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ミステリの祭典

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美人薄命

作家 深水黎一郎
出版日2013年03月
平均点6.25点
書評数8人

No.8 6点 ぷちレコード
(2020/06/11 18:48登録)
若者と老人の交流物語として充分満足させておきながら、終盤でそれまで描かれてきた風景が一変し、したたかに計算されたミステリへと変貌する。鮮やかな手並みに脱帽。

No.7 6点 猫サーカス
(2017/09/12 20:37登録)
現代を舞台にしながらも、戦前から戦中にかけての悲恋が物語に織り込まれたミステリー。主人公はゼミのリポートのテーマを老人福祉問題を選んだことから、ボランティア活動をはじめ片目を失った老婆と出会う。ボランティア青年の奮闘ぶりがユーモラスに語られていく一方で、老いた女性の悲しい恋物語が明かされる。あちこちに張り巡らされた伏線により、意外な真実が明らかになるばかりか、ラストで鮮やかな反転を見せる。それは主人公の人生をも変える、ある真実だった。「美人薄命」というタイトルがなんとも切なく感じる作品。

No.6 7点 邪魅
(2017/03/10 23:15登録)
カエ婆さんと主人公のやりとりが大層面白く、ミステリ小説の側面だけでなくユーモア小説としても充分読み応えのある話だったのではないでしょうか

ミステリーとしてはやや謎が弱いきらいはありますが、丁寧に読み進めていけばある程度、までは想像できるという点では評価に値します
ただし、書かれている手がかりから全てを読み解くのが不可能だった、というのが少し評価を下げてしまっているのが残念ではあります

でも結末はやはり鮮やかと言いますか、心動かされるものがありました

No.5 6点 tider-tiger
(2017/03/04 15:46登録)
ゼミのフィールドワークとして老人に弁当を運ぶヴォランティア活動を始めた大学生の主人公が、とある老婆と親しくなる。このばあさんには辛い過去があって、主人公と老婆の人生が交錯して……みたいな話。

本作を読み終えたことにより『ジークフリートの剣』の序章に登場した婆さんの正体が判明してすっきりした。
ジークフリートは芸術家の挑戦と生態から始まって途中から大きく軌道がずれていったが、こちらは老婆の日常や過去からとんでも話へと展開する。
スケール感ではジークフリートの方が上だが、読む人を選ばず誰でも楽しく読めるのはこちらかも。
ただ、ミステリとしてはどうだろうか。
注意深く読まないと気付かずに流してしまうような伏線、ネタが多く散りばめられていて(自分もけっこう読み落としてそう)、凝った作品だと思うけど、こうした部分が気に留めて貰えずにサラッと読み流されてしまいそうな作品でもある。
また、オチにちょっと強引な部分がある。
驚きのある話、だが、自分はミステリとしては少し評価を下げて、6点とします。

この人の作品は人物造型は類型的だったり浅かったりするんだけど、なんか人間の不思議さを感じさせてくれる。
作中にあった「若い頃に老人を軽んじていた人間は必ず惨めな老後を送る」という説は正しいかどうかはともかくとして、大いに頷きたいところではある。
なんか『トムは真夜中の庭で』が思い浮かび、読み返したくなった。

No.4 6点 メルカトル
(2017/01/14 22:11登録)
独居老人宅に、月二回お弁当を配達するボランティアに励む大学生総司と、片目が見えない老女カエとの交流をほのぼのと描いた青春ミステリ。終盤までミステリ要素が薄く、文芸に近い作品かと思っていたら作者の企みにまんまと引っ掛かります。実は冒頭からトリックが仕掛けられており、何気ない日常が伏線になります。
ボランティア団体、ひまわり給食サービスで偶然再会したかつての同級生に何とか接近しようと試みたり、宅配先の老人たちの様子や出来事をちょっとしたユーモアで包むように描いてみたり、カエの戦時中の辛い過去がカットインされていたりと、読者を飽きさせない工夫がされています。巧みな構成で物語全体に変化をつけています。
所々、涙を誘うシーンなどもあり、ガチガチの本格ミステリで疲れた頭をほぐす意味で一読の価値ありと思います。色々考えさせられる作品でもありますね。

No.3 6点 makomako
(2013/09/23 19:58登録)
 本の帯には世界が反転する驚きと溢れでる涙の最終章とうたってあるけれどもそれほどのことはなかった。
 深水氏の作品は多彩な教養に裏付けられていてとても興味深いものであるが、この作品にはそういった要素は少ない。ただ洒落のような表題名とその外国語訳がついているのがこの作者らしいところ。
 まあ読後感も悪くないのでよしとしましょう。本当は氏の作品ならならもっとすごいものを期待していたのですが。

No.2 6点 まさむね
(2013/04/21 21:42登録)
 進級のためのボランティアをせざるを得なくなった大学生「総司」と,片目の視力を失い,貧しい生活を送る老婆との温かい交流が物語の中心。老婆の過去のストーリーに総司の成長も相まって,青春物語としての良さもありましたね。
 で,読ませるのだけれども,どの辺りがミステリなのかなぁ…と気になりだした頃に,しっかりと用意されていました。
 切ないけれども,何か前向きになれる,そして考えさせられる,そんな作品ですね。

No.1 7点 kanamori
(2013/04/09 20:34登録)
独居老人宅を回って弁当を配達するボランティアの大学生と、戦時中の悲恋を語る老婆との交情を中心に描いた物語。

とぼけたギャグを連発しつつ、時には予言めいたことを告げるこのカエ婆さんに不思議な存在感があり、謎らしき謎もないまま物語が進行しても充分に面白く読めますが、作者が「一般小説に擬態した本格ミステリ」というように、カエ婆さんが前に登場した「ジークフリートの剣」同様に、途中に張られた伏線が終盤で回収され、隠された事実が立ち現れる様は今回も見事です。(帯の煽り文句は少々オーバーだとは思いますが)
哀切でありながらも爽やかな真相が涙腺を刺激して心地いい読後感でした。

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