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ミステリの祭典

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ポオ小説全集1
創元推理文庫

作家 エドガー・アラン・ポー
出版日1974年06月
平均点6.17点
書評数6人

No.6 7点 バード
(2020/10/25 07:40登録)
最近自分の中で、ポーの評価が上がっています。
昔はミステリの始祖『モルグ』を書いた作家というだけの認識で、それ以上でもそれ以下でもなかったが、短編集を経て、ポーの文章力、構成力の素晴らしさに惹かれつつある。
一読後、各文章の役割や効果を考えるのが非常に面白く、ミステリでなくてもあれこれ考察するのが楽しい。なんでもない文章にも何か裏が・・・?、と思わせられてる時点でどっぷり好きになっとるね。
各話の平均をとると6.5点くらいだが、『ウィリアム・ウィルソン』以外の収録作はプラスの印象なので、短編集としては7点。

このようにとても楽しめたが、さすがに200年近く前の本だけあって読みにくさは多分にある。サクサク読める本ではないから、疲れてる時とかに読むと寝落ちするかも。これから読む方は万全の体調で読むのをお勧めする。


<各話の書評(ネタバレあり)>

・壜の中の手記(5点)
訳者の癖なのかやたら読みにくかった。話の面白さはまあまあっす。

・ベレニス(7点)
初め、エグスが歯に囚われた理由が分からず、唸っていた。(描写的にベレニスの歯は普通の様相だったようなので)
しかし、本文をよく見ると、エグスが関心を持つ対象は「必ず平凡」ともろに書いてあるじゃないか。やっぱ自分、国語苦手だわ(笑)。

・モレラ(7点)
娘の外見がモレラに似るのは我慢できても、思考が同期してくるのが恐ろしい。中盤の個性についての言及が、ここで生きてくる。短い中で無駄のない構成だ。
一つ分からなかったのは、「わたし」のモレラへの愛の種類。エロス的な愛ではないようだが、適切な形容詞が浮かんでこない。

・ハンス・プファアルの無類の冒険(6点)
古典って発表当時だから許されたものも多いが、本話はその典型と感じた。現代的には無茶がすぎる設定でやや興ざめ。まぁ読み物としては悪くなかったけども。

・約束ごと(5点)
表面的には、愛し合った二人(夫人と彼)が無理心中したというストーリーだが、何か裏がありそうな気がする。書き出しから、主人公は一般の人々の各理想像を表していると捉えたが、これであってるのかな?
結局、私の読解能力では5点分くらいしか楽しめなかった。

・ボンボン(7点)
悪魔の取引が成立しなかったという話。この話の悪魔は悪い奴というより、『ハガレン』の真理に近いが。人間どれだけ賢くても打算的になると、本質を見失うといったところか。

・影(6点)
書き出しが、影の正体のオチにかかっており、4ページという短い中でも、ポーの技巧が光る佳作。

・ペスト王(9点)
一世という表現が非常に上手い。一の次は二、その次は三。悪い意味でタイムリーだが、コロナは何世まで世襲していくのだろうか。恐ろしい。
また、タイトルの付け方もセンス抜群。ラストで分かるが、真の黒幕は一人じゃ生きるのも難しい体形の妃(病原菌)で、王(菌保有者)は替えがきくんですわ。そのスケープゴートをタイトルに据えることで、深みが増している(気がする)。

・息の喪失(8点)
とても好きなタイプの不条理ギャグだった。一々表現が好みで、例えば、
「息の根をとめるにも、息そのものが私にはなかったのだから。」
など。

・名士の群れ(5点)
鼻が例えている物が頭に浮かばん。権威とかではなさそうでし。ひょっとして下ネタ?

・オムレット公爵(6点)
面白かったがよく分らない点も多かった。
疑問1 勝負に勝っても、ほほじろは料理されてるからもう会えないのでは?
疑問2 公爵はどのタイミングで、悪魔になりたいと思ったのか

・四獣一体(7点)
麒麟のコスプレをしたおっさんが死ぬ気でダッシュしてる様を想像すると滑稽。それで更なる名声を得るのも、滑稽。アンティオクス王はMr.サタン的なキャラで、真に担ぐべき人間が他にいることを説明するエピソードという解釈でいいのよね。明記されていないので、合ってるか多少不安だが。

・エルサレムの物語(5点)
一応オチがあるが、そこそこ。

・メルツェルの将棋差し(8点)
上から目線になっちまいますが、本話は論文としては甘々で、それ程価値があるとは思えません。
まず、人々の最大の興味である「将棋差しが完全な機械か否か」という問題に対しては、本話以前に「完全な機械でない場合の理論モデル」での説明が無名氏によってなされている。ポーはこの論文にケチを付けているが、それならば、無名氏のモデルでは説明できない実験結果を示さないと。それ無しに「俺の理論モデルの方が精巧だ!」と主張しても重箱の隅つついてるようにしか見えませんぜ。

このように、論文としては今一つという評価である。しかし語りは面白く、ポーの文学スキルの高さは流石の一言である。また、ポーの考え方
「その説明の仕方に異議がある。最初から一つの理論を作り上げ、~こじつけているだけである。」
は素晴らしい。理学・工学の人間は忘れちゃいけない考え方だ。

・メッツェンガーシュタイン(8点)
本話はボケっと読むと、残虐な悪者フレデリックが天誅を受けたホラーものに感じる。しかしよく読むと、フレデリックってベルリフィッツィング家に何も悪い事をしていない。(少なくともこの話内では)
実は、この話の悪意の方向って
ベルリフィッツィング家⇒メッツェンガーシュタイン家
だけが書かれていて、逆は無い。
つまり、本当は「逆恨みで殺された可哀そうなフレデリック」を悪い奴と認識するよう読者を誘導している。(作中作を使わずに東野さんの『悪意』のようなことをやっている。)この高度な構造に気が付いた時、本話を一気に好きになった。

・リジイア(再読 7点)
初読時と大体同じ感想。

・鐘楼の悪魔(7点)
結構好きなんだが、何を暗示してるかが分からなかった。国語得意な人教えてください。

・使い切った男(7点)
「天丼」ってこのころから確立されてた手法なのね。タイトルの使い切ったというのは、体の部位をということで良いのだろうか。でも、そうだとしたらピンとくるタイトルではないな。
全身機械化の伏線もはってあり、上手な漫談のような出来。

・アッシャー家の崩壊(再読 8点)
この話は再読でぐっと評価が上がった。
ミステリ的な事件ではないが、見立て(?)の面白さが存分につまった良作。前回読んだ時の疑問は一族と家がリンクしているという記述に気が付いて解消された。

・ウィリアム・ウィルソン(再読 4点)
再読だが、相変わらずこの話は好きになれなかった。ポーにしては表現が直球すぎる。

・実業家(6点)
皮肉が利いてて悪くないが、ややリアクションに困る内容。こういう無意識に世間一般と感覚がずれてる系の人って現実でも反応し辛いときあるよね。

No.5 7点 蟷螂の斧
(2020/05/19 22:12登録)
怪奇系やユーモア系が多く、中にはSFもどきもありバラエティに富んでいます。しかしオチがよくわからないものが何点かありました(苦笑)。7点以上のみ記載
「モレラ」7点 娘が死んだ母親そっくりになって・・・
「約束ごと」7点 夫人は「日の出1時間後に」と一言。「外科室」泉鏡花(1895)を思い浮かべます・・
「ペスト王」7点 ペストが蔓延。食い逃げの男が逃げ込んだ先に宴会を楽しむペスト王が・・・
「息の喪失」7点息を失った男は墓の中へ・・・
「使いきった男」8点 戦いで生き残った英雄。何を使い切ったのか?・・・
「アッシャー家の崩壊」」9点 別途書評済み
「ウィリアム・ウィルソン」9点 別途書評済み

No.4 6点 クリスティ再読
(2020/01/17 20:21登録)
創元のポオの全集である。訳は結構歴史的なものも多いし、凝ったゴシック小説で擬古文なものも多いから、あまり一般向けとはいいづらい。評者ちょっと時間が取れるので、ポオ一気読み。
年代順なので第一巻は初期になる。この巻の最後の方で「アッシャア家」「ウィリアム・ウィルソン」を収録。ポオはもちろん実作家として巨匠なのだが、評論家的でもありパロディストでもある多面性が持ち味なんだろう。たとえば月世界旅行モノ古典になる「ハンス・プファアルの無類の冒険」でも、それ以前の月世界旅行モノが月人の社会との比較において社会風刺を主目的にしているがために、科学考証がデタラメなのを批判しよう...と、視点がパロディストでもあり、評論家的でもあるあたりが面白い(まあ奇書「ユリイカ」が控えてるが)。だから、ポオのそれぞれの小説がそれぞれにややメタな「作品の論理」の軸を備えている(たとえば「構成の原理」)というあたりを押さえるのが必要なんだろうね。
たとえばそれが「アッシャア家」なら「超聴覚」の論理になるわけだし、「リイジア」の吸血鬼的な憑依現象など、表面的な筋に隠された論理を掘り出すような展開があり、これが「推理小説」の元祖となる直接の原因なのだと言えるのだろう。だから、ポオのゴシック小説もなにがしかの「推理小説」を含んでいる、と見ていいように思うんだ。だから狭義の「推理小説」を1作も含まない第一巻も、きわめて「推理小説的」に読むのもいいだろう。
まあそうは言いながら、パロディストとしての面白味もポオは見逃せない。哲学と料理を等価にみる「ボンボン」なぞ、これがパロディックな面白さを持つのと同時に、「形而上な哲学を、形而下の料理として扱う」逆転を、曖昧な神秘に逃げこむのではない、実際的な理性の問題として捉えたいと思うのだ。それがポオのアメリカ的性格でもあるのだろう。

No.3 6点 ∠渉
(2015/06/11 21:21登録)
本当に古典を全く知らないので、ポオぐらいは読んでおかないとなぁと思ったはいいけど、興味本位で手を出すとけっこう読むのがしんどいこの創元の全集。ふぅ、なかなか手こずったぜ…笑。
ただ、どの作品も面白かったからモチベーションは全然下がらなかったなぁ。『ハンス・プファアル…』がまさかのSFだったあたりからスゴいハマりだして、そっからはもうグイグイと。『メルツェルの将棋差し』、『アッシャー家の崩壊』、『ウィリアム・ウィルソン』がやっぱ良かったなぁ。一番好きなのは『実業家』。なんでかはよくわからんけど笑。幻想・怪奇の話がやっぱ多いけど、ちょっとギャグっぽい感じのもあったような、はたまた僕の感じ方に問題アリなのか…。とにかく多彩で多才なのは確か。

No.2 6点 おっさん
(2011/03/08 16:12登録)
<人形佐七捕物帳>を取り上げていくうえで、比較の意味でも、岡本綺堂の半七は押さえておいたほうがいいよな、でも半七をやるなら、影響を与えたホームズ譚にもう一回目を通しておきたいし、どうせドイルに取り組むなら、まずポオからきちんと読み返して・・・と、かなりまわりくどい思考過程をへて、創元推理文庫版の、編年体の<全集>再読を決意しましたw(正直、私はドイルのように、平明な文章でムードを盛り上げるストーリーテラーが好みで、ポオやチェスタトンの凝った文体は苦手なのですよ)
mini さんの行き届いたレヴューがあるので、あらためて書く事も無いようですが、ま、そこは私なりに。

1巻は、1833年の海洋奇談「壜のなかの手記」から、40年の、ペテン師の職業遍歴譚「実業家」までの21篇を収録(初出のチェック・ミスがあり、本来なら1832年作の「メッツェンガーシュタイン」が巻頭に来るべき――とか、いくつか収録順に問題はあるのですが・・・)。
作品系列は、シリアスな怪奇幻想譚とシニカルな“ほら噺”に、大きく二分されます。
最良の成果は、前者に属する「アッシャー家の崩壊」と「ウィリアム・ウィルソン」でしょうが、再読して楽しかったのは、後者――作者と読者の対話形式による、奇妙な時代劇中継「四獣一体」や、悪魔との契約もののパロディ「ボンボン」などですね。
ガチガチのミステリにしか関心が無かった中学生時代には、このへんの“味”はわからなかったんだなあ。
おバカな奇想という点では、海野十三的なw「使いきった男」も光りますし、19世紀の元祖ハードSF「ハンフ・プファアルの無類の冒険」にしたところで、メインのネタが、気球による月旅行w ですからね、ほら噺のお仲間ですよ。
で。
集中、本格ミステリの始祖としてのポオの片鱗を窺わせるのは、やはり1836年の異色作「メルツェルの将棋差し」ということになります(厳密にいえば、これは小説ではなく随筆ですがね)。しかし、実在した、チェスをするロボットの謎を、他ならぬポオ自身が明快な推論で解き明かしていくわけで、面白いことは面白いのですが、読者はただ作者の報告を聞かされているだけ、といった感があります。
謎に当惑する者と、これを解体する者を分離し、前者の視点で知的サスペンスを高める――という小説上の工夫にポオが思いいたるまでの、試作品というところでしょうか。
そう考えると、この作のあとに、ホラーの当事者と話者を切り離した「アッシャー家の崩壊」(39)がある意味が、クローズアップされてくる気がします。

採点は難しいですね。
収録作の水準は高いのですが、ポオの入門書としては、いささかとっつきにくい。
昔、この<全集を>通読したときには、尻上がりに面白くなっていった記憶があるので、まずは6点からスタートしましょう。

No.1 5点 mini
(2009/05/30 11:08登録)
今年はポー生誕200周年
ポーは原典に確固たる版があるわけじゃないから、日本の各出版社が独自に悪く言えば好き勝手に編纂している
今年も生誕200周年記念という意味合いからか光文社と新潮社から新訳が刊行されたが、なかなか決定版を決めるのは難しい
新潮文庫の新刊はミステリーに絞った編集で、訳文も現代語調らしく決定版に近いが、「マリー・ロジェ」を省いているという弱点がある
強いて言えばポーのミステリー5作を全て収めコンパクトにまとめた中公文庫版がお薦めだが、全てを網羅した全集という意味では詩・評論まで含む創元文庫版全5巻を上回るものはないだろう
ただし本当に全集なので、ポー研究の為ならともかく、私のような一般のミステリー読者にはちょっと大袈裟だ
訳文も全体に硬く、古い訳も多いので気楽には読めない

創元版は単に各短編を発表年代順に並べて4巻に分けただけなので、1巻が一番古く4巻が晩年の作という事になる
世界最初の探偵小説「モルグ街の殺人」はポーの中では中期頃の作品なので第3巻目に収録
「盗まれた手紙」は晩年の作なので第4巻目に収録
そう考えるとだ、第1~2巻は「モルグ街」以前の作だけなのだから、ミステリー作品はないのか?という疑問が湧く
いや広く捉えれば、そりゃゴシック風小説はさ
例えばこの第1巻にも「アッシャー家」や「ウィリアム・ウィルソン」といった有名作はある
しかし狭い意味で後の探偵小説の発明者ポーらしい短編は「メルツェルの将棋指し」だろう
「メルツェルの将棋指し」は初期の作だが、これはまさに分析だけで構成された話で、後に「マリー・ロジェ」を書く為の前哨戦というか既にこうした分野の萌芽を感じさせる
この短編だけだが実はさらに驚くのは翻訳者で、評論家の小林秀雄がまだ無名の学生時代にアルバイトかなにかで訳したのだという

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