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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.1708 7点 案山子の村の殺人
楠谷佑
(2024/05/09 11:49登録)
 紛れもない正統派で挑戦状を掲げる資格は充分。変にこじらせていないところが眩しい。
 しかし一つツッコミ。あのトリックは、左右同時に動かさないと上手く働かないと思う。確実を期すなら両者をリンクさせる仕組みが必要では(仕組みが無いとは記述されていないけどね)。


No.1707 6点 フランクフルトへの乗客
アガサ・クリスティー
(2024/05/09 11:49登録)
 AC作品にはミステリ的なポカが結構あって、それが気になり素直に読めないことも少なくない。でも本作は冒頭の時点で “あ、これはそういうこだわりは不要な奴だな” と判ったので、本格ミステリ作より気楽に楽しめた。
 作者は “社会風刺+戯画的で大仰なスペクタクル” でチェスタトンみたいなことをやりたかったんだと思う。しかし読み易く書くことに長けていたので、却ってああいうもっともらしさが出せなかった。人物造形が巧みなので、直線的なプロットや背景から浮き上がってしまった。
 自分に対する無いものねだりが過ぎる。その結果、意図しないところで “風刺すること” に対する風刺になって自爆してしまった。


No.1706 5点 毒入り火刑法廷
榊林銘
(2024/05/09 11:48登録)
 凝り過ぎて訳が判らなくなってる。どんでん返しはしっかりした基盤があってこそ成立するのだなぁと思った。魔法の不安定なルールの上で幾度も繰り返すのは厳しい。


No.1705 5点 教え子殺し 倉西美波最後の事件
谷原秋桜子・愛川晶
(2024/05/09 11:47登録)
 手記がこういう風に使われてたら、トリックの方向性も見当が付いてしまう。また、物語後半での美波の動きがどうも不自然で、話を収束させる為の作者の駒になってしまった。
 送り主不明のメールを素材にあれこれ推理するのも妙な感じ。手紙とかノートとかフィジカルなものでないと、自在に加工可能だから根本的な信頼性が著しく低い――との考え方はもう古い?

 ところでこれは一体どういう形で共作したのだろうか。両者の個性がシームレスに融合して、ぎこちなさ皆無。まるで同期したような、憑依したような、驚異の一心同体っぷりである。


No.1704 4点 麦酒の家の冒険
西澤保彦
(2024/05/09 11:45登録)
 こういう作品は強引でも構わないとは思うがやはり強引。

 ネタバレするけれど、計画を要約すると――奴が怪しまれる状況証拠をでっちあげる。一方で奴は実体験を証言するだろう。そこで、おかしな実体験をさせて後者が信用されない状況を作れば、奴に罪を被せられる。
 この場合、実体験の内容は変であればまぁ何でも良いのである。作者は楽である。これがまず面白くない。
 第二に。作者は “麦酒の家” と言う設定ありきで逆算して真相を考えたのだろうか。しかし犯人にはまず目的があり、それに相応しい計画を立てた筈。その場合、この内容が適切だとは思えないのだ。
 確実性の低さには目を瞑ろう。奴の記憶を曖昧にする小道具もある。人手が必要なのはマイナス点。何より “家具の無い別荘” はあまりに作為的だ。奴は “詳細は知らんけどハメられた” と確信するだろう。“不自然過ぎて却って嘘とは思えない供述” である。寧ろ “普通にありそうな話” をでっちあげる方が、“もしや自分がやったのだろうか?” と言う気分になってくれないとも限らないし、警察も “その証言は嘘” と判断し易いのではないか。

 と難癖を付けたがるのはミステリ読者の悪い癖だ。でもこれはまさにそういう面倒な読者をこそ対象とする作品だよねぇ。


No.1703 7点 猟奇文学館3 人肉嗜食
アンソロジー(国内編集者)
(2024/05/02 14:30登録)
 このアンソロジーには陥穽があった。
 普通に読めばサプライズになる筈の “人肉嗜食” と言う要素が、本書では前提事項になってしまうのだ。インフレ状態しかも半分ネタバレしているようなもの。故に以下タイトルは伏せる。とは言え、こうやって纏められなければ手に取る機会の無かった作品もあるので痛し痒しである。

 江戸川乱歩の猟奇短編みたいで、食った後に一捻り加えた村山槐多はシンプルながらインパクト大。高橋克彦は怖いけど “いい話” で感動。山田正紀の名品が加筆訂正版で収録されていることも重要だ。“実話” と言う箔付けを除くと牧逸馬は今一つ。
 美味しそうに描いている双璧は中島敦と生島治郎。
 ところで、人も牛のように熟成させた方が美味いのではないかと思う。その点で、墓を暴いて得た肉に舌鼓を打つ描写には納得。
 厳密を期すなら人間でないものも混ざっている、と揚げ足を取ったりして……。


No.1702 4点 人喰い
笹沢左保
(2024/05/02 14:30登録)
 冒頭の遺書には吸引力がある。直後の佐紀子周辺の成り行きにも引き込まれた。
 しかしそれ以降の事件の展開には首を傾げる部分が色々と見受けられた。最終的な目的がアレで、その為にああいった内容の犯行、と言うのは非常にこじつけがましい。
 犯行の為の犯行、トリックの為のトリック。いっそ “サイコパスの愉快犯” にした方が説得力がある。作者は視野狭窄に陥って、全体像を俯瞰出来ていなかったのではないか。

 犯行動機。ソレの為にそこまでやるか? 共感は出来ないが、故に “意外な動機” としてそれはそれでアリかな~。


No.1701 7点 湘南人肉医
大石圭
(2024/05/02 14:30登録)
 人肉嗜食に関する深い思索が窺われ共感を誘う。残虐描写でなく淡々と描かれる食肉処理が怖くてナイス。
 細かなスパイスも多々ちりばめられていて、“権利” を与えた老人の話は絶妙な不条理さが効いた。顔の皮とか耳とか美味しそうだけど食べないんだ? どう終らせるのか心配だったが、テクニカルな幕引きで良い匙加減。
 “肥満体” との設定には何か狙いがあるのか。目撃者の印象に残るリスクとか機動性の低さとか、作者が主人公に架した(必要性の無い)枷、と言う感じがするけれど……立場が逆転した時に多くの胃を満たせる、と言うバランス感覚?


No.1700 7点 死体の汁を啜れ
白井智之
(2024/05/02 14:29登録)
 ブツ切りの具がゴロゴロ入った死体汁である。書き下ろしなのに出し惜しみせずこんなにネタをぶち込んで大丈夫? しかもこの人の場合、謎が登場人物の各々勝手な行動と不可分なケースが多く、否応無しにストーリーが生じる。アイデアの羅列では終われないのだ。必然的に奇天烈なキャラクターもガンガン生まれる。大丈夫? 探偵側が多発する事件にズブズブ飲み込まれて “自身の事件” に変貌する流れが面白いと言うか “うげっ” と言う感じ。


No.1699 7点 君の膵臓をたべたい
住野よる
(2024/05/02 14:29登録)
 マニアックな内臓選びだな。五臓六腑にも含まれてないんだぜ……まずタイトルで勝ち。しかも看板倒れとは言わせない。流れるような会話劇はイマドキの作家の基礎教養と言った感じだが、Xデーのその先、ああいう内省をキッチリ伝わるように書けるのは高評価。
 ただ、狙いや効き目がちょっと判らない演出もあって、そういうものが常に無駄とは言わないが、本作に関してはスマートに凸凹を削ぎ落とした方が良かったんじゃないかと思う。


No.1698 7点 鬼怒楯岩大吊橋ツキヌの汲めども尽きぬ随筆という題名の小説
西尾維新
(2024/04/25 11:50登録)
 これは非常にツボを突かれた。謎と仮説めいたものも含まれるが、基本的に内容は無いよー。内容が無いものが劣っていると言うことではない。自己言及的なツッコミを繰り返して隘路に迷い込む楽しみは楽しく楽しい。あまりにも私の気持にフィットする文言が散見され、頭の中を覗かれているような気分だ。頭の中を覗いても脳味噌があるだけで、それを見たからと言って考えている事柄が判るわけではないが。長年に亘り愛読者なので私の思考の志向が影響を受けたのだろうか。それはちょっと嫌だにゃあ。

 そう言えば『ドラえもん』に、のび太が上下に分かれる話があったよね。


No.1697 6点 堕天使殺人事件
リレー長編
(2024/04/25 11:47登録)
 ツギハギ死体事件! それは “この作品もツギハギですよ” と言う首謀者(?)・二階堂黎人による自虐的メタファーである。ストーリーよりも各作家による主導権争いが可笑しい。
 トリの芦辺拓は苦労しただろう。“ゲームセンターのビデオ映像に映った被害者達” を提示した小森健太朗が功労賞、飄々と自分の領域を守った村瀬継弥に技能賞。


No.1696 5点 時の睡蓮を摘みに
葉山博子
(2024/04/25 11:46登録)
 小川哲『地図と拳』の普及版て感じ。劣化版と言う意味ではなく、短めに打ち切っているので疲労困憊する前に読み切れると言う意味で。
 1940年前後のインドシナ界隈を疑似体験した気分になれる筆力は評価出来る。ここまで “学ばない” 主人公を描ける作者の冷徹さも瞠目に値するだろう。何やってんだ鞠!
 一方で、そのしっかりした筆致のせいで或る種の鈍重さが物語の足許に纏わり付いてしまったのも否めない。頑張って読んだのだからそれに見合うサプライズを、と期待してしまうのはエンタメ読者の悪しき性だろうか。


No.1695 5点 少女は黄昏に住む マコトとコトノの事件簿
山田彩人
(2024/04/25 11:45登録)
 ミステリ的なポイントは充実している。後出しとはいえ犯人の動機や心情が相応に設定されている気配りも良いと思う。
 一方、演出のせいでやや小粒に見えてしまった嫌いがある。マコトとコトノのやりとりも、頭の中で自分なりにちょっと変換すれば楽しめるが、本当は変換無しで直撃して欲しいよね。ユーモアの匙加減は難しい。作者は恥をかくのを躊躇している、と感じた。


No.1694 6点 早朝始発の殺風景
青崎有吾
(2024/04/21 12:29登録)
 前半3話は何が謎なのか読者に示した後でそれが解かれるのに対して、後半2話はいきなりヌッと真相が突き付けられて世界が反転するところが圧倒的に良い。謎と真相の格差がそれほどたいしたものではないので、“この点が謎だ” と予め読者が心の準備をしてしまうと効果半減なのである。演出の重要性である。

 私も “必ずメロンソーダを飲んじゃう奴” だ。本物のメロンよりあの作り物っぽい “メロン味” の方が好き。


No.1693 5点 模倣の殺意
中町信
(2024/04/21 12:28登録)
 やられたっ!
 とは確かに思った。

 しかし一方で、ネタバレするけれどアリバイについて。まず、あまりにもわざとらしい。あんな行動はそれ自体、心証的には真っ黒だ。
 第二に、結果として本当にアリバイが成立しているのに、それを主張すると自分の悪意を明かすことになるので言えない、と言うジレンマはとても面白い。にもかかわらずその点が目立っておらず勿体無い。強調しないなら不要などんでん返しではないか。
 他者にどう思われようと気にしない、キャラクター的な整合性はまぁあるけどね。


No.1692 5点 四つの兇器
ジョン・ディクスン・カー
(2024/04/21 12:28登録)
 真相のミステリ濃度は高いのに、事件の表層にあまりフックが無いわ必要以上に判りにくいわで勿体無い。このプロットの美味しいポイントは、犯人が不測の事態に振り回されるところだと思う。故に、部分的に倒叙形式で書くと面白かったのでは。
 犯人はアレなのだから、アッチを読者の目から隠せばちゃんと “意外な” 犯人になっただろうし。このごちゃごちゃした成り行きを探偵は推理だけで見抜けるのか、と言う問題もクリア。

 和爾桃子の訳書を何冊か読んだが、文体がちょっと今風の言い回しに寄せ過ぎだと思う。旧訳版を探すべきか。


No.1691 8点 推理の時間です
アンソロジー(出版社編)
(2024/04/16 12:41登録)
 いや~全然判らなかった。手紙誤配の件に気付けなかったのは痛恨の極み。
 と言うか最初の二編を読んだ時点でこりゃもう無理だと諦めた。 但し、犯人当ては “当てられない” ことが誉れではないよね。寧ろ、相応の歯応えは与えつつ、正答率の高いものが優れた作品だと思う。“いったん消去法で全員消してから叙述トリックの可能性を検討するのがセオリー” って何処の世界の話じゃ。 

 “読者への挑戦” 企画を抜きにしてもどれも良く出来ている。発表舞台が舞台だからみな気合が入ったんだろうな~。法月綸太郎の前口上が、自意識強めでとても法月していて微笑ましい。


No.1690 7点 戒名探偵 卒塔婆くん
高殿円
(2024/04/16 12:40登録)
 戒名がミステリのネタになるのか? なるのだ!
 京極堂のライト版と言った趣で無知な一般人にも判るよう薀蓄を垂れ流しつつ身許特定の鮮やかさ。しかしそれはまだ小手調べ、少しずつ読者を啓蒙した上で本題は横溝系だ(言い過ぎ)。太平洋戦争絡みの話としては割と辟易とせずに読めたのは、春馬くんの視点が(或る意味)素直だからか。

 “バカ” を含む名前を付ける親はいないだろう、母子家庭と言うのが伏線か。と思ったけれど言及無し。アレッ?


No.1689 5点 可視える
吉田恭教
(2024/04/16 12:38登録)
 文章にせよ構成にせよ、何か硬くて大味で損をしていないか。警察の捜査を描くこういう話はこういう書き方、みたいな不文律に安易に従っている感じ。槙野は人肌を感じさせるが、東條刑事の特殊な設定は記号的であまり効いていないと思う。
 “絵心がある×××だからこそ、あの肖像画の秘密に気付いた” と言うちょっと合理的ではない理屈は、とても良い。

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