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ミステリの祭典

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死者との結婚

作家 ウィリアム・アイリッシュ
出版日1958年01月
平均点7.83点
書評数6人

No.6 8点 クリスティ再読
(2022/03/27 12:01登録)
マッチの火がそんなにはっきり見えるのに、彼女はびっくりした。予期もしていなかった。小さな光ではあったが、一瞬ひどくあざやかだった。光った黄蝶が、翼をいっぱいにひろげたまま、黒いビロードの背景幕にピンでとめられたかと思うと、またすぐ逃がしてもらったように見えた。

いやこんな文章、書いてみたいです....マジで。サスペンスって「心理」主体な小説になる、のが通り相場だけども、本作だと映画真っ青な視覚的描写に凄みがある。映画にするんなら監督要らないよ、と言いたくなるくらいに、場面場面の視覚イメージが鮮烈で、しかもそれが直接に心理描写にもなっている。

ただ、話の規模は小規模。短編でも良かったかな、というくらいの話。それをシンネリコッテリやって、ヒロインを追い詰めていく。読むのがツラくてツラくて....ヒロインに感情移入しすぎ。完璧に評者もウールリッチの術中にハマってる。
ふう、意外なくらいに読むのに時間がかかった(苦笑)。評者的リーダビリティは強烈に低い(笑)。

....そういえば、本作「真相不明ミステリ」の一つだったんだ...予定調和はガン無視の「心エグられる」劇薬。

No.5 7点 take5
(2018/08/09 11:48登録)
40年近く前の世界ミステリー全集で読みました。
幻の女も掲載されていますが既読なので、
死者との結婚を目当てに借りました。
ウィリアムアイリッシュ(と訳者)は、
やはり文体が素敵ですね。
設定は古いですが、情景描写が読ませます。
人間は弱い、
その葛藤が女性主人公のみならず脇役からも感じます。
タイトルの死者との結婚とは、文字通りの意味を越えて、エンディング後も作品に生きる大変合っている物です。

No.4 8点 ALFA
(2017/04/07 14:50登録)
50P程度の短編でもまとまるくらいシンプルな構成、そしてよくよく考えると結構都合のいいストーリー。しかしそんなことは気にならないほど甘美でスタイリッシュな文体で、気持ちよく読める。
このエンディングはサスペンスとしては大いにアリなのだが、最後の遺書のインパクトが今一つかな。

No.3 8点 蟷螂の斧
(2013/06/28 19:40登録)
①朝になって、窓から見る世界は、甘美なものだった。②朝になって、窓から見る世界は、苦しくて甘美なものだった。③朝になって、窓から見る世界は、苦いものだった・・・美しい文章で、主人公の心理が伝わってきます。ラストの善意(愛情)が、仇(悪意?)になってしまう様は、お見事としか言いようがない。余韻が残りますね。こういう終わり方は好きです。

No.2 7点 Tetchy
(2010/04/13 21:57登録)
ひょんなことから富豪の息子の未亡人に成りすますのだが、主人公がこの手の話にありがちな悪女ではなく、善人だという所がミソ。

導入部もよくよく考えてみると非常にご都合的なのだが、詩的な文体が織成す前時代性的雰囲気、そして行間に流れる登場人物の哀切な心情が読者の共感を誘い、一種の酩酊感すら覚え、これが一種荒唐無稽な設定に疑問を抱かせない。

執筆当時の1940年代後半、アイリッシュは母親が重病になり、ホテル暮らしをしながら看病をしていたようだ。その時の影響が色濃く出ているようなストーリーだ。

私も結末の付け方には疑問を感じる。ミステリアスな余韻を残すようにしたのだろうが、あまり効果を挙げていない。

No.1 9点 ロビン
(2009/08/14 11:50登録)
おお、アイリッシュまさかの(ネタばれ?→)カットバック。そして、この構成が何より最大の胆。

相変わらずのご都合主義には目をつむるとして、そんなことはどうでもよくなるくらい美しい描写。風景、人間心理と、これまた相変わらず詩的に描かれています。そしてこの描写が最大のミスリードとなっている。
恋人、家族の愛を描ききることで、「そんなまさか」と思わせる。まるでそれは、読者のリアル世界での自分の家族、友人が悲惨な事件を起こしたとしても「そんなまさか」と相手を妄信してしまうような感覚。「あいつはそんなことをするような奴じゃない」と。
この文章、表現力は、誰も真似できない天性のものだと思います。

ただ、真相(?)には問題ありかと。

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