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ミステリの祭典

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人並由真さんの登録情報
平均点:6.36点 書評数:2327件

プロフィール| 書評

No.187 5点 豹の呼ぶ声
マイクル・Z・リューイン
(2017/08/06 17:04登録)
( ネタバレなし)
上流階級の社交パーティーの余興で名探偵役を演じたり、なりゆきからケーブルテレビでCMを流したりしたことで、仕事が入り出した私立探偵アルバート・サムスン。そんな彼のもとにとびこんできた新たな依頼は、環境保護の過激派集団「アウトロウ戦線」からのもので、仕掛けた爆弾が何者かに持ち去られた。被害を出すのは本意でないので、見つけてほしいというものだった。

アルバート・サムスンシリーズの後期でまだ未読のものがあったはず。この作品からだっけ、と思って古本で文庫版を購入して読み出したら、20数年前にリアルタイムでポケミスで読了済みと途中で気づく。チャンチャンw

そもそも事件のネタ自体が、藤子・F・不二雄先生の作品みたいな感じで 、まあゆるいキャラクターものとしては楽しめるんだけど。残念ながらシリーズのたけなわはすでに去ってしまった感じ。
残る一冊もミステリ味は薄いという噂だし、そういう意味では最後の方まで一応のレベルを保った感のあるリュウ・アーチャーシリーズってやっぱ凄かったんだろうな。もちろん、作者の経歴も、それぞれのミステリ界の状況も単純に並べちゃいけないのはよくわかってますけど。


No.186 7点 おうむの復讐
アン・オースチン
(2017/08/06 16:38登録)
(ネタバレなし)
アメリカのハミルトン市にある賄い付きの下宿屋・ローズ荘。そこの下宿人である孤独な老婦人エンマ・ホガースが、身の危険を窺わせる手紙を地元の警察に送ってきた。当局は半信半疑だが、若手の新任刑事で警察長官の甥「ボニー」ことジミー・ダンディーは関心を抱き、身元を隠したままローズ荘に入居。エンマほか住人たちとの接触を図る。だがボニーが入居するやいなや、その夜にエンマは何者かに絞殺され、あとには彼女のペットの鸚鵡「キャプン」が遺された。老婦人の死を食い止められなかった責任を感じるボニーはそのまま素姓を秘めて捜査を続けるが、やがて事態はさらなる殺人事件へと…。

1930年(1929年説もあり)のアメリカ作品で、ボニーシリーズの第一作(らしい)。
日本では乱歩が「百万長者の死」「エンジェル家の殺人」と同時期に原書で読んで両作と並ぶ良い評価を下したことから、戦後になって創元の世界推理小説全集の一冊として紹介された。
とはいえその後は創元文庫に収録されることもなく、さらに鮎川哲也などは1970年前後の創元推理コーナー(当時の販促パンフ)のエッセイのなかで「凡作」と切って捨てており、ほとんど現在では忘れられた作品。
とまれ筆者的には、実際のところどうなんだろうと気になっていた一冊で、このたび例によって一念発起して読んでみたところ、これが結構楽しめた。
青臭いともいえる若い正義感で事件にあたる主人公ボニーの奮闘が軽本格風の筆致で溌剌と語られ、適宜に広がる物語の起伏の中でローズ荘を主舞台にしながら事件の真相に迫っていく筋運びも小気味好い。犯人の正体や作中の複数のトリックも発表年代を考えれば、なかなか健闘している方だろう。
タイトルロールの鸚鵡(キャプンとは、キャプテンの意味)がいまひとつ活躍しないのはナンだけど、こういうのが近年、論創とかで発掘されたら良い意味での二線級30年代パズラーとして楽しくなってしまいそうである。
webで作者の作品(原書)を探るとボニーシリーズはその後も何冊か書かれたみたいなので、これも例によって論創で今からでも翻訳してくれないかな。
(まあ「おうむの復讐」 のアン・オースチン、60年ぶりの新訳! じゃ、商売 にならないかもしれんけど。)

【2022年6月19日】
 nukkamさんが投稿くださった書評、また御教示いただいた情報を参考にさせていただいて、書誌データの箇所などを改訂いたしました。


No.185 6点 グレイ・フラノの屍衣
ヘンリー・スレッサー
(2017/08/03 10:22登録)
(ネタバレなし)
大手の広告会社ハガティ・テイト・アソシエイト。38歳の代表者補佐役デヴィッド(デイヴ、デイヴィ)・テイトは前線でばりばり職務をこなしていたが、ある日、会社の最大級の顧客であるバーク食品会社の広告ビジュアルについて疑念を抱く。それは自社が同食品会社のイメージキャラクターとして提供した実在の赤ん坊のモデルが、ひそかにすり替わっているのではというものだった。デイヴは社長の姪で同僚の美術監督でもある恋人ジャニイとともに真相に迫るが、その周囲では奇妙な変死事件が 勃発して……。

短編の名手スレッサーのミステリとしての第一長編。
以前に読んだジュリアン・シモンズの『二月三十一日』を想起させるような当時の企業風俗ミステリで、そのためか初読のはずなのに、しょっちゅう既視感を覚えた。
とまれ多数の登場人物のポジションを捌きながら物語を進めていく筆致はなかなか達者で、石川喬司などが当時のミステリマガジンの書評でスレッサーは長編もなかなかイケると語っていたのも思い出す。
最後に明かされる真犯人の意外性も作者は心得ており、全体的には佳作〜秀作といえるのではないか。


No.184 5点 茶色の服の男
アガサ・クリスティー
(2017/08/03 09:39登録)
(ネタバレなし)
内容の割に長い……とは思うものの、作家として小説技巧を研鑽していった時期のクリスティーが、こういうものも書きたいと思って綴った のであろう、若き日の愛すべき一冊。

クリスティー文庫版で終盤の493ページ、アンからのレイス(深町真理子訳ではレース)大佐への「あなたなら、これからもきっと素晴らしいお仕事をなさるはずです。洋々たる前途がひらけていると思います。いつかは世界有数の偉人のひとりになるでしょう」の一言がとてもジーンとくる。いやこれって、テレビドラマ版『おれは男だ!』の丹下竜子だな。
のちのクリスティー諸作のリアルタイムでの刊行時、レイス大佐に再会できて、「おお!」と思ったであろう当時のイギリス読者たちの喜んだ様が、少し羨ましい。


No.183 7点 ひらいたトランプ
アガサ・クリスティー
(2017/08/03 09:21登録)
(ネタバレなし)
当時絶版で品切れだったポケミス版を足繁く探し回った古書店で入手したのが大昔の青春時代。
それでこの作品を愉しむなら、いつかきちんとブリッジのルールやコツを修得してからと思って手をつけずにいたものの、いつしか長い時が経ち、オヤジになったかつての少年ミステリファンは、結局ブリッジも知らぬまま本書をどっかのブックオフで買ったクリスティー文庫版で初めて読むことになりました。ダメじゃん(笑)。ちなみに当時のポケミス版は家のどっかに眠ってるはず。読まなくてゴメンね。

あだしごとはさておき、いやこれは予想以上に面白かったですな。
もともとオールスターものが好きなので、新登場のオリヴァ夫人を加えたクリスティーレギュラー陣4人と、容疑者4人の対峙という絶妙な設定。冒頭のヘイスティングスのコメントも、事件に関われなかった彼のひめた悔しさを語るようでまたニヤリです。
内容的にはクリスティーの優しさと底意地の悪さを実感するような展開も最後まで秀逸。いくつかの面で作者としての異色作? ともいえる部分もありましょうが、クリスティーの器量の広さ深さを改めて思い知らされた一冊。


No.182 5点 思い通りにエンドマーク
斎藤肇
(2017/08/03 08:50登録)
(ネタバレなし)
うーん……。なんというか、みなさんのツッコミや不満はわかるんだけど、良い意味ですんごく可愛げがあり、嫌いになれない作品だった。
嬉し恥ずかしのミステリギミック的な茶目っ気のつるべ打ちも、世間にこれが大きく評価されていたら怒ってしまうんだろうけど、近代国産新本格の草創期? に書かれて時代のなかに消えていった短期シリーズの一冊と思えば許せてしまう。
特に後半の真・名探偵が、事件の構造に不審を抱くあたりの説得力は個人的にツボ(どっかで似たようなのを読んだような気もするが)。
シリーズの残りもそのうち読んでみようと思います。


No.181 6点 蝙蝠は夕方に飛ぶ
A・A・フェア
(2017/08/03 08:25登録)
(ネタバレなし)
第二次大戦中、せっかく共同経営者に据えたドナルド・ラムが出征したため、バーサ・クールは秘書のエルシー・ブランドとともに探偵事務所を切り回していた。そんななか、街頭で物売りをする盲目の老人ラドニイ・カズリングから調査の依頼がある。相手が意外に金を持ってると認めたバーサはこれに応じるが、その内容はカズリングに日頃、親しくしてくれる若い娘ジョセフィン・テルが交通事故にあい、その後なにかトラブルに巻き込まれているらしいので力になってほしいというものだった。ラムの不在のなか、みずから巨体を揺らして調査に赴くバーサだが、やがて事態は思わぬ殺人事件へと。

久々にフェアでも…と思いきや、これは大昔に読んだことのあるなと途中で気づくが、まあいいやと思ってそのまま最後まで付き合っちゃう。
シリーズもののなかでもほぼラム不在(とはいえ、バーサを手紙などで陰から支援するが)、完全にバーサを主役にして叙述も三人称という異色の設定。
本来はもうちょっと、シリーズ内でも普通の設定の初読の作品を読むつもりだったが、再読ながらこれはこれで面白かったので、良しとしよう。
錯綜する事件の謎、金持ちの遺産を狙う悪人たちのあるトリック、ミステリ的な興味もふんだんで、ギャグユーモアの方も随所で効いている(特に初読以来覚えていた、後半での留置場でのバーサの描写がケッサク)。
まあ最大の大ネタは察しがつくけど、それを補う多様な興味で充分に元がとれる一冊。ちなみに本書はシリーズのレギュラーとなるフランク・セラーズ部長刑事のデビュー編でもあった(らしい)。


No.180 6点 魔犬の復讐
マイケル・ハードウィック
(2017/08/03 07:41登録)
(ネタバレなし)
1902年の英国。ワトスンが27歳のアメリカ女性コーラル・アトキンスと婚約するのと前後して 、ロンドンから少し離れたハムステッド・ヒースに、あの魔犬が復活した? らしき怪事が起きる。レストレードの請願で調査に向かうホームズだが、そんな彼のもとには即位を直前に控えたエドワード7世からの依頼など並行していくつもの事件が飛び込んでくるのだった。

英国有数のシャーロッキアンとして著名で、以前はワイルダー監督のホームズ映画 のノベライズも担当した作者による正統派系のパスティーシュ。
タイトルの魔犬事件、新国王の過去の醜聞事件 、クロムウェルの遺骨にから陰謀、さらには船上の怪死と、複数の事件が矢継ぎ早に語られ、やがてそれらのいくつかが有機的に組み合わさっていくなかなか凝った構成。
一方で抱える物語要素の興味が互いに相殺しあった面もないではないが、そこは聖典世界に通じてリスペクトを欠かさない書き手の素養もあって、全体的には面白く読める。ハメの外し方の間合いを心得たマイクロフトの扱いなど、ラストもちょっと印象的。評価はほんのちょっとおまけしてこの点数。


No.179 6点 日時計
クリストファー・ランドン
(2017/08/01 15:59登録)
(ネタバレなし)
創元の旧クライムクラブの一冊で、文庫版でも細く長く? 刊行されてきた作品。それだけに稀覯本としての重要度や希少性の面で、ともすれば軽く見られ 意外に読んでる人は少ないかも。

過去に弱みのある小市民が3歳の娘を誘拐されて悪事を強要され 、相談を受けた若いおしどり夫婦 の探偵(『NかMか』時分のトミイとタペンスみたいな)が、ちょっと個性的な友人を 巻き込んで 、手掛かりの写真から少女を救出に行く話。

うん、これは確かにガーヴ流の英国スリラーですな。キャラクター もテンポも一部淀みなさすぎる軽さはあるけど、そういう弱点とのトレードオフで、 なかなか面白かった。
旧クライムクラブ版の解説を読むと、同じ作者のほかの諸作も手堅く良さげだけど、特にシリーズキャラクターがいるわけでもなさそうだし、未訳の発掘とかは難しいだろうな。


No.178 8点 ガラスの鍵
ダシール・ハメット
(2017/07/25 21:02登録)
(ネタバレなし)
世評は高めながらスペードもオプもチャールズ夫妻も出ない単発編ということで、ずっと放っておいた一冊。ようやく小鷹訳の新版で読んでみた。

いやこれは期待以上の読み応え。あえて内面描写を切り捨てた文体はそれゆえにこそ独特の情感にあふれ、最後まで魂を惹きつけられる思いで一気に読み終えた。
ハメットがこういう音色で詩情を語れる作家だったことを改めて実感した次第だ。
『マルタの鷹』とは 微妙に違う距離感で心に刻まれる一冊です。


No.177 6点 道の果て
アンドリュウ・ガーヴ
(2017/07/25 20:38登録)
(ネタバレなし)

紙幅も少なめで一気に読める家庭内サスペンスの佳作。
ページ数コストパフォーマンスを考えるなら十二分に面白い作品だけど、この作者だから最後は××××××にならないよね、という安心感がかえって緊張を削ぐ一面も…。

まあ読み手はそこに至るまでの送り手の筆の冴えを堪能すればいいんですが。


No.176 5点 ようこそ地球さん
星新一
(2017/07/25 20:27登録)
( ネタバレなし)
およそ一年前に『ボッコちゃん』を読んだときは初期のど傑作短篇に再会する喜びも込めて「時代を超える星新一すごい」だったのだが、現行の定本二冊目といえる本書収録作では、ショートショートの作り方に慣れて来た作者の余裕が悪い意味で感じられるようで今一つ。
もちろんよくできた作品もあるんだけどね。


No.175 5点 雷神
カーター・ブラウン
(2017/07/25 20:07登録)
(ネタバレなし)
コンピュータ開発の大手企業社長デイン・ガローが行方をくらました。彼は秘書で愛人 の美女リタ・ブレアとの関係を何者かに脅迫され、6万ドルに及ぶ会社の資産を横領していた疑惑がある。ガローは美人の妻セルマの宝石も現金にかえたらしく、ウィーラーは手掛かりを追って宝石商ギルバート・ウルフを訪ねるが、そこで殺人強盗事件に遭遇。同時に街で暗躍する金庫破りのハーブ・マンデルたち悪人トリオの存在を知った。二つの事件はどう結びつくのか。

ポケミスで最後に刊行された作者の邦訳作品。
大昔にカーター・ブラウンの作品はかなり読んだが本当に久しぶりに本書を手に取った。
B級クラスのミステリとして意外な展開(ただし最後のどんでん返しを早々と察する人もいると思う)、軽妙でお色気に満ちたストーリー運びといつもの作者の一冊だが、今回は後半、法廷ものの興味が強くなり、いつもはやかましいオヤジのレイヴァーズ保安官が意外にカッコいいのが印象的。
なおその保安官の秘書でウィーラーといつもはツンデレ的な掛け合いをするアナベル・ジャクスンは、本作の数冊前の『死のおどり』でほぼ恋人関係までいったんだけど、また二人の間柄は初期化されてるね。
まあその方が楽しいんだけど。


No.174 7点 フレンチ警部最大の事件
F・W・クロフツ
(2017/07/24 15:03登録)
(ネタバレなし)
フーダニットとも純粋なアリバイ崩しでもないのだが、警察捜査小説の中に多様な興味を盛り込んだ実に読み応えある一冊だった。
終盤、ようやく犯人像が絞り込まれてくると暗号まで登場し、立体的な興味で読者を飽きさせない作りは初期作ならではの気迫を感じさせる。

ところでこの時点でのフレンチには戦死した息子がいたんですな。この設定はのちの作品でもいきてるんだろうか。


No.173 5点 陽気なギャングが地球を回す
伊坂幸太郎
(2017/07/24 14:44登録)
(ネタバレなし)

器用で才能のある作家が読者を饗応させるエンターテイメント。
読んでるあいだは面白かったけど、伏線の回収の手際良さもふくめて、ああ優等生の作品だなという印象で引っかかる部分が少ない。


No.172 7点 ガラスの村
エラリイ・クイーン
(2017/07/24 14:17登録)
(ネタバレなし)
地方の街での群像劇とフーダニットものの興味が渾然となった秀作。事件のカギとなるキーアイテムのあつかいも自然でよく出来たヒューマンドラマミステリである。
ポケミスでの初刊当時、日本版ヒッチコックマガジンの書評ではクイーンのそれまでの作中、もっとも美しいラストシーンと評価された記憶があるが、その言葉にウソはないね。
原書の刊行直後、一流のスタッフ、キャストでこれを一時間枠のワンクールものの白黒テレビシリーズにしてほしかったなあ。


No.171 5点 三つ首塔
横溝正史
(2017/07/24 13:56登録)
(ネタバレなし)
作者との対談で栗本薫がしきりに「この作品は××が出るんですね」と驚嘆していたのを読んだ記憶があり、どんな風にその趣向を使うのかなという興味も踏まえて読んでみた。
全体的な内容はなるほど豪速球の通俗スリラーで面白いといえば面白いが、ラストの犯人の正体は苦笑せざるを得ない。どうやって真犯人は多数の被害者の住所や居場所を把握したのだろう。
のちの金田一ものの某長編はこのリベンジかね。

あと男性主人公の身持ちの固さを最後に語る「実はそれまで〜」というのもなあ…。××喪失が×××なんて、榊一郎の「イコノクラスト」か。


No.170 6点 一本の鉛
佐野洋
(2017/07/24 10:47登録)
(ネタバレなし)
当時としてはかなり垢抜けた作風 の一冊で、作者と読者の一種の暗黙の了解を逆手に取った大技もなかなか。
のちの『十角舘』あたりにも影響を与えているのではと思う。


No.169 7点 遠い悲鳴
フレドリック・ブラウン
(2017/06/23 09:47登録)
(ネタバレなし)
 不動産屋で失敗し、同時に仕事で心身をすり減らした三十代後半のジョージ・ウィーヴァ。一度、店を畳んだ彼はサナトリウム生活を経てニュー・メキシコ州の田舎町アロセ・ヨーコで、再出発の準備を図る。愛する2人の娘エレンとベティ、それに愛情がさめていく太った知性の足りない妻ヴィを自宅に遺して現地に来た彼は、旧友の文筆家でこれからハリウッドに向かうリューク・アシュレーと再会。彼からある依頼を受けた。それは今度、ウィーヴァが借りることになった郊外の一軒家に関するもので、そこでは8年前に若い女性ジェニー・エームズが当時の同家の家主だった素人画家の青年チャールス・ネルソンに殺害されたという。ジェニーの婚約者とおぼしきネルソンはそのまま逃亡。今もその行方は不明である。リュークは今後の創作のネタのため、ウィーヴァが滞在予定の夏期の三か月の間、彼に改めてこの事件の真実を再調査してほしいと願うが……。

 1961年に原書が刊行された作者のノンシリーズ編。邦訳は、この作者としては珍しくポケミスに収録された数少ないものの一つ。
 場面転換の早く、流れるように進むストーリーテリングの妙、さらには半世紀を経た翻訳者・川口正吉の訳文もおおむね平明かつハイテンポで、あっという間に読んでしまった。まあ総ページ数も220弱と、そんなに多くはない一冊だが。
 主人公ウィーヴァが健在な証人を訪ねてまわるうちに当時の事件の概要が少しずつ見えてくる一方、殺される直前に初めて現地に来たらしい肝心のジェニーの素性はなかなか明らかにならない。その意味では<被害者もの>のジャンルにも分類される内容だが、その煽り方はブラウンの筆が冴えた感じで実に面白かった。
 さらに終盤数十ページの話のまとめ方、クロージングの衝撃などは同じ作者のあの力技ミステリ『3、1、2とノックせよ』を彷彿させる鮮烈な印象度(もちろんミステリとしてはまったく別のことをやっているが)で、夜中に読んでいてすっかり目が醒めてしまった(笑)。まあ人によっては……かもしれない。
 ちなみに題名の意味は、物語の舞台となる山際の田舎町に響くコヨーテの遠吠えと、事件を洗い直すうちにウィーヴァの心象に聞こえてくるような、殺害される際のジェニーの絶叫、その双方を掛けたもの。邦題だとちょっとそのニュアンスがすぐに伝わらないのは惜しいね。


No.168 6点 黄色の間
M・R・ラインハート
(2017/06/17 19:56登録)
(ネタバレなし)
 終戦の兆しも見えない太平洋戦争中のアメリカ。名門スペンサー家の令嬢キャロル(24歳)は、一年前に婚約者ドナルド(ダン)・リチャードソンが戦死した心の傷みからようやく癒えようとしていた。そんなキャロルは、メーン州にある実家の別荘に赴き、家族との避暑の準備を始めようとしたが、その別荘の二階<黄色の間>で無惨に焼かれた、素性不明の若い女性の死体を見つける。しかもこれと前後して別荘では下働きの女性ルーシー・ノートンが何者かに襲われたらしい形跡もあった。近隣に住む傷痍の青年軍人ジェリー・デイン少佐とともに、キャロルは怪事件の謎に関わっていくが、そんな彼らの周辺では矢継ぎ早に予想外の事態が…。

 HIBK派の巨匠ラインハート(1876~1958)が1945年に著した長編。日本ではHMMの2001年5~9月号に発掘翻訳=連載されたのち、ポケミスに収録された。
 メインの素人探偵役はデイン少佐で、彼がキャロルを伴いながら怪事件に踏みこみ、同時に両人の恋模様も進んでいく。
 仕様としてはラブロマンスサスペンスの趣だが、それ以上になかなかこってりした謎解き(犯人捜し)パズラーの要素も強く、特に謎の被害者の正体とそれに関わる人間関係が見えてきてからは読み手を飽きさせないまま、興味を牽引していく。
 それにしても直接は戦場の描写のない作品ながら、一般市民に関わる戦時下のもろもろの厳しさが見え隠れする一冊であり、こういう時代の少し先にマクロイの『逃げる幻』(ほぼ終戦直後のリアルタイムの事件)などもあったと思うと、なんとなく感慨深い。
 真相はほど良いバランスで込み入っており、理解が追いつく程度に意外性もなかなか。作家歴を重ねた晩年の作者としての力作だったのだろうと窺い知れる。

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