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ミステリの祭典

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斎藤警部さんの登録情報
平均点:6.69点 書評数:1304件

プロフィール| 書評

No.664 3点 時間衝突
バリントン・J・ベイリー
(2017/01/13 00:20登録)
同じ空間を有して互いに逆行する二つの時間、その二つはいつか正面衝突する宿命にある。。って何やらミステリ要素の高そうなSF。。。。一見かなりハード目だ。。って相当期待したんですけどね、結末が、バカなのはともかく(数学的に)美しくないんだもん!!!! 色々あって、とんだ羊頭狗肉。人種問題云々に考えを巡らす以前の問題。途中はそう退屈でもないんで、2点までは落としません。 悪口すみません、好きな人にはかなりイケると思います。

※映画化もされた近年の某ラノベヒット作はもしかして本作にインスパイアされたのかしら?


No.663 6点 殺意の集う夜
西澤保彦
(2017/01/12 00:59登録)
こんなクソ輩どものショッぱい戯れ事がまさかの魅惑論理遊戯に化けるか。。と思えばちょっと意外な肩透かしで〆。。な割に悪ヵない。


No.662 5点 ピーター卿の事件簿
ドロシー・L・セイヤーズ
(2017/01/11 07:13登録)
山田風太郎の筆ならさぞかし、、と歯軋りを強いる、キツさの足りない「惜しい反転劇」が目立つ!
むろんそんな風太郎風センスオヴワンダーなんざこの人(の短かいの)にァ求めちゃいませんがね。
しかし、最後に設えられた中篇はコクが反芻出来るな。なかなか好きだ。

鏡の映像/ピーター・ウィムジー卿の奇怪な失踪/盗まれた胃袋/完全アリバイ/銅の指を持つ男の悲惨な話/幽霊に憑かれた巡査/不和の種、小さな村のメロドラマ
(創元推理文庫)


No.661 7点 グラスホッパー
伊坂幸太郎
(2017/01/07 12:42登録)
鯨がいちばんいいな。んなわけあるか! やっぱり岩西だ!!本当かよ(/ _ ; ) 嘘だよ、槿だね。 いや、鈴木の妻かもな。。。 【ここよりしばらくネタバレ】某人物が決して黒幕でなくていい。最後に驚きの反転が無くていい。伏線たちのマリアージュに幻惑されなくていい。憎まれ奴がしっかり死んでいい。面白いからそれでいい。すごくいい。明るい残酷犯罪小説。  

んで。。これもネタバレの仄めかしになりますが、某人物が、幻覚の中で、本来なら有り得ない筈の「他人物の台詞」を耳にしますよね。。。(作者のエラーかと思ったけど、違うよね) って事は。。   いや、それともやはり、ラストシーンは爽やかな哀感たっぷりで〆るってだけなのかな? でもまあそこのアレがソレなんだとしても、面白さの核心を掠りもしない、オイラ的には。。 いや、やっぱりそんな事はない。。何言ってんだオイラは。。。。


No.660 7点 さあ、気ちがいになりなさい
フレドリック・ブラウン
(2017/01/04 12:20登録)
SFとミステリとSFミステリと、おちゃらけとシリアスと渾然一体と、カラフルに寄せ集めたその昔の早川ハードカバーシリーズ「異色作家短篇集」からの一冊。訳者は星新一(流石に相性が良い!)。

軽いやつ小粋なやつが目立ちますが、わたし的には重みある異色作『不死鳥への手紙』がピカイチ。なかなかのセンスオヴワンダーをなかなかの感動が追撃する形でズシンと応えます。こんな限られたページ数でよくもまあ。人気を集めそうなこってり目の表題作も、主人公の心の目線が行ったり来たりで(そのくせ呼称は「彼」)そこへ随分と大上段に構えた大真相が襲い掛かって最後は謎の○○○○エンド(?)というジェットコースターだが『不死鳥』には及ぶまい。。非ミステリSFの『電獣ヴァヴェリ』や『ユーディの原理』は面白たのしいな! 中には、別にいいや、ってなのも混じる。 色々あって均すと7点。

みどりの星へ/ぶっそうなやつら/おそるべき坊や/電獣ヴァヴェリ/ノック/ユーディの原理/シリウス・ゼロ/町を求む/帽子の手品/不死鳥への手紙/沈黙と叫び/さあ、気ちがいになりなさい


No.659 8点 偽りの墳墓
鮎川哲也
(2016/12/30 23:09登録)
長篇諸作の中でも深みと渋みが際立つ、黒光りの力作。
真相暴露の扉が重くてなかなか開かないんだ、これが。

出だしから旅情たっぷり、その澄んだ空気に決して寄りかからない厳然たるサスペンスと謎の迫撃ぶりが頼もしい。本格流儀で絶妙に錯綜したストーリー。そして社会意識鋭い『ある偏見』への異議申し立て。 (←この社会派事項が今となっては時代がかった話に聞こえるのは素晴らしい進歩の証し。)

アリバイ粉砕がね、最後犯人の自白で一気にもたらされるという構図はね、折角鬼貫警部がいるのにちょっとアッサリし過ぎの感有りですよね。しかもそのアリバイ偽装の核心にちょっとイージーなナニが。。だもんで力んでも9点までは押し上げられませんが、中盤の剛健さを味わうだけでも幅広く本格ミステリファンに薦めたい、魅力の一冊です。


No.658 8点 ある閉ざされた雪の山荘で
東野圭吾
(2016/12/29 01:39登録)
ある山荘に、特別な目的(練習)のため閉じ込められた劇団員七人(クローズドの必然性有り)。
殺人劇(本作)中殺人劇(劇団員達が演じる)が連続。ところが、殺人劇なのか本当の殺人なのか判別出来ない事件が発生。なお七人を手紙で呼び出した筈の演出家は最初から不在。。。。
私の大好きな高級推理クイズ集『新・トリックゲーム』に似たようなシチュエーションのクイズがあった筈だが。。まさかそこからインスパイアされてたりして。。
とにもかくにも面白さ爆発の一冊。●されたとか○されたとか怒っちゃ詰まらん。愉しもう。


No.657 7点 空飛ぶ馬
北村薫
(2016/12/26 20:32登録)
‘日常の謎’と呼ばれるが、実際は犯罪乃至悪い事の絡むお話がけっこうな比重。だから従来型の”必ずしもおどろおどろしい事件が直接起こるわけではない”短篇ミステリの一群とさほどかけ離れてはいない。独立サブジャンルの草創期はそういうものでしょう。推理小説自体もそうですし。

主人公(女子大生)と探偵役(落語家)の出会い話を普通小説然と絡め、主人公の先生(老教授)が抱える幼き日の謎をきれいに解き明かす『織部の霊』。文章の良さもあって、読ませますねえ。謎と解明の構造はいたって単純ですが、幼少期の先生を取り巻く環境要因群との響き合いがちょうど心地よいくらいのダークサイド感を醸し出し、コクと締まりのある物語に仕上がっています。最後にネタバレ寸前の軽口を叩くと、これだけシンプルな真相なのに一ページでは収まらず、二ページも必要だったとはね。。なんちゃって。

世評の高い『砂糖合戦』。’日常の謎’なる枠組みが確立された現在から見ると、むしろ”日常の謎に見せかけた犯罪(未遂?)物語”っぽいです。それゆえ当時の一般的ミステリ読みに取っ付きが良くって、それも高評価の一因だったりしないかしら。それにしても、まぁこれ言ってもネタバレじゃぁないでしょうが、ブラウン神父直系ど真ん中。

『胡桃の中の鳥』。。これは響いたなぁ。。。ず~っと緩ぅい旅行小説風に進んで、おしまいあたりで急に”事が迫る”んだけど、そのクライマックスに辿りつくまでのそれなりに質感ある話運びぶり、そこにはたまらなく巧みな伏線が潜んでいます。”あること”の冷たさを永久に包み込もうとする”別のあること”の凛とした温かさ、その奥行きの俯瞰が今にも旋回し始めそうな山頂からの眺望に被さって、、感慨を誘いましたね。 どうにも中途半端な後日談(次に並ぶ作に出て来る)は無くて良かったと感じますが、、んーーだけどその物語構造の、攻め弱く守り強いメンタルの雰囲気も女子らしさ全開で(発表当時でも女子”大生”が書いたとは思わないだろうが)短篇集全体を通して見るとその後日談のバランスも必要なのかな、って思わなくもない。

ブラウン神父某人気作を思わす趣向の『赤頭巾』。佐野洋がサラッと書きそうな題材を幻のメルヘンタッチで。。これも一般ミステリファンに受けが良いのは納得。てか普通にミステリですね(って言うとネタバレになるのか??)

ただ、最後の『表題作』だけは、やんわり包まれる優しさがあるものの、ミステリとしてはその枠を踏み外しちゃうほど緩々のカックン作。これだけは’非ミステリ’のエピローグだと思えばいいのかも知れない。何しろ後味は最高に柔らかい。うん、決して悪い話ではない。むしろ普通小説の一篇として接したら’あれ、これミステリーちゃうん、じぶんミステリーちゃうん?’って思ってまうやろなあ。

苦々しいシーンも多いけど、繊細極まりない語尾の力や、決定機を逃さない表情の力に通じる温かい逸話のきらめきに癒される箇所も多い。純粋なミステリ要素の弱さをそのあたりで補っているとは思うが、総合力はなかなかのもの。


No.656 7点 まるで天使のような
マーガレット・ミラー
(2016/12/21 01:48登録)
「裸で転がる鮎川哲也」とか「まるで天使のようなマーガレット・ミラー」とか「マラッカの海に消えた山村美紗」とか「人を動かすデール・カーネギー」とか。

ピリッと締まらない探偵役がちょっとした偶然の経緯で、失踪でも殺人でも無い(若しくは無さそうな)一見フニャラモコ然とした事件、でさえもない「ある人物の現況調査」を依頼される。その報酬がまた何とも中途半端。せぁっけどな、コレがあんさん滅法オモロい推理小説と来とるんよ、退屈はさせんとよ。涼しく暖かく滑り出しから最高ですとよ。ハードボイルド流儀に繋がる面白い言葉遣いがコロコロいっばいで思わずキョロキョ愉しんじゃいましたよ。不思議と不在の長い或る重要人物の行く末ないし企みが気になったり、現実逃避とは言いますがその逃避先だって現実に存在するには変わり無いんだしねえって思ったり、そこでその登場人物に早くもその仕打ちが!?ってビクッとしたりするんですよ。

「昔からあるからと言って油断は出来ない。(中略) そういうのは余計に危険なんだ。」

いよいよ物語がミステリフレイヴァ濃厚地域へキッパリ足を踏み入れる頃は、華麗な言葉遣いのフラーティングも抑え目に、終結への痛いような推進力こそがいつしか優雅に主導権を握っていました。

最後のストロークは、確認または再確認の作業促しではあるが、、襲撃の一発クラッカーが湿った代わりに穏やかな諦めの感動がミストシャワーを浴びせてくれた。そして物語の裏の真相に、読者はじんわりと包み込まれるのさ。。。。


No.655 6点 悪魔の降誕祭
横溝正史
(2016/12/21 01:28登録)
『表題作』。。中篇。序盤から終盤近くまで何とも探偵興味が収斂せず漫然と進行。憎めない語り口なんだけど、憎めないだけに何が「悪魔」やねんと退屈顔を決めこんでたんだが、最後一気に、いや微妙に段階を踏んで明かされる真相の悪魔度高さにオイラ仰天! 心理の隠し場所めいた趣向に拍手! だから、だからだからもっと早いうちから”この物語には何かある”とじんわり予感させ続けていてくれればもっともっと充実した読書時間提供になったと思うんだけど、惜しいね! 終結部で一気に跳ね上がって6点留まり。

『女の怪』。。短篇。(終盤手前まで)始めから犯人は見えている感じだが雰囲気勝負でまずまずかな、(終盤の前半)殺害トリックはなかなか凄まじいね。。とドキリとしながら半ば安心してたら(終盤後半)一撃ドスンと来ました。こりゃァなかなか。。ギリだが切り上げて8点。

『霧の山荘』。。短い中篇。消えた邸宅の酒肴ぃや趣向。。。の秘密はあっさり暴露。目立ち過ぎた伏線は。。早くに回収。こりゃおかしいぞ。そしたらさ、最後まで作者がとっておいたのは思いがけず複雑な事件の全体像だったんだが。。その割に「はぁそうですか」と安易に呑み込めちゃったな。5点だね。   
小説の本筋とは関係ありませんが、ジョニーのソーダ割を呑みながら読んでたらジョニーのソーダ割の一くさりにぶち当たった偶然には萌えたものですよ。


No.654 6点 金属音病事件(角川文庫版)
佐野洋
(2016/12/18 11:41登録)
金属音病事件 /人脳培養事件 /かたつむり計画 /F氏の時計 /匂う肌 /チタマゴチブサ /異臭の時代
(角川文庫)

軽SFミステリ集。SF濃度はまあまあ、ミステリ濃度もまあまあなのでバランスが取れている。
中では際立ってハードな表題作、は飽くまでミステリベースで、SFがミステリの味付け&香辛料として機能する事に従事。後の方になるにつれSF濃度が高くなる、と共にエロスさんがかなりの調味料として活躍。 佐野ファン、昭和三四十年代ミステリ好きならひとまず読んでおきたい。


No.653 5点 韓国新幹線を追え
西村京太郎
(2016/12/15 01:01登録)
初めて韓国新幹線(ソウル⇒釜山)に乗る機会を前にし、出発前の日本で読んでみました。実際乗車してみると、京太郎さんの正確な描写説明力には舌を巻きます。車輌前半分と後半分の座席群がまるで英国議会の様に対峙するというか向かい合う、日本人から見たら何とも斬新なスタイルで、なーんとなく乗客全体でサッカーゲーム(バーをくるくる回して戦うやつ)をしている様な気になって来なくもありません。

ソウル駅の次の停車駅(東京で言えば品川駅の様な?)から乗れると京さんは書いているのですが、現地の友達の一人が「紛らわしい別の駅(新橋の様な?)」から乗れる筈だと(いくら京さんの本を見せても信用せず)言い張り、実際その駅に行ってみたら駅員から「ここには停まりません」だと。現地人より京太郎さんが正解だったのは今も良い思い出です。

ミステリ濃度は低く、派手派手しくも薄っぺらいストーリーなんですが、やっぱりサスペンスは強く、読ませる魅力があるんです。ところでどんな話だったかな? たしかテロを阻止せよとかそういうんだったかな。個人的に4点には落とせない5点(合格)作ですが、人には無理に薦めません。


No.652 9点 翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件
麻耶雄嵩
(2016/12/12 21:51登録)
出だしの単語がこれほど刺さる推理小説も在り難い。大きな器に盛られた大きな物語の予感が即座に昇り立つ。黒死館を想わせる時々の趣向も、疼くじゃないか。
メルカトルなる名前には如何にも薄ら怖ろしい数学的隠喩が吹き付けられてありそうで。。しかしその人はなかなか登場しない。そればかりか。。。 特異点。軍隊蟻の行進。。。。
教会のオルガンへ、バッハを奏でに出掛ける容疑者。なんて魅力的なんだ!!
「あなたが神なのですか?」
いかにも取っ掛かりになりそうな違和感が露骨過ぎたり、真犯人が或る探偵に誤った推理の結論を出させたという重要なポイントの言外の部分にどうにも拭えない、稚拙な駆け足のような’本格リアリティ’空気感の薄さを感じる故、大きく減点し、なお9.4点越えの9点。何しろ構想のパノラマが壮大過ぎて無闇に自分の言葉じゃ語れない。それでも、密室事件のダミー解決にはフラフラになりましたよってつい言わずにいられますかってね!

前代未聞感満載の異様な(のみならず)壮大な(そして作者の●●等によっては即出版禁止になりかねない?)人道上の大問題に瞬殺で発展し得る、何しろあまりに業の深い、驚かせ過ぎの殺人動機。そしてそれを許さなかった探偵役の。。。。 。。
世評がアンチミステリと名指す気持ちが良く分かった。しかし本作はやはり本格ミステリの大傑作ではないでしょうか。
後年作「隻眼の少女」に強く感じた文章の青臭さ野暮ったさはこの処女作にはむしろ感じず、スイスイ愉しく読めましたよ。
野崎六助の、文庫解説と言うよりカーテンコール、やばいよ。


あと、これ言っちまうと絶望的にネタバレのごく一部になるかも知れないけど
副題が匂い立つほどのミスディレクションを放っているのが最高にニクいですね。


No.651 7点 大いなる殺人
ミッキー・スピレイン
(2016/12/09 19:05登録)
格調は普通だがよく書けてて読ませるわ、グイグイ来るわ、泣かせるわ(子供の件)。 陰の悪者は。。見通した通りだ。しかしそのちょっと喜劇的でガッツリ皮肉な経緯、まさかの立ち位置はハレーションを起こすくらい予想外で上等な山椒の様にシビレさせてくれた。西村京太郎の某有名作が頭を掠めるその経緯の意外さにはトリッキィな本格興味もたっぷり。マイクは観察も推理も死闘もきちんとキメてくれたな。。意外と青臭い所もあった(笑)。 最後、まさかの子供の役割! 一瞬じゃなく一秒って、そういうことか。。落雷のようなサドゥンエンドに両肩しっかり掴まれたよ。

「その帰途」の酒のアテにサンドウィッチか。参考にするぜ。

「刑事コロンボ」某作の被害者役(通俗からシリアスに転向しようとして殺られる人気小説家!)で出演した事のあるミッキー・スピレインさん。ハヤカワミステリポケットブック、ナンバー101(実質一冊目)として知られる本作。あゝ痛快だ。


No.650 9点 殺人交叉点
フレッド・カサック
(2016/12/08 00:59登録)
ラスト、性質の違う二つの叙述トリックが凄まじい音圧でぶつかり合う、圧死は免れ得ない覚悟の突撃作です。衝撃のあまりページの間から土煙の匂いさえ立ち昇りました。こりゃ『肉体派叙述トリック』って呼びたいサ。物語そのものがスリル&サスペンス充満だし、そいつと表裏一体の叙述のナニだし、とにかく読んで最高ヤラれて最高、肚の座った充実の逸品だ!


No.649 5点 ユリ迷宮
二階堂黎人
(2016/12/06 22:06登録)
「ロシア館の謎」・・物語は悪くない。ミステリ要素は。。壮大だが何故か感動しない館消失トリック。やっぱ舞台が舞台だし真相は「そっちの方向」なんだろうな。。となんとなく予想できちゃうのが半分以上当たっちゃう感覚で、意外性が足りないんだろうかな。勿体無い!(5点)
「密室のユリ」・・こりゃ詰まらん。(2点)でも本全体の評価には大きく響かず。
「劇薬」・・物語、特に前半はなかなか良い。真相は、ブリッジ中継とココアの機微に絡めて奥行きあり気な予感をこんだけふりまいといてからに。。なかなかに凡庸。(5点)

割と独特の硬質な文章は記憶に残る。探偵役の個性などは特に感じん。


No.648 5点 裸で転がる
鮎川哲也
(2016/12/05 23:03登録)
さて昔日の角川文庫で「名作選」と銘打たれていた鮎川短篇集は元来第一巻から堂々第十三巻までの全短篇網羅を目論んでいた。ところが折からのセックスピストルズ解散(1978)が影でも落としたか、文字通りの名作群が集まる筈だったであろう第一巻から第六巻は計画頓挫、どちらかと言うと拾遺集であろう第七巻以降のみ無事刊行された。後世から見ると、レア作品網羅という意味では案外結果オーライだったのかもなァ。

死に急ぐもの/笹島局九九〇九番/女優の鼻/裸で転がる/わるい風/南の旅、北の旅/虚ろな情事/暗い穽(あな).
(角川文庫)

速い展開を見事に凝縮「女優の鼻」。百ベージの中篇は読み応えの表題作「裸で転がる」。締まった推理クイズに人情からんで「わるい風」。犯人の意外性が緩いだけに突然のエンディングが響き渡る「南の旅、北の旅」。世知辛い話が何故だかじんわり味わい残す「虚ろな情事」。推理クイズをスリリングに仕上げた「暗い穽」。他二作も、特筆はしないがまァそこそこ悪かない。

ウナ電、トテシャン、黒眼鏡、スケコマシの容疑で逮捕。。イカした昭和死語の数々も彩りを添える。

それにしてもこの本の表紙「裸で転がる鮎川哲也」と目に入るもんでその絵面を想像すると何だか可笑しッくって。


No.647 8点 二つの陰画
仁木悦子
(2016/12/02 00:13登録)
そーれにしても、悦ッちゃんの昭和アパート話は魅力があって本当になごむ。殺人が起きてるってのに!
んで話の発端のアパート住民描写もなんだか柔いしね、全体の七分の六くらい行くまでは、人生と同じで楽しきゃいいと思ってたんですよ、ところがねアナタ、こっちが勝手に決め付けた緩い基準値をベリーロールで遥かに上回っちゃたのはまるで優し過ぎる連城のような厚みある重層反転でした。「優し過ぎる」って形容は時々密かに最高の賛辞の隠れ蓑になったりするもの。こんな爽やかで小気味明るい大団円に迎えられるんだね。プロローグと最終局面の最高に冴えた共鳴関係もイカしてるよ。全くノーマークだったくせに実はしっかり印象残ってたあの人物が鍵となる存在とはね。。9点に迫った8点。8点とは言え最高です。
そしてそして、講談社文庫桑原茂夫さんの解説にあった探偵役機能論がまた素晴らしい冴え! 考察としても、キラキラの雰囲気作りとしても、正鵠を穿ちまくりだ。参った!


No.646 8点 ブラウン神父の知恵
G・K・チェスタトン
(2016/11/30 23:33登録)
「童心」の時も同じ意味のこと書きましたが、ブラウン神父物語の基本発想は後続のミステリ小説群に本当に深ァァい影響の爪痕を残し、現在も様々な作家が持つ創意工夫の力を得てストレートな方向からあらぬ方向にまで進化増殖を続けるばかりである事よのう晴天なり、と実感させられる機会のなんと多い事か。
しかしながら、それ故にこそ、根幹アイディアだけを取ると陳腐な遺物のようなものに見えてしまう事も屡(しばしば)なわけですが、何しろキースの野郎には洞察力に文章力に文学力という三位一体の必殺ギャラクティック・ボンバーが備わっているわけで、そうそう作品自体が陳腐化する事は無いとかのドナルド・トランプ氏も共和党大会で明言していた様です。というのは口からでまかせです。

で、この高水準の短篇集、当たり前の様にすごォく面白いんだけど「童心」に較べるとちょっと落ちる、それでも大いなる傑作快作。ホームズ「冒険」と「回想」の関係にやはり似ている(私の中では。おそらく多くのミステリファンにとっても)。でも「童心」「知恵」の方がその落差はより少ないように思える。(同じ8点相当でも「回想」は7.6点、「知恵」は8.3点くらいの感覚。) 


No.645 6点 セブン殺人事件
笹沢左保
(2016/11/30 00:35登録)
最近シャレオツな新刊で気になってたんだけど、おっとコレかなり前に読んだヤツじゃん、とE-BANKERさんの書評を読んでやっと気付きました! リパッケージされちゃってねえ。でも昔の、やたら美化された二人の主人公刑事が表紙の、平成初期っぽいのも味わい深かったっすね。 まァ読み捨て連作短篇でしたけど、百円で買って五円くらいで売っちゃいましたけど、面白かったですよ。いい意味でほどほどの面白さ。ライヴァルと呼ぶには信頼し合い過ぎの二人の刑事像が絶妙に良く描けています。その人物描写に絞って言えばかなりの高得点。ほんと、歴史のあるシリーズ物みたいです。

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