home

ミステリの祭典

login
斎藤警部さんの登録情報
平均点:6.69点 書評数:1304件

プロフィール| 書評

No.644 4点 イレブン殺人事件
西村京太郎
(2016/11/30 00:27登録)
孤島の廃館で合宿に勤しむサッカーチームのメンバーが次々に殺される物語でないのは良いとして、てっきり十一篇の連作企画と思いきや、十年越えの長きに渡って雑誌掲載された作品達の寄せ集めと来た。アンバランスな関係の乃至バランス崩した男女の思惑サスペンスが大勢。中途半端に無理のある設定が多い上、どれもガツンとは来ない反転結末で読み捨て向けだが、4.48の四捨五入で4点に落ちるのが惜しまれる程度の魅力は有る。これも京太郎の底力。
しかしながら、イカす京太郎、良い京太郎、強い京太郎を読んで欲しいファンとしては、人には薦められない。

ホテルの鍵は死への鍵/歌を忘れたカナリヤは/ピンクカード/仮面の欲望/優しい悪魔たち/裸のアリバイ/危険なサイドビジネス/水の上の殺人/危険な道づれ/モーツァルトの罠/死体の値段.
(角川文庫)


No.643 6点 クイーンのフルハウス
エラリイ・クイーン
(2016/11/27 11:42登録)
軽いね、まぁまず悪くないね。

【三篇のノヴェレット】
ドン・ファンの死/ライツヴィルの遺産/キャロル事件/
【二篇のショート・ショート】
Eの殺人/パラダイスのダイヤモンド(ノヴェレットの幕間其々に入る)

ショート・ショートの方は、空耳・空目ネタで済ましちゃってて、何故だかちょっとホンヮカするけど、切れが甘いな。
ノヴェレットの方は「流石クイーン、これくらいはやる」って所かな。


No.642 9点 ジャッカルの日
フレデリック・フォーサイス
(2016/11/24 17:00登録)
「わしもだんだんジャッカルの人柄がつかめてきたような気がするよ。」

長い長い物語を走馬灯のように駆け抜ける、著者の人間力爆発の大快作。「噂に違わぬ」なんて陳腐な形容がこれほどどストレートにはまるエン書(エンタテインメント書籍)が他にどれだけ有ることか。
あまりに面白過ぎて、もしも本作の様な最高の謀略サスペンスに孤島の館連続殺人とまさかの叙述トリックまで絡めて「ジャッ角館の殺人の日」みたいなのを人工知能に書かせてみたらその罰としてどんな過酷な天変地異に祟られる事やら、とあらぬ杞憂に囚われてしまうといった有様の今日この頃です。

ジャッカルと言いドゴールと言い、その造形に絶妙な所でリミッターを効かせているのも最高です。と言うかむしろ探偵役筆頭ルベル警視を始めとした準主役、多くの脇役陣を適度にこってりした心理描写のグレイヴィソースに浸したが故の相対的なナニかも知れません。とにかく至る所、バランスの良さが光っていますね。それをこの爆発的面白さとボリュームの大きさと、嗚呼、兼ね備えているってんですから参っちゃう。(おまけにかなりの早書きだったらしいな、本作は)

地位vs権力の逆転水路突破は劇的に沁みました。或る邂逅シーンの、読者にしか分かり得ない限りなき味わいを堪能しました。逆不確定性原理かよ。。と脳が嬉しがる箇所もありました。微妙な謙虚さが混じるさり気ない美食の光景も、私の好きな鮎川哲也のそれと異なるようで似たようで。。

それにしても、、昨日の川崎vs鹿島チャンピオンシップ第一戦を思わせる、思わず「●●●!」と叫んでしまう結末ですな。こりゃ○○○○!

嗚呼、■■の■■(または□□)。


No.641 7点 消えた奇術師
鮎川哲也
(2016/11/23 22:02登録)
密室の星影龍三篇。

「赤」「白」と並べられると「青い密室」は少し落ちよう。創元推理文庫の超弩級アンソロジー「北村薫セレクションx2」から漏れたのは頷ける。とは言え詰まらない代物では無い。つっても全体通して見ると「赤」「白」が突出してるかな。。いやいや「黄色」もなかなかどうして。

赤い密室/白い密室/青い密室/黄色い悪魔/消えた奇術師/妖塔記
(光文社文庫)


No.640 8点 沙高樓綺譚
浅田次郎
(2016/11/22 23:24登録)
都心某所にて、各界の成功者達の会合。 一人ずつ、秘密厳守で過去のヤバい話を告白し合う。
小鍛冶 / 糸電話 / 立花新兵衛只今罷越候 / 百年の庭 / 雨の夜の刺客  の五篇。

「某作品」こんな反転ザマ見たことが無い。内や外からひっくり返すんでなく傍から追い越す一瞬の旋風。息が甘く詰まります。
「某作品」二つの歴史物語の分厚い重なりに、清水義範かと思う滑稽な趣向が炸裂。こりゃ面白い!
「某作品」ミステリと思えば軽い。人間の話と思ってもさほど。しかし時代の話と見ればなかなか。
「某作品」燻し銀の文章の果て、むむむむう、と困惑させる嫌らしい終わり方。
「某作品」重い活劇。面白さが人間ドラマへの感銘を上回ったり、また逆転されたり。こりゃァ。。

ミステリと呼べないのが一つ、ミステリ性の薄いのが一つ、ミステリ性の高めなのが二つ、ミステリそのものが一つ。どれを取っても一般的ミステリファンへの訴求力万全な円熟の力作揃い。何しろ気合いが入ってますよ、言葉選びのペイヴメントに、外さず適量に。


No.639 8点 ダリの繭
有栖川有栖
(2016/11/16 23:18登録)
クィーン。。 俺とは何処かが合わないようで、やっぱり好きなクィーン。。。クィーン性の良いところばかり心地良く襲い掛かって来るよ。アリスアリスいいよ。
探偵側脇役の鋭さ流星級の一瞬コメントには背筋が直立!そしてその脇役探偵の着実剛腕フォローアップ! しかもその、実直眩しすぎる助言の花束。
嗚呼、この物語はあたたかい。
いいよねえ、何気な構成の妙もあるよ。もう目がパッチリよ。ほらそこでまたクィーン流絨毯攻撃よ。泣きますよ。
なのに一見「いかにもクィーン」な趣向を反転してみせたり、後年の手練れらしい素敵な古巣への恩返しもちらほらとね。

やがて探偵側では主役ばかりいい所を見せる局面に入っても物語のあたたかなスリルは持続。適度に入り組んだ立体的真相は魅力的。大胆でスケールの大きな、なのにやってる事自体はせせこましいという摩訶不思議な指紋捏造(!)トリックにはやられました。。恋愛側要素の真相が意外とシンプルで当たり前なのもまた良し。(そのぶん、ちょっとした変わった性癖譚が花を添えたね、ってが)

さてこれから書くことはネタバレ領域を低空飛行しますが、本作、こう見えて実はアリバイ物のかなりトリッキーな上級応用篇ってとこですかね、どうですかね。


No.638 6点 ミステリーの系譜
松本清張
(2016/11/15 00:39登録)
本の表題から受ける先入見とは大きくずれ、実際に起きた事件x3をクールな目線で語り尽くした内容。そこに敢えてこの題名を付したとあれば、何らかの創意工夫的「意図」の存在を感じずにはいられない。

闇に駆ける猟銃 / 肉鍋を食う女 / 二人の真犯人

冒頭作は、題名から察せられるかも知れぬが「八つ墓村」のモチーフというかインスパイア元となった「津山三十人殺し」の背景から後日談迄を冷静沈着、丁寧に敷衍したもの。余計な脚色は無し。記録文書の様なものだが清張の文章だから怖いこと苦いこと、ほとんどイヤミスです。

しかしね、こういう敢えて自論で踏み込まないドキュメンタリータッチでは意外とハッタリが効かないってか、むしろ(小説と同様)ハッタリ無しの横綱相撲で圧倒してやろうって企図なのかも知れないが、、もうちょっと味付けて欲しかったかもな。

他二作も程近い感触の力作イヤドキュメンタリー。いや最後の作だけちょっとあっさり味かな、内容は全く薄かァないんだが。
まあ、清張の長短篇をそれなりに数読んだ人向けでしょうなあ。


No.637 7点 ロウフィールド館の惨劇
ルース・レンデル
(2016/11/11 18:13登録)
読前の憶測をバサッと裏切る、悲喜劇ならぬ喜悲劇サスペンス! 心理的にはかなりのドタバタ! こりゃつまるところゲームの構造か、ってかなり早い段階で思っちゃいましたが。。主人公の文盲を補填する他の感覚の水際立った鋭敏さもまた、そのゲーム特有のルールみたいでね。 カタストロフィの予感はいっぱい、至るところにありましたよ。しかしながら。。
最後の最後に、見たことも無いよな逆アリバイ(?)趣向。それは或る「稚拙さ」が有ったが故の。。このラストスパートは萌えますよ。東野「天使の耳」を思い出す時間計算のナニもありました。
そして、そのラストスパートとはまた別の、二重底の、まさかの熱いクライマックス。。。
ユーニスは知らなかった。。。 


No.636 9点 永遠の仔
天童荒太
(2016/11/11 12:06登録)
地上の空中楼閣に化ける前の武蔵小杉やら、地下の鼠小屋に押し込まれる前のオープンエアー東横渋谷ホームやら'ミレニアム'前後のノスタルジックな舞台が嬉しい、心を病んだ女子一人と男子二人が「落とし前」の落とし場所を捜す物語。 こう言っちゃ不謹慎かも知れんが、摑んで放さぬ圧倒的な面白さ。始まりから 大いなる中盤を経て 終わりまで。

かまびすしい狂気。おとなしい狂気。
ある知見の有る無しを峻別する、最低限の、本来無色透明の一言。まるでイニシエーションなんとかのラストを彷彿(おモわセ)るその冷静で温かい台詞が中盤ど真ん中に。これは効いた!

自分騙しも自分騙せずも本当に複雑明快で、単純混濁で。
新旧時代のガッツリした事件がある所で一気に交わるから、たまらんのですよ。沈黙させられちまったぜ。。

これ言ったらネタバレだけど、、   物語が最後にまさかの「意外な犯人」暴露で締まったのはグッと来た。広義だろうと狭義だろと一級品のミステリ長篇。素晴らしい。


No.635 7点 マリー・ロジェの謎
エドガー・アラン・ポー
(2016/11/02 00:27登録)
わたしのロジック偏軽(偏重の逆)はミステリの原初にまで遡るのだな。。としみじみ思います。「モルグ」に較べて遥かに興味は落ちます。それでも美しく格調ある文章には惹かれる。いや文章の事しか記憶に残っておらぬ。


No.634 10点 モルグ街の殺人
エドガー・アラン・ポー
(2016/11/01 23:48登録)
黒光りの宝石ですよね。 

ネタなど知ってるつもりで読んだら、ブッ飛ばされましたよ。


No.633 8点 災厄の紳士
D・M・ディヴァイン
(2016/10/29 00:18登録)
共犯者って誰だよ? 家族ぐるみの絶交騒動??
騙すべき側、騙されるべき側それぞれの内面描写の奇妙に大きな齟齬。と思えばそのバランスにも予想外の追い上げ逆転レース。かと思えば。。ん、まさか? 頭が弱ってる人の配置も、流石だよな。。
前半ラブコメ調犯罪小説、後半イーイミでガチガーチの本格ミステーリ。

感情の反動って。。 指紋、バカだな。。(あの犯人特定ロジックは確かにエジ十を思わせた!) しかし参った、この犯人設定は! そしてその目くらましの大胆な手法! この人、クリスティの後継者って呼ばれてないんですか?  
これ言うだけで本格神経過敏な人には一種のネタバレになるかも知れないですけど、、 これぞ構成の妙だよねえ。。。。

ガーネットさんの仰る「もうちょっと大げさに容疑者をふるいにかけても」「最後のセンテンス」どちらも同感です。


No.632 8点 エラリー・クイーンの新冒険
エラリイ・クイーン
(2016/10/27 11:21登録)
ご多聞に漏れず「神の灯」の鮮やかさで遠き日の記憶は真っ白に塗りつぶされておりますが。。。。 いやどうして、他の短篇諸作も一つ残らずミステリ興味に強く訴える、佳き一冊でした。これは読まないと!

「神の灯」「宝捜しの冒険」「がらんどう竜の冒険」「暗黒の家の冒険」「血をふく肖像画の冒険」「人間が犬をかむ」「大穴」「正気にかえる」「トロイヤの馬」
(創元推理文庫)


No.631 7点 宿敵
明野照葉
(2016/10/26 00:05登録)
なんとも女臭い、犯罪と日常のサスペンス集。陰鬱なストーリー展開の筈が、何処かで希望の光が覗く作品が多い。 男子受けは良くないかも。

「月を撃つ」 ※サスペンス
土屋隆夫が書くオチ話みたい。水商売を営む年増と、彼女に拾われた若い女と、そいつを追い掛け回す男。人間ドラマとしてはともかく、ミステリとしては浅い浅い。

「NOBODY」 ※日常の社会派サスペンス
日常の謎はミステリだが、日常のサスペンスはミステリ枠に入ったり入らなかったり。これは入らない。でもミステリ好きに受ける。遠縁の老女を最期まで看取らされた経験を活かし、或る商売を始めた女。とにかく面白い。

「在星邦女 ワイヴス・イン・シンガポール」 ※サスペンス
奇襲の連城POSSEっぷりにヤラれた。日本での或る過去から逃れようと、近々シンガポールに駐在する男をわざわざ選んで結婚した女。それを追う或る男。 エンデンィグには「女だぜ。。」と苦笑いだが、二部構成の企みは「女だな。。」と唸らせる。本書でいちばんの高評価。これは本サイトの皆様に薦めたい。

「満願の月」 ※日常のサスペンス
前出の「NOBODY」と異なり、ミステリ枠に入る日常のサスペンス。妹や何やに鬱屈した思いを抱く、そろそろ若くもない女の日常。やはり前出の「在星邦女」同様、盲点の方向から襲い掛かるまさかの反転が見事だが、それが更に希望の方向へ突き抜ける構造なのが印象的。なのに、何処かしら緩い。

「宿敵」 ※日常のサスペンス
表題作は、、冒頭近くで明かされる「或る事」が最後の直前まで伏せられていたらミステリ枠に入ってたね。でもそんなあざといやり方は取らずともきっちり愉しませてくれました。本作だけはあらすじに触れません。

以上です。


No.630 7点 チョールフォント荘の恐怖
F・W・クロフツ
(2016/10/25 01:06登録)
嗚呼愉しいクロフツ。湧き上がる。。。フレンチの着実な部下指導ぶり、若い部下の優しい切れ者ぶりも善き哉!
さてクロフツの犯人当てだ。推理より捜査過程を愉しむ類。勘で攻めたいオイラにはむしろそっちが歓迎。おいおい本作、実はアリバイ崩し超絶応用編だったりする(交通機関は絡みませんが)。。? おっと超絶は言いすぎか。別にいいけどキャリー・アンダーウッドっていうおばさんが出て来たよ。 最後まで面白いお話だ! 鮎川ファンに薦めたい!


No.629 8点 悪魔はここに
鮎川哲也
(2016/10/20 23:33登録)
重厚なる傑作撰、星影龍三篇。特別ゲストに鮎川哲也氏。まぁ損はせんよ。

道化師の檻/薔薇荘殺人事件/悪魔はここに/砂とくらげと
(光文社文庫)

「薔薇荘殺人事件」は花森安治の解答篇付き! 


No.628 4点 謎の殺人図鑑(マニュアル)
斎藤栄
(2016/10/19 23:13登録)
ねこと殺人 /ハマナスと殺人 /カマキリと殺人 /イノコズチと殺人
(ケイブンシャ文庫)

身近な動植物に因んだ、知識頼みの推理クイズもどき集。ミステリ精神は薄いが、それなりに興味は引く。たとえば病院の待合室の薄い医療雑誌にこういう話が載ってるのを徒然に読んだら面白かろう。


No.627 5点 死体が二つ
佐野洋
(2016/10/18 02:40登録)
夫と妻、被告と証人、作家と編集者 等、何らかの対となる二人の関係(と言い難いものもある)をタイトルとし、必ず二人の死人が出るという企画連作。   果たして表題の二人がヤられるのか、殺し殺されるのか、  或いは表題の二人と如何なる関係のどの二人が被害者になってしまうのか、、物語興味を引く。  ミステリの深みを求め過ぎさえしなければ決して悪くない読み捨て本。

夫と妻/教師と学生/投手と捕手/夫と夫/父と娘/被告と証人/父親と愛人/作家と編集者
(角川文庫)


No.626 6点 隠された牙
佐野洋
(2016/10/18 02:30登録)
佐野洋マンネリ期のスナック菓子と思いきや案外と謎の彫りが深いブツもいくつか混じる短篇集。
それでも余計な風格は漂わせないのが洋チャンの良い所。

隠された牙/死の入選作/なぜか誰かが・・・/親しすぎる姉弟/通話中/鉄の串/乱反射/戸籍の散歩/仮面の女
(角川文庫)


No.625 5点 拝啓 名探偵殿
藤原宰太郎
(2016/10/16 10:18登録)
その昔カッパノベルスで読んだもの。著者の弁に依れば「掌編推理小説」40篇。ネタは陳腐だがちょっとヒネってある。意外と文章がいい。氏に数多いアリもの寄せ集め推理クイズ集とは一味違う。二味は違わない。

1304中の書評を表示しています 661 - 680