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ミステリの祭典

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青い車さんの登録情報
平均点:6.93点 書評数:483件

プロフィール| 書評

No.423 6点 死者の身代金
リチャード・レビンソン&ウィリアム・リンク
(2019/09/14 23:02登録)
 こちらもドラマ版での感想です。本作の最大の見どころは何といっても犯人の落とし方で、普通の人間には通用しない手でも彼女には急所であるはずと読んだ、大袈裟に言うと犯人の心に付け込んだ解決になっています。そして、その解決に違和感を感じさせないよう犯人レスリーの内面を丁寧に描いている点が『殺人処方箋』と同様に上手いです。飛行機の操縦桿を握りながら、殺した夫に対する屈折した感情を覗かせるシーンが心に残りました。


No.422 7点 殺人処方箋
リチャード・レビンソン&ウィリアム・リンク
(2019/09/14 22:46登録)
 記念すべき第一作にして、コロンボvs犯人の名対決というパターンを生み出した秀作。本作ではとりわけ犯人フレミング医師の造形が魅力で、冷酷さとそれを上回るスマートさを嫌味なく示しているのが印象的です。椅子に腰掛けながらコロンボの前で自ら犯人像を分析して見せるシーンなども実に洒落た演出でした。あくどい犯人を魅力的に描くという繊細な表現は旧コロンボならではで、ドラマ版でのフレミングの煙草を吸うシーンで締めるエンディングなど、新シリーズでは見られない芸当でしょう。


No.421 7点 法月綸太郎の消息
法月綸太郎
(2019/09/12 21:30登録)
 実に7年ぶりとなる探偵・法月綸太郎の新刊。なかなかに興味深い内容と構成だったため、やや長めのレビューを書きます。
 まずは、ストレートな安楽椅子もの二作から。『あべこべの遺書』は提示される謎が飛び抜けて不可解な一作です。尚且つ、それを一から十まで理詰めで解こうというスタンスも相変わらず維持しています。わずか50ページの短編にして情報量が濃くて読み応えがありますが、やや複雑すぎるのはネックでもあるでしょうか。
 『殺さぬ先の自首』はモノでなく心理をカギにした謎解きの一作です。こちらはかなりわかりやすい解決ですが、最後に至るまでそれを読む側に悟らせないのは流石といえます。少し有栖川有栖『モロッコ水晶の謎』を思い出しました。
 そして、この本ならではの異色作が、上記の二作をサンドウィッチする形で収録された『白面のたてがみ』『カーテンコール』です。作者ならではの律儀な研究ぶりが窺われる途方もないホラ話(貶してるわけではなくいい意味)で、ドイル、チェスタトン、アガサらに対する敬意がきちんと表れている点が好印象でした。


No.420 8点 覆面作家は二人いる
北村薫
(2019/08/25 21:12登録)
 国外で僧正・ギリシャ棺・ナイル、国内で獄門島・人形・トランクなど重厚で古典の地位が確立しているような名作に高得点を付けていたのですが、こちらは軽みのあるユーモア推理として非常に面白く読めました。ドラマ化向きだなと思っていたら98年に既にしてたんですね。ミステリ的にもシンプルなロジックで一刀両断に解決する第一話を始め案外と上質です。円紫シリーズより取っつき易く、北村薫を初めて読むという人にオススメしたい一作。


No.419 5点 理由あって冬に出る
似鳥鶏
(2019/08/25 20:53登録)
 最近になって愛読し始めた作者の市立高校シリーズ第一弾。似鳥ミステリの醍醐味は推理云々よりも、軽妙なユーモアとその裏腹にあるテーマの重さにあると思うのですが、その意味で本作はまだ助走段階にあります。また、細かい注釈や巻末のあとがきなど、その独特なセンスが合うか合わないかでも評価が分かれるでしょう。個人的には自分の持ち味を発揮しようと工夫している点で評価したいです。


No.418 7点 砂の器
松本清張
(2019/08/18 11:49登録)
 初めて読んだときは例のトリックが引っかかってモヤモヤした気持ちでいたのですが、その後、父親から映像化作品では感動のオリジナルシーンがあったと聞いて「そっちの方がずっといいじゃん」と思ったのを覚えています。しかもあの変なトリックも省かれたと知り、『砂の器』は映画が原作を超えてしまった珍しい作品と認識しました。清張は社会派一本に絞って書くべきで、殺害トリックへの未練が捨てきれなかったためにギクシャクした小説になってしまったのではないでしょうか。犯人を主役として書き上げた点は素晴らしかったので。


No.417 5点 三つ首塔
横溝正史
(2019/08/18 11:36登録)
 『悪魔の寵児』の書評で書いたことがそのまま当てはまる一作です。とにかく序盤から人がガンガン殺されますが、それが推理のとっかかりにあまりなってなく、単に読者サービスに留まっていると感じます。よくよく考えてみると真犯人の行動に明らかな矛盾があるのも難点です。とはいえ、意外な人物がヒロインとロマンスを演じるなど、サスペンスに富んだ展開はけっこう面白く、横溝ファンとしては憎めない作品でもあります。


No.416 5点 悪魔の寵児
横溝正史
(2019/08/18 11:29登録)
 横溝の本格ミステリの名作群と比べると明らかに異質な作品で、エログロを前面に押し出した通俗ものです。推理が少ないというより金田一耕助の存在感が薄めなのが気になりましたが、「続きが気になる」「読ませる」作品であるのも確かで、変に『獄門島』的な展開を望まなければ十二分に楽しい作品だと思います(書かれた時代から来る古さも考慮すべきですが)。


No.415 7点 魔偶の如き齎すもの
三津田信三
(2019/08/18 11:11登録)
 少し前に『首無の如き祟るもの』を再読してそのトリックの高度さに感心したところだったので、サクッと読める本書の短編はかなり軽い印象を受けます。一方で、このシリーズの長編は長い説明パートでどうしてもだれてしまうところが難点だとも思っていて、その分読みやすいのは助かるともいえます。以下、一言ずつ感想です。

①『妖服の如き切るもの』 トリックは目新しくないものの、伏線の妙で膝を打つタイプの作品です。
②『巫死の如き甦るもの』 アイデアは以前の長編のアレンジですが、こっちはこっちで上手い使い方です。
③『獣家の如き吸うもの』 建物のカラクリはなるほどと思いました。しかし個人的に一番印象が薄いです。
④『魔偶の如き齎すもの』 一人の作家につき一度しか使えない大技で、恒例の「推理を立てては崩す」の繰り返しも楽しめます。


No.414 5点 殺人喜劇の13人
芦辺拓
(2019/08/17 21:00登録)
 惜しげもなく詰め込まれたアイデアの数々には溢れんばかりの気合が窺えてとても好ましいです。しかし、如何せん書き方の拙さで大きな損をしているように思えます。純粋にミステリ面で雑多な印象なのもそうですが、漫画やら落語やら映画やら、いろんな趣味の要らない情報が多く書かれているせいでぶよぶよと締まりのない文になっています。せっかくトリックを作る地力があるのだから、もっとそれを活かすよう小説にも拘ってほしいです。


No.413 7点 寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁
島田荘司
(2019/08/15 22:30登録)
 既読の御手洗シリーズと比べたら大人しい一作です。アリバイトリックや死体の顔を剥いだ理由などはミステリとしてはかなり手堅くまとまっています。しかし最後に明かされる犯人の意外性はなかなかのもので、島田作品ということに拘らなければなかなか楽しめます。刑事の吉敷竹史はこの段階ではまだキャラが立ってませんが、個人的に御手洗潔にもさほど愛着を持っていないので気になりませんでした。


No.412 9点 造花の蜜
連城三紀彦
(2019/08/15 22:04登録)
 『夜よ鼠たちのために』あたりは個人的にもうひとつハマらなかったのですが、『戻り川心中』とこの『造花の蜜』がスマッシュヒットでした。果たしてこの展開を読めた人がいるのでしょうか?それほど下巻は驚きの連続で、誘拐テーマの型を突き破っています。タイトルの意味が明らかになる流れもきれいです。


No.411 8点 夕萩心中
連城三紀彦
(2019/08/15 21:49登録)
 もう連城三紀彦の十八番といっても過言ではない「構図の逆転」が美しく決まっている『夕萩』は『戻り川』以上にお気に入りです。本当に花葬シリーズは外れ無し。後半に収録されている陽だまり課事件簿も楽しいですが、一冊の本としてみるとアンバランスになっていることが唯一残念です。


No.410 9点 宵待草夜情
連城三紀彦
(2019/08/15 21:39登録)
 トリックと情念の結晶とでもいうべき傑作集です。中でも『宵待草夜情』と『花虐の賦』は別格だと勝手に思っています。『野辺の露』の強烈な後味の悪さも好みです。


No.409 3点 モザイク事件帳
小林泰三
(2019/07/31 07:45登録)
 個々の短編の出来はともかく、こういうバラバラな味が楽しめる、悪く言えばごった煮感のある短編集は好みではありません。そして肝心の個々の内容に注目して見ても、密室殺人には既視感があり、倒叙は決め手がぬるく、バカミスは滑っているなど、美味しくないお菓子の詰め合わせのような物足りなさを感じました。


No.408 4点 幻肢
島田荘司
(2019/07/31 07:31登録)
 案外と普通に落ち着いちゃってるな、というのが第一の感想です。『占星術』をはじめとした御手洗シリーズに慣れた人が読むと期待外れに終わると思います。逆に言えば、仮に別の作家の小説だと思えばそんなに悪くないのかもしれません。医学知識をよく調べて書いているのはわかりますし、読後感の爽快さも決してマイナスではないので。


No.407 7点 人魚と金魚鉢
市井豊
(2019/07/31 06:48登録)
 ロジックの面白さという点では前作に及ばないものの、季節感あるイベントと、生き生きとしたキャラクター、小気味いい会話はやはり楽しめます。『愚者は春に隠れる』がシリーズの特長が最大限に出ているベストだと感じました。表題作も読後感の良さにほっとする良作で、ガチガチの本格ファンには受けないかもしれませんが、個人的にはこの調子でシリーズが続くことを期待したいです。


No.406 7点 聴き屋の芸術学部祭
市井豊
(2019/07/31 06:35登録)
 大学生柏木くんが遭遇する4つの事件(殺人もあれば日常的なものもあり)を収録したシリーズ第1短編集。心地よいユーモアと謎解きが共存している良作です。好みなのは『濡れ衣トワイライト』で、キャラクターの楽しさときっちりした論理展開のキレがよく出た好例と感じました。『からくりツィスカの余命』もお馴染みのトリックの扱いが上手で、それを作品世界に無理なく取り込んでいます。


No.405 7点 Dの殺人事件、まことに恐ろしきは
歌野晶午
(2019/07/23 21:03登録)
 これまで歌野作品はあまり肌に合わないように感じていましたが、これは面白く読めました。いずれの短編も江戸川乱歩の作品群を元ネタにしつつ、スマホ、ラノベ作家、SNSなどを駆使し現代でも無理のない話に仕上げているのが上手いです。作者の持ち味であるブラックな(或いはシニカルな)台詞回しやオチも利いてて、乱歩の幻想性とはまた違った生々しい毒気があります。


No.404 5点 不連続殺人事件
坂口安吾
(2019/07/14 07:43登録)
 『堕落論』を読んで、そういえばとこの本の書評を投稿していなかったことに気付きました。それまで忘れていたのはこの『不連続~』の印象があまりに薄かったからでもあります。TSUTAYAで借りた映画を観てあまり面白いと思えず、いや原作なら違うはずだと買って読んでもやはり感想は変わらなく、その後はすっかり本棚の奥に眠ったままでした。
 毒舌な安吾に失礼ながら毒舌で返すと、彼には推理小説を書く才能はなかったと思います。とにかく人物の整理の拙さが気になる所で、癖のある人ばかりなのに、それがろくに整理されてないうちに死に出すのでストーリーが窮屈に感じます。トリックもイギリスの古典を連想したのですが、向こうのものの方がはるかに分かりやすくてスマートに書かれています。こちらの方は同じアイデアを悪戯に複雑にして書いたというような印象を受けました。マニアが好きが高じて書いた習作のような未熟さがあります。

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