゃあ意見が割れるだろうなと思ったら、容疑者X論争なるものがあるのですね。ごく最近知ったので論争の細かい内容は分かりませんでした(リンク切れなど)ので、ひょっとしたらすでに論じられていて解決済みのことを言うかもしれません。何卒ご容赦を。 作者は突っ込まれそうな際どい部分には一応の理由を持たせているのでいいのですが、はっきりごまかしを感じたのは、 『現場の自転車の(人為的な)パンクの件が解決していない』こと。 コレに触れている書評が見当たらなかったので…。自転車を残す必要性は湯川先生が語っていて、誰かに乗り逃げされないようにパンクさせたのはいいとして、石神は意図を悟られないために「自転車の存在そのものを知らなかった」と嘘の供述をしています。そうすると警察は「パンクさせたのは誰か?」という問題を解決する必要が出てくることになりますが作中コレに触れた部分はありません。勿論やったのは石神ですが、彼は上記のことからパンクさせたことを主張できません。被害者がやるはずもありません。自転車は死体のそばにあったと書かれているので(死体と関連付けるためそばに置かざるを得ない)、自転車をパンクさせ死体に気づかないということはないでしょう。「犯行後、無関係な誰かが現場に来て面白がってパンクさせたがそばの死体に気づかなかったか、気づいても通報せずスルーした」というのは苦しく、これだけで草薙の言う「一つでも矛盾があれば」に相当すると思うのですが。 作者はこのことを忘れていたのではなく、解決法が無いので触れないことにしてごまかしたものと思われます。 それから、これは個人的なイチャモンですが、雰囲気づくりのため物理だの数学だのに触れる割に、石神の思考法が数学者的ではないように感じます。 石神はブルートフォース的な証明を良しとせず、本質を押さえればすべてが明らかになる「美しい」証明を理想とする古いタイプの数学者として描かれているのに、彼のやったことは原理的にそうなる、というものではなく蓋然性を高めるだけのもの、現実の処理にはコレで十分という方法で、どちらかと言うとエンジニア的です(と思ったら、作者はエンジニア出身なんですね、納得)。そもそも数学以外興味がないとされる石神が、警察の捜査の深さ杜撰さ思考法を見切っていた、というのもらしくないし、蓋然性を高めるだけのことで論理的思考とは言えず、とにかく数学者らしくない。(念のため富樫の生家などから臍の緒を手に入れて鑑定しよう、となったらどうするつもりだったのだろう) おそらくこの作者は「本格原理主義者」を読者としては端から相手にしておらず、ライト層向けの商売に特化しているのでしょう。それはそれでうなづけるスタンスですし、本格原理主義者からの批判もどこ吹く風だとは思います。 |
No.109 | 6点 | 屋上の名探偵 市川哲也 |
(2018/02/04 20:47登録) この作者の作品としては最も平凡でありそれ故に最もオススメ。 設定も事件も解決も平凡そのものなので安心して読めます。似たような作品は山ほどあり、それらと比較して優れているかというとなんとも言えないところですが、破綻せずきちんとまとまっています。 あ、各事件の犯行動機は結構斬新でいいと思います。 |
No.108 | 2点 | 密室館殺人事件 市川哲也 |
(2018/02/04 20:40登録) あまりにも酷くてちょっと悲しかった。作者はオタク的というか、「読者全員が作者と同じバックボーンや読書経験を持っているワケではない」のが分かってないっぽいというか。 作者は多分「従来のミステリの欠陥というか矛盾を生じる一側面に注目したろ!オリジナリティ!」と思ったのだろうが、「そこに注目できたんだからミステリ要素はいい加減でもOK」となったらしく、本作の推理部分は酷いの一言。ミステリを装った別のジャンルだったらともかく、登場人物の口を借りて推理の論理性について偉そうに語った挙げ句のコレでは批判されて当たり前。しかも探偵役の推理ターンでは「これは推理ではなく憶測」と保険をかける始末。あのなぁ…。(この酷さが天然なのかツッコミ待ちなのかがよく分からないが) ワタクシはラノベというものをほとんど読まないのだが、この作者がラノベの影響下にあるのは分かる。問題は、ラノベやミステリの表層だけパクって本質を分かって無い感じが漂うこと。一大ジャンルを築いたラノベというものがこんなに安っぽいはずがないと思う。 例えば主人公の言動はネットのまとめサイトのコメント欄を見ているようで、多数によって形成されるネット人格と言えるものを個人に集約させたのであろう薄っぺらさが酷い。全方位に批判的かつ短絡的で、過去の悲劇を盾に正当化を図るなど幼稚すぎて読むに耐えない。 で、当初は作者が読者層に合わせて文章のレベルを下げているのかと思っていたが、どうもコレが天然らしい。それが本当に悲しい。 本格ミステリ作家をこころざしながら挫折したとき、かつてはユーモアミステリに逃げる作家が殆どだった。この作者は自覚してかどうか分からないが、自分だけが気づいていると勘違いしているメタ的テーマに逃げ、ミステリ部分は言い訳をしながら先人たちの遺産を劣化コピーして平然としている。若い作家に期待したのだが非常に苦い経験になった。 |
No.107 | 5点 | 名探偵の証明 市川哲也 |
(2018/02/04 20:18登録) なんだかよく分からなかった。 後期クイーン問題を基礎にしたと思われる「名探偵の悲哀」がメインテーマらしい…のだが。 ミステリとして見た場合、トリックや論理展開が好意的に表現すると見慣れたもの、率直に言えば極めて幼稚。作中でも探偵役の口から盛んに「斬新なものではない」的な説明がある(エクスキューズ?)。更に探偵役の推理が推理と言うには余りに独善的で「○○だった犯人が△△するはずがない」という論理の欠片もない苦しいものばかり。かつてキレキレだったが今は衰えている、という設定を言い訳に稚拙な謎を持ってきたように思える。さらに一旦結論づけられた事件をひっくり返す下りがあるのだが、最初の結論が異様にシンプルに数行で終わっていて、ここを最初に掘り下げると破綻するのでサラッと流してる、それがすぐに読者にバレてしまうなど筆力不足が際立っている。後述する通りある程度ミステリ読書経験がないとピンとこないテーマを扱っていながら、経験ある読者にはすぐに看破されるような描写では… そうすると、コレはミステリ調味料をふりかけた文学作品なのかということになるが、「悲哀」とやらを表現する手法がこれまた極めて稚拙。最初に全盛時を書いて次に落ちぶれた描写をして…とミエミエで、それ以外にも平穏な日常シーンを書いてからの「こんなオレはオレじゃない。オレは現場でしか生きられない」描写…。小説漫画アニメ等で使い古されたどころかすでにゴミ箱行きのやり口で、読者全員が読んだ瞬間のオチを想像したであろう。 戸惑ったのは、これらが作者の狙いなのか筆力不足でスベってるのかワタクシには分からなかったこと。多分スベってるんだとは思いつつ、有名な賞を受賞しているということはワタクシの感受性が低いせいなんだろうかとも思ってしまうというか。 作者の主張する「名探偵の悲哀」とやらは、ある程度ミステリを読み込んであれこれ考察している読者にのみ理解できることで、そうでない人は戸惑うだろうし、より深刻なのは「この作者はその説明を読者の読書経験に委ねていて作中で薄っぺらい説明しかしていないこと」である。それが本作全体の薄っぺらさの本質だろう。 しかし、あまりにも稚拙なのでこれこそ作者の狙いかも…とも思えるので、あれこれ考えてこの点数。何冊か読まないと意図がつかめなさそうです。 |
No.106 | 7点 | 青の殺人 エラリイ・クイーン |
(2018/02/02 17:37登録) エラリー・クイーン名義ではありますがゴーストライターを起用していた時代の作品。どちらかと言うと本格色の強いハードボイルドもの、という感じ。 謎の映画監督を探すプロデューサーが殺されて…ですが、慣れた人なら映画監督の正体はすぐに見当がついてしまいます。なので殺人犯は誰か?が謎の中心になりますが、重厚さや意外性には欠けるものの丁寧な伏線の張り方、手がかりの置き方、ロジカルな推理など破綻無くまとまっています。ちょっと分かりやすくすればテレビの推理物の元ネタとしては超優秀かと。 出来は「そこそこの一歩手前」程度なのですが、高得点にしたのは動機に結構びっくりしたのと、その伏線の張り方に感心したので。 |
No.105 | 6点 | 完全犯罪に猫は何匹必要か? 東川篤哉 |
(2018/02/02 11:27登録) 点数低めですが面白かったです。 低い理由はメイントリックが前例ありまくり&ミエミエだからで… ソレ以外の部分がとても良く出来ています。ユーモアだからこそ許されるものもありますが、作者のフェアプレイの精神が垣間見えると言うか、ネタバレを恐れずきちんと言及されてますし、このシリーズはそういうものだと思って読むものなのでしょう。 ただのミステリをギャグ色の強い文章で書いただけ、ではなく、ユーモアをもミステリに組み込んで書かれている良質のユーモアミステリです。 ネタバレ こういう錯覚を利用したトリックは、なんでもやってみようの黎明期では頻出でしたがすぐに廃れました。やはり都合が良すぎて説得力に乏しいのでしょう。本作もそれを乗り越えるものではなく、目撃者の設定含め当時の焼き直しにすぎず不満が残るので高得点には出来ませんでした。 ただ、ソレ以外の部分は本当によく出来ています。 |
No.104 | 4点 | 山魔の如き嗤うもの 三津田信三 |
(2018/01/30 23:14登録) この作者の本はいつもそうなのですが、 「目 撃 証 言 が 全 く 信 用 で き な い」 ので読むのにかなりの忍耐力が必要。作者の繰り出す茶番に付き合わなければなりません。 犯人が捜査陣に対して隠蔽工作をするならともかく、作者が読者に対して偽の記述をし「これは事実」「これは見間違い」など解決編で根拠なく仕分けして「衝撃の真実!!」と言われても… 「目撃者のSAN値が低すぎ!すぐに冷静さを失う」「冷静じゃないので何でもないものをとてつもない怪奇現象だと思ってしまう」「さらにビクビクしてるくせに(作者の都合で)突然勇敢になり(作者にとって)とても都合の良いものを目撃したりする」「子供が各種有能すぎる。ステルス性能高すぎ。伝説の幼兵かよ」 他作品でもコレばっかりで本作も例外ではありません。ホラーだからと言っても全然怖くないし、せめてビクビク描写がもうちょっと簡潔だったらねぇ…。読んでて『あーはいはい怖い怖い。見間違いでしょ。んで見たらバレる部分だけは怖くて目を閉じてるんだよね〜』と冷める。とにかく怯えすぎ&都合よく見間違えすぎです。「て、天狗だぁ!」「見間違え」「化物だぁ!!」「見間違え」「誰もいない!」「子供は小さいから見えない」ってねぇ。いくらなんでもキモメンとイケメンは見間違えないし、鳥はどう見ても鳥だってば。こんなの許したら「恐怖のあまりAさんをB君と見間違えました」とか何でもありになってしまう。 普通理解し難いものを見たら、妖怪に結びつけるよりまずごく常識的な解釈をすると思うし、家の鍵が全部締まってたらなかに誰かいると思うのが普通でしょうに…。 ミステリ黎明期の、未成熟故に様々な実験試行錯誤が許されていた時代ならともかく、現代で安易にこういう手法に頼るのはどうかと思ってしまいます。あと現場見取り図はつけてください…トリック露見の危険性があったとしても。 |
No.103 | 7点 | 中途の家 エラリイ・クイーン |
(2018/01/30 22:54登録) 新訳版を強く強くおすすめします。新訳版のあとがきにもありますが、旧訳は趣旨を理解していないネタバレに近い迷訳が多く、魅力を大きく損なっています。 個人的には「災厄の街」よりこちらの方が上。必要十分条件でなく、必要条件を重ねに重ねた上十分性の検証は推理によってではなく実証にて行われるという点で違和感を感じる人は多いでしょうが、これはこれで。 以下ネタバレ。 特に説明無く単独犯ということになっているがこれはどうなのか。加えて被害者の一言がミスリードにすぎる。衝撃成分の確保のため仕方ないのかもしれないが…。贈り物の描写が見え透いているのでそれを汲んでくれということなのだろうが、「主犯男実行犯女、男の影響で女もアレを嗜む」でも矛盾しないのではと思う。 |
No.102 | 3点 | 空飛ぶ馬 北村薫 |
(2018/01/30 22:33登録) オサレ文学としてもミステリとしても中途半端で、未完成品を合体させたらたまたまハマったとしか思えない作品集。 ミステリとしては天才的探偵による完全神視点推理。いや推理じゃねぇな、絶対に推察できないごく断片的な情報からの非論理的結論でなんも言えない。日常の謎の元祖という位置づけらしいですが、コレ系にありがちの強引矢のごとしな論理展開もコレが元祖か。 オサレ文学としては、某万年ノーベル文学賞候補作家並の「こんなやついねぇよ」的人物のオンパレード。ワトソン役の女子大生があまりに現実感のない設定なので女性作家にしては珍しい、と思ってたら作者は男性なんですね、納得。こういう文章は実は書きやすい上に作者がバカに見えづらいという利点があるのですが、本作はソレの良い見本です。なにかわかったような気になるだけでなんもない。こんなんでいいの?探偵役の無個性魅力のなさは言うに及ばずで、コレを読んでると「人間的にはまるでダメだが推理力だけは優れている」というベタな探偵って悪くないなぁ…と思えてしまう。文学作品的に見て、主人公女子大生や探偵役落語家について人間的な深みを感じない。フィクションの住人だ。 エンターテイメントとしてどうか?ひたすら知識のひけらかしウンチクが垂れ流されるストレスの溜まる文章。とにかく話があちこちに飛ぶ。飛び方に必然性がなく単なるページ数稼ぎとしか思えない。なんで推理の合間にウンチクを無駄に挟むのかな。それが情緒的だと勘違いしてる人にしかウケないぞ。こいくちしょうゆをこんちくしょうゆと読み間違えるのになんで五行も説明挟むんじゃ。 「理屈なんかどうでもよい。とにかくびっくりの結論があれば良い」「はっきり結論を書かずどっちつかずの描写さえあれば自分が賢くなった気がするので良い」という方にのみおすすめします。 |
No.101 | 3点 | 奇面館の殺人 綾辻行人 |
(2018/01/18 21:22登録) ん〜〜〜これはちょっと… 館シリーズもこの辺になると綾辻信者か余程のマニアしか手に取らないでしょうからこれでいいのかなぁとも思いつつ、信者以外を結構置き去りにしてる感じがします。少なくともファンじゃない自分はそう感じました。 以下ネタバレ含みます。 館シリーズは隠し通路や隠し部屋が定番であり、その存在を前提として読むものなんですが、他作品だと早い段階で露見したり本筋にあんまり関係なかったりするのに、本作は解決編まで待つ上にソレ無しでは犯行が成立しないかつそんなん推理できるか!と言うほど事件編で証拠が示されておらず、おまけにとてもご都合的なものなので、読者が向き合うべき謎が『何故仮面に鍵をかけたか?』のみになります。たまたまバイトが道を塞いだがたまたまソコをショートカットできる抜け道があってセーフってのはちょっと…。その抜け道が元々別の意図で作られたもので、それを巧みに利用したなら別ですが、バイトが通せんぼするのを回避するためだけに存在してますから…。書評で「館は密室があったら抜け道があると思って読むもの」と言うのがありますが、それなら密室が作中人物にとってのみの謎にしかならず意味がない上に、館初読者はふざけるなと思うでしょう。だったら最初から道をつなげておけば良い。長編の長さを確保するためのページ数稼ぎにしかなっていません。それとも「コイツら抜け道に気づいてねぇww」とニヤニヤしながら読むものなのでしょうか。 本編も余談も長すぎますし、最後の決め手もご都合に過ぎるというか、幸運な偶然に頼ったもので、論理の装いをした神視点です。探偵がチグハグさに違和感を覚える描写もロジカルさはまるでなく神視点描写(あるいは作者のエクスキューズ)でしょう。 二代目三代目も、鬼丸氏ほど有能なら数回食い違えば察して説明してくるでしょう。探偵サイドが館や主人について知識不足なのは認識している描写があるわけですから。登場人物も存在意義不明な人が多く、単に容疑者を増やすためだけとしか思えないです。 正直信者以外は読者として想定していない作品に思えます。初期の館シリーズはそこそこ面白いので、作を重ねるほど劣化するのは残念。 |
No.100 | 9点 | あした天気にしておくれ 岡嶋二人 |
(2018/01/18 21:07登録) これは面白い! 倒叙ものとして始まるが、中盤から犯人グループに便乗する第三者の存在が明らかになり、それによって徐々に計画が破綻していくサスペンス、更に衆人環視のなか身代金を奪取する鮮やかさ、どんでん返し、そしてラストと一気に読ませる。 文章もテンポよしストレスなしで登場人物も整理されておりやたら読みやすい。文句なし。 |
No.99 | 7点 | チョコレートゲーム 岡嶋二人 |
(2018/01/18 20:51登録) 面白い。 本格ではなくサスペンス色が強い。読みやすく、テレビの2時間ドラマに最適かと。 「誰の協力も得られないまま死んだ息子の冤罪に立ち向かう孤独な父親」という話の都合上仕方ないのだが、チョコレートゲームがなんなのか生徒がひた隠しにする理由が無いのが最大の欠点。ゲーム参加者はクラスの一部だけだし、事件の最中なら巻き添えを警戒するだろうが、ある程度時間が経てば無関係な生徒は証言するだろう。人が何人も死んでいる上に証言しても何ら咎められることはない(むしろ感謝される)のだから。少なくとも口が滑ってからの「そんなこと言ってない!」は不自然。濡れ衣を着せられた生徒の彼女が黙ってるのはとても不自然。チョコレートゲームとは何なのか?を出来るだけ引っ張らないと間が保たないのでそうせざるを得なかったのが読者に伝わってしまうのはマイナス。無粋なツッコミなのは承知しているのだが。 |
No.98 | 3点 | ペルシャ猫の謎 有栖川有栖 |
(2017/12/18 11:16登録) 個人的にはかなり好きな短編集だけど、これに高得点をつけるわけにはいかない。 ファンブック的な性格が極めて強い。特に後半の話。この作者はあちこちの作品で登場人物の口を借りながら自身の推理小説観を少しずつ語っていて、たまにとても前衛的と言うか実験的なことをやる。それを踏まえていないと表題作は意味不明と言うか、読者は怒るんじゃなかろうか。前半の話はそれなりにミステリしているが、出来はどうにか水準といったところであり、高評価は難しいかな。 この作者の初めての作品が本作にならないことを祈るばかり。本作は避けて避けて、他作品で作者のファンになってから読んだほうがよいかと。 |
No.97 | 5点 | 8の殺人 我孫子武丸 |
(2017/12/18 10:58登録) 最初にまとめると、ミステリマニアの学生がサークル活動で気合を入れて書いた(学生にしては)優秀作というところ。 ミステリのとりあえずの入門書ですかね。ノリが軽く長さもほどほどで謎がそれなりに興味をそそるので、ミステリ読みはじめの人は途中で挫折することはないんじゃないでしょうか。有名ミステリの名前が幾つか出てくるので、ミステリ初心者は興味を持って読んでみるということもあるでしょうし。 逆に、ある程度読み慣れている人はキツい…というか怒る人も多いんじゃ。『有名作のネタバレ多数』『密室講義のトレース』『偶然に次ぐ偶然』などなど。全く不要な密室講義のトレースにかなりのページを割いているあたりにマニア学生っぽさを感じます。それからネタバレは巻末の注釈だけでやればいいのに、本文で思いっきりやってるのが…「ボクはこんなに古典ミステリを読んで独自の見識をしっかり持ってます( ー`дー´)キリッ」というアピールがやっぱり学生っぽい。 |
No.96 | 8点 | 一の悲劇 法月綸太郎 |
(2017/12/15 14:00登録) 素晴らしい。 法月氏は短編の人だとは思うけれど、その良さを長編でも発揮した傑作。登場人物が整理されていて、コリン・デクスター風の仮説→検証→否定のサイクルが効果的に回る。勘で真相を見抜くミステリ慣れした人も多いと思うけれど、最後まで緊張感と構造転換の衝撃を味わえる。 ダイイングメッセージなんて飾りです。 |
No.95 | 3点 | 乱れからくり 泡坂妻夫 |
(2017/12/13 02:09登録) 素晴らしい部分も多いのだけれど、明確なトリックの瑕の数々、この作者特有の異常なテンポの悪さ、登場人物の異様な行動がちょっと…。 またかなり早い段階で大まかな構成が露見するのもマイナス(隕石から第一の殺人までで全体像とメイントリックを見破れてしまう)。メインのネタを優先するあまりに歪みが生じている。本サイトではかなりの高評価のようだが、自分の感想はこんなものだった。 以下ネタバレ含みます。 ①万華鏡が偶然流されるってのは酷い。本来なら死体のそばに転がってたはずで、それが決定的証拠で(もし犯人が生きていたら)帰国即犯人逮捕。破綻している。作者さん的に万華鏡の処理に知恵をしぼったけどどうしようもないので偶然でごまかしたのだろう。涸れ井戸はそのエクスキューズかつごまかしかと。 ②ワトソン役の行動が意味不明。隕石落下で大惨事の中他には目もくれず人妻だけ病院に連れて行ったり、事件の真っ最中に人妻さらって逃亡したり。しかも全くお咎めなし。惚れてる描写&手掛かりゲットのためだろうが、かなりの違和感。 ③プラスチックのカプセルは面白いし素晴らしいのだけれど、出処を調べられたらやはり一発アウトで破綻している。「わざわざ調べない」警察が調べないわけないでしょ。 ④作者が魂込めてるのは分かるが、手品ウンチクは本筋と全然全く微塵も関係なく、残念ながらテンポを悪くしているだけ。 ⑤『犯人の死後に発動する連続遠隔殺人』という作者が強調したいメインネタと『ただの遠隔殺人じゃインパクトがないからできるだけトリッキーで斬新な殺し方を』が衝突して歪んでいる。殺し方に凝り過ぎな割に不確定な部分が多く、犯人は頭はいいがアタマが足りないかと。 つまり、犯人の計画(つーか作者の構成)は穴だらけで完全犯罪からは程遠かった。それが幸運と不運とご都合でこうなったわけで、恐るべき計画でも何でもない。 確かに高得点でもおかしくないほど素晴らしい部分も多い。が、瑕も多い。「素晴らしいプロットなんだから細かいとこにケチつけんなよ」とするか、「アイデアはすごいけど、苦しい部分を誤魔化しまくってるじゃん」とするか。 |
No.94 | 4点 | 交換殺人には向かない夜 東川篤哉 |
(2017/12/09 22:52登録) ネタバレ気味書評です。 こんな人間が何人もいるか…?まさかアレじゃねぇだろうな…と思ったらその通り、という。それだけなら読者に見破られるだろうからさらにひと工夫したろ!ってことなんでしょうが、ねぇ。 ユーモアは寒いというか(寒いけど)、ボケと勘違いと真実を混在させて読者を煙に巻くための作者に都合の良すぎる道具です。「なんでこれ調べねぇの?なんでこれ気付かねぇの?」と読者が思ったときに言い訳をするためのもの。なので作中人物の行動が異様にご都合主義であって、そこをどう思うかでしょうね。 この年代に山ほど出版された叙述トリックの凡作のひとつです。 |
No.93 | 8点 | 法月綸太郎の冒険 法月綸太郎 |
(2017/12/05 00:03登録) 意図してかどうかは分からないが、ホワイダニット短編集とも呼べるもの。 出版順ではないが、『功績』『新冒険』からの本作の方が面白さを堪能できるかと。 やはり法月氏は短編の人。 |