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ミステリの祭典

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大いなる殺人
私立探偵マイク・ハマー

作家 ミッキー・スピレイン
出版日1953年09月
平均点6.60点
書評数5人

No.5 7点 クリスティ再読
(2023/11/24 20:43登録)
さてポケミスの(事実上の)No.1 の本作。読んだのは清水俊二自身の改訳版なので、やたら読みやすい。(というか「果たされた期待」の向井啓雄訳が読みづらくて参ったからね)No.2 の「赤い収穫」は砧一郎、No.5 の「裁くのは俺だ」は中田耕治。ここらへんがポケミス創刊当時のエース翻訳者という感じだったんだろう。

空が低くたれさがって大地を包んでいるような夜だった。

ポケミスがこの一文で始まった、と思うと面白い。スピレインは文章にアジがあるから評者けっこう買っている。で、この雨の夜にハマーが入ったシケたバーで嬰児を抱いた男が、涙を流して子に別れを告げて雨の中に飛び出し、車からの銃撃で殺されるのをハマーは目撃する...

ハマーはその子を一時的に引き取って面倒を見る...はずだけど、実はナースを雇ってほぼそのナースに任せっきり。実はヴェルダ姉さんはフロリダ出張。都合がいい...(叱られる)

本作はミスディレクションがなかなか効いていて、ミステリとしてナイスな部分もあるし、ギャングたちにハマーが付け狙われて結局ハマーがギャングたちを退治することになるのは本線外でお約束。清水俊二だと軽妙、といった感じで話が展開するからか、ハードになり過ぎず軽いユーモア感も漂って、なかなか、いい。だいたいハマーってお喋りだしね。
「あなたの半分は私がこれまで見てきた中でいちばん美しい」
「じゃあ、半分だけお礼申しますわ」
と女たちに生彩があるから、中盤もそうダレずにつるつると読めていく。

でこれもショーゲキのラストシーン(なぜショーゲキかは内緒だが)

もう顔とは云えない赤く濡れた不気味なマスクにしてしまった。

でサクっと話を締める。お手際お見事。
スピレインって職人的な冴えってある作家だよ。

No.4 6点 E-BANKER
(2017/02/08 21:15登録)
私立探偵マイク・ハマーが大活躍するシリーズ長編四作目。
1951年の発表。個人的にはスピレインの初読となった本作。

~激しい雨が窓を叩く深夜。ある酒場にずぶ濡れの男が、赤ん坊を抱えて入ってきた。男は震える手で酒をあおると、赤ん坊を置いたまま、また雨のなかへ出て行った。酒場に居合わせたマイク・ハマーも男に続いて出た。街灯が男のシルエットを映したその瞬間、銃声が轟き男は倒れた。マイクの胸をよぎる熱い怒り! 残された赤ん坊を預かるかたわら、マイクは事件の糸を手繰り始めた・・・。果たしてマイクがたどり着いた真相とは?~

酒場に轟く銃声と残された赤ん坊の泣き声が印象的な冒頭の場面。
ハードボイルドと赤ん坊とは随分異色な組み合わせなのだが、これが本作に大きなインパクトや深い余韻を与えることとなる。
その辺りはプロットの妙。

ただ中盤はややダレる。
なにぶん初読なのでよく分からんが、マイク・ハマーがNYの街を縦横無尽、更になかなかのモテっぷりを見せてくれるのはいいんだけど、事件そのものは横に広がったり、過去(=縦)に広がったりして、どうにもとっ散らかった印象。
真相そのものは意外とといえば意外なのだが、よくあるパターンといえばよくあるパターン・・・というもの。
まぁその辺に落ち着くよなと思っているうちに、突然訪れるのがラストの一場面なのだ。

とにかくこれが白眉っていうか、一番の衝撃。
これは・・・強烈に頭に残った。
そうか! これがやりたかったのか、と思わず納得。
だから、冒頭から何度もアレについて書いてたのね・・・

謎解きとしても一定のレベルにあるのかもしれないけど、私にとってはラストシーンが全てともいえる作品。
タイトルもやっぱりこのシーンを指しているんだよね?
(西海岸舞台のハードボイルドは乾いた印象だが、東海岸舞台のハードボイルドはやっぱりウェットな印象・・・あくまで個人的な感覚ですが)

No.3 7点 斎藤警部
(2016/12/09 19:05登録)
格調は普通だがよく書けてて読ませるわ、グイグイ来るわ、泣かせるわ(子供の件)。 陰の悪者は。。見通した通りだ。しかしそのちょっと喜劇的でガッツリ皮肉な経緯、まさかの立ち位置はハレーションを起こすくらい予想外で上等な山椒の様にシビレさせてくれた。西村京太郎の某有名作が頭を掠めるその経緯の意外さにはトリッキィな本格興味もたっぷり。マイクは観察も推理も死闘もきちんとキメてくれたな。。意外と青臭い所もあった(笑)。 最後、まさかの子供の役割! 一瞬じゃなく一秒って、そういうことか。。落雷のようなサドゥンエンドに両肩しっかり掴まれたよ。

「その帰途」の酒のアテにサンドウィッチか。参考にするぜ。

「刑事コロンボ」某作の被害者役(通俗からシリアスに転向しようとして殺られる人気小説家!)で出演した事のあるミッキー・スピレインさん。ハヤカワミステリポケットブック、ナンバー101(実質一冊目)として知られる本作。あゝ痛快だ。

No.2 7点
(2016/02/23 18:48登録)
マイク・ハマー・シリーズ第4作では、このタフガイ探偵がなんと殺された男の赤ん坊を自分の家に連れて帰って世話をするなんて、意外なところを見せてくれます。もちろん探偵の仕事があるので、すぐに看護師をやとって面倒を見させるんですけど。その仕事も、誰かに依頼されてではなく、その子を孤児にした犯人を許せないという正義感から、捜査に乗り出すのです。
で、その殺人事件を中心としたプロットはというと、これが謎解きとしてかなりきっちりできているのです。ハマーがギャングたちにずいぶん痛めつけられたりもする派手でハードなストーリーの陰に隠れて目立ちませんが、これまで読んだスピレインの中でも、最も論理的に組み立てられた作品だと思います。
ラスト1段落のオチをつけるために、その直前はご都合主義な展開になっていますが、オチのための伏線は早い段階からたっぷり張ってあります。

No.1 6点 mini
(2013/09/24 09:53登録)
明日25日発売予定の早川ミステリマガジン11月号の特集は、”ポケミス60周年記念特大号”、

さてクイズ、記念すべきポケミスの通し番号第1番は何か?
答をご存知の方も多いと思うが、正解は”存在しない”である
そう、存在しないのだ、なぜなら通し番号は1番から始まっておらず”第101番”からスタートしたからだ
1~100番はいずれ定番古典作品あたりで埋める予定だったとの噂も有ったが、結局現在まで欠番のままである
結果論だが、全体的方針に縛られない奔放な叢書となってるとも言える
そして通し番号101番、つまり実質的第1冊目がスピレイン「大いなる殺人」であり、続く102番がハメット「赤い収穫」である
つまり1953年のポケミスの創刊は、古典本格などではなくハードボイルドから始まったのだ
面白い事に後れること6年、1959年に創刊したライヴァルの”創元推理文庫”の最初の4冊中にもロスマクの「凶悪の浜」が含まれており、これを見ても本格派だけを偏愛しハードボイルドを無視するという姿勢は読者として間違っているのではないかと思える

さらにえっ!と思うのはスピレインでも処女作の「裁くのは俺だ」ではなく、ハマーシリーズ第4作目の「大いなる殺人」という妙に中途半端なセレクトなのだ
「裁くのは俺だ」が翻訳権とかの問題で刊行が大幅に遅れたとかなら分からないでもないが、通し番号105番でちゃっかり刊行されている
とある作家を手掛ける場合、律儀にその作家の処女作から順番に刊行したがる創元と比較して、ええい!出せるものから出しちまえ的な感じが早川らしいのかも

あーあ、「大いなる殺人」の感想まだ書いてねえや、一応書評しておくと、いつものハマーシリーズらしく安心して読めます、終り(苦笑)
じゃあまりにも何なんで、今回はお約束の黒幕以外は悪党が殆どプロの悪党ばかりなので、ハードボイルドファンにしか向かないと思います、スピレインを初めて読むならやはり「裁くのは俺だ」からでしょう
私はこちらの「大いなる殺人」の方が好みですけどね

ちなみに通し番号106番にはJ・H・ウォーレス「飾窓の女」が入っている
聞いた事も無い作家作品だがどうやら映画化絡みのセレクトっぽい、今で思うと既に創刊初期に後の名物企画”ポケミス名画座”の萌芽が見られるのも興味深い

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