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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.20点 書評数:2100件

プロフィール| 書評

No.880 7点 櫻子さんの足下には死体が埋まっている 謡う指先
太田紫織
(2021/01/21 12:05登録)
 第壱骨。ミステリ的な驚きとかは無いが、切迫感と言うか語り手の焦燥を否応無く共有させられる書きっぷり(&ウルフのエピソード)に、こちらの気持も引っ掻き回された。グッジョブ。
 第参骨。“カモフラージュ”についての疑問。人の指を誤魔化す為にクマの手を使った。ならばクマの指が一本余る筈で、それはどう処分したのか。そもそも処分出来るなら最初から人の指をそう処分すれば済む話ではないか――と考えると、そんな回りくどいことをした理由は、その処分方法が、人なら無理だがクマなら可能な類のものだったからでは。つまり、食べたのだ。


No.879 8点 見晴らしのいい密室
小林泰三
(2021/01/15 12:51登録)
 ネタバレしちゃうのだが、「探偵助手」について私はきちんと読み取れているのか自信が無い。
 見た目が似ている二種類の薬がある。取り違えると場合によっては命に関わる。それを防ぐ適切な対策を講じなかったことが“確率の殺人”であると言っている? ――単なる思い込みや怠慢でその程度のリスクが放置されている事例は現実に幾らでもありそうだけどなぁ。まぁ作品のキモはそこじゃないんだけど。
 「囚人の両刀論法」は、会話で示されるロジックよりも、その背後に垣間見える設定の方が面白そう。“委員会”とか“冷凍貨物船で惑星系巡り”とか。

 『目を擦る女』から三編を入れ替えて再構成したもの。変更部分がページ数で言えば半分弱なので、もう別物である。大人の事情なのか。今となってはこんな刊行の仕方は寧ろ贅沢と言うべきか。ザ・ローリング・ストーンズのアルバムの英盤と米盤で内容が違うようなものか(違う)。


No.878 5点 審判
フランツ・カフカ
(2021/01/15 12:50登録)
 ボケ担当が一人もいないのに転がり続ける喜劇、を無自覚に書いたような本作は、“意味不明”と言うエンタテインメントであって、展開が整理されていないとか長過ぎるとか言っても無意味なのである。がらくた置き場の笞打ちや画家との対話は面白い。ラストは神話のようだ。そんな読み方をしたものだから、巻末解説なんかについては何を猪口才なと思った。


No.877 5点 櫻子さんの足下には死体が埋まっている 白から始まる秘密
太田紫織
(2021/01/15 12:49登録)
 シリーズを順番通り読み進めた読者にとってはとっくに御馴染みの櫻子さん情報について正太郎がいちいち恟々とするのが白々しい。結果論だが、“最初の事件”を書くならもっと早々に片付けておくべきだった。

 ここに至って作者も認めた通り、ロジックよりも観察・知識・直感で真相に真っすぐ飛ぶ櫻子さんはかなりホームズ直系?


No.876 8点 モロッコ水晶の謎
有栖川有栖
(2021/01/08 14:27登録)
 この機会に書くと、私が有栖川有栖で特に好きなのは、いずれも短編で「ペルシャ猫の謎」「絶叫城殺人事件」そして「モロッコ水晶の謎」。“ロジカルなフーダニットの人”なのは承知の上で、それを上回る飛び道具に痺れる。
 ところが文庫版解説には「モロッコ水晶の謎」の別解釈が示されていて、成程そう考えればグラスを取った順番から推理は可能。但し作品のキモは台無しだ。余計なことしやがって。と言ってはいけない。別解が成立しない設定をきちんと作るのも作者の仕事ってわけだね。

 「ABCキラー」。某がいきなり殺人に走るところが苦しい。説得力が無くても動機めいた言葉を残してくれれば、“そういう人間もいる”と(多分)受け入れられるのに、“まるで判りません”じゃな~。


No.875 7点 マレー鉄道の謎
有栖川有栖
(2021/01/08 14:26登録)
 もう少し短くても良い気がするものの、何処に鋏を入れるかは悩ましい。さほど意味の無いくだりの方が面白かったりするし。
 火村の台詞“(Jに)冠詞がついていたはずだ”は間違い。無しで言ったものを犯人は冠詞つきの内容と誤認した、だよね。


No.874 7点 櫻子さんの足下には死体が埋まっている 冬の記憶と時の地図
太田紫織
(2021/01/08 14:24登録)
 今更だけど櫻子さんの推理は乱暴だ。ほぼ、心理的な状況証拠を並べているだけ。そうなるとパスワードの件も、出任せで鎌を掛けたのではないかと疑いたくなる。
 相応の覚悟を持たずに過去を掘り返しているが如き悪印象はあって、それは櫻子さんの、そういう心情が言動にあまり反映されないキャラクターのせいもあるけれど、そりゃあ訊かれる側は嫌がるさ。


No.873 6点 黄色い犬
ジョルジュ・シムノン
(2021/01/08 14:23登録)
 捜査官の個性を尊重したゆとりある捜査、って感じで不思議。更に、事件関係者や舞台の描写が妙に直線的かつ戯画的な印象で、不条理劇を見ているような感覚だった。いえ、適正な読み方じゃないのは判ってますとも! そしたら結末で不意にミステリっぽくなってびっくり。


No.872 5点 犯罪カレンダー (7月~12月)
エラリイ・クイーン
(2021/01/04 11:56登録)
 当時の米国のラジオドラマの位置付けは想像するしかないが、マニア向けだったわけではまぁないだろう。ファンの裾野を広げるようなライト・ユーザー向けのミステリ作品があるのは良いことだし、EQがその一翼を担った心意気も判る気がする。
 但し、“初心者もマニアも満足” な作品作りはなかなか難しいのであって、“雰囲気を楽しむ” 以上の名品は見当たらず。つい “くっだらねぇ~” と叫んでしまった話もある。


No.871 5点 犯罪カレンダー (1月~6月)
エラリイ・クイーン
(2021/01/04 11:55登録)
 結末でガッカリの繰り返し。唯一「ゲティスバーグのラッパ」の真相はシンプルながらビシッと決まっている。
 生き残り保険ネタが2編重複しているのは、アンソロジストとしてちと自分に甘いんじゃないのかEQ?


No.870 7点 孤島の来訪者
方丈貴恵
(2021/01/04 11:49登録)
 基本的には好きなタイプ。特殊設定によって“犯人には動機が必要”との呪縛から自由になれたのはグッド・アイデア。結末を繰り返しひっくり返すのは本作に限らずあまり好きではないが、辻褄は上手く合っていると思う。

 実は私、重要な一要素を作者のミス(その可能性を排除する条件を設定し忘れた)だと決め付けていたんだよね。だから真相に辿り着けなかった、と言う気はないけど。あー信用しなくてごめんなさい。


No.869 7点 肉食屋敷
小林泰三
(2021/01/04 11:47登録)
 作者曰く“怪獣小説、西部劇、サイコスリラー、ミステリーというバラエティーに富んだ構成”の短編集。確かにその通り。なんだけど、それゆえにこそ、通底する普遍的な小林泰三テイストが剥き出しになっている、とも言える。執拗な書き込みと笑ってしまう変態的怪奇趣味。ぬめっ、とした感じ。好きな色は赤と黒。
 1編選ぶなら私は「ジャンク」。素敵に吐き気がしそうな世界設定だ。


No.868 6点 櫻子さんの足下には死体が埋まっている 蝶は十一月に消えた
太田紫織
(2021/01/04 11:43登録)
 第壱骨。伏線等がミステリっぽくなっていていいね。
 第参骨。物語の広げ方が“正統派ミステリを謳っていないが故の強み”って感じでいいね。
 使えるものは何でも使おうと作者が腹を括ったような雰囲気だ。


No.867 7点 玩具修理者
小林泰三
(2020/12/27 13:31登録)
 第2回日本ホラー小説大賞短編賞受賞の表題作。詳細な描写を執拗に重ねて気持悪さを醸し出す技は既に出来上がっている。フィニッシュも鮮やかに決まった。但し、今振り返ると、同作者の初期短編群の中で突出したものと言うわけではないと思う。

 併録の中編「酔歩する男」。以前読んだ時と比べ格段に面白く理解出来た。いや、あの時読んだのは本当にこの本だっただろうか? 勿論、そうでないとしたら私が勘違いしただけのことなのだ。


No.866 8点 螺旋の底
深木章子
(2020/12/27 13:30登録)
 うわっ、全然気付かなかった。スカッと騙され気分爽快。
 
 ……で済めば良かったんだが。同作者の後年の某作って本書の焼き直しじゃない? 私は逆順で読んじゃったけど。本書の方が圧倒的に上。


No.865 7点 闇に香る嘘
下村敦史
(2020/12/27 13:26登録)
 中心の謎に対する真相の設定や、学習内容を物語として立ち上げる力量は見事。

 しかし、ひねくれた事を言うと、この手の題材は感想の方向性を暗黙のうちに押し付けられていないか? ハードボイルドやサイコ・キラーもので悪役のファンになるのは個人の自由だし、少年法や安楽死には賛否両論あって良いが、本作について“その時は日本政府も仕方なかったんだよ”と擁護するのは許容範囲外、怒りと悲しみを必ず共有せよ! みたいな不文律がない? その意味で作者にとっては安全牌だな~と思ってしまう。


No.864 7点 絶叫城殺人事件
有栖川有栖
(2020/12/27 13:23登録)
 作者は表題作と「雪華楼殺人事件」でミステリの悪魔を召喚してしまった。こうやられたら黙るしかない。ジーザス。
 ところが「壺中庵殺人事件」の“壺”は変。自殺に偽装する為のトリックで不自然な自殺体を作っては本末転倒だ。と言う見解が作中でも語られるが、そうまでして使う程の効果的なギミックだとは思えなかった。


No.863 5点 建築史探偵の事件簿 新説・世界七不思議
蒼井碧
(2020/12/27 13:23登録)
 こじつけによる机上の遊びにせよ、作者が頑張ったのは、まぁ判る。注目すべきは“それなら主人は何のために死んだのです”と言う部分の論旨で、私は初めて読むパターンだ。


No.862 7点 涼宮ハルヒの憂鬱
谷川流
(2020/12/24 15:43登録)
 うわーごめん見縊ってたよ。ちゃんとした話じゃないか。前半はともかく矢庭にSF化する後半の風呂敷の広げ方! ヒット・シリーズになっちゃったせいで読むのがちょいと恥ずかしいのが最大の弱点。
 ただ、この手の文体でも作家ごとの個性の差はある。某氏や某氏に比べるとツボに嵌まるポイントが少ないし、軽妙さの演出が却って鼻に付く部分があるなぁ。


No.861 8点 新本格魔法少女りすか 2
西尾維新
(2020/12/24 15:42登録)
 魔法と言う理の掛け合いで勝負するシーンは、戯言シリーズのバトルより随分読み応えがある。ルールの設定が所詮は作者の掌の上なのだから、都合良く展開可能な弱点を持つ魔法を考えただけ、かもしれないが私にとっては想定外の論理で“その手があったか”と驚かされた。免疫が無いせい?

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