虫暮部さんの登録情報 | |
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平均点:6.21点 | 書評数:2011件 |
No.1411 | 7点 | ソマリアの海賊 望月諒子 |
(2023/03/17 12:21登録) ハンドメイド感溢れる国際? 謀略? 冒険? 小説。与太話を読んでいる心算がいつの間にかえらいことに。 所謂発展途上国に対する “学問と秩序は無いが純朴” と言った型通りの先入観を利用して作者に上手く乗せられた気分。現地人のキャラクターが似通っており紛らわしい、と感じるのも私が先入観のせいでそう読んでしまうのかな。 それほど緻密ではないが全体のムードと相俟ってOK。多少の問題意識を笑い泣きのエンタテインメントで挿んで差し出す意図は達成されていると思う。 |
No.1410 | 7点 | 少女Aの殺人 今邑彩 |
(2023/03/17 12:19登録) ミステリとしての出来は良いが、それを飛び越えてググッと迫る小説としての強さには欠ける。 “偽装工作として犯人がラジオに投稿したのでは?” との意見に対して “採用される保証が無い” と反論は誰もしていないが、そこを突き詰めればもっと早く解決出来たかもね。 “埋める” エピソードは使い回しが過ぎると思う(読むの三作目)。 チョイ役で “聖子” が登場するのは洒落? |
No.1409 | 6点 | 俺が公園でペリカンにした話 平山夢明 |
(2023/03/17 12:18登録) 食あたりしそうで1日2話が精一杯。頭痛発熱悪寒を堪えて2週間かかってなんとか読了。 ぐちょぐちょでべろべろなロード・ノヴェル短編集?“おれ” がみんな同一人物で実は連作長編? 嫌がらせのように下種なエピソードばかり20も並んでいるのは平山夢明だもの仕方がない。他のものを期待する方が悪い。 但しコレ、汚さ下品さを除けば、或る種の経典や神話のワケの判らなさに通じる気もするのである。 |
No.1408 | 4点 | 心霊探偵八雲1/赤い瞳は知っている 神永学 |
(2023/03/17 12:16登録) 見事に何も無いな~。この “特筆すべきポイントの無さ” が、読書習慣の無い層への入門編としては有効なのだ、とでも思うしかない。 ファイルⅢ。設定がやや曖昧だが、亡き兄の妻が死んだら、相続権は彼女の子・親・兄弟姉妹にある。弟には総取りどころか一銭も入らないだろ。 |
No.1407 | 6点 | 郵便配達は二度死ぬ 山田正紀 |
(2023/03/09 12:12登録) “警察小説” とまでは行かずとも半分くらいは警察官の視点で描かれている、にもかかわらず雲を踏むようなふわふわした空気に包まれ、入り組んだ真相もリアリティ云々ではなくそんな空気込みで成立する様は、ミステリの型を借りて真夏の夜の夢を演じているよう。 しかしこの公演、大成功とは言い難い。原因はスターの不在? 群像劇が裏目に出て、はぐらかされたような読後感。それはそれで一つの表現コンセプトだと言えなくもない(か?)。 暗号はまぁ御愛嬌。読者の楽しめる暗号ってなかなか無いな~。 |
No.1406 | 6点 | 田崎教授の死を巡る桜子准教授の考察 望月諒子 |
(2023/03/09 12:07登録) 今までの作品とは随分違う。森博嗣の水柿君シリーズみたい。謎や物語の本筋より、脱線(とも言い切れないか?)する部分の方が面白い。 それなりの年齢の作者の、若い世代に対する理解と疑問と羨望が反映されている、と見えるようにわざと書いている気がする。桜子のキャラクターも微妙に批評性が滲んでいるし。 犯人(と言っていいのかな?)の出番が少ないので、明らかになっても “誰?” な状態。花瓶を落としたことは認識したのに、片付けどころか状況確認すらせず帰っちゃうのは如何なものか。 |
No.1405 | 6点 | 特別料理 スタンリイ・エリン |
(2023/03/09 12:07登録) 表題作。初読の筈だがオチを知っていた。何処で知らされてしまったのだろうか。 実物はなかなか控え目な、仄めかすだけの終わり方。予備知識無しだと意味が判らない読者もいるのでは? いや、そもそも共通の “正解” を見出すことが読書の目的では必ずしもないしね。これをいきなり読んで自分がどう感じるか知りたかった。 作品が優れている → 知名度が上がる → ネタバレする → 知名度が上がる前の素直な読み方が出来なくなる = “名作ゆえに名作としての良さを維持出来ない” パラドックスはどうすればいいのか。久々に悔しい。 基本的に “起承転結” ではなく “起 → 承 → 転結” と言う三部構成で、真ん中の “承” が退屈、が言い過ぎなら、長過ぎる。その長めの部分を楽しめる程の “語り口の妙” だとはそれほど感じなかったなぁ。 |
No.1404 | 6点 | 赤いべべ着せよ… 今邑彩 |
(2023/03/09 12:06登録) 良く出来てはいるが、型通り。ただ、この作者の場合、それが個性の一部みたいになっているかも。そら来た! 待ってました! と掛け声が出てしまう。歌舞伎の様式美の世界である。今邑屋ァ! |
No.1403 | 5点 | 8の殺人 我孫子武丸 |
(2023/03/09 12:05登録) ユーモアの要素は、作品を戯画化し、細かなリアリティはどうでもいいと感じさせる効果がある。三きょうだいのキャラ立ちも、その世界の中でなら有効と認めていいだろう。 第一の事件。目撃の絶妙なタイミングを鑑みれば、共犯者が誰か容易に見当が付いてしまう。作中の探偵役は “犯人にあやつられた可能性” とか慎重な意見を述べたが、素直に考えれば明白である。共犯者本人は、自身のその危ういポジションに気付かなかったのか。普通あんな計画には乗らないだろ。 この点、一捻りを期待していたんだけど……。 第二の事件。磔が成立するには、被害者が扉を背に或る程度まっすぐ立つ必要があるけれど、あの状況でその姿勢はポーズを取るようで不自然。まるで狙ってくれと自ら的になっているようだ。具体的にイメージしてみると、凄くカクカクした動き。道を直角に曲がる人? 細かなリアリティはどうでもいい? あと解決編。“この犯人はダミーで、あっちが真犯人だ” とする論理的な根拠は無い(よね?)。本棚の中身で探偵役がショックを受ける展開は作者の苦肉の策に思える。 |
No.1402 | 8点 | 愚者の毒 宇佐美まこと |
(2023/03/02 12:44登録) 全体の構図の予測が付いても、エピソードの肉付けがしっかりしていて消化試合のような感じは無い。確かに解説に書かれている通り、犯人に同化してしまうな~。 強いて文句を言えばラスト。妻が何故か方言で呼びかけ、それが夫の心の糸を切った。この部分、どちらの気持もピンと来ない。 |
No.1401 | 7点 | 烏の緑羽 阿部智里 |
(2023/03/02 12:43登録) 感想をまとめにくい展開になって来た。群像劇の登場人物を一人一人丁寧に編み込んでいる。互いが互いの鏡として対立するキャラクターに説得力があるし、エピソードの作り方も巧みで、面白いことは間違いない。しかし、ピース集めに既に三巻を費やして、軸になる物語はあまり進んでいない。 このペースだと完結に何年かかるか。いや、ここまでで未だ10年しかかかっていないし、焦りは禁物。浜木綿はちょっとしか出番が無かったな~。 |
No.1400 | 6点 | 24時間の男 一千億円を盗め 山田正紀 |
(2023/03/02 12:41登録) 種々のピースを上手く組み合わせているが、全体的に趣味的と言うか、切迫した動機付けがもう1ポイント欲しい気がした。 コンピューター攻略の部分よりアナログなアイデアの方が面白い。れい子が無色透明なキャラクターにして妙に蠱惑的だが、それ故に出番が限られるのは仕方ないか。要所々々を締める役だから泣くな私。 30年以上前の “最新技術” なのに、それほど古くは感じなかった。アップデートされていない私。 |
No.1399 | 5点 | つきまとわれて 今邑彩 |
(2023/03/02 12:39登録) 「帰り花」は別の短編集の某作と同じネタ。見せ方が多少違うとは言え如何なものか。 「生霊」をこのシリーズに加えたのは失敗では。読者の立場としては、世界設定が共通なのだから、最終話でいきなり超自然現象がアリになることは無い(筈)。物理的に説明が付く前提で読み進むと、真相は簡単に判ってしまった。 作中の一文を引用すると “確かに巧さは感じるものの、心に響くというほどではなかった”。自虐で書いたわけじゃなかろうが、そんな感じ。 |
No.1398 | 5点 | イノセントブルー 記憶の旅人 神永学 |
(2023/03/02 12:38登録) 昔のジュヴナイルSFみたいな素朴さ。一応アップデートされてはいるが、あまりにスッキリしていて、毒が無い。殺伐としたラノベばかり読んでいる自分には物足りないが、2010年代でこういうのもアリかと思うと妙にホッとしたりして。 |
No.1397 | 8点 | 逆まわりの世界 フィリップ・K・ディック |
(2023/02/24 14:45登録) まず、宗教絡みの三つ巴プラス恋の鞘当ての物語として良く出来ていて、そのまま普通のスパイ・スリラーとして成立しそう(過言?)。ところがそこに、“中途半端に逆まわり” の世界設定が背景として重なり、例えばオペラのバック・トラックを玩具のピアノに差し替えたようなミスマッチで失笑必至。ではあるのだが、読み進むうちに何故かそれらが上手く融合して、しんみりした余韻を残す感動作にも思えて来た。なかなかの魔法である。 |
No.1396 | 6点 | 壺の町 望月諒子 |
(2023/02/24 14:41登録) 壮大な復讐譚と言うには妙に醒めている。見知らぬ男の手を使って理由も知らせず殺してしまい、そんなやり方で復讐心は満たされないだろう。 “人工物” と言う点で壺に例えるのは的を射ている。この物語自体、“存在感があり目を惹くけれどどこまでも不自然な造形物” って感じ。種々工夫が見られてそれは面白いんだけど、土台の歪みを隠し切れてはいない。“町の風土” を持ち出す論旨は強引だと思う。 相続について。相続内容は死亡した順番に左右される。 作中では:父・母・娘・娘婿の家族。父母娘がまとめて死亡。厳密な死亡の順番は不明。 この場合、“同時死亡の推定” が適用され、死亡者間の相続は発生しない。娘の財産は娘婿に行くが、父母の財産は娘に相続されないので娘婿には行かない。独り占めみたいに書いてあるのは作者のミス。 |
No.1395 | 5点 | 「裏窓」殺人事件 tの密室 今邑彩 |
(2023/02/24 14:40登録) 真相を知ってみると成程なかなか上手く捻ってある。しかしそこに至るまでの事件の展開にはあまり乗れなかった。 この人の作風に警察官の主人公は合わないのではと思ったが、事件がこれなら必然だ。警察の視点ゆえに成立してしまった謎。 確認: 犯人と本命被害者をつなぐ糸は、他者から見ればそれほど太くはない。“被害者を恨んでいた者はいますか?” との質問に、即座に名前が挙がるポジションではない。 しかし、アリバイ工作は、例えば1ヶ月後に覚えていたら却って不自然な内容である。つまり犯人は、自分の名前が即座に挙がり取調べを受けることを想定していた。 その想定は犯人に有利な側に外れた。ところがアリバイ工作から偶然、少女の “事件目撃” が生じてしまった。犯人にしてみればそれは別件だが、警察官が部屋を訪れ、そこで或る物を見た。 “つなぐ糸” がいずれ露見した可能性はあるが、作中の展開ではそれ以前に “或る物” が真相解明の決め手となっている。従って、結果的に、余計な想定からアリバイ工作をした為に犯人は捕まった、と言うことになる。皮肉な成り行き。 |
No.1394 | 4点 | 明智卿死体検分 小森収 |
(2023/02/24 14:38登録) 魔術のある世界設定とか階級社会の勢力図とか、本来は “背景” である要素が大量に前面に出て来て、その隙間で物語が辛うじて進行した感じ。貧弱なネタを複数抱き合わせて作品を仕立てること自体は否定しないが、あまり成功したとは思えない。 ぶっちゃけ、“明智” の名前が無ければ手に取らなかった。ハッタリに引っ掛かったな~。 併録短編中の “売れに売れた書物” って直木賞のあの本? メタネタ? |
No.1393 | 4点 | マンアライヴ G・K・チェスタトン |
(2023/02/24 14:36登録) うーむ、これは……解説を読んでも何だか良く判らない。降参です。 ウォーターベイビー云々は邦題『水の子』、岩波少年文庫で読んだなぁ。 |
No.1392 | 6点 | 恍惚病棟 山田正紀 |
(2023/02/17 13:38登録) 大まかな謎は二つある。“病棟で何が起きているのか?” は、ミステリの柔らかい部分と硬い部分の予想外の混ざり方と言う感じで驚かされた。一方、その舞台で発生した悪意による出来事については、曖昧な部分が多くスッキリしなかった。 主人公のキャラクターについて。読者視点で読み取れる印象と、作中で他の人達が彼女に接する時の評価にギャップを感じた。“過大評価されている人” と言う意図的な設定なのだろうか。 研修医・新谷のノートは、発表当時のセンスとしても失笑ものである(筈)。それこそ痴呆老人からのメッセージかと思った。 |