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ミステリの祭典

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猫サーカスさんの登録情報
平均点:6.17点 書評数:441件

プロフィール| 書評

No.41 6点 リターン
五十嵐貴久
(2017/11/03 18:23登録)
ホラーサスペンス大賞受賞作「リカ」の続編。前作は怪物と化したストーカー、リカを描いたホラーだったが、この作品は本格的な警察捜査ものとして展開していく。もっともリカの偏執ぶりと底なしの狂気と不死身な存在感は、本作でも存分に発揮されており、クライマックスにかけての迫力は鬼気迫るものがある。しかし、なにより怖いのは、事件が解決した後のエピローグで描かれる、第二の”リカ”の誕生。身体の自由をすべて奪ったうえで、惚れた男を自分だけのものにしたいと願う女。その激しくゆがんだ愛は、心底怖いもの、これぞホラーである。


No.40 7点 マプチェの女
カリル・フェレ
(2017/11/03 18:22登録)
失踪人の行方を追う探偵が、意外な真相を暴き出す。私立探偵ものでは使い古された枠組み。そのようなおなじみの形式でありながら、鮮烈な個性を見せてくれている。アルゼンチンの歴史の闇と、近年の経済危機がもたらした貧困を背景に据えたずっしり重い物語。過剰な熱さをもって語る作者の冗舌が印象深い。その熱量ゆえに分厚さも相当なものだが、読む者の血をたぎらせる激しい一冊。


No.39 6点 私の命はあなたの命より軽い
近藤史恵
(2017/11/03 18:21登録)
妊婦で、夫の海外赴任、そして久しぶりの実家ながら、くつろげない雰囲気が漂うという難題がいくつも重なることで、ますます彼女の不安は増幅されていく。家族も臨月の彼女を気遣うためか、秘密は内緒にされたまま。そんな家庭内の不穏な状況が臨場感たっぷりに描かれている。「ホテル・ピーベリー」や「はぶらし」など、心理サスペンスの作品を世に送り出している作者は、本作でも巧みな構成を見事な語りにより、切迫感あるサスペンスをつくりだしている。タイトルの「私の命はあなたの命より軽い」という言葉がつきつける現実の残酷さ、やりきれなさが深く胸に残る。


No.38 7点 カクテル・ウェイトレス
ジェームス・ケイン
(2017/10/28 13:09登録)
酒に溺れて暴力をふるう夫が事故死し、ジョーンは幼い息子を義理の姉に預けてバーで働き始める。そこで知り合った裕福な老人とハンサムだが貧しい青年。ジョーンは息子との理想の暮らしのため富豪を選ぶが・・・。物語はジョーンの一人称で語られる。誰もが最初、世間知らずの美しい女性に共感を覚えるでしょう。やがて彼女が「信頼できない語り手」である可能性がちらつきはじめ、徐々に落ち着かなくなっていく。物語は不安と疑惑の不協和音を響かせ、真相を読者に委ねて終わる。巧みで怖い。


No.37 6点 疫神
川崎草志
(2017/10/28 13:04登録)
人類を滅亡させかねない脅威をめぐるサスペンス。ケニア・エチオピア国境地帯で「オレンジカビ」による感染症が猛威をふるい、国際的な医療チームが派遣されたものの、30人をこえる患者は一人残らず死亡してしまう。致死性の高い菌類の恐怖とその免疫に立ち向かう人々の活躍が描かれている本作は、多くの謎めいたエピソードが展開するため、読みだすと先を追わずにおれなくなる。また、パニックものというよりもSFホラーの感覚が強く地球史、生物史レベルのスケールで語られ、大胆な趣向が導入されているため、そこに超自然的な恐怖が感じられる。なんともいえない不気味さが漂う作品。


No.36 4点 白衣の嘘
長岡弘樹
(2017/10/23 19:26登録)
命をテーマにした6編からなる医療ミステリ。いずれも劇的な展開をたどり、意外な真相が明らかになる。特に「涙の成分比」は温かな余韻に包まれる。人物の内面のリアルな葛藤よりも、アイデアやトリックを優先しているので、いささか人工的に見えるところもある。ただ本格ミステリ志向の作者の場合、人工的とは独創的の意味であって、果敢な挑戦をしている?と思いたい。


No.35 5点 探偵工女 富岡製糸場の密室
翔田寛
(2017/10/23 19:22登録)
世界文化遺産に登録された創業まもない明治6年の富岡製糸場を舞台にしている。糸繰りの工程や工女の生活などが、観光ガイドとして使えるほどリアルに描かれているのも、作品の魅力となっている。皇太后と皇后の訪問を目前にした富岡製糸場で、工女の死体が密室状態の石炭小屋で発見され、友人が失踪する事件が発生。事件には、技術指導するお雇い外国人の偏見や、明治維新という時代の激変によって格差が広がっていた史実など、現代とも無縁ではない社会問題が絡んでいることも分かり、真相が生々しく感じられる、


No.34 8点 夜に生きる
デニス・ルヘイン
(2017/10/18 19:21登録)
禁酒法時代の米国でギャングとして生きる若者の姿を、時代の手触りとともに生き生きと描き出している。ギャングの愛人に溺れていく姿、刑務所内のスリリングな抗争、ギャング同士の血なまぐさい争い、すべてが読み応えたっぷり。主人公のジョーは冷徹さと人情を併せ持ち、頭のいい魅力的な人物として精彩を放つ。また他のギャングたちも個性的で強い印象を残す。そして警官の父親とジョーの屈折した関係が、のちのジョーの家族観につながっていく流れも感動的。文句なく楽しめるアウトロー小説。


No.33 6点 孤狼の血
柚月裕子
(2017/10/18 19:14登録)
1988年の広島を舞台にして、驚くほど緊迫感に富む物語を作り上げている。所轄署の捜査2課に配属された新人の日岡が、暴力団係の班長大上のもとで、暴力団系列の金融会社社員の失踪事件を追及するが、次々に暴力団員同士の戦いが勃発して混迷を深めるというもの。刑事対やくざ、極道同士の戦いが至るところで沸騰し、大きな謎を秘めてクライマックスへと疾走していく。しかも激しい活劇だけでなく、奥深い事件の真相を見せながら、最後には大きなどんでん返しが待っている。


No.32 7点 謀略の都
ロバート・ゴダード
(2017/10/14 19:14登録)
スパイスリラー三部作の第一部。作者がこれまで何度も作品の主題に選んできた第一次世界大戦。本書はその講和のため、各国の代表が集まったパリに始まる物語。英国陸軍の航空隊員として西部戦線で戦ったマックス。外交官の父がパリで変死した。事態を穏便に片付けたい周囲に逆らって、彼は父の真相を探ろうとする。かくして彼は、各国の思惑が渦巻く謀略の世界へ巻き込まれる。軽快なテンポで進み、奥行きの深さを予感させる物語。


No.31 8点 ソロモンの偽証
宮部みゆき
(2017/10/14 19:08登録)
少年少女を主役に据えた群像小説。一人の少年の自殺が引き金となり、級友たちの日常が破壊されていくさまが描かれている。素晴らしいのは中学生たちが大人に頼らず、自身の手で奪われた平和を回復しようと努力することである。それも極めて理知的な手段を用い、フェアな形でそれを成し遂げようとする。世情の不安を嘆くのはたやすいが、自らの手で解決するためには勇気と努力が必要になる。作者がその姿勢を小説の形で示したことに敬意を表したい。


No.30 7点 ファイアーウォール
ヘニング・マンケル
(2017/10/09 15:36登録)
スウェーデンの刑事ヴァランダー・シリーズの邦訳8作目。少女2人がタクシー運転手をハンマーとナイフで襲い、金を奪う事件が起きる。最近の若者は理解できないと嘆くヴァランダーだったが、一人の少女が警察署から逃げ、変電所で黒焦げ死体となって発見されたことから、別の事件との意外なつながりが見えてくる。プライベートでの孤独と職場での疎外感を抱え、ときに怒りを爆発させ、ぼやきながらも、悩みをねじ伏せて事件解決へと突き進んでいくヴァランダーの姿が、いつもながら人間くさくていい。


No.29 5点 家政婦トミタ
高田侑
(2017/10/04 20:30登録)
テレビドラマ「家政婦は見た!」「家政婦のミタ」をもじった題名ながらも、中身はれっきとしたホラーサスペンス。美人家政婦を雇ってから怪しい出来事が連続して起こる。家政婦の不気味な存在感と周到なたくらみによる陰湿な悪意がじわじわと家の中に入り込む恐怖。その過程が実に生々しく描かれている。また庭でエアガンを撃ちまくる70歳の母と41歳の息子というユニークな隣人一家をはじめ、近隣の人間関係が複雑に絡むことで、予想できない展開を生み出している。如実に伝わってくるのは、冷気や腐臭が部屋に充満している感覚。物語が終わってもなお恐怖の余韻が残る。


No.28 5点 犯罪は老人のたしなみ
カタリーナ・インゲルマン
(2017/09/29 20:18登録)
スウェーデンといえば高福祉国家のイメージが強いが、高齢者の暮らしの問題は切実のようだ。そんなスウェーデンの老人たちが、より良い暮らしのために犯罪をたくらむ物語。メッタが暮らす老人ホームはコスト削減のために、すっかり過ごしにくくなってしまった。それに比べて現代の刑務所が、いかに整備された環境であるかをテレビ番組で知り驚く。かくして優雅な刑務所暮らしを目指し、入居者たちと大掛かりな犯罪を計画する。素人犯罪者チームによる大胆にしてのんびりした犯行は意外な展開に。ほのぼのとした犯罪小説ではあるが、後半は主人公たちの年齢を忘れるくらいに手に汗握る場面もある。


No.27 6点 メソッド15/33
シャノン・カーク
(2017/09/24 18:20登録)
監禁された主人公と犯人たちとの対決を描いたサスペンス。主人公は自らの感情を自在に制御し、なんでも記憶できる特異な能力な持ち主だった。監禁された部屋の中の限られた道具を組み合わせて、反撃の計画を練り、チャンスをうかがっていく。主人公とFBI捜査官の二つの視点から語られる物語は、予想もできない展開を見せる。決して共感を呼ぶタイプの主人公ではないが、驚嘆すべき作品であることは間違いない。


No.26 6点 魔術師を探せ!
ランドル・ギャレット
(2017/09/21 21:33登録)
独特の設定を持つシリーズから、中編3編が収録されている。私たちの世界とは異なる歴史をたどり、「科学的な魔術」が発達した世界。「英仏帝国」の捜査官ダーシー卿は、魔術師の助けを借りて難事件に挑む。魔術という異質な論理を取り入れて、特異なスタイルの謎解きを見せてくれる。英仏帝国とポーランド王国との間で繰り広げられる、異世界の国際謀略も楽しめる。


No.25 5点 虫たちの家
原田ひ香
(2017/09/17 18:10登録)
九州の離れ島にある「虫たちの家」が舞台。ネットによって傷つけられた女性たちのグループホームで、名前がわかると検索できるので、みな虫の名前で呼び合っている。そこに母と娘、ミツバチとアゲハが加わり、平穏な共同生活が崩れていく。母娘の悪意に気がついたテントウムシが共同体を守ろうとして禁忌をやぶる話と、アフリカでの日本人駐在員の複雑な家族の話が並行していく。特に前者と後者が交錯する終盤は、ねじれた人間関係と隠された動機が明らかとなり、愛憎のドラマが一段と白熱化する。イヤミスのようでいて、温かな着地もなかなか。


No.24 6点 美人薄命
深水黎一郎
(2017/09/12 20:37登録)
現代を舞台にしながらも、戦前から戦中にかけての悲恋が物語に織り込まれたミステリー。主人公はゼミのリポートのテーマを老人福祉問題を選んだことから、ボランティア活動をはじめ片目を失った老婆と出会う。ボランティア青年の奮闘ぶりがユーモラスに語られていく一方で、老いた女性の悲しい恋物語が明かされる。あちこちに張り巡らされた伏線により、意外な真実が明らかになるばかりか、ラストで鮮やかな反転を見せる。それは主人公の人生をも変える、ある真実だった。「美人薄命」というタイトルがなんとも切なく感じる作品。


No.23 7点 葡萄色の死
マーティン・ウォーカー
(2017/09/06 20:59登録)
フランス南西部の村が舞台。遺伝子組み換え作物を極秘に研究していた国の試験場が放火され、警察署長ブルーノが捜査に当たるが、折しも米国の大ワイン会社が土地の買収を打診してきたという展開。大きな利害が絡み、村内でさまざまな思惑が交錯する。小さな村ならではの人間模様も興味深いし、ブルーノの恋愛、葡萄を足で踏むワイン作りの情景など、本筋以外の魅力も盛りだくさん。中でもトリュフをたっぷり入れたオムレツと山シギ(ベカス)とワインの供宴は乗ぜんもの。美食とワインに目がない方にはぜひお薦めしたい。


No.22 7点 その犬の歩むところ
ボストン・テラン
(2017/09/01 21:38登録)
犬好きの方はもちろん、そうでない方にもぜひ読んでいただきたい小説。この作品の主人公はギヴという名の犬。本書はギヴの生い立ちを、そして長い旅路を描いている。ギヴは生まれ育った地を離れ、出会った人々に寄り添って旅を続ける。土地から土地へ、人から人へ。ギヴの旅から浮かび上がるのは、過酷な出来事に満ちた世界と、その中で希望をつかみ取ろうとする人々の姿。ギヴの旅するアメリカは、つらい出来事でありふれている。テロ、戦争、自然災害。大きな事件だけではない。身近な人々の間に渦巻く愛憎もまた、悲劇をもたらす。だが悲嘆を煽るだけの小説ではない。そんな境遇でなお、良心を、あるいは誇りを忘れない人々の姿を描いている。過酷な出来事が幾つも起きるけれど、優しさに満ちた、心温まる物語である。脇役ひとりひとりの姿も心に残る、丁寧に組み立てられた小説。詩情あふれる語り口も忘れがたい。読む事自体がが快楽であり潤い、そんな一冊。

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