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ミステリの祭典

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いいちこさんの登録情報
平均点:5.68点 書評数:570件

プロフィール| 書評

No.50 8点 悪意
東野圭吾
(2012/02/05 16:13登録)
世評の高い作品だが冒頭が手記である時点でこちらも身構えている。
真犯人は容易に想像がつくので後はミスディレクションを探すだけ。
案の定、犯人はすぐに逮捕され悲しい背景と恐るべき悪意が見えてくると思ったら一転・・・
殺人自体が真の目的ではないという斬新なプロットを評価。
救いがなさすぎる真相だが共感を感じる部分もある。
まとまりが良すぎてややパンチ力不足の感もあるが、類稀なテクニックと完成度の高さを評価


No.49 7点 悪魔が来りて笛を吹く
横溝正史
(2012/02/04 18:07登録)
本格ミステリとしては瑕疵が多く脆弱な印象。
第一の殺人を密室とする必然性の乏しさ、真相に辿り着くプロセスがロジカルに説明されていない、「あざ」の遺伝、帝銀事件に範を取った冒頭の事件がご都合主義に過ぎる・・・
ただ、イントネーションの相違からの推理や、タイトルと同名の曲に秘められた謎はさすがのキレ味。
明かされた陰惨な真相も極めて衝撃的で、多くの伏線を回収し犯行動機を納得させるに十分なもの。
それでいて若干の希望が垣間見えるラストの読後感もよく、読み物としての完成度の高さを評価


No.48 6点 黒い家
貴志祐介
(2012/02/02 18:34登録)
ミステリ要素は少なく純然たるサスペンス。
生命保険のモラルリスクの生々しい描写を通じて、社会保障制度の根幹を揺るがすフリーライダーを想起させる主題はいい。
しかし肝心のサスペンスは想定を下回るレベル。
読了順が逆だったためか後の著者の飛躍ぶりを実感させる結果となった。
リーダビリティの高さを評価に加えてもギリギリの6点


No.47 6点 りら荘事件
鮎川哲也
(2012/01/29 14:13登録)
黒いトランク同様、精緻なロジックで組み上げられた本格パズラーで論理性は評価。
ただし連続殺人が発生しているのに被害者が一向に逃げ出そうとせず、緊迫感に欠けた描写が淡々と続くストーリーテリング、偶然性の混入と登場人物の特異体質に頼った2つのトリックも減点材料


No.46 8点 ラットマン
道尾秀介
(2012/01/25 21:16登録)
非常にテクニカルなストーリーテリングと見事なミスディレクションに加えて、二転三転する真相もインパクト十分。
ただ全体に伏線が少ないうえ、地の文で明らかに嘘を書いている箇所があり、アンフェアな印象を残す点でミステリとしては減点。
それでも着地点で明かされる本作の主題と、プロット、タイトルが完璧に符合する美しさ、完成度の点で高く評価。
読み手側の嗜好によって評価がわかれやすい作品と思う。


No.45 6点 時計館の殺人
綾辻行人
(2012/01/24 21:08登録)
館シリーズ最高傑作との評価にも納得できる佳作だと思う。
舞台設定とプロットが壮大かつ有機的に連携しており、張り巡らせた伏線が遺漏なく回収され、メイントリックも効果的に機能していた。
ロジックと完成度の点では文句なし。
ただ殺人が多すぎる点が大きな難点。
残されたキャラクターから犯人の想像が容易であるうえ、厳しい時間的制限の中で膨大な連続殺人とアリバイ工作を1人でやってのけた超人的技量に違和感が残る。
6点の最上位


No.44 3点 密室殺人ゲーム王手飛車取り
歌野晶午
(2012/01/19 19:39登録)
ネット上での殺人推理ゲームという特殊なプロットと、作者の18番とも言うべきメイントリックだけが見せ場。
内実は単独では短編さえ支えられない不良在庫ネタの一掃という評価が相応しい。
プロットの性質上フーダニットにはならず、動機なき殺人であるためサスペンスにもならない厳しい制約条件を、鮮やかなトリックで乗り越えて欲しかったのだが一部を除いて貧相なデキ。
とても高い評価は付けられない


No.43 10点 容疑者Xの献身
東野圭吾
(2012/01/15 15:06登録)
(以下ネタバレを含みます)
メイントリック自体は古典的でありふれたものだ。
しかも、●●の記載の不在、犯行直後のXの発言、死体の状況、Xの勤怠表と弁当購入の事実、技師の存在、娘の友人の証言等、決定的な伏線がごまんとある。
とりわけ「幾何の問題に見せかけて実は関数の問題」は極めて秀逸な含蓄のある伏線である。
にも関わらず見事に騙されてしまったのはひとえに倒叙形式によるところが大きい。
何と言っても我々読者にとって犯行経緯はすべて明らかになっているはずだから。
その先入観と、崩れそうで崩れない映画館のアリバイ、平々凡々とした下町の描写、そしてタイトル自体が強烈なミスディレクションとなり真実を隠蔽してしまった。
これほど倒叙形式が遺憾なく効果を発揮しているケースは寡聞にして知らない。
ただこれだけでは古典的なトリックに新たな光を当てたテクニックは賞賛できるとしても、スケール感はそれほど感じない。
衝撃を受けたのは本作の主題である。
どう考えてもXは通常の倫理観から逸脱した精神異常者であり、歪み肥大化したエゴの持ち主である。
彼の行為は自己中心的な卑劣極まるおぞましい犯罪行為であり、献身や自己犠牲などでは断じてない。
最大の犠牲者は無論技師である。
それを探偵には「とてつもない犠牲」と呼ばせ、ヒロインには「底知れぬほどの愛情」と呼ばせ、作中のどの人物もXの異常性を弾劾しない。
そしてタイトルには「献身」の2文字。
これは一体どういうことだろうか?
断っておくが私は倫理観をもってXの行為を断罪しているのではない。
そんなことを問題にしていたらミステリは読めない。
問題はXではなく筆者だ。
Xの行為を賛美していると理解されかねない作品を描いた筆者の真意に思いを馳せるのである。
本作のラストは様々な解釈と感慨を許容する柔軟構造になっている。
Xの行為への感動、Xの行為自体への非難、Xの行為が結果としてヒロインをより苦しめたことに対する非難、Xの人間・女性理解の乏しさへの指摘・・・
どれもが正解になり得る。
この問題作を様々な批判を覚悟のうえで敢えて描ききった著者の凄みを感じざるを得ない。
本作の素晴らしいストーリーテリング、巧緻極まるテクニック以上の衝撃がそこにある。


No.42 7点 扉は閉ざされたまま
石持浅海
(2012/01/13 20:47登録)
作品全体のプロットの秀逸さと解決に至る精緻なロジックは評価。
しかし、キャラクター造形と展開されるストーリーに強いギャップを感じてしまい、終始リアリティに欠ける印象。
そして決定的に問題なのは動機とラスト。
犯人に共感できず、従って結末に納得ができずカタルシスは得られなかった。
技術的には水準以上なだけに惜しい作品


No.41 8点 双頭の悪魔
有栖川有栖
(2012/01/12 20:13登録)
毎度のことながらトリックの意外性・衝撃度はない。
しかしフェアに散りばめられた多数の小さな伏線から組み上げられたロジックの精巧さ、緻密さには美しささえ覚える。
両岸で同時発生する事件を並行して叙述するスタイルと、試行錯誤を重ねながら展開される推理でストーリーに引き込んでいく。
瑕疵を指摘するとしたら、第三の殺人で犯人が犯した致命的なミステイクと強引過ぎる江神の推理だが、裏を返せばそれだけか。
本格ミステリの王道を行く傑作と評価


No.40 7点 謎解きはディナーのあとで
東川篤哉
(2012/01/09 10:46登録)
本作への酷評はこのレベルの作品には飽き足らないミステリマニアと、ドラマ(脚本・キャスティング・演出とも酷すぎた)から入った層によるものと思われる。
確かに満腹感は味わえないものの、シンプルでもプロットは完全に「本格」で水準以上のデキにある。
主要キャラクターの設定もありきたりだがユーモアあふれる筆致で楽しませてくれる。
コストパフォーマンスだけは大いに疑問だがミステリ入門書としては良質な作品


No.39 7点 犬神家の一族
横溝正史
(2012/01/09 10:27登録)
複雑な血縁関係とそれが織り成す人間模様、次から次へと提示される新しい謎で読者をグイグイ引き込んでいく。
プロットとストーリーテリングは最高級の部類。
しかし真犯人は意外性に欠け、犯行経緯はご都合主義的な偶然が多く無理を感じてしまう。
本格ミステリというよりサスペンスとして読むべき作品か


No.38 8点 北の夕鶴2/3の殺人
島田荘司
(2012/01/03 16:11登録)
序盤に示される大きな謎と徐々に明らかになる不可能犯罪。
義経伝説、夜鳴き石、鎧武者、心霊写真等、これでもかと提示されるいかにもなガジェット。
これらのプロットを奇想天外な大技トリックで一刀両断にするカタルシス。
島田荘司の方程式どおりに描かれた渾身の王道本格ミステリだろう。
メイントリックの物理的可能性は彼なら許容範囲だし、それを問題にさせない強烈なインパクトがある。
制限時間がもたらすサスペンスフルな筆致と、切ないラブロマンスも作品に華を添えていて素晴らしい。


No.37 6点 翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件
麻耶雄嵩
(2012/01/03 13:05登録)
評価が極めて難しい作品。
密室、首切り、見立て、連続殺人等、典型的な本格ミステリのガジェットが、従来のコードを無視する確信犯的な手法でことごとくぶち壊されていく。
そして最後に示される密室に対するバカミス的解答と、恐るべき真相。
21歳の若さでと評価する人がいるが逆だ。
21歳でなければ書けない作品だろう。
作者の稚気あふれる意欲と奇想は評価するが、リアリズムやロジックとは無縁なファンタジーの世界。
ミステリに何を求めるかによって評価が分かれる作品


No.36 10点 占星術殺人事件
島田荘司
(2011/12/28 20:31登録)
某作品によるネタバレを理由とした低評価も散見されるが、本作に帰責する訳ではない。
とすれば主たる瑕疵は最序盤(手記)のリーダビリティの低さと、中盤の的外れな捜査の中だるみだろうか?
それでも冒頭に示されるアゾート幻想がミスディレクションとして強烈に機能。
散発的に起こる連続殺人に対し、先が見えない捜査がもたらす閉塞感が却ってリーダビリティを支える。
ラストに明かされるシンプルでエレガントなメイントリックがもたらす説得力、衝撃度は古今無双。
壮大かつ緻密なプロットを完璧に昇華させる極上のカタルシスは別格中の別格。
本格ミステリ界の金字塔的作品


No.35 10点 十角館の殺人
綾辻行人
(2011/12/28 20:24登録)
伏線が少なすぎるという弱点を差し引いても、メイントリックの素晴らしさが光る。
プロット全体を見事に収斂させるシンプルかつ衝撃的な真相。
島と本土に分断された論述構成も強烈なミスディレクションとして機能。
ただ動機の脆弱さ・唐突感だけは否めない


No.34 10点 獄門島
横溝正史
(2011/12/28 20:19登録)
3つの殺人のトリックは美しい反面、若干甘さを感じなくもないが、耽美性・猟奇性がカバーしている感。
しかし何よりも素晴らしいのがあの和尚の一言。
日本ミステリ史上最強のミスディレクションが極上のカタルシスをもたらすラスト。
どこかでネタバレしないうちに読むべき傑作


No.33 8点 弁護側の証人
小泉喜美子
(2011/12/27 20:58登録)
ストイックなメイントリック勝負の作品だが、人によっては極めて早い段階で見破れるので評価が分かれやすいと思う。
とはいえ無理と飛躍のない仕掛けで納得性が高い。
冒頭は相当に考え抜いて書かれている印象。
インパクトもこの作品が書かれた1963年当時、現在ほど女性が社会進出していなかったことを考え合わせれば相当なもの。


No.32 9点 殺戮にいたる病
我孫子武丸
(2011/12/27 20:50登録)
エロ・グロで巧妙にカムフラージュしつつメイントリック一発勝負に賭けたストイックな作品。
作者の恐るべき企みと見事なキレ味に脱帽せざるを得ない。
物語を通じて家族の絆の希薄化と孤立化をさりげなく垣間見せるテクニックも高く評価


No.31 7点 青の炎
貴志祐介
(2011/12/27 19:53登録)
大好きな作品。
完全犯罪に挑む優秀な高校生。
計画が成功したときから彼を苛み始める葛藤と動揺が完璧に見えた計画を狂わせる。
この主人公の心理を倒叙形式によって余すところなく描き切る。
そして何よりも素晴らしいのがラストシーン。
母と妹のために立てられたこの悲しすぎる計画の最後に、そして殺人の是非に対する作者の答えとして、これ以上の結末はあり得ないのではないか。
強い哀愁と感動を残す必読の作

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