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ミステリの祭典

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平均点:6.14点 書評数:320件

プロフィール| 書評

No.160 9点 ハンニバル
トマス・ハリス
(2019/09/01 20:59登録)
あのハンニバル・レクター博士の名前を冠した本作、胸糞悪い展開も多いし、グロ描写も容赦がないが、とても楽しめた。
本作の素晴らしさは二つあり、一つ目はメインキャラのキャラクター性の濃さ。二つ目は実在の舞台を活字から感じさせる情景描写だ。

特にキャラクターに惹かれたのでそこを中心に書評を書く。
レクター博士、クラリス、メイスンあたりのキャラクターは特に特徴があり、他に類をみない個性を感じた。
レクター博士は間違いなく極悪人なのだけど、嫌いになれない。というかあれだけの悪人なのに本書を読むと好感を抱くという絶妙な書かれ方で、作者の上手さが光る。
クラリスは一貫して誇り高いFBI捜査官なのだが心の奥底にレクター博士に共鳴するなにかを潜ませている。最終盤のクレンドラー殺害を見るに彼女の最後のストッパーは抜けてしまったのだろうか・・・。
メイスンはまず見た目を想像したらダメだった(笑)。悪趣味な悪役は世にたくさんいるが、ここまで本人の力がない悪役は珍しいだろう。よくもまああんな恐ろしい復讐思いつくわ。レクター博士への復讐方法はともかく、恨みはもっともだが。

自分なりにキャラクターを読み解いたつもりだが、おそらく本書で彼らの情報をいくら知っても、共感はできないのだろう。
最後の方の博士の
「自分がどんなにこの女に関する知識を深め、その内面に食い込もうとも、この女の気持ちを完全に読み取ったり、この女をわがものにしたりすることは到底不可能だろう」
という独白が本書の全てを表すのだと思う。

上記書評のように濃いキャラが織りなす緩急のきいた物語に大満足なのだが、本書にはミステリ要素が全くないので、このサイトで満点をつけるわけにはいかないだろう。ということで9点。


No.159 8点 愚者のエンドロール
米澤穂信
(2019/08/21 12:13登録)
本格ミステリでは殺人事件を扱うものが多く、それは事件の深刻さを使って読者を物語にのめりこませる策の一つである。古典部シリーズはそういった殺伐さが無いため、あっさり目の印象を受ける人が多いだろう。しかし、あっさり読めるがガチガチの伏線と謎解きが本書にはある。

・お見事ポイントその1 奉太郎の推理
2年F組の途中までのビデオから導きだされる犯人は奉太郎の推理どおりカメラに写っていない7人目しかありえないだろう。これはビデオ視聴者から見れば叙述トリックになるわけだが、他の5人に犯行が不可能な以上アンフェアではない。読んでる私も同じ推理にいたった。

・お見事ポイントその2 出題者(本郷)のミステリレベル
ビデオを見ての推理は奉太郎の解答で間違いない。しかし、本郷が叙述トリックを使うことはありえない。つまり奉太郎の解答は間違いということになる。これは現代の新本格になれたミステリファンの性質を逆手にとった素晴らしい仕掛けだと思う。(このしかけで+1点。)出題者が常にミステリ玄人とは限らないのだ。

・お見事ポイントその3 では、なぜビデオを見ると奉太郎の結論になっちまうのか?
これも学生のいい加減さが発端になっており無理のない理由である。シャーロック・ホームズ短編集とアンケートの伏線から、ビデオが本郷の意図していない仕上がりになっている所まで読みきれる真の"探偵"はどのくらいいるのだろうか?(私は奉太郎の推理が限界でした。)

米澤さんの作品は「氷菓」、「インシテミル」に続いて3冊目だが、圧倒的に本書の出来が良いと思います。


No.158 7点 日本傑作推理12選(Ⅰ)
アンソロジー(海外編集者)
(2019/08/19 22:58登録)
古い時代のミステリは現代から見ると古臭く感じるものも多く、本作もそういった側面が当然ある。(私の平均点は6点弱。当時のファンが読めば+1~2点といったところか。)
その一方現代視点でも上手い!と感じさせる作品も多数あり、クイーンの選球眼の良さが伺える。

戸川さんの「黄色い吸血鬼 THE VAMPIRE」が少しホラーテイストだが、他にはポーや乱歩の好きな怪奇趣味全開の話はなく、ほぼ全てがリアルな舞台設定の話である。これは当時のミステリのはやりを反映しているのだろう。
60~70年代のミステリが系統的にまとまっている上で、クイーンや編集委員の説明もしっかりある本書は、当時の作家の個性を把握できる良本である。ということで総合点は各話の平均点+1の7点で。

(以下個別の書評)

石沢英太郎 「噂を集め過ぎた男, TOO MUCH ABOUT TOO MANY」 7点
全員が共犯というわけではないが、腹に一物ある連中が部分的に本当のことを言えず、それによって殺害動機が隠蔽され、警察が困るという点が面白い。最終的に犯人がぼろ(?)を出すが、金をせしめる手口はお見事。犯人が被害者の筆跡を真似た手紙を送るシーンがあるのだが、筆跡というのはどのレベルまで模倣すると警察を欺けるのだろうか。これは話のあらではないけど疑問に思いました。

松本清張 「奇妙な被告, THE COOPERATIVE DEFENDANT」 8点
普通犯人は警察に捕まらないように試行錯誤するものなのに、あえて警察に捕まってから無罪を勝ち取るために工夫をこらしていたというパターンは初めて読んだ。なので本当は7点くらいの面白さだけど、初めて補正分1加点。ただし現代で同じような策を講じてもほぼ100%失敗するだろう。科学捜査の発展により、直接証拠を完全に隠蔽するのがとても難しい時代になりつつあるからね。

三好徹 「死者の便り, A LETTER FROM THE DEAD」 4点
好きな人には悪いがオチが気に入らない。主人の敵を討つのに新聞社に手紙送ってもしょうがないような気がしてならない。手紙の消印の仕掛けはシンプルで良いと思う。

森村誠一 「魔少年, DEVIL OF A BOY」 5点
読みやすい文章でさくさく読めた。その点は加点ポイント。しかし、本作はオチがかなり序盤で読めてしまった。短編なのでしょうがない側面もあるが、ミステリで先を完全に読まれるのはやはり手痛い失点だろう。実は英語タイトルのA BOYが結構なネタバレなのよね。魔少年が素直に大野宗一をさすならTHE BOYになるもんな。こういうの見ると、やっぱり日本語って英語に比べて曖昧で、人を騙しやすい(つまりミステリ向きな)言語だなぁ、と思ったり。

夏樹静子 「断崖からの声, CRY FROM THE CLIFF」 5点
事件の真犯人は元々容疑者が少ないので明らか。この話のメインの謎は一見アリバイが成立する中どうやって殺したかという点。トリック解明部分を読んで文句はないけど、特に面白いとも思えなかった。

西村京太郎 「優しい脅迫者, THE KINDLY BLACKMAILER」 6点
非常に読みやすい小話で、オチも明快。保険金目当てであえて殺されるというのは、現代視点だと目新しい話とは言えないが、短編でさくっとまとまってる本作は高評価。ひき逃げしてるし、自業自得なのかもしれんが、結果的に人を殺めることになった床屋の店主は災難ね。現実でやましいことをネタに脅迫されたらどのように対処するのが正解なんだろうか?ま、まぁ私にゃあ脅迫されるネタなんてないけどね!はは・・・(冷や汗)。

佐野洋 「証拠なし, NO PROOF」 7点
未必の殺意の一種だけど、こういう事件ってどのくらい現実であるのだろう?もし、現実でこういう感じで人を殺したら、罪人にならないにしても、それ以前と同じようにのほほんと暮らせるのかな?なんとなく江戸川乱歩さんの「赤い部屋」に似たしかけと感じた。(話の雰囲気は大分違うが。)

笹沢左保 「海からの招待状, INVITATION FROM THE SEA」 6点
もう少し事件を複雑にすれば長編にも使えそうな設定(イニシャルに共通点がある見知らぬ男女が集められて、過去の事件について討論する)で、社会派全盛の中で古き良き探偵小説の雰囲気を感じた。短編だからしょうがないかもしれないが、解決があっさりしすぎで、少し物足りない。招待主(久留米鈴子の姉)が招待客の中に混ざっているというのは途中で予想していたパターンの一つだった。一つ、招待状の名前に海を使った理由だけが最後まで読んでも分からなかった。(読解力が足りないのぉ。)

草野唯雄 「復顔 FACIAL RESTORATION」 6点
復顔法にあまりなじみがなかったので新鮮だった。ググったところ復顔の際にネックになるのは耳(軟骨のため白骨化すると残っていないことが多い。)と瞼(一重か二重かで顔の印象が大きく変わる)らしい。現在はこれまで作り上げてきたデータを用いたコンピュータグラフィックスによる「復顔像作成システム」が導入されているそうなので、本書の主人公のような職人はおらんのかも。これ復顔法について調べただけで、話の書評じゃないかも・・・(汗)。

戸川昌子 「黄色い吸血鬼 THE VAMPIRE」 4点
おどろおどろしさがでており本短編集の中で一番ホラー色が強い作品。私は雰囲気重視のホラーよりミステリはそれほど好みじゃないのでこの点数。吸血鬼の正体が最初の数ページで分かったのもあり、うまいと思えなかったのも評価が低くなった要因。ただ、世界観がはまる人はぞくっとできると思う。

土屋隆夫 「加えて、消した WRITE IN, RUB OUT」 8点
漢字の形を上手く使っており、しかけは全く見破れなかった。クイーンも短評で触れているが、海外のミステリファンにうまくこのしかけを伝えるのは大変そうだ。前半から中盤にかけては主人公による妻の他殺を疑わせるように誘導しつつ、地の文で自殺を強調し、読者を(いい意味で)混乱させ、ラストに探偵が見破れなかったネタ晴らしをして読者に上手いと思わせる構成がお見事。短編ミステリのお手本のような構成かと。本短編集で一番好き。

筒井康隆 「如菩薩団 PERFECTLY LOVELY LADIES」 4点
調子のぬけるマダム?達の大胆な犯行からのえげつなさ。この普通じゃない組み合わせは筒井さんらしく面白い。
しかし、面白い設定なのだが、終わりの唐突感がすごかった。起承転結の"起"で終わってないかこれ?ブラックユーモア的なお話と思えばありだけど、ミステリの一つとして見るとあまりにも、投げっぱなしだろう。既読の筒井ミステリ(「ロートレック壮」と「富豪刑事」)よりもその点で下かと。


No.157 5点 三匹のおっさん
有川浩
(2019/08/16 10:29登録)
私が読んだ初有川作品。全体としてまぁまぁ楽しめたけど、少し物足りないという印象。

まず、私の嗜好がどうしても変化や新しさに向いているので、水戸黄門のようなワンパターン戦法(あとがきを見るにあえてとっているようだが)が好みからは外れている。かつ勧善懲悪物なので、登場人物が(敵役を除いて)善人なのだけど、いい子ちゃんのテンプレート的キャラが多く目新しさがない。
上記のようにオリジナル色という点に物足りなさを感じた作品かな。三匹のおっさんも若者二人もかわいいだけにもう一声ひねりが欲しかった。

最後に私個人の反省点。ブランド品になっちゃいかんね。年取ると説教される機会がどんどん減るので自分で性根を省みないといけないなぁ。私のために説教してくれた親や先生がどれだけありがい存在だったか。


No.156 7点 奇面館の殺人
綾辻行人
(2019/08/13 15:55登録)
待望の館シリーズ9冊目。文庫版の後書きにあったように最近のシリーズ作品(黒猫、暗黒、びっくり)より、シリーズ初期作品(十角、水車、迷路)に近かった。特に本館にはマイベスト館である迷路館の正統続編感がある。ただし残念ながら似た雰囲気の迷路館には劣ると感じた。それでも十分楽しめたけどね。

館のしかけがふんだんに利用された事件だけに、これまでのミステリの知識だけで全てを見通すのは難しいかもしれない。(被害者の首を切った理由や犯人が内線でサロンから人払いをした理由など。)
一方、館固有の要素がない謎(客人達に面を付けた理由や被害者の指の破棄理由)はわりかし単純なので、予想できた人も多いのではと思う。犯人当てはかなりきちんと読んでないと難しいかなあ。

お家芸である叙述トリックは本作品ではかなり控えめという印象。驚きといより、「は・・・?なんじゃそりゃ!」と思った。
最後の方の鹿谷の
「たとえば地の文で、使用人以外の登場人物をどう呼び分けるとか、その辺の面倒をちょっと想像しただけで眩暈がしそうになります。ましてや、つまらない悪戯っけを起こして、たとえば”同姓同名の”という事実を読者に対して伏せてしまおうなんて考え出したら・・・・・・」
という台詞は完全に綾辻さんの代弁で笑っちまった。ロートレック壮の解説風自慢に近くて褒められたものではないけど、建前的には鹿谷の台詞なんでセーフっすかね(笑)。


No.155 5点 びっくり館の殺人
綾辻行人
(2019/08/10 08:59登録)
(再読シリーズ5)

他の館シリーズに比べるとメインのしかけがこじんまりとしているのは事実だが、単品のミステリ、ホラーとしては結構上手いと感じた。

ミステリとして関心したのは、あおいの発した虐待というワード。俊夫がリリカの役を演じていたことを隠しながら話がつながるように組み込みつつ、実際は人形役をやらせられていたということへの台詞。そうすることで事件の際に読者に対し密室を提供でき、ただの単純な殺傷事件をミステリの事件へと昇華させたのである。

昔読んだときはホラー色が強く、いまいちと感じたが、今回の再読で、本書のミステリとしての良さに気づけた。


No.154 6点 ジキル博士とハイド氏
ロバート・ルイス・スティーヴンソン
(2019/08/08 23:27登録)
世界で一番有名な二重人格ものかな?私の知識が足りないので自信ないが・・・。
ネタバレなしで読むのはもはや難しい本。私も例にもれずネタバレした状態で読んだので、私にとって本書に謎はなかったです。なのでそれを踏まえての書評になる。

人間の持つ普遍的な裏表に具体性を持たせてできた本小話は、日本昔話などに通じる面白さがある。誰もが心に潜む自分のハイド氏について考えざるを得ない良い本だと思う。


余談:私はおそらく幼少期にドラえもんでネタバレされたのだと思う。たしかジキル・ハイドという性格を真逆にする秘密道具があったはず。


No.153 6点 クライマーズ・ハイ
横山秀夫
(2019/08/08 23:01登録)
全体的には結構楽しめた。ただし、序盤、中盤、終盤全部を楽しんでたかというとそうでもない。正直中盤あたりは読んでてかなりだれた。(というのも特ダネか!?残念、記事にはなりませんの繰り返し。)

そもそもマスコミは情報を加工して程度の差はあれど偏向報道してるんだから、新聞だって所詮、とてもノンフィクションに近い作り物。その作り物に正義だの真実なんだのを読者に押し付けるのは記者のエゴでしょ。悠木がいかにそれらしいことを吠えても、記者の内部争いを白い目で読んでいた自分がいて、いまいち登場人物に感情移入できなかったのである。だから途中まではイマイチと感じていた。

しかし、望月彩子の投書をめぐっての最後の60ページくらいはお見事。大事な言葉を切らずにそのまま採用した悠木を他の記者たちが庇うのは当然でしょう。最後の最後でようやく登場人物と価値観を共有できて楽しめた。

横山さんの作品は64に続き2冊目だけど、僅差で64の方が好きかな。(10点満点の点数上では同じ点だけどね。)


No.152 5点 ペルシャ猫の謎
有栖川有栖
(2019/08/05 11:01登録)
辛辣だが、ほめられた出来でない。(私のようなシリーズファンなら許容できるけど。)

普段の火村シリーズなら真相を推理して読むのだが、本短編の中にはそうするに値するものが無い。となると衝撃的なしかけに期待するも、せいぜい「わらう月」がそこそこくらいで後はイマイチ。本書はシリーズファン以外は読むべきでないし、シリーズファンでも必読書ではないと思う。

(個別書評)
「切り裂きジャックを待ちながら」(4点) 本短編集で一番これまでの火村シリーズっぽい話。普段は気にしないけど動機がよく分からんかった。事件は見た目のインパクトだけで、ミステリとして優れたポイントは無い。

「わらう月」(6点) 写真のトリックの発想は面白く、本短編集の中では一番の作品と思う。しかし、犯人は発想はいいが、あんな子供騙しの写真で警察をだませると思ったのだろうか?

「暗号を撒く男」(3点) 火村先生も言うように解いたからなんだよ、というレベルの謎。イマイチです。

「赤い帽子」(5点) まさかの火村 and 有栖が全く出てこない話。これはこれでいいかも。地味ながら、小さい根拠から犯人に迫るこのやり方は有栖川さんの良さが出ていると思う。

「ペルシャ猫の謎」(5点) 個人的には許せるけど、これは賛否両論というか否の人が多そうだなあと。ミステリとしては大きく問題有りなので、かなり読み手を選ぶ話かと。

「悲劇的」、「猫と雨と助教授と」(採点不可) ミステリでないので評価の対象外とする。火村先生のバックグランドの一端が垣間見られるという点は悪くない。


No.151 4点 イニシエーションラブ
乾くるみ
(2019/08/03 11:46登録)
叙述ものだって知ったうえで読んだからか、あんま驚けなかったわね。(AとBで一人称の男の性格が違いすぎて、別人だろうなーと思わざるを得ないという印象。)丁寧に書いていて好感はあるものの、それ以上の感想はない。
ただし一つ騙されていたのは、マユも別人だと思って読んでました。B面の最後の方で本名が出てくるまではね・・・。

話としてはただのラブロマンスで、新規性を感じられなかったのも、評価が伸び悩んだ一因。


No.150 10点 ナイルに死す
アガサ・クリスティー
(2019/07/31 21:00登録)
傑作でした。久しぶりに満点です。(パチパチパチ)
クリスティの有名作を3つ挙げろ、と言われたら「アクロイド」、「そして誰もいなくなった」、「オリエント急行」かと思うが、私個人の好みでは本作品はこれらを上回った。

本作の良さは、"バランス"と思う。本筋を覆い隠すために、無関係な小噺も多くなりがちなミステリでは、謎を深くしようとし、読み物としてチグハグになることが多々ある。しかし、本書はミステリの命である謎の出来と小説としての話の展開、この両方がハイレベル。つまり謎を魅力的にしつつ、ストーリーを読ませる最適なバランスなのである。

メインの仕掛けは、見破れなかった。(おしい所まではいったが、サイモンがジャッキーを庇ってるパターンかと思ったぜ。)枝葉の謎(レイスが追う男やティムの役割など)は完璧に分かったんだがね。共犯ものは基本的に嫌いだが、本作品はその苦手を跳ね返す良さでした。

最後にストーリーについて。無駄なキャラにさくページはほぼなく、読みやすい上に、各キャラの立ち具合、エジプトの雰囲気などを非常に楽しめた。


No.149 5点 探偵部への挑戦状 放課後はミステリーとともに2
東川篤哉
(2019/07/26 21:10登録)
(再読シリーズ4)

こういう軽めのタッチで書かれているミステリの楽しみ方は色々あって良いと思う。王道に謎やトリックを重視してもいいし、キャラクターの良さに主眼をおいても良い。
私はというと、キャラクターやコメディの良さを楽しみつつ、やはり、トリックやロジックの上手さも気にしたい欲張り者です(笑)。ざっと振り返ると本作は粒ぞろいの謎が多く、その点評価は高い。しかし七編の中に足跡ネタが3件、凶器消失ネタが2点と被りが多かったのも事実。同一書籍内に収録するならその辺の被りは減らして欲しかった。その分1点減点した。

以下各話書評(タイトルの霧ヶ峰涼は省略)
・渡り廊下の怪人(6点) 被害者が都合よく事件の前後を忘れるという点以外はご都合要素がなく、現実的と思う。短編集の出だしとしてはまあまあ。

・瓢箪池の怪事件(5点) 遠目とはいえ、わたあめを棍棒と見間違えるかな?先輩との漫才がメインで事件は微妙感が・・・。凶器はカッターだが、学園祭の中でのストレス発散にしては流石に殺傷力高すぎないか。

・挑戦(6点) 双子と密室の謎を組み合わせているが、謎の面白さはそこそこかな。どちらも単体ではこてこてすぎるからねえ。笑い声の伏線は面白かった。

・十二月のUFO(4点) 本作の中で最も事件がつまらなかった。ただしシスター・アンジェリカの台詞は一々笑える。

・映画部の密室(5点) なんとなく、薄型テレビを窓の格子の間から二人がかりで運搬したのかと予想したが、全然違った(笑)。

・二度目の挑戦(7点) これは面白いトリックと思った。証拠の一輪車が見つかったらアウトだから、実際の犯罪への応用は難しい。つまり、こういう推理ゲームならではのgood ideaでしょう。

・お礼参りの謎(7点) 突き抜けたバカミス感が良かったです(笑)。鯉を使った理由も説得力はあったし、それに気づく過程も先生の科目の特性が使われていて丁寧。何より読後感が良い。


No.148 6点 悪意
東野圭吾
(2019/07/24 11:14登録)
前評判を気にしすぎるべきでないとは分かっていながら、少し期待値を上げすぎた。

事件の始まりから手記形式で、この手記は信用できないんだなと悟る。作中作や手記を使う方法は信用できない語り手の応用なのだなと今回改めて気がついた。
今回信用してはいけないのは事件の筋書きではなく、登場人物の人物像というのがこの作品特有の面白い仕掛けである。この効果については良くできていたと思うから野々口は上手く書いていると思う。ただ東野さんはその辺にもう一手間かけるべきだったと思う。というのも信用できない手記以外に日高の生前の描写がほとんどなく、それらの読者への提示の仕方が後だし的なので、最終章で実は日高は正義漢で~、と言われても説得力にかける。事前に手記での人物像に違和感を持たせる伏線を忍ばせておけば個人的にはもっと良くなったのでは?と思う。

問題の動機についてはそれほど衝撃的でもなかったかな(申し訳ないけど)。同じ作者なら「殺人の門」の方が殺害の動機うんぬんという点においては上と思います。


No.147 5点 四つの署名
アーサー・コナン・ドイル
(2019/07/22 18:39登録)
短編集よりは楽しめた。
結局ホームズものって、謎とかトリックではなく、かっこいいホームズが鮮やかに事件解決する様子を楽しむものなのかなあと、本書を読んで思ったり。

特に意外性が無いので、つまらんとまでは言わないが、それほど評価する部分もない。
前に読んだ短編集(シャーロック・ホームズの冒険)と平均点にだいぶ差がある理由がちとわからん。私は似たような出来と思うけどなあ。


No.146 5点 封印再度
森博嗣
(2019/07/18 12:46登録)
微妙だったのであんまり語ることない。だから箇条書きで書評終わり!

良いと思った部分
・壺と箱のトリック(一番面白かった。)
・タイトル(個人的には結構良いなあと思う。)

うーんと思った部分
・犀川の言うように事件は至極単純だった。ゆえにこの内容で長すぎない?と感じた。普段長さは気にしないのだが、本作品は流石に無駄な描写が多い気がする。
・なんか私自身が本書の本質を見抜けてないような気がする。気のせいかしら。(これは自業自得)
・閂問題を圧力問題にすり替えていたけどあれヒント足りてる?私は解説されるまで、そんな可能性は歯牙にもかけていなかったね。


No.145 6点 黒猫 エドガー・アラン・ポー短篇集
エドガー・アラン・ポー
(2019/07/12 13:23登録)
(再読シリーズ3)
再読とは言っても内容は完全に忘れてしまったので、今回ほぼ初見。

本短篇集は幻想小説とホラーが中心(デュパンが登場する「盗まれた手紙」は唯一ミステリか?)で自分が好んで読むタイプではないが、ぐっと引き付けられる話が多く、現代視点でも面白かった。19、20世紀にこんなものが出回っていれば、江戸川さんがリスペクトするのも納得。
あと、本書は解説も読みごたえがある。

個別書評
・リジーア(7点) 理想の女性であるリジーアがあえて記号的な表現で、そこに不気味さがある。まともでない主人公の一人称視点で語ることで恐ろしげな雰囲気が見事作られる。

・アッシャー館の崩壊(6点) 主人公はまともなホラー話。リジーアみたいな構成の方がどちらかというと好き。最後館が崩壊するシーンはわかりやすい伏線があるのかな?(読解力のせいか唐突な崩壊に思えた。)

・ウィリアム・ウィルソン(4点) これはこの短篇集の中では評価低め。自分の気質に真っ向から反抗するもう一人の自分を殺すってのは、物語としてなんか安易かなという気がする。(もちろん現代からの視点です。当時は斬新だったのかな?)

・群集の人(8点) きちんと作者の狙いを酌めてるかはわからんが、常に集団に入りたがる人は、自分が無く観察するに値しないということを独自のストーリーで書いている。推理要素でないが一番上手いと感じた。

・メエルシュトレエムの底へ(6点) 序盤大自然の描写に引き込まれたが、中盤以降は語りべの脱出劇になってしまい個人的にトーンダウンした作品。冒険ものとして読むべきだったかな。

・赤死病の仮面(7点) 正直舞台設定の説明が終わった段階で、僧院内で赤死病がはやる落ちは読めた。ただ赤死病患者が紛れ込みのではなく、赤死病そのものが紛れ込むというストーリーは予想外だった。

・黒猫(5点) 表題作なのに微妙という(笑)。これは主人公が糞野郎すぎて、不気味さとかよりも不快さがでてしまい、うーんという感じ。

・盗まれた手紙(6点) 読者が推理に参加しようが無い点は不満だが、別段わかりにくくもないし、まあまあ。この短篇集の中での面白さは真ん中くらい。


No.144 2点 パズル
山田悠介
(2019/07/06 11:14登録)
機会があったので今回読んだが、今の(年をとった)私の感性にはちとあわない内容っすね。

以前読んだリアル鬼ごっこでも思ったが、山田さんは突飛なアイデア・設定を考える力はあるが、物語、キャラクターをつむぐ力はいまひとつなのかと思う。
この作品で言うと、主人公たちがパズル探しをしだしてからはそれを淡々とこなすだけで物語りの起伏が無い。また、エリート設定の学生のはずなのに、全く頭が良さそうに見えないキャラ達。
このように問題点が多いと思う。読書になれていない人相手であれば、サスペンス的なはらはら感でごまかせるのかもしれないが・・・。


No.143 9点 硝子のハンマー
貴志祐介
(2019/07/06 10:28登録)
甘いかもしれないが非常に楽しめたので9点で。

別解をひたすらつぶしていくやり方は、私が探偵ならそうする、というやり方なので個人的に好み。それに真相が別解と比べて一番インパクトがあり、尻すぼみ感がないのもgood!真相の物理トリックは高校物理の範囲で理解できるもので、シンプルながら面白かった。
あえて多くは語りません。


No.142 7点 月の影 影の海
小野不由美
(2019/07/03 11:06登録)
シリーズ第一作目なので陽子と読者の認識が同じレベルなのが、物語に緊張感を走らせる。これだけテクニカルタームが多いのに読みにくさがほぼ無くその辺は上手く書いていると褒めざるをえない。
壮大な世界観を感じさせ、今後もこのシリーズを追いたいと思わせてくれた。中盤までの容赦の無さは読んでて辛いが、それでぐっと十二国の世界に引き込まれるのも確か。
まだまだ十二国世界の一部しか見られていないので、とりあえずこの評価。だが、この後も盛り上がるのだろうという期待感がある。

延王と会ってからは、中盤までとはうって変わって平和な話になるので、最後の陽子と景麒の再会のところでもう一波乱あってもよかったのでは、という気はした。


No.141 7点 十二国記
小野不由美
(2019/07/01 14:43登録)
十二国記シリーズの書評をここにまとめます。
(シリーズ読み進める毎に編集で追加します。)

「月の影 影の海」(7点)
シリーズ第一作目なので陽子と読者の認識が同じレベルなのが、物語に緊張感を走らせる。これだけテクニカルタームが多いのに読みにくさがほぼ無くその辺は上手く書いていると褒めざるをえない。
壮大な世界観を感じさせ、今後もこのシリーズを追いたいと思わせてくれた。中盤までの容赦の無さは読んでて辛いが、それでぐっと十二国の世界に引き込まれるのも確か。
まだまだ十二国世界の一部しか見られていないので、とりあえずこの評価。だが、この後も盛り上がるのだろうという期待感がある。

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