虫暮部さんの登録情報 | |
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平均点:6.21点 | 書評数:2006件 |
No.1866 | 7点 | あさとほ 新名智 |
(2024/12/20 13:02登録) こういう話を当事者の一人称で書くのには長所も難しさもあるだろうが、境界線がふっと見えたり消えたりする揺らぎを繊細な言葉に落とし込んだ本作は健闘しており、最後まで底が読めずに楽しめた。 日本人なら誰でも知っている「あさとほ」が無名の散佚物語であると言う大胆な世界改変には苦笑。それに説得力を持たせる為に、架空の古典作品を色々挙げてもっともらしい論考まで捏造しており、感心させられた。 |
No.1865 | 7点 | ラブ・アセンション 十三不塔 |
(2024/12/20 13:01登録) 恋愛リアリティ番組ともなれば、どれが本音か建前か、本音に見せかけた建前か、そう見せかけた本音か、判ったものじゃない。地球外生命体を絡めつつ、ミステリ的興趣だって感じられた。大文字のSFと言うより、デスゲーム系小説(死なないけど)にSF要素を混ぜたもの。 12名の参加者が皆個性豊か過ぎで、誰一人恋愛相手としては魅力的に思えないのが難点……ではないのかな……リアリティ番組とはそういうものなのかな……? |
No.1864 | 7点 | わたしたちの怪獣 久永実木彦 |
(2024/12/20 13:01登録) 「夜の安らぎ」。魔に救いを見出す、拒絶された魂。だからってお前その切れ方は……(笑いが込み上げる)。 他、死体を捨てに行く話。職権乱用で動画投稿する話。映画館に籠城する話(私だったら助けには行かない)――共通して、日常が崩れる中、割と淡々と心情を客観視する様が可笑しい一人称の物語である。 同一人物を2編に登場させることで(普通とは逆に)パラレル・ワールド設定を導入しているのは意味あるのかな~。特に意味の無い遊び? |
No.1863 | 6点 | 泥の文学碑 土屋隆夫 |
(2024/12/20 13:00登録) 物凄く個性的と言うわけではないが、「空中階段」など、ポイントを的確に絞っている作品はウィットの効いたミステリ短編として悪くない。 しかし――表題作では、架空の作家の設定にやけに力を入れているので、連城三紀彦みたいなことをするのかと思ったら、事件は別件で拍子抜け。 長い手紙、長い電話、主人公が遭遇する奇妙な出来事、が実はまるごと犯人のデッチアゲ、と言う作品が幾つかあり、それではつまらない。作の中軸になる面白いエピソードが “嘘でした” って……。 |
No.1862 | 5点 | 僕を殺した女 北川歩実 |
(2024/12/20 12:59登録) 記憶や人格がコンピューター・ソフトの如くインストール出来ると言わんばかり真相は、果たしてホラー・ファンタジーなのか最先端科学なのか。前半で示される謎は魅力的だが、解きほぐす手捌きが不器用だなぁ。 悪意を以て関わる人が多いと何でもアリみたいになってしまう。それもスッキリしない要因かも知れない。 |
No.1861 | 7点 | #真相をお話しします 結城真一郎 |
(2024/12/13 12:34登録) 「惨者面談」。読み方を確認しなかったことが、結果的には手掛かりとなった――のだから、最後の一行、如何にも “ウィットの効いた終わり方” みたいな風だけど、実は狙いを外してない? 「ヤリモク」。厳密を期すなら、あのファースト・ネームだけでは特定するに不充分。工夫の余地アリ。 「三角奸計」。リモート飲み会を題材にした短編は以前読んだ記憶がある(作者は忘れた)。本作とどちらが先か判らないが、案の定、同じ機能をトリックに利用している。こういうのは早い者勝ちだね。 うーむ、まぁ、どの短編もアイデアはしっかりしているし、良い意味で判り易いし達者、だけど癖が無くて今時としては普通じゃない? と思っていたら最後「#拡散希望」で驚心動魄。凄いな、大胆にも程がある。あ、考えてみたらコレも、いずれ誰かが書く、早い者勝ちの大ネタかも。 |
No.1860 | 7点 | そして、よみがえる世界。 西式豊 |
(2024/12/13 12:34登録) またか、仮想空間やらアバターやら。医療ネタとの組み合わせでそれなりに興味を引かれる。ミステリである前提で読み進むので、設定に対して “これはこういうトリックの為の伏線かな~” とかいちいち先回りしてしまう。 しかし真相は、大まかにイメージしていたものより遥かに悪意的で残酷なものだった。それ故のカタルシスは確かにあった。 読み終えて振り返ると、生命の重さにケースバイケースで差が付いている感じ。エリカが物凄く重視されている反面、院内での新たな死者や怪我人は “話の流れ上のひとコマ” みたい。それはそれでリアル? シリアル・キラーがまるで天災のように唐突に絡んで来て、唐突に(理屈は通っているが)フェイドアウト。フィクションとしては安易かなぁとも思う。それはそれでリアル? |
No.1859 | 7点 | 推しの殺人 遠藤かたる |
(2024/12/13 12:33登録) 題材が地下アイドルってことで気恥ずかしい、と言うのが最大の欠点。華やかに見えて舞台裏ではドロドロボロボロ、な設定はありきたり。でも覚悟を決めて読み始めてしまえば矢継ぎ早なアップダウンに乗せられて好きにならずにいられない。犯人(ホシ)はスターになれるのか!? ところで、この年の大賞&文庫グランプリは3冊とも、刊行に当たってタイトルがより判り易いものに改められている。ビジネスなんだなぁと感じた(悪い意味ではない)。 でも “推し” はファンの立場から見た言い方でしょ。語り手の立場とは合っていない。安直にアイドル用語とミステリ用語を組み合わせただけじゃない? それとも実は、ファンが語り手から聞き書きした、と言う設定なのだろうか。確かに、ライターになりそうな人がチラッと登場するんだよね。 |
No.1858 | 7点 | トッカン 徴収ロワイヤル 高殿円 |
(2024/12/13 12:33登録) 短編集であるおかげで案件が一つごとに完結していて読み易い。「人生オークション」のミステリ的反転が見事。 一方、「対馬ロワイヤル」のブランド物売買にまつわる事柄は、どの件のどの部分がどういう理屈でルール違反になるのか、今一つ判らなかった。 作品全体としてはミステリの看板を掲げているわけではなく中間小説だから、読者の経済感覚、と言うより常識度? が問われているのかも知れない。私は驚くべきポイントで反応出来ていないかも。 |
No.1857 | 6点 | スイッチ 悪意の実験 潮谷験 |
(2024/12/13 12:32登録) 冒頭で示される興味深いアルバイト。でも要は心理ゲームとかでよくある思考実験だし、これだけで完結しているでしょ。小説になるの? と思っていたら意外な方向に接木を重ねて立派に成立させていた。題材から作品を立ち上げる手際が際立っている。 ただ、パスワード探しのところで首を捻った。或る程度の目星を付けた上で、あとは総当たりチェック、と言うやり方。その場合、アトランダムではなく順番通りに試す方が絶対に効率的である。作者はフーダニットの手掛かりとして活用する為に(と言うか、判り易くし過ぎない為に?)敢えて不自然な行動を取らせているのか。これは戴けない。 |
No.1856 | 6点 | ミステリ・トランスミッター 謎解きはメッセージの中に 斜線堂有紀 |
(2024/12/07 11:05登録) この作者はミステリ専門と言うわけではなく、寧ろ意識的にアレコレ書き散らしている感がある。本短編集でもそれを反映してアイデア巧者っぷりを見せ付けるかのようだ。 が、必ずしもそれが常に作品自体の良さに繫がっているわけではない。血汗涙の一代記に目を奪われトリックの仕込みポイントに驚かされた「ある女王の死」、グレイト! こんな謎解きで話を成立させちゃうとは(御竈門が猫丸先輩みたい)「ゴールデンレコード収録物選定会議予選委員会」、ナイス! あとの3編は、物語の良さがあるので仕掛けは無くても良かったくらい。第一印象に反して、作者のストーリーテラーっぷりを示す短編集かもしれない。 |
No.1855 | 7点 | 長靴をはいた犬 神性探偵・佐伯神一郎 山田正紀 |
(2024/12/06 12:02登録) 事件全体の構図は面白くも背筋がゾッとさせられる。 その中心に位置する、“他者に対する無意識下での影響力” みたいな事柄は、先行作品後続作品色々思い当たるのであって、それだけでは弱い。しかし説得力強化の裏打ちがしっかり為されており、それも含めて “神性探偵” ならではの事件になっている点が強い。 |
No.1854 | 7点 | マクマスターズ殺人者養成学校 ルパート・ホームズ |
(2024/12/06 12:01登録) 作者名を見て、そう言えばルパート・ホルムズ(Holmes)ってシンガー・ソングライターがいたなぁ、と思ったら御本人だった。 タイトル通りの内容。楽しく危ういキャンパス・ライフ。必然的にわちゃわちゃ出て来るキャラクターも結構書き分けられていると思った。 後半は実践編。学院の理念に則ると奇を衒った方法は不可なので、良い意味で普通の犯罪小説に発展。複数のケースが平行するのはまぁ良いが、細かく区切り過ぎで混乱するかも。ちょっと爽やかなオチもある、と言うところがブラック。 時代設定がはっきり判らなかったが、あとがきに1950年代とあるのでそうなんだろう。ユーモラスな小ネタが色々効いていた(私が勘違いして何でもないところで笑っていたわけではない、と願う)。 棚を漁ったら作者のレコードが1枚出て来たので聴き返した。おぉ、エイティーズAOR。 |
No.1853 | 6点 | 分身 フョードル・ドストエフスキー |
(2024/12/06 12:00登録) タイトルは “ドッペルゲンガー” の謂。なので『二重人格』と訳すのはちょっと違うんじゃないか。 作品解説に見られる “発狂しつつある主人公の幻覚” との解釈だと、周囲の人達の言動を説明するのに無理があると思う。事の成り行きが主人公の内面で完結は全然していないのだ。 “主人公に不条理な出来事が降り掛かる。実は周囲の人が多数結託して主人公を騙す大掛かりな芝居を打っていた” と言うミステリ作品があるけれど、これもそのパターンではないだろうか。役所に於けるいじめと言うか追い出しと言うか。外部によって発狂させられている。御婦人からの手紙など、如何にも騙して笑い者にしようと言わんばかりのネタ。それはそれで都市型の人間心理? 仮に、あくまで内面の問題だと解釈するなら、異様に広い範囲の幻覚であって、どの記述が客観的事実だか区別が付かない。冗長な文体と相俟って、“信頼出来ない作者” って感じだ。幻覚が頭から漏れ出して現実に影響を与えると言うSFなのかも知れない。突っ込みながら読もう。 |
No.1852 | 5点 | 忍鳥摩季の紳士的な推理 穂波了 |
(2024/12/06 11:59登録) 成程その手で来たか。色々工夫しているのは判る。「月夜のストップ」のハウ、「私と彼のタイムリープ」のホワイ等。 犯行に都合が良いように超常現象が設定されている気はするが、それは言い始めたら切りが無いのでまぁいいや。それより、物語として愛せる何かがもう少し欲しかったところ。 |
No.1851 | 4点 | 死体で遊ぶな大人たち 倉知淳 |
(2024/12/06 11:58登録) 短編×4、どれも物足りない。論理が粗い。 特に「三人の戸惑う犯人候補者たち」。真相が人海戦術ではつまらない。すると注目すべきはホワイだが、“話を聞かれた” だけのことをフォローする為に死体そのものを見せるのは本末転倒では? 他にも――×××の性質が想像に基づくものでしかない。回りくどい偽装工作を施す心情的裏付けが強引。棒2本程度を隠すのってそんなに大変か? 最後の名前の件には笑ったが、それだけではねぇ。 |
No.1850 | 7点 | デッドソルジャーズ・ライヴ 山田正紀 |
(2024/11/29 12:54登録) 山田正紀はこういう感じの連作長編を幾つか物しており、既視感は正直あるのだが、本作は “死” の定義を揺るがすガジェットと、レプタイルの存在によるエロティックなテイストが読みどころ。今時なら強引に特殊設定不条理ミステリ(笑)と呼べなくもない。ボブ・ディランから荻野目洋子まで、サントラ盤でも作りそうな勢いで引用している。え、ファンなの? |
No.1849 | 7点 | シャーリー・ホームズとジョー・ワトソンの醜聞 高殿円 |
(2024/11/29 12:53登録) 風雲急を告げる三巻目。 “記憶の欠落” に当人が気付く場面って、概してわざとらしいと言うか、パターン通りの描き方をされるケースが多いと私は思うのだけれど、本作はそこが上手い。語り手が自らの混乱を把握するまで、読者も混乱を余儀なくされる感じが。 しかもテーマは愛だぜ。ピンからキリまで数々のアンサーはどれもそこそこ頷けるから困る。これ、ホームズ・パスティーシュであることを逆手に取ってヘヴィな方へズブズブ踏み込んで行くな。ワトソン役にあんな過去とかアリか。ガールズの御気楽ワールドだと思っていたのがだんだん壊れ物注意! に感じられて来た。不穏な次巻予告付き(なのかな?)。 |
No.1848 | 7点 | 太陽の汗 神林長平 |
(2024/11/29 12:53登録) 翻訳機は正しく機能しているのか、通信機の向こうにいるのは本当にその人なのか。機械を介したコミュニケーションの盲点。 でも、ハンドル・ネームやアヴァターの使用者がいつの間にか入れ替わっていた、みたいなミステリは近年良くあるよね。1985年発表のSFが、40年を経てミステリに熟成されたか。 流石に結末はSFで、この曖昧さは良いのか悪いのか。肘を切ったり殴られたり、肉体性を思索の合い間に挿む人間的なところが若いな~。 |
No.1847 | 7点 | キッド・ピストルズの妄想 山口雅也 |
(2024/11/29 12:52登録) “内省的な生活を続けてきた者にとって、人生の最高の歓びは、感情を共有できる同胞を見出すことです。” まさにまさに。作者自身が実作に留まらずミステリの伝道みたいな活動をしているのも、そういう思いからだろうか。 「神なき塔」の〈狂気の論理〉は牽強付会だと感じるが、他の二編の気持は判る。 |