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ミステリの祭典

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おうむの復讐
「ボニー」ジミー・ダンディー

作家 アン・オースチン
出版日1958年01月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 6点 nukkam
(2022/06/17 23:33登録)
(ネタバレなしです) 250人もの海外本格派推理小説の書き手を紹介している森英俊編の「世界ミステリ作家事典『本格派篇』」(1998年)にも載っていない米国のアン・オースチン(1895-1975)。人並由真さんが本サイトにご講評を投稿されていなかったら私は存在に気づくことさえなかったでしょう。ミステリー作家としての活躍期間は約10年と短い上に10作にも満たない本格派推理小説が残されたのみのようです。本書は1930年発表のジミー・ダンディーシリーズ第1作です。ダンディーは第13章で「人の感情を傷つけることの決してできない性質」と紹介されているように好青年の刑事として感情豊かに描かれており、「サード・ディグリー」(厳しい尋問の意味)には頼らず、同僚との会話にはユーモアさえ滲ませます。ダンディーの考えていることを読者に対してオープンにしているところはクロフツのフレンチ警部シリーズに通じますが、中盤の第14章で「犯人の名前がわかりましたよ!」とダンディーに語らせながらなお終盤まで犯人の正体を隠すことに成功しています。世界推理小説全集版の巻末解説ではおうむの役割に失望していますが、(ダンディーは期待してたけど)ワトソン役を演じさせたらさすがに非現実的に過ぎるでしょう。

No.1 7点 人並由真
(2017/08/06 16:38登録)
(ネタバレなし)
アメリカのハミルトン市にある賄い付きの下宿屋・ローズ荘。そこの下宿人である孤独な老婦人エンマ・ホガースが、身の危険を窺わせる手紙を地元の警察に送ってきた。当局は半信半疑だが、若手の新任刑事で警察長官の甥「ボニー」ことジミー・ダンディーは関心を抱き、身元を隠したままローズ荘に入居。エンマほか住人たちとの接触を図る。だがボニーが入居するやいなや、その夜にエンマは何者かに絞殺され、あとには彼女のペットの鸚鵡「キャプン」が遺された。老婦人の死を食い止められなかった責任を感じるボニーはそのまま素姓を秘めて捜査を続けるが、やがて事態はさらなる殺人事件へと…。

1930年(1929年説もあり)のアメリカ作品で、ボニーシリーズの第一作(らしい)。
日本では乱歩が「百万長者の死」「エンジェル家の殺人」と同時期に原書で読んで両作と並ぶ良い評価を下したことから、戦後になって創元の世界推理小説全集の一冊として紹介された。
とはいえその後は創元文庫に収録されることもなく、さらに鮎川哲也などは1970年前後の創元推理コーナー(当時の販促パンフ)のエッセイのなかで「凡作」と切って捨てており、ほとんど現在では忘れられた作品。
とまれ筆者的には、実際のところどうなんだろうと気になっていた一冊で、このたび例によって一念発起して読んでみたところ、これが結構楽しめた。
青臭いともいえる若い正義感で事件にあたる主人公ボニーの奮闘が軽本格風の筆致で溌剌と語られ、適宜に広がる物語の起伏の中でローズ荘を主舞台にしながら事件の真相に迫っていく筋運びも小気味好い。犯人の正体や作中の複数のトリックも発表年代を考えれば、なかなか健闘している方だろう。
タイトルロールの鸚鵡(キャプンとは、キャプテンの意味)がいまひとつ活躍しないのはナンだけど、こういうのが近年、論創とかで発掘されたら良い意味での二線級30年代パズラーとして楽しくなってしまいそうである。
webで作者の作品(原書)を探るとボニーシリーズはその後も何冊か書かれたみたいなので、これも例によって論創で今からでも翻訳してくれないかな。
(まあ「おうむの復讐」 のアン・オースチン、60年ぶりの新訳! じゃ、商売 にならないかもしれんけど。)

【2022年6月19日】
 nukkamさんが投稿くださった書評、また御教示いただいた情報を参考にさせていただいて、書誌データの箇所などを改訂いたしました。

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