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ミステリの祭典

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ALFAさんの登録情報
平均点:6.64点 書評数:255件

プロフィール| 書評

No.55 5点 運命の八分休符
連城三紀彦
(2021/08/02 08:34登録)
それぞれ「ショウ子」と音読みできる女性を主人公にした5編の連作短編。コミカルな造形の素人探偵軍平が活躍する。
いずれも作者らしい反転の利いた本格構成で、その部分では楽しめます。
個人的には軍平のキャラ付けがわざとらしく、軽妙さが感じられない。むしろシリアスな造形の方が味わい深いミステリーになったはず。コミックはこの作者の柄ではないと改めて思いました。


No.54 7点 ホロー荘の殺人
アガサ・クリスティー
(2021/01/07 11:35登録)
(少しネタバレ)

定義も曖昧な「文学的」なる語はあえて使わずに、物語として面白いか?というと実に面白い。登場人物の造形はしっかりしている。主要な人物だけでなく、被害者の息子や病気のおばあさんなど、周辺の人物のキャラも立っていて楽しい。
で、ミステリーとしての構成は?というと印象は弱い。傑作「白昼の悪魔」はしっかりとしたミステリの骨格に必要最小限の物語をまとった筋肉質の作品だし、「ナイルに死す」は同じく大がかりな構図の反転を伴った骨格に、芳醇な物語をまとわせたリッチな作品である。それらに比べると、この作品はふくよかだが骨格の弱い人物のようだ。
(弱さその1)シンプルで大胆なトリックは面白いが、犯人のキャラに会わない。このトリックならもう一人の人物にこそふさわしい。
(弱さその2)事後従犯をあえて買って出る二人。キャラは合っているが動機が弱い。犯人を庇うなら犯人へのシンパシーと被害者への敵意が必要だが、一人はどちらも持っていないないし、もう一人は犯人へのシンパシーは単に社交的なものである一方、被害者に対しては敵意どころか深い愛情を抱いていた。たとえ最後に被害者から頼まれたにしても従犯を引き受けるには無理がある。
というわけで、この物語はもともとトリックなしの単純な悲劇にふさわしい構造ではないかと思う。
ポワロの最終盤の台詞「いつかは私のところに来て事実をきくでしょう」で思いついたが、20年後の設定で過去の事件として再構成したらどうなるかな。この話の場合、「五匹の子豚」のように過去の事件を再捜査するポワロのほうが生き生きと描けると思うが。
とはいえ物語として十分楽しめたのでこの評価。


No.53 7点 黒い樹海
松本清張
(2019/10/31 13:18登録)
ネタばれアリ


清張にしては珍しく、古典的なミステリの骨格を持った作品。怪しい人物が複数提示され、次第にある人物にフォーカスされていく。大きなどんでん返しはなく、少しずつ疑惑が深まっていき、最後は調書による謎解きとなる。
個人的には、複数の犯罪(犯人)の組み合わせは好まないが、ここでは話の整合性はとれている。
むしろ味わい深いのは清張節ともいうべき、突然身内を失った喪失感や山峡の情景、そして昭和中期(30年代)の風俗の描写だろう。
それにしても飲酒運転がこれほど当たり前だったとは・・・


No.52 9点 獄門島
横溝正史
(2019/03/04 11:40登録)
作者固有の世界観の中にいかに合理的なプロットを組み込めるかがミステリ成功の鍵になると思う。
クリスティならイギリス中上流社会の人間模様、清張なら昭和の重く濃い人間関係や社会情勢。それぞれにお得意の世界観がある。そして横溝の場合は閉じられた空間での濃い血縁と地縁模様。

ネタバレします


ともすればおどろおどろしい雰囲気や奇怪なギミックが突出しかねない横溝作品の中にあって、ここではとても自然なバランスでプロットが組み込まれていると思う。したがってミステリとして読みやすく楽しめる。
犯人(主犯)の器の大きいキャラクターも秀逸。太閤と呼ばれた当主の晩年の狂気も秀吉さながらで、これも作者の「見立て」か。対照的に初めは腹黒そうに描かれた分鬼頭の当主の、実は重厚で落ち着いた人柄の描きかたもうまい。
犯人が複数になるのはストーリー上やむを得ないが、従犯?二人はもう少し動機を補強しておきたいところ。
三姉妹だけが極端な船場風大阪弁なのも違和感あり。


No.51 7点 西郷札
松本清張
(2018/12/10 13:58登録)
戦国から江戸、幕末、明治までを舞台にした12編からなる短編集。ミステリーではない。清張のことだから綿密に資料を駆使して書いたのだろう。
清張節で読みやすいが中には史実をそのまま肉付けした「だから何?」と感じるものもある。
表題作より巻末の「白梅の香」がフェイバリット。薄味だがミステリ風味で読後感もすっきり。


No.50 7点 本陣殺人事件
横溝正史
(2018/12/09 18:05登録)
短編集としての評価

(少しネタバレ)
密室トリックはとても楽しめた。ただ、ミステリとしての全体評価となると、三つの点で物足りない。まず何といっても動機。犯人の性格はよく造形されているのだから、ここはさらに恐喝などを絡ませて抜き差しならない動機付けをしてもらわないと単にあの動機では・・・・。そして都合よすぎる死体と共犯者。
思うに作者は密室トリックの出来の良さに満足してあとは付け足しだったのでは?
併載されている中編2編は読みごたえがある。
特に「車井戸はなぜ軋る」は人間関係に変なひねりがないだけプロットが自然で、本編よりもミステリとしての構えが大きい。手紙形式の謎解きも楽しい。オカルティックなタイトルが最後に合理的な説明がつくのも後味がいい。こちらは8点。
「黒猫亭事件」は都合のいい共犯者などアラはあるが何よりも有名なトリックを使い、大胆な手掛かりを提示しながら堂々と読者を欺くのは見事。こちらは7点。


No.49 5点 点と線
松本清張
(2018/12/01 13:28登録)
ネタバレしますよ。

普通に考えればこれほど大きな瑕疵を二つも持った作品が名作足りうるわけはないのだが、60年もの長きにわたって幾度もドラマ化され読み継がれているのはなぜか。
あえて瑕に目をつぶればお話としては起伏があり面白いこと。簡潔にして読みやすい文体。今でも劣化していない、社会派的なモチーフ。ということか。
瑕はほとんどの方が指摘しているとおり、く飛行機と4分間の目撃タイム。
いくら一般的ではないにしても、現にその航路があり犯人はチケットを買って利用しているのだから。ここはあえて清張が読者のレベルをその程度と見切ったということだろう。
4分間のトリックは思い付きのすばらしさに強引にプロットにねじ込んだか。よほどの工夫というか工作がない限り、目撃者と目撃されるものがその4分に居合わせることはあり得ない。
というわけで謎解きミステリとしては評価できないが、刑事もの冒険小説としては楽しめるかも。


No.48 7点 ゼロの焦点
松本清張
(2018/11/30 17:58登録)
洗練された文体で読ませる物語としては最高。人間関係や情景の描写も簡潔かつ抒情的。
一方ミステリとしては、犯人は文句なしだが被害者の造形が物足りない。つまり犯人側の動機はあるが、被害者はそうまでして殺されなければならない人物となっていない。主人公の謎の解明にも飛躍がある。
というわけで清張節を堪能するにはいい作品だと思う。


No.47 8点 或る「小倉日記」伝
松本清張
(2018/11/30 16:24登録)
表題作をはじめとする12編からなる短編集。
いわゆる本格謎解きミステリは一つもない。清張短編の真骨頂は謎解きではなく、ここにあるようなサスペンス風味の心理小説やダークな人情噺だろう。
中では表題作がやはり抜きんでている。とても50ぺージの短編とは思えない。長編を読み終わったようなずっしりした感慨が残る。
他のフェイバリットは「青のある断層」。清張お得意の贋作モチーフの変奏だが、ほろ苦くも穏やかなエンディングがいい。
傍流研究者の僻み根性や豊かさと貧しさの対比など、いささか類型的かつ通俗的なところもあるがそれも清張節。


No.46 5点 悪魔が来りて笛を吹く
横溝正史
(2018/11/29 17:21登録)
絢爛たるディテールに比べて構成は弱いと思う。全編を通して、犯人とその動機をしっかり暗示してほしかった。そもそもこの動機のもとになる行為、確かにタブーではあるがそれほど悪魔的かな?
共犯者の造形もご都合主義的だし、それまであまり目立たなかった人物(犯人や共犯者)が終盤になって急転直下注目されるというのは、あまり好まない。
おどろおどろしいディテールや帝銀事件的モチーフも今となってはいささか陳腐。むしろストーリーと関係ない情景描写がほっこりする。
余り難しく考えずに作者のサービス満点のギミックを楽しむならいいかも。


No.45 8点 悪魔の手毬唄
横溝正史
(2018/11/28 17:57登録)
(少しネタバレ)
書評がなかなか盛り上がっている(揉めている)ようなので、面白くなって数十年ぶりに再読。内容もやはり面白かった。それほど凝ったトリックやアリバイ工作はないのだが。お得意の閉ざされた空間、過去の事件がカギになる重層的な時間の流れ。複雑な人間関係。重苦しい動機など。満腹感の味わえる長編です。
さて例の論争だが、
見立てに意味はあるか?もちろんある。現に作中でミスリードとして効果が出ている。読者、登場人物、各々がどこまで情報として持っているかどうかは些末なことで、あとから「あの人ならやりかねない・・・・」くらいで十分。(なお、情報の区別がついてないなどと他の読者を軽んじるのは厨二病的思い上がりだろう。ほとんどの読者はそんなことはわかって読んでいると思うよ)
そもそも「見立て」は①単に作者の趣向(あまり意味のない)②犯人の趣向(犯人のキャラに沿った設定)③構成上の必然、などいろいろあっていいのだ。クリスティを例にとると③の典型は「ABC殺人事件」。ここでは「見立て」は構成上抜き差しならない仕掛けになっている。一方「誰もいなくなった」は②の好例。狂信的な犯人のキャラ立てに効果的に使われている。
この作品では③といえるが、①の要素も強いため評価が分かれるのだろう。
あえてこの作品の欠点を上げれば重要な地理的情報が不親切なこと、そして登場人物が多く複雑なこと。それぞれに意味はあるのだが、それにしても多い。
特に例の「老婆」と「おりん」抜きで構成できなかったか。手紙の件が偶然に頼りすぎていて、構成が弱くなっている。
犯人のミスディレクションは一本に絞ったほうが真犯人の鮮やかな手口が冴えると思うが。
一方、映像的には峠で金田一とすれ違うシーンは非常に効果的だろうな。
ともすれば絢爛たるディテールの中に構成が埋もれてしまうこともある作者だが、ここではサービス満点のギミックに負けない骨太の構成で読みごたえがある。


No.44 7点 眼の気流
松本清張
(2018/11/27 13:52登録)
清張の短編は、謎解きよりもミステリ風味のダークな人情噺に名作が多い。短い尺の中に犯罪に至る人間の心理やその背景、生い立ちまでが鮮やかに描かれて強い印象を残す。「天城越え」などはその代表だろう。
この短編集はいずれも謎解きの要素は薄く、中にはミステリ(犯罪)でないものもある。どれも主人公の暗い心象が描かれていて味わい深い。
表題作は本格推理小説の骨格を持った短編だが、味わうべきは犯人の暗い心象だろう。ここは「結婚式」と共通するかもしれない。ただ解決が思い付きと偶然に拠っているのが惜しい。
お気に入りは「たづたづし」。古語のタイトルと勧善懲悪に収まらないもやもやした余韻が味わい深い。
そして「影」。贋作(代筆)は清張お得意のモチーフだが、枯れたエンディングがいい。いささか通俗的ではあるが。


No.43 7点 ブラウン神父の不信
G・K・チェスタトン
(2018/04/29 18:32登録)
個人的な好みでいえばブラウン神父は夕暮れのロンドン郊外やイングランドの田園やスコットランドの荒野で活躍してほしい。「不信」の中のいくつかではブラウン神父をハリウッドのTVドラマの中にポツンと立たせたみたいな感じがする。まあチェスタトンのことだからアメリカ文明批評を書いてみたくてブラウン神父を「赴任」させたのだろう。
とはいえ派手目なストーリーはそれはそれで楽しい。
尺は短いが意外と大仕掛けな「ギデオン・ワイズの亡霊」がフェイバリット。
「犬のお告げ」も短編ならではの味わい。
有名な「ムーン・クレサントの奇跡」はトリックだけが突出気味。

それにしても翻訳はひどい。ちくまやハヤカワの新訳が待ち遠しい。


No.42 7点 ブラウン神父の秘密
G・K・チェスタトン
(2018/04/25 10:08登録)
プロローグとエピローグにブラウン神父とフランボウのそれぞれの「秘密」話を振ってまとめた構成は巧み。しかし中身は「無心」「知恵」から順を追ってにフツーになってくるのはやむを得ないことか。
中では「マーン城の喪主」が舞台設定や宗教観も含めて印象深い。トリックそのものは簡単に推測できるが。
「大法律家の鏡」は「知恵」の同トリックの収録作よりもミステリらしく楽しい。
それにしても「メルーの赤い月」をはじめ時々見られる作者の「神秘の東洋」感にはうんざりする。アメリカ人への偏見もそうだが、この時代のイギリス有数の知識人チェスタトンにしてこれかと思ってしまう。


No.41 8点 ブラウン神父の知恵
G・K・チェスタトン
(2018/04/24 09:24登録)
象徴性に満ちた「無心」と比べるとトリック一発の小粒感はあるが楽しい短編揃い。
やはり重厚な「ペンドラゴン一族の滅亡」が読みごたえがある。勝手に芸達者なイギリス俳優をキャスティングして脳内ドラマをイメージするのも楽しい。
とぼけた味わいの「グラス氏の不在」も気に入った。
訳文は生硬で読みにくい創元版よりちくま版がおすすめ。


No.40 6点 瓦斯灯
連城三紀彦
(2018/04/23 10:07登録)
表題作を含め5編からなる短編集。
恋愛小説と評されるが、私は恋愛仕立ての犯罪のないミステリとして楽しめた。
時間のトリックや若すぎる柄の着物など、具体的な要素がある分、ウェストマコットよりクリスティに寄っている。
フェイバリットは「花衣の客」。これに過去の犯罪の要素を加えたら面白い本格ミステリになるなあと考えながら読むと楽しい。
それにしても「親愛なるエス君へ」は異質。「夕萩心中」の中の「陽だまり課事件簿」もそうだったが、統一されたトーンを持つ短編集に全く異質なものを入れる出版社の神経がわからない。
版権の問題もあるのだろうが、短編集はそれ自体が一つの作品であるとの意識をもって編んでほしい。


No.39 6点 美女
連城三紀彦
(2018/04/04 14:48登録)
連城三紀彦らしい反転が楽しめる8編からなる短編集。
共通するテーマは人間の外側と中身(?)の乖離とでもいうか・・・
フェイバリットは「夜の二乗」。もう少し長い尺で主人公の虚無感を丁寧に描いたら「戻り川心中」のような読みごたえのある中編になっただろう。
「美女」は男女の心の綾はとても味わい深いのだが最後のオチが物足りない。
「喜劇女優」は作者らしい技巧の粋を尽くした作品だが、ストーリーがトリックの説明となってしまっているため、読み疲れする。「幻戯」を連想したが中井英夫ならこのテーマで魅力的なダークファンタジーに仕立てただろう。
以上の3編と「夜の右側」が評点8から7。他の4編が評点5から4。


No.38 7点 ブラウン神父の醜聞
G・K・チェスタトン
(2017/04/22 17:48登録)
「童心」にみられるような鮮やかなトリックや大掛かりな反転はないが、チェスタトンらしい逆説に満ちた短編集。
多くの短編に共通するテーマは「人は見かけ通りではない」ということ。
(以下ネタバレ)


ロマンチックな風貌の人物は詩人ではなく、カウンターの中にいる人物はバーテンではなく、押し出しのいい紳士は業界の大物ではなく、白髪の聖職者は・・・・・
多くの人が思い込みや錯誤に陥るなか、純真なブラウン神父の目は正体を見抜いて犯罪を暴く。
ワンパターンといえばワンパターンだが、チェスタトンらしさを味わえる。
「共産主義者の犯罪」は一種の社会風刺にまで踏み込んだ異色作。
それにしてもこの読みにくさはチェスタトンの原文のせいばかりではないだろう。「童心」の旧訳と新訳二編を読み比べるとよくわかる。
創元社は文字の大きさやカバーの変更でお茶を濁すのではなく新訳を出すべきだった。創元社には悪いがハヤカワ版が待ち遠しい。


No.37 4点 シャーロック・ホームズの事件簿
アーサー・コナン・ドイル
(2017/04/16 14:27登録)
さすがの聖典もここまでくると落穂ひろいのようなもの。トリックで有名な「ソア橋」もストーリー自体は単調。
歴史的価値、資料的価値を度外視すると評点は厳しくなる。
グラナダTVのドラマシリーズも、もともと原作が厳しいうえにジェレミー・ブレットの体調不良で出番を減らしたりと、残念なレベルが多い。
注目すべきは「ショスコム荘」。なんと十代のジュード・ロウが出演している。それもチョイ役ではなく、トリックに絡む大事な役どころ。ドラマの出来は原作同様のレベルだが、ジュード・ロウファンなら必見。


No.36 8点 シャーロック・ホームズの帰還
アーサー・コナン・ドイル
(2017/04/09 13:36登録)
聖典第三弾。粒ぞろいの第一弾に比べると玉石混交だが、秀作だけを見ると負けていない。
フェイバリットは「六つのナポレオン」。一見小さな謎が大きな犯罪につながっていくところは「赤毛連盟」にも似ている。
グラナダTVのシリーズではシチリアマフィアの家族模様をうまくフューチャーして見ごたえあるドラマになっていた。珍しくレストレイドの出番も多い。事件が解決し、レストレイドから正面切ってほめたたえられたホームズのひきつった照れ笑いがおかしい。ここはジェレミー・ブレットの名演。
さらにおすすめは「恐喝王ミルヴァートン(犯人は二人)」
平凡な冒険譚に過ぎない原作を、重厚な長編に改変して見ごたえ十分。名優ロバート・ハーディ演じるミルヴァートンの存在感が圧倒的。柔和な表情に決して笑わない目で、モリアティ教授をしのぐ悪党ぶり。その分最後のカタルシスは大きい。
ドラマ二編は評点10。

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