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ミステリの祭典

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HORNETさんの登録情報
平均点:6.32点 書評数:1163件

プロフィール| 書評

No.663 5点 神さま気どりの客はどこかでそっと死んでください
夕鷺かのう
(2019/12/28 12:00登録)
 「今日は天気がいいので上司を…」の「縁切り神社」が出てくるから、一応シリーズ作品ということなのかな。登場人物は毎回違うけど。
 今回は、いわゆるクレーマー(最近はカスタマーズハラスメントともいうそうな)に対応する客商売の人たちを描いたもの。結婚相談所相談員、クレーマー対応のコールセンター(これはショート短編)、コンビニ店員、の3話。
 非常識な要求をしてくる相手に主人公が内心で毒を吐く、というスタイルは前作同様でそのくだりは面白い。だが、最後「縁切り神社」で結末というのがちょっと単純で、前作の方が工夫があったなぁと思った。
 この小説ほど極端ではなくても、いろんなところでこういう人たちが増えてきた昨今である。残念な世の中だ。


No.662 5点 アリバイ崩し承ります
大山誠一郎
(2019/12/28 11:40登録)
 時計屋の娘が、「アリバイ崩し」も副業(?)として謳い、そこに現職刑事がアリバイがらみの事件を持ち込むという設定の連作。謎解き以外の描写はほとんどなく、ラノベ的な設定ではあるが扱う事件は殺人など本格的で、純粋なパズラーを手軽に楽しめる短編集。
 ただ披露されるトリックは手が込み過ぎていたり、都合のいい偶然が絡んでいたりして、非常に線の細いトリックにあとから物語を付け足していった印象を受けるものが多い。何というか、捜査側の思考経路を犯行側があまりに限定的に想定していて、そしてそのとおりの思考を捜査側が辿って壁にぶつかる、みたいな……「そんなに犯人の思惑通りに捜査側が動く?」と感じてしまう。
 とはいえ、1冊読むのにほとんど時間もかからないので、割り切って読めばそれなりに楽しむことはできた。


No.661 7点 罪の轍
奥田英朗
(2019/12/28 11:05登録)
 終戦から約20年、戦後日本の復興の象徴ともなった前回東京オリンピック直前の時代を舞台に描かれた犯罪小説。
 北海道の礼文島から東京へと逃れてきた空き巣常習犯が、生きていくために、金を得るために、無軌道に次から次へと犯罪に手を染めていく様が描かれている。捜査の手法や技術、社会の様相に時代らしさがよく表れていて面白かった。
 構造としては警察捜査vs容疑者というオーソドックスなもので、ミステリ・謎解きという類の作品ではない。いかにも昭和の時代らしい刑事たちが活劇を繰り広げる様を楽しむ、というのが主体。
 奥田英朗は、コメディタッチから武骨で重厚な作品まで見事に書き分けられるスゴい作家さんだと思った。


No.660 7点 ブラック・スクリーム
ジェフリー・ディーヴァー
(2019/12/07 21:51登録)
 ニューヨークの路上で男が拉致されるのを少女が目撃した。やがて被害者の苦痛のうめきをサンプリングした音楽とともに、監禁されて死に瀕している被害者の姿が動画サイトにアップされた。アップロードしたのは「作曲家(コンポーザー)」を自称する人物。捜査を依頼された科学捜査の天才リンカーン・ライムは現場に残された証拠物件から監禁場所を割り出し、被害者を救出したものの―

 猟奇的な犯罪事件が、意外な方向へ。意外性という点では面白いのだが、「イカれた動向でありながら頭脳は優秀な犯罪者VSリンカーン&サックス」というシリーズ定番のパターンではないのはちょっと消化不良感かも。
 どちらかというとスピロ検事の印象の変わりようと、エルコレの恋の行方の結末の方が読んでいて楽しかった。


No.659 7点 キンモクセイ
今野敏
(2019/12/07 21:30登録)
法務省の官僚が殺される事件が起きた。現職官僚の殺人に奮い立つ警察だったが、なぜか警視庁は捜査本部を縮小、公安部も手を引くことに。警察庁警備局の31歳若手キャリア、隼瀬順平は、それを不審に思い深入りしようとする上司・水木を疎ましく思っていたが、いつの間にか同調して独自捜査に身を入れる。極秘で探りを入れるうちに、隼瀬は被害者が“キンモクセイ"という謎の言葉を残していた事実を探り当てる―

小説という虚構の世界なのか、それとも現在の日本のリアルな暗部なのか。昨今の政治情勢や法整備を題材にして、その行く先を憂える内容のようにも思える。オーソドックスな捜査物語ではなく、警察内部の暗黒を描くパターンの作品。佐々木譲の同タイプの作品にも似て、惹き込まれる作品。


No.658 6点 そして誰も死ななかった
白井智之
(2019/12/01 00:05登録)
 亡き父親の遺品にあった試作的ミステリを自分が書いたことにして出版し、一儲けした似非推理作家・大亦牛汁は、現在はデリヘル店の店長。そんな大亦のもとに、覆面作家・天城菖蒲から絶海の孤島への招待場が届いた。大亦の他にも4人の推理作家が招待され、その中には自店のデリヘル嬢・あいりも。招待に応じて島へ赴いた5人だが、館に招待主の姿はなく、食堂には不気味な泥人形が並べられていた。クリスティ「そして誰もいなくなった」まんまの状況の中、「事件」の幕が開く。

 ゲテモノやら汚物やら、氏の作品らしくあいかわらずグロい。設定も「おやすみ人面瘡」のようなフィクション病理の特殊設定だが、推理はロジカルなのが面白い。可能性の一つ一つを細かな手がかりで潰していくさまは本格さながらで、しかもその仕掛けが二重三重になされている点では緻密さを感じる。ただそれでたどり着く真相がちょっとバカミスレベルの仕組みで、およそ現実的ではないので読者の推理は不可能(だと思う)。ある種の呆れを感じさせながら、巧みに仕組まれた筆者の技巧に関心もさせられる、そんな一冊だと思う。


No.657 6点 極上の罠をあなたに
深木章子
(2019/11/30 23:42登録)
 「人には頼みづらいが、自分でやるのはちょっと……そんな問題でお悩みのあなた。便利屋を利用してはいかがですか―」そんな文面で届けられるダイレクトメール。うさん臭さを感じながらも、他に頼めるところもなく、悪事を依頼する依頼者たち。P県・槻津市を舞台に繰り広げられる様々な人間の悪意。裏にはさらに裏があり、互いを欺きあう人間模様が底知れず繰り広げられる―

 邪な思いで、便利屋さえも自身の策略の中で利用しようとする依頼者。しかしさらにその上をいく便利屋。そんなこんなで「最終的に盤を動かしているのは誰なのか」みたいな感じになっていくタイプの連作短編集。都市伝説まがいの話ではあるが、一話ずつにどんでん返し的な仕組みもあって、そのへんはさすが深木氏といったところ。
 でも氏の真骨頂である法廷モノに比べると厚みのなさは否めず、エンタメ的なミステリとしてさっと楽しむ類の作品ではないかと感じた。


No.656 8点 紅蓮館の殺人
阿津川辰海
(2019/11/23 21:23登録)
 高校2年生の田所は、友人の葛城と共に学校の勉強合宿を抜け出して山中に隠棲した憧れの推理作家・財田雄山の屋敷を探しに。しかしその途中で落雷による山火事に遭遇、結果として雄山の館にたどり着いたものの、救助を待つはめに。なんとか館の人たちとも打ち解け、救助が来るまで滞在することになった2人だったが、翌朝、仕掛けのある部屋の吊り天井で雄山の孫・つばさが圧死しているのが発見された。
 これは事故か、殺人か。葛城は真相を推理しようとするが、タイムリミットは35時間。生存と真実、選ぶべきはどっちだ―

 閉ざされた空間に居合わせたのはいずれもいわくつきの人々。典型的な吹雪の山荘モノである。居合わせた内の一人、保険会社調査員・飛鳥井光流の過去も事件に関係してくるなど、偶然が過ぎるとも言えるが物語としては面白い。
 奇妙な仕掛けがしてある館、山火事により迫るタイムリミット、過去の事件の因縁と盛りだくさんだが、それらを上手く絡めて王道ミステリに仕立てられている。


No.655 7点 スウェーデン館の謎
有栖川有栖
(2019/11/23 20:16登録)
 雪に残った足跡からの密室、という古典的な設定ながら、(当然)新味を出していてそれなりに面白かった。
 むしろ「折れた煙突の謎」の種明かしの方が面白かった。てっきり密室の構成に関わっているものと思い、その方向でいろいろ推理していたのだが、そうくるとは。ある意味肩透かしだが、ある意味うまいミスリードだったとも言える。
 本道のフーダニットだが、犯人は冒頭から何となく「そうなるのでは」と思っていた通りだったので意外性はなかった。しかし犯行のからくりと動機が謎として十分に魅力的だったので、謎解きを堪能できた。


No.654 7点 泥濘
黒川博行
(2019/11/17 17:05登録)
 「疫病神シリーズ」というのですか。このシリーズは初めて読んだけど、飽きずに読ませる面白さはさすがで、抵抗感なく堪能した。
 にしても桑原の手の早さは病気だなぁ。こんな四方八方でやりたい放題やる極道、とても生き延びられそうにないけど。桑原と二宮の掛け合いは絶妙で、ハードなバイオレンスを絶妙なコミカルで味付けていると感じる。
 仕組まれている企みがやや複雑で、慣れていないと何度か前のページを繰るハメにはなる(私がそうだった)が、まぁ理解しきれていなくても場面場面の展開で楽しめるとは思う。
 シリーズものということだが、初読でも弊害なく楽しめた。


No.653 6点 東京クライシス 内閣府企画官・文月祐美
安生正
(2019/11/17 16:37登録)
 文月祐美は、内閣府の防災担当企画官。真夏の東京で、荒川の決壊が懸念される豪雨が発生。竜巻が変電所を襲い発生する大規模停電、鉄道機関の麻痺、溢れる帰宅困難者。刻一刻と洪水の危険性が高まる中、対応に迷走する政府。そこに乗り込んだ文月は、政府勅命の顧問団が居丈高な態度で対応をかき回し、どんどん事態を悪化させている様子に怒りを抱く。いきり立つ文月だが、なぜか招集された謎の男にその姿勢を諫められ―

 氏の作品はとかくこういった非常事態対応モノが多いが、昨今の日本の状況の中では奇しくもタイムリーな題材の作品となった。バカなトップ(首相)と、そのお抱えの顧問団が政府の対面だけを考えて動こうとする中、下位にある専門家が憤る―という構図はありがちではあるが、今回は首相のバカぶりが際立ってヒドい。最終的に、ヒロイン・裕美の活躍により首都が救われる、という体もハリウッド映画っぽいが、そういう意味で楽しいと言えば楽しい。


No.652 7点 カナダ金貨の謎
有栖川有栖
(2019/11/16 18:07登録)
 私の嗜好的にオーソドックスなミステリを定期的に読みたくなるのだが、それを提供し続けてくれる点で有栖川有栖は非常に好きで、頼りにしている。
 本短編集も、安定した水準で楽しませてもらった。(直前に読んだ「こうして誰もいなくなった」が玉石混交の印象だったので、その反動で実際以上に良く感じたかもしれないが。)
 やはり表題作「カナダ金貨の謎」が一番よかった。金貨が持ち去られたことの意味を問い続けることで真相にたどり着く推理は「これこそが火村英生」という典型的な様相であり、満足した。
 その他、私としては「船長が死んだ夜」が好き。以前にも別のアンソロジーで読んだけれど、再読しても面白かった。


No.651 3点 荒野の絞首人
ルース・レンデル
(2019/10/22 10:06登録)
 自分だけの秘密の領域を隠し持っている主人公、というスタイルの作品がこの頃のレンデルの特徴とのこと。本作もそういう類に入るのだが、なぜか頭に入って来難かった。特に前半の、主人公・スティーヴンの荒野に対する偏愛は冗長で、物語が動き出すまでが退屈な感じがした。
 本作は一応、最後に前半の事件の真犯人も明かされる謎解きミステリにもなっていて、私としては意外性も感じられたが、閉じた世界の物語であるがゆえに犯人候補の範囲が狭く「わかっていた」という読者が多いのもうなずける気がする。


No.650 8点 犯罪者 クリミナル
太田愛
(2019/10/22 09:30登録)
 駅前広場で人待ちをしていた5人が暴漢に襲われる。4人は次々に殺されたが、最後の1人・繁藤修司の抵抗を受けて犯人は逃げ出し、やがて近くでヤク中毒で死んでいるのが発見された。イカれたヤク中の通り魔事件として処理されかけた事件だったが、ただ一人生き残った修司のところに一人の男がやって来て「あと10日、生き延びてくれ。君が最後の一人なんだ」と必死の形相で訴えていく。これは単なる通り魔事件ではない、狙われた5人は偶然ではない―?
 その言葉を裏付けるように、修司は自宅で再び襲われる。所轄の刑事・相馬は間一髪でその場に間に合い、修司を救うものの、襲った男には逃げられてしまう。事件には大きな背景があることを感じ取った相馬は、悩んだ挙句に旧知の鑓水七雄を頼ることに。鑓水、相馬、修司の3人が、背後の巨悪に立ち向かう。

 さすが脚本家出身、というのだろうか、臨場感のある展開が上下巻尽きることなく続けられ、圧倒的なリーダビリティである。「あと一歩遅かったら、命はなかった」のような紙一重のタイミングが多いのも、ある意味テレビ的な感じはするが、話の作りも非常にしっかりしているので安っぽくは感じない。
 食品会社の重大な過失から「それが生んだ奇病と被害者」「隠蔽しようとする業界関係者と政治家」「正そうとする内部社員」といった各立場が生まれ、それぞれの立場の人間描写も非常に読み応えがある。
 鑓水ら3人組の活躍もさることながら、社会・組織の中で人としての矜持を貫く真崎省吾と中迫武の2人の姿が非常に印象的だった。


No.649 5点 鏡じかけの夢
秋吉理香子
(2019/10/22 08:47登録)
 願い事を念じながら磨くと、その願いが叶えられるといういわくつきの大鏡が、人から人へ渡っていくという連作短編集。
 まぁありがちなパターンなのだが、屋敷に住む良家からはじまり、長屋住まいの下町、サーカス団、外国と、舞台がいろいろ変わっていき、一話一話にそれなりの仕掛けは施されていて面白かった。


No.648 6点 ふたりの距離の概算
米澤穂信
(2019/09/29 20:27登録)
 私はタイトルからてっきり、ホータローとえるの関係性に進展があるようなラブコメ要素が入ったものだと思ってたので、そうでなくてよかった。本当の意味での「距離」だとは思ってなかった・・・
 日常的な高校生活の中にあるささいな場面を取り上げて、論理的に謎を解くシリーズらしさは健在。ホータローと福部の相変わらずの仰々しい物言いに苦笑しながらも、今回はいつもにもましてコミカルなやりとりがたくさんあって吹き出してしまうところがいっぱいあった。
 マラソン大会を舞台にして、20kmのあいだに関係者(?)に声をかけていきながら謎を解くという設定には賛否両論のようだが、私は「面白いなー」と思った。
 メインの謎「大日向が入部をやめた理由」については、こんなに婉曲的にお互いを探り合う高校生なんかいるか?とは思うが、まぁ小説ということで割り切って楽しんでいる。


No.647 6点 チョコレートゲーム
岡嶋二人
(2019/09/29 20:15登録)
 作家業の父親が、父親にありがちな放任主義というか、「理解あるように見せているがようは面倒で関わらないだけ」で息子を放置していたら、大変なことに巻き込まれていた。息子を亡くしてから痛烈に後悔し、息子に着せられた殺人犯の汚名を晴らすべく東奔西走する。

 書かれた時代や、日本推理作家協会賞を受賞したことから察すると、「中学生による闇の世界」ということがかなり衝撃的だったのだろうか。悲しむべきことに時代が進むにつれて若い世代の実情はさらに荒れ、現代ではそれほどのインパクトはない。
 とはいえ、父親を主人公にして事件の様相から真相解明までを描く過程のリーダビリティはさすがで、読ませる力があった。
 最後に刑事とともに真犯人のもとにいく件はかなり緊張感のある展開で、非常に読み応えがあった。


No.646 5点 今日は天気がいいので上司を撲殺しようと思います
夕鷺かのう
(2019/09/25 22:15登録)
 ラノベテイストの深みはないものだろうなぁ―と思いつつ、タイトルに惹かれて読んだ一冊だったが、予想以上に面白かった。
 中編程度の作品が3編、どれもクソみたいな上司(笑えるぐらい、ある意味小説だからこその極端なやつ)に仕える部下の話だが、ここまではいかなくても社会人であれば一度や二度は感じた感情であろうから、罵詈雑言をつぶやきながらも読んでしまう面白さはあるだろう。
 ミステリではなく、「ゾクッ」とする程度をねらったちょっとしたホラーのたぐい。3話目「引き継がれ書」などはラストも含めてなかなか良かった。


No.645 3点 ふたり狂い
真梨幸子
(2019/09/25 21:59登録)
 うーん…
 一つ一つの話の下衆っぷりは作者らしくて、まぁ…。ただミステリとしても小説の仕組み方としても、「チープさ」を感じて、それがぬぐえなかったなぁ…。
 作者の作品にリアリティを求めるつもりもあまりないし、それ以上に小説らしい仕掛けやダークさが売りなのは十分わかっているけど。
 ちょっとこれは安っぽい感じがした。


No.644 4点 人生相談。
真梨幸子
(2019/09/25 21:51登録)
 出だしは面白く興味を惹かれ、そして1話目もミステリらしくて(ネタは早々に見当がついたが)期待したが……
 いかんせん登場人物が複雑で(ちょっとしか出ておらず名前も覚えていなかった人物があとの話で急に出てくる)、記憶力&注意力のない小生はいちいち前出を確かめて読まなければならなかった。
 発想や設定自体は面白かったが、ネタありきの強引な展開も諸所にあり、いろんな意味で笑いながら読んだ。
 同作者の連作短編集「ご用命とあらば、ゆりかごから墓場まで」の完成度から比べるとかなり落ちるなぁと思った。

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