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ミステリの祭典

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夕萩心中

作家 連城三紀彦
出版日1985年03月
平均点6.75点
書評数8人

No.8 9点 斎藤警部
(2024/12/02 22:46登録)
明治~大正~昭和初期に渉って因縁と悪事の風景を描いた、犯罪ファンタジーにして本格ミステリの三篇。

花緋文字
再会した妹は芸者になっていた。 彼女はプレイボーイで天才肌の、主人公の親友に惹かれている。 仲の良い兄妹と、親友とその婚約者を巡る四角関係めいた空気の緊張の中で、運命のように事件が起こる。 そこにはある「●」の使用が介在している。 偶然の作用さえ、意外な欺瞞の道具に使われた。 存外わかり易い結末かな、と早合点させておいて ・・・・ こりゃァ重過ぎる、悍(おぞ)まし過ぎる、長い反転経緯の自白披歴、からの、最高に深い反転ダメ押し。 参った。 鬼畜と●●だ…………    9点

夕萩心中
「貴方が闇の中で耐えているものを、私もここで耐えておりました」
幾夜もかけて口説き落としたのは ・・・・ 三十年、十二年、八年前、そしてあと二年、さらに、二時間だと。。 幼い日の主人公が ‘心中の名所’ で出遭った男女に纏わる事件の恐るべき拡がりを描き切った、極太の短篇。 
“その目は 「もう一刻の猶予もありません」 と告げている”
玄関で草履をナニするシーン、行数に亘って、染み渡ったねえ。。 慎太郎のアレへのアンサーソングのようなシークエンスもあった。 唐突に襲う密室トリック/消失トリックさえ、微粒子レベルの違和感さえ無くスムゥーズに任務遂行からの速やかな退場。 或るデジャビュを誘う、まさかの数学的大トリックへの大予感も奔出した。
半ばを軽く越えたあたりから旋風の如くミステリ側の岐路へと大股で歩み出すストーリー展開の妙。 連城三紀彦の場合、そのアレさえ、否そのアレこそ(以下略)。 短い時を経て‘再び’実行される心理的物理トリック。 これぞ盲点。 しかしまさか、それほどまでに大掛かりな背景が登場するとは ・・・ 堂々真っ赤な伏線ロープが張られていたというのに ・・・ “完璧な現場不在証明” か.. いやいや、アリバイ偽装のトリックが光るのはそこだけじゃなかった ・・・ でありながら ・・・ ・・・ でありながら ・・・ 「あちら」 ばかりか 「そちら」 の方も奥が深い。 参ったな。 ダメ押し伏線さえも綺麗に決めるんだな。
“この二人の●の●●の狭間に立たされて、●●●はどんな気持で死んでいったのか。 これが最後に残る問題である。”    10点

菊の塵
“然し、その●を偽ることはできたのではあるまいか”
三年間。。。 通りがかりに軍人の自害現場を目撃?した主人公。 だが彼は大いなる違和感と疑惑に取り憑かれる。 まさかの巨大スケール伏線が包み込むようにして明かすのは、憶測をぶち破る破壊的真相。 二重の●●・・
「血を浴びた軍服でございます。 それ以上は何もお話しできません」
9点強

三篇に共通するのは

・美しく謎めいた物語を紡ぐ前半、謎の有り様をもう一段深くして、そこから更にもう一段深い解決に突き落とす後半、という構造
・月日が流れてやっと真相暴露という結末
・誰かの、幼い頃からの心のしこり
・「貞操」 を巡る興味深い 「工夫」
・恋愛要素の構図が非対称だったりナニだったりした挙句、実はその大半が●●●という驚き。 だがそれでもなお残る●●の恋愛要素がもたらす、割り切れない味わい。
・●●の欺瞞 (← ●はこれなんだよな..)
・象徴性が高そうで気になる小道具の配置
・偶然を味方に付けてしまう、平生よりの気持ちの太さ
・憎むべき対象のイメージの重なり
・「象徴」 が揮う魔力
・都合良さや無理矢理を土中深く埋め尽くしてしまう、物語の魔力
・言うまでもなく、それぞれ或る ‘花’ が大事な鍵を握っていること

これだけの強い共通性がありながら、それぞれ全く別方向を向いたストーリーと謎と真相と真相暴露。 まるで舌が焼けそうな熱さです。


「ララのインタヴューです。 午後の二時」
「ララってララとリリのララ?」
「違います。 ララとリリじゃなくララとルルのララです」
「なに発声練習やってんだ」

さて~~ 花葬シリーズ三篇の次に置くと、編集の継ぎ接ぎ感が海よりも深い 『陽だまり課事件簿』。 (こいつの存在はこの本を 「天下の奇書」 にしているのかも)
本当だったら別箇の書評にしたいところですが、敢えて一緒にするのも一興と思い、このまま同じ書評に入れます。 大手新聞社を舞台に、こじらせ恋愛ドラマを通しテーマに使った、明るいおふざけショートミステリ三篇。

第一話 白い密告/第二話 「四つ葉のクローバー」/第三話 鳥は足音もなく

読んでみるとそう悪いモンでもなく、全体で7点弱くらい(連城基準なら5点強)かなと思います。 この本の採点(9点)には加味しておりません。

しかしやはり、軽いユーモアミステリさえ似合わない連城に、ここまでやるドタバタ喜劇はホント水と油と男と女だなぁ~。 AIで蘇った三船敏郎が朝ドラでギャル男の役をやるようなもんじゃないですか。 純烈とTHE ALFEEとなにわ男子とあのちゃんが紅白ウタで一緒に暴れてるみたいというか。 連城ミキティというより平野レミティがエコノミ焼きとかチャッチャカ作りながら書いたとしか思えない。 季節感もバラバラバラリンコ(連載の関係で仕方ないんだけど)。

それでも、俺達の連城らしい逆説捌きの冴えや、目を引く日常の特殊設定、賢しい伏線の置き所、そして妙に文学意識の高い言葉選び等、光る所はキラキラと光っている。 いつものじっとり淫靡な、あるいはげっそり深刻な(?)作風では全体バランス欠くであろう「ネタ」をこういう異色のズンドコミステリに回して来たのかなとも思う。 また、ユーモアも所々行き過ぎてるとこがあって、流石は連城の秘めたる狂気が噴出しちゃったのかと嬉しく感じたりもする。 時折どことなく生島治郎短篇めいた風も吹き抜ける。 読んでるうちに、ようよう親しみも湧き、別れ際にはすっかりお名残り惜しくなってしまいました。

「…… なに言ってるの。 ここはベッドの上じゃなく、ベッドの下よ」

講談社文庫表紙の美男美女が、実は異様に美化された縞野課長と愛子さんだったりしないかと妄想したりしてね。
てか電車の中でこの表紙の本読みながら何度もブッと噴き出してるのを見られたら、 この人何? って思われるかも?

No.7 5点 ボナンザ
(2021/12/05 21:25登録)
どの作品も表面部分の描写は流石だが、真相の説明が無理にミステリにするために意外な真実用意しました感がある。

No.6 7点 じきる
(2021/06/17 21:38登録)
悍ましさ極まった「花緋文字」が個人的ベスト。この後味の悪さが堪らないですね。思わず溜め息が溢れるような美しさの中に捻りの効いた結末を潜ませた「夕萩心中」、花の持つ性質を色鮮やかに生かした「菊の塵」も高クオリティ。流石は花葬シリーズ。
「陽だまり課事件簿」は……花葬シリーズとの落差にズッコケてしまったのは許して欲しいです、ハイ(苦笑)

No.5 6点
(2020/12/23 16:33登録)
 昭和六十(1985)年に出版された著者の第十作品集。『瓦斯灯』と同じく『恋文』での前年度直木賞受賞を受けて、急遽纏められた短篇集と思われる。巻末あとがきでは〈三篇ずつ、それぞれ別の連作として書き連ねたものだが、共にあと二篇を残したまま中断し、作者が見捨てた形になってしまったもの〉と形容されている。初期代表作〈花葬シリーズ〉三篇を収録している重要なものだが、それ故か最後のユーモアミステリー「陽だまり課事件簿」のみ180°雰囲気が異なっている。村上昴氏の装画・装丁で『戻り川心中』から連続刊行された、五冊の和装本の最後を飾る作品でもある。
 年代順に並べると、ごく初期の花葬シリーズ第二作「菊の塵」を筆頭に「戻り川~」の次作である「花緋文字」。そこから一年半以上間を空けて「夕萩心中」、さらに半年余り置いて「陽だまり課~」へと続く。1978年9月から1983年10月まで、約五年間と収録作のスパンは長い。
 表題作には苦闘の後が伺われる。「桜の舞」となる筈だった短篇「能師の妻」を挟むとはいえそこからも約一年。前記あとがきには〈書き進めるうちにミステリーと恋愛とが分離していき、遂にその溝は作者の乏しい才能と意志では埋められなくなってしまった〉と記されている。心中行の背景に歴史事件を据えた時代ミステリとして完成させてはいるが、同系列の初期作品「菊の塵」と比べると分量は倍ほどにも増え、もはや短めの中編と言っていい。
 真相は確かに意外だが、心理的な無理筋や後出し気味なところも目につき素直に感興には浸れない。男女双方が一種の道具に堕とした心中を強行することに、果たしてどれほどの意味があるだろうか? とは言え闇に零れる萩の花の扱いや、各種恋愛シーンの造りは例によって上手い。シリーズ中屈指のエグさを誇る「花緋文字」よりも、トータルでは上である。
 図抜けているのはやはり「菊の塵」。不具の身に成り果てたもと陸軍将校が、病臥の末にサーベルで喉を突いて自害した謎を解くもので、事件直前に主人公が障子を通して透かし見た「軍服姿の男」の影が物語のカギとなる。被害者は寝巻姿で息絶えていたのに・・・。
 ALFA さんの問いに答えれば〈正装させないと被害者は殺せなかったが、犯人は彼をもはや軍人とは思わなかったので、死後に軍服を剥ぎ取る事によってそれを示した〉である。他にも「菊の花」の意味するものなど、解決にはいくつかの知識が必要とされる作品だが、それを差し引いてもヒロイン・田桐セツが随所で見せる白刃のような殺気には凄味がある。短い枚数に過不足なくトリックと伏線を張った、花葬シリーズに相応しい緊張感溢れる傑作と言える。
 連作シリーズ「陽だまり課事件簿」は、『運命の八分休符』の流れを汲むドタバタコメディだが、ワンアイデアの趣が強く内容的には遠く及ばない。以前読んだ時にはかなり面白く感じたのだが。ミステリアスな発端と爆弾男の行方を巡る謎で引っ張る第三話「鳥は足音もなく」がベストかと思うが、やや先が読めるのが難。ただし連城短篇としてはいずれも恋愛模様優先の仕上がりで、高くは評価できない。
 全体的には玉石混交で、行っても6.5点。昔なら文句なく7点を付けていたかもしれないが、今だとこんな所である。

No.4 8点 青い車
(2019/08/15 21:49登録)
 もう連城三紀彦の十八番といっても過言ではない「構図の逆転」が美しく決まっている『夕萩』は『戻り川』以上にお気に入りです。本当に花葬シリーズは外れ無し。後半に収録されている陽だまり課事件簿も楽しいですが、一冊の本としてみるとアンバランスになっていることが唯一残念です。

No.3 5点 ALFA
(2017/03/06 10:49登録)
(若干のネタバレ注意)
花葬シリーズの3編とコメディタッチのミステリ1編で、短編集としてのまとまりはない。
評点は「花緋文字」5、「夕萩心中」6、「菊の塵」4、「陽だまり課事件簿」5。
「夕萩心中」はこのシリーズらしい抒情的で重厚な作品。構図の反転も申し分ないのだが基本的なところで腑に落ちない。
心中というのは魂の純化の行為である。そこにこんな大きい不純物(不純な動機を持った嫌悪すべき人間)を伴うことはあり得ないと感じてしまう。
物理的にはともかく心理的には受け入れがたい「解」である。
「菊の塵」にはわからないところがある。何のために死者の服を着替えさせたのか?
どなたか解説してくれませんか?
「陽だまり課事件簿」はミステリとしてはともかく、ドタバタぶりがイタい。「どうです面白いでしょう?」と言われながら読んでるようで困ってしまう。
ドタバタはこの作者のキャラではないということか。

No.2 7点 まさむね
(2016/02/22 00:00登録)
 光文社文庫版で読了。花葬シリーズ(全8編)のうち、「花紋文字」・「夕萩心中」・「菊の塵」の3編と、連作短編「陽だまり課事件簿」が収録されています。
 花葬シリーズは文句なし。特に表題作「夕萩心中」の流麗なタッチで描かれる三者三様の想いが印象的です。「菊の塵」の、まさに“歴史的”反転にも驚きで、ある意味でハウとホワイの絶妙な組み合わせ。花葬シリーズ、素晴らしい。
 なお、後半の「陽だまり課事件簿」は、完全にユーモアタッチで、花葬シリーズとは一変。舞台も、花葬シリーズの明治・大正・昭和初期から、戦後の現代へ一気にジャンプ(と、言っても昭和後期なのでしょうから、今と比すれば相当に古いのですがね。携帯とか無いし。)これらのギャップは面白いし、単なるキャラ短編ではない発想も流石だとは思うのですが、花葬シリーズと比べると、どうしても落ちますねぇ。
 総合して、この採点とします。

No.1 7点 こう
(2010/04/26 01:19登録)
 花葬シリーズ3作品とユーモアミステリが併録されている作品集です。ハルキ文庫なら「戻り川心中」に花葬シリーズが一挙収録されています。
 戻り川心中の世界に浸りたい方にはお薦めできる作品で相変わらず抒情性たっぷりです。
 ユーモアミステリの方は個人的には「運命の八分休符」もそうですが作者の本領ではないと思いますが読み心地は悪くないです。 

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