斎藤警部さんの登録情報 | |
---|---|
平均点:6.69点 | 書評数:1304件 |
No.524 | 6点 | 結晶世界 J・G・バラード |
(2016/04/12 03:15登録) 隠喩の鬼やで。。。。。。 この「重大事」への過渡期の蠱惑的光景は何を目的に延々と書かれたろう?(文章は短いが読むのに時間が掛かる) 例えば日本がこれから速やかに徴兵システム(皆兵ではなく狙い撃ち制?)へ移行するとしたら、やはりその過渡期だけはこれほどまでに観察する人をじっとりと魅惑し麻痺させてしまうのだろうか? そういうことの隠喩にこの物語を引くべきだろうか? 「三つの三角関係」という構図は結晶構造にとって数学的意味を持つか? 幾何学的仄めかしの数々。。「小数点以下第何位と決断と」の看過し切れない関係。「最後の」という言葉が象徴性を匂わせ幾度も使われる物語終盤。。露天商が商売上がったりになった理由。。! そしてこの不思議な別れのラストシーンだ。 たとえば「白夜行」の主役ふたりはこの本を読んでいただろうか。 そういやこの話には「生きる屍の死」を思わせる流れが少し有るが、「死」の意味は違う。。(と言い切れるだろうか) ああ、この物語の奥の深さは、岸田今日子さんにライヴ朗読でもしていただかない限り真髄の理解が難しい作品ということなのかも知れません。個人的に読中面白さに夢中になる類ではないが、読了後一気にずしりと載って来られる作品。忘れられないね。 再読はしたくない。映画を観たい。 |
No.523 | 5点 | 水晶の栓 モーリス・ルブラン |
(2016/03/31 23:56登録) 大袈裟に煽るばかりで手に汗は握らないが、敵役どぶろっく、いやドーブレック氏独特の不気味な存在感に引っ張られるサスペンス小説。 例の隠し場所は。。。。 如何にも時代小説がかった(?)場所で別段驚きゃしないんだけど。。 これ実際に目の前で「そこ」から出されたら驚くだろうなあ。 |
No.522 | 6点 | ルパンの告白 モーリス・ルブラン |
(2016/03/30 12:30登録) ジュヴナイルでちょこちょこ読んでたかも知れないが。。 具体的な記憶には無い。 高校ん頃だったか、あらためて創元推理文庫を読んだ時の印象が強い。その印象とは。。ホームズ短篇の面白どころを一通り読み直した後で 「おお、ルパンがホームズみたいな事やってる!」 的な、いい意味でホームズ短篇の質の良い代用品のような。宇多田ヒカルがなかなか新曲出さなかった隙を突いた倉木麻衣のような、サム・クック亡き後のオヴェイションズの様な。まあ流石にホの字さん初期の様なワン&オンリー力は無いけど、詰まらなかったりガッカリさせられたりはしない。やはり、ホの字もそうだが結末のみならず(冒頭はもちろん)途中の色んなところに意外性ってやつがチャキチャキ登場するのが良い(緩い意外性も多いが)。 ロックスター的派手派手しい大個性の探偵役が細切れな事件解決に勤しむ短篇集ってのも乙なもの。 あまり高得点はあげられないけどね、ごめん。 |
No.521 | 7点 | 少女 湊かなえ |
(2016/03/29 12:09登録) こういうのは無理にミステリと決め付けず行くのがいいよ ふふ〜ん えっ?! って騙されるからね。 キーワードの「因果応報」が似合うもの、とてもそうは言えない理不尽なもの、直接間接、意識無意識、正気狂気(?)、いくつもの痛め付け合いが躍動するストーリーはミステリ枠だからこそゆったり愉しめる暗黒世界。湊さんという人、シャーリー・ジャクスンの嫌嫌煉獄をより強力な(本格めいた)ミステリ興味で糖衣コーティングして、甘く(ミステリっぽく)したぶん嫌ァぁ~な毒性も丁度いいぎりぎりまで上げておきましたよ、いいですね患者さん? みたいな感じがしますよ。それにしても読みやすい。自由律短歌のの分かり易い連なりをすらーっと流され読みする様に高速熟読してしまいました。 【ここよりネタバレの要素芬々】 物語のほぼ中間地点で二手に別れたストーリーが早くも合流してしまうのはオッと思いました。Vでなく、ましてⅡでもなくYの形で行くのね(まさかのXではなかろうな)。。と単純に捉えて済むものでもありませんが。 主人公たる二人(+もう一人?)の少女たちの性格等書き分けが明瞭で無いため、交互に一人称で来られても混乱しがちなのは故意なのか恋なのか。。まるで誰かと誰か(と誰か?)が実は同一人物では?? と無意識に疑わせてるみたいじゃないか。。物語の中にちょっとした入れ替わり趣向があったり、誰と誰が同じ人(及び、何かと何かが同じもの)と明言したり仄めかしたり、そのへんとの合わせ技なのかしら。。 ま、かなり最後の最後まで「あれ、紫織って子の役どころは?登場人物のバランス悪くない??」って不思議に思っちゃってましたからね、やっぱりしっかり騙されたってわけですね。面白いですよ、この人の本。 ちょっと分かりにくいかなって思うのはね、あの親子の「その後」ごく短い間がどうだったかってのと、あの教師が何故「盗作」したのか、っての、この二点についての説明と言うか納得させが生煮えなんじゃないか、ってね。 さほど気にはならないけどさ。 |
No.520 | 4点 | 誰がロビンズ一家を殺したか? トマス・チャステイン |
(2016/03/28 13:14登録) 複雑で難易度高いのはいいけれど、これを当てっこ懸賞でやられても何が何だか五里霧中で萎えること萎えること。もっとチラリズムというか真相(少なくとも真犯人)見えそで見えない際どい所で読者に挑んでくれたらなあ。でもそれだと「正解者の中から抽選で50名様に魚肉ソーセージ半年分プレゼント」みたいになっちゃうからダメだったのか。私もボナンザさんに同じく、今となってはやはり正解篇付きの文庫本が欲しい所ですね。 んで問題文がやっぱり普通の推理小説じゃなくて、長~~い推理クイズ(アメリカによくある「話の長い推理クイズ(ゲーム?)本」の極端なやつみたいな)的風情なのが、単に小説に懸賞付けたのとは違うってのをはっきりさせてていいんだけど、そのやり方がどうも何かしらうざったい。どうせカタルシスもセンスオヴワンダーも無い、ややこしいだけの真相なんじゃないの? って思っちゃってね。 |
No.519 | 6点 | その子を殺すな ノエル・カレフ |
(2016/03/28 11:25登録) マドンナ・ウナボンバ(いけねえ、爆弾だ)! ちょいとドタバタなタイムリミット・サスペンス。敵方ギャングを抹殺する為の爆弾を仕掛けたサッカーボールが『運び屋の失態(Échec au porteur ←仏語原題)』により、或る少年が別れた父親(少年は離婚と知らない)からプレゼントされたばかりの大切なボールと入れ替わった!!厄介な事に二つとも同型の新品だ!行く手にはもどかしいすれ違いがいっぱいだ!!四つ昔前のコード型スリラーなのかこれは!?!? 半ばより警察小説の色合いがせっかちながらも濃厚に参戦! 親子の愛情や男の友情物語が無骨ながらも細やかに。造形豊かなちょい役共もよく動き喋り、考えを巡らし勘違いをし、魅力たっぷりだ。。主人公は入れ替わる。だから誰なんだそのスタンって黒幕(?)はよ!? 「自動車競走選手」「片輪者」「キャマンベール(チーズの名)」「ちんばを引く」等々、古きを懐かしむには良い翻訳語もちらほら(新訳は出てるんでしたっけ?)。サッカー攻撃陣のインナーってのはトップ下の事か? 或るおかみさん曰く「(亭主は)あれでもアナーキストだったんですよ」って。。ジョークなのか違うのか気になる台詞。 警官が、恋人の安否を憂うジャクリーヌの耳にいきなり受話器を当てがうシーンも印象深い。 悪ガキがパトカーに乗って夜間のパリ市内を突っ切って行くシーンは本当に楽しそうだ!それも車中じゃ電話による父親の証人訊問が進行中! イチロー主演の古畑任三郎ワンシーンを思わせる病院の場面もあった。 誰やねんジュリアンて。レノンの息子か? 最初からネタバレされてる爆弾ドカンの条件は。。時間でも無けりゃ、高度ならぬ、温度か!そこだけ取りゃ大味な推理クイズのネタにもならあな。しかし結末は。。ブラウン神父の逆説力はスリラー乃至サスペンス方面にも多大なる影響の手を。。ってか? この結末も充分推理クイズっぽいんだけどさ。 物語は本田翼のショートヘアの様にバッサリ終わった。 予想外に不幸な死人も何人が出た。 さようなら、楽しかったよ。 ところで古い創元推理文庫のカバー(白帯+パラフィンの上に紙カバーという過渡期の二重装丁は初見)、日下弘さんのイラスト、仏語/英語で言うfootball(サッカー)じゃなくて米語のfootball(アメフト)の楕円ボールになってますよ!! |
No.518 | 6点 | クロフツ短編集1 F・W・クロフツ |
(2016/03/25 02:12登録) 抒情と言ったら大げさ、薄っすら漂う雰囲気が魅力的。そこに倒叙ミステリクイズ的タイムリミット感に後押しされたスリルが噛み合い、通常の短篇集には見られない密かな愉しみを撒き散らす。言ってみりゃきれいな推理クイズ本。シムノン「13の秘密」に通ずる良さがあります。原題’Many a Slip(失敗いっぱい)’なる本国英国での企画短篇集。 床板上の殺人 /上げ潮 /自署 /シャンピニオン・パイ /スーツケース /薬壜 /写真 /ウォータールー、八時十二分発 /冷たい急流 /人道橋 /四時のお茶 /新式セメント /最上階 /フロントガラスこわし /山上の岩 /かくれた目撃者 /ブーメラン /アスピリン /ビング兄弟 /かもめ岩 /無人塔 (創元推理文庫) 真相が明かされてみれば本当にちょっとした、常識の延長の様な解決の話が目立つが、そんな日常感さえ愛おしく味わえる対象になっているのはやはり作者の誠実にして端正な筆運びに依るもの。わたしは最後の二篇「かもめ岩」「無人塔」がその犯罪舞台のうら寂しい仄暗い口数の少ないムードも手伝ってか、特に印象深い。そんな二篇で〆るのがいい。 こういう本こそ何度も読み返しちゃうんだよな。。 |
No.517 | 7点 | 閉鎖病棟 帚木蓬生 |
(2016/03/23 10:23登録) ミステリの ミの字を見せて 他は棄てり 冒頭に悲劇的エピソードを三章。それぞれ時代も異なり、いかにも物語の長い道程の何処かでミステリ的収束を見せそうな期待が煽られる。 と思えば何よこの、序盤でいきなり重たい伏線これ見よがしの起き去り! まさか、瞬殺で回収されるとか。違った。では脚の長い伏線で人生劇場を演出ってわけなのか。。? 四章からは精神科病棟の賑やかな日常と時折の非日常の描写が、それまでの三章との断絶も無く淡々と始まる。 この文章が凄くいいわけだ。 冒頭エピソードに登場した人達もそうでない人達も様々な角度で交差し合い助け合いながら今日を生き、時には明日を見つめ、過去を思うこともある。 殺人は いつになったら 起こるやら 病棟内、最初に出て来るドウさんとチュウさんはベトナム人の名前かと思ったよ。ストさん、サナエちゃん、お辞儀婆さん、ちょっと怖いダビンチ、医師くずれのハカセ、昭八ちゃんと甥の敬吾さん、嗚呼秀丸さん、嗚呼クロちゃん。。外来の島崎さんはまだ少女。新しい担当医は前任の嫌な男と違って話の分かる素敵な女医さん。婦長も意外にいい奴。一人だけ大悪役のヤクザにさえ最期に作者はこっそり優しさを注入。萩病棟のジンちゃんてのはまさか元ピンクルのジンちゃんじゃないかと心配したもんだ。 他にもいっぱい、記憶に残る魅力的な人間たちに出遭いましたよ。 サスペンスなど 時には野暮さと 周五郎 (字余り) 物語の舞台は実のところ「開放病棟」でありながら表題は「閉鎖病棟」。この齟齬には何らかの隠喩が込められていますね、きっと。 (開放より閉鎖の方が題名インパクトがあって売れそう、というのも一つにありましょうが) 結末や あゝ結末や 始まりや 西内まりや 竹内まりや TBS社員を辞めて医者になって後に兼業作家になったという不思議に贅沢な履歴を持つこの人の作品、まだホンの少ししか読んでいませんが、書評等から察するに、ミステリ視線で見た場合、それぞれの作品でどれくらいミステリ度合い、サスペンス度合い等が強いか、実際に読んでみないと分からない(書評だけでは分からない、読者によって感じ方、捉え方がかなり違う)というタイプの作家さんの様な気がします。 ミステリの つもりで読んで 悔い無し (字足らず) |
No.516 | 6点 | 動機と機会 土屋隆夫 |
(2016/03/18 02:43登録) 動機と機会 /ゆがんだ絵 /午前十時の女 /寒い夫婦 /地獄から来た天使 /天国問答 (天山文庫) 一見かっちりしたコンセプトに基づく企画短篇集らしきタイトルを持つ本書ですが、決してそういうわけではありません、がそんな事にお構いなく流石に面白い信頼の土屋印文芸ミステリ短篇集です(ちょっと軽め)。ま、傑作撰とまでは言えませんがね、それなりに 高いレベルで それなりに。 |
No.515 | 6点 | 九十九点の犯罪 あなたも探偵士になれる 土屋隆夫 |
(2016/03/18 01:45登録) 夫か妻か /開いて、跳んだ /九十九点の犯罪 /見えない手 /民主主義殺人事件 /わがままな死体 /Xの被害者 (光文社文庫) 土屋氏らしい陰影は匂えど、比較的軽いショートミステリー集。中でも質の良い推理クイズの様な趣きが愉しい表題作「九十九点の犯罪」と「Xの被害者」がやけに印象的、文学と推理クイズの融合とでも言いましょうか。社会派近代史ミステリ「民主主義殺人事件」のラストで犯人が漏らす一言も忘れ難し。 統一性に乏しい寄せ集めみたいな一冊だが、それぞれの作が明暗はあれど輝いている。傑作撰とまでは行きませんがね。 |
No.514 | 7点 | 五番目のコード D・M・ディヴァイン |
(2016/03/17 14:00登録) 表を見れば、何だか妙に古のソウルシンガーっぽい名前の登場人物がいっぱい、中でも ダンカン・エドワーズってのは唄えそうだなあ(ってか本作発表('67)十年近く前に多くの犠牲者を出したチャーター飛行機事故、ミュンヘンの悲劇、で亡くなった早熟のマンUキャプテンと同名だ!)と思ったら最後にまさかのレナード・コーエン警部!!(同名カナダ人歌手の方は本作発表翌年に音盤デビュー)と思うと第一の(名付きの)登場人物が登場人物表ではチョイ役みたいなとこに記載の人か、何だこれ!?さてその次に登場するは表にさえ登場しないカートライト夫人とな!おいおい俺たちキャンディキャンディ世代にとっちゃカートライトと言えば大地主カートライトさんだぜ!?ひげづらだぜ!?キャンディに庭師と間違われるんだぜ!?超チョィ役おやじ(たしか名前しか出ない)でエンジェルツリーさんだと!?!?俺の心の中の架空の人物エンジェル・フィツパトリック・ピュアハートさん(アイルランドの町役場で働く独身中年おやじ)を思い出すじゃないか!! 要するに、この小説めっちゃオモロそう! ツカミのプロだね、プロキャッチャー! しかし この登場人物混乱させっぷりこそ、初めてのバック宙的キラメキの叙述革命、に寄与する基礎固めの何らかではあり得ぬか!? 違うかなぁ。。おっと序盤からいきなり来たよ、ナニが。いや序盤と呼ぶには微妙に遅い、のがニクいんだよ、めちゃめっちゃ光ってる伏線、たーまんねーなー。 少し読み進んで、この登場人物表(決して少なくはないが)の中に本当に八人もの哀れな犠牲者が押し込まれているのかとふと疑問、ぁ違うか、題名通り五人で終わるのかな? 未遂で終わった最初の被害者がもっかいやられて今度は死んじゃう、とかって事は無いのか? 途中、急に、連続のはずの殺人が割と途絶えるんだよな。。 警察小説ならぬ記者小説(新聞社小説)らしい鮮やかな属性の縁取りもうっすらと快適に。登場人物表に出て来ない夥しい人数の魅力的な各新聞社、学校関係者も動くこと動くこと。 さて結末は。。 あああー そういうことね、ァんだょ正統派じゃねえか って(笑) つまり 軽~ぃ叙述トリックがあったってわけかぃ。。 微かにクリスティを思わす小さな企画のポイントがあるよね、ふふん、まちょっと尻すぼみなトコはあるけど、愉しく緊張途切れず読んだからな、いいんじゃないか? ロジッカーでないおいらでさえ「もうちょっとロジックで追い詰めたらどぅよ?」って思っちゃった節もあるけど、まあいいさ。 主人公が前の職場を去った理由、背景は最後まで仔細語られずかよ、シリーズものでもないのに。。 主人公の人物造形は。。まあ普通かしら。それこそ一皮剝いたら結構アクの強かった「ダンカン・エドワーズ」をもっとヒつこく描写して欲しかったね。そして 今季はマンUでもリヴァプールでもない、まかさのレスターが首位独走中だ。。。 未来はどうあれ、その時点ではハッピーな物語のエンディング。やはりレナード・コーエンの「ハレルヤ」(‘84)を心の中でしみじみ唄って〆だ。(歌詞最初の方で、いかにも隠喩ありげな言葉遊び風に’五番目の(the fifth)’とか’コード(cordじゃなくてchord)’とか出て来るんだけど、偶然だべえな) |
No.513 | 6点 | 恐怖の谷 アーサー・コナン・ドイル |
(2016/03/16 12:00登録) 飽くまで私の好みで言えば。。 緩やかな失速ラインを描いた短篇と逆に、後に行くほど面白さを発揮するホゥムズの長篇、って思います。(少なくとも短篇については大方と同じでしょうか) さてさてやはり、ホゥムズ四長篇の中では最後のコイツが一番のお気に入り。 例の「第二部:過去の因縁話」も物語全体の構成要素としてしっくり嵌っているし興味も深い。「緋色」よりはずっと好きだ。 思えば幼い頃も、「バスカヴィル」ほどのワクワクはないものの、結構好きな冒険物語だった。ただ「第二部」を置く意味がさっぱり分からず、おかげで作品全体としての印象はちょっと落ちた。今は「犬」より「谷」がいい。 |
No.512 | 5点 | バスカヴィル家の犬 アーサー・コナン・ドイル |
(2016/03/16 11:41登録) 暗闇の中でキラキラ何かが光っているよな雰囲気が好きだ。 幼少の頃、長篇ホームズでも例外的に気に入ってたな、何ともワクワクさせてくれるサムシングがあってね。決して謎解きがどうとか、意外な結末にどうとか、そういうんじゃないんですけどね。やっぱ何を措いても雰囲気っすよ雰囲気。全ては雰囲気を最高に持って行くための手段。ミステリとか小説に限らない事だろうがね。 とか言っといてやっぱ点数はこんくらい。 |
No.511 | 5点 | マラコット深海 アーサー・コナン・ドイル |
(2016/03/15 11:24登録) サー・アーサー最後の小説はノン・シリーズSF。 チャレンジャー教授の代わりにマラコット博士が登場、主人公の壮健なる青年を巻き込んで深海探索、ところが事故が起き、想定外の超深海へと沈み切ると、そこには思いがけず、退廃を極めた"人間社会"が存在していた。。 そして色々あって(笑)。。 爽やかなラヴ・ストーリー的結末で〆るカラフルな作品(深海にて何らかの出逢いがあったわけやね)。 何かがこうガツンと来るわけでなく、厳しい文明批評こそ有るもののセンス・オヴ・なんとかのセの字も嗅ぎ当たりませんが。。上質の退屈と共に短い小説をゆっくりと時間を掛けて読んでしまったものです。 |
No.510 | 9点 | 半七捕物帳 岡本綺堂 |
(2016/03/15 09:30登録) 明治のサム・ホーソーンか、江戸のシャーロック・ホームズか。 冒険と謎解きの瑞々しいA級融合は後者、心地よく複雑な物語視点の構造は前者を思わせる、戦前日本栄光の古典ミステリ作品群です。 江戸末期の探偵譚を明治期に追想して語る、という形式のストーリーを大正~昭和初期にかけて紡ぎ出す、というそれだけでもう、過去と大過去の並走感が、思わず身を委ねたくなる分厚さを各物語に付していますね。更にそれを平成グローバルストラテジック格差社会の現代に読むとなったら、これはもう自ずと浮かび上がるメタ・メタ感覚に虹の向こうまでスイッと飛ばされちまう。。 ってなもんです。 無駄と撓みは無く、スリルと知的興味、人間味と温かさが充満する豊かな短篇時代小説世界に、いつか君も、出遭えますように。。 とりあえず私がまとめて読んだ事があるのは『講談社大衆文学館 半七捕物帳』(北原亞以子編)で、目次は下記の通り。 十五夜御用心 /金の蝋燭 /正雪の絵馬 /カチカチ山 /河豚太鼓 /菊人形の昔 /青山の仇討 /吉良の脇指 /歩兵の髪切り /二人女房 編者のセレクション力も手伝っているとは思いますが、やはり磐石の9点相当かと。 |
No.509 | 6点 | 穴の牙 土屋隆夫 |
(2016/03/14 20:13登録) たとえばあなた、平穏無事に過ごしているつもりでも、あなたの周囲そこかしこに『穴』は有り、あなたがそこに陥るのを『牙』を剝いて待っている。世の流れから偶然と出来てしまう穴が多数だが、中には人間(あなたの敵、もしくはあなたの味方、まさかあなた自身。。)が意図を持って作り上げる穴もあり。 穴の設計書―立川俊明の場合 /穴の周辺―堀口奈津の場合 /穴の上下―木曽伸子の場合 /穴を埋める―戸倉健策の場合 /穴の眠り―加地公四郎の場合 /穴の勝敗―佐田と三枝子の場合 /穴の終曲―三木俊一郎の場合 各話冒頭に「穴の独白」なる(ちょっとあざとい、時にユーモラスな)プロローグが置かれる。「人間如きが一度嵌った穴から逃れようったって 云々。。」「穴どうしにも競争があり、この件では俺は○○の味方をして▽▽を陥れようとしたが、別の穴は▽▽に味方して○○を落とそうと。。」「□□は自分が穴に落ちておきながら、別の人間用に自分で別の穴を作ろうとしやがって。。」 等々。これらの短いつぶやきがストーリーの流れを暗示しているわけですが。。 第一作目「穴の設計所」が予想外に軽い、まるで鮎川哲也が気張らず書いた緩~い倒叙短篇(どうしてバレたんでしょうか?系)みたいだったもんで、全作そのタッチで行くのかな、それはそれで気楽でいいや、なんて思ってたらそれぞれ物語の構造も感触もタイプはバラバラ、わざわざ「穴」なんてナレーターを嵌めこんで無理に統一感を出そうとしたかのようでもある。各篇タイトル「穴のXX」の「XX」の言葉選びに必然性が見えないのが多いし。。(特に「穴の上下」なる一篇、まさかアッチのエッチな話かと思ったら、そういうわけでもなかったが、ともかくも意味不明な題名付け) 中に一篇、土屋さんの悲惨趣味(!)が抑えよう無く炸裂してる、とても印象深いのがあった。「日常のサスペンス」が陰惨無比な結果に繋がってしまった、というお話で。。 その一篇の結末を除けば、時に陰鬱な題材ながらも筆のタッチは軽いストーリーがほとんどで、おぞましい通し題名『穴の牙』はちょっと肩透かし。 でも、この手を愛好する向きにはじゅうぶん面白かろう。ミステリファン全般に強く推薦とは行かないが、土屋さんのファン、昭和30~40年代国産ミステリ好きの人にまずは絞って薦めたいところ。 ところである一篇にて、ふと弾みで登場した「橋尽くし」、〆めが「泪橋」だったのはどういうわけか泣けた。 |
No.508 | 7点 | カブト虫殺人事件 S・S・ヴァン・ダイン |
(2016/03/10 22:03登録) 題名ですっかり、ジュヴナイル・ミステリかと思ってたんですよ。嘘だけど。 おお、アバクロンビー&フィッチの創始者親戚筋みたいなのが出て来たと思ったら、架空の人物か!! 何と無く犯人は“あの人物”じゃないかと勘付きはしているものの、あのファイロによる意外なタイミングでの真犯人名指しの直後にウッ!と声まで出てしまったよ。(意外性ってやつは犯人が誰か、真相が何かってだけじゃないし、本当に奥が深い!) 真相解明トークの、論理と心理の美しいマリアージュにゃあ圧倒されましたよ。 と思ったら直後に何やら首を傾げたくなる意味不明のシーンが。。 その意味する所は、ええっ!? 凄いよなあ、堂々の6点候補(時々は5点まで落ちた)がオーラス前、一気に6.8点(7点)に撥ね上がったついでに、その後の更なる意外な展開、そしてあの美しく爽やかな後味のラストで7.4点(7点には変わりなし)まで行っちまいましたよ、エフェンディ。だが俺はエフェンディと違い、トスカニーニのベートーヴェンは、感傷を排していかにもベートーヴェン表の顔らしい剛直さの中にデジタル的な冷徹さをも兼ね備えさせ、極めて魅力的な音像のアウトプットに成功していると思う、モダニズムとか言うんですか、FND。 物語に底流する人種偏見の色も個人的には許せる範囲です。 確かに基本トリックは珍しいもんじゃありませんがね、見せ方、特にその暴き方の見せ方、読者の騙し方が巧い、そして綺麗ですよね。まあ、きりの無い慾を言えば真犯人が●●●●●●●た理由が割と常識的で、更なるおぞましさの深淵までは覗かせてくれなかったことがやや惜しまれますかね。。あとそうそう、飛んで来た短剣の件はちょっとねえ、もう少し上手に見せられなかったものか、犯人じゃなくて作者が。でもいい作品ですよ。 ナイスガイ、ハニはザ・ストーン・ローゼズ五人目のメンバーかと思ったら違ったな。。忘れ得ぬ登場人物だ。 さて、アマゾンでレジーでも注文するか。 |
No.507 | 6点 | 硝子の家 島久平 |
(2016/03/08 11:09登録) 比喩でなく、本当に全てガラスだけで建築された、敗戦日本の特殊邸宅で起こる、当主(大手硝子会社社長)の密室殺人。。。。 探偵の名は「伝法」。 これだけで魅惑せられずにはいられない’幻の長篇’は鮎川哲也のアンソロジーで陽の目を見る。 第二、第三と続く殺人劇は全面ガラスの家ならではの「逆密室」で行われた、という趣向。。。。 本作、長篇とは云えど短い。その短かさ、詰め込み急務の勢いが仇になったか、いささか消化不良のトリック、真相、終わらせ方を晒してしまっている。 とは言え真相の一部はなかなかに凄まじく、読む者の気持ちを衝いて来ること請け合い。 文章は読みやすく洗練。 そして邸宅のヴィジュアルイメージは今もって脳内に鮮烈だ。。 |
No.506 | 7点 | 笑わない数学者 森博嗣 |
(2016/03/07 12:41登録) 今晩は 国枝桃子です 嘘です この作者の文章には肌で嫌悪するポイントが幾つかあるが、それでも面白くてスイスイ読んでしまうなあ。なんだよナンバプレートって?難波駅前のお好み焼きか?スピーカってのは星のスピカに掛けたのか?センサとセンセは同じ穴のアレか?? 「まさかそれは無いとして」と横においといた○リ○ー○ョ○の基本みたいなのがまさかの魔術トリックだったとは。。おかげで逆正常位だか逆トリックに引っ掛かれなかったぞ。(だが、そこに込められた隠喩たるや、相似に向けての暗示たるや!) トリックだか真相暴露は、思わせぶりな○○の正体追求を含めて、何かを越えられない弱さをだだ漏らしの様に見えた。それでも蔑めたもんじゃないし、本としてすごく愉しい、再読はしまい。 定義? たしかにな、今やカリフォルニア州で白人は五割割れのマイノリティだと言うが非白人を一括りにする定義の合意されっぷり、それから日本でのその解釈っぷりは一体どうよ?? あ~ぁ萌絵のブラジャにスターバクスコーヒのシミ付いちゃったよ。 とにかくラストスパートの物言い群には、泣けながら笑ったよ! 数学的に涙腺を刺激するあのエピローグ、ラストシーン、〆め方が好きなんだ。 視座は高かろうが何だかもにゃもにゃした本作の逆トリック習作(?)よりは、ずっと視線を落とした「高木家の惨劇」の実際的トリック反転の方が、完成度の高さは言わずもがな、味わい深さもよりひとしおと思えます。本作の様なより高次元での逆トリックを成功させるには本作で作者が見せた文章力ではまだ足りないのでは。風桜青紫さん仰る通り「まさかあの人が○○の正体だったなんて!」とアゴが外れて病院へ急ぐほどの登場人物が(登場人物表の中に)いない。一部の本格・新本格ミステリについてよく「人物が描けていない」などとピント外れな批判がされる事がありますが、本作の場合は本当に切実な意味で「本格としての人物が描けていない」のではないでしょうか、もし、逆トリックの最大の狙いが○○の正体周りにあるのだとしたら。。 以上、国枝桃子でした。 嘘です。 |
No.505 | 8点 | 死の接吻 アイラ・レヴィン |
(2016/03/04 04:43登録) ビートルズの全米連続一位記録をストップさせた故事でも名を馳せるサッチモのポップ・ヒット「ハロー・ドーリー」はまさかこの作品の台詞から出来た曲じゃないだろうか、と想いを馳せます。 社会派の熱、サスペンスの冷気、叙述操作の妙、恋愛ファクター、分厚い人間悲劇。。 と欲張りな重要因子を抱合しつつ、社会派と恋愛、そして悲劇要素については絶妙な地点でリミッターを掛けたのが功を奏したか、叙述云々についてはもう少し引っ張ってもいいんじゃないかとも思えるが、ともかく濃密な内容群が際どいバランスの良く取れた枠組で高速進行する、サスペンス型ミステリーの古典良作です。 何と言っても映像的、音響的、更には高温度、高湿度に鋭角的な匂いの感覚まで強烈に迫る、あまりも素晴らしく映画的な終盤のクライマックス・シークエンス、そしてそれに続く、これで終わるのではなく’これから始まる’嵐の前の静謐なエンディングには今にもエンド・ロールの文字群が被さって来そうだ、いや、映画だったら後日談までじっとりと描いてから締める所か。 正直なところ、7点で終わりそうでしたが、このクライマックスの強烈さ(ミステリ的面白さとは違う)で1点アップしてしまいましたよ。(細かく言えば7.2点から7.8点に0.6点上がったくらいの感覚) 【以下、本作での反転のあり方についてネタバレあり】 どんでん返しが最後じゃなくて中盤に来るのは「あれ!?」って思っちゃいましたけどね(多くの皆さんが語られたと同じく、もう一ひねり有るかと期待してしまいました)、それでもサスペンスいっぱいの場面がふんだんにあって緊張は途切れません。’手紙’を投函のリミットとかね、手に汗ですよ。。’新婦の持ち物’の手掛かりも唸ります。 もしも本作に「更なるどんでん返し」を付するとしたら’三姉妹の別れた母親’又は/及び’亡くなった真犯人の父親’に何らかの重要な役割を持たせるとか、だろうか。 だけどやはり、真犯人を最後に明かすというやり方をどうして取らなかったのか(この作者の頭脳なら出来たんじゃないか?)、それをやったら衝撃も如何ほど甚大だったろうか、と不思議に思う気持ちは消え難し。(当時既に作者はそれを「あざとい」と認識していたのか?) それでも「構成の妙」には充分納得。基本アイディアから小説の実体構築まで、実に鮮やかと思います。 【ネタバレここまで】 終わってみると、本作の最重要テーマの一つが「親子愛」であった事に今さらながら気付かされ、泣けます。 そして彼は本作を両親に捧げた、か。 原題は’KISS OF LIFE(マウス・トゥ・マウス人工呼吸のこと)’をひねった’A KISS OF DEATH’かと思いきや、’KISS BEFORE SLEEPING(おやすみのキス)’をもじったと思われる’A KISS BEFORE DYING’。そちらの方がちょっとだけ甘美なニュアンスが拡がりますが。。 知られた所で二度映画化された様ですけれど、両者とも(犯人の正体を伏せた)ミステリー仕立てにするのは放棄しています。しかし「イニシエーション・ラヴ」や「ハサミ男」をまんまと映像化してしまった今の日本映画界だったら、原作に忠実にやる事も不可能ではないのでは? と夢見てしまいますが。。若いイケメン俳優たちの配置はどうするのかな。。 ってそんな単純なもんでないだろ、的な? (そうそう全く内容の違う「死の接吻(KISS OF DEATH←前述のコトバ)」なる映画もあるのでね、注意が必要ですね。) ところでハヤカワから出てる新装文庫版(新訳ではない)のカバー、素晴らしく良いですね! 美しくて、不気味で!! うちの小さい息子が「あ、『の』ってかいてある!」だって、あはは。 あとね、訳者あとがきで長々と引用される、様々な"当時の反響"、これがじぃつに愉しくてね! |