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ミステリの祭典

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青い車さんの登録情報
平均点:6.93点 書評数:483件

プロフィール| 書評

No.83 8点 図書館の殺人
青崎有吾
(2016/02/13 15:45登録)
つい昨日読んだばかりで、いざ書き込もうとサイトを覗いたらみなさん続々と書評をアップされていて驚きました。個人として読んだ感想は素直に「面白かった」。学生には痛い1900円の出費に見合うだけの内容でした。
実を言うと、刊行前からダイイング・メッセージものと公表されているのを見て、メッセージの謎一辺倒で味気ないものになるのではないか、と不安も少しありました。しかし蓋を開けてみると、核となるのはダイイング・メッセージなのですが、思いもよらない方向からいくつもの推理を導き出すことでその真相に迫るアプローチが楽しめる秀作でした。若干雑多なきらいもあった『水族館』より全体的にシャープな造りという印象で、それはたとえば容疑者が前作よりずっと少ないところも大きいでしょう(それでいて意外性も確保しているところが油断できません)。図書館という舞台を手がかりのみならず動機の背景にも密接に関係させているところもいいです。
ところどころ飛躍気味なロジックも見受けられますが、その飛躍が作者の持ち味でもあり、その軽やかさは大山誠一郎さんと並んで国内作家の新勢力と言ってもいいと思います。次作もタイトルの館しばりをするのかは不明ですが、面白い趣向なので個人的にはもう一、二作続けてほしいところです。


No.82 6点 ブラジル蝶の謎
有栖川有栖
(2016/02/12 11:20登録)
以下、各話の感想です。

①『ブラジル蝶の謎』 天井に飾られた蝶の標本という鮮烈な謎に対し、その理由にあまり面白みがなく、尻すぼみ気味なのが惜しいです。その不満を除けば、被害者の特性に目を付けた火村の推理は論理的であり、悪くありません。
②『妄想日記』 こちらも奇妙な謎に期待値が上がりすぎてしまった感が。しかし、容疑者がほとんど絞り込まれているがために犯人当ての楽しみはないですが、真相にはそれなりに驚くと同時に納得もできたのでまずまずの出来と思います。
③『彼女か彼か』 トリックはありがちで意外性に乏しいものの、冒頭と末尾の蘭ちゃんの語りはユーモラスでなかなか楽しめました。有栖川さんってたまにこういうギャグを放り込んでいる気がします。関西人の血でしょうか?
④『鍵』 これは他の人の感想はわかりませんが、僕はかなり好きです。本来軸となるはずの殺人事件が完全に二の次になり、「何の鍵か」が中心となる異色作。スパッとオチが決まっています。ただ、こんなにたくさん登場人物を出す必要はなかったのでは?
⑤『人喰いの滝』 トリックの実行性にはちょっと疑問が残りますね。奇想であることは確かですが。アリスの思いつきの説を火村がツッコむという掛け合いは面白く、ふたりの共同作業で犯人を落とすのも見られる貴重な作品でもあります。
⑥『蝶々がはばたく』 人工的な密室かと思いきや思いもよらない現象によって密室状況が成立してしまった、という真相が不思議な味を醸し出しています。締めくくり方も作者らしくて好感が持てます。

『ロシア紅茶』よりアヴェレージは高いですが、突出した傑作がないのも確か。点数はちょっと厳しく6点とします。


No.81 8点 一の悲劇
法月綸太郎
(2016/02/11 22:18登録)
語り手、山倉史朗の「一」人称で綴られる骨太なドラマが魅力的です。読者の盲点を突く誘拐殺人トリックも秀逸で、本来なら疑いの目が向きそうな人物を自然にぼやかす効果を挙げています。あと、『頼子』の書評でも書きましたが、痛ましい悲劇を描いているにも関わらずあまり悪趣味さを感じさせない点もいいです。密室状況の解決にこじつけ感があるのが若干のマイナス・ポイントですが、端正な本格推理小説として高く評価します。


No.80 10点 大誘拐
天藤真
(2016/02/10 22:10登録)
柳川とし刀自をはじめ、登場人物全員がどこか憎めない者ばかりで、底抜けに楽しく痛快な小説です。誘拐という犯罪を描いているのに陰気さは全くなく、かつハラハラさせられるストーリー展開が素晴らしい。皆が幸せになる結末も爽快な余韻を残し、エンターテインメントとして一流の秀作です。


No.79 6点 邪悪の家
アガサ・クリスティー
(2016/02/10 21:57登録)
今の読者からすると、犯人は見え見えかもしれません。(僕はまだ子供の頃NHKのアニメ版で既に犯人を知っていたので、どれだけわかりやすいか判断できませんが)。また、メインの仕掛けは秀逸であるものの、イギリス人ならともかく日本人にはまず予測できないためあまり感心することができません。そこが国内では評価が辛くなっている原因であり、損をしています。本国の読者にとっては申し分なくフェアだったのでしょうし、勿体ないですね。総合すると、初期のクリスティーの作品群の中では一枚劣るものの、破綻なくまとまったまずまずの出来と思います。


No.78 8点 死との約束
アガサ・クリスティー
(2016/02/10 21:39登録)
ナイルと同じ中東ものですが、こちらも地味な存在ながら上質かつクリスティー的な作品です。冒頭の「彼女を殺さなければならない」の言葉をはじめ、読者を惑わす手がかりの数々が真相を見えにくくしています。そして、真犯人を指摘するポアロの推理では何気ない描写が記憶の底から蘇る快感が味わえます。爽やかな読後感も素晴らしく、それでいて嫌味でないのがまたいいです。これ見よがしでない、さりげない技巧は女性ならではで、中期らしい円熟したクリスティーの魅力があります。


No.77 7点 葬式組曲
天祢涼
(2016/02/10 21:13登録)
以下、各話の感想です。
①『父の葬式』 亡くなった人物の意思を読み解く話。語り手の心情を描いたドラマが良くできている高水準な幕開けです。
②『祖母の葬式』 こちらは遺族の隠された思惑を探る話。火葬が大きな鍵となるこの世界ならではのストーリーです。
③『息子の葬式』 消失した遺体の謎をめぐる話。母親のとった行動が心理的に納得できない感もありますが、伏線は巧妙です。心を打つラストもいいですね。
④『妻の葬式』 亡くなった人物が起こした(?)奇妙な現象の謎を解く話、なのですが謎解きの快感は今ひとつです。幻聴のカラクリも知ってしまえば何でもない印象。
⑤『葬儀屋の葬式』 これまでのエピソードがすべてひとつの線でつながる最終話ですが、この手のオチは個人的に食傷気味であまり歓迎できません。

総合的に見ると、ほとんどの作品が殺人そのものでなく既に亡くなった人物の謎をテーマとしているにも関わらず、物足りなさを感じさせないのはうまいです。主要登場人物のいずれにも好感がもてます。最終話が若干ゴテゴテしすぎているのを除けば、安定したクオリティといえると思います。


No.76 9点 さよなら神様
麻耶雄嵩
(2016/02/10 19:38登録)
図書館で借りて読了しました。例によってぶっとんだ設定をただ思いつきで終わらせない作者の力量はさすが。麻耶さんの手にかかると小さな町で殺人事件起こりすぎだろ、であるとか、子供たちが大人びすぎだろ、というような突っ込みは野暮とおもわせられ、そこも凄いところです。
エピソードの構成もいいです。第一話はミステリーとしては小粒なものの神様の託宣→それに合わせた推理をひねり出す、というこの連作のフォーマットを示しています。続く第二話第三話では、推理の意外性が増したことに加え居心地の悪い奇妙な読後感が味わえます。そして第四話第五話でこの世界だからこそ成立する異形のミステリーに変貌。極めつけは最終話のハッピーエンドなようで悪意の塊のような締めです。
色々書きましたが、インパクト絶大な作品集であり、本ミス2015のベスト1になったのも素直に頷けます。それにしても、はじめは拒絶していたのに何冊か読むうちに麻耶作品がクセになっている自分がいます。恐ろしい…。


No.75 10点 時計館の殺人
綾辻行人
(2016/02/07 23:54登録)
大トリック一発勝負の大作にして、質的にもまさに力作です。タイトルからして時間が鍵となるトリックであることは明白ですが、この発想は殆どの読者の予想を上回るものでしょう。また、その本来ならかなり無理のある奇想のディテールを、数々の伏線によって支え説得力を持たせているのもさすがで、特にレコードとインスタント麺の手がかりのさりげなさに感心しました。他にも綿密に練り上げられたプロット、劇的な結末など見るべきものは多く、間違いなく館シリーズのトップです。


No.74 6点 人形館の殺人
綾辻行人
(2016/02/07 21:53登録)
滅多に犯人を当てられない僕でも薄々感づいてしまったので、かなりの人が犯人が誰かについては見当がついたのではないでしょうか。ただ、異色作かつ問題作であることは認めつつ、僕は擁護したい派です。そもそも、この作品の肝はフーダニットなどではなく、飛龍想一という男の哀しきドラマにあるのです。苦悩に苛まれる彼の姿、そして結末の痛ましさにのめり込んだ僕にとっては、他の館シリーズに肩を並べてもけして遜色ない重要作です。ミステリーとしては反則気味なので4点クラスですが、プロットのクオリティを加味したら6点はつけていいと思います。


No.73 6点 雲をつかむ死
アガサ・クリスティー
(2016/02/07 21:35登録)
トリックの古臭さも含め、独特の雰囲気と味のある作品です。飛行機の中という当時としては先鋭的だったであろう舞台設定もそれに一役買っています。謎解きにおいても、乗客の持ち物から犯行方法を推理してみせるところなど、いかにもクラシカルな推理小説といった感じで好ましいです。それだけに、追い詰めた犯人が口を滑らせて犯行を認めてしまうという締まりの悪い終わり方は惜しいです。


No.72 6点 三幕の殺人
アガサ・クリスティー
(2016/02/07 21:21登録)
毒殺の方法はあまりにあっけなく、トリックとは呼べないほど単純なものです。また、動機の設定も新鮮といえば新鮮ではありますが、おそらく許せない人もいるでしょう。しかし、別のあるアガサ・クリスティーの名作は本作をベースにしたことが明らかであり、そちらと読み比べてみるのも一興だと思います。


No.71 7点 スウェーデン館の謎
有栖川有栖
(2016/02/06 23:39登録)
ありそうでなかったアイディアを用いた雪の密室ものの秀作です。些細な物証をヒントにトリックを紐解く火村の推理の飛躍はシリーズ屈指だと思います。足跡トリックものでは発見者=犯人という図式がどうしても抜け出せない型なのですが、本作は十分意外性のある解決を見せてくれています。舞台となる雪山の情景や哀しくも悪くない読後感もまたいいです。


No.70 5点 ロシア紅茶の謎
有栖川有栖
(2016/02/06 23:21登録)
以下、各話の感想です。
①『動物園の暗号』 意外性はあるものの読者には推理できないタイプの暗号です。僕はまあまあ楽しめましたが、認めない人がいるのもわかります。
②『屋根裏の散歩者』 この暗号は遊び心があってけっこう好きです。馬鹿馬鹿しくもユニークなダイイングメッセージもいいです。
③『赤い稲妻』 どこか既視感のあるトリックですし、行き当たりばったりで証拠を残しまくったずさんな犯行というのも張り合いがありません。
④『ルーンの導き』 このトリックも今ひとつと思います。ふつうの人にはわからない上に①のような面白みも欠いています。
⑤『ロシア紅茶の謎』 本作品集のなかでもっともキレのあるトリックが冴えています。ただ、証拠がハッタリだったというのは本格推理として不満です。
⑥『八角形の罠』 面白いアイディアではあるものの少し凝りすぎな気も。とはいえ、このシナリオを使った催しはなかなか楽しそうですね。

やはり有栖川さんは短篇より長篇で持ち味を発揮するな、と思わせる作品集。暗号ものも嫌いではないのですが、推理の深みがなく明らかに軽量級です。やはりベストはユニークな毒殺トリックの⑤でしょうか。



No.69 9点 法月綸太郎の新冒険
法月綸太郎
(2016/02/06 22:32登録)
パズラーとして端正でありながら人間の心を随所に関連付けることで物語としてのコクもあり、傑作ぞろいといっていい出来だと思います。特に『背信の交点』『現場から生中継』『リターン・ザ・ギフト』の三作は絶品です。
以下、イントロダクションを除いた各話の感想。

①『背信の交点』 読み始めたときは時刻表ものか?と錯覚しましたが、ふたを開けるとガチガチの本格ものでした。事件の構図が本作中もっとも華麗に反転しています。
②『世界の神秘を解く男』 超能力のタネは拍子抜けなものの、下劣なマスコミの生態や封建的な学会の事情などを絡めることで印象的な佳作に仕上がっています。
③『身投げ女のブルース』 トリックの前提が大きな偶然に頼っていることを除けばほぼ文句なしです。予想外の方向からの解決に見事背負い投げを食らいました。
④『現場から生中継』 犯人の致命的ミスから生まれた決定的証拠が秀逸です。携帯電話という当時最先端のアイテムからこんな作品を編み出した作者の発想力に脱帽します。
⑤『リターン・ザ・ギフト』 事件が交換殺人であることを早々に明らかにし、その上で様々な可能性を論理的検証でふるいにかけるユニークな作品。最後に浮かび上がる登場人物たちの心情が切ないです。


No.68 8点 法月綸太郎の冒険
法月綸太郎
(2016/02/05 23:17登録)
以下、各話の感想です。
①『死刑囚パズル』 殺害方法や注射器の処分方法などから緻密な推理で犯人を絞り込む手際が実に素晴らしいです。意外な犯人と動機も心に残ります。綸太郎が初期のエラリーのように回りくどいしゃべり方をするのも面白いですね。
②『黒衣の家』 サイコパス診断で似たようなクイズがあると後で知りました。ショッキングな結末は①以上です。
③『カニバリズム小論』 グロテスクな題材を論理的に解き明かすことに挑戦した作品。様々な推理小説的発想を否定し尽して辿り着いた答は思いもよらないものでした。
④『切り裂き魔』 完璧に合理的な行動とは言い難いかもしれませんが、日常を舞台にしたホワイダニットととしてはよくできていると思います。
⑤『緑の扉は危険』 物語の膨らみが小さいのが残念です。しかし密室トリックの解法は非常にユニークです。新機軸といえるのではないでしょうか。
⑥『土曜日の本』 これだけは頂けないです。魅力的な謎をどう解くかと思ったら楽屋オチとは、ちょっとがっかりです。ただ、作中の他のミステリー作家の名前と作品タイトルの言葉遊びは楽しめました。
⑦『過ぎにし薔薇は……』 ちょっとした日常の謎が、人間の心の闇が原因で引き起こされたとわかる展開が予想外でした。良作だと思います。

やはりベストは①だと思いますが、その他も高水準のものが多いです。ただし他の方も述べておられますが、前半の暗く重い作品に対し後半のライトさはアンバランスにも思えます。


No.67 7点 スタイルズ荘の怪事件
アガサ・クリスティー
(2016/02/05 22:36登録)
アガサ・クリスティーのデビュー作にして、早くも彼女の持ち味が発揮されている秀作です。毒物による犯行方法の目くらましはもちろんのこと、犯人隠蔽のトリックはいかにもクリスティー的で、のちの作品でもこのテクニックは応用されています。「灰色の脳細胞」をもつポアロの推理力もしっかり見せつけられています。


No.66 10点 五匹の子豚
アガサ・クリスティー
(2016/02/05 22:19登録)
クリスティー作品を「素人が読むもの」とちゃんと読みもせずに軽視しているような人にお薦めしたい名作です。容疑者がわずか五人に絞られているためフーダニットとしての意外性はほとんど捨てていると言ってよく、代わりに彼らそれぞれの描写が非常に丁寧です。これを読めばアガサが単なるトリック・メイカーではなく、むしろストーリー・テリングに秀でていることがよくわかるでしょう。登場人物全員に何かしら魅力があるのですが、すべてが明らかになったとき浮かび上がる犯人の心情が特に輝きます。


No.65 9点 本陣殺人事件
横溝正史
(2016/02/05 21:47登録)
石灯籠や竹藪といった日本ならではの舞台装置を活かしたアクロバティックな密室トリックが圧巻です。ミステリー・ファンの中には物理的な密室トリックを極端に嫌う人がけっこう多くそういう僕も心理的なトリックの方を好むのですが、ここまで大胆なら文句がつけられません。犯人の特性とその手口が有機的に結びついてる点もプラスに評価します。実行性に疑問を呈する人もいますが、着想の面白さは誰も否定できないはずです。


No.64 9点 山魔の如き嗤うもの
三津田信三
(2016/02/05 19:52登録)
最高点を付けた前作には及ばないものの、ホラー・ミステリーとして充実した力作と思います。死体の顔を焼いた理由、消失した一家の謎、なぜお地蔵様の前掛けを一度に盗まなかったのかなど、すべてを意外でありながら説得力も両立させ解決した手際が見事です。もはや恒例となった刀城言耶の多重推理によるどんでん返しの連続も楽しめ、めまぐるしく入れ替わる犯人および真相には驚きの連続でした。冒頭の何気ない記述が伏線として活きてくるテクニックにも円熟味を感じます。怪奇現象の説明として拍子抜けな部分がありますが、これまでの三作よりリーダビリティは確実に上がっており、ほぼ不満のない出来です。

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