青い車さんの登録情報 | |
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平均点:6.93点 | 書評数:483件 |
No.263 | 7点 | 死者はよみがえる ジョン・ディクスン・カー |
(2016/10/09 01:36登録) 何と言っても「意外な犯人・意外な真相」に尽きます。そのために無理が生じているのも確かで、いくらなんでもあの状況下で犯行に及べた、というのはアンフェアと批判されても仕方ないようにも思えます。 しかし、それはなりふり構わず読者を驚かそう、楽しまそう、というカーの魅力とも取れるのもまた確かです。たとえば、代表作の『三つの棺』のトリックを成立させた超絶のご都合主義と通じるものがあります。ひとつの大きな発想からいくつもの謎が解けていく快感はまさに推理小説の醍醐味そのものであり、面白さの追求の結果生まれた歪さ、という点で最高にカーらしい作品です。 |
No.262 | 8点 | 鳴風荘事件 綾辻行人 |
(2016/10/06 00:25登録) 愚直なまでに直球なパズラーに徹しています。叙述トリックを得意としている作者ですが、本来好きなのはこういうのなんだなと伝わってくるようです。縦横に張り巡らした手がかりに加え、章と章の間にも読者にヒントが与えられているのも憎く、「さあ、推理してみろ」と真正面から挑戦をしているような作者の稚気を感じます。クライマックスの畳み掛けも読み応え抜群で、前作以上に熱量を感じました。 双子や、その弟の奥さんといったキャラクターも好きなのですが、この二作で打ち止めになってしまったのは、人気なかったのでしょうか?綾辻さんにはこの作品や近年の『奇面館の殺人』のようなやつをもっと書いてもらいたいのですが。 |
No.261 | 9点 | 緑は危険 クリスチアナ・ブランド |
(2016/10/05 00:48登録) 面白い。文章はやはり改行が少なくて読みづらいのが難点です。しかし、舞台と犯行方法のマッチ、動機に関するミスリード、フーダニットの魅力と、考察するほどに冴えたテクニックが満載だとわかる作品になっています。不必要に長くせず引き締まった印象のプロットも最高の部類です。有栖川氏の言うように、もし著作がもっと多かったなら、クイーン、アガサ、カー、クロフツなどと肩を並べられる大家になった作家かもしれません。 |
No.260 | 8点 | 水族館の殺人 青崎有吾 |
(2016/09/29 22:08登録) 物証による細かい推理を繋げてフェアなフーダニットに仕上げた、という意味でクイーンの『フランス白粉』とよく似通った作品です。感心したのは、元ネタの詰めの証拠がなくハッタリで解決しているという弱さを解消している点です。じわじわと消去法で犯人を絞り込む手堅さを見せた上で、決定打の証拠によるこちらの想定を超えた解決が見事です。先達の作品をベースにした上で、ちゃんと発展を見せています。前作以上に解決編の凄みが大きく、熱量を感じさせる秀作。 |
No.259 | 7点 | 体育館の殺人 青崎有吾 |
(2016/09/29 21:50登録) これだけ若い新人作家が、こんなにもロジックで攻めた長編を書いてくれたことに初めて読んだときは驚きました。高校が舞台ということに必要以上に依存しないストイックさにも好感が持てます。 具体的な推理内容に関しては、一本の傘からいくつもの推理を導き出すところはまんま『オランダ靴の謎』を連想させますし、他にもリモコンの置き場所や被害者のポケットなど、なかなかに凝った推理ポイントがいくつもあります。密室から脱出するトリックの実現性にはやや疑問が残るものの、それも丁寧な説明があるので不満にはなりませんでした。デビュー作としては文句なしの出来。 |
No.258 | 7点 | フォックス家の殺人 エラリイ・クイーン |
(2016/09/27 21:33登録) 今日ポケミス版で読了しました。つい昨日書評したバークリーの『服用禁止』と同じ毒殺もので、しかも12年前の事件を捜査する設定のためかなり地味めの作品です。しかし、犯人は彼で間違いないとしか思えない事件をどうひっくり返すのか、先が気になり一気に読み切ってしまいました。そしてやはり被疑者の容疑を否定する手際の見事さはさすがクイーンです。クライマックスでの盛り上がりも、派手さというよりドラマとしての味で満足させてくれます。前作『災厄の町』よりもとっつきやすく、推理にも重きを置いている分よりエラリー・クイーン的かもしれません。本当に奥の深い作家です。 |
No.257 | 6点 | 悪の起源 エラリイ・クイーン |
(2016/09/27 20:02登録) 『十日間の不思議』や『緋文字』と同じく、この『悪の起源』もまた殺人がだいぶ後半になるまで起きません。そこに至るまでの冗長さで評価を大きく落とす方もかなり多いですが、そこはクイーンも承知の上でやっているのでしょう。死体の数で面白くなるのなら、誰も苦労しないからです。本作は次々と送られてくる脅迫の謎で物語を引っ張ることで勝負しています。とはいえ、それが成功しているのかというと微妙なところです。終盤の鮮やかな推理、手紙のトリック、最後のどんでん返しと、感心するポイントも多々ある点はクイーンの矜持を感じさせるのですが。 |
No.256 | 5点 | 緋文字 エラリイ・クイーン |
(2016/09/27 00:44登録) 本格ミステリーとしての魅力はダイイング・メッセージ一本です。つまり、そのメッセージが解けてしまえばすべての真相が割れてしまうという訳で、付随する推理がないためこの『緋文字』の印象は薄味なものになってしまっています。物語の発端が浮気調査という地味なものでなかなか事件が起きないプロットは後期クイーンの工夫なのでしょうが、それも成功しているとは言い難いです。『十日間の不思議』ほど劇的な展開があればインパクトは違ったのでしょうが。 |
No.255 | 5点 | 服用禁止 アントニイ・バークリー |
(2016/09/27 00:16登録) nukkamさんのご講評にもあるとおり、解決篇の前にわざわざ読者への挑戦が挿入されているわりには、確たる証拠がない推理が若干の肩透かしです。砒素を摂取した経路がカギになっていてなかなか凝った造りではあるのですが、題材からして派手な論理展開にはなりにくく、どうしてもアピールが弱いのは否めません。そして何より、終盤に至るまでの過程が退屈なのが大きなマイナス要素です。初めてバークリーを読むという人には別の作品をおすすめします。 |
No.254 | 6点 | 密室蒐集家 大山誠一郎 |
(2016/09/25 22:25登録) かなり惜しい短編集です。本来なら大好物の材料のはずなのに、「推理」の純度を重んじるあまり「小説」としての面白さを犠牲にしてしまっているところが顕著に出ており、読後に本を読んだという満足感がありませんでした。様々なパターンのアイデアで密室殺人を構成してみせた心意気は感心しますし、労力も相当なものだったのでしょう。しかし、もっとロジックの隙を埋めてストーリーの肉付けして欲しかったところです。 以下、ネタバレありの各話の感想です。 ①『柳の園』 懐中時計の存在を導き出すロジックの軽やかさがすばらしいです。ただ、方々で指摘されたという大きな穴があるのは非常に残念。 ②『少年と少女の密室』 衆人環視の密室を叙述トリックを使うことで成立させたアイデアは抜群。しかし、これにもヒントが親切すぎて気付く人はすぐ気付いてしまいます。 ③『死者はなぜ落ちる』 大きな偶然に頼ってはいるものの、別の死体を利用するという奇想は傑出しています。もっと小説として膨らみがあれば尚よかったのですが。 ④『理由ありの密室』 WHYを主題にした異色作。評価は高いですが鍵をめぐる推理は危なっかしい綱渡りで、あまり感心しませんでした。また、ダイイング・メッセージは蛇足では? ⑤『佳也子の屋根に雪ふりつむ』 時間の誤認により雪の密室を構成した作品。やはりご都合主義で詰めが甘いところもありますが、締めとしていいと思います。 |
No.253 | 7点 | 追想五断章 米澤穂信 |
(2016/09/25 21:31登録) 一見、何の意味もなさそうな小説の数々が次第に謎を大きくしていき、最終的に一本の線でそれらが繋がるプロットがユニークで面白いです。文章もこれまで以上に重すぎず軽すぎず、ちょうどいい塩梅で洗練されている印象を受けます。難を挙げるとすれば、登場人物が主人公を含めなんだか没個性的でぼやけた気がなくもないところがあります。 |
No.252 | 5点 | メソポタミヤの殺人 アガサ・クリスティー |
(2016/09/25 18:44登録) クリスティー作品の中では希少な、一種の密室を扱うことによってハウダニットの興味が強くなっている作品です。ただ、そのためメイン・トリックがその魅力の中心になったことで、どこか大味な印象を受ける部分もあります。そういう点では、あまり細かい誤導を得意とするクリスティーっぽくないと思います。一方で意外な犯人の設定はいかにもクリスティーらしく、最後ポアロの推理で明らかになるその正体には驚かされました。あと、今日見たドラマ版では遺跡発掘の様子が丹念に描かれており、雰囲気のいい良作に仕上がっていました。 |
No.251 | 6点 | ウィッチフォード毒殺事件 アントニイ・バークリー |
(2016/09/25 18:27登録) シェリンガムをはじめとした登場人物たちの軽妙なやりとりでテンポよく読むことができました。しかし、不満点も大きくあります。あれこれとそれらしい推理を並べた末に待っているのは脱力ものの真相で、これをスタンダードな本格推理だと思って初めて手に取ったらがっかりするかもしれません。厳しい意見ですが、シェリンガムは前作『レイトン・コートの秘密』や後の『第二の銃声』などを読んでもわかるとおり、人格的にも能力的にも名探偵の風上にも置けないと言えます。しかし、いろいろ読み込んだ読者からしたらこの皮肉な後味はたまらないものがあるでしょう。 |
No.250 | 8点 | 夜の蝉 北村薫 |
(2016/09/25 18:01登録) ハート・ウォーミングなようでありながら、人間の綺麗でない部分まで描き出しているのがうまいですね。そういう意味では前作以上に読み物としての魅力がアップしているとも言えます。それでいて、どの話も論理的に妥当な着地を見せてくれる推理の醍醐味も味わえます。個人的ベストは『六月の花嫁』で、円紫師匠の人柄がにじみ出た好篇でした。「なぜそんなことまでお見通しなんだ?」と驚かせつつ、ちゃんと納得させてくれるのは見事の一言。 |
No.249 | 6点 | 福家警部補の追及 大倉崇裕 |
(2016/09/24 01:02登録) シリーズ4作目の本作は長めの話がふたつ収録されています。個人的には、一方はけっこう好きなのですが、もう一方は不満の残る出来でした。 以下、感想です。 (一部、刑事コロンボのネタバレを含んでいます) ①『未完の頂上』 著名なベテラン登山家による山を利用した犯罪。決め手は明らかに『愛情の計算』を意識したものでしょう。そこで評価を落としている人もいるようですが、使い方は元ネタよりうまく、しっかり発展させているので僕はありだと思います。長めの頁数を使ったのに見合う人間ドラマです。 ②『幸福の代償』 こちらはちょっと好みでありませんでした。犯行に手が込み過ぎていて不合理に陥っている気がしますし、唐突に証拠を突きつける幕切れからもギクシャクした印象を受けます。『死者のメッセージ』のような犯人に同情を寄せる作品としても磨き上げ不足に思います。 |
No.248 | 7点 | 福家警部補の報告 大倉崇裕 |
(2016/09/24 00:48登録) 福家警部補シリーズ三作目です。ストーリーに厚みが出てきて、円熟味を感じさせますが、自殺の偽装に苦しいところがあったり、決め手に不満があったりなど、どの作品にも何らかの惜しいところがあります。 以下、各話の感想です。 (一部、刑事コロンボのネタバレを含んでいます) ①『禁断の筋書』 わりとオーソドックスな造りの話。目新しいところは少ないですが、最後の福家警部補の逆トリックは秀逸です。かつての親友を殺害してしまった女性漫画家の悲哀もいいアクセントになっています。 ②『少女の沈黙』 知的職業の犯人が多かった中で珍しいヤクザの世界を描いています。気の利いた手がかりの配置はすばらしいです。ただし、詰めの証拠がまんまコロンボの『策謀の結末』なのはちょっと残念でした。 ③『女神の微笑』 爆弾を駆使したユニークな犯行は『死の方程式』が念頭にあったのでしょうか。夫婦による複数犯というのも珍しいです。よく練られた話なのですが、個人的にはやはり犯人は逮捕して決着してほしかったです。 |
No.247 | 4点 | 私が捜した少年 二階堂黎人 |
(2016/09/24 00:19登録) シンちゃんのハードボイルドな心の中と年相応の言動とのギャップがユーモラスで面白いです。しかし、肝心のプロットとトリックはどちらもありがちもしくは脆弱な印象。たとえば一話目などは死体の処分方法の一本勝負でありながら、まるまるどこかからの流用(焼き直しですらない)のようなトリックで、現代で使うには陳腐すぎます。最終話は伏線も何もなく「こうしたんだ」と説明されるだけで、まるで楽しめません。作者の書くものがことごとく合わないと感じました。 |
No.246 | 5点 | 探偵ガリレオ 東野圭吾 |
(2016/09/24 00:06登録) ガリレオシリーズの記念すべき一作目。どの短篇もほぼ同じ感想になってしまいます。読んだときは「そんな方法があるのか」と感心するものの、聞き慣れないワードが頻出するため完全にはイメージがつかめず、しばらくすると細部を忘れてしまいます。『容疑者X』のような、理系知識が絡まない作品の方が優れているシリーズだと思います。他の方々も書かれていますが、ヴィジュアル的に映えるため、ドラマ化してヒットしたのは幸運なことでした。 |
No.245 | 4点 | 盤面の敵 エラリイ・クイーン |
(2016/09/23 23:55登録) クイーンが後期に拘ったという「操り」テーマの一作。まだこの時点ではあまり書かれていなかった設定に驚くべきひねりを加えているのは称賛すべきかもしれません。しかし、そのひねりが正攻法から大きく外れる要因になってしまっているように思え、逆に僕にとってはよけいでした。エラリーの推理もアルファベットをひっくり返してみるなど、ちまちましていて魅力に欠けます。『ギリシャ棺』のような重厚感には遠く及びません。好きな作家なだけにハードルが上がっていたのもありますが、あらゆる点で物足りない出来でした。 |
No.244 | 10点 | ブラウン神父の不信 G・K・チェスタトン |
(2016/09/23 19:17登録) 面白かった。ブラウン神父らしい推理の冴えもすばらしいし、何よりこの『不信』はイメージ的に派手な短篇が多かったように思えます。8話ともぜんぶ好きですが、強いてお気に入りを挙げるなら、かなり大技ですが逆転の発想が気持ちいい『ムーン・クレサントの奇跡』と、不可能を可能にするシンプルなロジックが決まった『ギデオン・ワイズの亡霊』です。人気作の『犬のお告げ』の、凶器をめぐる推理のキレも出色。あと、アガサ・クリスティーが応用したとみられるトリックの作品もあり、チェスタトンの影響力を感じました。 |