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ミステリの祭典

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ボンボンさんの登録情報
平均点:6.51点 書評数:185件

プロフィール| 書評

No.145 7点 月光ゲーム
有栖川有栖
(2018/01/14 00:19登録)
もったいなくて、敢えてずっと読まないでいた学生アリス。ついに手をつけてしまった。やはり面白い。
懐かしくも、ちょい恥ずかしい学生時代。登場人物は多いけれど、これはこれで、結構使い分けできているように思えたが。この人数を一つのステージ上で色々な組み合わせにして出し入れすることが、推理上の大事なひとネタになっているわけで。また、まさかの火山も、御嶽山の映像を視ている今となっては、唐突感はなく怖かった。
ただ、ダイイングメッセージ、そしてこのタイプの動機は元々好みではないので残念。江神さんもアリスも、まだまだ薄い感じだったので、これから次作を読み進めるのが楽しみだ。


No.144 5点 BAVEL
日野草
(2018/01/07 11:53登録)
復讐代行業者が取り扱った案件をめぐる連作短編。
前作『GIVER』に続く第2弾だが、危惧していたちょっとした漫画っぽさ、アニメっぽさが、今回はぐんと増幅していて、少し期待したものと違ってきてしまったかな、という印象だ。あたかもリアリティがあるかのように見せることが肝だったのに、荒唐無稽な設定を増やし過ぎたためにすっかり現実感を失って、依頼人らが抱えている問題や心情が、一気に子どもっぽく見えるようになってしまった。
迫りくる恐怖、スリルとサスペンスという意味では、構成や文章が巧みなので十分楽しめる。次作の完結編が文庫になったようなので、どう〆るのか見届けたいと思う。


No.143 5点 湖底のまつり
泡坂妻夫
(2018/01/04 21:45登録)
残念な読書だった。私としては非常に珍しく、仕掛けがスルスルわかってしまって、ミステリとして全く楽しめなかったのだ。え、書いてあるとおりじゃん、どこに謎が? まさかこのまま終わるわけないよね、あれれ、終わっちゃったよ状態。この作品が悪いわけでは決してない。何かたまたま波長がハマってしまっただけだろう。
一つの出来事を、かかわった人それぞれの視点でなぞり直し、そのたびにドラマが大きく展開していく書き方は面白い。悪夢再びといった終わり方も印象的。独特の雰囲気を持った小説だ。


No.142 6点 ほうかご探偵隊
倉知淳
(2017/12/24 00:26登録)
確かに、「たいへんよくできました」と言えるノーミスの子ども向けミステリだ。よくこんなにもきちんとしたお手本が作れるものだと感心してしまう。特に後半の盛り上げ方がとても良い。
ただ、それなのにどうしてか、ワクワクしたり、ワーッと気持ちが動いたりしなかった。子どもに毒気がなくて、平板な感じがするからかな。
また、同じことを2度も3度も繰り返して言う書き方がすごく気になってしまう。この著者の作品をほとんど読んだことがないので、これが独特な癖なのか、子どもらしさのためにそうしたのかは不明だが。
それでもミステリとしては完璧なので、プラス1点。


No.141 9点 ナミヤ雑貨店の奇蹟
東野圭吾
(2017/12/16 17:48登録)
これはちょっと別格の巧さだ。
著者の作品は、もちろん大抵面白いのだが、あまり人物や物語に共感することがなく、最近すっかり遠ざかっていた。ところが、本作は、どうしたんだ?というほど素晴らしい。
数々のエピソードもいいし、全体の構成がとにかく魅力的。関係図と年表に書き起こしたくなる。
様々な人生の選択に良し悪しの評価をしても意味がない。登場人物が皆、自分で考えて、考えて、考えて、人生を選んでいくところがとても良かった。
そういえば昔、生協の白石さんが話題になったが、ナミヤのじいさんもすごいよ。


No.140 6点 奇談蒐集家
太田忠司
(2017/12/07 23:21登録)
単純に楽しめた。
著者が「僕の思惑は、抱え込んでいた奇談を白茶けた現実へと変えられてしまった人々の心の中に生まれた空虚、その暗黒の中にある」と言うとおり、奇談も面白いし、その種明かし後も味わい深い。そういう意味で、解決後の深さでは『金眼銀目邪眼』がベストかな。
連作中、どこか途中で捻りを入れてくるものとばかり思って構えていたが、1話から6話まで、判で押したようなパターンの繰り返し。そして、最終話で実にうまく締めてくれるのだが、その前の各話でもう少し変化があっても良かったのではないかとも思う。
謎の解明は穴だらけのまま、そもそも埋める気のないズバッとした短編で、そこがまたいいところだ。子供向けに多く書いている作家だけあって、文章がスッキリしていて読みやすい。


No.139 5点 パレートの誤算
柚月裕子
(2017/11/26 00:08登録)
人物も考え方もすべてがステレオタイプであることに嫌気が差して、途中で一旦白けてしまった。あまりに真面目過ぎる中学の学級委員の作文みたいだ(この喩え自体ステレオタイプか)。
しかし、そんな拙さが気になりながらも、興味が先へ先へと引っ張られ、一気に読んでしまう。サスペンス感は、まあ及第点。
真面目な若者たちが一生懸命頑張っている部分や、いかにもという人しか出てこない薄い女性陣には、お粗末な感じが否めない。その一方で、時たま現れる汚れ気味の男たちの方は、なかなかに味わい深い。マル暴の矢幡課長とヤクザの古参組員ポンキチのやり取りが一番面白かった。この著者のおじさん上手は相変わらずであることを確認し、読了。


No.138 5点 黒いカーテン
ウィリアム・アイリッシュ
(2017/11/18 17:03登録)
ザ・サスペンス。前半のドキドキわくわく感は、さすがの一級品。しかし、後半の謎解きは、あまりしっくりこなかった。
最後の70ページくらいになってから、他の作家であれば、こてこてのドラマになりそうな設定をダイジェストかと思うほどの超ハイスピードで突き抜ける。そのため、死んでしまう人の物語上の後処理とか、種明かしの詳しいところとか、色々あやふやなまま強制終了。あんまりだ、かわいそうな人が続出。
それとの比較で、前半の別物のような素敵さが光る。本物の(?)記憶喪失物を初めて読んだので、それだけで楽しい。


No.137 6点 虚栄の肖像
北森鴻
(2017/11/05 18:14登録)
情念渦巻く暗い話で、あまり好みではないのだが、きちんとした大人の作品だと思う。絵画修復に関する驚くほど深い知識に裏打ちされた謎の仕掛けが物珍しく目を惹く。また、絵画や骨董の世界には、こういくこともあるのだろうなと思わせられるような裏社会に絡むサスペンスも見どころだろう。
シリーズ前作の『深淵のガランス』から続く物語は、まだまだこれから展開していく気配を感じさせるが、もう続きが望めないのが本当に残念。
愛川晶氏による文庫の解説に、作者の北森鴻さんが亡くなった時のエピソードがあり、涙なしには読めなかった。


No.136 6点 仮面山荘殺人事件
東野圭吾
(2017/10/26 23:18登録)
(ネタばれあり)
謎だ。ひとつひとつ既視感だらけだが、既読だという確信が持てない。再読かどうか最後まで不明だった。湖に、別荘での避暑に、婚約者に、ピルケースに、バレエ・・・。
きちんと構成されていて、立派な出来ではある。こういう、本人がそれと意識していない、本人自身が完全に枠外と思い込んでいる系の話は、結構好きだ。


No.135 7点 ハサミ男
殊能将之
(2017/10/21 13:24登録)
ミステリとしては、わかりやすくて読みやすかった(ちゃんと騙されるということも含めて)。かなり重度の症状を見せるシリアルキラーの意外に充実した日常とか、鋭い刑事の勘を働かせながら肝心なことを見落としまくる警察とか、シリアスに詰めるところと適当に抜くところが大胆で面白い。もう事件の発端(奇跡の偶然)からして冗談でしょう。前半の主人公にじんわり愛着がわいていたので、後半の状態に慣れるまで少し寂しかったな。


No.134 7点 虹果て村の秘密
有栖川有栖
(2017/10/14 18:14登録)
楽しかったなあ。疲れてしぼんだ大人の心にも夏休みが来てくれた。
しかし、普通にジュブナイルなだけなのかと思っていたら、はっきりそれと判る『本格ミステリ入門』仕様だったので、少し驚く。
しかも道徳の教科書に載るレベルで心に響く子ども応援メッセージ満載。あとがきの「わたしが子どもだったころ」も含め、有栖川名言集っぷりに正座しそうになる。
また、主人公の秀介くんが、2人でガラ空きの列車に乗り込んだ時の席の取り方を気にしたり、よその家におよばれした夕食を食べきれないことを申し訳なく思ったりする、「気にしい」あるあるに共感してしまう。
ミステリ的には、ピアノの練習の音によるアリバイ証明のくだりがストンと落ちて一番好きだった。


No.133 7点 虐殺器官
伊藤計劃
(2017/10/08 12:58登録)
これは近未来SFではなく、現代を映した社会派。恐ろしいディストピアだけど、そのまま地球の日常とも言えるかも。
何といっても、一人称の語り口の効果がすごい。米軍特殊部隊の大尉にして思春期の子どものようにナイーブな青年の内面をたどるという、絶妙な力加減。未成熟な口調で思索を続ける真面目さと、平坦な乾いた口調で最後の選択を淡々と語る薄ら寒さが際立つ。
最後の選択は、全てを見極めた上での熱意ある決断なのか、それとも絶望の果ての狂気なのか。いずれにしてもあの口調とのギャップがいい。
終わりに向けた話の組み立ても見事だし、どの登場人物も主人公に与える影響が意味深く、とてもよく出来ているので読みやすく分かりやすい。それって大事なことだと思う。


No.132 8点 深淵のガランス
北森鴻
(2017/09/04 00:25登録)
なんとも魅力的な絵画修復の手業だが、その本来の仕事の枠を大きく逸脱して、深く謎めいた世界を見せてくれる。著者がきちんとした知識と美意識を持って書き込んでいるので、あり得ないのにリアルな人物や舞台をすんなり受け入れながら、物語に集中できる。かなりの上級編。金や情で蠢く人々の間を、阿修羅像を白くしたような複雑さを持ちながらも真っすぐに進んでいく探偵役・佐月の人物造詣が素晴らしい。


No.131 7点 スタイルズ荘の怪事件
アガサ・クリスティー
(2017/08/20 16:38登録)
クリスティーのデビュー作、他の作品に比べてそれほど評価が高いわけでもないけれど、とりあえず押さえておくかな、くらいの気持ちで読んだところ、とても一作目とは思えない充実した内容だったので驚いた。濃い。少し複雑すぎて、ゴチャゴチャしたところもあるが、溢れるアイディアとそれをまとめ上げる熱意と自信が感じられる。
登場人物一人一人の情報が、例えば、第一印象、不穏な雰囲気、違和感のある行動、意外な行動、真逆の接近、本心と真実の暴露、といった具合に、こまめに何度も塗り替えられていく。それをポアロがそれこそ何通りもの思惑を隠しながら、ヘイスティングズを通してチラ見させるので、混線するのも当然。
それにしても「小さいかわいいおじさん」のキャラクターの弾けっぷりがとにかく楽しかった。


No.130 6点 濱地健三郎の霊なる事件簿
有栖川有栖
(2017/08/12 12:40登録)
有栖川有栖の新たな探偵「濱地健三郎」がついに単行本デビュー。濱地は「心霊探偵」だが、著者曰く、これは特殊設定ものの本格ミステリではなく、ミステリの発想を移植した怪談であるとのこと。
ということで探偵による事件捜査がメインだが、その手法は霊視。ただし、超自然的なもので都合よく片付けるだけの話である訳もなく、見どころは、大岡裁き的事態収拾に向けた濱地の大人な仕事ぶりだろう。
探偵ものとしての面白さをしっかり支えているのが、今回のワトソン役、探偵の助手である志摩ユリエだ。若く美しい女性らしいのだが、その辺の魅力はほとんど活かされず、地頭の良さを感じさせつつも、前向きに突っ込んでいく少年のようにぴんぴんとした元気と無力と実直さで読者目線を代表してくれる。
そして、さすがは有栖川有栖と嬉しくなるのが、心霊現象をあくまで科学や哲学の延長上で受け止めることをベースとし、たとえ幽霊が出ようと論理の筋を通すところ。
本書は、やっと作品世界の紹介が済んだというあたりで終わっている感じがするので、今後このシリーズがたっぷりした展開を見せてくれることを望む。


No.129 7点 出版禁止
長江俊和
(2017/07/30 13:02登録)
あぁ、気分が悪い。本当に不快。ホラーっぽいところではなく、精神的な粘っこさにやられた。
しかし、確かにうまい。重要な情報が作品全編にちりばめられていて、興味が逸れることなく一気読みできる。
本編である問題のルポルタージュと、その出版に向けた事後調査という外枠。「序」の段階から提示されるこの外枠自体も本書の著者自身によるルポになっており、あくまでも、ノンフィクションの体裁を貫く構成が新鮮で面白い。
また、「カミュの刺客」「視覚の死角」「児戯のごとき仕掛け」など、キーワードの置き方が絶妙。観念的な話にみせかけて、意外にがっつりミステリだった。
到底好きな作品とは言えないが、評価しない訳にはいかないハイレベルな出来。


No.128 9点 幻の女
ウィリアム・アイリッシュ
(2017/07/19 00:03登録)
なんだこのカッコよさ。おしゃれだ。詩的な映画のよう。
余計なことを考えず、流れるようなサスペンスをたっぷりと堪能し、作者の思いどおりにびっくりし続けることができて幸せな読書だった。何度も上げては落とされ、また上げては落とされの繰り返しが延々と続くジェットコースター。キャロルの忍耐と献身が凄まじいのに、可愛らしさが薄れないのがお見事。
本当に詩のような、或いは芸術系の漫画(?)のような読み心地なので、どんなに突っ込みどころ満載でも、突っ込ませないコーティングがされている。傑作とは、こういうものを言うんだな、と思った。

※黒原敏行訳の〔新訳版〕


No.127 7点 GIVER
日野草
(2017/07/06 00:38登録)
仕掛け満載の連作短編集。見事な構成力。各話とも緊張感と意外性に満ちていて、一つも外さずに予想もしない結末にがつんと突き当たる。
復讐代行業者が依頼を受けて人の恨みを晴らす物語、と説明してしまうとその通りなのだが、読み心地は、不思議に透明感があり純粋に感動できる。
目には目をといった感じで容赦なく人が殺される場面もあるが、そこに行きつくまでの「復讐」展開中に交わされるやり取りのなかで、恨む人も恨まれる人も、その人生を深々と掘り下げられるので、正義も悪事も生きるのも死ぬのも、なんかすべてありだなあという気分になる。
一部の人物設定に多少のアニメ感が無きにしも非ずだが、内容がしっかりしているので問題ない。
このシリーズは先に続くようなので、期待大だ。


No.126 7点 ジュリエットの悲鳴
有栖川有栖
(2017/06/28 00:25登録)
素直に面白かった。すっかり気に入ってしまった。
かなり幅広く、バラエティに富んだ短編集だが、やはりどうしても「作家もの」がちらほら、そして「鉄」分も結構高め。相当に馬鹿らしいものも含め、何とも言えないそれぞれの良さがあり、全編通して大変読み易い。

『登竜門が多すぎる』は、徹底的にふざけきっていて、ある意味豪華絢爛な作品だ。
『夜汽車は走る』の情感たっぷりの雰囲気は、確かにノン・シリーズでなければ出せないものだろう。
『ジュリエットの悲鳴』は怖かった。人物も展開も、強烈に印象に残った。
そんな良作が並ぶ中、すっとぼけたショートショート『遠い出張』が何故かツボった。

新しく出た実業之日本社文庫で読んだが、何度かの引っ越しを経て、作者のあとがきも3編(と言うのか?)になっており、結構たっぷりしていて得した感じ。

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