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ミステリの祭典

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斎藤警部さんの登録情報
平均点:6.69点 書評数:1491件

プロフィール| 書評

No.1491 5点 黒いカルテ
島田一男
(2026/10/02 00:32登録)
医者が探偵。 婦警がワトスン。 庶民相手の貧乏医院を舞台に、人情ミステリの短いピースが並ぶ。

黒いハガキ/未亡人/天使の手/ガラスの砦/うそつき坊や/ラッパ鼓隊/悪徳医師/スリの娘/二重殺人/小さな姉/嘘、売ります (春陽文庫)

文章もミステリも、ちょっと緩くていい塩梅だね。 最初の数本、タイトル出落ちのネタバレ悲劇が目に余ったり、せっかくの伏線から逃れるように真相があれあれカックンだったりする傾向があったけど、全体通して見たら尻上がりに謎が深みと輝きを増して行きましたかね。 前半も悪いワケじゃない。 ま、あまり期待し過ぎないで。

「まあまあ、そう神経質になりなさんな。 こどもたちは、あの軽快なリズムを愛しているんだ。 戦争なんか考えていやしないよ」

昭和も二世紀目に入った今年だけど、本当に昭和に戻ったかと思うほど短い夏だった。 まさか八月で夏が終わっちまうとはなあ。。 口惜しいからこのシマイチは九月の貴重な真夏日にぶつけて読んだもんさ。 そいや今日(もう昨日か)も久しぶりの真夏日だったなあ。 島田一男の夏、今からチョットでも復活しないかなあ。

「えーと、もうひとつ・・・・・・、おかあさんッ」


No.1490 6点 元彼の遺言状
新川帆立
(2026/09/29 01:05登録)
“法律の前では、悪い人も良い人も、強い人も弱い人も平等で、どんな悪どいしょうもないクズ野郎であっても、高貴な善人と同じだけの権利を持っている。 私はそこが好きだった。”

ミステリ界に、現実世界に(?)、突飛な遺言状数あれど、本作に登場する遺言状の本気の突飛度は歴史的に群を抜いている。
何がどう突飛であるのかは、流石に私からは口が裂けても言えないので、他の方の書評などを参考にしてください。

その突飛な遺言状を迎え撃つ、或る安直な残念アイデアと、対照的に、細に入り第三者のビジネスと実利/権力争いの本丸に踏み込んで自ら莫大な利益を得んとする豪腕アイデア。
このへんの頭脳ゲームがマッコト痺れるのだが、ストーリーの隠し持つ更なる突飛なミステリ要素が勢いよく横っ腹に襲い掛かり、一見やさしげ(?)な文化人類学要素もじわじわと包み込みに掛かり、もうどうしようもなくマバユイ未知のミステリ領域へと哀れな読者は引き摺って行かれるのです。

「皆さん、草をむしりましょう」

主人公は、気が遠くなるハードワークで相当な高給を取る若い女性弁護士。 そこそこ高給取り研究職サラリーマンの現彼が “結婚してください” と差し出した指輪の値段が世間相場並と知って突き返し即関係を絶ち、ボーナス支給額を巡っては所属の弁護士事務所まで “逆クビ” で蹴り倒すように飛び出し、気晴らしに大学時代の元彼に連絡を取ろうとしたところ、彼(元彼 ← 今は “彼女” という意味ではない)はつい先日亡くなっていたことが判明。 ついでに彼(元彼)が、付き合っていた時節にはついぞ知らなかったが、実は日本を代表する某大企業グループの御曹司であったことも判明(おおっ?)。 御曹司とは言え、能力的にはのび太属性の彼だが、ルックスと性格の良さは出来杉くん以上で、家柄と財力はスネ夫をも遥かに凌ぐ、そしてジャイアンの十分の一も無い筋肉の薄さを気にしているとかないとか言われる( ← これ何気に重要ポイントだとか何とか)そんな彼が亡くなる直前に世に放った世にも突飛な遺言状、が本ストーリーの中心部に居座り、様々なトラブルやクラッシュやミステリ新世界の悦びを我々にもたらすのであります。  

「もし逃したら、任務懈怠で国家賠償請求をしてやりますからね」

主人公は、、 、 ぃゃやっぱり言わないでおこうぜ? とにかく色々あって(この色々がまたしても突飛で××)、美人だが深い意味でほとんど女らしい所の無い彼女に初めての女友だちらしき存在が出来たような出来かかったような、そこで色々反感やら悶着やら嫉妬やら友情の萌芽やら見え隠れして、、 そのあたりのほとんどみ~んな事件の深い部分と緊密に結び付いていたのでした。 おなかいっぱい。

ミステリらしい、いくつかの逆説震動もじわじわ効いていたと思います。
DNAの◯◯に纏わる伏線の機微なんてまるで驚き慄(おのの)き残暑の期でした。
主人公が或る◯◯スポーツの名手だったというエピソードも、何気に大小の伏線/背景でしたね。
あと彼女の家族+αの諸々、元彼の家族+αの諸々諸々とか、本当に色々あります。 複雑に生成された諸々を思い切りよく丁寧に見やすく捌くのが上手い作家さんのようであるね。

「あと一週間で(後略)」  ← これ、これなんだよな。。
はたまた ‘第七章 道化の目論見‘ の ‘道化’ とは果たして誰だったのか、というねえ。。(候補はいっぱいいるのだ)
もはや “真犯人” を突き止めただけでは、本ミステリの土台はせいぜい5ミリ程度しか動きやしない、というねえ。。 凄いよねえ。

ラストシーンの突拍子もない明るさと御都合と、ラストセンテンスのちょっと納得行かない甘さ(笑)。 この主人公キャラでこの( 中 略 )となると、最後になって一気にラノベ感が噴き上がるんだが、それもいいでしょう。
だけどまあ、上記の甘要素で微妙に物語が湿気ったよなあ。 もしや、出版社の入れ知恵/作者の忖度だったり?

“私は密かに××の幸せを祈った。”  ← この奇襲には、流石に泣かされました。

参考文献の後の注意書きに、お茶目なコトが記してありますね。 これは作家本人かな。


No.1489 5点 黄色い部屋はいかに改装されたか?
評論・エッセイ
(2026/09/28 17:56登録)
“やや神がかりないいかたをすれば、ある特定の状況における、犯人の行動およびその心理を追究していけば、トリックなんぞは放っておいても出来るのです。 本格推理小説において、人間を書く、というのはそういうことだと私は思います。”

うむ、これぞ極意だと思いますね。


No.1488 6点 見知らぬ妻へ
浅田次郎
(2026/09/21 19:04登録)
“呆然とした沈黙の後に、電話は静かに切れた。”

彼方にミステリの幻影をのぞき見ずにはいられない。 パラミステリの更に半歩手前のような作品が並ぶが、ミステリの視点で読まずにはいられない独特の浅田次郎短篇集。
まるでNSPのようにやさしく柔らかい恋愛と淡い友情が沁みた文章だが、そこへかまやつひろしのような訳知りポイズンが適所々々品よく滴り落ち、ただごとでは済まない小説世界を完成させている。

「中央公園発地獄行きの定期便だ」

ヤクザ社会の絡んだ人情ストーリー残酷篇/ドタバタ篇。 遠い想い出に浸るしみじみ篇/ゾワゾワ篇。 蘇部健一を思わす趣向のやんちゃ作もある。 ラストセンテンスがどうも鼻につくピースがいくつかあるが、一方で最後の一行が予想外のブラック集束でほとんど怪談の域に達した凄い作もあった。 その作だけは充分にミステリ。 最後、八方丸く収めるのに上手いこと考えたな。。(?) 言外の諸々が、深過ぎる考え落ち要素として一気に襲い掛かるのだ。 絶妙に迷彩施されたアノ伏線も効いた!!

踊子/スターダスト・レビュー/かくれんぼ/うたかた/迷惑な死体/金の鎖/ファイナル・ラック/見知らぬ妻へ  (光文社文庫)

表題作は、同作家による有名な「ラブ・レター」と同じく或る目的のための "国際偽装結婚" をモチーフとしているが、本作の方がプロットが複雑で、また違った色合い、複数方向へと伸びる人情哀歌と残酷さとで彩られている。 エンディングは異様なほど沁みる。 最後の数ページを無意識にすぐ読み返してしまいます。


No.1487 7点 ナヴァロンの要塞
アリステア・マクリーン
(2026/09/20 22:34登録)
“警鐘を打ちならしたのが、もの音などではなく、音の欠如であったことに、彼は不意に思い当った。

闇か、閃光か。

アイスブレイクが優しすぎる。 と思った直後、物語の大きな氷柱が落ちて来た。 直撃なら即死だ。

「今のはまずかったな、そういうことをされたんじゃ、生かしておくわけにはいかんからな」

第二次世界大戦、エーゲ海、中立国トルコの鼻先の島で生まれた冒険ドラマ。 立ちはだかるナチスドイツの要塞ナヴァロンを出し抜き、近隣のケロス島で死に直面する1,200名の連合国将兵を救出せよとのミッションを帯びた五人、そして追加戦士たち。 苦難を突き抜け歓喜へ。

“恐れていることも断乎として行えば、恐怖は必ず消える。 心というものには限界があるのだ。”

これほどまでに過酷な試練と恐怖に溢れた日々の道程ながら、不思議にもまるでTAKANAKAを思わせるような多幸感につつまれた文章であることが素晴らしい。 極限状況にてユーモア過多かとも思ったが、そんなことはないのである。

「俺が判事であり、陪審員であり、死刑執行人であることについて、長講一席あってしかるべきところだが、やめとくことにするよ」

泣かせるホワイト裏切りやら、××偽装トリックで泣き叫び、長いスパンでミステリ興味を引っ張る “アノ” 要素も平然として佇み、最後は過酷な落とし前を受け入れた。

「イギリス軍もみごとな殺し屋をえらんだもんだ!」

緊急輸送のさり気ない燃焼をさり気なく描き切る機微が光った。
激しすぎる冒険の目くらましで最終目的(将兵救出)が小説的に忘れられがちだったりの危惧もあったが、、 そりゃあ人間味って事だよね。

個人的には、TAKANAKAよりTAKENAKA(Char)に近い分厚いスリルが貫いた “ユリシーズ号” の方がグッと来るが、こちらも快作だ。
読んでみるといい。

「痛みも感じませんしーー何も感じないんです。 すばらしい気分ですよ!」


No.1486 7点 複合誘拐
大谷羊太郎
(2026/08/31 01:10登録)
“人質発見の現場では、事件の流れを大きく変えるような事態が起きていた。”

誘拐されたのは社長令嬢。 誘拐現場はTV局。 噴き上がったのは、騙し合いと思惑違いのバトルロイヤル。 あの手この手で違和感こんもり。 こりぁ複雑じゃわい。
事件は俊敏に、思いも寄らぬ様相を次々と見せ始め、いつの間にか、疑惑圏外だったはずの人物が、次々とミステリ再検討の俎上へと連行される。 これはたまらない。
‘真犯人’、 まさかあいつじゃ ・・・ と匂わせるあの人物はダミーなのか。 仮にそうだとした場合、本命容疑者(仮真犯人)の立ち位置が、想像を絶する事態になりやしないか。。

「怨恨と秘密保持の二つが殺人動機ですよ」

血湧き骨跳ね肉躍る犯罪ストーリーだが、最後の、謎をたっぷり残した詰めの一幕こそミトコンドリアが振動を隠さなかった。
‘80年の刊行にして、ヴァーチャルリアリティ的トリックの登場には驚いた。 幻の◯◯◯って・・

> 第十二章  容疑者一巡
> 第十三章  真犯人
↑ この目次の訴求力がもう、読み進めるほど増し増しになって行くわけだ。

手を替え品を替えるが如く、いつまでもいつまでも搾り出し切れない、肝腎の謎と、付いて回る匂わせ、そしてカタストロフへの予感。
事件真相の、皮が剥がれても剥がれても、むしろ見せつけるように居座る大きな謎の本丸。 それは、小説としてのラスボス的本丸なのか、それとも小説内の事件そのものとしての ・・・ そんな焦れた思惑に聖剣をぶっ刺すミステリロジックの煌めきと来たらもう、ちょっと無かったぜ。

オチも、斬新ではないが、鮮やかだ。
タイトル、嘘はついていないわけだ。(それどころか・・)

「とにかく、そうするのが自分の幸福につながるから、何も聞かずに言うとおり動いてくれ」

本作の弱点と思うのが、nukkamさん仰る
> 前半ほとんど登場しない人物が突然容疑者として浮上
このあたりに象徴される、「えっ」 と思うような、意外な肩透かし感が終盤に至りところどころ現れる所ですかね。
一方で、前述したように、終盤に迫る、解決を待つ謎群の圧迫感は本当に凄いものがあるのですが、最後の最後にちょっとだけ崩したバランスのおかげで、空気がシューと抜けました。

でもやっぱり熱い、面白い、凝りに凝った、複雑系誘拐モノ意欲作である事は否めません。
果敢に仕掛けて来る攻めの姿勢には故・東野圭吾氏に大いに通ずるスピリットを感じました。


No.1485 7点 ぶらんこ乗り
いしいしんじ
(2026/08/23 20:15登録)
“この、おだやかなふるえを、今晩はじっと味わっていよう、そして朝がくるのを待とう。”

行方知れずの弟。 彼が残した夥しい “おはなしノート” が出てきたよ、と或る日の学校帰り、祖母が教えてくれた。
母は画家。 父は額縁職人。 亡くなった祖父は有名画家。
飛び級を繰り返すくらい聡明で、ぶらんこと指鳴らしが上手く、ある日珍しい事故で声を失い、動物と会話できるようになったという弟。

“本気のさよならはいなくなったひとをちょうどいいところへぶら下げる。”
↑ これは深いね。 感心しました。

前述の “おはなしノート” をきっかけに、長い長い回想が霧と雲の中を巡る物語。
桜井章一さんを思い出す、独特過ぎる名前の犬が、キードッグとして活躍する。

後半の後半に差し掛かる前、ショックが襲い掛かる。(きれいな目次に潜む違和感の源は、これだった)
カウントアップの名を借りたカウントダウンは胸に迫った。 やはり、段階を置くというのは大事だ。
“伝言板” のトリック(?)が大化けするさまには、本当に泣かされた。
幻想交じりのようではあるが ×× のトリックには驚いた。 流石は天才といった所か。

“暗くなるまであの絵はがきは、私たちふたりの手をいったい何往復したんだろう。”

物語の面白い形と手触り配置とが人を惹き付ける、甘すぎない綿あめのような、ホワットダニット・ファンタジーの短い長篇です。


No.1484 7点 沈黙のパレード
東野圭吾
(2026/08/21 00:04登録)
「そういう気持ちをほんの一瞬でも味わったんだと思うと、親としては救われるんです」
↑ この台詞は沁みた。。。

湯川がいきなり怪しい。 不自然だ。 擦れている。
湯川は俺と酒の好みが合うようだ。

歌が上手い街のアイドルは、定食屋の娘。 プロデビューを念頭にレッスンに励む日々。
そんな彼女に目を付けた、陰気な客がいる。 数年前に起きた幼女殺人事件の容疑者として一度は逮捕されたものの、証拠不十分で釈放された問題人物だ。
彼は、目に余る行為で定食屋への出入り禁止を言い渡された。 すると娘は消息を絶った。
数年後、娘の遺体が発見されたのは、“陰気な客” の、ゴミ屋敷と化した ‘わけありの’ 実家の中だった。
どこかで、復讐に向けてのカウントダウンが始まった。

「バレッタは逃げない。 ××が大切に保管している」

ミステリの、そして物語の仕掛けの重心が思いのほか低く、真相解明で読者は大きく揺さぶられよう。
思いの外複雑な全体像、良いじゃないか! 途中からひたすら直線コースを疾走する。。 わけないよな、いやしくも俺の東野が! チキンレースを制するように崖の直前、急カーブにて一旋。 凄まじい砂吹雪に前も見れねえ。。のだがそこで終わりじゃねえんだ! 虐熱の逆説ドンデン返しには耳を疑った!!

或る “意外な人物” のちょっとユーモラスな立ち位置には、素晴らしい緩和作用があった。 
のみならず、絶妙に ‘或るバランス’ を調整する際どい惑わしにも加担していたな。
ここ、ミステリとして結構大事なポイントなんじゃないでしょうか?

或る “時効” の効用。 ある告白のタイミングの効用。 いやいや、タイミングだなんて、そんな他人事の言い種で済むものか!
土壇場のミスディレクションも、短命ながら、効いた!
湯川は人情を理解した。

中盤前に押し寄せる違和感の、微妙過ぎるさじ加減がほんとうに素晴らしい。
電話やら何やら、会話の赴く××が微妙過ぎて、もう。
絶妙に過ぎるっちゃねえ、牡蠣のようなアリバイやら(ちょっと意味不明)。

色々あったけれど、読み味としてはミステリの意外な真相を強烈な人間ドラマが押し切った感が強い。
ミステリ側が奮起してもっと両者拮抗してくれたら、より感動も深かったとは思う。

↓ これはネタバレになるのかな?
“第一の事件” のほうにもっと予想外の内実があったら ・・・ と思わないものではないのです。


No.1483 6点 ミス・ブランディッシの蘭
ハドリー・チェイス
(2026/08/19 00:38登録)
「つかまるまでは、うんと、おもしろい思いをさせてやることになるだろうぜ」

酒とメシから始まる小説は良いな。 だがアンタ、ミステリじゃねえな。 ドタバタ残酷(ギリ)コメディ(?)かな。 最後はちょっとじっとりするな。
ある意味 ‘信頼できない登場人物表’ まで魅力に溢れる一冊だ。

すぐ殺(や)る課の万年課長のようなやばい奴を中心に、同じくらいやばいその母親(こいつの存在が本作に独特なガッツをぶち込んでいる)、取り巻く悪党たち、敵対する悪党たち、女たち、ブンヤ、警察に私立探偵。
“牛肉王” ジョン・ブランディッシの一人娘はちょいと高価なネックレスを首に婚約者と社交場へ現れたのが運の尽き、拉致されてやばい目に遭う。 婚約者は秒で屠られる。

「娘は死んどると思う」

前述の通りミステリ性は極薄の、ハードボイルドって柄でもない、パス回しの上手い暴力スリラーだが、読ませるぜ。
カットバックに何気な時系列の惑わしが仕込んであったりもして、面白い(そのへんちょっぴりミステリの香りがする)。

モヤモヤが溢れ出るラストシーンと、最後のセリフ。
まあ物議を醸したオリジナル版では全く違う味わい(というか結末)の様だが。。 というかオリジナル版の最もやばい諸々がカットされてこの結末、ってなんだかモヤモヤするのだが。。


No.1482 8点 シンデレラの罠
セバスチアン・ジャプリゾ
(2026/08/07 00:24登録)
“海からあがってくると、額のうえの濡れた髪をかきあげようともせず、彼女のそばに近づき、ズボンのポケットに煙草をさがした。”

いったい、どういうことなんだ!
火災の被害者は、幼なじみの若い女性二人。 一人(ド)は死に、一人(ミ)は大火傷を負って記憶喪失。 生き残った(とされる?)方の叔母(ミドラ)は事業で成功を収めた億万長者だ。 それがどうした。 莫大な遺産でも転がり込むってのか。。

「あいつはトコトンまでやるぜ」

冒頭から漏れ出るムードが教えてくれた通り、ありきたりの展開に雪崩れ込むつもりは無いようだ。
幻覚ゴン攻めでフラフラ。 時系列行き来の中に仕掛けられた強い惑わし。 何人もの人物があらわにする不安定な情緒。 揺れて被さりモアレが動く。
当然のように、混乱に次ぐ混乱。 章を跨ぐたび、また章の中途でも容赦なく。

「七月四日はあなたの誕生日ね」
「私がこの鏡を見たとき、私が大好きになったのよ。 いまは私に夢中だわ!」

“◯◯”とは誰だ? そもそも “◯” とは。。?  
平常時(?)から自然な人格撹乱が行き渡り、いざとなったらとんだ大仕事を見せてくれそうだ。

現れ出でたるフィクサーだか何サーだか、スパイだか、インフォーマーだか、ムーチャーだか、なんなんだろう、この人たちは。
ラス前々章の不穏な、不安なエンディングとか。 いきなり読者を振り回しに掛かる、癖強の序章とか。
クライムノヴェルとサスペンス型ミステリとがバチバチにやり合うような、独特の薫りを放つ作品だ。
それにしても、各章の表題。

“彼をあれほど熱中させている、この事件のなかには、私だけしかいないのだ。 私は探偵であり、殺人犯人であり、犠牲者であり、目撃者である。”
↑ レトリック性が強いこの地の文から、件のキャッチコピーが編み出されたのかと思うが、 ( や っ ぱ り 以 下 略 )

で、もう一人(ラ)は ・・・

虫暮部さん
> 安部公房『他人の顔』と併読したらえらいことになる。
本当です。 やめておきましょう。


No.1481 8点 求婚の密室
笹沢左保
(2026/08/04 00:00登録)
何よりタイトルが魅力的だ。

「では最後に、密室のトリックについて説明をお願いします」

終わり8分の1を読むのがこれほど怖いミステリもなかなか無い。
クリスティ諸作の様に企画のくっきりした明瞭形式で進む不可能犯罪ストーリーだ。

“第一回ジャーナリスト大衆賞” を受賞したばかりの主人公、天知。
夏の軽井沢別荘にて、養女の結婚相手を決めるパーティーを開いた、著名な仏文学教授。
養女は有名女優。 彼女は密かに、天知に思いを寄せている。

パーティーを主催する教授は、半年ほど前に或る重大な性的スキャンダルに襲われた。 天知は教授をその窮地から救った経緯がある。
パーティーには、スキャンダルの際の陰謀者と想定される者や、直接の関係者数人が、夫妻やカップルの形で “敢えて” 招かれている。
彼らの中心に置かれるのが、花婿候補の医者と弁護士二人。
他に、教授の秘書や親戚筋。

先のスキャンダル火消しで教授の信頼を得た天知は、幼い息子と共に是非ともと招待を受けた。
教授夫妻には、養女とは二十歳以上も離れた実子の娘がおり、天知の息子とは仲が良いようだ。

その教授夫妻が、敷地内にある地下倉庫内で、服毒自殺を図ったような死体で見つかった。 実質的に密室状態だ。

花婿候補の医者と弁護士が、求婚の権利を賭けて、夫妻の死の真相に対する、それぞれの推理合戦を繰り広げる。
先攻の弁護士は、心中説。 後攻の医者は、他殺説。
だが、養女から見たら本命の花婿候補である天知には、東京に留まった雑誌編集長の田部井という、情報収集の専門家たる、強い味方がいた。

「それ以上に、残酷なことを聞かせよう」

真犯人暴露の前に置かれる際どいワンクッションは、難しいマルチタスクを見事にこなした。(この筆力!)
しかしこの意外な真犯人像、そして深い深い動機、更には◯◯手段、全てエグ過ぎました。 本作は ×× である、という思い込みを見事に乗っ取ったミスディレクション、に操られたのかも知れません。

恐るべき密室トリックに物理的違和感無し。 心理的にも ‘さほどの’ 違和感は無い。 しかし、何故 ‘さほど’ 無いのかを語ったら、途端にネタバレ水域へと飛んで行ってしまう。

「このことを承知していたら、悲劇はもっと違ったかたちになっていただろう」

人間ドラマに加勢しミステリを邪魔しない良質のベッドシーン、ラヴシーンも効いた。
ゲーム性と意外性と熱い/冷たい人間性とが最適で最高の角度でぶつかり合った意欲作。 まるでYMOだ。

そこに、愛は無かったのか・・・ あったのか・・・


蟷螂の斧さんのコメントされた
> もっと登場人物(生前、女性スキャンダルを仕組んだ教授、助教授、女本人、その恋人)を活かしながら、アリバイ崩しに重点を置き(ページを増やし)、そこから浮かび上がってくる犯人像!とした方がインパクトがあったように思います。
には同感です。 良作と思いますが、作品ポテンシャルをあたら活かしきれていないのかも知れませんね。

> どのように二人が水を飲んだのか(飲ましたのか)が本作では白眉でした。
こちらも同意いたします。 色々あるけれど結局このトリックゲーム(あの本ではない)要素が本作のミステリ主役のような気がします。 色々あってもYMOのNo.1キラーチューンは "Rydeen" で鉄板、という事象に似ています。

それと、このトリックは、微妙にある意味 '爽やか(?)' な要素を含んでいる所がまた、何とも割り切れない不思議な印象を残すわけでしてね。


No.1480 8点 兇人邸の殺人
今村昌弘
(2026/07/31 02:09登録)
死に様。

「分かりません。 もしかしたら、やっと家族を見つけられたのかも」

真犯人はミステリ半生の土地カンで当てた。 迷い無しだ。 しかしながら、(以下略)。

「私を見なさい! あなたたちはこうなっちゃ駄目なのよ!」

出だしの学生会話は最高にかったるい。 その後すぐのミステリ進行はムード満点で言うこと無し。
現在どうしの小さなカットバック、そして現在と過去(これが大いに怪しい..)との大きなカットバックが併走する構造。 中には、意外な組み合わせ・順番のカットバックにオッと足許すくわれる所もある。
文章もまずまずだ。

人気の猟奇テーマパーク内、立ち入り禁止の 『兇人邸』 に深夜不法侵入する者たち。 彼らの目的は、かの “班目機関” 禁断の研究資料を奪取する事。(いやいや本当は、とてもそんな単純な構図ではないようだ。) 広大で複雑構造の邸内にはテーマパークを経営する社長と、男女二人の使用人が住む。 (これも、実際は少し違う。) そこへ来てもう一人の不法侵入者が加わり、話は複雑になる。 不法侵入者たちの中には本シリーズ探偵役/助手役の二人も含まれるが、肝腎の探偵役は邸の ”離れ” に閉じ込められてしまった。 これに加えて、悪いことに隻腕巨躯の “首斬り殺人鬼” が邸内を跋扈していると言うではないか。

「もっと正直に、悩みを打ち明けていればこんなことにはならなかったんだ」

クローズドサークルの、メカニズムがちょっと複雑な、だがその意図するところはシンプルな、斬新な構造が光る。
物語に潜む奇妙な非対称と対称の併存も、引きずるものがある。
カットバックの使いよう、流石の大爆発。 しかも、最後には ・・
もはや、ミステリに於ける真犯人とは何だ?! と来ちゃうわけだ。(この感覚、すこぶる重要)
一体、キーパーソンは誰なんだ!!

「皆が一緒にいられるように、たった一人で!」

或る、色んな意味で重要な人物の様子が中盤からにわかにおかしな様相を晒し続け始めるのがなんとも、今時ダミーと捉えるべきか、疑うべきか、とりあえず騙される事を第一とすべきか、こりゃ迷わせてくれる。
いかにも “ソコ” に叙述トリックが潜んでいるんじゃないでしょうかと匂わせ芬々なのは、実は本当にそうなのか、或いはやっぱり違うのか、全く方向の異なる第三、第四の意外性なのか、こっちも実に迷わせる。
最高に束縛される。

複雑系特殊設定と複雑系一般設定との容赦ない重なり合いはチョイとアタマを酷使させてくれるが、複雑系特殊設定の中でも特に大事な所はキャッチーで分かりやすい(そして最終的には特に大事な役割を果たす!)という美点は認められた。
まさかの、物理的にはあまりにも短い、人情心情アクションシーンの大爆発。 それに続く、重大な推理のダメ押しには更なる熱い塊が隠れていた。 この一連の流れ、参ったなあ。。
なあーーんか甘っちょろいナニなのかと訝しんでたアレが、いやいやナニナニ、ふむ、そうなんですか。。

『魔眼の匣』 みたく一線を超えちゃったミステリSOWに襲われたわけではないけれど、これだけやってくれりゃあもう、充分S級合格ですよ。
読んでて所々こっぱずかしくなる青臭さの沼も、まあ構わんのですよ。

「これからなにが起ころうとも、あなただけは彼女を責めないでください」
「なにをーー」

それにしても、最後に明かされたあの “トリック” の、心の激しさには、流石にやられました。 誰かと語り合いたい。

“おやすみ、みんな。 そして母さん。”


No.1479 6点 月は幽咽のデバイス
森博嗣
(2026/07/27 00:34登録)
“こうまでして音楽を聴く必要があるのか”

特に最初と最後のあたり、言葉の遣り取りの面白さが、面白さのレベルで言えば調子のいい時の島田一男級だ。 面白さの方向性はもちろん明後日の方向だ。

「キス以外の方法で・・・・・・」

極端なオーディオマニアである富豪の邸宅にて、パーティーの最中、密室状態のオーディオルーム内に客人の一人が死体となって発見される。
言うまでもなく、絵に描いたような違和感、不自然な状況でいっぱいである。
風変わりな意匠で知られる邸宅には、狼男が出没するとの噂もあった。 それがどうした。。 ってが。。。

「私ね、田中と加藤の区別ができないの。( 中 略 ) 清水と斎藤も駄目」
分かる(笑)! 何を隠そう、拙者も清水と斎藤(と林だったか?)の区別が付けられなくて、克服するために自ら斎藤を名乗るようになったという側面もあるのだ。

勝負を賭けた準複雑系バカトリック(?)も、できることなら島田荘司流の正面突破力で、まとわり付くノイズ発信源を全破壊してくれたら、もっと輝いて見えたかもなあ。 弘法も刎頸の交わりとはこのことだなあ。
密室構成の古典的 “アノ要素” を上手に使ったものだなあと感心したのだが、如何せん、前述のバカトリック(?)の見せ方における思い切りの悪さに踏みつぶされて目立たなくなってしまった。
楽器演奏の手掛かりとか、そもそもの思わせぶりな人物配置とか、惜しいというか、もったいないなあ。 猫にブルース・コバーンだよなあ。

“何故なら、私が、保呂草潤平だからだ。”  ← こ、これ・・・・・・


No.1478 7点 星の王子さま
アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ
(2026/07/24 12:07登録)
“王子さまが、戻ってきたよ”

さびしさ、ありがとう。
出会いと別れと逆説オムニバス。

宇宙の様々な星に立ち寄り、七番目の地球に辿り着いた ‘王子’ と、地球の砂漠で飛行機を不時着させた ‘おいら’ とが出遭う。
‘王子’ は、飛行機修理のメドが立たず生命の危機が現実味を帯びる ‘おいら’ に、自らの小さな星と、地球に来るまでの六つの星で見聞き体験したプチ寓話ストーリーを語って聞かせる。

SF魂を棄てた純粋ファンタジーのようであるが、コミック風に短く戯画化されたSOWの素のようなものも散見される。
“帽子の絵” や、各星の住民たちに纏わるミステリ的逆説スケッチも目を引く。

責任感の強い ‘王子’ により最後に実行された或る ‘トリック’ が心に深く沈降します。

有名な箴言のようなものを数多く生み出した小説ですが、私は何と言っても、ラスト近くの、寂しい物言いから一気にポジティヴ反転する、ちょっと長い某台詞がいちばん沁みますね。
◯◯を◯◯◯からかも知れません。

“あれからもう、六年になる……。”


No.1477 7点 目には目を
カトリーヌ・アルレー
(2026/07/19 21:38登録)
“時限爆弾の準備はすっかり整っていた。”

ちょっと読み出したらもう、たまらないぜ。 目次をチラッと見たらもうたまらん。 登場人物表を覗いたらもうたまらねえ。

ジャンは裕福な貴族。 事業を営んでいるが、破産の危機に陥った。 妻アガットとの贅沢な暮らしを続けるには、起死回生の手が必要だ。
そこで目を付けたのが、市民階級の同業者で、自身は小金持ちだが、フィクサー的信用力で巨額のカネを動かす事ができる、十も年上のマルセルだ。
独身の彼は、やはり独身の姉マルトと共に、ジャンの家へと招待される。 マルセルはアガットを一目見るなり、恋に落ちた。

“男にとって、理想は、戦死だわ。”

ほうら来た、シンプル極まりない(?)目次をあらためて追ってみると ・・ 嗚呼、ストーリーへの妄想が勝手に走り出して止まりません。
しまいにゃ各章ページ数のゆらぎにさえ、憶測と疑惑の手が伸びる。

きちがいと、馬鹿と、邪悪な切れ者がいたとして、淘汰される順番はどうなるだろう。

あまり書くとネタバレに繋がるが、二つ目の◯について或る人物が ( 中 略 ) ってのがやっぱり、ミステリとして、ドラマとして、犯罪物語として一番のツイストであり、肝腎のミソだろうねえ。

「あんたも仕合わせにはなれない。 ほんとうの喜びっていうのは、喜びを与えることにあるのに、あんたは、まるでかちかちにかわいた果物だもの」

ちょっとした風景描写良し。
地味なようで凄まじいドラマを含んだアクションシーンもたまらない。
ほんのささやかな叙述の戯れが、最高のカタストロフ結末を導き出す。
スリル良し、サスペンス良しのヴァカンス小旅行でありました。

「あなたはこれから毎晩、この秘密の夢を見るわ」


No.1476 7点 十和田湖殺人事件
中町信
(2026/07/16 22:26登録)
妻を失った夫、四人。 おっと、五人。 うち一人はミステリ作家。 ミステリ作家は他にも二人。
夫を失った妻、一人。
命の危険を冒して探偵役をやりたがる奴、次から次へとあふれ出る。
そこで、前述の死人数にも常にアップデートが必要な、まっこと葬儀屋さんも書き入れ時の(いくらミステリとは言え)とんだ非常事態となるわけだ。

「私はただ、単純な引き算の結果を言ってみただけですよ」

ストーリーを数行に纏めるのはとても無理な話だが、とにかく前述の通り死人が続出する。 但し、うち少なくとも三人は飛行機事故死。
プロローグでも曰くありげに描かれるこの墜落事故をまたぎ、連続殺人事件が発生する。 表題にある ‘十和田湖’ への仲間たちの旅行が、その背景にはある。

中町信力あふれる肉厚のダブル・プロローグからいきなり猛攻開始。 強引なツカミの強烈さは、知的興味を惹く整理された複雑性としっかり連れ立っている。
荒れ狂う違和感、不安定感と叙述ギミック。 中町信ならではの、どこかデコボコ・グラグラ・素っ気なさの残る文章はもちろんサスペンス、というよりスリルの味方だ。

「相手は推理作家だからねえ」

混乱と定まらない憶測を抱えたまま、薄明かりの前方へと押し出される感覚。
“記憶喪失” なる事象の切り込んで来た角度が凄い。 グッジョブマイフレンドしか言いようがない。
込み入った “盗作” 事情が放つ閃光。 “身体的特徴” が放つ閃光。 手紙の “宛先” と “盗難” と “◯◯(← これ!!)” の機微。 それらの間を雲のように漂う誤解や憶測の連なり。 最後は◯◯◯なる決定打! やられました。

「その裸の女の体には大きな特徴があったはずなのです。 目には見えない、大きな特徴がです」

しかしまあ、よく人が死ぬことだ。 それも白昼堂々オープンサークル内でのあわや “そして誰もいなくなった” を危惧させる趣向の暴風が、リアリティ欠損ギリギリの座標で荒れ狂っている。
難解な数式のように、理解はしづらくとも何かしら整理されているような美的感覚を受ける構造のストーリーだ。

見せ方の上手い、必然性があって自然と導かれて行く “多重解決” 趣向も光る。
最後に或る意外な人物が意外な存在感とミステリ上の働きを見せつけるが、その在り方の何とトリッキーなこと! 一瞬の快い混乱は大歓迎である。

「同じようなこと? なにをしていたんですか?」

ギラギラした叙述ギミックの嵐が、ささやかな叙述トリックの葦を薙ぎ倒した形かと思うが、葦にも強い毒素が残留していた。
あれこれミステリを詰め込んで、やり過ぎ海峡をわざわざホバークラフトで渡っちゃった感はあるが、それの何が悪い。
空虚な幻ならではの栄養をたっぷり摂取させていただきました。


No.1475 6点 特報社会部記者
島田一男
(2026/07/14 01:11登録)
「水落カオリってんです。 エヘヘ・・・・・・、 色気たっぷりの名前だ」

昭和百一年。 いよいよ二世紀目に入った昭和の夏も島田一男で万全だ。

■山手線ならではのちょいとヒネったアリバイトリックが光る某作。
■乱歩さん某代表作のメイントリックにインスパイアされて、ちょいとズラしてみた様な某作。
(しかしタイトルが、いくらなんでもネタバレだぜ?)
■ハードボイルド風錯綜人間関係に、死体移動&アリバイトリック複雑系を真正面からぶつけて来た。 そこをシマイチ文章の濃厚なところでずーーっと囃し立てるもんだからちょっとトゥーマッチな感もある。 ともあれ最後は衝撃波に耐えきれず飛び出して来た意外な犯人と、盲点突きまくりのシンプルなトリックにびっくりする、入魂の一篇たるチョイ長の某作。
(でもやっぱ短篇~中篇でコレはごってりし過ぎかなあ。 これこそ長篇にすれば良かったのに。。 と思わなくはない。)

題名を伏せた(とは言えバレバレ)上記三作以外も、手堅い普通ミステリながら、非凡なシマイチ文体シマイチ会話文の横溢で実に魅力溢れる昭和の夏の伴走者になってくれている。
(正月が舞台の話もいくつかあったりするが、それすら島田一男の夏だ)

環状線の女/人形地獄/空中花嫁/双面獣/白銀仮面(シルバー・マスク)/猫と指輪/恐風  (青樹社文庫)


No.1474 5点 プレード街の殺人
ジョン・ロード
(2026/07/09 21:43登録)
「話も大分長くなって飽きられはしないか?」
「いや、どうして!」

なーんか、ネタバレ横丁をうろうろするよな物言いになっちゃいそうだけど
本作のフーダニット的なアレで読中(ある地点以降)思ってたのが、aさんとbさんとは同一人物なのか? 仮に違うとしたら、違うにも関わらずその◯◯を継いで苦しい道を歩き続けた強いモチベーションの源泉はいったい何なのか? むしろ、仮に後者(同一人物ではない)であった方が、ホワイダニットのミステリ興味は上回ったよな。。 但しその場合、◯◯を継いだ者はやはり登場人物一覧にデーンと載っているべきなわけで・・ 実は二周ほど回ってワルが真犯人ではないかと疑いもしちゃったりして・・(流し目)。 プリーストレイ博士はどこまで本当に騙されていたのか? ってのもちょいと疑惑の対象でしたけどね、読了してみるとそこんとこの真相はちょいとおかしなアンバランスの要因になっていた気がします。

「まあまあ、わしもまだ当分自殺はしないことにしておきましょう」

さて、ちょっとあらすじ書きます。
ロンドンの割と貧しいプレード街にて、予告ありの連続殺人事件発生。 はじめの数人こそ薄い知り合いどうしの被害者だったが、やがて縁もゆかりも無さげな人物が標的とされる。 中にはそこそこの有名人もいた。
『前篇 犯罪』では、被害者がかなりの人数にまで登った謎の連続殺人が、二人の友人どうしの会話を中心に描かれる。
『後篇 犯罪者』開幕と同時に俺達のプリーストレイ博士が登場し、半年間も没頭した著述の仕事を終えて世間との交渉を再開するに当たって、プレード街での事件を選び、その解決に積極的な姿勢で乗り出す事となる。
博士はいきなり意表を衝いた過去事件掘り起こしに着手し(周りの者はチンプンカンプン)、その帰結としてまさかの(!)危険な冒険(!!)に乗り出すハメとなる。

「君だけは、とっくに事件の動機を観てとっていいはずだった。 どうして、そこへ気がついたか、聞きたいものだ」

モリシ先輩の訳文は、文法、慣用、呼応(≒係り結び)から内容に至るまでちょっとオカシイぞと気が付く所が目立ちましたが、にも関わらず(!)読みやすく独特の風格がありました。 ありがとうございました。 でも “タキシ” や “ヂック” はともかく “カベント・ガーヅン” は何のことか4秒ほど迷って3秒ルール違反でした。 大和言葉かと見紛う “ひいす” の頻出にもちょっとクスクスしました。 本当にありがとうございました。


No.1473 8点 本棚探偵の冒険
喜国雅彦
(2026/07/06 09:50登録)
「雑誌に手を出したら人間おしまいよオゥオゥオゥオゥ」
"モーニング娘。の新曲の一節にもあるとおり( 後 略 )"

うィっぷ! 寝食フォゲットで激烈の面白さだぜ。 恋はヤング・フィーリングだぜ。 今年のW杯は喜国が優勝だぜ。 勢いで三決にも闖入して荒稼ぎ得点王だぜ。

戦前日本の探偵小説を主戦場とし、日英米の本格/新本格を偏愛(←説明不足)、周辺ジャンルの話題にも手を伸ばす、ギャグ漫画家・装丁/装画アーティストでロックミュージシャンのキクニこと喜国雅彦氏が、たしか婦巨漢とか呼ばれるアイドル女優(字面からすると、まさかマ◯◯・◯◯ックスの事か?)と古本と古本屋と古本野郎が大好きだという事が身に沁みてファクトチェックできる一冊(シリーズ一作目)である。 平成真っ盛りの頃の刊行だが、♪令和レモンの世~~ にも輝きとポジティヴヴァイブとを失わない奇蹟の珍約聖書と言えよう。

「だからそういうときは、後ろの本の下に台を置いて、少し高くしてやればいいんですよ」
「なるほど、でも適当な台なんてないし」
「本でいいんですよ。 もう二度と読まない本。 文庫の台には文庫、ノベルスの台にはノベルス」

ミステリ誌への連載エッセイだが、内容もスタイルも、適当にばらかしてあるのが良い。 だが芯は(二本半くらい)通っており、芯を支えているのは生き様という名のセレンディピティだ。
本とミステリとその他諸々への愛と興味に溢れ、楽屋落ちにも魂が籠っている。 思いつきとフォロー修正とを撒き散らし、派手に脱線して機敏にすぐ戻る機敏さも最高に機敏だ。

“( 前 略 ) そうなっていくのが古本マニアの性(さが)なのだから仕方ないのだ。 性という字を見ると世良公則が浮かんでしまう。 何も思いついたことを全部書かなくていいんだぞ。”

ツイストの 「性(さが)」 は 「銃爪(ひきがね)」 と 「燃えろいい女」 に挟まれた4枚目シングルで、本作からバンド名が ‘世良公則&ツイスト’ から ‘ツイスト’ に変更された。 ’ソニー&シェール’ が ‘シェール’ に変わった様なものかと言えば、それは違う。 だがソニーが亡くなって以降シェールが大ブレイクした事を考えると、結果的にはアタトー(当たらずとも遠からず)なのかも知れない。 ( 中 略 ) 前後のシングル 「銃爪(ひきがね)」 「燃えろいい女」 はどちらも派手な代表曲で今も時々オンエア等される様だが、「性(さが)」 もまたたまらなくファビュラスな音圧スローナンバーで当時は大ヒットした。 これほどラウドなロックバラードがあるものかと驚いたものである。 歌詞が絶妙な所で下世話なエロに流れ落ちない抑制美も光る。 アルバムではピアノとスキャットでゆったり始まるが、対照的に衝撃のシャウトが口火を切るシングルバージョンの方が、どちらかと言うと私は好きだ。( 長 い 後 略 )

先行のお二人も言及されておられるが、私も “ポケマラ” には胸熱くも笑かしてもらった。 三笘の逆一ミリみたいな?エピソード込みのノーサイド人情エンドも最高だ。
乱歩亭で胸いっぱいになり、古書市の常連を警戒しながら感化され、函ナシ本の函を手作りし(おいらも帯ナシLPの冗談帯を作った事があったような無かったような)、角田喜久雄の生原稿に疑惑と推理とを巡らし、’俺のパノラマ島(俺ラマ)’ に妄想の限りを尽くし(鮎川さんを閉じ込めて『白樺荘』を完成させる! ミニスカポリス一万人!)、あとがきやら巻末対談やらの附録部分にほぼ100ページを充てて来る、サラっと官能小説もどきをはさんで来る、時々あからさまなdisで敵も作る、そんな忙しなくキュートなキクニさんは田中麗奈(モー。のれいなではない)も大好きらしいのですが、私は全く賛同出来ません。 前述した婦巨漢の方が、好きとまでは言いませんが、まだしもです。

“まず漫画家を目指してみるのもいいかも知れない。 「急がば回れ」 のたとえありだ。 そして間違って大ヒット作でも描いた日にゃ ( 中 略 ) その前に函入り本が買えちゃうぞ。” ← ここ大笑いだったぞなもし

お酒は一滴も飲めないそうですが。。。 昔 「宝島」 かなんかのインタビュー(喜国氏がそこそこ売れ出したけどまだまだ貧乏な頃?)で、知り合いの売れてるバンド(たぶんZIGGY)の打ち上げに同席してタダ酒を固め飲みするとか言ってた気がするんだが、あれはまさか、蜃気楼ドリームと言う名の、夢のミラージュだったのか。。?

“充分実現可能な夢(ロマン)なのだ。 そう、夢(ロマン)はいつも僕らが摑まえるのを待っている。”


No.1472 7点 犯罪総合大学
佐野洋
(2026/07/03 00:15登録)
“彼女が、五反田署に出向いたのは、もう少し陰険な目的のためだったのだ。”

某作 ・・・二度も足許すくわれた! このミスディレクションは狡(ズル)い! 思うに、佐野洋馴れした読者に騙しの照準定めて来たな。 この流れじゃ、◯◯を落とした◯◯はてっきり、甘く切ないアレだと思うよな。。 まさかの◯◯案件提示だけでも度肝を抜かれたのに、そこからああ行って、更にアレで、しまいにゃソレしちまうのかよ。。 ディープ佐野洋にぶん回された一篇。  8点

某作 ・・・ ( 前 略 )◯◯を見つけたと主張する女。 斜め上を行く展開と過去事象深堀りの末、身勝手過ぎる意外な殺人動機には虚を突かれた。 かなり奥の方から反転×反転を引っ張り出して来たな。 物語の鍵となる◯◯案件はどうにも不快だが。。 複雑な味わいの、広がりゆくエンドから目が離せない。   7点強

某作 ・・・ 違法/合法◯◯◯の際どい隙を突き、多彩な仮定で魅せる多重解決趣向が花開く。 何気に意外な犯人と、パズル的に奥深い真相は熱かった。 分かり易かったり後出しだったりもあるくせに、どこか丁寧な手掛かりの置き場所も良い。  7点

「やること? それは何だい?」
「そうね、例えば人殺しとか …… 」

某作 ・・・ 文字通りの◯◯◯◯兇器が、実は◯◯◯◯◯兇器だった。。 計画犯罪とその◯◯に包み込まれた、大きな反転が光った。 脆弱すぎる被害者が哀れなり。  6点強

某作 ・・・ 或る◯◯を背景に、バカな◯◯が騙される話。 悪あがきで悪事を重ねた挙句。。 最後、真相が一発で明かされたシーン。 びっくりしただろうねえ、お互い。  6点  

某作 ・・・ 事件に至る経緯の、◯◯調査を活かしたチャッチャカ具合も妙に面白いが、世故知らずが爆発しちゃった感じのやわらかい反転が何とも言えない。 青春だ(?!)。 罪状はソッチじゃなくアッチのほうって、まあなんとなく見えちゃうんだけど、憎めない。  5点

ミスタ・ヨー・サノが得意とするタイプの連作短篇集。
各タイトルは、わざわざ揃えた感もありますが、それなりに内容と合致しています。

文献学的事件/医学的事件/薬学的事件/心理学的事件/生物化学的事件/教育学的事件

「おかしなことになってしまったよ。 あんたの場合は、◯◯◯なんだな」
「◯◯◯? それ、どういうことです?」

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