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ミステリの祭典

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バードさんの登録情報
平均点:6.14点 書評数:320件

プロフィール| 書評

No.240 6点 ifの迷宮
柄刀一
(2021/01/20 07:08登録)
(ネタバレあり)
科学捜査のせいで、昔ながらの探偵小説が書きにくくなってきているが、逆に遺伝子を利用した人物間の紐づけで、魅力的な謎を演出していて凄いと思った。中盤までの盛り上げ方は、非常に好み。

それだけに、結末は置きに行ったなぁと思った。遺伝子の誤認識の原因が○○移植や○○〇双生児というのは、現実的すぎる落としどころで、ミステリとしてはつまらん。(好みの問題だが。)私はもっと、アクロバットなトリックを期待していたのだよ。

初めての柄刀さん本だったが、総合的には、可もなく不可も無く、だった。


No.239 6点 水鏡推理II インパクトファクター
松岡圭祐
(2021/01/13 22:04登録)
『水鏡推理』の続編。STAP細胞問題がモデルの事件を題材に、アカデミック界の身内で閉じている評価方法が抱える問題に切り込むストーリーである。

本作であるが、敵役の科学者達があれだけのリスクを負っても守った秘密に期待していただけに、ラストは完全に肩透かし。中盤までのストーリーは7点(前作は6点)だったが、結局一点減点。それでも、下記の点が良く、総合的には前作以上に面白かったが。

余談だが本作の題材は、自分と無関係ではないので耳の痛い箇所もちらほら・・・。論文・学会の扱い、査読のシステム、インパクトファクターあたりのネタって、やっぱ世間の認知度は低いのね。

<前作からの加点ポイント>
1 前作よりも科学者側の言い分がはっきりと書かれており、その対比から水鏡の行動理念がより際立っていた。
2 前作の構成は小ネタ集的で、悪く言うとまとまりがなかった。しかし、今回は芯に大きな問題が一つあり、筋が分かりやすかった。


No.238 7点 罪と罰
フョードル・ドストエフスキー
(2021/01/11 16:43登録)
読んでて楽しい本でないし、独創的なアイディアがあるわけでもない。しかし、読後は何故かすっきりした。
この理由は、本書が「人類のあるあるネタ集」だからなのだと思う。本書で語られる考え方や思想は、恐らく人間誰しもが一度は感じる、思う、考えるネタで、少なくとも私は共感する場面がいくつもあった。

拗らせた主人公に、突飛な思想ではなく共感可能な思想を語らせている点こそが、本書の最良点だろう。

ただし、内容は普遍的だが、読者を選ぶ構成になっていると思う。
とうのも、第三者視点で読んでしまうと、ラスコーリニコフは感情的に突飛な行動ばかりする主人公であり、結果、物語自体を支離滅裂に感じる恐れがあるからだ。
一方、当人の中の理論には忠実なので、主人公視点で読むと、共感できる点が見えてきて、読み応えのある小説に化ける。
まとめると、本書はラスコーリニコフに感情移入するよう読まないと、消化不良になると思われる。


No.237 6点 嘘でもいいから誘拐事件
島田荘司
(2020/12/02 06:35登録)
島荘小説の中ではお笑い路線な本書。
基本的には面白かったが、本当は真面目な人が頑張って悪ふざけしているかのようなぎこちなさも感じた。それでつまらなくはなかったので、別に良いのだけど。
ただ、本書はあくまで息抜き作であって島田さんはやはりシリアスな本格あってこそと改めて認識。恐らく、ユーモア方面で売り出していたら、今のような売れっ子作家にはならなかったんじゃないかな。

<個別の書評>
・表題作(7点)
メインの仕掛けは実現性や分かりやすさの点から、短編での仕掛けとしていい塩梅。メインの謎が早めに提示されるので、ストレス無しにサクサク読める良短編。(後半の展開(鬼=○○)は予想通りだったが。)

・嘘でもいいから温泉ツアー(5点)
悪ノリ度は表題作よりも高いが、肝心のストーリーが微妙。
ぐだぐだな温泉の撮影描写やら、終盤で唐突に警官の婆さんが登場するやら、全体の流れがちぐはぐすぎる。それこそ、三太郎作の台本みたいだった。(寧ろこれは狙い通り?)
一方、三太郎への報復計画が語られるオチは好き。そりゃあれだけやりたい放題やってるキャラは多少痛い目にあってもらわないとね。


No.236 7点 化学探偵Mr.キュリー
喜多喜久
(2020/12/02 03:09登録)
読む前は、東野さんのガリレオシリーズのパチモンというレッテルを張っており、それほど期待していなかったというのが本音なのだが、良い意味で裏切られた。『容疑者x』越えとまではならなかったが、ガリレオの短編よりも、本作の方が好みである。
本作の良い点は

・化学の扱いが読者をしらけさせない程度に留められている
・各話がフェイクの解決→真相と二段構えの構成で、単純になりすぎないよう配慮されている

といったところ。一つ一つのクオリティは安定して良かった。ただ、これだ!という仕掛けが一つも無く、そこは惜しいと感じた。(私は短編集の評価項目として、個々の話のアベレージだけでなく、その短編集を代表する話があるかないかも重視しているので。)

最後に各話で印象に残った点を挙げる。
・埋蔵金の暗号 周期表の暗号が好き。ただ、科学者探偵に暴かせるオチが研究捏造というのはひねりが無さすぎな気も。
・奇跡の治療法 現実でもこの手の詐欺師まがいが幅をきかせていると思うと腹が立つ。
・人体発火の秘密 トリックは仕込んでいた発火装置という面白みの無さだが、最後まで読んだ後第1章を読み返したら丁寧に書いてあり、好印象を抱いた。
・悩める恋人たち ストーカーとの肉弾戦で発せられた「弱っ!」が本書全体の中で一番笑った箇所。
・冤罪の顛末 ゲイオチは予想の斜め上だったので素直に笑った。ただミステリとしては他の話より一段落ちる。


No.235 5点 NかMか
アガサ・クリスティー
(2020/11/24 23:34登録)
戦争敵国のスパイを暴くというスケールの大きい話だが、実態は老人や婦人方の毒にも薬にもならない会話が大部分で、病院の待合室を見させられてる感覚。つまり、冒険ものとしては案外地味目。
ストーリーがつまらないわけではないが、クリスティの人気作はここに更にもう一ギミック入るので、やはり少し物足りない。総合すると、本作はクリスティ作品に求める水準に対し及第点くらい。


No.234 5点 三毛猫ホームズのフーガ
赤川次郎
(2020/11/24 23:19登録)
(再読シリーズ9)
三毛猫ホームズのシリーズで初めて読んだタイトル。というより、これしか読んでない。軽く読めるので、作業の合間や眠い時でもいけるのが利点。しかし、読みやすさ以外は凡かな。再読でもその印象は変わらず。

細かい点に言及すると、わざわざプロローグで犯人をわる理由が分からなかった。個人的にはプロローグ自体要らない。また、フーガの作り方も力業感が強く微妙。


No.233 5点 嫌われ松子の一生
山田宗樹
(2020/11/04 19:53登録)
本書の感想は全て「松子をどう感じたか」に集約されると思う。私は、
「松子は極悪人ではないが愚か。また、打算的で私個人は好きになれないタイプ」
と感じた。これは、おそらくとてもメジャーな感想だろう。

松子が好きでないのもあり、作品自体の評価もそこそこ。ただし、松子視点と甥の笙視点の繰り返し構成による、リーダビリティの高さはお見事である。


No.232 7点 ポオ小説全集1
エドガー・アラン・ポー
(2020/10/25 07:40登録)
最近自分の中で、ポーの評価が上がっています。
昔はミステリの始祖『モルグ』を書いた作家というだけの認識で、それ以上でもそれ以下でもなかったが、短編集を経て、ポーの文章力、構成力の素晴らしさに惹かれつつある。
一読後、各文章の役割や効果を考えるのが非常に面白く、ミステリでなくてもあれこれ考察するのが楽しい。なんでもない文章にも何か裏が・・・?、と思わせられてる時点でどっぷり好きになっとるね。
各話の平均をとると6.5点くらいだが、『ウィリアム・ウィルソン』以外の収録作はプラスの印象なので、短編集としては7点。

このようにとても楽しめたが、さすがに200年近く前の本だけあって読みにくさは多分にある。サクサク読める本ではないから、疲れてる時とかに読むと寝落ちするかも。これから読む方は万全の体調で読むのをお勧めする。


<各話の書評(ネタバレあり)>

・壜の中の手記(5点)
訳者の癖なのかやたら読みにくかった。話の面白さはまあまあっす。

・ベレニス(7点)
初め、エグスが歯に囚われた理由が分からず、唸っていた。(描写的にベレニスの歯は普通の様相だったようなので)
しかし、本文をよく見ると、エグスが関心を持つ対象は「必ず平凡」ともろに書いてあるじゃないか。やっぱ自分、国語苦手だわ(笑)。

・モレラ(7点)
娘の外見がモレラに似るのは我慢できても、思考が同期してくるのが恐ろしい。中盤の個性についての言及が、ここで生きてくる。短い中で無駄のない構成だ。
一つ分からなかったのは、「わたし」のモレラへの愛の種類。エロス的な愛ではないようだが、適切な形容詞が浮かんでこない。

・ハンス・プファアルの無類の冒険(6点)
古典って発表当時だから許されたものも多いが、本話はその典型と感じた。現代的には無茶がすぎる設定でやや興ざめ。まぁ読み物としては悪くなかったけども。

・約束ごと(5点)
表面的には、愛し合った二人(夫人と彼)が無理心中したというストーリーだが、何か裏がありそうな気がする。書き出しから、主人公は一般の人々の各理想像を表していると捉えたが、これであってるのかな?
結局、私の読解能力では5点分くらいしか楽しめなかった。

・ボンボン(7点)
悪魔の取引が成立しなかったという話。この話の悪魔は悪い奴というより、『ハガレン』の真理に近いが。人間どれだけ賢くても打算的になると、本質を見失うといったところか。

・影(6点)
書き出しが、影の正体のオチにかかっており、4ページという短い中でも、ポーの技巧が光る佳作。

・ペスト王(9点)
一世という表現が非常に上手い。一の次は二、その次は三。悪い意味でタイムリーだが、コロナは何世まで世襲していくのだろうか。恐ろしい。
また、タイトルの付け方もセンス抜群。ラストで分かるが、真の黒幕は一人じゃ生きるのも難しい体形の妃(病原菌)で、王(菌保有者)は替えがきくんですわ。そのスケープゴートをタイトルに据えることで、深みが増している(気がする)。

・息の喪失(8点)
とても好きなタイプの不条理ギャグだった。一々表現が好みで、例えば、
「息の根をとめるにも、息そのものが私にはなかったのだから。」
など。

・名士の群れ(5点)
鼻が例えている物が頭に浮かばん。権威とかではなさそうでし。ひょっとして下ネタ?

・オムレット公爵(6点)
面白かったがよく分らない点も多かった。
疑問1 勝負に勝っても、ほほじろは料理されてるからもう会えないのでは?
疑問2 公爵はどのタイミングで、悪魔になりたいと思ったのか

・四獣一体(7点)
麒麟のコスプレをしたおっさんが死ぬ気でダッシュしてる様を想像すると滑稽。それで更なる名声を得るのも、滑稽。アンティオクス王はMr.サタン的なキャラで、真に担ぐべき人間が他にいることを説明するエピソードという解釈でいいのよね。明記されていないので、合ってるか多少不安だが。

・エルサレムの物語(5点)
一応オチがあるが、そこそこ。

・メルツェルの将棋差し(8点)
上から目線になっちまいますが、本話は論文としては甘々で、それ程価値があるとは思えません。
まず、人々の最大の興味である「将棋差しが完全な機械か否か」という問題に対しては、本話以前に「完全な機械でない場合の理論モデル」での説明が無名氏によってなされている。ポーはこの論文にケチを付けているが、それならば、無名氏のモデルでは説明できない実験結果を示さないと。それ無しに「俺の理論モデルの方が精巧だ!」と主張しても重箱の隅つついてるようにしか見えませんぜ。

このように、論文としては今一つという評価である。しかし語りは面白く、ポーの文学スキルの高さは流石の一言である。また、ポーの考え方
「その説明の仕方に異議がある。最初から一つの理論を作り上げ、~こじつけているだけである。」
は素晴らしい。理学・工学の人間は忘れちゃいけない考え方だ。

・メッツェンガーシュタイン(8点)
本話はボケっと読むと、残虐な悪者フレデリックが天誅を受けたホラーものに感じる。しかしよく読むと、フレデリックってベルリフィッツィング家に何も悪い事をしていない。(少なくともこの話内では)
実は、この話の悪意の方向って
ベルリフィッツィング家⇒メッツェンガーシュタイン家
だけが書かれていて、逆は無い。
つまり、本当は「逆恨みで殺された可哀そうなフレデリック」を悪い奴と認識するよう読者を誘導している。(作中作を使わずに東野さんの『悪意』のようなことをやっている。)この高度な構造に気が付いた時、本話を一気に好きになった。

・リジイア(再読 7点)
初読時と大体同じ感想。

・鐘楼の悪魔(7点)
結構好きなんだが、何を暗示してるかが分からなかった。国語得意な人教えてください。

・使い切った男(7点)
「天丼」ってこのころから確立されてた手法なのね。タイトルの使い切ったというのは、体の部位をということで良いのだろうか。でも、そうだとしたらピンとくるタイトルではないな。
全身機械化の伏線もはってあり、上手な漫談のような出来。

・アッシャー家の崩壊(再読 8点)
この話は再読でぐっと評価が上がった。
ミステリ的な事件ではないが、見立て(?)の面白さが存分につまった良作。前回読んだ時の疑問は一族と家がリンクしているという記述に気が付いて解消された。

・ウィリアム・ウィルソン(再読 4点)
再読だが、相変わらずこの話は好きになれなかった。ポーにしては表現が直球すぎる。

・実業家(6点)
皮肉が利いてて悪くないが、ややリアクションに困る内容。こういう無意識に世間一般と感覚がずれてる系の人って現実でも反応し辛いときあるよね。


No.231 4点 パレートの誤算
柚月裕子
(2020/09/30 12:14登録)
生保というキャッチーな題材の事件を通し、主人公らが成長するストーリー。しかし、目の付け所や狙いはいいのだが、作者の実力が成熟しきっていないという感じだ。

<不満点、ネタバレあり>
・描写がくどい (登場人物の行動を書きすぎていると感じた。もっと削れるはず。)
・役割の薄いキャラが多い (同僚の美央や兄貴でも薄め。ぶっちゃけ、使い捨てが多すぎて個々のキャラ名が思い出せん。)
・ミスリードが弱い (一応、山川とヤクザの繋がりを匂わせる、小野寺に疑惑をかける、とミスリードを誘っているが、レベルが高いとは思えなかった。)
・タイトル回収が地味 (癖のあるタイトルなので、この点も期待していたが肩透かし。)

これらを改善すればグッと良くなると思った。とはいえ、嫌いな本ではない。全体的におしい。


No.230 7点 緋色の研究
アーサー・コナン・ドイル
(2020/09/30 12:10登録)
本書はホームズ・ワトソンコンビの捜査と、犯人の過去話の二部からなり、個人的には後者が好きだったりする。復讐にいたるまでの心情が分かりやすく、物語として完成度が高め。
一方シリーズ第一作なだけあってキャラものとしては発展途上で、ホームズのキャラが好きな人には、その辺に物足りなさを感じる小説かも。しかし、ホームズ物に対して基本辛めの私的には、そこは減点対象でないです。

最後に、細かい点について二点。
まず本書のタイトルだが、後書きによると、元のニュアンスは「緋色の習作」らしい。しかし、「研究」の方がかっこいいので訳者さん、バッチグー。

次に、犬を殺したシーンについて。え、そんなあっさり殺すん?、罪悪感の欠片も無く苦笑した。


No.229 7点 血の雫
相場英雄
(2020/09/21 22:36登録)
震災による福島への風評被害や、ネット上に跋扈する悪意を題材とした、キャッチーな作品。テーマがやや重たいが、作者の意見を一方的に押しつける形ではなく、良い出来と感じた。ただ、被害にあった当事者だと、違う感想を抱くのかもしれないが。

ダメな社会派にありがちな、リアリティの無さによる安っぽい描写が少ないのも良い点。
寧ろ、ネット民の描写に関しては、それこそフィクションであって欲しいレベルの愚かさだが、残念ながら相当リアルと感じた。(モラルない書き込みや拡散行動が人を傷つける事件は、現実でも時々問題になっている。)
本来ならば、発信する前にリアルの自分が発言できる内容かを吟味、そしてその影響を想定する義務があるわな。自分も気を付けようと思いました。


No.228 8点 蒲生邸事件
宮部みゆき
(2020/09/21 22:32登録)
これまで宮部作品については、サスペンス系中心に読んできたので、そうでない本作は新鮮だった。本作は歴史要素、ファンタジー要素、本格要素がバランス良くかみ合った良作という印象。あと、個人的に宮部さんの文章はやはり好みだ。

<以下本作の書評ではなく、時間移動について私の考え>

時間移動物を見るたびに
「時間移動した者が過去や未来の自分に遭遇するのは、おかしい」
と思う。(理由は後述)
本作にはそのような場面はないが、死んだ黒井が終盤で登場するので、同矛盾をはらむ設定と思う。

というのも、Aさんが現在から、異なる時代tに移動するとする。そして、時代tには時間移動するAさんとは別個体のAさん(以降この個体をA_tとする)がいるとする。同様に時代tよりε(任意の正数)だけ前、後の時代、にもA_(t±ε)がいるとする。

時間は連続的だから、A_tのtは連続変数であり、A_tの集合は無限集合ということになる。つまり各時代から、Aさんを同時代に集合させたら、∞人のAさんが並ぶことになり、これは明らかにエネルギー保存則と矛盾する。(それとも、全時代のエネルギーの和は保存されてるからいいのかな?)

上記の考察は相対論素人によるものなので、穴だらけとは思います。もし物理(特に相対論)に詳しい方がいたら、ぜひこのテーマについて講義していただきたいです。時間変換のローレンツ変換に何かトリックがあるんですかね?


No.227 6点 連続殺人鬼 カエル男
中山七里
(2020/09/08 00:47登録)
(ネタバレあり)
私は時々、印象的なタイトルという理由で読み始めることがあり、本書はそういう理由で挑戦した。
結果、本書は楽しめた。しかし、積極的に他の中山本に手出そうって気にはならなかった。点数は、好きな点とイマイチな点がせめぎ合った結果である。

好きな点
・カエル男の猟奇性、気味の悪さの演出力 (別の作家さんだが、『スマホを落としただけなのに』はこの位不気味な犯人を配置した方がより盛り上がったと思うんだよなぁ。)
・事件の三重構造 (二重構造までは当然予想してたので、そこで終わらなかったのは良かった。)
・オチ (初めから変わった名前だと思っていたが、ラストのためだったのね。実は、オチが本書で一番のお気に入り。)

イマイチ点
・ミッシリング周り (現代視点では法則が面白くない。二人目の被害者の時点で正解が頭に浮かんだし。また、理由もありきたりだった。ただ、元ネタ?と思われる『ABC殺人事件』で頭をよぎった、人をそこまで都合よく操れるのかねぇ?というひっかかりは、本作では特に無かった。)
・メインの題材がきわどい (少なくとも私は好きでないです。)
・文章 (『ドビュッシー』でも少し感じたが、純粋に中山さんの文章と相性悪いかも。難しい言葉を使う割に説得力が薄い。作者の能力に対し、少し背伸び気味な本文という印象。また、キャラクター造形も、ワンパターンなヤクザ的キャラばかりでイマイチっす。)


No.226 6点 死の記念日
リチャード・レビンソン&ウィリアム・リンク
(2020/09/05 10:02登録)
ドラマ『刑事コロンボ』は未視聴だが、キャラクター性が好みで楽しめた。ストーリーについても、特筆すべき要素は無いものの、分かりやすく、ストレス無しに読めた。
他のシリーズ作にも手を伸ばしてみよう。

コンピュータが重要アイテムとして登場するが、データの作成時刻って証拠になるんですかね?それこそ、いくらでも改竄できそうだが。ケチつけるとかではなく、ちょっと疑問に思っただけ。
ちなみに、シンクタンクのお偉いさんやコロンボのPCスキル(笑)は現代人から見ると最早ギャグレベル。当時と比べ、素人でも扱いやすくなった今のコンピュータなら、彼らも使いこなせるのかな。


No.225 6点 むかし僕が死んだ家
東野圭吾
(2020/09/05 10:00登録)
(少しネタバレあり)
面白ギミックてんこ盛りの本書。ただ、その隠し方は全体的に上手と思えず。水星のヒントなどは直球すぎるし、そうでなくても、ヒントが胡散臭い(断片的な記憶と他人の日記)ので、何かを誤認識させる仕掛けがあると、こちらも身構えるからね。

本作はミステリに慣れる前(トリックやロジックの蓄積がほぼ無いうち)に読むべきだった。もっと早く出会っていれば、大好きな一冊になっていたと思うと少し悔しい。


No.224 7点 毒入りチョコレート事件
アントニイ・バークリー
(2020/08/30 11:52登録)
こてこての古典作品と思わせる堅苦しいタイトルに反し、実際の本書は、中々にミステリ小説を皮肉ってらっしゃる変化球本である。
本書の最重要テーマはミステリにおける論理の脆弱性で、これは奇書と名高い『虚無への供物』と似ている。皆さんが書かれているように、この本の分類はアンチミステリっすね。
最近、ミステリの粗が気になり、昔ほど純粋に楽しめていないという方に本書はお勧め。ミステリの論理なんて良くも悪くもこんなもんよ、と初心を思い出させてくれるだろう。

扱ってるテーマは興味深い(9~10点)が、同じ事件の解決案を6回も聞かされるので、物語的には少し退屈(5~6)だったかも。点数はテーマと読み物としての面白さの両方を考慮した。


No.223 7点 動機
横山秀夫
(2020/08/30 11:50登録)
横山さんの短編は初めてだったが、短くとも各話で作者の良さが発揮されている良短編集と感じた。

<各話の書評>
・動機(7点)
警務対刑事あり、予想を外す事件の真相あり、と『64(ロクヨン)』のプロトタイプのような内容。本短編が十分面白い事を考慮すると、『64(ロクヨン)』は少々長すぎ?

・逆転の夏(8点)
横山さん、こういう本格色の強い話も書くんだ、と少々驚いた。裏で暗躍する者達の仕掛けはシンプルで上手。また、話の根幹は暗いが、読後感がそれほど悪くないのもgood。ラストに静江が出てくるのはご都合な気もするが、そこをつっこむのは野暮ってもんだ。

・ネタ元(5点)
記者出身の横山さんの良さが出る題材とは思うが、記者の話はどうも好かん。とはいっても水準並みには面白かったです。

・密室の人(7点)
居眠りというやや抜けたミスから始まるにもかかわらず、終わる頃には重苦しい雰囲気の本話。後味は決して良くないが、程よい謎と余韻が楽しめる佳作。


No.222 2点 姑獲鳥の夏
京極夏彦
(2020/08/24 06:55登録)
京極さんは『魍魎の匣』で、合わないかも、と思ったが案の定本書もダメだった。京極堂シリーズはもう読まん。

キャラものとしては好きな人がいるというのは分かる。木場や榎木津あたりは自分も良いキャラと思っているし。
ただ、本書の語り役の関口が無理。グジグジ女々しい上に、友人(京極堂や榎木津)の意図もほとんど汲めてなくて、なんなんこいつ?って感じ。終始イライラさせられた。

(以下ネタバレあり)

本書のメインの仕掛けは
・三重人格の犯人
・姉妹の人物誤認
・重要なものが視界に入っていても、認識できない(チェスタトンの例の作品の考え方)
あたりね。また、「信用できない語り手」の手法も取り入れられている。
ミステリ的にグレーな仕掛けを数多く採用しているにもかかわらず、本書はフェアだと思うし、論理的な破綻も無いと思う。その点は評価している。
しかし、本書ほど限定的な状況でしか成立しない特殊な事件だと、そもそも興味が持てず、退屈だった。フェア?論理的?だから何?、つまらないんじゃ意味がない。


No.221 5点 ローマ帽子の秘密
エラリイ・クイーン
(2020/08/19 07:22登録)
本作って挑戦状までの記述だけじゃ、犯人を一意に決められないと思うのだが。
劇場内の全員という、非常に多い容疑者の中から犯人を一人に絞る切れ味抜群の論理を期待していただけに、挑戦状以降を読んだときは少しイラっとした。帽子を持ち出したタイミングや方法を特定する論理は上手いのだが、フーダニットの観点でケチがついた一冊。
点数は、「ストーリー(6)」+「帽子に関する論理(1)」+「挑戦状前の情報不足(-2)」です。

(以下ネタバレあり)

・犯人当ての推理で、(読者視点だと)色々と決めつけすぎ。以下ような別解を論理で捌ききれていない。

別解1 (帽子をかぶらずに劇場にきた紳士Aが犯人)
そういう紳士が犯人なら堂々とフィールドの帽子をかぶって劇場の外に出られる。作中ではこの説は
「ここまでよく計画を練った男なら、不必要に顔を見覚えられる危険をおかすことはまずないだろう、というのが我々の結論だった。」
というセリフによって棄却されるが、これは根拠の無いただの決めつけな気が。

別解2 (他の役者が犯人)
役者たちの中で正装だったのが”バリーだけ”というのが挑戦状の前に書いてない(私が見逃しているだけならば、指摘していただきたいです。2011年08月出版の東京創元社を読みました。)ので、当然他の役者も疑える。女性陣も例外でない。男の共犯者がいれば女でも殺人犯たりうるということは、作中でも言及されている。

まあ別解1はイチャモンみたいなものだが、2の方は結構問題じゃないか?「帽子を自然に劇場内に残せるのは役者達だけ」と考え付いても、それ以上殺人犯を絞れないじゃないか。
ちなみにジェスが犯人という別解も、一応作れた(イチャモンレベルと思うが)。

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