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ミステリの祭典

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猫サーカスさんの登録情報
平均点:6.18点 書評数:429件

プロフィール| 書評

No.29 5点 家政婦トミタ
高田侑
(2017/10/04 20:30登録)
テレビドラマ「家政婦は見た!」「家政婦のミタ」をもじった題名ながらも、中身はれっきとしたホラーサスペンス。美人家政婦を雇ってから怪しい出来事が連続して起こる。家政婦の不気味な存在感と周到なたくらみによる陰湿な悪意がじわじわと家の中に入り込む恐怖。その過程が実に生々しく描かれている。また庭でエアガンを撃ちまくる70歳の母と41歳の息子というユニークな隣人一家をはじめ、近隣の人間関係が複雑に絡むことで、予想できない展開を生み出している。如実に伝わってくるのは、冷気や腐臭が部屋に充満している感覚。物語が終わってもなお恐怖の余韻が残る。


No.28 5点 犯罪は老人のたしなみ
カタリーナ・インゲルマン
(2017/09/29 20:18登録)
スウェーデンといえば高福祉国家のイメージが強いが、高齢者の暮らしの問題は切実のようだ。そんなスウェーデンの老人たちが、より良い暮らしのために犯罪をたくらむ物語。メッタが暮らす老人ホームはコスト削減のために、すっかり過ごしにくくなってしまった。それに比べて現代の刑務所が、いかに整備された環境であるかをテレビ番組で知り驚く。かくして優雅な刑務所暮らしを目指し、入居者たちと大掛かりな犯罪を計画する。素人犯罪者チームによる大胆にしてのんびりした犯行は意外な展開に。ほのぼのとした犯罪小説ではあるが、後半は主人公たちの年齢を忘れるくらいに手に汗握る場面もある。


No.27 6点 メソッド15/33
シャノン・カーク
(2017/09/24 18:20登録)
監禁された主人公と犯人たちとの対決を描いたサスペンス。主人公は自らの感情を自在に制御し、なんでも記憶できる特異な能力な持ち主だった。監禁された部屋の中の限られた道具を組み合わせて、反撃の計画を練り、チャンスをうかがっていく。主人公とFBI捜査官の二つの視点から語られる物語は、予想もできない展開を見せる。決して共感を呼ぶタイプの主人公ではないが、驚嘆すべき作品であることは間違いない。


No.26 6点 魔術師を探せ!
ランドル・ギャレット
(2017/09/21 21:33登録)
独特の設定を持つシリーズから、中編3編が収録されている。私たちの世界とは異なる歴史をたどり、「科学的な魔術」が発達した世界。「英仏帝国」の捜査官ダーシー卿は、魔術師の助けを借りて難事件に挑む。魔術という異質な論理を取り入れて、特異なスタイルの謎解きを見せてくれる。英仏帝国とポーランド王国との間で繰り広げられる、異世界の国際謀略も楽しめる。


No.25 5点 虫たちの家
原田ひ香
(2017/09/17 18:10登録)
九州の離れ島にある「虫たちの家」が舞台。ネットによって傷つけられた女性たちのグループホームで、名前がわかると検索できるので、みな虫の名前で呼び合っている。そこに母と娘、ミツバチとアゲハが加わり、平穏な共同生活が崩れていく。母娘の悪意に気がついたテントウムシが共同体を守ろうとして禁忌をやぶる話と、アフリカでの日本人駐在員の複雑な家族の話が並行していく。特に前者と後者が交錯する終盤は、ねじれた人間関係と隠された動機が明らかとなり、愛憎のドラマが一段と白熱化する。イヤミスのようでいて、温かな着地もなかなか。


No.24 6点 美人薄命
深水黎一郎
(2017/09/12 20:37登録)
現代を舞台にしながらも、戦前から戦中にかけての悲恋が物語に織り込まれたミステリー。主人公はゼミのリポートのテーマを老人福祉問題を選んだことから、ボランティア活動をはじめ片目を失った老婆と出会う。ボランティア青年の奮闘ぶりがユーモラスに語られていく一方で、老いた女性の悲しい恋物語が明かされる。あちこちに張り巡らされた伏線により、意外な真実が明らかになるばかりか、ラストで鮮やかな反転を見せる。それは主人公の人生をも変える、ある真実だった。「美人薄命」というタイトルがなんとも切なく感じる作品。


No.23 7点 葡萄色の死
マーティン・ウォーカー
(2017/09/06 20:59登録)
フランス南西部の村が舞台。遺伝子組み換え作物を極秘に研究していた国の試験場が放火され、警察署長ブルーノが捜査に当たるが、折しも米国の大ワイン会社が土地の買収を打診してきたという展開。大きな利害が絡み、村内でさまざまな思惑が交錯する。小さな村ならではの人間模様も興味深いし、ブルーノの恋愛、葡萄を足で踏むワイン作りの情景など、本筋以外の魅力も盛りだくさん。中でもトリュフをたっぷり入れたオムレツと山シギ(ベカス)とワインの供宴は乗ぜんもの。美食とワインに目がない方にはぜひお薦めしたい。


No.22 7点 その犬の歩むところ
ボストン・テラン
(2017/09/01 21:38登録)
犬好きの方はもちろん、そうでない方にもぜひ読んでいただきたい小説。この作品の主人公はギヴという名の犬。本書はギヴの生い立ちを、そして長い旅路を描いている。ギヴは生まれ育った地を離れ、出会った人々に寄り添って旅を続ける。土地から土地へ、人から人へ。ギヴの旅から浮かび上がるのは、過酷な出来事に満ちた世界と、その中で希望をつかみ取ろうとする人々の姿。ギヴの旅するアメリカは、つらい出来事でありふれている。テロ、戦争、自然災害。大きな事件だけではない。身近な人々の間に渦巻く愛憎もまた、悲劇をもたらす。だが悲嘆を煽るだけの小説ではない。そんな境遇でなお、良心を、あるいは誇りを忘れない人々の姿を描いている。過酷な出来事が幾つも起きるけれど、優しさに満ちた、心温まる物語である。脇役ひとりひとりの姿も心に残る、丁寧に組み立てられた小説。詩情あふれる語り口も忘れがたい。読む事自体がが快楽であり潤い、そんな一冊。


No.21 6点 逆さの骨
ジム・ケリー
(2017/08/27 21:46登録)
新聞記者ドライデンシリーズの3作目。このシリーズの魅力は、ドライデンの取材の過程で、さまざまな人生が少しずつ浮かび上がってくるところだろう。今回も戦争という悲惨な経験に苦しみ続ける人々、愛や嫉妬や憎悪に翻弄されてもがく人々が描かれている。事故で寝たきりの妻ローラをめぐるドライデンの苦悩も読みどころ。派手な仕掛けはないが、人間ドラマをしみじみと堪能できる。


No.20 6点 夏の沈黙
ルネ・ナイト
(2017/08/21 21:38登録)
一冊の本に平穏な日々を脅かされる女性の物語。彼女は自宅で手にとった本を読むうちに、記されているのが自分の過去だと気付く。忌まわしい秘密が暴かれたショックが彼女を襲う。誰が何のためにこの本を作ったのか?印象深い幕開けに続いて、彼女の過去をめぐるサスペンスが繰り広げられる。悪意に翻弄されるヒロインの怯えを、巧みな構成で描き出している。


No.19 7点 アウトロー
リー・チャイルド
(2017/08/17 21:22登録)
トム・クルーズ主演映画の原作。冒頭からライフルによる無差別殺人が起きて、ぐいぐい引き込まれていく。容疑者は物証からすぐに特定され逮捕されたが、彼は「ジャック・リーチャーを呼んでくれ」とだけ言って黙秘する。やがて現れたリーチャーは真実を求めて、独自に捜査を開始する。緻密な推理力と傑出した身体能力を備えたリーチャーが実に魅力的。アクションと謎解きの両方を楽しめる、完成度の高いエンターテインメント作品。


No.18 5点 キャリア警部・道定聡の苦悩
五十嵐貴久
(2017/08/11 18:36登録)
警視庁捜査1課の新米警部として道定がコンビを組むことになったのは、巡査部長の山口。さえない風貌の道定とは正反対に、抜群のスタイルと美貌をもつ山口。熱血漢で生真面目な道定は、山口の毒舌とやる気の無さをものともせずに、真剣に事件に取り組んでいく。だが、思わぬ切り口で真相をズバリと暴くのは、もっぱら山口。そのちぐはぐさやドタバタぶりが、独特の面白さを生み出している。軽妙で痛快な警察ミステリ。


No.17 7点 大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう
山本巧次
(2017/08/07 22:43登録)
江戸の両国橋近くに住むおゆうは、老舗の薬種問屋の依頼で、空き家で殺された若旦那の事件を八丁堀同心の鵜飼伝三郎とともに調べることになる。実は彼女には、タイムトンネルを通り、江戸と現代を往復する能力の持ち主だった。おゆうは現代で化学分析のオタクの友人に頼み込んで証拠品を分析してもらい、江戸に戻って事件を解決しようとする。といっても血液型も指紋も説明できないから簡単にはいかない。事件自体も二転三転するし、大きなどんでん返しとサプライズも最後に用意されていて、次回へと続くクリフハンガー的な結末もいい。おちゃめなヒロインの勇気と、同心へのほのかな恋心もかわいらしくて楽しい。


No.16 8点 ザ・カルテル
ドン・ウィンズロウ
(2017/08/03 22:40登録)
メキシコの麻薬戦争を扱った大作「犬の力」の続編。30年にわたる闘争を描いた前作に対し、本書の扱う年月は10年。期間が短くなった分、物語の密度は増している。策略と激情と暴力が渦巻く、熱気に満ちた小説に仕上がっており、圧縮した表現でたたみかける、独特の文体も前作と変わらない。言葉と物語の力に蹂躙される快楽を堪能できる。


No.15 6点 天使の死んだ夏
モンス・カッレントフト
(2017/07/27 20:29登録)
酷暑の夏、市警の女性刑事モーリンは、前夫ヤンネと少女連続殺人事件に取り組む。被害者の少女たちは娘と同じ年頃で、怒りと不安を感じながら事件にのめり込むモーリンの姿がいい。娘へのひたむきな愛情、ヤンネへの複雑な思い、現在の恋愛への屈折した感情が丁寧に描かれ、共感できる。すべての登場人物に血が通っているところも、作者の力量をうかがわせる。


No.14 5点 探偵は女手ひとつ
深町秋生
(2017/07/24 21:50登録)
六編からなる連作短編集。主人公であるシングルマザーの私立探偵、椎名留美をはじめ皆にズーズー弁使わせ、ほとんどユーモア小説のように見せつつも、皮肉と風刺を忘れず、人生の苦労をさらりと捉える。探偵と言っても実質的には便利屋で、山形ならではのさくらんぼ農家の手伝い、雪下ろし代行など意図的に地方色を選択しているものの、展開と真相にひとひねりあり読ませる。


No.13 7点 プリティ・ガールズ
カリン・スローター
(2017/07/18 19:36登録)
愛した夫は猟奇殺人者だったのか?そんな疑惑に苦しめられるヒロインの物語。死んだ夫のパソコンに隠されていた、女性が拷問される動画。夫は何者だったのか?やがて、遠い昔に失踪した彼女の姉とのつながりも。意外な真実が、彼女の信じていた世界を突き崩す。驚きに満ちたサスペンスであり、壊れていた家族が復活する物語でもある。


No.12 7点 その女アレックス
ピエール・ルメートル
(2017/07/15 20:27登録)
冒頭部分の陰惨な場面に続き、犯人の自殺という衝撃的な出来事で一気に心をわしづかみにされたストーリーは、そのあと予想もしない方向にねじれていく。ネタバレになるので詳しくは語れないのがもどかしいが、多くの読者が途中で謎の女アレックスの正体をとらえたと確信すると思う。しかし作者はさらにひとひねりして物語に奥行きを与えている。構成と語り口の巧みさにうならされた作品。


No.11 5点 ゼロワン 陸の孤島の司法書士事件簿
深山亮
(2017/07/12 21:25登録)
群馬県の田舎の村で起きた事件を、ほのぼのとした筆致で描いた短編集。主人公は陸の孤島と呼ばれる過疎の村、南鹿村で司法書士の事務所を開く。そこは法律家が誰もいないか、いてもひとりだけという「ゼロワン地域」。田舎の村ならではの人間関係が生み出す難事件と、司法書士という職業の興味深い実態が語られていく。ユーモアのみならず、苦みも含むユニークな連作集。


No.10 6点 薔薇の輪
クリスチアナ・ブランド
(2017/07/09 21:17登録)
障害のある娘との交流をつづったエッセーで人気の女優ステラ。だが、服役中の凶悪な夫が特赦で出所し、娘に会おうとしたところから事件が起きる。事態は二転三転し、いくつもの仮説が示される。手厳しい人間観察に支えられた冷徹な謎解きは意外な結末へと着地させている。

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