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ミステリの祭典

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カナダ金貨の謎
作家アリス&火村シリーズ

作家 有栖川有栖
出版日2019年09月
平均点6.40点
書評数10人

No.10 7点 測量ボ-イ
(2024/01/05 20:06登録)
どれも粒よりの短編集。
個人的には「船長…」がベストかなあと思いつつ、
有栖川氏には珍しい倒叙ものの表題作も捨てがたい
ところです。

余談)
4編めの短編集に、アリスと火村が知り合うきっかけ
が書かれています。作中で「英都大学」と紹介される
京都の某大学。実は下名もここの出身で、有栖川氏と
もほぼ同年代なので、作中に書かれている教室や食堂
、建屋の位置関係など手に取るようにわかり、楽しい
読書でした。

No.9 5点 E-BANKER
(2023/11/03 19:20登録)
安定感超抜群の「火村・アリスコンビ」の国名シリーズもついに第10弾に突入。
今回はカナダか・・・いいところなんだろうね(行ったことないけど)
新書は2019年の発表。

①「船長が死んだ夜」=何の「てらい」もない、純正な短編ミステリーだ。逆に珍しい・・・で、本筋としてもロジックによるフーダニットの興趣が味わえる一品。
②「エア・キャット」=名探偵火村准教授の小ネタが味わい深い一編。でも真相が分かってみると、「なーんだ」っていうようなもの。だからこその小ネタ。
③「カナダ金貨の謎」=名短編として名高い、同じ国名シリーズの「スイス時計の謎」。「スイス…」はキレキレのロジックが有名だが、同作に対する言及が出てくる本作はとてもその域には達してないと思えるのだが・・・。まあ工夫した倒叙ものではある。
④「あるトリックの蹉跌」=“あるトリック”とは、学生時代のアリスが火村と初めて出会ったとき、たまたま書いていたミステリーに出てくるトリックのこと。若き火村は見事、簡単にそのトリックを看破してしまうわけである。まぁ「シリーズゼロ」のような作品といえばカッコいいが・・・。
⑤「トロッコの行方」=“トロッコ問題”(何のことか分からない方は本作をご一読ください)を根底に敷いた一編。でもこの終わり方はあまりに唐突で投げやりな気がする。動機なんてこんなものかもしれんが・・・

以上5編。中編3編+短編2編というのは、かのクイーンの短編集になぞらえたとのこと。
まあ相変わらずの安定ぶりである。
いま日本で最も安心して楽しめるミステリー作家であり、シリーズなのは確かでしょう。
前にも書いたような気がするけど、特殊設定全盛の現代ミステリー界で、それに抗うがごとく普遍的ミステリーを発表し続ける作者には敬意を表するほかありません。
本作もサプライズ感こそ小粒ですが、決して侮ることのできない佳作ぞろい。

・・・ちょっと言い過ぎかもしれんが。
(個人的ベストはうーん、⑤かな。)

No.8 5点 パメル
(2021/06/09 08:44登録)
国名シリーズ第10弾で5編からなる中短編集。
「船長が死んだ夜」作家たちの書き下ろしが詰まった「7人の名探偵 新本格30周年アンソロジー」のために書かれた中編。アリスのとんでもない仮説がいつも以上にキレている。王道の謎解きが楽しめる。
「エア・キャット」アリスと先輩作家の朝井が飲み屋で火村を話題にしている。ミステリ仕立てになっているが、真相は大したことない。
「カナダ金貨の謎」犯人は被害者殺害後、予定外の事態が発生し偽装工作に失敗。火村はこの実行されなかった偽装工作の準備の痕跡から犯人を特定していくロジックが見事。
「あるトリックの蹉跌」JTの「ちょっと一服ひろば」というサイトにアップされた短編。火村とアリスの出会いの話。
「トロッコの行方」トロッコ問題「五人を救うために、一人を殺すか」という思考実験が下敷きにある中編。謎解きは呆気ないほどあっさりしている。犯人特定の何が決め手になったのかの説明が不足している。

No.7 7点 虫暮部
(2019/12/19 10:58登録)
 短編2編の“謎そのものよりも謎の出し方がメタ的なヒントになっている”状態が面白い。表題作中の“キャメルの由来”も同様。
 「船長が死んだ夜」。犯人の肉体的特徴の描写が少なくて読み流していた為、解決編で“アレッ、この人はそういうキャラだっけ?”とキョトンとしてしまった。ええ私の読み方が悪いんです。それを除けば、とても良い。

No.6 7点 HORNET
(2019/11/16 18:07登録)
 私の嗜好的にオーソドックスなミステリを定期的に読みたくなるのだが、それを提供し続けてくれる点で有栖川有栖は非常に好きで、頼りにしている。
 本短編集も、安定した水準で楽しませてもらった。(直前に読んだ「こうして誰もいなくなった」が玉石混交の印象だったので、その反動で実際以上に良く感じたかもしれないが。)
 やはり表題作「カナダ金貨の謎」が一番よかった。金貨が持ち去られたことの意味を問い続けることで真相にたどり着く推理は「これこそが火村英生」という典型的な様相であり、満足した。
 その他、私としては「船長が死んだ夜」が好き。以前にも別のアンソロジーで読んだけれど、再読しても面白かった。

No.5 6点 人並由真
(2019/11/09 13:59登録)
(ネタバレなし)
 有栖川作品にマトモに付き合うようになったのは、この4~5年の新作長編ばかりなので、実は短編集も初読みなのでした。
 以下、各編の感想&コメント。

『船長が死んだ夜』
 伏線が見え見えで犯人の予想も早めにつくが、カメラに動画として納められた「ブルーシートをかぶった、正体不明の殺人犯(の逃走図)」というビジュアルイメージにときめき。『悪魔の手毬唄』のおりん婆さんの出現シーンを思い出す。

『エア・キャット』
 いまいち面白さがピンとこない。そういう考え方もあるよね、だけ。

『カナダ金貨の謎』
 短編シリーズをもう少し読んでいれば、通常編との差分で良さが分かるのか? あとここでは言えないが、このトリックって……(以下略)。

『あるトリックの蹉跌』
 シリーズ名探偵&ワトスン役のイヤー・ワン編として好感の持てる掌編。謎解きミステリの楽しみ方の、初心に返ったおさらいモノという側面もある。

『トロッコの行方』
 良い感じに捻りの利いた一編。しかし今年の国産ミステリは、トロッコ問題の話題のブームである。この二ヶ月の間に『ジャンヌ Jeanne,the Bystander』(河合莞爾)と『犯人IAのインテリジェンス・アンプリファー』(早坂吝)と本作とで3作目だよ。まあ先の二本は、同問題と密接な関わりのSF調ミステリ(AI、ロボットテーマ)だから当然ではあるが。

No.4 6点 makomako
(2019/10/19 07:27登録)
有栖川氏の短編はトリック一本勝負といったところがあり、その出来不出来で印象が大きく異なるように思っています。
 今回のカナダ金貨はそれなりの水準がそろっているようで、まあ面白く読めました。
 私は氏の長編が大好きで、巻末の著作を見るとすべての長編を読んでいるようですが、短編は未読のものが結構ありました。これははずれだなあと思ったものが時折あったためなのですが、今回の作品はその中ではまずまずといった印象でした。

No.3 6点 まさむね
(2019/10/14 23:32登録)
 火村シリーズの中短編集。個人的に、このシリーズは安心して読めるので好きです。
①「船長が死んだ夜」
 新本格30周年記念アンソロジー「7人の名探偵」収録作で、ワタクシとしては既読だったのですが、アレの使い方については結構分り易かったかな。
②「エア・キャット」
 コンパクトな短編。猫好き火村を活かした面白さがあります。
③「カナダ金貨の謎」
 国名シリーズ初の倒叙モノ。そういった点での新味はありますが、平均レベルかな。
④「あるトリックの蹉跌」
 これもコンパクトな短編で、火村とアリスの出会いの一コマ。
⑤「トロッコの行方」
 トロッコ問題を絡めたことのメリットは認めつつも、何となく中途半端感が残ったのは私だけでしょうか?

No.2 7点 ボンボン
(2019/10/06 13:32登録)
国名シリーズ第10弾。インド倶楽部以降、表紙に国旗は描かなくなったのか。

『船長が死んだ夜』
事件発生当初に現場に入り、次々と聞き込みをして犯人を当てるタイプの話。楽しくは読めるが、こういう「なぞなぞ」やクイズのようなネタは好みではないので、少し残念。
『エア・キャット』
ちょっとしたお楽しみ短編だが、意外に謎解きがぴかりと光る。
『カナダ金貨の謎』
作者が他の作品のあとがきで、「誰も思いもつかなかった物語」より、「これまで誰かが書きそうで書かなかった物語」を書きたいと言っていたとおり、本作も発想の隙間を狙ってくるような作品ではないか。ありがちな事件のようでいて、型が少し外れているのが面白い。
『あるトリックの蹉跌』
この題名は、「蹉跌」といえば「青春の」という遊びなのかな。
『トロッコの行方』
「この集り屋!」の一言の強烈なブーメラン。これは読み応えがあった!

No.1 8点 青い車
(2019/09/23 09:13登録)
 短編2作+中編3作で構成された火村シリーズ久々の中短編集。それぞれ異なるアプローチの見せ場があり、なかなかのお気に入りです。以下、各話の感想。

①『船長が死んだ夜』 衒いのない直球のフーダニット。燃やされたポスターの手掛かりから、明快なロジックで犯人を突き止める推理が気持ちいい快作です。
②『エア・キャット』 殺人事件が話題に登りますが、それ自体より火村の猫好き特性が見どころのファンサービス的な一編です。
③『カナダ金貨の謎』 犯人の一人称の章に引き付けられます。消えた金貨と他の些細な証拠を繋げ、謎を解く手際も見事です。
④『あるトリックの蹉跌』 以前に少し触れられた、火村とアリスの出会いを詳しく読むことができたのが満足です。作中のアリスの小説はいかにも習作という感じがします。
⑤『トロッコの行方』 有名な思考実験を冒頭にもってきたことが上手いです。トロッコ問題の話題が無ければ、最後の皮肉を含んだ幕切れが活きなかったでしょう。

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