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ミステリの祭典

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パメルさんの登録情報
平均点:6.13点 書評数:623件

プロフィール| 書評

No.303 7点 密室の鍵貸します
東川篤哉
(2020/09/12 09:58登録)
タイトルからビリー・ワイルダー監督の傑作コメディ映画「アパートの鍵貸します」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。この作品も映画に負けずユーモアたっぷり。
作者がつくった架空都市・烏賊川市が舞台。主人公の戸村流平は、彼女の紺野由紀にフラれてしまう。その噂を聞いた茂呂に誘われ「殺戮の館」という映画のビデオを持って、家に遊びに行くことになる。しかしその晩、紺野由紀が殺される事件があり、アリバイを証明してくれるはずの茂呂までも殺されてしまう。
軽妙な語り口で緊張感がない、とぼけた感じの作風なので好き嫌いは分かれるかもしれない。ただ、その語り口こそが充分な効果をあげて、大きな仕掛けが隠されているというトリッキーな作品。
個性的な人物造形、周到な伏線の張り方、小道具の使い方も実に巧妙。小難しいことなく、リーダビリティが高い作品なのでミステリ入門書として最適だと思います。


No.302 7点 狩人の悪夢
有栖川有栖
(2020/09/08 09:28登録)
作者と同姓同名の有栖川有栖が、人気ホラー作家である白布施正都との対談をきっかけに、彼の邸宅へ招かれる。「夢守荘」と名付けられたそこには、眠ると決まって悪夢を見てしまう悪夢の寝室があり、有栖はその部屋に泊まって一晩を明かす。翌日、右手首のない女性の死体が発見される...。
手首の切断理由は?壁に残された血の手形の目的は?現場にあった弓矢、流れていた音楽など、不可解な要素を合理的にロジックを積み上げて犯人、犯行方法を導き出していくプロセスは美しい。また思いがけないことが実は事件の重要な鍵になっており衝撃が大きい。
真相が全て明らかになると同時に、ある人物への悲哀溢れる半生と犯人が絶対悪ではなかったことを仄めかす逸話を添えて幕となるエピローグなど謎解きと人間ドラマが愉しめる。
ただ、事件自体は派手な演出や奇抜な要素が盛り込まれているわけでもないし、登場人物も少ないため地味に感じる方もいるだろうし、フーダニットとして愉しめないかもしれない。


No.301 6点 罪の声
塩田武士
(2020/09/03 19:27登録)
「どくいり きけん たべたら 死ぬで かい人21面相」などと書いた青酸ソーダ入り菓子をばら撒き、全国の消費者を不安に陥らせた。その社会を揺るがした昭和の大事件、グリコ・森永事件をモデルに、それをヒントにした程度ではなく、細部までそっくりそのままの設定にし、その裏で何が起きていたのかという仮説を提示する小説になっている。
まず、作者の取材力と緻密で迫力ある描写に驚かされた。さまざまな関係者によって、もう一度語られていき、当時の事件が生々しく蘇ったような臨場感に包まれる。(作者はこの事件を小説にしたいと思い新聞記者になったらしい)
本作は、実際に起きた事件の詳細について知識があればあるほど楽しめる仕掛けとなっている。当然、知らなくても分かるように描かれているが、事件のポイントを知っているかどうかで、仮説の衝撃度が違ってくる。
決して悪くはないのだが、ノンフィクションの緻密なドキュメンタリー的検証部分とフィクションである犯人家族の人間ドラマが、どうも馴染んでいない感じがしてしまった。
※余談ですが、今年秋(10/30より)小栗旬、星野源出演で映画公開だそうです。


No.300 6点 Dの殺人事件、まことに恐ろしきは
歌野晶午
(2020/08/29 09:23登録)
江戸川乱歩作品のトリビュートに挑んだ7編からなる短編集。
スマホやSNSをはじめ、最新のテクノロジーが重要な役割を果たしており、人間の狂気や狡猾さもバージョンアップした、懐古趣味に留まらない刺激的なリニューアルが施されている。どう現代的なアレンジを加えていったのかを確認するごとに、作者の感性と技巧に唸らされるばかり。
どの作品も、まともな人間が一人も登場することなく、シュールでブラックさが際立ち、情け容赦のない結末で後味悪い読後感を残す。救いのなさが増幅されている感じ。イヤミス好きな方はぜひ。
本作を読み、江戸川乱歩という作家及びその作品群は、それ以後のミステリ作家に計り知れないほどの影響を与えているのだと改めて思いました。


No.299 6点 許されようとは思いません
芦沢央
(2020/08/22 09:22登録)
タイプの異なる気味の悪いどんでん返しが楽しめる5編からなる短篇集。
丁寧な心理描写で登場人物に共感を持って読んでいると、いつの間にか心の中に闇が入り込んできたり、おぞましくも温かったり優しいけどやはり怖かったり。人の愚かさ、本性をじっくり描いており、一編一編密度が濃い。
ラストの締め方も、予想外の方向に一気にひっくり返したり、じわじわと意味が分かってくる恐怖を味わえたりとさまざま。そして、どの編も鍵となる女性たちを端正な筆致で描き、深みと恐怖をより一層際立たせている。恐るべき動機、構図の反転で破壊力抜群のイヤミスが楽しめる。
ひとつ気になった点(おかしな記述と思った)...文庫版でP54の13行目...警察はこんなこと言わないのでは?


No.298 6点 GOTH リストカット事件
乙一
(2020/08/16 10:25登録)
語り手の「僕」と森野夜は、お互い殺人や自殺、虐待などを魅力的に感じているという、普通の神経では考えられない感性で繋がっている。
ラノベ風な雰囲気があり、2人ともどんな状況でも感情を表に出すことなく、淡々とストーリーは進んでいく。この得体の知れない不気味さが堪らない。(ホラーを読むときの怖いもの見たさが湧いてくる)また、歪んだ美意識、一筋縄ではいかないストーリーを描き上げた筆力、トリッキーでアクロバティックは仕掛けは好印象。
ただ、人物造形が一種独特な世界観なので、小説として整合性に一部欠陥があるという印象を受けた。


No.297 8点 生還者
下村敦史
(2020/08/09 09:36登録)
世界第3位の標高を誇るカンチェンジェンガに登っていた日本人4名の遺体が回収された。増田直志の兄、謙一もその中の一人だった。その後、奇跡的に相次いで2人の生還者が見つかる。しかし、2人の言い分は全く違っていた。また、直志は兄の遺品であるザイルに不審を抱く。
人間の持つ主観により、真実が見えにくくなる。何が事実で、何が虚構か、最後まで目が離せない。迫力満点の雪山の描写に加え、謎が謎を呼ぶ展開や二転三転していくミステリの面白さに加え、兄と弟の確執、ある人物のトラウマ、「生還の罪」に取りつかれた者たちが辿る闇を描き切った人物造形が錯綜するプロットを支えている。
伏線が見事に回収され、全ての謎が明らかになった時、山への真摯な思いも浮かび上がり、晴れ渡った景色を山から見下ろすような爽快な気分になった。ミステリとしても人間ドラマとしても満足な出来。
余談ですが、寒い時期に読む場合、防寒対策を万全にしておかないと凍えてしまうかもしれません。


No.296 7点 medium 霊媒探偵城塚翡翠
相沢沙呼
(2020/08/02 08:38登録)
本ミス1位、このミス1位、本屋大賞にもノミネート、帯の「すべてが伏線」という惹句に綾辻行人氏、有栖川有栖氏も絶賛、そして何よりこのサイトでの評価がとても高いということで、文庫化まで待つことは出来ませんでした。
推理作家として難事件を解決してきた香月史郎と死者の言葉を伝えることが出来る霊媒師の城塚翡翠が力を合わせて事件に立ち向かう。設定にSF的趣向があり、ラノベ風な雰囲気があるので読者を選ぶかもしれない。
香月史郎と城塚翡翠が事件を解決するたびに、インタールードという幕間のようなシーンが差し挟まれる構成になっている。キャラクターが苦手で、あまり楽しめないなと読み進めていたが、最終話でそれまでのストーリーの印象が見事なまでにひっくり返るような衝撃的な真相が待っていた。ヒロインのキャラクターだけでなく、各話の事件の解決に至る推理までもが鮮やかに違うものに変化するというのには驚かされた。


No.295 5点 密閉教室
法月綸太郎
(2020/07/27 09:40登録)
作者のデビュー作。シリーズ探偵である作者と同姓同名の法月綸太郎は登場しない。
ある朝、女生徒が学校に来ると、教室でクラスメートが倒れており死亡が確認された。さらに、あるはずの机と椅子が全て消失していた。不可解な状況の謎を、ロジカルに解明していく本格推理小説であり、青春小説でもある。
自殺なのか他殺なのか、密室の謎、机と椅子の消失と提示された謎は魅力的。真相を突き止めるために、ミステリマニアのクラスメイトが推理していく。中盤までは、オーソドックスな推理小説を読んでいる感じで進むが、終盤になると作者らしい?捻くれた展開になり楽しい。
真相が明らかになった時、現実的ではないとは思いながらも、納得できる部分もあり、まずまずといったところ。
ただ、無駄な描写が多く、文章がぎこちない。プロットも洗練されていないので、点数はこの程度か。


No.294 6点 シャドウ
道尾秀介
(2020/07/20 10:12登録)
ふたつの家族を巡る心理的な葛藤の物語。人物関係は、一見単純で分かり易いが、底流にすさまじいものがある。物語は、それぞれの人物の視点から語り進められて行く。リアルな人物造形、奇をてらわないストーリー展開など、万人向けの作品に仕上がっている。特に派手な事件が起きるわけではないが、日常の中に正体不明の異物が紛れ込んできたような、何とも形容しがたい気味の悪い緊迫感が心地良い。
サイコ・サスペンスの体裁をとりながら、それらが結末への伏線となり全体像が一気に浮かび上がる。二転三転するプロット、無駄のない構成と文章に強く惹きつけられた。子供があまりにも悲惨な目に合うのが辛いが、主人公の成長とラストに随分と救われた。
ただ、仕掛けに前例があり、先が読めてしまった点とこじんまりとまとまりすぎている点が不満。


No.293 6点 往復書簡
湊かなえ
(2020/07/14 09:54登録)
本書は雑誌に連載した2編と、書き下ろし1編を収録。過去の事故や事件の真相を、本のタイトル通り、当時を知る人物たちがつづった書簡の往復によって炙り出していく連作ミステリ。
「十年後の卒業文集」は、部活仲間の結婚式を機に再会したかつての同級生同士が、行方が分からなくなっている千秋という女の子の話題を巡り文通を始める。千秋はある事故で顔に大怪我を負ったのだが、その原因などについて手紙を交わすうちに、当時、そして今、お互いにどんな気持ちを抱いているのかが浮かび上がる。そこには単純に青春時代の友情物語と美しく括れない、妬みや羨望が渦巻いていて恐ろしい。終盤、作者らしいからくりがあるのも読みどころ。近しい人とのコミュニケーションは、携帯電話やパソコンのメールが主流となり、手紙を書く機会は減ってきている。だが、本書では手紙という通信手段を使うことで、人物同士の微妙な距離感や、普段あまり顔を合わせないからこそ書ける赤裸々な感情を、生々しく描き出すことに成功している。
一度ポストに入れたらもう後戻りできない。受け取った後、メールのように消去できない。本書の主人公は人の心を映し出す手紙そのものといえるかもしれない。


No.292 5点 クドリャフカの順番
米澤穂信
(2020/07/06 19:20登録)
古典部シリーズ第三弾。
ストーリーは、前作・前々作で予告されていた文化祭の前夜から始まる。古典部は文化祭で販売する文集「氷菓」を刷りすぎてしまった(予定の7倍)という問題を抱えていた。普通のやり方では、売れ残り赤字は免れない。さあどうするか。
3日のうちにこの不可能を可能にすべく、4人のメンバーはそれぞれ行動を起こす。「氷菓」を売り捌くことが出来るのかというミッション・インポッシブル的な話に、次々と行われる各行事が絡んできて抱腹絶倒の展開に。
古典部メンバー4人の視点を次々と変えながらスピーディーに進んでいき心地よい。そして一見、関係なさそうな事件が、やがて「クドリャフカの順番」の謎へと繋がっていく。
多くの伏線が結実して迎えるフィナーレは、ほろ苦く感動的。ただ青春小説としては面白いが、ミステリ的には、やはり弱いか。


No.291 7点 遥かなりわが愛を
笹沢左保
(2020/07/01 10:06登録)
冒頭からとても奇妙。四国在住の女性から警察署に電話が入り、〇〇の旅館に高野という男がいる、その男から脅迫まがいの電話が掛かってくるので、警察の方から注意してほしいという用件だった。
電話は大宮、中之条、直江津、水沢、一関、仙台、福島、米沢と連続している。しかし犯罪らしきことは起きない。高野とは何者か、女性が警察に連絡する意味は何なのか。謎は深まり惹きつけられる。
犯人が挑戦状を叩きつけ、鉄壁のアリバイを持ち(証人は警部)、殺人のモチーフに歴史ミステリの趣向があり(高野長英登場)、動機に究極の愛の哀しさがある。
ロマン溢れる独特の叙情性と歴史ミステリが加味された本格ミステリ。高野長英に詳しい方は、さらに楽しめる作品。タイトルは秀逸、読後感も爽やか。


No.290 7点 第三の時効
横山秀夫
(2020/06/26 19:34登録)
一班、二班、三班とチームが3つあり、事件によって担当する班が違う。そして仲が非常に悪い。それぞれの班長もロジカルでクールな朽木、謀略型の楠見、天才的な閃きを持つ村瀬と個性的。班ごとの権力争いに加え、班内での出世争いなどの軋轢もあり、凶悪事件に対処すると同時に内部対立もあるということで、常にストレスを抱えている。
「沈黙のアリバイ」で朽木の読みの深さに唸り、「第三の時効」で楠見の冷血さとシャープさに慄然とし、「密室の抜け穴」で村瀬の深慮遠謀に茫然となる。
それぞれのストーリー展開も凝っており、先が読めないし、どんでん返しがあり、濃厚な人間ドラマがある。警察組織内部の葛藤もあり、それらが渾然一体となって進んでいく。作者が読者をどこへ連れて行こうとしているのか最後までわからない。プロットの巧妙さには驚かされた。


No.289 6点 三毛猫ホームズの騎士道
赤川次郎
(2020/06/22 19:03登録)
舞台はドイツ・ロマンティック街道沿いにある古城。そこは中世さながらに秘密の抜け道や武器、拷問用具らが残る陰鬱な雰囲気。
冴えない片山刑事に、三毛猫ホームズが意外性に富んだ推理結果をどう受け止めさせるのかなど、ユーモラスなタッチで描かれているが、超自然やファンタジーではなく、犯人探しの興味で引きずり込む本格推理小説になっている。
典型的なクローズド・サークルもので、その設定を遺憾なく発揮し意外な真相まで引っ張っていく。謎の女性の歌声あり、密室トリックあり(なかなかの出来)、ある人物の意外な正体も効いている。
厳密にいうとアンフェアな部分もある。ラストの一行は、作者は単なるオチとして書いたのかもしれないが、ミステリにおけるCC物のある種の馬鹿馬鹿しさを批判しているように思える。


No.288 7点 黒地の絵
松本清張
(2020/06/14 10:30登録)
9編からなる短編集。新潮文庫版で読了。9編全て標準作以上で凡作はないという印象。その中から、3編の感想を。
「装飾評伝」岸田劉生をある程度モデルにしたという作者の言葉があるが、小説の主眼は、天才に圧倒された人間の畏怖と嫉妬が憎悪と復讐の念に変わるさまを描く点にある。陰湿な復讐それ自体を生の目的とせざるを得なくなった人間の姿が彷彿する。
「真贋の森」鑑定能力のない権威の実態を世間に晒す企みがどうなるかが読みどころ。犯罪者の語りで成るために謎解きの興味はないが、描写は陰影深く、動機にも迫力がある。真贋とは物に対する以前に、人間に対するものだという主題が底に響いている傑作。中野好夫氏は、この作品を日本美術界の閉鎖的アカデミズムに対する鋭い風刺の挑戦を試みたものと述べている。
「空白の意匠」弱い立場にある地方新聞の律儀な広告部長を主人公とし、決して彼自身の手落ちではない偶発的な、しかし新聞社には致命的なミスによって、彼の懸命な努力、奮闘にもかかわらず、哀れな結末に追い込まれていく過程が読ませる。結末も鮮やか。


No.287 6点 陰獣
江戸川乱歩
(2020/06/08 09:20登録)
春陽堂文庫版で読了。表題作を含む4編からなる短編集。 陰獣/盗難/踊る一寸法師/覆面の舞踏者
その中で、表題作の感想を。密室で繰り広げられる夫婦の秘め事という、完全にプライベートの領域に属する秘密が、赤の他人から送られてくる脅迫状に事細かに記されているというおぞましさを倒錯的なエロティシズムと共に描き出している。
作中に登場する大江春泥の作品のタイトルは「屋根裏の遊戯」「B坂の殺人」「パノラマ国」など、乱歩作品をもじったもの。乱歩の本名が平井太郎というのはよく知られており、それをもじるかのように大江の本名は平田一郎となっている。
このように「作中の私=作者の乱歩」ではなく「大江=乱歩」という印象を読者に与えるのだが、これ自体がトリックになっている。
だが、これについては、乱歩自身は全く意識していなかったと語っている。二転三転する真相には驚くが、さらに最後の数行で、驚かされる。もっとも、この数行については発表当時から賛否両論あったらしいが。


No.286 6点 王とサーカス
米澤穂信
(2020/06/01 10:44登録)
2001年にネパールで実際に起きた事件を題材に、事実を知ることと、それを伝えることの意義と疑問を真摯に問いかけている作品。
フリーライターの太刀洗万智がネパールで巻き込まれた王族殺人事件。ジャーナリストの血が騒ぐ太刀洗に情報と提供をしてくれた軍人の殺人事件。この二つの事件、どう関係があるのか。誰が味方で誰が敵なのか。正しさとはとても曖昧といえる。だから人は壁にぶつかるたびに考える。なにが正解なのかを。
真実を求めるためのジャーナリズムが時には誰かを傷つけることになっても、それは正しいことなのか。主人公が突き付けられる疑問や苦悩に読み応えがあり、深く考えさせられながらもスピード感があり心地よい。


No.285 6点 火のないところに煙は
芦沢央
(2020/05/25 20:37登録)
物語に招かれるように、奥へ奥へと入り込んでいく。一歩一歩その歩みを進める度に、積み重ねっていく恐怖。
物語が進むにつれ、引っ掛かりを覚える箇所がいたるところに見えてくる。気にはなるが、それらを凝視することが、明らかにすることが怖い。物語の向こう側を覗き見るようなそれらの行為が堪らなく怖い。
何とも言えない居心地の悪さ、ざわつき、そして意外な結末の謎解き。ロジックにより、怪異を明らかにすると、さらなる事実が明かされることで、ロジックが怪異を補強してしまうという構成は実に巧妙。


No.284 7点 ミレイの囚人
土屋隆夫
(2020/05/18 19:11登録)
寡作作家として有名な作者だが、作家人生は長い。この作品は80歳を超えてからだが、年齢を感じさせない筆力で驚かされる。
導入部の人気作家監禁といえば、スティーヴン・キングの「ミザリー」を頭に浮かべる方が多いと思いますが、「ミザリー」はホラー、こちらは本格推理の色合いが濃い。
本格推理と心理サスペンスを融合した野心作で、推理作家・江葉の監禁事件と新進推理作家の死亡事件がどう繋がっていくのかが読みどころ。
トリック自体はシンプルだが、ミスディレクションが巧妙なため、気付くことは難しい。また複雑なプロットを構成する手腕は見事で、真相が明らかになった時の衝撃度は高い。ホワイダニットには少し引っ掛かりますが...。

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