| 斎藤警部さんの登録情報 | |
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| 平均点:6.69点 | 書評数:1427件 |
| No.1427 | 7点 | 螺旋の底 深木章子 |
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(2025/12/31 22:31登録) つらつら夢のように読めてしまうサスペンス。 舞台はナチスとレジスタンスの噴煙いまだ燻る、20世紀中盤のフランス片田舎に建つ名家の豪邸と、時々パリ。 豪邸の地下室には xxxxxxxx との、事実上事実のような噂が沈降している。 田舎のスキャンダラスな視線に晒された “夫婦” の視点交替で進行する、ホワットダニット+ホワッツゴーイングオンの、微妙にずれる二刀流。 夫婦はお互い腹に一物。 二人の出逢いは或る交通事故を通じての事。 そこでは死人が出ている。 さて二人の “腹に一物” には(ミステリ的に素敵な)重みの不均衡があるようだが。。 “一つのことにあまりにも神経を集中させていると、宇宙に放り出された恒星のように、まわりが見えなくなる。” やがて邪悪な行為がエスカレートする。 物語のなかば、絶妙なタイミングでサスペンスの向かう標的がチェンジする、あるいは分散の上で再構築、特定される。 なんと、主役級人物と読者とのすれ違い! これは効いたよなあ。 おっと、何かがクロスした。 直後、意外過ぎる暴風展開に、次々と場を掻き乱す死体また死体。 “彼らはふたたび気を引き締めたが、その意気込みは、続いて起きた大騒動の前に吹き飛ばされることとなった。” 呆気なく突入したエピローグは、混乱と整理収束の場となった。 意外な所で解説が入る、ヴィジュアル鮮やかな物理トリックは、或る意味タイトルと鮮烈に切り結んだ。 目次に明記されている通り、この小説はエピローグではまだ終わらないのだ。 真相には、思い至らなかったな ・・・ さて、頭から読み返しますか。 |
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| No.1426 | 7点 | メインテーマは殺人 アンソニー・ホロヴィッツ |
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(2025/12/30 17:00登録) 「あたりまえだろう、相棒。 ほかの作家にゃ断られたんだ」 おいおい今度はどういう作中作だよ? 登場人物表にアンソニー・ホロヴィッツさんがいるじゃん? ん、作中作とは違うの? いやいや(以下略)。 資産家のマダムが葬儀屋を訪れ、自らの葬儀を予約して行った。 マダムは即日殺害された。 彼女の息子は有名な俳優。 息子には見栄えの良い黒人の恋人と、その間に娘がいる。 事件捜査への協力を警察から依頼された “名探偵” 元刑事ダニエル・ホーソーン(迷惑系大変人)は、彼の事件解決ぶりを “ワトソン” として一篇の小説に仕立て上げるよう、作家のアンソニー・ホロヴィッツ(意外と常識人)に依頼する。 “レストレイド” 役のメドウズ警部(ホーソーンとは犬猿の仲)はかの有名なコップほどダムではないとの声もある。 「ほら、あんたがいなくなっちまったら、誰がこの本を書いてくれるんだ?」 殺されたマダムには、交通事故で見ず知らずの幼い双子の一人を殺し、もう一人を不具にさせ、裁判に臨み無罪放免となったダークグレイの過去があった。 今回の殺害事件との関連が疑われた。 葬儀の場では、場違いな音楽に縁取られた前代未聞の不祥事が展開した。 その直後、明らかに密接な関連が窺われるもう一つの殺害事件が発生した。 “ふと後ろをふりむくと、ホーソーンはいまださっきの場所に立ち、じっとこちらを見ていた。 まるで、捨てられた子どものように。” 流石のホロヴィッツ、真犯人や真相に繋がる大事な伏線を、いかにも “その他の情報” めかした箸休めの場所に仕込んでおく巧みさがエグい。 天晴なのは、殺人動機とその構造! ごもっともな動機2はともかく、感情を知略が圧倒した動機1には不意を突かれたな。 だけど、大掛かりなミスディレクション技こそ大したものだが、その核心が真相と直接リンクするのが比較的小さな “或る事件” だけというのがちょっとね。 サプライズが少ないとか反転が淡いとかの問題じゃなくて、小説全体のバランスを結構崩していやしませんか、とあたしゃ思うのでしてね。 蟷螂の斧さん仰る > 鰊をぶら下げ遠回りし過ぎた感じ 当方もこれを強く感じます。(上手い言い回しですね!) 「ここを出よう」 やがて、ホーソーンがつぶやいた。 これちょっとネタバレになるかも知れませんが、現代ならではの世話焼きテクノロジーがダイイングメッセージに干渉するあたり、面白いトリックですね。 過去の事故?事件?現場であるディールの街を訪れた長めの風景情景描写は、ややもするとそれなりの退屈ブレーキが掛かりそうなところ、適度にスムーズ且つ適度な引っ掛かりもあり、誠にリーダブル。 浸ることができました。 叙述トリックでなく叙述ギミックの中に核心的伏線が潜んでいたのは、最終盤まで来てやっと気付いて驚きました。 更には、叙述トリックならぬ著述トリック?の熱い暴露、動揺、決意で締めるエンディングにはシリーズ次作への期待もかぶさり、実にいい感じでしたね。 ♪ Love comes quickly whatever you do ♪ You can’t stop falling, oooh.. Pet Shop Boys ‘Love Comes Quickly’ Music & Words by Neil Tennant, Chris Lowe and Stephen Hague “この本の全体像が見えてきたいま、もっと背景を掘り下げる必要があると、わたしは思いあたった。 そろそろチャールズ・メドウズ警部に連絡をとってみる頃合いということであろう。” |
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| No.1425 | 8点 | 東京結合人間 白井智之 |
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(2025/12/25 02:40登録) 「どうせもう死人は出ねえだろうし、気楽にいこうぜ」 後期クイーン問題をブッ飛ばさずに、抱き溶かしてしまえ! 違う、幻の中で悶死させろ! ってな冗談だ、安心しろ!! “おれは唸り声をあげていた。 真相を知っている自分が聞いても、頭が痛くなりそうな理屈だ。” 白の字智の字ここまでやるか! 「結合人間」 「オネストマン」 「羊歯病」 を主軸三本柱とした特殊SF(?)設定のもと、特殊AV制作から特殊売春斡旋に転業した鬼畜三人組が、やむを得ぬ事情の暴風に押され、特殊求人で特殊俳優を調達の上、南の孤島での合法特殊ドキュメンタリー映画制作に乗り出す。 孤島には画家とその娘が住む。 連続殺人らしきものが起こるが、容疑者達の置かれた特殊条件ゆえに、摩訶不思議な論理的事象が発生する。 ミステリ展開の黒光りが凄まじく頼もしい魁作である。 ディープ偽装のディープな論理には溶かされた。 「全F」 「容X」 を連想させる大きなトリック群には大いに目を瞬いたが、そこで終わらせないのが白の字智の字の本領発揮ダンディズムだ。 「テレビで見てびっくりしたよ。 大変だったんでしょ?」 「生きて帰ってきてくれてありがとう。 ねえ、なにか言ってよ」 言うだけ野の字暮の字だろうが、メイントリックス(どれ?何?)も特殊設定ズもサブトリックスもバックパスを繰り出し疾走しながらガッツリ繋がって読者に大きく手を振っている。 このような生殖条件下でもしっかり◯◯◯◯◯◯+的ゆらめきと併存とをササヤカながら(?)叙述しているのは熱い。 言うまでもなく(以下略)。 何より構成の妙が爆発している! 愉しい酔いでヨタヨタしてしまう。 最後まで緊迫の手綱を緩めないその心意気ったら無え。 内包された叙述トリック(の片方!)さえ彼方に霞んで見える。 (もう片方のは ・・ ディープ過ぎてしばらく心臓つかまれたままだ) 更には、真犯人が誰かのみならず、真探偵が誰になるかの趣向、どちらも凄まじく意外でリンパ液の循環に良いに違いない!! 「あはは、そりゃあ殺すね」 まだあるのです。 こんだけ充実した動的ショート・エピローグがそうそうあってたまるか!! それでいて、このエピローグのお蔭でそれ以前のストーリーが虚しくなることなど全く無い、むしろ輝きを更に増す結果になってるってんだから、あきれてモノもステレオもASMRも言えませんや。 「実はあたしの知り合いにもう一人、事件の関係者がいるんだよね。」 ただ、多重解決の畳みかけは内容・形式とも充分に素晴らしいのですが、いわゆるダミー解決の途上で、こんだけぶっ飛んだ小説のくせに、妙に気安く容易く、甘い常識頼りの緩い(セコい)ロジック展開が幅を利かせる部分が目立ち、そこんとこ唐突にスリルを殺いでました。 最後にはそのへんの緩みもしっかり粛清されて見違える締まったボディに変身するんだけどね。 最後にちょっと減速したのが惜しかった処女作 「カオヅラ(人間の顔は食べづらい)」 とは減点要素の潜む場所が正反対でしたね。 こんだけぶっ飛んだパラレルワールドながら、その世界の人達が普通に赤羽に飲みに行きましょうとか言ってるのがおかしかったです。 まあ、こりゃ色々と映像化不可能な小説ですな。 して欲しいけど。 ネーミングセンスも(今回は特に色んな意味で)凄いんだけど、もしかして、スペイン系の名前の構造から(アレを逆にして)その先にアレをインスパイアされてたりして? あとやっぱ古代ギリシャのアレを逆にしてみたり、とかあるんですかね。 英語タイトルが “HONESTMAN” なのは、やはりあのオネストマン(嘘を付けない人)四すくみロジック展開に自信があるからでしょうか。 日本語タイトル “東京結合人間” の “東京” は “東京ディズニーランド” や “千葉県東東京市構想”(そんなものはない)的なアレでしょうか。 「重要証拠を落っことしちまった。 拾いにいくか」 「もういいですよ」 エンディング・テーマ曲はアイナ・ジ・エンド 「革命道中」 で決まりだと思います。 |
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| No.1424 | 5点 | 高校入試 湊かなえ |
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(2025/12/21 18:22登録) 「この学校には、良くも悪くも、通過できてない連中が多すぎる」 古豪になりかけの名門県立高校入試当日、厭な不手際が顕在化、複数のトラブルが起こり、手痛い不祥事の発覚に至る。 見ようによっては些細なような、だが試験当事者にとっては甚大無比ないくつものトラブルを弾けさせた犯人はそれぞれ誰か。 同一人物なのか。 それらを悪意あるWeb掲示板で包括的にリアルタイム中継する犯人は誰か。 これも同一人物なのか。 冒頭から見得を切った、シンプルな叙述ギミックが、イヤミス流儀で淡々と、空気を蒸すように積み重ねられる。 校長教頭含む先生方、受験生とその家族、うるさいOB会長、ただ一人の在校生を巻き込んで展開するストーリーには過去の入試トラブル関与疑惑も絡み、大いに深堀りがなされる。 (おっと、例外的な登場人物も二人いた。 彼らが意外と。。) 真犯人像に真相展開図はそれなりに意外だが、本当はさして意外でもない。 重い側面を持ちながら最後まで軽い扱いのサブストーリー落としを含め、もっさりした結末だ。 これだけの社会問題を俎上に載せつつ、社会派パワーも弱い。 これを言うとストーリーネタバレの一種だが、これから(も)苦しい人生を送るであろう数人を忘れて置き去りにしたような、唐突なお花畑エンディングはどうにかならなかったのか。 湊さんの小説には時々これがある。 個人的に当たりはずれの大きい作家さんだ。 四捨五入で5点ですが、4.7相当。 5.0は切りますので、惜しくもサクラ散りました。 |
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| No.1423 | 5点 | 京都駅殺人事件 西村京太郎 |
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(2025/12/17 22:00登録) 「今、何時だ?」 「それをきいて、どうするんだ?」 醜悪に改築された京都駅を毀せ。 お前が毀せないから俺が爆破する。 死人を出したくなければ金を払え ・・・ と京都駅長に迫る脅迫者。 話の運びはスピーディ。 意外な死人発生含め、予想外の展開へと伸ばす手が早い(これがイイ)。 犯人と当局側による会話の速球キャッチボールがいい。 その割に、途中から、何度も同じことを早口で繰り返す言葉のシャトルランのような様相に陥り、なかなか話が前に進まないというか、少ない内容を引き延ばしているようにも見えて来る。 そのくせやっぱり面白く、すこぶるリーダブルでもあるのはいかにも後期京太郎らしい。 緊張と弛緩の奇妙な綱引きを晒しつつ、若干のナニも感じさせつつ、それでも退屈はさせない。 「握手をしよう」 「握手?」 物語の核心に触れる “××引継ぎ” の構造には小味な意外性がある。 悪事に悪事を重ねた一風変わった豪快アリバイトリック(時刻表とは無縁)がある。 犯人追い詰めの数学的トリックにはなかなかの頭脳プレーが宿った。 謎事象としてあれだけ引っ張った “真の動機” の訴求力が意外とカックン折れてしまったとは思うが、そこまで深い期待をするものでもなかろう。 大詰めでは或る種 “コスい” 手を使った十津川。 その言い訳にしては堂々とした最後の台詞が忘れ難い。 去り際の後味は爽やかだ。 頑張った亀さんもありがとう。 |
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| No.1422 | 5点 | ポアロのクリスマス アガサ・クリスティー |
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(2025/12/15 23:59登録) ある意味 The Rolling Stones "TOO MUCH BLOOD" を連想させる長篇。 「人が殺されれば血が流れるのはあたりまえでしょ。 すごかったわよ、そりゃもう! あたり一面、血の海で!」 クリスマス・リユニオンで久方ぶりに集まった大家族。 南アの鉱山で二山も当てた富豪の老家長を中心に、愛憎糾う息子たちとその妻たち。 異分子も二人合流し、家長の歓迎を受ける。 癖の強い家長は暴言を吐き、クリスマス・イヴの夜に密室内の死体として発見される。 すっきり分かりやすい人物紹介に、整然とした取り調べ。 俯瞰しやすい正々堂々のストーリー。 突然叫び出すポアロ(笑)。 つけひげを買うポアロ(笑)。 いつもと違う人間関係トリック?で実に意外な真犯人が明かされる。 違和感(こいつがそんな事するか?)と納得感(こいつだから出来るわけか!)半々のバカトリックを道連れにして。 いや、クリスティが珍しくこういうのやるからバカに見えるのでしょう。 あるいはパロディ的にわざとバカっぽくしたのかも知れません。 ポイントとなる物証小道具が、ちょっとつまらない。 だが真犯人意外性にアタッチされたその扱われ方には妙味があった。 んでその真犯人意外性だが、その人が××だという伏線はしっかりあった。 読んでいて、へえ、この人たち××なんだ、なんて絶妙にギリ無視できる違和感を捨てつつ思ったものだ。 上手いと思うのは××な登場人物が更にもう一人いて、またこいつの癖が強いだけに、うまいこと状況が攪乱されている所。 何気に ‘クリスマス・リユニオン’ というイベントにしっかり組み込まれてもいるわけで。 だが、それらの美点をもってしても、この意外な真犯人暴露が物語に持ち込んだ、目を白黒の唐突感が拭いきれない。 微妙な評価になるのは仕方がない。 ポアロの言う心理云々も、無理のあるゴールではなく、決定的物証へのラストパスとして機能させてくれてたら、ぐっと美しかったのに。 小さな子供たちも不在で、クリスマスの暖かく華やいだムードがまるで放棄されているのは ・・・ 最後の切実な ‘救い’ を強調する結果になったのかな。 ま、わざとやってるんでしょうが! |
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| No.1421 | 6点 | 浮游昆虫 松本清張 |
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(2025/12/12 00:45登録) 浮游昆虫 終戦間もない頃。 泪もろい野心の悪党を中心に、学園理事の醜い争いが描かれる。 結末は、◯◯が勝ったという理解で宜しいか? にも関わらずモヤモヤが残るのは、読者をはじめとする人間たちの××を控えめに炙り出したということか? それとも・・ そういや、途中ちょっと引っかかるフレーズがあったんだよな・・ 読者への吸着力強く、強烈なサスペンスよりも灼けつくスリルが勝る一篇。 7点 閉鎖 告白のような告発のような長い手紙は果たして爆発するのか!? 内容は、或る農村で起きた事件の経緯。 返答はあるのか? それは爆発するのか?! いや、何かが違うようだ。 本当か?・・・ いやはや、そう来たか! まだまだ私も社会派の読みが浅い。 浅くて良かったのかも知れない。 捜査過程をもっと詳細に描いて、そこに絶妙な伏線を仕掛けたら、中篇でも行けたのでは。 6点 皿倉学説 老境の侘びの只中、医学に纏わる闇のロマンと、忌々しい愛人膺懲へのとめどない空想が交錯した。 “××の猿” 仮説はなかなかにスリリング。 だが、せっかくの力あるテーマどうしがバランス悪く寄りかかって、今にも崩れそうではある。 小説の締めは緩いが、緩い面白さがある。 6点 相模国愛甲郡中津村 清張行きつけの神保町古書店で、或る日出遭った老紳士。 密かに蓄積された書簡群が、明治事件史の暗がりを照らさんとする ・・・ 「この資料を全部私に譲ってください。 あなたの希望通りの額をお礼に差し上げたいと思います」 うむ、こりゃ参ったぞい。 豪快に滑り落ちる、強烈な愉快落ちだ!! 7点 振幅 心が弱い男の日常。 叔父は経理畑の会社役員。 ライト社会派エッセイ風ストーリーが被さる。 最後は思いも寄らぬ形で××が壊れて行く。 凄みに欠ける一篇と思ったが、終わり数ページの発熱で盛り返した。 5点強 |
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| No.1420 | 5点 | 犯罪カレンダー (7月~12月) エラリイ・クイーン |
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(2025/12/10 23:10登録) 七月 墜落した天使 The Fallen Angel 歳の離れた兄と弟。 同じく夫と妻。 殺人未遂が続き、いきなりの未遂告白。 意外性の角度を変えてみたような、ちょっと意外な真相。 彫像を引き合いに、真夏の暑さを描写する素晴らしい表現があった。 6点 八月 針の目 The Needle’s Eye 海賊伝説を縁(よすが)のユルユル冒険譚に殺人をトッピング。 犯人像も犯人名指しに繋がる手掛かりもユルくて見てられない。 ネタバレにならないよう気をつけて言うと、犯行に及んだ瞬間の犯人の気持ちに、多少の面白みがある。 3点 九月 三つのR The Three R’s 夏季休暇から戻らない大学教授。 推理小説マニアの彼は、自分でも一篇ものしていたと言う。 やがて教授らしき死体と、彼の遺した件(くだん)の原稿が見つかった。 その内容は、当の事件をそっくりそのままなぞっていた! 短篇ならでは、小味の割に大反転。 何より、後からじわじわ来る 「動機」 の意外さは、不意討ちでした! 7点 十月 殺された猫 The Dead Cat ハロウィーンの夜の殺人ゲームで、本物の死人が出た。 ゲーム上の犯人役は行方不明。 エラリーは居眠り中だった! 犯行には痴情が絡んだらしい。 光と音が決め手の暗闇不可能状況。 大味な伏線に、凡庸な結末。 人物描写は面白い。 4点 十一月 ものをいう壜 The Telltale Bottle 感謝祭の時節に、小味というより小粒なドラッグ捕物帖。 前半は人種/民族にまつわる興味深い背景が語られ、中盤にささやかな不可能興味も芽生えるが、羊頭狗肉の坂を滑り降り、最後は苦笑で締まる。 こういうのも時々は良い。 3点強 十二月 クリスマスと人形 The Dauphin’s Doll クリスマス・イヴの日に、ルパンのような衆人環視巨大ダイヤモンド盗難事件が起こる。 ストーリーは愉しげで、その装飾は色鮮やかな煌めき。 不可能状況トリックは、作中でエラリーも堂々語る通り、ミステリよりはマジック向きの、明かされてガッカリ聞かなきゃ良かった系だが、年末くらい良いじゃないか。 5点 まあこんなもんでしょう。 |
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| No.1419 | 7点 | 地下室の殺人 アントニイ・バークリー |
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(2025/12/07 14:59登録) ♪ コークと呼ぼう コカコーラ ♪ バークと呼ぼう バークリー 「パタースン? ああ、あの男なら除外していいよ」 登場人物表にも登場しない ‘パタースン’ にこそ疑いの目を向けずにいらりょうか、相手はバークリーだ。 素っとぼけにも程がある物語構造と、足の速いユーモア。 アンダムコップのモーズビー首席警部と、稀代の鳴探偵ロジャーなんとか氏が手に手を取って鎬を削る犯罪解明(解決?)物語。 新居へ越してきた新婚夫婦が発見したのは、地下室に埋められた正体不明の女性の死体。 被害者の名前が明らかにされるまでの、やけにこってりじっくりした道のり。 そこにはなんとかシェリンガム氏の小説草稿(舞台は田舎の初等学校)が一役買っている。 フーダニットの前にフーズダン興味が爛々と輝いているではないか!! その上で、真犯隠匿のスピリットとテクニック、どちらもとてつもなく熱いではないか!! 「そうすればモーズビーにうまく一発、お返しできるってもんだ」 うあー この終わり方!! 衝撃波の残響が沈み込みました。 |
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| No.1418 | 5点 | やぶにらみの時計 都筑道夫 |
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(2025/11/29 23:29登録) だからと言って、松尾和子の価値は一コペイカとも減衰しやしねえ。 フランク永井のナイスアシスト夜の虹は眩しいぜ。 「かまわないさ。 口説くことはまた出来るが、こんな事件にゃ、めったにぶつかれないからな。」 ちょっとひとっ走り行って来らあ! ってな感じで行って来る勢いのドタバタサスペンス長篇。 挑戦的ニュアンスが薫り立つ二人称の主人公 「きみ」。 「きみ」 は見知らぬ部屋で目覚める。 傍らには 「きみ」 の妻だと言い張る見知らぬ女がいる。 自分の家に帰ってみると、妻も隣人夫婦も 「きみ」 を知らないという。 「浜崎誠治です。」 「なんだって!」 この二人称主人公、少し無理があるな。 読んでる自分の自分事として没入できず、 「きみ」 というより 「おれ」 な感覚で行ってしまう。 主語省略文化の日本語だと殊更に難しいのかも知れない。(あまり言うとネタバレに繋がるが)物語構成やトリック上の必然性も無い。 おっと 「きみたちは」 と来たか! なんとなく驚いちゃったヨ。 しかしまあ、もったいぶった、格好つけの文章。 最初の十数ページ、どこか先頭打者が無責任にノープランで書き始めたリレーミステリのようにも見える。 気付けばシュールなのか無茶苦茶なのか、よく分からない展開になって来た。 「おかげで処女を失わないですんだわ。」 「まだだったんですか、あなたがた?」 締まりのないファンタジーかと思えば、話半ばに至る前に、意表を突いたサスペンス・ミステリ流儀の豪腕ツイストが来た!! 中盤より、ユーモアが分厚く旨くなる一方で、どっこい、しっかりしたロジック展開のやり取りが!! 「電話で予告(ウォーニング)があったんだ。 思いのこしのないように、やりたいことはやっておけって。」 「いかす暗殺業者ね。」 “スィテュエーション” って何かと思ったら、あ~~、 ”スェッテュゥエィッシェォーンヌッ” のことでしたか。 “ブーメラング” てのも、 たぶん “ブぅームゥろァアン” のことかな。 それと、オリジナル?擬態語擬音語の突き深さが良いですね。 具体例は忘れましたが、「心臓がバウバウと高鳴り出した」 「さっきからきみはゼキゼキと背中を掻いている」 みたいな? ちょっと違うか? んで、ドタバタバッタンドタスタツクスタの挙句、なんなん、この呆気なさすぎの●●による真相暴露!!(そのシーンの間抜けさは面白かったけど) 意外性など何処にも無い!! ケ、ッケ、ッッケッタイな話やでエぇ~~ 決してつまらなくはないのだがねぇ~。 kanamoriさん仰るように > あくまでも軽妙なプロットを楽しむタイプのミステリ ってことなんですかね。 あと、人並由真さんもご指摘ですが、無駄で無意味で無責任なネタバレ連射などヨシナサイよホンマ、って呆れます。 同じく猫のキチガイ虐待もただのクソ。 ラストシーンにだけは、詩情があった。 「がんばってね。 死んじゃだめよ。」 “蝶になる前の蛹(さなぎ)の不安は、こんなかも知れない。” 今日はヤクルトを飲んで寝よう。 |
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| No.1417 | 6点 | ななつのこ 加納朋子 |
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(2025/11/26 23:50登録) ‘印税’ というワードにこんなにほっこりさせられるとは! やさしいね。 いいですね。 舞台の上の幻も、舞台裏の現実も、どちらもやさしい光に満ちていたんだね。 構造の妙か。 叙述ギミックか。 はたまた一種の叙述トリックが待っているのか。 七篇で構成される本連作短篇集 『ななつのこ』 の作中には やはり 『ななつのこ』 なる連作短篇集が登場する。 本短篇集 『ななつのこ』 のいちばん最後を飾るのは 「ななつのこ」 なる表題作である。 一方、作中の 『ななつのこ』 にもやはり 「ななつのこ」 なる表題作が登場するが、短篇集内で置かれる場所はいちばん最後ではない。 作中にはもう一冊、本短篇集 『ななつのこ』 および作中短篇集 『ななつのこ』 のいずれとも切っても切れない縁で結ばれた、また別の連作短篇集が登場する・・・ なんてこった・・ 意外と、ちょっと怖かったり猟奇的なポイントもある。 だがやはりタッチはやさしい。 さびしかったり悲しかったり、不幸せの要素もあるが、どれもやさしさに包まれている。 不可解性や謎解きの深さはまちまちだが、どれもあっさりしたミステリ的興味を引く。 中には、下手をすると過失致死・過失傷害になりかねない明白な犯罪もシラッと登場する(!)。 人の厭らしさが意外な形で露呈した話もある。 サザエさんの四コマネタみたいなトリックが出てきたり、意外な豆知識が救いの光をもたらしたり、はたまた或る侵略に向けた深慮遠謀が暴露されたり。 消えた一枚の写真を巡る不可解興味の話は感動的でした。 もちろん、最後の 「ななつのこ」 も。 エピソードはいっぱいです。 美来さんご指摘の > 主人公駒子が、最後までロマンスしないとこがいい。 これ重要かも知れません。 スイカジュースの涙/モヤイの鼠/一枚の写真/バス・ストップで/一万二千年後のヴェガ/白いタンポポ/ななつのこ 解かれる謎は、七つだけではない ・・・・・・・ |
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| No.1416 | 6点 | 深夜の張り込み トマス・ウォルシュ |
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(2025/11/25 00:23登録) 「言え! いまごろ電話をかけてくるのはだれだ?」 銀行強盗犯張込みに付いた刑事三人の中に、悪心を起こした奴がいた。 「存じてますとも! しかしーーちょっと待ってください、だんな。 ちょっとーー」 サスペンスの上に殊更なサスペンス醸造(小説内 as well as 読者側)の特殊な現場書き出しが素晴らしく上手い。 それは憶測突き上げを複数フェーズに渉って走らせた。 各者各様の怯えや不安、疑念を払いながらのサイコロジカル・ウォーフェア。 三人には共通の厳しい上司がいる。 不安定な友情タッグのキャスティング・ヴォートを掴んだ不安定な大男の、無様ながら破壊力擁する右往左往ぶり。 幻想と頭脳戦。 前者に苛まれながらも、後者で攻め入るしかない状況が襲う。 “状況” には×人の看護婦が含まれている。 “それが銃声の前だったと主張する側と、いやその直後だったとする側の二つにわかれ、どちらも譲ろうとしなかったのである。” 味方どうしが敵味方に別れての論理パズル、推理対決、火花が炎を呼ぶ頭脳のぶつかり合い。 そしてすれ違いと遭遇と・・ 心理的にはバクバクの乱高下を晒しつつ、物理的抑制の効いた夜明け前のアクション展開には静かに痺れた。 悪いヤツの言動が、意外とタフに徹せず、フニャリ折れちゃう場面がちょいとあり、そこは少し湿った。 エンディングだけちょっと柔らかすぎな感はあるが、、 まぁ良いでしょう。 “彼ら” の未来も楽しみだ。 “事” が起きてからは、わずか一晩で締まってしまう物語。 外は冬の夜。 暗闇の感覚が文章によく出ている。 エルヴィスの “ワン・ナイト” がちょっと掛かると似合うかも知れない。 人並由真さん仰る > 後半は肺活量のある作家なら、長々としつこく書きそうなところ、良くも悪くもコンデンスにまとめた感じで、その辺が味なような、ちょっと物足りないような、微妙な気分。 には同感です。 特に終局は呆気ないというか、これからクライマックスを迎える割には頁数が妙に少ないぞ? でもそのササッと済ませる感じがいいのかな? みたいに思いましたね。 |
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| No.1415 | 6点 | 探偵はひとりぼっち 東直己 |
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(2025/11/23 02:08登録) 「それに、警察は、ホモの殺人事件には消極的である、と言われますしね」 「さあ、それはどうかな。 そこらへんは、わたしはよくわかりませんが」 出だしからいいグルーヴだ。 粗いが厳しさ孕んだユーモアが流れる。 ’90 年代後半に、’80年代前半の札幌ススキノを描いた長篇。 惨殺されたオカマのマサコちゃんは、店ではマッチョチームの一員で愛され年増。 東京TVのアマチュア・マジック大会で見事に賞を獲り、札幌に凱旋した直後の出来事だ。 北海道の革新系大物政治家とのスキャンダラスな関係が憶測を呼んだが、誰もが口を閉ざした。 葬儀に現れた親族は権威主義的最悪の態度を示した。 向こう見ずな 「俺」 はマサコちゃんとの友情のため孤軍奮闘(+αβγ)の真相暴露に乗り出す。 「へぇ・・・・・・」 「でも、全部、危ない人みたいだわ」 やくざ者との、危うい友情ほとばしる会話、閃光放つ関係。 友人、警察、大小マスコミ、水商売、占い師、怪しいやつ、左翼系政商との荒っぽい協力関係や押したり引いたり駆け引きが駆け巡る。 そいや恋人もいたな。 だがしかし ・・・ 読めば読むほど、この主人公、君はそんなことする器じゃないじゃないか、と思ってしまう。 それでもやってしまうのは教養の欠如のせいだと思っちまう。 前述のユーモアも、半ばから陳腐に崩れがちだ。 それでもなお、物語の進行は終始興味津々で離さない。 決してつまらないのではない。 「連中も、歩き回ろうという意欲はあるんだろう、と俺は思うよ。 ただ、靴べらをさがしてるんだな。 靴をちゃんと履かないと、歩きづらいからな。 で、靴べらがなかなか見つからないんだろう」 色々あって、最後はかなり意外な真犯人(及び・・)が暴露されます。 これを言うとネタバレに近づいてしまいますが ・・・・ 本格でなくサスペンスでもハードボイルドでもなく、むしろ○○小説流儀の意外な犯人っぽい味が検知されました。 犯人意外性はともかく、キャベツの芯の腐ったような厭な犯行動機は、犯人の生きた証もろともカビキラーで消し潰してしまいたいところです。 主役含み、ミステリ的に悪い意味で中途半端な悪党というか非善人がいろいろ出て来たりして、どうにもモヤモヤ、何かが弾け切りません。 主役 「俺」 はカードのチートでセコい荒稼ぎしたり、違法な朝を飢えて瓜鯖イタリーして生計を立てる探偵気取りのバカです。 でもまあ、ちょっとバランスがグラグラしてるとは言え、意表を突いたトリッキーな物語構造の中 ‘大いなる××’ の波が押し寄せ去って行くダイナミズムと虚無感のコントラストはなかなかのものでした。 ある人物が最後まで .. 想像シーン以外 .. 登場しない演出は、上手いと思いましたね。 その状況証拠込みの想像のアレがまた、割り切れなさを残すも、やっぱり泣かせる名場面なわけでね。 しばたはつみの渋い?曲が、或る情緒性のお伴に登場したのは良かったです。 |
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| No.1414 | 7点 | 不思議の国のアリス ルイス・キャロル |
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(2025/11/22 00:00登録) アリスの国の不思議は不思議の国のアリスがよく知っているとは限りません。 概してそういうものです。 切り取り線は、その通りに切り取られない場合だけ、姿を表します。 猟奇の幻想、韻律の跳躍、ふざけた本です。 ‘水曜どうでしょう’ との共通点は意外と見つかりません。 日々は補助線さがしですね。 世に知られたミステリ副読本が、本サイトで一年前まで一件の書評もなかったとは驚きです。 夥しい数のミステリ関連エッセイ本が登録・書評されているというのに。 みりんさん、グッジョブありがとうございました! るいすに代わりてワタシお礼言います。 “アリスは子どもたちに囲まれて、いろいろな珍しいお話をして聞かせることだろう。” ↑ このあたりが、沁みるんだよなあ ムルマンスクの漁師の息子アリスは喧嘩に明け暮れる毎日ですが、ある日テグスと針と風船を使った画期的叙述トリックを考案し、悪者をやっつけます。 実写版映画化の際のエンディングテーマにふさわしくない曲としては、バウハウスの ‘ダブル・デアー’ などが挙げられます。 |
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| No.1413 | 8点 | 鉄鼠の檻 京極夏彦 |
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(2025/11/16 21:00登録) 「僕はまた明石先生に叱られたよ」 端緒の台詞の破壊力! 明らさまな告白擁した序章の魅惑。 これぞ大衆小説の桃源郷。 どっぷり浸かるが良い。 「まあ犯人じゃないのなら一杯どうぞ」 ・箱根の或る村では、十数年前、深紅の振袖に身を包んだ童女が異様な唄を口ずさみ走り回る様が継続的に目撃され、その異様さ故に村内遍く口伝されていた。 ところが最近になって、昔と全く同じ容子の振袖童女が全く同じ唄を唄う様が見られるという。 この二人は “年を取らない童女” なる妖怪ではないかと目されている。 ・同じ村に建つ豪壮な禅寺の僧侶が次々と、おかしな様相を晒した屍体で発見される。 ・その禅寺は奇異にも檀家を持たず、宗派すら不明(!)。 甚だしくはその筋の生き字引、京極堂ですらその存在を見聞きした事が無い。 ・東京から禅寺へと買取りの大仕事に参上した古物商は、彼を呼び寄せた僧侶当人が殺害された事を知る。 ・禅寺は、東京の某大学から、禅僧座禅時の脳波を調査したいとの申し入れを受けたばかりだった。 中心に来る謎は何なのか。 禅そのものの謎に絡めとられそうになりながら、愉しい仲間や気難しい者共との交流の中、ずりずりじりじりと進行するお話である。 “トニー谷という芸人の七五調の和製英語は面白いとか云う話だった。” ‘揉み療治’ に揉んでもらう気持ちよさの書きようがもうほんとうに実に気持ちよさそうで、この気持ちよさは肩揉みのようすの描きっぷりのみならず、そのもおっと前からの文の筆づかいから繋がって来ているのだと悟った。 意味を定義すべき言葉、すべきでない言葉。 妖怪、怪異、科学的説明、合理的説明等々を定義するしないについての、禅からの見解(?)。 「塩に醤油をかけて喰うようなもんだ」 宿と寺、往復に労を要する二拠点に跨っての、情報時差と時系列攪乱。 これが実に、本格推理興味をだだ漏れにする。 警察の人々に求心された、やたらのおまぬけファルス、それもいつしかおどろなゆがみと靄に変容し、更には或る小さな悟りを経たかの様な振る舞いを見せるに至った。 そのまま物語は終局を迎えた。 物語の一葉一葉が漸次的に積み重なり、漸次的に終結に向かう、そんな線対称の構造ではなかった。 急襲する暴露クライシスから激震のクラッシュに至ったあげく、頓悟のような終結には呆気なさと凄みとが在った。 表題を知って 鉄鼠の檻ってその通り なる駄洒落を思いついたものだが 本当に 鉄鼠の檻ってその通り だった この小説は。(俺は、違うぜ。。?) 「京極だけじゃあ荷が重かろうと思ってね。 わざわざ待っていてやってのだーー有り難く思え」 「この先に面白い顚末はないぞ。 不愉快な結末があるだけだ」 「さあ、つまらないから僕は散歩して来ます」 連続殺人の動機は、●●ではないと思うのだが、如何でありましょうか。 それこそ冒頭の方にそれは明記されているような・・ 「そんなことはここで云うことじゃない!」 ちょっと厄介な事象を理解する方便に、補助線的な何ものか(別個の対象物)が利用されるのは、日常よくある事です。 言葉と訣別する禅を語るのに古今膨大な言葉が動員されるのは、悟りに至る方便としての言葉が、補助点、補助線、補助面、補助立体、補助四次元立体、補助五次元立体(以下どこまで続くのか ・・ 脳感上無限か ・・ )として必要だからではないでしょうか。 最終的には瞬時転回で、点以前のマイナス次元に入り込むのかも知れません。 某有名●●映画の有名エピソードと、某新本格ミステリ有名作のメイントリック、その二つを裏返した上でお互い斜めに睨み合わせた様な、ショッキングな或る種の●●●●トリックには討たれました。 ↑ 流石に具体的題名は書けません。 “こう云う事件がある度、私は妻に背徳(うしろめた)さを感じるようになっている。” 悟りは在る。 悟りを目指すことは出来る。 そう思うだけで勇気が湧くではないですか。 この書評を読んでくれたヤングのみんな! |
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| No.1412 | 6点 | 8番出口 川村元気 |
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(2025/11/09 23:23登録) 大ヒットゲームを思いっきり拡大解釈?妄想演出?した小説。 小説と同じ川村元気氏の共同脚本/監督により映画化もされている。 ゲームの方のルールはシンプルだが、小説の作りはちょっと複雑、に見えて実はシンプル、なのか?(おっと、これを言っただけでネタバレなのか??)。 恐怖が隠喩に吞み込まれ、隠喩が幻想に呑み込まれ <ここで物語はターンバックし> 幻想が隠喩に還元され、隠喩は恐怖に還元される、のか・・・・(さすがにそれを言ってはネタバレだな) 結末がどちらに転ぶにせよ、ストーリーが一種の線対称構造になっている作品であるのは大きな魅力の一つ。 これくらいはネタバレにならないと信じたい。 「恐怖」 はゲームから直接引っ張ったものだろう。 「隠喩」 は川村氏がゲームからインスパイアされたオリジナル要素か。 「幻想」 は同氏が 「隠喩」 に翼を授けて、思いのままに飛翔させたものだろう。 私はこの 「幻想」 の強い揺さぶりにこそ圧倒されました。 地下鉄を降り、外に出ようとした青年が、謎のループ内に捕えられ、いつまでも通路内を彷徨うことになった ・・・ (だけじゃない)物語。 各章タイトルが目次に明記されていないのもミソかな。 或る章と次の章との間には、長い長いブレイクをはさみたくなりましたね。。 'きれいな貝がら' のエピソードがいいですね。 |
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| No.1411 | 6点 | 小説 君の名は。 新海誠 |
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(2025/11/05 00:30登録) 「――あんた今、夢を見とるな?」 映画の空気感をそのまま持ち込んだ文章世界(特に前半)。 ラノベでホイなノリも(特に前半)目立つが、悪かないぜ。 男女の体が入れ替わってしまう物語、と呼ぶのはちょっと違う。 男女の体が夢の中で入れ替わってしまう物語 ・・・ と言って良いのか ・・・ このへんがミソでもあるのだが ・・・ ともかく、単純なとりかへばや構造のストーリーではまるでないのです。 (男女のアレがそのまんまじゃない感じがちょっと、てかもしや、今時らしくセクシュアリティの微妙な所を突いてきやしないかとおじさんはヒヤヒヤでしたよ ・・ ってそれはとんだ妄想でした) 本作、 「SF寄りファンタジーの枠を借りた恋愛小説」 の姿にめかした 「 ’出逢い’ なる現象を考察する書」 ではないかと考えます。 細野さんと大瀧さんの出逢いに思いを馳せたりします。 でもやっぱり小説内に息づくミステリの胎動はどうにも否めない。 ごく短い某章が放つ凄みと、もたらすミステリ的期待。 ストーリーミチナカバにして強烈な重いツイストが訪れる。 ブライト&ファニーなだけでなく、ダーク&ビターな要素も在る。 パニックサスペンス展開も佳き。 二人の ‘年長者’ は良い働きをしてくれた。 変態萌えを促しかねないびっくりエピソードが異彩を放っていましたね。 ちょっとネタバレ気味になりますが、、 ブライトで切ないエンディングを迎えるのかと思いきや、逆にディムながら幸せへの予感に満ちた終わり方をする。 小学生含む若年層向けのラヴファンタジーとしてはそれが良いのでしょうが、大人が勝手に大人のラヴストーリーを期待すると、最後は(お互い希望に溢れつつ)××のままで良かったんじゃないか ・・ なんてなってしまうけど ・・ それだとタイトルワードの使いみちが難しくなってしまう副作用もありましょうか。 「せやけど、意味は消えても、形は決して消しちゃあいかん。 形に刻まれた意味は、いつか必ずまたよみがえる」 小説家でもあるアニメ映画監督が、映画制作と並行して書き上げた小説です。 したがいまして、ノヴェライズとも原作本とも違う、いわば第三の映画ストーリー本なのですね。 素敵です。 |
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| No.1410 | 7点 | スは宇宙(スペース)のス レイ・ブラッドベリ |
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(2025/10/29 00:54登録) そのまぼろしには、闇がある そのさびしさには、艶がある 「ウは宇宙船のウ」 に続く、著者自選の短篇集。 さなぎ/火の柱/ゼロ・アワー/あの男/脱出する男の時間/孤独な散歩者/別れも愉し/透明少年/ぼくの地下室へおいで/遠くて長いピクニック/泣き叫ぶ女の人/微笑/浅黒い顔、金色の目/市街電車/飛行具/イカルス・モンゴルフィエ・ライト そのやさしさには、意味がある そのおどろきには、揺れがある SMAP最強期のアルバム "SMAP 011 ス"(通称 “ス”)を思い出させる邦題です。 かのアルバムには忌野清志郎作で木村拓哉がソロで歌った渾身の名曲 「弱い僕だから」 も入っていました。 その幼さには、夢がある その荒廃には・・・・ |
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| No.1409 | 6点 | 刑罰0号 西條奈加 |
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(2025/10/20 23:40登録) “―― その達観に磨きがかかり、こうして向かい合うと、娘を通り越して孫になった気分だ。” 死刑に代わり、被害者/加害者双方にとってより実際的な贖罪をもたらすことを目的に開発された、仮称 “刑罰0号” なるテクノロジー。 死んだ被害者の記憶データを脳から吸い出し、加害者に本当の意味でのヴァーチャル・リアリティ(事実上現実)として追体験させる仕組みだが、政府のバックアップによる人体実験の結果、被験者たる死刑囚の心身に予想外の激烈な副作用を及ぼす事が明るみに出(死人も出た)、実用化は頓挫した。 ところが ・・・・・・ ところが ・・・・・ ところが ・・・・ というお話。 【次パラグラフ内は、本作の内容そのものについては、ネタバレではありませんが・・・】 裏表紙の解説を読んで、長篇小説だと思ったわけですよ。 ところが、目次を見るとなんだか短篇集っぽい。 実際 「刑罰0号」 「疑似脳0号」 と読んで行くと、連作でもない短篇集のようだ。。 いや違う、どうも各作つながった連作のようだな。。 いやいや違う! 中盤から、まるで開き直ったように、露骨な長篇の体に化けているではないか! この不思議な構造が実は、仮称 “刑罰0号” なるテクノロジーの在り様と密接に、ミステリ的に繋がっているわけですが、あまり詳しくは言えません。 文体はラノベ風、且つ一定の重みがあり、SFミステリたるストーリーのど真ん中を貫く人間ドラマの大いなる推進力となっています。 しかしながら、肝腎の結末部分に至り、ラノベ力の暴走が悪い方に向かった感があります。 クライマックスとなる “世界一平和な核爆弾投下” (急に何ですか、って感じですが)の手法にしても、核心となる “アレ” についての技術的説明が端折り過ぎでファンタジー領域に入ってるし、その後のややこしくも人間味あふれる心の交流シーンにしても、急に楽観お花畑が広がっちゃあいませんか。 とは言え・・結末は決して詰まらないものではないし、序盤~中盤にも 「兇悪少年犯罪」 「キャンパスライフ」 「ファミレスバイト」 「ヘリコプター事故」 「NPO」 「CIA(!)」 「国際xx(!!)」 等、時に普通の/時に異常な物語要素がカラフルに躍動してくれて、実に興味津々プルプルでリーダビリティも高値安定です。 そうそう、クライマックスで、ある重大な問題解決を引き出した “豹変” のくだり、SFミステリならではの熱さ全開で、頭カーッと来ましたね。 いろんな意味でオープンなエンドも、やっぱしみじみします。 |
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| No.1408 | 6点 | ハートの刺青 エド・マクベイン |
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(2025/10/18 14:08登録) “その刺青は、明らかに間違いだった。” 小銭稼ぎの街角詐欺事件が連発。 一方では女性の水死体が二体、相次いで見つかる。 死体の共通点は ’手’ に遺された特徴ある刺青。 エドらしい(微妙にムズムズさせる)良い演説で始まる長篇。 ちょっと甘く、あっと言う間に終わってしまうが、読み応えはある。 演説は随所に放り込まれ、物語に加速と落ち着きとを同時にもたらす。 ある場面では、地の文でなく重要な登場人物が自ら演説をぶち、一つのハイライトを形成している。 「立派な先生がいなくなるな。 世間から、立派な先生が姿を消すってわけだ」 「そういう見方はいけないね。 おれは州刑務所に立派な先生が来る、と考えたいね」 刺青師1のチャーリー・チャンことチャーリー・チェンがとても良い(刺青師2もいるのがちょっとしたミソ)。【→→ 厳しく見ればストーリーのネタバレとなるが →→】 最後まで良い奴で被害も受けず(これがもしディーヴァーだったら・・)、要となる役割、象徴的な役回りをしっかり果たしてくれて本当に良かった。 彼がある人物に向け放った、ちょっと失礼ながら温かい台詞が、また別の人物が置かれた状況の真逆に近い所を意味しているのは面白く、構築美の支えにもなった。 「愛はアメリカの最大の産業ですよ。 ほんとうですよ」 彼はにっこりした。 「ぼくはその株主ですよ」 心の病を連想させる、物語上の装飾にしか見えない、ほとんど無意味な或るこだわりを、やむなく棄てた途端に、逃げ場を失った犯人。 折角の◯◯なのに、◯◯と◯◯◯◯◯◯が出来ない、哀れな犯人。 長い目で見れば割に合わない悪事を繰り返してしまう、ばかな犯人。 ↑ おっと、叙述トリック入った? ミュートならではの工夫と、ミュートならではのピンチ。 このへんのサスペンス高値安定なロングシークエンスは発汗を促す。 警察小説らしく、怠惰なバカ刑事のバカ行動がバカサスペンス、ではなく本物のサスペンスを焚き付けるくだり、ベタだが安心安定のハラハラドキドキである。 最後に、ちょっとした叙述トリック(ですよね? 私はそう思いました)が明かされて終わるとはね! tider-tigerさん > 楽しい店舗が盛り沢山の雑居ビルって感じ 同感です。 だったらもう一つ二つ事件を並行させちゃいなよユー、なんて思っちゃいますが > それでもそこそこ楽しく読めてしまえるのがこのシリーズのすごいところ だし、ここで止めておくのも良いのでしょう。 クリスティ再読さん > なぜかポケミスの登場人物一覧がテディ・キャレラを落としている 私の読んだハヤカワ文庫旧版(‘76年)でも落とされてます。 本作ではクライマックスのサスペンス醸造主であり、ほとんど準主役なのに、おかしいですね! ところで旧文庫表紙の女性は、消去法で行くと・・ 「フェニックスには、たくさん小鳥がいますわ」 ← この台詞のために、ある登場人物の地元をフェニックスにしたんだろうなあ・・ 良い洒落だと思います。 |
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